ナンパ阻止作戦……始動
永久進化の異常性。
その異常性にイッセーが目覚めてもうかれこれ20年以上になる。
本来ならば宿っていた赤い龍が別の物へと宿り、その宿主が一応は姉という存在で、姉なんか存在していなかった筈なのに両親をもその存在を実の子として可愛がった事への反発心から家を飛び出した事から運命が始まった。
冷たい雨に打たれ、餓死寸前となったイッセーを見つけてくれたのが姫島朱乃。
そして拾って世話をしてくれたのが姫島朱乃の家族。
そして彼女が人と堕天使のハーフであるが故に堕天使によって人である母と共に殺されたあの日の夜から、イッセーの精神は変質した。
二人の死という現実を否定する強烈な負の感情。
そして二度と失ってはならないという、力への渇望。
その強烈で誰にも押さえられぬ自我を確立させた事でイッセーは赤い龍――ひいては神器と呼ばれし力とは違う、精神の力に覚醒した。
人である事を辞める覚悟。
負の感情によって死を否定された彼女を守る力への執着。
その精神力が少年から青年へと成長し、彼女の想いを受け止められずに振られてしまった男の今。
『邪魔をする理由? そんなもんは無い。
ただ通りかかったら、気にくわない光景を見てしまったから、邪魔してるだけだ。
善意でも、くだらねぇ正義感なんかでもねぇ……!
あの子が―――フェイト・テスタロッサが腹減った俺に飯食わしてくれたからだ!!』
彼女はもう守らなくても大丈夫になったと、一度は封じたその精神は異界に流れ着き、出会った少女の手を取る為に再び蘇らせてしまったけど……。
『観たな俺を? 見たな……俺の
守るべき者を守る為に、己の存在全てを犠牲にしようとした―――少し過去の自分に在り方が似ている者に、屁理屈こねてこの世に留めようと甦らせたその負の感情も……。
『朱乃ねーちゃんが見てたら、白けた目で見られるんだろうなぁ……。くっくっくっ』
永遠にイッセーと共に在り続けるのだ。
ホテルの警備任務が終わり、暫く訓練だなんだといった事に精を出す機動六課達はこの日の午後から休暇となった。
ティアナ・ランスターが本当ならこの時期に自分と周りの才能の差と夢に対する悩みを拗らせて軽く暴走し、なのはに『お話』を食らう筈なのだが、デバイスを使わない戦闘の教官として配属されたイッセーのちゃらんぽらんさが皮肉な事に良い塩梅になっているのと、そういうつもりは一切無いけど、イッセーからポケット菓子を貰い過ぎて軽くチョロい子になりつつあるので、そういったトラブルは特に無かった。
「おほぉ! 俺の初代ソアラちゃん! やっと来てくれたんだね!」
さて、そんなこんなで午後から六課達が休暇となるこの日、施設の車庫に居た。
そしてその表情は一台のピカピカに磨かれたレトロチックな車を前にはしゃいでいた。
「搬入された時に軽く点検はしておきましたけど、随分と古いものに乗ってるんすね」
子供みたいにはしゃいでるそんなイッセーの傍に居たのは、ロングアーチのヘリ操縦士のヴァイスであり、ミッドチルダ基準で言ったら化石にも程がある車の白いボディに頬擦りまでし始めてるイッセーに、ちょっと引いていた。
「地球に居た頃、車好きの知り合いのおっちゃんに譲って貰ってからかれこれ10年近く乗ってるんだぜ。
まあ、この車自体の製造はもっと前だけどな……!」
「ミッドの公道とかこれで走るんすか?」
「たりめーよ! デートカーの定番なんだぞ! うひひ、今日こそこの車でバリッとキメてミッドギャルとオールナイトしてやるぜ……! ひっひっひっ!」
「………………」
軽くエンジンを掛けながらニヤニヤしまくりなイッセーを、ヴァイスは微妙な目で見ている。
『無理だろそれは……』という意味で。
「じゃあ点検ありがとうなヴァイス君! ひひひ!」
「うっす……」
毎度毎失敗してるのに、どうしてこうも浮かれられるんだろうか……。
六課の隊長クラスから基本ナンパだのなんだのといった行為を阻まれてるのを見ていて知っているヴァイスは、それでも無駄にポジティブなイッセーが着替える為に隊舎へと戻る背中をただただ微妙な顔で見送るのであった。
さて、そんなヴァイスの予想は大体大当たりであり、鼻歌混じりで部屋に戻って身支度を無駄に整えたイッセーの行動を実の所ずっと見ていた者達が居た。
「イッセー君が、地球から無理矢理運んで貰った車に乗って街に行くみたい」
「あの顔は間違いなくナンパをしに行こうとしてる……」
そう、ご存じ拗らせ魔法少女の高町なのはとフェイト・T・ハラウオンである。
午前のティアナとスバルの試験訓練も合格で終わり、午後から休暇とわかった途端、一目散に部屋に戻っていき、ヴァイスに車の点検をさせていた時点で行動を読んでいた二人の目的はただひとつ……。
「デートカーだってフェイトちゃん」
「そうだねなのは……デートカーって言ってた」
((じゃあ乗せて貰おう……!))
阻止とあわよくばどさくさに紛れておデートして貰うである。
出会ってから10年近く。
途中から会えなくなって数年。
再会して職場が同じとなって少し。
お調子者で、スケベで女の人にだらしなくて、間が抜けてて、子供っぽい所は全然変わらないし、未だに自分達を子供扱いしてくる。
でも、その遠回しな優しさも、同じ目線に立って語ってくれる気遣いも、決して折れる事無くわが道を行く強い精神力も……その背中を追いかけ続けた二人にとっては、何時まで経ってもイッセーは
本人は何時も困った様な顔で……。
『行き当たりばったりの行動が偶々キミ達の目にはそう見えただけで、俺はそんな風に呼ばれる柄じゃないぜ。
ただのエゴ野郎さ』
と、何かに後悔するしている様な事を言うけど、なのはとフェイトは其々イッセーのその行き当たりばったりだったのかもしれない行動で立ち直れた。
だからこそ、幼き頃は憧れのお兄さんだったのが、時を経る毎に変わっていき……。
「フェイトちゃん、ここは協力しようよ?
助手席に乗るのは替わりばんこって事で」
「うん……!」
結果、局内じゃ人気者の部類である二人の少女はものの見事に拗れてしまった。
あまりにイッセーがちゃらんぽらん過ぎたせいで。
そしてなのはとフェイトは取り敢えずかわりばんこという約束を互いにすると、小綺麗なノーネクタイのスーツ姿のご機嫌な様子で部屋から出てきたイッセーを見るや否や……。
「あ、イッセーくんだー(棒)」
「偶々イッセーの部屋の前を通ろうとしただけなんだけど、偶然だねー?(棒)」
多分イッセーの影響なのだろうか、下手くそにも程がある演技を挟みながら、全力全開の突撃をするのだった。
「げっ……!?」
その瞬間、今頃隊長の仕事をしてるだろうと踏んでて余裕をぶっこいていたイッセーの表情が露骨に変化すると、なのはとフェイトの表情も変化した。
「『げっ……!?』ってなに?」
「私達と会うと困ることでもあったの?」
「あ、い、いや……べ、別にぃ?」
目のハイライトが一瞬にして消灯した少女二人から目を逸らしたイッセーが、全然吹けてない口笛を吹きながら誤魔化そうとする。
「そ、それより二人も休暇なんだろ? これから街に出て遊ぶのか? うんうん、仲良きことは美しいかな! ……………じゃあそういう事で!」
これからナンパして地球から持ち込んだ車でデートしに行く――なんて言えば確実に邪魔されるのは目に見えてたので、無理矢理切り上げて逃げようとするイッセー。
だが……。
「とても傷ついたの……」
「どうしよう、今凄く泣きそう……」
「う……!」
その一言に基本弱いイッセーは立ち止まってしまう。
というのも、かつて散々姫島朱乃にやらかしては泣かれて来たので……。
「ご、ごめんごめん。
でもさぁ、おじさんこれから今後の人生における大事な事をしなければならないといいますか……。
そろそろ真面目に俺焦ってるっていうか……」
「またナンパでしょ?」
「そんな付け焼き刃みたいな事をしても後悔するだけだよイッセー?」
「つ、付け焼き刃だったのが永遠のパートナーと巡り会えたって可能性も零じゃないだろ?」
「…………。アリサちゃんとすずかちゃんに今イッセーくんがやろうとする事について、どう思うか聞いてみようか?」
「そ、それはやめてくれ!
あの二人は、この前の任務の時に番号教えたら毎日電話掛けて来るんだぞ……!? ぜってー変な事になる!」
メールじゃなくて確実に電話にしないとぐずるし、1日電話しなかっただけで、其々からの着信履歴が50件は越えるしで、すずかとアリサに対しても軽く対応に苦労しているイッセーは、なのはの言葉に土下座の勢いで勘弁してくれと言う。
その二人も、子供の頃にイッセーから『完全に勘違いしても仕方ない事を言われた』後、数年も連絡無しという名の放置をされたせいで軽く拗れてしまっており、お陰で浮いた話も一切無いのだ。
「そこまで言うなら内緒にしておいてあげるけど……」
「お、おう……ありがてぇ」
あまりに取り乱すので、なのはも軽く戸惑いながら言わないことを約束すると、イッセーは漸くホッとした表情をする。
「そもそもイッセーくんってどんなデートをする気なの?」
「ナンパより前にまずは身近に居る誰かとしてみたら良いんじゃないかな?」
「身近ァ? 目ぼしい女性は大体誘ってみたけど、全部断られたぜ?」
とはいえ、ナンパさせに行くのだけは引き続き阻止する気満々のなのはとフェイトは、徐々に話を変えていく作戦に変更する。
「多分そのナンパの方法に問題があるんだと思うよ? どんな感じで誘うか、なのはと私をその誘ってみたい女の人に例えてやって見せてよ?」
(ナイスだよフェイトちゃん!)
そして目の色が『変わってる』フェイトがこれまたどさくさ紛れに提案する。
「そりゃ別に良いけど……」
文字通りの意味で目の色が変わっているフェイトに、イッセーは内心『ん?』と気付くが、まさかその背景にアレが存在しているなんて思っても無く、言われた通り提案して来たフェイトに向かってイッセー流のナンパをした。
「お願いします! 俺と結婚を前提にデートしてください!」
流れる様な動作で土下座をし、デートに誘うというドン引きもののナンパを……。
これじゃあ普通に考えなくても断られるのは決まりきってるし、流石になのはもフェイトもドン引きする―――
「は、はい……ふ、ふつつかものですけど……」
「い、一生イッセーくんに付いていきます……」
と、思いきや、二人もそれほどまでに拗らせてしまってたので、本当に言われてる気になってしまい、もじもじしながら頷いてしまっていた。
「……とまあ、例その1がこんな感じだけど、どうよ?」
「え……あ、う、うん! た、多分あんまり良くないかもしれないかな?」
「な、なんだろう、結婚を前提にが相手を戸惑わせてるんじゃないかな?」
「マジでかぁ……。じゃあこういう感じはどうよ?」
一応取り繕ってるつもりだが、明らかにソワソワしまくりな二人に気づかず、イッセーは他にもあるナンパ術を二人に判定して貰おうと、10分使って行っては、二人をもじもじさせまくるのであった。
その結果、二人の口八丁に誤魔化される形で、デートに引っ張り出されてしまう事になり、イッセーは『何でこうなった……?』と思いながら二人を愛車を待機させている車庫へと連れていく事になったのであった。
「「~♪」」
「………。解せぬ」
凄まじくご機嫌な二人に引っ張られる様に車庫へと行くイッセー。
まるで詐欺師に騙された様な気分だけど、まあ久し振りに二人をどこかに連れていくのも悪くはないのかもしれないとも思ったので、何か言いたげな顔してるヴァイスの視線を受けながら、愛車のもとへと向かうと……。
「あれ、アインス?」
「「!?」」
「…………」
そこには、恐らくはやてによって見繕われたであろう私服のアインスが居た。
ギョッとするなのはとフェイトとは反対に、キョトンとしているイッセーは、ちょっとソワソワした様子のアインスに声をかける。
「どうしたんだよ?」
「出掛けるって聞いて主が……。
なのはとフェイトが居るとは思わなかったけど……」
「「…………」」
ムッとした顔の二人を一瞥しつつ、アインスが話す。
どうやらこうなる事を見越して、はやてがアインスを焚き付けた様だが、そんな思惑なんて知りもしないイッセーは『ふーん?』と軽い調子だ。
「ね、ねぇアインスさん? その……とても言いにくいんだけど、これから三人で街に行くんだ?」
「だ、だからその……ね?」
「……………」
このままだと確定でアインスも同行しかねないと焦ったなのはとフェイトが、軽くひきつった笑顔を見せながら退いてくれと言う。
しかし相手はアインスだし、下手をしたら現状一番イッセーとの距離感が近い者であるし、フェイトとなのはがそういう意味では好敵手であることも解っている。
だからアインスはイッセー………ではなく、イッセーの愛車を見ながら一言。
「かっこいいね、こういうの乗ってみたいかも……」
車を褒め出した。
その瞬間だった……。
「い、イッセー……?」
「…………」
突然イッセーがアインスの両肩を掴んだのだ。
これにはアインスもびっくりするし、なのはとフェイトは軽く固まってしまう中、イッセーは突然アインスの背中に手を回しながら助手席のドアを開ける。
「乗りなアインス。
何処に行きたい? 連れてってやるぜ」
「ぁ……」
「「えーっ!?」」
無駄にキリッとした顔で、ナンパした女性しか乗せる気が無かった筈の助手席に乗れと言い出したのだ。
どさくさ紛れに助手席に乗る腹積もりであったなのはとフェイトはショックを受け、言われたアインスはといえば、めっちゃ優しく背中に手を回されてドギマギしている。
「で、でもナンパした女の人だけしか乗せないんじゃなかったの……?」
「一応そのつもりだったけど、お前に車褒められた瞬間どうでも良くなったわ。
良いから乗れよ? それに考えてみりゃあお前だったらデートになるだろ? まあなのはちゃんとフェイトちゃんも一緒だけど」
「「………」」
真っ白になってる二人がちょっと気の毒に思えてしまうアインスだけど、誘われて断るかと言われたら、それは無いので、ドキドキしながら助手席に乗り込むのだった。
「しかしまともにデートすんのが十何年振りで、まさかその相手がアインスだとはなぁ……」
「そ、そうなんだ……。ちょっと嬉しいかな? でもなのはとフェイトが……」
「ん? おう、走るけど大丈夫かー?」
「…………。大丈夫なの」
「…………。うん、大丈夫……」
不穏過ぎる空気が二人から出されても、イッセーはマイペースに街の中を走らすのであった。
「デートって何をするんだ? ドクターに聞いてみたけど、屁理屈入りすぎてよくわからなかったし……」
「え、ええっと……わ、私に任せなさぁい……!」
同時刻、イッセーに顔立ちが瓜二つの黒髪の少年と、テンパってる丸眼鏡の三つ編み少女が街中を闊歩している事なんてわかる筈もなく……。
「アレってアイスだよな? あの人、スゲー量のアイスを積んでるけど、落とさないのかな?」
「だ、大丈夫なんじゃないかしらぁ? と、というかデートなのに他の女の人をジロジロ見るもんじゃないわ……!」
「? そう……なの? デートって色々と制約があるんだな」
片方はデートの意味がわかっておらず、片方は普段の性格が嘘みたいに思春期をやっていたのであった。
「ま、まずは手を繋がないとデートになりませんよ……?」
「キミは物知りだな。っと、こんな感じ?」
「はぅっ!?」
「え……? ど、どうしたの? 顔がずっと真っ赤だけど、ひょっとして調整不良――」
「せ、正常よぉ! ほ、本当に正常だから……うぅ……」
普段の彼女を知る者が見てたら、ひっくり返る事間違い無しな程、思春期状態で……。
「? なぁなぁ、あそこにある建物はなんだ? あの建物だけやけに目立ってるというか、西洋の城みたいなんだけど……」
「え、ええっとアレは――――っ!? あ、アレはきゅ、休憩所よぉ! ……………お、大人の」
「大人の? 子供は入ったらダメなのか?」
「ね、年齢さえ誤魔化せばギリギリ私達でも入れなくもないけどぉ……。で、でも流石に早すぎるというかぁ……え、えっと――あ、あうぅ……!」
「本当に大丈夫なのか? 凄く手が熱いけど……」
「だ、大丈夫……じゃないかも」
夢のお城について知らないで聞かれてテンパる4番目の少女の思春期到来は果たして良いのか悪いのか……。
まだ誰も知らない。
補足
ナンパのやり方が基本バカというか……。
しかし拗らせ魔法少女には効果抜群のようで……、
その2
無理矢理地球から引っ張ってきた初代ソアラちゃん。
全てのパーツを幻実逃否によって壊れない無敵の車だぜ!
その3
はやてさん、アインスを焚き付けたら予想以上に成功した某かいけつゾロリの様に『ニヒニヒ』してたとか。
…………三人の間で勃発してしまって大変なのはイッセーだし、近い未来編でイッセーに巻き込まれて一番大変な可能性が高いというのに。
まあ、アインスと同じで、『イッセーの素』に対しても自然に受け止められる素質もあるし、なにより割りと互いに素でやり取りできて一番気楽なのが強い。
その4
……………だから誰だよこの4番目!?