色々なIF集   作:超人類DX

528 / 1034
嘘だからね。

テキトーに嘘を垂れ流すだけさ。


――THE・嘘予告集4――

 守る為にはどうしたら良いのか。

 

 目の前で消えていく筈であった大切な命を、ギリギリで繋ぎ止められた奇跡があったとしても、もう二度喪うのは嫌だ。

 

 赤き龍を宿さなかった運命を、とある姉と名乗る女によって変えられた少年は、その無かった事になった運命の代わりに絶大なる自我と執念を持つに至る。

 

 力が無いのなら、力を付ければ良い。

 

 神器なんてものなんぞ無くとも、人間の限界なんて決まった訳ではないし、其々母や姉の様に慕った母娘を殺した堕天使連中を越えられないだなんて誰が決めた? 誰が断言した?

 

 必ず壁を乗り越える。

 そして如何なる存在――それが例え神であろうともあの母娘の命を脅かすのであるなら、容赦なく捻り潰す。

 

 その結果、人で無くなろうが構わない。

 

 人を辞める事で守れるなら本望だ。

 

 

 いっそ狂気に近い精神力を持った少年は、その日から狂った様に力を付けようと遮二無二走り続けた。

 

 

 母の夫で、少女の父である堕天使・バラキエル以外の堕天使を全て敵と判別し、その敵を打ち砕くパワーを求め続け。

 その身が壊れてしまいそうになろうとも、いくら少女や母に止められても、少年は、姉を自称する訳のわからない女によって奪われた両親すらも見限り、餓死寸前まで衰弱していた自分を保護して守ってくれた家族の為だけに、その精神を燃やし続けた。

 

 

 その結果はお察しの通り。

 人外の少女ですら身震いする程の異質な異常性。

 世界の真理をも嗤いながらねじ曲げてしまう極大な過負荷。

 

 そして、本来の運命を辿ると同じく、少しスケベな心を搭載した――化け物へと進化した。

 

 

 そしてその化け物さに目を付けられ先代と先々代の風紀委員長達にパシリにされ、気に入られ、後継者と目され……。

 風紀を結構守らない風紀委員長として君臨した少年は、バラキエルとの約束を守る為に母と娘を守り続けてみせた。

 

 

 そんな彼の宿した異常を誰が言ったか、こう名付けられた。

 

 

 永久に終わらぬ進化――ヒロインの女の子を守る為に注がれるその異常―――――失われた主人公を凌駕するかもしれない、無神臓(インフィニットヒーロー)と。

 

 

 

 その異常は、化け物と成り果てた少年を青年へと年を重ねさせても歩みを止めさせなかった。

 役割を終え、母と娘を守る事が終着駅へと到達しても、永遠の別れをする事になっても、皮肉にも守る為に人を辞める覚悟を持ってしまったが故に青年は永遠に青年のまま死ぬことを許されなくなる輪廻へと堕ちた。

 

 

 そしてこれもまた皮肉な事に、全くの異界の地においても、その狂気に近い精神に救われた者が居る訳で……。

 

 

『キミは少しだけ昔の俺に似ている。

守りたいと思う子の為に自分がどうなろうが構わないってね。

くく、偉そうに御託なんて並べてる俺の場合は、化け物に成り果てて終わってしまったが、キミは自分の存在を消すことであの子達を守ろうとする。

まあ、だから何だと言われたらそれまでだがよ―――

 

 

 

 

 

 

 

   ――――――――――――――――――じゃあこれからも守れよ? 死なねーで、あの子が普通に年老いて死ぬまで、俺ができなかった事を、キミやって見せろよ?』

 

 

 真理をも捻り変えてしまう異質が、本来消え去る運命となった者のその運命を変えたのだ。

 

 

『さぁ! 聞いて驚け、見て嗤えェ!!

お前らもこの駒王学園最後の風紀委員長様と一緒に叫ぼうぜ! せーのっ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――It's Reality Escape!!!!』

 

 

 

 

 

 EP・人である事を棄て、少女と別れた青年

 

 

 

 

 

 どこかの部署の者がうっかりしたとかいう理由で、移送中のロストロギアを地球にポロっと落としてしまった――――という尻拭いをする為に六課は第九十七管理外世界と呼ばれる地球へと移動していた。

 

 

「嫌だ! 留守番してる! するったらするんだい!!」

 

「ちょ、ちょっと! ヘリの中で暴れないでくださいイッセー教官!」

 

 

 が、移動中の乗り物の中で、直接的戦闘教官という、要するに完全非武装状態での戦闘術を指南する教官を務めてる真っ最中のイッセーは一緒に乗り込んだはやてに地球の何処に行くのかと尋ねた所、答えが返ってきた瞬間、空の旅だというのにその場から飛び降りようとする真似を六課のフォワード陣達に止められていた。

 

 

「海鳴とかありえねぇだろ! つーかあの子達と合流だと!? 誰だよそんな場所にロストロギアなんぞ落としたバカは!?」

 

「言うたやん、別部署のもんやって」

 

 

 ギャーギャー喚いてはスバルやティアナに止められるイッセーを、はやてや、共に同乗していたなのはやフェイトといった昔馴染みの者達は予定調和とばかりに冷静だった。

 

 

「俺はてっきり、金髪ギャルだらけのアメリカンな場所だと思っていたのに、よりにもよってあの街に落とした挙げ句、あの子達と合流て……」

 

「民間協力者になったからね」

 

「あの時知られた時点でそうなる気はしてたけど、ピンポイントにも程があるだろ」

 

 

 やがて諦めたのか、疲れた様に席に座って頭を抱えだすイッセーに、スバルとティアナが若干息切れ気味に質問する。

 

 

「あ、あのー、教官はその海鳴という地域に行くのが嫌なのですか?」

 

「八神隊長から聞いた途端、顔色が一気に変わりましたけど……」

 

「いや……まぁね。

別に嫌いな場所ではないんだけどさ……」

 

 

 ティアナから手渡されたドリンクをガブガブと行儀悪く飲むイッセーは珍しく歯切れの悪い返答だ。

 

 

「民間協力者で、私達のお友達のある二人がちょっとね……」

 

「お友達で民間協力者?」

 

「この任務にあたり、二人にイッセーの事も含めて伝えたら、全力で協力してくれるって事になったの。

でもその条件が、イッセーを必ず連れてくる事だったんだ」

 

「それで何で教官がこんなことに?」

 

「いや、その二人と何かあった訳ちゃうんやけどー――見てからのお楽しみやな」

 

「あー、もうやる気しねー。

なぁアインス、さっさと回収したら引き込もってゲームしね?」

 

 

 どうやら民間者なる二人の人物やその街となにかあるらしい。

 

 

「着いたら起こしてよ。俺はもう寝る」

 

「あ……」

 

「「!?」」

 

 

 完全にやる気的なスイッチが切れてしまったイッセーは、たまたま隣に座っていたアインスの膝を借りて寝てしまった。

 

 

「くーくー……」

 

「寝付き早っ……!? そ、それにしても教官って女性に対して本当に軽すぎるというか……」

 

「こ、これは所謂膝枕状態ですよね? この慣れ方からして、もしかして他の女性にも平然とこんな事をさせてるのでしょうか?」

 

「いや、イッセー君は確かに軽いけど、そんな親しくもない相手には頼まんよ? 信頼すると判断した相手にだけや。

良かったなアインス? イッセーくんに結構信頼されてるで?」

 

「わ、私はその……」

 

「「………」」

 

 

 突然の事で固まってしまうアインスにニタニタするはやて。

 その後ろから何とも形容しがたい顔になってるなのはとフェイトに気づいた上で楽しく煽ってる辺り、はやても相当良い性格をしてるとしか思えない。

 

 

 

 

 

 軽く冷たくなる空気の中続いた空の旅も終わり、遂に地球の海鳴市へと到着する一同。

 

 

「着いてしまったのかとうとう……」

 

 

 アインスとツヴァイの両方に起こされてもテンションがた落ちなイッセーは全員に引っ張られる形で降りると、そこはミッドチルダでは中々お目に掛かれない小綺麗な湖畔だった。

 

 

「綺麗……」

 

「雰囲気的には、ミッドの少し田舎と変わらないわね」

 

「んー空気もとても澄んでます……!」

 

 

 地球に来た事のない者達は、その光景に心を奪われてる様だが、イッセーはまたしても見覚えのある場所なので、微妙に顔がひきつっていた。

 

 

「この場所も変わらなすぎて記憶が鮮明なんだけど……」

 

「え、イッセー教官は知ってるの?」

 

「まーね、なのはちゃんとフェイトちゃんとはやてちゃんのお友達が所有してる土地らしいんだよ。良いよなー、金持ち。

俺もさっさと引退してのんびり生きたいぜ……」

 

 

 子供達に言う台詞ではないが、明らかにやる気が無くなってるイッセーに微妙な顔になると、向こうの道路から中々なスピードを出した一台の車が走ってきた。

 

 

「車はあるんだ」

 

「文化レベルBだと、飛行機もあるよ」

 

 

 地球出身ではないティアナの言葉になのはが答えた直後、車は少し離れた所でドリフトする勢いで止まる。

 そして、中から現れたのはショートカットにした赤みがかった金髪が特徴の美少女と腰辺りまで伸びた紫色の髪が特徴の美少女がドアをぶち破る勢いで飛び出してきたではないか。

 

 

「なのは、フェイト、はやて……!」

 

「あはは、ごめんね、ちょっと準備に手間取っちゃった」

 

『……………』

 

 

 いや、確かに美少女かもしれない。

 なのは、フェイト、はやてと同じくらいの綺麗なお嬢さんなのかもしれないし、事実フォワード陣達もそうは思う。

 だが、なんというか……目が怖い。

 

 まるでなのはとフェイトが配属初日のイッセーを前にした時みたいな目なのだ。

 

 

「ツヴァイちゃま」

 

「? なんですか? というかちゃまはやめてください。子供扱いされてるみたいで嫌です」

 

「わかった、ツヴァイ。

俺はロストロギアを回収しなきゃいけないので、後はお若い者で楽しんでくれと言っといてくれ」

 

「え、何でですか? お二人にご挨拶は――ひゃっ!?」

 

「目が怖いんだよ……! わかるだろ、あれは間を置かないと面倒な事になりそうなんだよ……! だからツヴァイからうまいこと言っといてくれ。

後でなんか好きなもん買ってやるから……!」

 

「わ、わかりましたから、み、耳元でそんな事言わないでくだしゃい……! ぞくぞくするんですぅ……!」

 

「よし、後は任せたぞ……!」

 

 

 その目に寒気を覚えたイッセーは、近くに居たちっさいリインフォースことツヴァイにこっそり耳打ちをし、されたツヴァイはなんかクネクネするが、とにかく撤退がしたかったので、優しくツヴァイを撫でてから抜き足差し足忍び足でその場から逃げようとした。

 

 のだが――――

 

 

「聞いていた通り、まるで変わってないわねアンタは……」

 

「そうやって私達皆からのらりくらりと逃げようとする所なんて、ホントに変わらないね?」

 

 

 ガッツリがっしりと両肩を二人の少女……アリサ・バニングスと月村すずかに掴まれた時点でイッセーの逃げは崩壊した。

 

 

「ち、違うって。

ほら、地球の現金は銀行に預けっぱなしだったから、下ろして二人におこづかいして上げようと思っただけだし」

 

 

 やべぇ、目がヤベェ。

 小さな少女だった二人が、もう大人の女性になろうとしているという意味では感慨深いが、どうにもなのはとフェイトみたいに子供という認識が抜けないし、この二人に至っては8年近く疎遠だった。

 

 てっきり自分のことなんて完全に忘れてる……なんて淡い期待もむなしく、この二人の態度からしてガッツリと覚えているのは間違いない。

 

 

「8年も連絡すら寄越さないなんてふざけんじゃないわよ!!」

 

「ひどいよイッセーくん……。

私達の事なんて遊びだったんだね? 飽きたからってポイ捨てしちゃうんだね……?」

 

「待てコラ! 誤解を生みそうな事言うなよ!」

 

「うっさい! ほぼ事実でしょうが!!」

 

「いで!? す、脛を蹴るのは反則だー!」

 

 

 子供キラーであるイッセーの罪はここでも量産されていた。

 

 事実はこれなのだ。

 

 

 

 

 

 アリサ・バニングスと月村すずかにとって、兵藤イッセーは年のいった女の人にすぐデレデレするとてもだらしない人で、なのはやフェイトやはやてに変な事をしやしないかと警戒すべき存在――と最初は思っていた。

 

 1日中仕事をするでもなく、学校に通ってる気配もなさげにフラフラしてるだけの奴を見れば、二人の心配はまさに当然の心理であるのだが、結局の所、彼はそんな自分達に対しても優しく、話をする時は何時も膝を曲げて同じ目線になって語ってくれた。

 

 アリサは、後悔するくらいズケズケとものを言ってしまう性格を嫌悪する事もあったが、イッセーはそんなアリサに――

 

 

『そうか? 俺は好きだぜ? 実際そのさっぱりさに救われた子も居るんだし、変に自分をねじ曲げる必要なんてないぜ』

 

 

と言った。いや、何も考えずに言ってしまった。

 

 

 すずかは、色々な『秘密』があったけど、イッセーのお陰で『克服』する事が出来たし、彼はそんなすずかに昔話をしてくれた。

 

 

『俺の友達に、昔キミみたいな子が居たよ。

大丈夫、キミのそれもまた個性のひとつだし、何時か必ずキミの個性を含めた全てを大事にしてくれる者が現れるさ。

それに、今だってそんなキミを大切に想う友達もいるだろ? ああ、俺もその友達の一人のつもりだけどな!』

 

 

 本人は元気付けるつもりだったのかもしれない。

 

 けど相手はまだ子供だった。

 多感な時期で、色々な知識を覚え始める年齢だったこもあり、その台詞が花束片手に愛の告白でもされたかのように解釈してしまっても、誰が責められようか。

 

 つまるとこ、同じ目線で語る事が完全に仇になってる――ただそれだけなのだ。

 

 そのツケみたいなものが今返ってきてる――たたそれだけの事なのである。

 

 

 

 

 

「良いか、おじさんは今から真面目にお仕事をするんだ。

この仕事でおまんま食ってる様なもんだからね。

だから遊びたいのなら仕事が終わるまで待っててくれ」

 

「「はーい」」

 

「よし、相変わらず良い子な二人に後でおじさんが好きなものを奢ってやるから待ってろよな!」

 

 

 とはいえ、拗らせたとしても根が変わらなければその扱い方もこ慣れたものであり、軽く精神が8年前に退行してなくもない二人に飴玉を与えながら良い子で待ってろと告げると、微妙な顔したフォワード陣達と合流する。

 

 

「酷いくらい女たらしですね教官は」

 

「私に姉が居ますが、会うことがもしあったら、教官にだけは騙されない様に強く言っておくことにします」

 

「…………………」

 

 

 スバルとティアナに凄まじく軽蔑された目を向けられ、軽く凹むのを、エリオとキャロに慰められながらお仕事の話をする。

 

 

「ターゲットとなるロストロギアの反応があったのは、こことここと……それとここ」

 

 

 本当に飴玉をころころさせながら二人して座って待ってるアリサとすずかに苦笑いな気持ちを持ちながら、全員合流したコテージの中で、なのはが紛失したロストロギアの回収任務についての全容を説明する。

 

 

「反応のあった場所が転々としてる事から考えて、自立行動が可能か、もしくは誰かが知らずに拾ってしまったかになる訳だけど……」

 

 

 ここでなのはがイッセーを見ると、イッセーが口を開く。

 

 

 

「反応装置……えーっと、サーチャーだっけ? あれを使って常時反応がある場所を俺に教えてくれれば――長く見積もっても半日で多分回収はできる。

おとなしくさせる方法も一応あるにはあるしな」

 

 

 この道三十年のベテランですみたいな雰囲気を醸し出して断言するイッセーに、スバルやティアナ達が抗議する。

 

 

「教官、お言葉ですが今回の相手は生身ではなくてロストロギアですよ?」

 

「その……魔導師としてのランクはCですし、素手がいくら強くても教官ひとりでは流石に……」

 

 

 全くもって正論過ぎる意見。

 魔導師してはポンコツであるイッセー一人でロストロギアを回収するのは普通に考えて無謀なのだ。

 

 

「だからこその生身なんだよ。

ロストロギアの中には、近付いてくる者の魔力やリンカーコアに反応して起動してしまうといった代物もあるからな」

 

「それはそうかもしれませんが……」

 

「良いから任せてくれ。

俺としてもさっさと終わらせて、引き込もってゲームでもしたいんだよ。

暫く地球のゲームに触ってないから、ショップ巡りも正直したいし」

 

「「………」」

 

 

 生身での戦闘能力だけは認めるが、魔導師関連のポンコツ具合も平行して見てるので、どうにも信用がまだできない様子のフォワード陣。

 

 早く終わらせてゲームしたいという俗っぽい言動も疑いに拍車をかける。

 

 

「論より証拠や。

とにかく見てみればわかるんやし、ここはイッセー君のやり方を見てみればええよ」

 

 

 隊長であるはやて達がそう言うので、イッセーに任せる形にした。

 その結果――

 

 

「特別ボーナスでも欲しいね」

 

「う、嘘……二時間もしない内に?」

 

 

 サーチャーによる解析と特定が確定してから文字通りジェット機のような速度で跳躍して行ったイッセーは、二時間以内にはロストロギアを封じ込めたアタッシュケースを持って戻ってきた。

 

 

「流石やなイッセーくんは」

 

「相性が良いってだけだよ、この手の仕事に」

 

 

 そのアタッシュケースには、何故か見たこともない巨大な杭が貫いていて、その貫いているままはやては受け取る。

 

 

「めんどくさいから、ロストロギアだった現実を否定して、ただのガラクタにねじ曲げたぞ。

でも、本局に渡す時には戻すから問題はないぜ」

 

「相変わらずえげつないレアスキルやね」

 

「俺が無茶をしても本局連中がクビにしない理由だからね。

お陰でそこそこ金払いも良いし」

 

 

 

 異常な仕事結果を前に、当初完全に疑ってた者達は、信用するというよりもその異常さにゾッとする感覚を覚える。

 

 

「さーてと……! ゲームも良いけど、やっぱり人妻のナンパにしよっかな!!」

 

『…………』

 

 

 

 まあ、言動がアホ丸出しなので一瞬で威厳が吹き飛ばされ、言ったその瞬間、なのはやフェイト達に引きずられて連行されてしまったのだが。

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しだけ先のお話。

 

 

 

 恋人は居ない。

 良い年になっても結婚のけの字も見えてこない。

 

 年下で弟分な上司は結婚して幸せだというのに、自分にはそんな出会いの気配もない。

 

 とかなんとか思い込んだまま六課の戦闘教官をしていたイッセーは……。

 

 

「嘘だろ? 結婚すらしてないのに、スキップして親父になるとか……」

 

 

 パパになってしまったとさ。

 切っ掛けは聖王教会でのトラブルの際に保護した少女だった。

 顔なんて一切似てる訳じゃない。

 ただ、イッセーの子供に対する甘さが招いた事態という他無く、ヴィヴィオという名の少女から父親という認識を持たれたのだ。

 

 お陰でちょっと離れようとしただけで大泣きされるし、いよいよ婚カツだなんて欠片もしてる暇もなくなってしまい、永久独身確定の気分でしかなかった。

 

 もっとも、ヴィヴィオの背景を考えればとてもではないが責められる気持ちにもなれず、結局子供には甘いイッセーはなんだかんだ父親をやっていた。

 

 のだが……。

 

 

「ねぇパパ?」

 

「んー?」

 

 

 イッセーと離すと大泣きするからという理由で六課に来ることになったヴィヴィオも、当初他の人物達への人見知りを強めていたが、それも段々と慣れていったようで、今日も仲良く義親子でご飯を食べていた時に、突然こんな事を言い出した。

 

 

「ママはいないの?」

 

『………………』

 

 

 それは無垢な子供の些細ながらもごもっともな疑問だ。

 イッセーが本当の父ではないのは既に最初の出会いの時点で教えられた事だが、それでもイッセーが父として振る舞ってくれるからこそヴィヴィオも父として心底慕う。

 

 故にヴィヴィオは疑問だった。

 あれ、ママどこ? みたいな。

 

 

 その言葉を放った瞬間、食堂内の温度が一気に下がって一部が凍りついた気がしたが、イッセーは遠い目をしながら言う。

 

 

「母ちゃんは――フッ、父ちゃんが不甲斐ないせいで居なくなっちゃったよ」

 

「パパ……ごめんなさい」

 

 

 朱乃との末路を考えればある意味当たってるイッセーと言葉にヴィヴィオは幼いながらに、聞くべきではなかったと反省し、即座に謝るが、イッセーは笑ってヴィヴィオを撫でる。

 

 

「ママが欲しいのかヴィヴィオは?」

 

「うぅん、要らない。パパだけ居れば良い。後はどうでもいいもん」

 

「はっはっはー、ヴィヴィオは強い子だなぁ」

 

 

 子供の強がりと解釈してヴィヴィオを褒めるイッセーは知らないだろうが、現在のヴィヴィオは本気でイッセーが父である以上、他を一切求めぬ状態になってしまった。

 

 そうとは知らず、ヴィヴィオをエリオとキャロと一旦遊ばせてる間に、イッセーは深刻な顔をして隊長室で言った。

 

 

「ヴィヴィオがそろそろ母親を求めてるらしい。

これは最上難易度の任務だぜ」

 

 

 ヴィヴィオの父としては、なんとか母親を取っ捕まえなければならないと真剣な顔して言うが、悲しいかな、打ち明けた相手にそれを求める気はないらしい。

 

 

「今からミッドチルダの都市行ってナンパしまくってみようと想うんだけど……」

 

「そんな突貫工事みたいな真似してもヴィヴィオちゃんが可哀想やろ」

 

「だよなぁ……どうしたもんか」

 

 

 呆れるはやてに項垂れるイッセー。

 すると、最近ヴィヴィオによるナチュラルガードによって全くイッセーに構って貰えなくなっていたフェイトとなのはが、我先にと口を開く。

 

 

「じゃ、じゃあ私達の中の誰かがママの代わりをすれば良いんじゃないかな!?」

 

「ヴィヴィオだってその方が納得する筈なの!」

 

 

 例え疑似でもそんな関係になれたら……なんて思惑が見え隠れする二人に、イッセーは気づいてもない様子で首を捻る。

 

 

「ヴィヴィオがまず認めるかだからなぁ……」

 

「だ、大丈夫! ヴィヴィオとは仲良しだもん私!」

 

「私もだよ! 寧ろママと呼ばれても不自然さの欠片も無し!」

 

 

 思いの外イッセーが乗り気だったせいか、余計いきり立つ娘さん二人。

 結果、ヴィヴィオが審査員長となるママは誰か大会が密かに開かれる事になった。

 

 

「ヴィ、ヴィヴィオ? 私のこと、ママって呼んで良いんだよ?」

 

「もし呼んでくれたら、イッセーくんと家族になれるんだよ?」

 

「なぁヴィヴィオ、フェイトちゃんとなのはちゃんがママになってくれるってんだけど、どう――」

 

「嫌。イッセーパパを取ろうとするからイヤ」

 

 

 エントリーナンバー1 拗らせ娘さん二人。

 

 結果・寧ろヴィヴィオにイッセー関連においては敵視されていたらしくて脱落。

 

 

「じゃあ私は?」

 

「ふふーん、私達をお母さんと呼んでも構いませんよー?」

 

「ツヴァイはともかく、アインスは確かにアリな気はするけど、ヴィヴィオ的には?」

 

「………………ツヴァイさんはママとは思えない。アインスさんは――パパの事を一番知ってる気がしてモヤモヤするからイヤ」

 

 

 エントリーナンバー2・リインフォース姉妹

 ツヴァイちゃまは小さすぎて母とは思えない。

 アインスは一番先に進みすぎてヴィヴィオにライバル視されてしまって脱落。

 

 

「流石に犯罪な気はするが、スバルやティアナは……それとギンガ」

 

「ええ!? こ、この年でお母さんをやるんですか!?」

 

「それって自動的に教官と夫婦って事ですよね……」

 

「それはちょっと……」

 

「……………。あれ、なんか涙出てきたんだけどヴィヴィオは――」

 

「ヴィヴィオも嫌だから別になってもらわなくても良い」

 

 

 エントリーナンバー3

 素手戦闘メキメキ進化中後輩ズ。

 

 そもそもイッセーが女性泣かせな気しかしない為、気が進まず、ヴィヴィオも断りの為脱落。

 

 

「な、なに!? 俺は性別的には男なんだぞ! なのにヴィヴィオの母をやれと――」

 

「オメーに聞いてねぇよ筋トレ馬鹿」

 

 

 エントリーナンバー4 ザフィーラ

 

 そもそも筋肉もりもりマッチョマンなんて除外

 

 

「あ、アタシにも聞くのかよ!?」

 

「いや、ヴィータよりはシグナムさんか……寧ろ俺はシャマルさんが良い――いででで!?」

 

「ばーか!ばーか! そんなに胸が良いのか!? アタシの方が年上だってのに!」

 

「うぅむ、ヴィヴィオさえ良ければ引き受けても良いが……」

 

「ふふ、女の子泣かせのイッセーさんと夫婦は無理ですねぇ?」

 

 

 その5 ヴォルケンリッターさん達。

 

 何気にイッセーと距離感が近いヴィータが除外された時点で、泣きながらイッセーに殴りかかったので脱落。

 

 

「…………ほらなヴィヴィオ? 俺ってこんなんだからママには期待できないぜ? 一応最後に聞いてみる子が居るけどさ」

 

 

 中々難航するお母さん探し。

 流石に無理だったと諦めかけていたイッセーは、どうせ無理だろうと最初から諦め半分で最後の砦のもとへと向かってみた。

 

 

「……。という訳でヴィヴィオのお母さんになってください」

 

「なんや妥協に妥協を重ねられた気しかせぇへんのやけど?」

 

「キミにこんな事まで頼むのは流石に気が引けたんだよ。

けど考えてみれば、はやてちゃんが一番家庭的だし、一番しっかりしてるし、意外と女の子らしいし……」

 

「お、おう、そんな褒められると照れるやん……」

 

 

 最終兵器こと八神はやてに頼み込むイッセー。

 年の離れた気の合う友人としてやって来たのもあり、ある意味で一番気の置かないやり取りが可能という意味では適任といえば適任だ。

 

 

「せやけどヴィヴィオちゃんが嫌がるやろ」

 

「あの子の母親ハードルはやべぇ高いからな。

……朱璃さんか朱乃ねーちゃんなら余裕でクリアできそう――――って、違う違う、あの二人は関係ないんだった」

 

「……あー、初恋の人とそのお母さんやっけ? 聞けば聞くほどボロ負けする程のスペックやし、私じゃ余計無理やろ。

なのはちゃんやフェイトちゃんと比べたらただのへちゃむくれやし――」

 

「は? 今までそんな事思ってたの? 俺目線で恐縮だが、キミは二人に負けてないと思うぜ? つーか、居るとかほざく馬鹿が居るなら俺が殴る」

 

「……お、おう。今日はえらく褒めるな?」

 

「最初から思ってた事だからな。

でさ、俺に作戦があるんだけど……」

 

 

 ヴィヴィオの提示するハードルが高すぎる事を考えて、先手を打つことにしたイッセーは、はやてにその作戦を伝える。

 

 もっとも、聞いた当初のはやても流石に恥ずかしいので拒否したが、恩人でもあるイッセーが土下座する寸前だったので、仕方なく引き受ける事にした。

 

 

その作戦とは……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いーちゃん、あーん♪」

 

「あーむ」

 

 

 明くる日、はやてとイッセーが食堂のど真ん中でバの付くカップルみたいな真似をいきなりし始めた。

 それはもう、ヴィヴィオは勿論の事、今までそんな気配が無くて警戒すらしてなかったなのはとやフェイト達までもが唖然とする光景だった。

 

 

「いやー、はやては可愛いなぁ」

 

「もー、いーちゃんったらこんな所で言わんといてーな! 照れちゃうやん!」

 

「だって本当の事だもんよ。抱き心地もバッチリだぜ」

 

「やーん♪ いーちゃんのスケベ♪」

 

『………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ちょお、イッセーくん!? ほ、ホンマ大丈夫なんやろな!? 空気が完全に凍りついとるだけやん!)

 

(た、多分大丈夫な筈だ!)

 

(多分ってなんやねん!? こっちは死ぬほど恥ずかしい真似までしとるんやぞ!? というか、どさくさに紛れてどこ触っとんねん!?)

 

(え、あ、ごめんごめん! こ、こうでもしないとヴィヴィオに嘘だと見抜かれそうだったから……)

 

(ま、まったく……って、こら! ま、またおっぱい触ったやろ!?)

 

(さ、触ってねーよ!?)

 

(は、恥ずかしい……これで無意味でしたなんてオチやったらどう責任取るつもりやねん……)

 

(そ、そん時はマジで結婚でもするかいっそ?)

 

(アカンアカン! 私が殺されるわ!!)

 

 

 この作戦が吉なのか凶なのか……。

 

 

「ねぇはやてちゃん、ちょっと本気で――お話しない?」

 

「どうしてそうなったのか、全部説明して欲しいな?」

 

「主はやて……説明を求めます」

 

「パパになにしたの?」

 

 

 

 

「……逆効果やんけ」

 

「そんなバカな」

 

 

 まあ、大凶だろう。

 

 

嘘終わり




補足

すずかさんとアリサさん。

8年も経てば忘れてるだろうと思ったけど、なのはさんとフェイトさんを見てると寧ろ嫌な予感しかしなかったので逃げようとした。

しかし無駄だった。それだけのこと。


その2
シングルファザーとなった場合、誰がマザーになるのか。


と、考えて宛を探した結果、迷走しまくった挙げ句はやてさんとアホやって大凶ぶち当てるという……。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。