色々なIF集   作:超人類DX

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明けましておめでとうになっちまった……

つー訳で初は前回の続きとなります。ゴチャゴチャですがな!

※ちょっと修正と加筆です。


イリナちゃんと一誠くんと師匠

 どうせ『俺自身』の事なんて忘れてしまってると思ってた。

 奴が現れ、両親がソイツを兵藤一誠と認識した時の様に、彼女もまた奴を兵藤一誠だと認識しているとばかり思っていた。

 けれど彼女は――イリナちゃんはちゃんと俺を一誠だと認識し、覚えていてくれた。

 

 その事実は自分で思っていた以上に嬉しく、黒神イッセーとしてゴキブリ以上に……それこそ兵藤一誠よりも永く楽しく生きてやろうと決めてから初めて『生きてる実感』が活力としてみなぎる程だ。

 

 どうやら考えてた以上にイリナちゃんが大事だったみたいだな俺は……。

 

 

「説明してくれるよね? どうしてあの人を周りの皆があの一誠くんにソックリな人を『兵藤一誠』として見てるのかとか、そもそもあの人は誰なのかとか……」

 

「……」

 

「あー……」

 

 

 まさかの再会を果たした俺こと元・兵藤一誠にて現・黒神一誠。

 文字通り子供の頃からの再会なせい……だけでは無いとは思うけど、色んな意味で成長してるイリナちゃんにちょっとドギマギしてしまった俺は悪くないと思う。

 

 だって、思ってた以上に女の子なんだもん……びっくりだぜビックリ。

 

 

「いやー……言っても多分信じちゃくれないと思うしな……うん」

 

 

 雨も強く、互いにびしょ濡れだったし風邪引いたら目覚めも悪いので、取り敢えず黒神一誠として生きてる(ヤサ)に案内し、服と風呂を貸してあげ、お互いに一息付いた所で早速予想通りの質問を『嘘はダメです』って目を向けながらしてくるイリナちゃんに、俺はどう答えて良いのか実に困った。

 

 

「何で? 現に一誠くんと一誠くん……らしき人の両方を私とゼノヴィアは見てるんだし、少なくとも信じないなんて事はないよ? ね、ゼノヴィア?」

 

「まぁな。

お前から悪魔の気配がまるで感じないのに、兵藤一誠とほぼ同じ姿と顔をしてる辺り、もしかして双子の兄弟――

 

「俺に兄弟なんていない」

 

「―――じゃ無ければ、何なんだって事になるだろう?」

 

「おぅ……」

 

 

 自分の家なのに、何でか居心地の悪い気分だ。

 聞けばイリナちゃんとこの……ゼノヴィア? って人は既に奴と会っていたらしく、その後コントみたいなタイミングで俺が現れたせいで余計に疑問だけしか残ってないご様子だ。

 しかもこの二人は連中の事情に詳し様で、奴が悪魔で俺が人間だってのも見抜いてるみたいだ。

 まあ、だから俺の名前と居場所とドライグの力を奪ってのさばってる奴と俺の関連性が知りたいみたいなんだが……弱ったね……説明しても良いんだけど、言っても信用してくれるのかどうか。

 

 最悪、イタい人扱いされてしまう程に内容としてはトンでるからなぁ。

 ゼノヴィアって人からそう思われても別に良いけど、イリナちゃんにそう思われて疎遠になったら悲しいし……うーん……。

 

 

「ちょうどイリナちゃんとバイバイした直後だったかな……。

ある朝急に俺――つまりキミ等が言ってる兵藤一誠が現れてね。それだけなら良かったんだが、気味の悪いことに奴が兵藤一誠だと両親も当時いた周りの友達も知人も何もかもが『認識』しててな? そのせいで俺は兵藤一誠じゃない誰かになっちまったのさ……まあ、簡単に言えば奴は俺から兵藤一誠としての名前と当時の交遊関係と居場所を奪って成り代わってるどっかの誰かさんって所かな」

 

「は……はぁ?」

 

「突然現れて一誠くんの名前を奪ったって……」

 

 

 悩んでみた結果……イリナちゃんの視線に負けて簡潔ながら説明する事にした。

 で、案の定ポカーンとした顔になる二人。

 

 

「ちょ、ちょっと待て。

兵藤一誠――つまり悪魔の方の奴が突然現れたのに、お前の両親は何も思わなかったのか?」

 

「うん、その時点で奴を自分の子供と認識して、俺には『ウチの一誠とそっくりだが、キミは誰だ?』なんて言われたっけ」

 

「そ、そんな……!? それで一誠くんはその後……」

 

「ん、兵藤家の長男から名無しの権兵衛+只の他人になり、それまで眠っていた自分の部屋も無くしたまま外に放り出されたよ。

いやぁ、最初は毎日公園の水道水で腹を膨らませてたっけかぁ。

んでその内、人間不振のまま生きる為には善悪のクソもねーわと開き直ってホームレスみたいにゴミ漁りしながら、蜥蜴とか虫を焼いて食い繋ぐ毎日にシフトしたよ……あっはっはっ!」

 

「「………」」

 

 

 餓鬼の頃は本当に大変だったぜ、なんせ小さくて文字通り子供だから今みたいにある程度ですら動けなかったかなぁ。

 ドライグの声もまだ聞けなかったし、スキルもまだまだだったから、毎日が飢え死にとの戦いだったもんだぜ。

 

 

「ダンゴムシはクソ不味かったぞ? カブトムシとかクワガタも焼いて喰ってすぐ吐いたし。

あ、でも蜜蜂の巣は焼いて食うと超美味かったぜ?」

 

「い、いや……もういい……」

 

「……………」

 

 

 毒のない虫なら手当たり次第食ってたなぁ。

 んで、たまにハンティング出来る蛇は油っけは無いけどササミ肉みたいで中々ウマイんだわ。

 今でもたまに狩って食うくらいだもの………あれ、やっぱり引いた?

 

 

「死にたいとは思わなかったのか?

そんな生活をするくらいならって……」

 

「んー……不思議な事に、寧ろ逆に生きたいと思ってたよ。

ほらなんつーか、俺から兵藤一誠って名前と居場所奪ってノウノウと生きてる奴より早死にするのが悔しくってよ」

 

「…………」

 

 

 信じる信じないは置いておいて、ただただ俺の幼少気の生き様に引きながら聞いてきたゼノヴィアさんに俺は、半笑いで生に対する貪欲さの高さをアピールする。

 

アレで精神的なタフさを養ったからこそ、今はこうして黒神一誠としての自己を確立し、学校にも通うしそこそこ良いマンションで悠々としたライフスタイルを送れていると考えれば、まあ、アリな人生経験だったと笑って思えるもんよ。

 

 

「……。確かにぶっ飛んだ話で、信じるにも難しすぎるのは分かった」

 

「だろ? こんなもん自慢して話す事でもないしね」

 

「………………」

 

 自分だってこんな話されたら中二病か何かだと疑うもの。

 寧ろ半分は信じてくれてる様子の二人が特殊というか……あれ、イリナちゃんが俯いたまま動かない……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして? ただ知りたいから私にとって『正真正銘』の一誠くんに聞き、それに対して返ってきた言葉の数々は、自分ならとっくに自殺を考えるレベルの惨さがあった。

 

 名前と居場所を奪われ、孤独の状態でゴミや虫を食べて生き抜いた? そんなこと私には無理だし、当時はまだ10歳にも満たない年齢だったんだ。

 孤児院に保護されれば良かったんじゃないのかと最初は思ったけど、今の兵藤一誠に全部を奪われ人間不振になってたのならと思うと言えなかった。

 

 

「おーいイリナちゃん?」

 

「イリナ……」

 

 

 今はこんなそこそこ良いマンションに住んでるみたいだけど、此処まで来るのにどれ程耐え抜いたのか。

 私が教会でぬくぬくやってた時も、一誠くんは戦争孤児みたいな生き方をしていたなんて……何も思うなという方が無理だ。

 だって私は、あの時からずっと一誠くんが大好きなんだから……。

 

 

「ごめんなさい……」

 

「は?」

 

 

 大好きだからこそ気付くことが出来ず、勝手に楽しく生きているんだろうなとか思っていた事に私は謝り、目を丸くしてる一誠くんに近付き、そして抱き締めた。

 それくらいしか、私には出来ないから……。

 

 

「ごめんね……? そんな事になってるなんて知らないで……ごめんね……」

 

「わほ!?」

 

 

 やっぱりあの時とは違って男の子らしくガッチリとした身体になってると感じながら、私はひたすら一誠くんを抱き締める。

 

 

「ま、またサービスタイムですたい……!?」

 

「お、おいイリナ……」

 

 

 昔から一誠くんは大きな胸の女性を見ると喜ぶのをよく見てた。

 その時はまだ子供だったので嫉妬はしなかったけど、一誠くんとお別れし、年月を重ねていく事で一誠くんが好きなんだと自覚してからは、好みの女になろうと……胸を大きくしようと自分なりに頑張った。

 結果……悪魔の兵藤一……いや兵藤の側に居た悪魔二人よりは小さいかもだけど、それでもそれなりに大きくなり、今もこうして一誠くんの頭を胸元に抱き寄せてみれば声が喜んでる。

 えへへ……神様に遣えてる身なのにはしたない――とは思わないんだよね。

 

 

「私は信じるよ、一誠くんが一誠くんだって」

 

「ぉ、おふ」

 

「んっ……♪ ちょっとくすぐったいよぉ……」

 

 

 私は信じる。

 名前も居場所を失っても生き抜いた一誠くんを……私だけのヒーローさんを私は絶対に……。

 

 

 

 

 

 

 一誠は思った。

 あれ、もしかして俺死ぬの? と……。

 会うことなんて無いと思っていたイリナと再会し、再会した所で自分の事なんて忘れて向こうの兵藤イッセーを自分だと思い、奴の毒牙に掛かってしまうのが関の山なんだろうと思っていた。

 しかし実際は自分を兵藤一誠と覚えていてくれた。

 女の子らしく成長した姿で、こんなサービスまでしてくれた。

 

 生き汚く這いずると決めていた一誠にとっては、それこそ全てを失った以来初めての幸福だった。

 

 

(ド、ドライグ……俺死ぬのかな? つーかやばくね? イリナちゃんはめちゃんこ可愛くなってるし、俺の事覚えてるし、おっぱいボインだし、これってかなりヤバくね?)

 

『知らん』

 

 

 思わず自分に宿る力と名前を失いし赤い龍に、イリナの胸元に抱き締められた体勢のまま相談するも、赤い龍ことドライグは素っ気ない。

 基本的に同類意識を持ってるドライグとしては、一々女相手にだらしなくなる相棒を見てるのが何と無く嫌であり、ついついつっけんどんになってしまうが、一誠は顔面に伝わる柔らかい感触にだらしなくなっているので全然気にしてなかった。

 

 

「イ、イリナちゃんって色んな意味で女の子らしくなったね……でへへ」

 

「うん、昔から一誠くんが女の人の胸に喜んでたからね……大きくしようと頑張った」

 

「そ、そうなんだ……うぇへへへ」

 

 

 女っ気のまるでない十数年だったが故に、イリナからされる行為は刺激が強く、一誠は存分に成長したイリナの胸の中でふわふわした気持ちになる。

 良くも悪くも、一誠は年頃の男の子という事だ。

 

 

「んっ……んんっ!!」

 

「「……あ」」

 

「……。再会を喜びあってる所を水を差すようで悪いが、そろそろ良いか?」

 

 

 そんな一誠とイリナのやり取りを、ちょっと外された気分で眺め、何時までも経っても離れる気配が無いとそろそろ見兼ねたゼノヴィアが、わざとらしい咳払いをすしながらジト目となって二人を睨む。

 

 

「んっん……で、俺の話はそろそろ終わりにしてだ、イリナちゃんとゼノヴィアさんは結局こんな街に何をしにきたの?

色々あって突っ込めなかったけど、変わった格好だし……」

 

 

 イリナからのサービスでフワフワした思考のまま、気を取り直した一誠が化し与えたスエット姿の二人に今まで聞けなかった疑問を口にする……………内心、ダボダボのスエット姿の女の子って見てるとドキドキするぜぃ――なんて要らん事を考えながら。

 

 

「あ、うん……どうするゼノヴィア?

一応一誠くんは悪魔達の事を知ってるみたいだけど……」

 

「うーむ……風呂も着替えも貸してくれた恩は確かにあるが……」

 

 

 が、イリナもゼノヴィアも任務は任務と割りきっており、流石に聖剣が奪われた件について話すのを渋る。

 今日会合した悪魔よりは遥かに人間でであり、何よりイリナの幼馴染みである一誠は信用出来るが、それ以上に一般人だ。巻き込むわけにはいかないと、イリナとゼノヴィアは考えて頭を下げながら話せないと言葉を濁す。

 

 

「すまん、極秘なんだ」

 

「ごめんね?」

 

「あ、うん。それならしょうがないね」

 

 

 頭まで下げる二人に一誠は軽く笑いながら頷き、それ以上の事は突っ込まず、二人にご飯を振る舞うことにしたが……。

 

 

(何かあるな、確実に危ない系統の何かが……)

 

『でなければ教会所属の悪魔祓いの小娘二人が来るわけがないからな』

 

 

 夕飯のおかずを出されてあからさまに喜んでる二人に笑みを浮かべたその裏では、ドライグとの相談会が展開されていた。

 

 

「わぁ! これ一誠くんが作ったの?」

 

「おう、朝の作り置きで悪いけどね……」

 

「作り置きでも美味いもの美味い……流石の自活能力だな」

 

 

 自分の料理を誰かに食べてもらえる日が来るとはなぁ……と感慨に耽りつつ一誠は考える。

 言えない時点で危ないことをしようとしてるのは勘で何と無くわかる。そして、ここ数日街中に不穏な気配が漂っている事と何かしらの関連性があることも……。

 

 だが二人は自分を巻き込まんと、必要もないのに謝ってさえ来たのだ。

 その気持ちを踏みにじる真似は一誠としてもしたくは無いので、せめて服が乾くまで此処に寝泊まりしたらと提案する事くらいだ。

 

 

「使ってない部屋があるし、そこで寝泊まりしても良いよ。あ、別に変な事とかしないから大丈夫だからね?」

 

「え、い、良いの? い、一誠くんの家にお泊まり……」

 

「ぬ……資金の節約を考えれば、ありがたいのだが、本当に良いのか?」

 

「良いよ良いよ。

俺としても数年ぶりに業務的じゃない会話を……しかも可愛い女の子と出来てるし、寧ろテンションあがるわ」

 

 

 けれど、自分を覚えていてくれたイリナの気持ちを守る為に一誠は静かに動き出すつもりだった。

 

 

「ちゃ、ちゃんとした着替えとか持ってくればよかったかも……えへ、えへへへ……」

 

「いやいや、俺は寧ろ今のダボダボのスエット姿のイリナちゃんが……」

 

 

 ……………。大切なトモダチを守るために、その身に宿る失いし龍と無限と夢幻の力を使う時は近い。

 

 

終わり。

 

 

オマケ

 

何故に黒神?

 

 

「ねぇ、一誠くんがつかってる黒神って苗字はどんな理由で名乗ることになったの?」

 

「んー?」

 

 

 雨が止まず、イリナとゼノヴィアの衣服を洗濯機にぶちこみっぱなしで泊めてあげることにした一誠は、夕飯後の一息タイム時にされた質問。

 兵藤家から抹消され、代わりに名乗るようになった黒神という苗字の由来……それを同じ日本名を持つイリナは不思議に思ったのだ。

 

 

「んー?」

 

 

 それに対してTVを見る――フリをしながら二周り程サイズの大きい袖がダボダボのスエットを着てるイリナを盗み見てはニタ付いてたりしてた一誠が、緩みきった顔を即座に『キリリっ!』なんて擬音が聞こえそうな程に引き締めながら口を開く。

 

 

「これもまた荒唐無稽な話だから、取り敢えず聞くだけ聞いてくれると助かるんだけど……」

 

「「……」」

 

 

 そう前口上を立てる一誠に、先程の話を信じていたイリナは即座に頷き、ゼノヴィアも眉を寄せつつも同じく頷く。

 ある日突然、自分を名乗る男が現れ、その者に居場所と名前を奪われて追い出されてしまった話と同等の荒唐無稽な話を、ゼノヴィアとしては信じる信じないは後回しにしても聞いてみたかったのだ。

 

 故に、ポリポリと頬を軽く掻きながら天井に向けていた視線を自分とイリナに向け、今から話そうとするのを黙って耳を傾けていると、一誠は黒神という苗字を使うその理由を静かに、そしてゆっくり語りだした。

 

 

「えーっとね、調度まだ俺がホームレス生活をしてるある日の夜だったかな。

拾ったサラピンの段ボールにくるまって寝てた時に、今の俺達くらいの――高校生くらいの女の子が出て来て話をしたり色んな事を教えてくれる夢を頻繁に見るようになったんだ」

 

「夢……」

 

「夢、ねぇ……」

 

 

 夢……つまりそのまんま夢という話にイリナとゼノヴィアは目を細める。

 

 

「その女の子の名前が『黒神めだか』って言ってさ、まあ、夢なんだけど色んな事をマジで教えてくれるんだよ。

サバイバルの方法とか、効率の良い走り方とか……自力で生きていく上での技術を端から端までね」

 

「むぅ……?」

 

「女の子……」

 

 

 確かに聞くだけでは荒唐無稽な話だ……。

 横で一誠が女の子と口にする度にちょっと顔をしかめるイリナを横目にゼノヴィアは、どこか嬉しそうにしてる一誠の姿を見つめる。

 

 

 全てを失い、右も左もわからないまま孤独に生きる道を強いられてしまった一誠がある時から毎日見るようになった夢。

 それは、何処かの学校の応接室みたいな部屋に何時も居て、一際高そうな椅子に座る女子高生が自分に生きる術を時には優しく、時には厳しく叩き込む夢だった。

 

 

 

『一誠よ、お前は確かに居場所と名前を奪われたかもしれない。

だが、どんなに周りの連中が奴を兵藤一誠と認識してても私はお前を一誠と思い続けてやる。

だから堂々と生きろ。苗字が無ければ私の苗字である"黒神"を名乗れ。お前は私の大切な弟子なのだからな!』

 

『黒神……一誠……?』

 

 

 極度の人間不振となり、それこそ最初は夢の中の奴だろうが信じようとしなかった一誠の心を開かせた女子高生。

 朱色の瞳に藍色の髪を腰まで伸ばした綺麗な髪は、一本だけ所謂アホ毛があるその女子高生は、少々目付きが悪くて古風な喋り方だが、当時幼い一誠から見ても『美人』に分類される女の子だった。

 自らを黒神めだかと名乗り、『全面的にお前の味方だから信じろ』と、回りくどいことをせずストレートにその想いをぶつけてくることにより、一誠から師匠とまで呼ばれて慕われたこの少女の申し出は、ある意味今の一誠を確立する転機でもあった。

 

 

『黒神……』

 

『どうだ、語呂もぴったりだとは思わんか?』

 

 

 異常に強く、異常に堂々とし、異常に王道。

 まるで何処かの主人公みたいな立ち振舞いで一誠を導く黒神めだかと同じ苗字を与えられた一誠は、戸惑いもあったがそれ以上に嬉しかった。

 

 

『確かに……良いかも。あ、ありがとう師匠、ありがたく貰うよ!』

 

 

 兵藤一誠としての全てを無くし、何もないままの状態で初めて他人から与えられた好意が一誠にとって何よりも……それこそ泣きそうになるほど嬉しく、加えて師匠と同じ苗字を名乗れる事が、失なった兵藤一誠としての全てからやり直せるという感覚があり、年相応の少年が見せる笑顔を見せながら、優しく微笑む黒神めだかにお礼を言う。

 

 しかし、黒神めだかは一誠が師匠と口にした途端、あからさまに顔をしかめ、首を横に振りながら訂正させようと口を開く。

 

 

『むぅ……違うぞ一誠?

私の事は師匠ではなく、親しみと愛を込めて『めだかちゃん』と呼ぶが良いと言ったよな?』

 

『あ……』

 

 

 親しみと愛を込めての愛の所はよく分からないが、師匠よりも名前で呼ばれた方がより仲良しな気持ちになれる……というめだかからの教えを思わず忘れていた一誠は自分の口に手を当てながらごめんと呟くと……。

 

 

『ごめん、わかったよめだかちゃん!』

 

 

 夢の中とはいえ恩人である師を愛称で呼ぶ。

 するとめだかは妙に頬を赤く染めながらフルフルと身体を振るわせ――なんというか若干悦な表情を浮かべるや否や、まだ自分の腰辺りくらいしか無い少年一誠君を抱き締め、開いた胸元に顔を埋めさせ、その頭を犬のように撫でまくる。

 

 

『よーし、呼べたご褒美にヨシヨシしてやろう!』

 

『にゅわ!? め、めだかちゃん苦しいよ……!』

 

『はっはっはっ! 胸には多少の自信があるからな、存分に私の胸の中で甘えるが良い!』

 

 

 

 これが一誠が一誠として今まで生き残れてきた理由のひとつ。

 本来の道筋から外された少年は、王道を貫き通した女主人公(ヒロイン)に愛と勇気と強さを与えられ、這い上がったのだ。

 

 

 

 

 

「―――とまあ、藍色ロングで胸元めっちゃ開いたおっぱい大きい女の子師匠に貰ったって訳よ」

 

「また凄い話だな。今度は夢の話とは」

 

「むむっ……」

 

 

 とまあ、何処と無く誇らしげに黒神姓を名乗る理由を明るく話した一誠。

 ちなみに一誠の中に宿ってるドライグもまためだかと一誠によって立ち直ってたりするのはまた別の話だ。

 

 

「黒神めだか……何者なんだろうか?」

 

「何者だって良いさ、俺にとっては恩人の恩人であることに変わりはないんだから」

 

 

 フッと、表情を緩ませながら言い切る一誠と一緒にすっかりリビングでくつろいでたゼノヴィアは難しく考え、その隣で『黒神めだかという女の子』と聞いたイリナはムッとしながら気付かずペラペラ語る一誠を睨んでいた。

 

 

「今でも最初に会ってからはほぼ毎晩夢で会うんだよね、師匠――いや、『めだかちゃん』とな」

 

「し、下の名前で呼んでるんだ? ふーん……」

 

「え、な、なにその顔? 俺なんかマズイこと言った?」

 

「知らないっ……!」

 

 

 以上、黒神一誠のルーツ。

 

 

 




補足

イリナちゃんは若干マイナス一誠側のイリナちゃんですが……まあ、それでもまだマシな方。


その2

黒神を名乗る理由……。
それは安心院さん――と見せ掛けてめだかちゃんが師匠だったから。
しかも、仲はオマケの通り。


その3
一誠の力量は――

籠手として実体化させられるだけの赤龍帝の籠手+無神臓(インフィニットヒーロー)or幻実逃否(リアリティーエスケープ)のアシスト――てな所ですね。

例えば、無神臓の永続進化で底上げされた力を籠手からビームとしてBoost!とか。

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