人の血と人ならざる者の血。
その両の血を持ってこの世に生まれし者がヴァーリ・ルシファーだ。
人と魔のハーフという意味では、かのリアス・グレモリーの女王である姫島朱乃等々が存在しているので、そこまで珍しい事でもない。
だが、彼の受け継いだ魔の血はただの血ではない。
彼の魔の血は歴としたルシファーの血なのだった。
しかも家庭環境は最低と言わざるを得ないものであり、人である母はヴァーリをきちんと愛したが、父親はヴァーリの持つ高すぎる素質に、人の血が混ざった影響により、白い龍皇を宿してしまった事を知ると、それを恐れて虐待をしていた。
後にその父はヴァーリの祖父に当たるリゼヴィムに殺されてしまい、母とも生き別れてしまった。
そして、本来の時空軸なら母は再婚し、ヴァーリにとっては異父兄妹となる子供達に恵まれて幸せに暮らすはずだったが、彼の生きた時空軸ではその母までもが殺されてしまった。
祖父であるリゼヴィムに虫けらと揶揄され、自分がこの世のカスだっのだと悟り、このままでは心をねじ曲げていくのは時間の問題だった。
祖父に笑われながら放り捨てられ、その後現在の時間軸とは違う、アザゼルという堕天使に拾われて、彼の興味の対象である、神器研究の素体として生きる事になっても希望なんて抱く方が無駄で無意味だと心を腐らせていくのと同時に、その本心を隠す様に、ヴァーリは『戦うことでしか自分を表現できない男』を演じる様になっていった。
そうする事でしか生きる理由が見つからなかったから……。
だがヴァーリは出会った。
一言余計で、天然で相手を煽り倒す彼と、年上フェチだと公言してナンパばっかしては玉砕しまくってた彼という、終生の友となる二人と。
そしてヴァーリは彼等と過ごしていく事で、運命に抗う『覚悟』を学んだ。
生まれや育ちで全てが決まる訳ではない。
運命と戦い、運命を乗り越える事で初めて本物の強さを持てる。
ノリの軽い二人の親友によってヴァーリはその精神を確立させていき、やがて一人前の男へと成長していく。
そして彼はひょんな出来事によって、パラレルワールドの過去へと飛ばされた。
誰が誰の食べ物を盗み食いしたんだという、些細な喧嘩が理由で飛ばされてしまった、パラレルワールドの過去世界。
そこは、三国の時代を生きる者達が軒並み女性である世界であり、友である二人とは別の場所に落下したヴァーリが出会ったのは、友であるジンガのご先祖様……らしい、金髪女の子だった。
文字通り空からその女の子の家のお庭に墜落し、驚く女の子や、外敵と誤解して襲い掛かってくる女の子の仲間のこれまた女性達と一悶着あったりと、色々と大変な目に逢わされたヴァーリだが、リーダーだったらしい曹操と名乗った女の子によってヴァーリは『天の御遣い』だと認識され、断る暇も無く彼女の下で働かされる事になってしまった。
『違うぞ、俺はその天のなんとやらではない。
確かにこの時代の遥か未来から来たが、来た理由はイッセーとジンガ――ああ、多分この世界のどこかに俺みたいに墜落してるだろう親友二人と、食い物の事で大喧嘩してたら、次元が壊れてその狭間に吸い込まれてしまったという、単なる偶然でここに来ただけだから、キミ達が期待する様な者ではないぞ』
当然ヴァーリは、天の遣いが何の事なのかを聞いた後、直ぐ様自分ではないと否定したし、その親友二人と早いところ合流したいから配下にはなれないと、曹操――真名を華琳に話をした。
『衣食住の面倒を見てあげたのは誰だったかしらね? それにアナタが天の遣いであろうが、無かろうが今はどうでも良いのよ。
アナタが春蘭を負かしてくれたせいで、あの子や華侖はアナタを負かす為に訓練に熱を入れてくれるしね』
『曹洪からはケダモノ呼ばわりされてるし、俺なんぞ居ない方が精神衛生的に良いだろうに……』
一宿一飯の恩義を盾にされてしまい、結局ヴァーリは彼女の部下として過ごしていく。
無論、初めは完全なよそ者で、この世界における真名も完全に南蛮のものだったせいで、色眼鏡で見られたり、男嫌いの者からけだもの呼ばわりされたりと、大変だった。
が、ヴァーリもヴァーリで天然というか、彼女達が出会ってきた様々な男のどのカテゴリーにも属さない――所謂女性に対してそんな目で一切見ないという態度が、少しずつ信頼を作り上げていく。
『いたたた、ヴァーリはやっぱ強いっす!男の人でこんな強いと会ったのは生まれて初めてっす!』
『この世界はどういう訳か女の方が腕力共々強いみたいだからな……。
弱体化しているとはいえ、まさか春蘭との腕相撲に負けるとは思わなかった』
戦闘となれば誰よりも先に先陣を切り……。
董卓軍との戦いの為に集った別軍に混ざってたイッセーとジンガとの一度目の再会にホッとしてから、三人で三バカと呼ばれるだけの大暴れをしてやったり……。
そして、イッセーの言う合流に少し待ってくれと、ジンガと言った事で始まった殺意と怒りの暴走から華琳達を守ったり……。
別の未来からやって来た青年によって造り上げられた国境なき軍隊との総決戦の為に団結を深めたり。
女心があんまりわかってなくて、天然で色々とその間にやらかしていく内に、彼女達にとってヴァーリという存在が無くてはならないものへと変わっていくのは必然だったのかもしれない。
それは皮肉にも、本来はそうなるべきであった兵藤一誠とリアス・グレモリー達の繋がりの様に……。
『イッセーを落ち着かせたのがまさか呂布だったとは。
しかも神器を覚醒させている……アイツめ、やるじゃないか』
『神器……呂布もやはり持っていたのね』
『恐らく、ジンガの所も誰かしら神器持ちが居るだろう。
華琳、お前は彼女達に負けない様に俺が直接扱い方を教えさせてもらうぞ』
『構わないわ。
これでやっと、アナタと同じ領域に立てるのでしょう? あの一誠という男にも借りは返したいしね』
運命に抗う覚悟を友の二人が教えてくれた様に、人との繋がりと、その繋がりを守る『誇り』を教えてくれた華琳達。
『大丈夫だ、呂布と孫堅達に体型で劣ってるからって別にお前が見劣りするとは思ってないぞ』
『……励ましてるつもりだってのはわかるわ、ありがと』
先へと進む意思が彼を更に進化させ、魔王の血の力をも完全に制御したヴァーリの挑戦は終わらない。
華琳達と永遠の別れをする事になっても、彼はずっと彼女達を忘れはしないと固く誓い続けながら―――――
「お、お湯を入れるだけで食べられる!? な、なんて画期的過ぎる食べ物なんですか!」
「な、なんすかこの飲み物!? 口の中でパチパチと弾けるっすよ!」
「姉さん! 一人でそんなに飲んではダメよ!」
「は、箱の中に人が居るぞ! これが前にヴァーリの言っていた『てれび』というものなのか!?」
「姉者、この遠くに居る者と話せる機械とやらも凄いぞ」
「……」
「やるべき事は北郷達に譲ったし、別にアナタの世界に来ても文句はないでしょう?」
「姓も名も字も捨てなければならないんだぞ、本当に良かったのか?」
「仕方ないでしょう? アナタが私たちの時代にずっと留まれないって言うからよ。
言ったでしょう、私たちをそう思わせた責任だけは取りなさいって。
それに呂布も孫堅達もそれぞれ着いてきちゃってる様だし、問題もないわ」
まあ、華琳を始めとして従姉妹達がほぼ着いてきちゃったせいでヴァーリ君の冒険はまだ終わりそうも無いのだが。
「お前達の時代とこの時代ではかなり勝手が違うんだ。ある程度は流れに従ってくれよ頼むから」
更にその先の先へ……もっと先へと。
そして時は経ち……。
「ヴァ、ヴァーリさん! え、ええっとその……今日こそは私と一緒に……!」
「良い歳をした女なんだから、どいつもこいつも俺となんぞと一緒に寝ようとするな。
もっと己を大事に――」
「大事に考えた結果ですし、そうでなければアナタの時代にまで付いて来ませんわ! ほ、ほら! 華琳様達にバレる前にこっちに――」
「あー! 栄華がヴァーリを独り占めしようとしてるっすー! うちも混ぜろー!」
「くっ! 声が大きい……って、ヴァーリさんにべたべたしないでください!」
「いやっす~ えっへへ……ヴァーリの匂いっすー」
「……………」
「ご、ごめんなさいヴァーリさん、姉が……」
「………………。もう慣れたよ。
まさか俺がイッセーの事を言えなくなる日が来るなんてな……ははは」
ヴァーリを当初ケダモノ呼ばわりしていた栄華が意外な事に華琳と同じくらいヴァーリを気に入ってしまい、割りとデレる頻度が凄まじく、結果ヴァーリ宅は毎日の様に大変だった。
「はいはい、そうやってすぐ揉めないで。
平等に、仲良くって決めたでしょう? という事で全員で……よ。
わかるわねヴァーリ?」
「………。すまん、俺今日体調不良――」
「さっきまで元気に庭で訓練してたのにそれはないっすよねーヴァーリ?」
「……く、訓練してたら具合悪くなったんだ!」
「え、だ、大丈夫ですのヴァーリさん? 熱は無いようですが……」
「うっ……!」
「栄華が本気で信じてるじゃない。
しかし、この子がこんなに変わるなんてね……。
まあ、一番早くアナタを認めたのがこの子だものね?」
「…………。俺のキャラじゃないのに」
ところで、アザゼルにまんまと騙され、合法的に神滅具使いを三人もこの町に住まわせてしまうことになってしまったリアス・グレモリーは、イッセーからにこやかに恋を紹介され、『嫁さんっす』と言われたショックから全く立ち直れてなかった。
今度こそ間違えない。今度こそ手放しはしない。
そんな誓いを真っ向から否定もされれば仕方ないのかもしれないが、彼女のみならず、彼女の仲間やオーフィス達は既に未来に目を向ける事を放棄し、過去の思い出にすがる事しか出来なかった。
「イッセーにお嫁さんが出来たなんて……」
そのショックは全員に伝染していて、最近のリアス・グレモリー達のテンションは最低値を常に更新していた。
ちなみに、彼女の幼馴染みであり友人であるソーナ・シトリーもまた過去の記憶を保持しているのだが、彼女の場合も当時男の眷属だった兵士の少年を見捨ててしまっており、しかもどれだけ探してもこの世界にその彼が居ない事に絶望している真っ最中らしいが……。
「あの日以降、本当かどうかの調査を進めましたが、どうやらその……本当にあの恋という女性とそういった関係の様です……」
恋という前の世界では見たことも無かった女性と仲睦まじく暮らしている。
嫁が本当かどうか勿論調べたが、調べれば調べるほど、突き付けられていく場面が現実であることを教えられるせいで、リアス達どころはオーフィスまでもが精神的に凹まされていた。
「でも、調査を続けていく内にひとつ恋という女性についてわかりましたわ。
どうやら外見というか髪の色はご存じの通りリアスに近いですが、中身がオーフィスに似ている気がします」
「!」
「! それってつまりイッセーは私たちを完全に忘れてはいないってこと……!?」
だから変な方向に解釈までしてしまう。
もしイッセー本人が聞いたら流石にキレそうな事を……。
「で、でもそんな事を言ったら全てが終わりそうよ……?」
「言うべきではない……」
「どうであれ、先輩の愛情はあの恋とかいう人が全部独り占めしてるに変わりないのですしね……」
「な、なんとかして元の関係には戻れないのでしょうか……?」
しかし、彼女達もバカではないので、口が裂けても、こんな確証も無い推察を本人に聞くのは止めると判断する。
………元の関係に戻りたがる辺りは危ういが。
「ところで、ソーナの所も匙君が見つからなくて大変みたいだけど、うちもイッセーだけではなくて優奈が見つからないのよね……」
皮肉な事に、凶悪な力を持っていた男と交わってしまった事で、全員の力は本来よりも強化されている。
ソーナ・シトリーもその一人なのだが、全てに後悔し、真に求める者に手が届かないのはどちらも同じだった。
終わり
本来なら、後先考えないで傲慢で高飛車で――まあ、アホの子が災いした挙げ句トチって殺されるというのが大体の流れだった。
本来なら、オールマイティに有能なんだけど、地味で華が無くてカリスマ性も乏しくて、気付けば戦死していたのかもしれない。
簡単に言えば、とある二人はあんまり良いとは思えない位置に置かれた運命を知らずに背負わされていた。
だが、とある二人が、月満る夜の空から文字通り目の前に落ちて来た事で、その運命を変えていく事になる。
『け、携帯が繋がらねぇ!?』
『それどころか悪魔やその他の強い気配――――いや、別の何かを感じる?』
その出会いはとても唐突だった。
『袁紹? 変わった名前だが、どっかで聞いた事があるよーな……?』
『それに、電気が通じてないって一体どこの未開の地なんだろうか……?』
自分を前にしても特にへりだくるでもなく、寧ろ興味なさそうな顔を最初にされた時は腹が立った。
そのまま処刑でもしてやろうかと思ったけど、無知でお馬鹿そうな平民なんだろうし、少しは器の大きさを教えてやろうと、取り敢えず雑用として暫くこきつかってやった。
特にこの明るい茶髪に近い髪をした少年は、金髪のそこそこ顔の良いと思う少年比べたら信じられないくらい無礼だったので、気付けば大体口喧嘩ばっかだった。
けれど……。
『チッ、一応衣食住は提供してくれてるし、護衛はしてやるぜ』
後先考えないで色々とやってたら、色々と被るけど自分よりは金髪なのに貧相な身体の少女が率いる軍やら、配下にしていた者達に謀反を起こされた。
そしていよいよ進退窮まった時、一々言い返してばっかりな少年は、自分を守る様に前に達、数万の軍を前に堂々と立った。
『公孫瓚さんはなんとか助けられたよ』
『上等だな。さて……あまり気は進まねぇが、元の時代に戻る為に生きなきゃならねぇし、何より飯を食わしてくれた礼だけはちゃんとしなきゃならねぇからな』
たった一人で迎え撃つ気でいる少年に、流石の彼女も思わず『無理だ』と少年を止めた。
配下達は次々と敵に降伏してしまい、事実上残ったのはこの少年二人と公孫瓚だけ。
その公孫瓚も、ほぼ詰みとなってる現状に心がへし折れてしまっている。
だから彼女も――誰に対しても強気で喧しい彼女も諦めた。
けどしかし……二人の少年は、その手に剣を持ち、その身に白銀の鎧と漆黒の鎧を纏い、それぞれ同色の馬に乗りながら言うのだ。
『悪魔に捨てられた。そして、人間である匙元士郎でも無い。
我が名は呀――暗黒騎士……!』
『木場祐斗は死んだ。イザイヤという名も捨てた――僕は銀牙騎士……絶狼!』
壮絶なる過去を剣に封じて戦い続けた男の背を。
『俺達は死なない。
俺達の親友を殺した仇を討つまでは……!』
『そして恩のある者には必ず返しをする。
それが僕達の生き方だ!』
『行くぞォ絶狼!!』
『行こう、呀!!』
その唯一の目撃者となった二人の少女は、敗色濃厚となった戦況を、たった二人で戦場を駆けて逆転してみせた二人の少年によって、その運命を変えた。
本来の歴史をも変え、そしてその先の道筋を示してくれた口の悪い少年と、ナチュラルにSな少年によって、高慢な少女と地味な少女の運命は変わった。
袁家の棟梁を守る最強の盾にて最強の矛。
その二つの騎士によって彼女達の運命は変わり、そして生き方も変わっていく。
時は流れ、やがて訪れる永遠の別れの日まで……運命を変えた少女達はその道を歩んだのだ。
そして――――
「整理しよう。
まずここは間違いなく俺達の知る世界だ。
懐かしくもムカつく気配がうようよしやがるしな」
「間違いは無いけど、言いたいことはわかるよ……」
「ああ、殺された筈のアイツが生きている――いや、生きてくれている」
欠けていた『守りし者』としての信念を持った青年二人は帰還した。
だが、彼等自身の世界では無い事に気付いたのは、かつての親友がこの世界で生存しているのだ。
それどころか、彼等が冒険した世界で見たことがある少女達の姿まで……。
「曹一門ですわっ! 間違いありません、何故あの小娘連中が!?」
「お、落ち着いてくれよ麗羽……。今の私たちは文字通り文無しの宿無しの身分なんだぞ?」
「お黙りなさい白蓮さん! ぐぬぬ、徹底的に叩き潰した後、慈悲を与えて差し上げたというのに……!
それと孫一族や呂布まで! 一体どうやってこの時代に……!」
そして、帰るとなった瞬間これでもかと泣きわめいて帰るなと大騒ぎした袁紹こと、真名を麗羽という金髪緑眼――アーシア・アルジェントでは決してない女性と、燃える様な赤い髪を持っているが、何となく幸の薄そうな女性、公孫賛こと白蓮までこの時代に来てしまっていた。
「間違いないのか麗羽?」
「ええ、ええ! いくら間抜けでもあの私と被る連中共の顔は忘れませんわ!」
「どういう事なんだろう?」
「わからないが、あまりつつくべきではない気が……」
「そうはいきませんわ! お二人の親友の方が呂布と友に居るのですから、調べない訳にはいきませんでしょう?」
「まぁな……そもそもアイツ、イッセーは殺された筈なんだが」
「もしかして、パラレルワールドなのかも……」
「そのぱられるわーるどが何なのかわかりませんが、真実を知る事を放棄するのはダメでしょう?」
「麗羽に言われる日が来るなんて思わなかったぜ」
「ふ、ふん! 少しは成長したんですっ!」
「取り敢えず拠点を確保しないことには始まらないよ。
元主達に見つかっても厄介だし……」
時空を越えた世界は繋がり始める……。
「暫くは野宿になるが……麗羽は我慢できるか? 白蓮は大丈夫そうだけど」
「私はまあ……」
「な、なんですか! こうなることは最初から覚悟してますし、我慢くらいして差し上げますわ! ただし元士郎! 夜は冷えるのでアナタが私を暖めなさい! 良いですね!?」
「えぇ……?」
嘘その1
ソーナ・シトリーの元下僕である匙元士郎は、どう観察しても様子がおかしいソーナ達の目を掻い潜り、何故かこの時代にいる麗羽側の連中達や、死んだ筈のイッセーの事を調べたのだが……。
「さ、サジ……?」
「っ!?」
「サジよね? いや間違いなくアナタね!? 今までどこに行っていたのよ!? ほら、アナタの分の駒は残してあるから来なさい!!」
ソーナ達に発見されてしまった。
目が完全にイッてて、こっちは何も言っていないのに、眷属にしようと駒を取り出すソーナに、元士郎は逃げようと考えるが……。
「私の元士郎に何をする気ですの?」
ソーナの手から駒を叩き落として阻止したのは、残念だとかアホの子呼ばわりされまくってた麗羽だった。
突然横から割って来た、謎の金髪女にソーナ達は殺気立つ。
「アナタこそ誰よ!? 匙の事をどうして名前で……」
「あらあら、どんな姿をしているかと思いきや、元士郎ったらこんな貧相な小娘さんにしてやられたのですか?」
「……未熟だったんだよあの時は」
「ひ、貧相!? あ、アナタ一体誰に向かって――」
「全てにおいて地味なアナタですけどなにか?」
「んなっ!」
ふふんとソーナより育ってる丘をわざとらしく揺らしながらドヤ顔する麗羽。
「おーっほっほっほっ! 行きますわよ元士郎! 勝手に自分から捨てたお馬鹿さんにこれ以上付き合う必要はありませんし!」
「おーう……んじゃ元主さんとお仲間さん共、永久にさようなら」
そして強引に元士郎の手を引いて退散した麗羽。
正直、これで終わりそうも無かったが、今はその場から逃げられただけでも助かったと元士郎は思った。
「悪い、助かったぜ麗羽」
「……」
あの迫り方からして、どうやらあのソーナ・シトリー達は自分の知るソーナなのは間違いない。
調べた結果、イッセーやリアス・グレモリー達は微妙に違う平行世界の存在だったと思ってたので、割りと精神的に疲れてしまった。
なので、アホっぽいとはいえ、麗羽のテンションに助けられた元士郎がお礼を言うと、麗羽はそのまま元士郎をひっぱり、やがて町の外にあった廃教会――現在拠点に使ってる建物の前まで来ると――
「お、おい……」
「……」
信じられない事に、突然振り向いた麗羽が元士郎を抱き締めたのだ。
ビックリして固まる元士郎に、麗羽は先程までのテンションの高さが嘘だったみたいに優しげに語る。
「さっきの者達をアナタが見た時、顔が強張ってましたわよ? まだ克服できていないのでしょう?」
「いや、そんな事は……」
「強がらないで。
これでもアナタの主をやってた身ですのよ? 見抜けないと思っているの?」
「…………」
「恥ずかしいからあまり声には出せませんが、アナタには随分と助けられてきました。
アナタのお陰で私は今を生きる事が出来る……だから今度はアナタの過去を乗り越えるお手伝いをさせてくださいな?」
「麗羽、お前……」
「大丈夫ですわ元士郎。
あんな今更な連中にアナタは渡しません……。渡したくないですもの」
「………」
彼女を知る者からしたら『いや誰?』となる程に、優しさに満ちた微笑みで元士郎を抱く麗羽。
「鈍いアナタは気付かないでしょうけど、ただの配下って思いだけでアナタ達の時代に付いてこようとは思いませんわ。
今の私はただの麗羽、ふふ……本当はアナタからして貰いたかったけど――」
「っ!? お、お前っ……!? い、今キ……っ!?」
「私の気持ちですわ、元士郎―――――って、あら?」
「…………………」
「…………。そういえば、直接的な攻めは弱いのでしたね……。
ま、良いですわ……ふふ、暫くこうしてあげますわ、光栄に思いなさいな?」
彼女もまた成長せし者なのだ。
嘘・終わり
補足
曹一門は軒並み居ます。
けど、虎さん達とは違ってまだ逃げられる余地は――無いか?
その2
そして…………まさかのルート側からの刺客。
まさか過ぎたね。
その3
で、例の残念さんはまさかの昇華。
マジ化したら一気に化けるという…