なんせシリアス系になったとしても、出撃したら終わってしまうので。
人を自力で辞めた化け物。
それが私のアイツに対する評価だ。
魔法という概念を真正面から嘲笑って踏み潰す程の地力と内に宿す龍の力。
それだけでも破格の性能だというのに、アイツを化け物足らしめるのは、凄まじい速度で己を進化させられるという――説明できない異能を保持している点だろう。
魔法――つまり我々の知る魔法を当初全く知らなかったアイツは私の魔法に瞬く間に『慣れる』というふざけた理由で順応してみせた時は変な笑い声が出てしまった。
あらゆる環境や状況・力に対して適応し、進化をし続ける。
まったくもって、正真正銘の化け物だ。
まあ、基本間抜けで馬鹿なので恐怖といったものを感じた試しもないし、アイツは割りと律儀だからな。
力で相手の言うことを無理矢理聞かせる――といった真似もされた事もない。
力がある癖に変な奴。それがイッセーという男なのである。
「取り敢えず今回はこれくらいアレば足りるだろう? 衣食住は全て学園持ちな事だし、お前は酒も煙草もやらんしな?」
「今月の明細見たら軽く40万越えた筈なのに3万て……」
「別に取り上げてる訳ではない。
だがお前に全額持たすと全部使うというのは、お前が初任給を二日で使いきった時点でわかりきっている。
酒も煙草もやらんが、お前はくだらん女につぎ込もうとするからな」
「……………」
「そんな目で見ても考えは変えんよ。
第一お前にどれだけ貸してやってると思っている? 返済を利子なしにしてやってる時点で、お前は私に泣いて感謝すべきだし、なにも没収とはいってない。
必要な物があればその時は出すつもりだぞ?」
その気になれば私を殺してでも自分で稼いだ金を奪い返せる癖に、渡せと言えば渋々としながらも律儀に渡してくる。
しかも怒らせるつもりで少額を渡しても文句は言うが、暴力に訴えてくることもない。
「ナンパの為の軍資金が……」
「どうせまたくだらん女に引っ掛かって無駄に高い物を買わされてから捨てられるがオチだろ。
お前は壊滅的に女を見る目が無いしな」
私は確かにイッセーに色々と貸しを作ってはいるが、別に返して欲しいほど貧困しては無いし、なんなら別に返さんでも良いと思っている。
私がイッセーを今も近くに置いている理由は、私自身に掛けられたこの忌々しい呪いを破壊をする為に必要である人材だからという理由なのだ。
「茶々丸さん聞きました? 俺に女を見る目が無いですってよ? どこがだってんだよな?」
「こればかりはマスターに同意します。
これまでイッセー様が女性に騙し取られた金品の合計は既に300万を越えています」
「…………。と、投資だよ未来の!」
「そんな非生産的な投資がある訳ないだろうが、やはりアホだなお前は……」
永久に進化し続ける性質と、異界にて二天龍と呼ばれし赤い龍を宿す人材。
これに替わる者なぞ存在しないのだからな……。
できれば茶々丸と同じ従者――――
「はぁ、三万円かぁ……。
まあ、こればっかりはしゃーねーよなぁ。お前等に借りっぱなしだし……」
「食事はきちんとお作りしますから」
「おう……さんきゅーな」
「…………」
……。いや、パートナーは無いな。
全盛期を取り戻した私となら釣り合わんでもないが……。
「いや待て、コイツの実力を知られたら挙って獲得に狙う輩がいるやもしれんし、ここは私のこの美に惚れ込ませて……」
「なぁなぁ茶々丸、アイツ頭でも打ったのか? 自分で自分の事美しいだってさ? 今の見た目なんてただのちんちくりんのチビ娘―――なのに゛っ!?」
うむ、この件は取り敢えず保留だな。
……と、私を半笑いで見ながら馬鹿にしてきた気がしたので、手元にあった本を顔面に投げ付けながら私は考えるのだった。
少年教師ことネギが魔法使いであったという事を――まあ、ある種身をもって体験したことで知ってしまった神楽坂アスナは、なんとか周りを巻き込まないようにと奮闘するのだが、決まってネギが色々とやらかしてしまうので、誤魔化すのにも一苦労だ。
それは新学期を控える春休みの最中も……学園が全寮制なのであまり変わらなかった。
「パートナー?」
そうなると自動的に頼りにしてしまうのが、ネギが魔法使いであると既に何故か知っていた用務員こと体育教師にて副担任である兵藤一誠だった。
ネギとは学園寮のルームメイトでもあるので、一誠を部屋に呼び出して今回も魔法関係の相談をしてみるのだけど、基本的に一誠は魔法使いの存在自体は知っていても魔法使い事情は殆ど知らないらしく、魔法使いの従者ことミニステル・マギについて訊ねてみても、本気で知らない顔だった。
「コイツが立派な魔法使いを目指してるってのは知ってるでしょ? で、そのパートナーが居ないとカッコがつかないんだって」
「……。悪魔の眷属システムみてーなもんか? あんま良い響きでは――」
「? 聞いてるの?」
「! あ、おう……駅前のラーメン屋はクソ不味いって話だろ? 知ってる知ってる」
「違うっ!!」
ただ、パートナーシステムと話を聞いた瞬間、イッセーの表情はほんの少しだけ苦いものへとなっていた。
咄嗟に誤魔化す事で有耶無耶になった訳だが、要するにネギは故郷からの手紙にパートナーの話が書いてあったらしい。
「ネカネお姉ちゃんが、手紙に……」
「ネカネお姉ちゃん……? えーっと、すまん、誰の事?」
「故郷に居る従姉弟さんらしいわ」
「ふーん?」
ネギの従姉弟と聞いたイッセーの反応は意外な程に薄い。
10となるネギの従姉弟となれば歳も自分の下と勝手に判断している様で、ネカネの事はそれほど興味を持った様子も無くパートナーの話を引き続き聞いていると、もう一人のルームメイトであり、イッセーにとっての社長こと学園長の孫娘である近衛木乃香がお茶を出す。
「なんやパートナーって聞こえたけど、ネギ君の恋人探しでもするん?」
「「「…………」」」
一応まだネギの正体は奇跡的に彼女にバレてない為、この話は一旦やめようと三人はアイコンタクトをする。
「違いますよ、僕はパートナーを探す為に日本に来た訳ではなくて、先生になる為に……」
「ふーん? じゃあイッセーくんかえ?」
茶色がかった長い黒髪を軽く揺らしながらイッセーに京都訛りで訊ねる木乃香。
「何度も悪い女の人に騙されて、ナンパするのに懲りたん? ふふん、それで親しい異性の誰かする決意をしたとか?」
「ただの妥協するゲスじゃねーか俺……。違うし―――」
「みんなー! 遂にイッセーくんが目を覚まして親しい人を恋人にすると言ってるえー!」
「おい!?」
木乃香が急に寮の窓と入り口の扉を解放して大きな声で言う。
「やめろコラっ!」
「きゃー! その証拠に今イッセーくんがウチを後ろから優しく抱き締めてくれたー!」
「本当にやめてくれませんか!? 社長っつーか、キミのお祖父さんに懲戒免職くらうから!!」
「あはは、ごめんごめん、ちょっと悪のりが過ぎたわ」
「ったく、危うく俺がロリコン野郎に格下げされる所だったぜ……」
所謂テヘペロな顔をする木乃香に謝られたので、基本やはり子供に甘いイッセーはそのまま許す事にした。
どちらにせよ、先程のネギとアスナの会話を聞かれていたといった事も無い様だし、ある意味変な誤解をされたとはいえうまい具合に誤魔化せたから良しとしよう。
「取り敢えずその話はまた後で聞くよ。
なんか疲れた……」
「あんまり同情はできないわよ」
「……キミは俺に厳しいよねホント」
「アンタの場合は―――まあ良いわ、後ろから精々刺されないようにね」
「は?」
と、三人で取り敢えずホッとしながら、学園長に呼び出されて先に出て行った木乃香を見送り、解散した後が一誠にとって大変だった。
「やはりエヴァにせめて四万円にしてくれと交渉でもしようか……」
諭吉三枚という財布の悲しき現実について、もう一度エヴァンジェリンとの交渉を決意しながら、自宅でもある離れのログハウスに向けて一人歩いていた一誠。
「……………」
「……………」
「…………」
「?」
その途中、すれ違う学園の生徒達に見られてはヒソヒソと何か話している。
一体なんだ? と、首を傾げながらもそこまで気にはならないのでそのままスルーをしていると……。
「見つけたぞ先生!」
「あ?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえたので振り向いてみると、何故か天井にぶさがった糸目気味の少女……。
「なんだ似非忍者――あ、ごめん長瀬か」
長瀬楓という、用務員時代からの顔見知りで一誠が似非忍者と呼んでいる、受け持ってるクラスの生徒だった。
「何の用……てか、普通に立てよ? 一々忍者アピールしてなきゃ気がすまないのかお前は?」
「む……そういう訳ではござらんが、聞いたぞイッセー!」
「どいつもこいつも、頼むからそろそろ先生をつけろよ、他の先生方に怒られるんだからさ……」
「それは今は横に置くでござる! それよりも本当に見知らぬ女に手を出すのはやめるのでござるか!?」
「は? なんの事――」
「本当の本当に親しき異性と契りを交わすのだな!?」
「……………」
引くぐらい興奮した面持ちで、地面に降りて今のイッセーと殆ど変わらぬ身長の楓は両肩を掴み、目を見開きながらこれでもなと揺さぶりながら必死になんのことだかサッパリな事を確認してくる。
「………」
コイツまさか、さっき木乃香が悪のりで叫んでたのを聞いていたのか? とここで察したイッセーは、取り敢えず今は小遣いを四万円にする交渉を早くエヴァンジェリンにしたかったので、適当に頷いた。
「どうせ違う言っても信じないんだろうから、好きに解釈でもしてくれよ。
俺は今忙しいんだから……」
「……!」
自分の小遣いの値上げの方が重要だし、そもそも親しき相手を今度からナンパすると宣言したところで、この小娘達にはなんの関係も無い……と、判断して適当に肯定してしまってイッセーに、楓は肩から手を放すと、これでもかと表情を明るくさせ、やがてニヤニヤし始める。
「だ、そうだぞ古菲?」
気色悪い奴だな……と、異性として対象外の者には割りと酷い事を思われてるとは知らない楓が、一誠の後ろに向かってその名を呼ぶ。
「ん、古菲……?」
その名も知っている一誠が再び後ろを振り向くと、そこには健康的な小麦色の肌をした金髪のチャイナ娘こと古菲が………。
「…………」
頬を紅潮させながらイジイジと目を一誠から逸らしながら立っていた。
「げ、悪いけど今日はこれから大事な用事があるからお前と遊んでられないんだが……」
「ぅー……」
春休みだろうが無関係に襲撃してくる元気ありあまりなアホの子……という認識しかしてない一誠は完全に様子のおかしい古菲に気付かていない。
しかしそんな彼女の様子を理解している楓が不敵に笑う。
「古菲、攻めるなら今しかない! 木乃香もエヴァンジェリンも居ない今が好機でござる!」
「は?」
「わ、わかってるアル! わ、わかってるけど……は、恥ずかしいアル……」
「? ? ?」
二人が何の話をしてるのかも分かってない一誠は、最近の若い者の考えが読めんと、自分だって二十歳になるばかりの癖に思いつつ、そういえばさっきから古菲に何時もの勢いが無いことに気付きつつ、顔がこれまたさっきから赤いことにも気付く。
(………コイツまさか)
先程から一誠と目が合わせられず、頬を染めながら俯き加減に、自分の両人差し指の先をちょんちょんとやってる古菲の様子に、一誠は何かを悟ったらしい。
それはこの少女が自分に対して一定以上の感情を抱いている事に気付いた―――――
「古菲」
「あ、え、えっとイッセーくん、そ、その……私と―――ふぁ!?」
「おおっ!?」
なんて訳も無く、体力を余らせてる程元気だからこそ今は体調不良なのかと、全く違う方向へと辿り着いてしまった一誠は、途端に心配になって古菲と目線を合わせる様に軽く屈んで頬に手を添えると、そのまま自分の額をを彼女の額に接触させたのだ。
「い、いっせーくん……」
今朝、偶々聞いてしまった噂が本当なら、早く行動しないと大変な事になるから………と、一緒に居た楓と一誠を探した。
でも見つけた瞬間、何時ものように飛び付けず、全身は火照るし、体は上手く動かせないし、恥ずかしくてまともに顔も見られない。
自分でも訳がわからないまま立ち往生していれば、一誠の顔がこんなに近くに……。
「あわわわ……! い、イッセーくんの顔がこんなに近いアル……! 胸の中が五月蝿いアル……!」
「んー……?」
「記念に一枚撮っておこうでござる……ぬふふふ!」
こんなに顔が近い。
もう少し接近したらそれこそ――
「少し熱っぽいな……」
「あぅ……」
「よしよし、この撮った写真を広めれば牽制にもなるでござるな……!」
等と考え続けていたらオーバーヒートを起こしてしまった古菲。
そうとは知らず、少し熱っぽいと判断した一誠は凄まじく大人しくなっている古菲を抱えると、楓の方へと振り向き。
「具合悪いみたいだからこの子を保健室連れていくぞ。他になんか用は?」
「いやいや、どうぞごゆっくりー……ふっふっふっ」
「何笑ってんだよ気色悪い……」
ニヤニヤしてる楓に一言言ってから、古菲を抱えて保健室へと行き先を変更するのであった。
そして……。
「チッ、春休みのせいで保険医が留守か……。
しょうがない、値上げ交渉は中止するっきゃねーわな。
おい大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃないアル。ずっと熱いアル……」
「熱が上がったのか? ったく、調子悪いんだったら大人しく寝とけこのアホの子め……。食欲は?」
「あんまり無いアル……。い、イッセーくん、寂しいからどこにも行かないで欲しいアルヨ……」
「言われなくてわかってるよ。このまま部屋に戻してルームメイトにうつす訳にもいかねーしな」
「て……手……握って欲しいアル」
「手だぁ? ……ふっ、なんだ、ちょっとは可愛げのある事言えるじゃねーか。ほらよ」
(イッセーくんの手……おっきくて暖かい……)
勘違いしっぱなしなイッセーはこのあと付きっきりで看病をするのだった。
子供に対しては基本的にすぐ手を差しのべる。
それがイッセーという男なのだけど、そのせいで子供心をある意味成長させてしまう原因でもある。
この古菲のように……。
補足
お金の管理をされてしまってるイッセーくん。
お小遣い制度にされても文句は言えない。
………完全に軽くオカン化してるエヴァちゃま。
その2
ニンニン……だと、某イナババが溺愛してるウサギ忍者になっちまうけど、ニンニンさんは基本的に一誠とはそれなりな距離感。
………今は。
その3
クーちゃまが、なんてこったい! な事に……。