なんか流れでチャイナ娘が多い
金に釣られてつい安請け合いをしてしまった青年こと異界人・兵藤イッセーは、補佐をする相手となる新人教師のネギ・スプリングフィールドが本当に子供だったので、軽く不安になった。
曰く、イギリスの魔法学校がどうたらこうたららしいが、そういった世界の裏側に関しては右から左に受け流してたので殆ど把握もしていない。
なのでイッセーは取り敢えず緊張しているお子様教師に挨拶をし、多分中等部でも随一の個性的な連中だらけのクラスの担任をする事になってしまったネギと補佐を……それなりにする。給料三倍の為に。
「おいガキ共。
今回はデコピンだけで済ませてやるから、今日からオメー等の担任となるネギ先生をこんなんにした奴は素直に名乗り出ろ。
でなけりゃ全員連帯責任で、しっぺの刑だ」
「うぅ、折角の一張羅がぁ……」
魔法を一般人に知られてはならないとかなんとかで、新任初日に受け持つクラスの生徒の悪戯による盛大な持て成しがあったとか、色々とドタバタとしていたけど、ネギ・スプリングフィールドの試練はまだ始まったばかりなのである。
強い。凄く強い。
しかも力量が測れぬ程に。
少女が初めてその青年を知ったのは、作業着を着て学園のあらゆる破損場所を補修している用務員さんとしての姿からだった。
例えば窓ガラスが不慮の事故で割れれば、どこからともなく現れては黙々と張り直したり、壁に謎のヒビが入ればそそくさと現れて黙々と修繕したりと……。
とにかく少女が初めて見た青年はそんな感じのお仕事をしている姿だった訳だが、少女にとってそれは二の次であり、問題なのは見ただけでその青年がとてつもない強さを秘めている気がした……という一点なのだ。
そして案の定――
『恨まれる様な真似をした覚えは無いんだがな? お嬢さん?』
真面目に青年は強かった。
その当時は帽子を目深く被っていて顔立ちはそれまで分からなかったが、この日我慢の限界によって試しに――ちょっと卑怯だけど、背後から襲撃してみたら、青年は事もなさげにその襲撃に対応し、文字通り人差し指一本で捩じ伏せられた。
『……む、キミは確か備品破損のブラックリスト入りしてる子か? ちょうど良い、頼むからあんまり学校の物とか壊さないでくれよ? 修理とか面倒なんだから』
帽子を外して顕になったその顔立ちは、思っていた以上に若く、まだ10代にも見えた。
しかしその強さは何者と比較しても計れぬ底知れなさを少女に感じさせ、歴戦の戦闘屋の様な雰囲気もあった。
そこからだろう、彼が何者で、何で用務員なのに強くて……色々と知りたくなったのは。
意外とフランクな性格だった青年を見付けては絡んでいく内に少女は、その内青年に懐いた。
女を見る目が無さすぎてどうしようもない面があるとか、色々な側面を知っていく内に少女は青年の遥か先を歩くその背中に惹かれていった。
妙に抜けてて、何か子供っぽくて、でも……どこか影を感じるその背中に。
そして現在。
ネギという子供先生の補佐をする為、給料三倍に釣られて教師になったらしい青年が自分の所属するクラスに、担任となるその子供先生と同じく副担任として着任した。
既に名物用務員として学園ではそれなりに名が知れ渡っていて、クラスの殆どは用務員から教師へとジョブチェンジした青年に驚く者も少なくなかったけど、概ねは受け入れた様だ。
当然、そのエキセントリックな性格と合わない者も確かに居るけど、少女にとってはそれは問題ではない。
特に真面目タイプにとって彼は苦手と感じる様だが、それもどうだって良い。
副担任となれば、それは勿論顔を合わせる機会が一気に増大する訳で……。
「歓迎会だとさ。良かったなーネギ先生?」
「え、でも黒板にはイッセー先生とも……」
「俺はパスです。
今日の授業も終わったし、俺はこれから歓楽街に行って大人の恋愛をしに行くので……後はよろしく!」
遊んで貰える。
これまでよりも多く。
だから少女は、クラスで二人に内緒で企てた歓迎会を無駄にキリッとした顔で拒否って出ていこうする青年……つまりイッセーの腰付近にこれでもかという勢いで飛び付いた。
「駄目アルヨ! せっかく頑張ったのに、その頑張りを無下にするのは最低アル!」
「ええぃ、離せぇ! 歓迎するならネギ先生だけにしろ! 俺は空気だと思え! 俺はナンパで忙しいんじゃい!」
「どうせ失敗するか、お金目当ての女に引っ掛かって無駄に高いもの買わされてからポイされるだけアル!」
「今度は失敗しねぇ!」
事情を知らずに困惑するネギ以外の周囲から『また始まったか……』的な視線が二人に向けられる中、腰にしがみついて離れない少女、古菲は、既に五十は悪い女に騙されて捨てられてる癖に、よくわからない自信たっぷりに出ていこうとするイッセーを死ぬ気で引き留めた。
「…………わーったよ! ったく、なんなんだ」
結果、あまりにも必死に止めてくるものだから、根がなんやかんやとお人好しのまんまであるイッセーが仕方なく折れる事になった。
「ちくしょう、まだ見ぬギャルが……」
「ホント、そういう所は基本最低ねアンタも……」
「お前等は若いから良いさ! 俺はもう後がねーの!」
「今年二十歳になるばかりの者の台詞でないでござるよ……」
「うっせー似非忍者! セクハラすんぞこの野郎!」
「似非ではないのだが……」
ブツクサ言いながら、貰ったジュースを豪快に飲むイッセーは、折れたとはいえ根には持ってるのか、ちょうど横に居たネギに絡み出す。
「先生よぉ。キミはまだ若いからわかんないだろうけどさぁ、変な女にだけは捕まるなよ? 17の頃の俺は灰色だらけだったからな……」
「は、灰色?」
「ガキになんつー事言ってんのよ……」
「そうですわ! ネギ先生はアナタとは違って、八方美人にはなりませんわ!」
「そうだね! じゃあ未来あるネギ先生を歓迎して俺は放置しろや! 帰るから!」
「駄目アルー! 嫌アル~!!」
子供相手にムキになる。
大人になれない大人。
それが今のイッセーだった。
そうこうしてる内に歓迎会もネギがメインとなり、案の定イッセーが放置気味にされ始めた頃。
意地でも出ていけば良かったと後悔しながら、教室の端で古菲にひっつかれたまんまジュースをチビチビと飲んでいると、学校内ではほぼ話しかけて来ないエヴァンジェリンが絡繰茶々丸と共に近付いてきて話しかけてくる。
「また、木っ端女に騙されて金を巻き上げられて捨てられなくて良かったな?」
「どうもイッセー様――いえ、兵藤先生とお呼びした方が宜しいでしょうか?」
「あ? ………珍しいな、昼間は話しかけないんじゃなかったのか?」
寝床と食べるものを提供してくれてそろそろ二年になる――簡単に言えば現在イッセーが最も世話になってる相手であり、昼間は基本的に互いにあまり関わらない事にしていた金髪の小柄な少女と緑髪で機械的な雰囲気を漂わせる少女から話しかけられた事に少し驚きつつも、こういう時に話しかけてくる場合は何か真面目な話があるのだと察したのか、それまで軽く不貞腐れていた表情を変化させる。
「家でも聞けるがなんとなく今聞こうと思ってな。
……お前から見てアレはどう見えた?」
「…………」
アレ……それはつまり現在生徒達に囲まれてるネギの事だと、事前にネギの父親との因縁を聞かされていたイッセーは『そうだな……』と前置きしながら話す。
「多分彼の父親の気質を受け継いでる。
とはいえ、やはり子供だ……扱い方がまだ粗削りだな。
これは専門外である俺よりもお前の方が察してるんじゃないのか?」
「まぁな」
「だからそっちの話ではなく俺の印象を言うぞ? …………………多分将来、ハーレム王とかになれる素質がある」
「………………」
「……。おい、なんだそのバカを見るような目は? 言っとくがふざけてなんかねーぞ? その気質を持ってる奴は基本『その時不思議なことが起こった』的な天性の強運を持ってるって事だよ」
「つまり、追い込まれた時の爆発力があると?」
「そうだ。
何度俺はそのせいで痛い目にあったか……。
まあ、実力自体はまだ子供の域でしかねーがな」
そう言ってネギを静かに見据えるイッセーの表情は普段の二割増しの真面目なものだった。
エヴァンジェリンもその表情から決して冗談で言ってる訳ではないのだとすぐに察し、同じような顔をしながらイッセーの隣に座る。
「イッセー」
「わーってるよ。
時期が来たら協力してやるさ。
お前には色々と世話になってることだしな……」
二人してネギを静かに見据えながら、何やら入り込めなそうな空気を醸し出す。
その時だったか……それまでずーっとイッセーに引っ付いていた古菲がふて腐れた表情をしながら二人に割って入り出す。
「さっきから二人で何の事を話してるアル? また二人だけの秘密って奴アルか?」
イッセーを知れば知るほど、決まってこのエヴァンジェリンというクラスメートの影がちらつく事を知って以降、古菲は少しエヴァンジェリンにたいして変な対抗心を持っていた。
イッセーが副担任になった時もそこが心配だったのだけど、あまり互いに昼間は関わらない距離感だったものだから、基本アホの子でもある古菲は油断していた。
「あ、やべぇ、存在を忘れてた……」
「酷い!?」
だから咄嗟に割って入ったのだが、イッセーはそんな古菲に向かって、現在進行形で引っ付かれていたのにも拘わらず、素で存在を忘れてたと言い出す始末。
「てかお前もネギ先生と仲良くしてこいよ」
「仲良くはするアル。でもほっとくとイッセー君はエヴァンジェリンさんと仲良くなるアル。
何を話してたアルカ?」
「それは――」
別に話しても良いが、アホの子だからバラされる可能性しかないとイッセーはエヴァンジェリンに視線を移して『どうする?』と目で合図してみる。
するとエヴァンジェリンは急にニタニタとした笑みを浮かべると……。
「なに、別段たいした話ではない。
今度は何時
「は?」
「そうそう、デートの―――は!?」
普段絶対に言う訳の無い台詞だった為に、そのまま一緒にうなずきかけたイッセーはギョッとなる。
「お前熱でもあんのか? 何ありえん事を……」
「こう言えばそいつは納得するだろう? くくく、行くぞ茶々丸」
「はい。
ではイッセー様、また家で……」
クスクスと笑いながら何気に教室から出ていったエヴァンジェリンと茶々丸。
「変なの……」
それを見送ったイッセーはただただ首を傾げるのだが、何でエヴァンジェリンがそんな冗談を宣ったのかについてはこの後速攻で理解する。
「で、デートって……。やっぱりイッセーくんはエヴァンジェリンさんとそんな感じアルカ!?」
「デートの言葉にキミがそんな反応を示すとは意外だが、今のは彼女なりの冗談だぞ?」
「じょ、冗談アルか? ほんとに……?」
「まぁね。
というか、何をそんなに気にしてんだよ? らしくないな」
「わかんないアル。最近いつもこんな事を考えちゃうアルヨ……」
考えるより行動するが素である古菲とは思えぬ態度でシュンとしている。
それを見たイッセーは、よくはわからないが、何か悩みでもアホの子なりに抱えてるのだろうと考えると、ポンポンと背中を叩いてあげる。
「良かったな、ひとつ賢くなった証拠だろそれは。
まあ、考えすぎてキミの良いところが無くなるのは良くないから、あんま考えすぎるなよ? キミはアホの子の方がキミらしいし」
「そんなアホアホって言うなアル!」
「はっはっはっ!」
「うー! 笑うな~!」
ポカポカと……多分常人がされたら吹っ飛ばせれそな気がしないでもない、古菲からの軽いパンチを受けてへらへら笑うイッセー。
いつの間にかそんな二人のやり取りをクラスメート達やネギは見ていたが、なんというか……微妙にほっこりした気持ちだったとか。
「あー、またやらかしたでござるね……古菲も不憫な……」
「あいつ、ナンパは史上最悪に下手な癖に、こういう時ばかりはタラシみたいな事を……」
「私、古菲さんの将来が微妙に心配ですわ……」
「でもなぁ、イッセーくんって何となくやけど惚れた相手には心底尽くしてくれそうな気ィするわぁ」
まあ、本人は単にアホの子の程好いアホさをからかって遊んでるだけなのだが……。
(うー……またアル。
最近イッセーくんが笑うのを見ると心臓が五月蝿いアル……顔も熱いし)
イザという時は、引き返して手を差し伸べてくれる……そんな青年に古菲少女は最近抱くこのよくわからない感情に振り回されるのだった。
補足
エキセントリック過ぎて、苦手と思う者もそれは当然居る。
大人しい子とか真面目系とかとかとか。、
逆にアグレッシブ系からの懐かれ方は半端無い。
……既にカンスト完了してるかもだが。