※テンプレに軽い修正と加筆をしました
少女には想い人が居る。
その想い人とは、砕けた言い方をすれば幼馴染みであり、期間としては少しだけしか居なかったけど少女にとっては歴とした幼馴染みだった。
自分が男の子みたいな格好をして、その人物とヤンチャしてた頃からずっと、少女は何時だって手を差し伸べてくれたその男の子を忘れなかった。
ある時は男女とバカにする虐めっ子から守ってくれた。
またある時は大怪我じゃ済まされない……それこそ命に関わる傷を『一瞬』の内に痛みと共に消してくれた。
まるで漫画に出てくるヒーローの様だと、少女は何時だって優しかった少年にますます惹かれていった。
例えしたくもないお別れをする事になっても、少女は絶対に少年と再会すると約束し、成長するに連れてその想いはより強く、より少年にふさわしい女の子になろうと努力し、再会する期を毎日毎日募らせていった。
そしてその想いが実ったのは、とある大物堕天使が自分達が所属し、信仰している神様の持つとされていた七本に別れた聖剣が強奪されたという事件が起きた時だった。
運の良いことに、聖剣を奪って行った堕天使とその一派の潜伏先が『少年との大切な思い出がある』あの街だったのだ。
それを聞いた少女は直ぐ様聖剣奪還の任務に志願した。
任務次いでに探せば絶対に会えるからと……少女は強く志願し、それが実った少女は幸福と絶望を味わう事となるとはこの時まだ知らずに……。
結果だけを言えば、聖剣奪還の任務に少女は指名された。
自分ともう一人の相棒となる少女二人でという、不安が少し残る任務となるが、幼馴染みの少年との再会を考えれば俄然勇気が沸いた。
飛行機に乗り、空港からタクシーを拾い、少ない路銀を使って懐かしき街へと帰還した少女は、少年を探す前に任務が先だと、街を納める『悪魔』と呼ばれる種族に道理を通しに彼等が通う学校にやって来た。
話の内容としては、悪魔が管理している領土に潜伏している聖剣奪還者との小競り合いに彼等の干渉は控えて欲しいという内容であり、早速その交渉を開始した少女とその相棒だったのだが――
「お前イリナ……か?」
「え、一誠……くん?」
少女はその席で2重に渡る深いショックで打ちのめされる事になってしまった。
まず一つは少女……即ち紫藤イリナが想い焦がれていた少年である兵藤一誠が、イリナにとっては敵対してるともいうべき悪魔に転生していた事。
「久し振りじゃないか!」
「う……うん……」
「昔は男みたいな格好だったから一瞬気付かなかったよ!」
「そ、そう……だね……。
一誠……くんも……元気そうだね……」
「え、イリナ?」
そしてもう一つ。
これはイリナにとっては再会を喜んでる少年イッセーが悪魔に転生したよりもショックな現実だった。
「なんでもないよ……。
ごめん、でも今は再会を喜んでる場合じゃないよね? お互いの立場もあるし……」
「え……あ、そ、そうだね……」
妙に態度が素っ気ない事に兵藤一誠は軽く面を食らう姿から目をそらしたイリナは、唇を噛み締めながら俯き、自分に言い聞かせるようにして心の中で叫んだ。
「……。(違う、この人はイッセーくんなのかもしれないけど、私が知ってる一誠くんじゃない……!)」
これがもう一つの理由であり、イリナにとって絶望とも言える現実……。
それは、兵藤一誠という少年が『違う』という事だ。
確かに彼の見た目はイッセーが成長したと仮定できる姿だし、自分をイリナと知って声を掛けてきた辺り間違いなく兵藤イッセーなのだろう。
けれどイリナは、素っ気なく話を切った自分に目を丸くして呆然としているこのイッセー少年を、あの時一緒に思い出を作った一誠とは『違う』と断定していた。
勿論それに対する根拠なんて無いし、年月によって人は変わっていくものだと思えば、そちらの方がまだ理解は出来る。
しかしそれでもイリナは自分を幼馴染みだと主である紅髪の悪魔やその仲間達に吹聴している兵藤イッセーを『違う』と確信めいていたのだ。
「…………」
「僕はキミ達の先輩さ……! ただし、失敗作だけどね!」
「なに?」
勝手に夢想していたと指摘されてしまえばそれまでだ。
けれど、あんまりにもあの時の一誠と違いすぎる今のイッセーにショックを受けるなという方が無理だった。
横で何やら金髪の転生悪魔が自分達を睨みながら刃を向けてくるが、イリナはただただショックでボーッと気が抜けてしまってノーリアクションだった……。
というよりも、そこから先の記憶が殆ど無いまま、気付けば相棒のゼノヴィアという少女に連れられて学園を出る直前だという始末。
「おいイリナ、会いたがっていた少年を見てからおかしくなってるが何かあったのか? 旧友が悪魔になってしまってショックとか……?」
「別に……何でもないわ」
「そ、そうか……」
逢いたい人が実はこの街に居る。
そう任務の前に打ち明けられていたゼノヴィアが、その少年と思わしき人物と再会してから明らかに変になってるのを見て心配そうに問い掛けるも、イリナは気が抜けた人形のようだった。
ゼノヴィアの見解としては、逢いたかった人が悪魔になっていたからショックを受けたというものだが、真実はイリナの中で渦巻いているだけで決して解らない。
(私の勝手な想像だったのかなぁ……)
怒りに飲まれた金髪の少年悪魔を下し、雨が降り頻る中を学園の外へと向けてゼノヴィアと歩いていくイリナは、降り注ぐ雨が頬を伝うのと同時に視界が滲んでいく。
記憶として大切にしていた少年と、成長して再会した少年の違い……。
自分をイリナと呼びながら笑顔を振り撒く姿はまるで、そこら辺の鉄屑の寄せ集めで作られた粗悪な乗り物のようであり、その中身も随分違っていた。
過度な期待のせいと言われたら最早何も言い返せないし、最早現実はイリナの夢想した一誠なぞ存在しない。
「さよならなんだね……私の思い出……」
逢える事は逢えた。
しかし余りにも違っていた現実に半ば心が折れてしまったイリナは、頬を伝う雨の滴と流れる涙と共に、それまで大切にしていた思い出を記憶の中から消す決心を、言葉と同時にした。
そして、ゼノヴィアと共に学園の門を潜り抜け、明日始まる戦いにだけ集中しようとした―――
「うへぇ……ちゃんと天気予報で確認しておくべきだったぜ……」
「………え?」
その時、イリナは消し掛けていた彼女の大切な思い出がハッキリ鮮明に呼び起こされる声と姿を捉える事になる。
今となってしまえば少年的にはどうでもよかった。
誰が誰になろうと、誰がどうなってしまおうと、肉親じゃないのに肉親を名乗る謎過ぎる存在が現れようとも、今となってはどうだって良かった。
その謎過ぎる存在が御大層な才能と力を持っていようとも、自分の居場所を取ってしまうとも、弾き出されしまった少年は何の恨みも感慨もない。
無限と夢幻の両方を覚醒させし今となっては、そんなちっぽけな存在に何をされても『平等にどうでも良い』としか思えない。
人間以外の生物が幅を利かせてようがクソどうでも良いし関係ない。
それが兵藤という苗字と一誠という名前を失い、新たに『黒神』という苗字と、自分を見失わない為に敢えて名乗り続ける『一誠』名の下に生き残ってきた少年のスタイルだった。
「でも可愛い彼女くらいはほしーよな……」
『そう言いつつ、女を口説いた試しは無いだろお前は』
「……。まぁね」
黒神一誠。
それが俺の名前だ。
只の人間であり、只の年頃の青年で単なる学生。
家族と呼べるものは10年前に見限ってるので居ないし、この黒神という苗字も肉親を見限ると決めた時に勝手に決めた名字だ。
今にして思えばもう奪われたという感覚は無いが、あの日を境に全部無くした俺は、その日を適当に生き、同年代が集まる学校に行ってそれなりに楽しむ毎日にしようと決めた。
平凡……常人にはとある力を二つ持ってる以外は真面目に平凡。
『おい、俺を忘れるな相棒』
「おっとそうだったな、すまんねドライグ」
2つ……じゃなくて三つだ……まあ、今俺の中から話し掛けてきたオッサン声のコレもまた『失った』奴でね。
『俺の偽物は随分と調子づいてるらしいが、いい加減殺してしまわないか? ムカついてしかたない』
「殺すて……物騒な事言うなやドライグちゃんよ」
12年前に、俺とソックリな顔をした不振人物が現れて『俺が主人公だ!』と訳の分からん事を言って周りをたらしこんで追い出され、それからゴミ箱漁りのホームレス幼児・小学生を経てドライグ共々力に覚醒した。
そして今も物騒な事を宣うこのドライグ……つまり神器と呼ばれる力として封印された赤い龍もまた、俺が全てを失ったと同時に『名前と力』を失った、力無き二天龍だ。
『兵藤イッセーの出現と共に俺様の力が奴の中にある偽物に全て奪われ、俺はこの通り絞りカス。
そしてその原因が目の前にいるんだぞ? 消してやりたいと思うのは当然だし、なにもしようとしないお前がおかしいんだ』
「おかしい……ね。別に今となってはアレが居ようが、ドライグの偽物が居ようがこちとら楽な人生の送り方を学習しちゃったからねぇ……それに俺の
『それはそうだが……』
端から見れば独り言をブツブツ言っとる危険人物極まりない……と思われがちだが、生憎この会話は全部脳内会話なので問題ない。
『力と名を奪われ、宿主であるお前におんぶに抱っこで全盛期以上なんて嫌なんだよ……俺自身の力をお前に貸したいというか……』
「はっはっはっ、萌えボイスで言ってくれたらさぞ喜んだろうが、オッサン声じゃなぁ……」
『ぬぅ……』
まあ、そんな訳で俺とドライグは『失った者同士』という共通点があってダチみたいな関係を結んでる訳だが、当然この事実を知るものは誰一人として居ない。
というこは、俺が今通ってる駒王学園って学校が、実はモノホンの悪魔が管理してて、その悪魔が実は人間に混ざって実は通っており、更にはその悪魔の中に俺にソックリ顔した不審人物である――ええっと、名前は分からん奴が転生とやらを果たした状態で混ざってるからだ。
アレが何処の何方か知らんままだし、ドライグの力をそっくりそのまま奪った赤龍帝として存在してるからね……この事実を知られたら鬱陶しい事態になること請け合いだから黙ってるのよ。
なんで、面倒な話は全部『赤龍帝の兵藤イッセーさん』に押し付け――もといお願いし、絞りカスな俺達は適当に楽しく生きていこうと思ってるのよね。
ドライグは不満そうだけど。
まぁ、もっと簡単な話、それなりの学校を出てそれなりに金を稼いでそれなりに暮らしてそれなりの嫁さん手に入れてそれなりな老後を迎える。
それが今の俺が抱くしょうもない夢なのである。
「おい、外が暗いと思ってたら雨じゃん」
『天気予報を確認せずに勘を過信した罰だな。濡れて帰れ』
「くっそー……」
ドライグとの寂しい脳内会話をしながら、居残り補修で遅くなった俺は外を降り頻る雨に軽く絶望した。
傘も雨具も無い俺にとっては最悪の雨が、灰色の雲に覆われた空から割りと強めに降っているのだ……中からドライグが半笑いの声で煽ってくるのも相俟ってますます気分が落ち込んでしまう。
だがこのまま待ってても止みそうに無いので、意を決した俺はその場から一気に駆け出す。
冷たい雨が無情にも俺の身体をびしゃびしゃにしていくのが何とも気持ち悪く、帰ったら熱いお風呂に入りたくて仕方無い気分でたったったっと一定のリズムで走る。
『もっと本気で走れば濡れるのも最小限なのに、何をチンタラと……』
「うっせぃ、どっちにしろ同じなんだし怠いんだよ」
ドライグに煽られてる通り、本来ならもっと速く走れるし、本気出せば屋根から屋根へ飛び移ったりも一応出来る。
だけど、今にして思えば普通に帰ろうとした俺の判断は間違えでは無かった。
だって――
「うへぇ……ちゃんと天気予報で確認しておくべきだったぜ」
「…………え?」
びしゃびしゃと水溜まりを踏み越え、鞄を傘に足下に注意して走って正門前まで来た時だった。
『お、おい一誠! ちゃんと前を見ろ前を!』
「は? 何だ――おわっ!?」
「きゃっ!?」
急にドライグが頭の中でデカいオッサンボイスを出し、それに驚く暇も無く何かに思いきりぶつかった。
その時俺は倒れたりもしなかったが、ぶつかってしまった……声で確実に女の子だと思うその子は小さく悲鳴をあげながらよろけてる。
「げ、やっちまった」
「いたたた……な、何なのよもう」
倒れはしなかったものの、痛そうにぶつかってしまった背中を擦りながらブツブツ言ってる女の子に、やらかしてしまったと顔を引きつらせていると、ぶつかった女の子の連れと思われる――よく見たら見たこともない外人っぽい女の子が何故か俺を見て顔をしかめてる。
「お前はさっきの兵藤一誠だな? まだ何か用か?」
「は?」
兵藤一誠という名前を出したのと、まだ何か用か? という言葉に俺は物凄い嫌な予感がしてしまい、思わず全力で首を横に振りながら奴ではないと否定する。
「いや、俺兵藤イッセーじゃ――」
「も、もう! 人が折角忘れようと思ってたのに!」
他人のそら似ですと、怪しむ様な顔付きで俺を見てくる青髪に緑色のメッシュという珍しすぎるもののよく見たら美人な女の子に向かって説明しようと口を開き掛けたが、それに食い入るようにぶつかった女の子の怒気を込めた声に掻き消されてしまう。
それを聞いてマズイと感じた俺は、説明を後に取り敢えず腰辺りを擦りながら怒ってる女の子にぺこぺこ頭を下げまくった。
「す、すいません、下ばっか向いて歩いてたばかりに……」
どうであれよそ見しててぶつかった俺に非があるので、ひたすらに謝りながら女の子の顔色を窺うために軽く顔を上げる。
結構勢いよくぶつかっただけに、女の子もかなりかなり怒ってるんだろう……そう考えながらな。
しかし怒ってると思っていた女の子の表情は――
「……え?」
俺を見て只ひたすらに目を丸くしながら固まっていた。
そして俺も、思い出すことなんてないと敢えて忘れたフリをしてた昔の……まだ兵藤一誠として生きていた頃にあった楽しかった記憶が、その女の子の顔と共に思い出す。
「え……ぁ……」
薄い茶髪をツインテールに纏め、目はパッチリしてて……美人というよりは可愛いと思う容姿――なのは今はどうでも良い。
俺が思わず固まったその理由は、その容姿に昔まだ兵藤一誠として生きていた頃に、親の事情で離れ離れになったトモダチの面影が強くあったからだ。
とはいえその子は女の子ではあったものの、髪型から何から中性的な男――に見えなくもなかったので、こんな可愛いらしいお嬢さんな訳が無い――
「さっきと違う……けど、私の知ってる一誠……くん?」
と……思ってたんだけど、呆然と俺を見ながらうわ言の様にその名前を口に女の子がした瞬間、ほぼ確定した。
凄い仲が良く、兵藤を棄てた時にはあの子も俺を忘れてるだろうと思い込んでいたトモダチの……。
「イリナ……ちゃん?」
正直、奴に靡いてたらショックで立ち直れないと思って会うのを恐れていた紫藤イリナちゃんが、こんなにも女の子らしくなって俺の前に姿を現したんだ。
黒神一誠
種族・人間
所属・無し
備考……力を失った龍を宿す人間。
「一誠くんだよね!? さっきの一誠くんとは違う、本当の……!」
「ちょ、ちょっと待って! え、お、俺を『覚えてる』のか?」
「覚えてるって……そんなの当然覚えてるよ、私にとっての一誠くんは幼馴染みのヒーローだもん!」
私にぶつかってきた男の人は悪魔になった一誠くんと同じ顔をした男の子だったけど、私には一目見て分かった。
抱いていた思い出と何ら変わらない……当時からちょっとエッチな一誠くんだって。
だから私は、私を見て何故か盛大に狼狽え、よく解らない事を言って後ずさってる『本当の一誠くん』の手を即座に掴んで引き寄せる。
「さっき見た一誠くんは誰なの? 何で一誠くんの名前を使ってるの?」
「いや待て……色々待て。あまりにも唐突すぎて頭の中がゴチャゴチャに――」
「それはこっちの台詞だよ。私の知ってる一誠くんが居なくなったのかと思って泣いてたんだからね!」
あの悪魔になった方の一誠くんがこれで本格的に誰なんだという疑問は残るけど、今は私にとっての一誠くんが目の前に居て、こっちが本当だと確信した私は思わず抱き着いた。
雨によって冷たくなっていた身体だったが、一誠くんの温もりがより強く感じ取れる……。
「うひょ!? お、おお、おっぱい……!?」
「一誠くん……一誠くん……!」
本物だ……。
私を見て狼狽えたと言うことと、悪魔の方の一誠くんの存在で『何かあった』事は察する事は出来るが、私を確かに昔のように『イリナちゃん』と呼んでる時点で、私にとっての一誠くんはこっちだ。
「あ、あの男みたいだったイリナちゃんが、こんなけしからんおっぱいをお持ちに……お、おほほ……」
「カッコいいけど、女の人の胸を見てはしゃぐのも変わらないね……? でも、やっぱり私にとってアナタが本当の一誠くん……ずっと会いたかった……!」
私に抱き着かれて変な顔になってるこの一誠くんで間違いない。
私だけのヒーローさん……。
「ど、どうなってるんだ一体……?」
あ、ごめんゼノヴィア。もう少し待ってて……もう少し。
(ど、どうなってんだ。何でイリナちゃんが俺を俺だと覚えてるんだ……?)
『多分、奴が現れる前にこの小娘と親交を深めたからじゃないか?』
(え、じゃあ両親の説明がつかなくね……?)
『じゃあ知らん。自分で考えろ』
暖かくてずっとこうしてたい……。
「お、おいイリナ……訳が分からないからちょっと説明をだな」
「あ、あとちょっとだけ……」
終わり
補足
今回はドライグさんも居ます。
只し、赤い龍としての力は転生者イッセーの出現と共にほぼ全て奪われて絞りカス化しちゃってます。
が……その代わり赤龍帝の籠手に一誠とスキルである幻実逃否と無神臓が組み込まれたおかげで、籠手形態オンリーで禁手も覇龍も不可能ながら、ある意味ヤバくはなってます。
その2
原作イッセーに近いですが、決定的な違いはハーレム王になるとは思ってないというか……基本的に悪魔だ何だがいくら美人だ可愛いでも『あ、うん……はいはい可愛いね』程度しか思ってません。
理由はまだ秘密。