気は合うさ……だって別に擦れてねーもの
生きる者は全て、目を閉じたまま生まれる。
そして大半は閉じたままその生涯を終える。
俺もきっとその大半の存在だと思っていたけど、目は開いた。
……俺にとって親友と呼べる二人の双子の兄弟のおかげで。
そのお陰で俺は、俺である事が出来た。
オマケでも無ければ、絞りかすでも無い……俺という個性を示す事が。
抗う為に今を出来れば楽しく生きたい。
……………素敵な彼女とか出来たらもっと最高なんだけど、今のところその件は難しい。
その素敵な人は―――めちゃんこ強いので。
誰が名付けたか、そこは変態橋と呼ばれていた。
理由は名の通り、あらゆる変人や変態が通るからとかいう意外な程それだけな理由だったりするこの橋は、一部界隈では一種の観光スポットみたいな面もあったりする。
主に不良達が武神と謡われる川神百代に挑んで瞬殺されてしまう的な意味で。
そして今日は何時にも増してその変態橋には、人がギャラリー的な意味で多く集まっていた。
理由は、去年の初夏辺りから定期的に行われる武神こと川神百代に挑戦する不良ではない少年とのバトルが開催されるからだった。
「今度こそ……今度こそ俺が勝ったら一回デートを!」
「はいはい、勝ったらなー」
かつて個を潰されかけたのを、本来の道から大きく横へと曲がった事で立ち直った少年。
名を兵藤一誠……本来ならば赤龍帝としての宿命に導かれて悪魔だなんだ的なルートに突入する筈だったこの少年は、去年偶発的な事故で川神百代に土を付けてしまい、再戦時に呆気なく伸されて以降、よりにもよって彼女に惚れてしまった。
「ふっふっふつ、今日の俺は前より強いぜ先輩……?」
「…………。嘘ではないみたいだな。
良いぞ、かかってこい」
その後、武術も喧嘩もド素人だった一誠は幼い頃からの親友である双子の兄弟の我流の喧嘩殺法と、赤龍帝として――そして武の道を歩くものなら殺してでも手にしたくなる
「うっしゃあっ!」
しかし、その異質な成長速度を以てしても、幼き頃か武を嗜み、異質な才を持つ百代には偶然による一勝以降、一度も勝てなかった。
それは彼女もまた、自分の相手が存在しなくなる虚無感を抱いていた毎日に彗星のごとく現れ、強烈な刺激を与えてくれた一誠とその一誠の友である双子の兄弟による影響により同じような成長をしてしまっているからだった。
現に多くのギャラリーが思わず身を庇う程の衝撃波を放ち、百代へと肉薄しながら差し込んだ拳を、百代はニヤリとした笑みと共に拳を突き出し、衝突させる事で止めたのだ。
「うっわ、すげー音……」
「まるで鋼鉄同士が衝突したみたいだな……」
「兵藤の野郎、言うだけあって確かに10日前より更に強くなってやがるぜ……」
異質な成長速度に対応可能。
まさに天賦の才と言わざるを得ない百代と真正面から衝突し、拮抗してみせる一誠の姿に、見慣れた者以外からのギャラリー達からどよめいた声が出てくる中、互いの拳を重ね合っていた百代と一誠は周辺を軽く破壊しながら打ち合う。
「秀康と貞愛はどうした……?」
「そこで見てる見物人に紛れて見てます、よっ……!」
「例によってまたあの二人に鍛えられたんだろう? くくく、そろそろあの二人ともやってみたいんだがなぁ?」
「どうでしょうか、ね……! アイツ等は基本的に生産性の無い戦いはしない主義ですか……らァッ!!」
互いに会話をしながら何十、何百と打ち合い続けていく様子は、端から見れば互角に見えなくもない。
しかし実際はイッセーの攻撃に対して百代が付き合ってあげているというだけに過ぎず、その証拠に百代が少しギアを上げた途端、それまで互いに打ち合っていた均衡が崩れ、何発かイッセーに当たり始める。
「ぐっ!?」
「我流に加えて私の技を真似てアレンジを加えている様だが、どっちも中途半端。だからわかりやすいんだよお前の動きはな!」
「ぐはっ!?」
「そーら、二発! 三発! 四発!! どうしたどうした?!」
「なろっ!!」
鋭い一撃を顔や腹部に貰ってよろめくイッセー。
逆に言えば、多くの相手を軽い一撃で昏倒させられる事の出来る百代の攻撃を何発も食らってよろめく程度で済ませられるイッセーのタフネフさは異常な領域なのかもしれない。
「モモ先輩にあんだけ攻撃貰っておいて即反撃しようとするのは変わらないな……」
「兵藤曰く、モモ先輩への愛が可能にさせてるんだとよ……」
「やっぱバカだなアイツも……」
そんなイッセーの異質なタフさを見ているギャラリー達の中には、百代と親しい後輩達が居る。
所謂、風間ファミリーと呼ばれる面々なのだが、彼等も人の事は言えない程に個性的なのだ。
「そういえば兵藤と何時もつるんでる双子が見えないが……」
この風間ファミリーなる面々とイッセーは去年から同じクラスで、後々百代関連で知り合った関係ではあるが、そのファミリーという枠には入っては居ない。
とはいえ、別に不仲では無いし、普通に話をする程度の関係ではある。
勿論、イッセーとつるむ双子の兄弟ともそれなりに理由があれば会話くらいはするのだ。
「あ、居た……。
一見するとマジで見分けつかねーくらい似てんなやっぱ」
百代曰く、イッセー以上に異質らしいが、去年初めて見てから今日までそんな気配を二人からは欠片も感じないファミリー達は割りと懐疑的な印象しかない。
「ぐぅ……!」
「今日はこんな所だな。
ふふん、まだまだ力技だけでは私には勝てんよ」
「クソォ!! デートがまたしても遠退いていく……!!」
そうこうしている内にイッセーと百代の決着がついたらしい。
膝をつきながら悔しがるイッセーと余裕な表情で立っている百代を見れば、どっちが勝ったのかは一目瞭然だった。
去年のド素人そのものだった頃が信じれられなくなっていく速度で成長している。
その証拠に、アイツ――つまり一誠の前では平気そうな素振りを見せていたが、実際の所、私は確かにダメージを受けていた。
腕や脚……それから服の下だから見えはしないが、それらの箇所が赤く腫れ上がっている。
「信じられねぇ……。姉さんにかすり傷とはいえダメージを与え始めてるなんて……」
別に血は繋がってないけど、弟達と呼ぶ者達が私の腕や脚にある赤い痣を見て驚いている。
そう、ズブの素人だった兵藤一誠が、ほぼ一年以内に私に砂を掛ける程度の成長をした証拠。
しかも厄介なのが、アイツから受けたダメージは何故か治りが遅い。
瞬間回復という技能を持っているのにも拘わらず、だ。
「服の下に鉄でも仕込んでたんじゃないのか?」
「いや、それは無い。
アイツ曰く、素で私に勝ってこそデートを申し込める………らしいからな」
「必死過ぎて周りからドン引きされてるのに、懲りないというか、やっぱアホだよなアイツって……」
私に対抗する為に編み出した技の一種なのか、それともあの双子によるものなのか……。
どちらにせよアイツは常に成長を続け、未だその限界が見えない。
気の扱いにしてもそうだ……。
一体どこで覚えたのか、ドラゴン波とかいうかわかみ波にそっくりな技まで見せてもないのに使ってきたし、気そのものも増大している。
「……くくっ、本当に退屈させない奴だ」
しかし、だからこそ私は退屈という毒から抜け出せた。
異質な速度で日々成長していくとなれば、その内全力の戦いを楽しめる様になるという事。
無論私とて負けてやるつもりはない。
一番最初は確かに敗けた。偶然にせよなんにせよ、敗けは敗けだと認めてやる。
だからもう油断もしない。雑魚だからと相手を見くびらない。毛ほどの隙も与えない。
そして追い付かせはしない。
アイツは私に勝ったらデートをするという約束だけでここまで成長してみせた。
それでもし仮に私が敗けたとしてデートをした後、アイツの目的は完了してしまい、成長が止まってしまうのかもしれない。
だから私は負けてはやらない。
ずっと勝ち続ければアイツは私とのデートを糧にもっと成長してくれる筈なのだから。
「そういえばワン子はどこだ?」
「ああ、アイツなら――」
川神一子は壁多き人生を歩んでいる。
その壁は自身の出生から始まっており、世間一般的な視点からすれば、彼女の人生はとても楽なものではないのかもしれない。
しかし一子はそれでも生きた。
そして生きる事を放棄しなかった結果、尊敬する義姉や友と呼べる仲間達と出会えた。
それは彼女にとっても幸福のひとつだ。
例え才能が絶対視される武の世界へと身を投じようとも、近い内にその才能と呼ばれる領域を知って挫折をする可能性が待っていようとも、川神一子はそれでも前へと挑み続けるのだ。
なにより、友と呼べる仲間の一人―――そうだと、少なくとも一子自身は思っている不可思議な男子達との、出会う筈なんて無かった出会いが、才能という領域を強引に突破出来る希望の光となったのだから。
「イテテテ……まだ先輩には届かないぜ」
「バカ正直に殴り合いに付き合うからだな」
「もっとも、耐久力が不足しているって事になるから、今後の課題のひとつだ」
兵藤一誠。
結城秀康。
結城貞愛。
彼等は総称して、県外から来た三人組であり、その内の一人である一誠は、川神百代に恨みではなく、惚れたという理由で去年からアタックという名の試合を申し込んでは返り討ちにされている――武ではなく我流の闘争スタイルを持つ者。
「しかしあの先輩、去年の緩んだ気がただの冗談だったみたいに張り直されたままだな」
「こうなると去年あった偶然にはもう頼れないと思ったほうがいいぜ一誠?」
「偶然には頼らないよ。
正面で勝ってこそデートへの喜びも違うってもんだぜ」
義姉の百代曰く、去年入学したてであった一誠はただのド素人だったらしい。
そんな一誠を一年――たった一年で百代の足元くらいまでは食らいつける様にしたのが、川神学園の裏倉庫の前でたむろしている三人組の内の二人――結城秀康と貞愛という双子兄弟。
一子が所属する風間ファミリーの仲間が調べによれば、三人は幼馴染みであり、一誠にも双子の兄が居てその兄は違う高校に進学しているらしい。
そして双子の方は百代本人曰く『自分と同等かもしれない』という、一子のみならずファミリー達も信じられない強さとの事らしいが、残念ながら一子は双子がまともに戦う姿を見た試しは無かった。
「つーか二人は良いなぁとか思う女の子はいねーのかよ?」
「は? あぁ、俺は別に特に……ヒデは?」
「俺も無いな。それどころじゃねーし」
「かーっ! 揃って顔も悪くないのに何でこうなんだ!」
「「………」」
そんなこんなで何時も通りたむろして駄弁っている三人組から少し離れた所で様子を見ていた一子は、そのまま三人に近づいて声をかける。
「こんにちはー!」
挨拶は大事だと思っている一子が、その性格通り元気よく三人に向かって声をかけると、合計六つの瞳が一子に向けられる。
「おう、川神」
一子と認識して軽く手を振る三人とはクラスが一緒だ。
そして一子が何故この三人に接触するようになったのかといえば、当初は百代に返り討ちにあう度に信じられぬ速度で成長しては再び挑みに来る一誠の謎を調べる為にファミリーの頭脳的な存在である直江大和に言われたからだ。
もっとも、探るという駆け引きが一子に出来る訳も無いし、大和達もそれは承知していたのだけど、持ち前の性格を考えたら一子が一番溶け込みやすいという理由があったりする。
それを半分くらいは知らないまま、同じクラスだからという感覚で去年の中盤あたりから一子は一誠達と独自の繋がりを持つ様になったのだ。
「今日も負けてたね?」
「グハッ!? か、開口一番に突き刺さる言葉!」
「悪気が無い分ダメージがデカいな」
「でも負けたのは事実だ」
一子の印象としては、最初から三人は特に無愛想であるとかもない、普通に話しやすいといったものだ。
義姉にアタックしては砕け、直ぐ再起する面白い人と、そんな面白い人にあきれながらも付き合ってあげててるいい人達。
「ごめんごめん、それより修行をまたするんでしょう? それに付き合わせて貰いたいんだけど……」
「俺はいいと思うけど、見てくれるのはサダとヒデだかぞ」
「えっと、私も混ぜてもらっちゃ駄目? この前二人が言っていた『感覚』が何となくわかってきた気がしたから、見てもらいたいの」
「良いぞ」
「その代わりプリン奢れ」
そして、才能という壁に直面した自分に『別の道』による成長を促してくれた人達。
「しかし川神にも俺達みたいな
「気質の種類としては俺達の親父に近い」
「ええっ!? 一度見たことある、あの怖そうな人と私が!? わ、私の顔ってそんなに怖い……?」
「顔の問題じゃねーよ。
………やっぱりこの子は程好くアホだな」
その開けぬままその生涯を閉じる筈だった目を開くことで、川神一子の夢は潰えないのだ。
川神一子
所属・2-F
風間ファミリー
備考
???(仮)
「ど、どうせなら秀康と貞愛のお母さんに似てるって言われたかったかも……」
「カーチャンの気質は最上位なんだよ……。
親父ですらマジになられたら防戦張るしかできねぇし」
「でもよ、すっげぇ美人だよな。
多分サダもヒデもあの人の顔立ちを受け継いでると思うぜ?」
「髪の色は揃って親父譲りで、髪の癖は二人譲りだけどな」
「初めて見た時は、大和もガクトもキャップも完全に見惚れたくらいだったわ……」
兵藤一誠
所属・2-F
備考
無神臓(兆)
赤龍帝(兆)
結城秀康
所属・2-F
備考
無神臓(極)
結城貞愛
所属・2-F
備考
無神臓(極)
双子の備考
何かしらのハーフ
????
所属・不明
備考
超越し続けるとーちゃん
????
所属・不明
備考
縦横無尽なるかーちゃん
終了
補足
武神さんに恋して精神が立て直った。
しかし、恋しちゃってるので軽くスケベ度が消えてしまっているという異常事態。
その2
犬っ娘さん。
関わる内に気が合い、道を踏み外す(ある意味)
その3
この双子の両親だけは秘密だ! 絶対にな!
しかもわかんねーだろうしな!