猿と見下していた者達と酷似した姿となった屈辱を耐え、彼は漸く全てを取り戻す――いや、更にその先へと到達する方法を手にする事が出来た。
墜ちた帝王が復活するその時が。
他の全てを、この星の全てを喰らい尽くす。
そうする事で彼の力は返り咲く。
そして更にその先の――
とびっきりの究極パワーを手にするまで、彼等は決して歩みを止めないだろう。
どれだけの犠牲を払おうが、どれだけの屍を作り上げようが決して…………
干からびたミイラの様な死体が突如冥界の都市に落下してきた。
無論、そこに住まう悪魔達は大騒ぎになり、その干からびた死骸がディオドラ・アスタロトと発覚してからは更に大騒ぎとなった。
しかもディオドラの死により、芋づる式に発覚した彼の所業によりアスタロト家は相当揺れ、次期魔王輩出の権利を剥奪される事になったり、アスタロトであるアジュカ・ベルゼブブにも少なからず影響を与える事になったらしいが―――その元凶たるクウラ達には知った事の無い話だったので割愛する。
「考えもせず俺の前にノコノコと現れた虫けらを潰したまでだが、文句があるなら聞いてやろう」
「……いや」
ディオドラが殺された理由をすぐに察知したアジュカ・ベルゼブブに対してもクウラの態度は変わらない。
アジュカ自身も、以前一度の抵抗も出来ずに八つ裂きにされた苦い記憶があるので、クウラにこれ以上何も言えず、彼自身の性格もあってすぐに引き下がったのだった。
こうしてクウラ一人に何も出来ずに引き下がるしかなかった悪魔達だが、恐らくは彼等の不運はまだ終わらないのかもしれない。
それはクウラ自身がよりにもよってテロ組織認定している組織の長と個人的な繋がりがあるからというのも、彼等はまだ知らないとは言えそうだが、なによりその組織に現政権から離れた同族達が所属してしまっているという点だろう。
この点に関しては堕天使にも言える事なのだが、連中がもしまたクウラ達に対して余計な真似をしたら飛び火が来る可能性が高い訳で……。
「グレートレッド?」
「そう。グレートレッドを倒して静寂を取り戻す。それこそ、我が組織を作った理由」
二次災害的な被害が最近多い彼等はただただそんな日が来ないことを祈るしかないのだが、彼等の願いはどうやら叶えてくれそうもないらしい。
オーフィスがクウラの屋敷に来るせいで。
「真なる赤龍神帝じゃな。真龍と称されるドラゴンだ。自ら次元の狭間に住み、永遠に飛び続けておる」
「へー?」
白音に出されたポップコーンをムシャムシャと食べながら話していたオーフィスのかいつまんだ話を補足してあげる八坂。
「クウラは最近他の力を奪い取れると聞いた。
グレートレッドの力ならクウラにとっても悪くないと思う」
「……………」
「ご、ごめんごめん! オーフィス以外には話してないからそんな睨まないでよ……」
右腕のみメタルクウラのものへと変化させられる様になった事をどうやら黒歌がオーフィスに話してしまったらしく、無言で見据えられた黒歌がクウラの冷たい視線に小さくなっていく。
「まあ確かにオーフィスさんがそれだけ言うドラゴンのパワーならば、クウラ様の糧にできそうですが……」
「そこで呑気に菓子を食ってる馬鹿は、自分もその対象にされるかもしれぬ事をわかっていないのか?」
「わ、わかんないけど、自分はそうはならないみたいに考えてるみたいで……」
「大した自信だの……。九重とよく遊んでるとはいえ……」
ムシャムシャとまだポップコーンを食べるオーフィスの自殺行為に等しき言動に、却って呆れてきたクウラ。
確かにその情報は中々に有益だが、それと同等程度の力を保有しているオーフィス自身がクウラが白音の餌にされる可能性を微塵も思ってないのが――どことなく残念な子のようだった。
「そのドラゴンとやらはどこだ?」
「次元の間。
悪魔達がやってるレーティングゲーム……だっけ? その児戯の際に使われる場所がグレートレッドの居る場所に繋がってる」
「………」
とはいえ、グレートレッドのパワーは確かに興味がある。
今まで一度も会ったことは無かったし、何なら戦闘力の繊細なコントロールを可能にした今、フルパワーの反動を確かめるサンドバッグとしても使えそうだ。
そう思ったクウラは隣に控えていた白音に声をかける。
「白音」
「はっ」
「グレートレッドとやらを探す。
俺達の良い餌になりそうだからな……準備をしろ」
「はっ……!」
この世の生物全ては自分の成長の為の餌。
ようやく全てを取り戻し、更にその先へと進む準備を得たクウラは冷酷な笑みをを浮かべるのだった。
「待ってくれ」
そして、その前菜も……。
オーフィスとその腹心の位置にある黒歌の行動を漸く捉えたヴァーリは、彼等がグレートレッドを滅ぼす気になっていることを知り、半分慌てながら待ったをかけに屋敷に訪れてしまった。
「オーフィス、黒歌」
「……白い龍の宿主」
「げ……入ってきたし」
オーフィスが最早組織をほぼ手離してしまっている事は、組織へと渡って内情を知った事で把握している。
何せオーフィス自身が黒歌と共に組織の者達を次々と処理しているという噂があったし、実際この屋敷に出入り出来ているという事は、その通りなのだろう。
「思っていた通り、二人は彼等と繋がっていたんだな。
ここ最近急激に組織に所属していた者達が次々と行方を眩ませていたというのもこれで納得できた」
暗く、重苦しい雰囲気に支配される屋敷の大広間へと入り、オーフィスと黒歌に話すヴァーリ。
彼的には別に組織が壊れてしまおうが関係ないと思っていたし、より強くなる為の強者とさえ戦う事が出来れば組織の内情は関係なかった。
……確かに気の合う者とは出会えたが。
「いつぞやのガキか」
「あの時はそこに居るアナタの部下に世話になったよ。
お陰で俺の腕はこんなもので代用しなければならなくなってしまった」
白音に腕をひきちぎられ、義手へとなったヴァーリはそれを隠す様に黒い皮の手袋を嵌めており、それを外して抜き身となった義手を見せる。
「相手との力量も計れぬ愚か者のガキにはちょうど良い薬になったと俺は思うが? 殺されなかっただけ感謝でもしておけ」
「……。相変わらず俺は眼中にも無いか。キミも……」
「腕を引きちぎった事を謝って欲しいために来たのでしょうか? だとしたらクウラ様ではありませんが、そのまま逃げたアナタを見逃してあげた事を感謝して欲しいものですがね」
「…………」
グレートレッドを殺そうとするクウラ達に待ったをかけるつもりで意を決して姿を晒したヴァーリに、クウラも白音も相変わらず有象無象を見る様な態度。
「差はあの時点で理解したつもりだ。
今の俺ではアンタ達に勝てるとは思ってない。
だが、アンタ達がグレートレッドを標的にしようとするのなら黙っている訳にはいかないと思ったものでね」
あくまで戦う気は無いと、義手に手袋を嵌めながらヴァーリは宣言すると、側で聞いていたオーフィスがポップコーンを食べる手を止めて不思議そうに口を開く。
「何故グレートレッドを倒す事をお前が止める?」
「簡単だ。あのドラゴンは俺が倒したいからだ」
「キミがグレートレッドを?」
「そうだ。アンタ達に追い付く為に、まず俺が最も戦いたい相手、それが
俺は、存在しない『真なる白龍神皇』になりたいのさ。
赤い龍の系譜は最上位がいるのに、白だけ1歩前止まりでは格好がつかないだろう? だから俺がそれになる。いつか、グレートレッドを倒して」
そう語るヴァーリ。
だからグレートレッドを殺すのはやめて欲しいと改めてクウラに懇願する。
「アナタも強者を望むのだろう? ならば俺が何時かアナタ達の敵となってみせる。
だから待ってくれ………頼む」
「今時珍しい
「うーん、赤い龍の宿主とは色々と正反対ねやっぱ」
頭まで下げるヴァーリに八坂と黒歌が世間話混じりにそう評し、オーフィスは色々と悟ったのか、知らん顔で九重とお手玉遊びをし始める。
「だ、そうです。
どうしますクウラ様?」
「…………」
一通り聞いた白音が、頭を下げるヴァーリを前に、クウラに聞く。
その表情は『あーぁ、やっちゃったなこの人も』といった、あまりよろしくない未来を予感したものであり、案の定くだらないものを前にした表情だったクウラは口を開いた。
「ゴミにもならん虫けらの戦闘力が塵程度にしか上がらんのを待ってやるほど俺の気が長いと思ったのか? 気概だけしか能の無い愚か者が」
「……………っ!?」
クウラの身体から目視出来る程の殺意のオーラが緩やかに迸る。
あの時は白音が相手をしたせいで見ることの無かったクウラという存在の規格外さを漸く今理解したヴァーリは、交渉が決裂した事を悟り、即座に白龍皇の光翼を展開する。
「ああ、そういえばソイツ等の言ってた様に、貴様は例の小僧と対となる存在だったな。確か――」
「白龍皇ですクウラ様」
「そうだったな。あの小僧の価値も最早残り僅かにもならん今、貴様もついでに同じ様にしてやるか」
そう言いながらクウラの身体から溢れる紫色のオーラが赤黒く変化していく。
『! こ、コイツから何故か赤いのと同じ力を感じるだと……!?』
「なんだと……? どういう意味だアルビオン……?」
その変化は力の質をも変えたものだったらしく、ヴァーリの背にある光翼の本体である白い龍が驚愕した声を出し、ヴァーリも戸惑った。
『わからん! だが間違いなくこの気配は―――っ!? ヴァーリ!!』
その戸惑いに意識が逸れたその瞬間、クウラはヴァーリの目の前に立っていた。
アルビオンによりハッとなったヴァーリはとにもかくにも何かをされる前にクウラのパワーを半減させようとするが――
『Divide――』
シャクッ!!!!
『なっ!?』
「!?」
その翼は白音モードよりも更に大人びた姿へと変わっていた白音により文字通り―――喰い壊された。
「…………まっず。クウラ様、まだ成長途中ですよこれも。兵藤先輩さんよりは多少上ですが」
「なら同じことだ」
なにをされたのかわからない。
自分の力が急激に削ぎおとされた様な感覚と、意志疎通ができていた筈の白い龍の感覚すらも消えた。
目を見開き、ただ呆然となるヴァーリにクウラが冷酷な声を放ちながら右腕をメタル化させ、腹部を貫く一撃を見舞う。
「ごふっ!?」
背中まで貫通する白銀の腕が血に染まる。
「ぉ……あ……!」
そしてクウラは、そのまま首を掴んでディオドラの様に締め上げ、同じようにパワーを右手を介して喰い始めた。
「チッ、さっきの虫けらより多少質がある程度か」
「ぅ……あぁっ……!」
口からも血反吐を吐き、眼の焦点が定まらないヴァーリに対して吐き捨てる様に言いながら力を奪い取っていくクウラ。
『ヴァーリ!! き、貴様! なにをした!?』
ヴァーリのパワーを神器もろとも奪う事で白い龍の声が聞こえる様になったらしく、アルビオンの焦燥しきった声が聞こえるがクウラは無表情だ。
「塵程度にしかならんが、この虫ケラのパワーを奪っているだけだ。
この小僧の夢はグレートレッドを越えるのだろう? 俺がこの小僧のパワーを貰う事で間接的には達成するのだ……精々感謝しながら死ね」
『ふ、ふざけるなっ! そんな事でヴァーリが納得する訳が無いだろう!? やめろ! 俺の力まで……ぐぅぅぅ
!!?!?!』
「くくく、先程は赤い龍のパワーまでは奪えなかったが、少しばかりコツを掴めて来た。
貴様自身のパワーも俺の中へと取り込まれていく感覚がする……」
一度メタル・クウラコアとしてビッグ・ゲテスターを完全に支配した事があるだけあり、その欠片にも満たないかつての力のコツをあっさりと昇華させたクウラが、ヴァーリのみならず、ヴァーリに宿る白い龍自身のパワーまでもヴァーリを介して喰らう。
「…………」
『ぐぁぁぁ……! あ……お、俺が……き、キエル……』
「くくく! ハハハハハ!! これだ! 俺自身を再び取り戻す方法はこれだ! ははははは!!」
「おぉ、クウラ様のテンションが珍しく高い」
「宿主も白い龍も力が無くなっていってるのを感じる」
「うーむ、末恐ろしい力じゃのう。
しかし何故白音も似た様な力を持ってるのだろうか? ひょっとしたらお前さんにもあるのか?」
「え、私? 私には無いと思うけど……あるのかな?」
そんなクウラの珍しいテンション高めの笑みに、変なやはり彼の近くに居すぎたせいなのか、変な耐性が備わったらしく、白音や価値観が元から違うオーフィスは勿論として、黒歌や八坂や九重までもが、腹をぶち抜かれて血の池を量産しているヴァーリ――――ではなく、笑ってるクウラをしげしげと眺めていた。
「ふふ、それにしてもクウラがあんなにも楽しそうにしてるとはなぁ。
なんでだろうか、胸の中がザワザワする」
「アンタも大概毒されてるわね……」
「お互い様じゃろう? 妾はまだ童の頃だったクウラを知っていて性格もそれなりに解ってたというのが大きいが、お前さんはそうではないのだろう?」
「確かに馴れて来た感は否定できないにゃん……」
とことん奪いつくし、時おり白音にも喰わせながら、目の前で普通に殺人事件が発生しているとは思えぬ会話。
「終わりだ。白音、窓を開けろ」
「はーい」
そして奪い尽くされたヴァーリを白音に命じて開けさせた窓の外へと放り捨てるクウラは、両目からレーザーのような光線を放ち、ヴァーリへと直撃させた。
「む……!」
屋敷の上空へと放り投げて破壊光線を放ったクウラだが、爆炎と共に立ち上る煙を見ながら目を細めた。
「…………。クウラ様」
それは白音も横で見ていて気付いた様子。
「お前も気付いたか、俺の破壊光線浴びる直前、何者かが横からあの小僧を庇ったのを」
「そのまま逃げたみたいですね。
庇った事でまともに逃げれる身体では無くなったのは当然ですし、そう遠くにも逃げられない筈。
どうします? 追撃しましょうか?」
「ああ……。だが……チッ、どちらのパワーも小さすぎて察知が出来ん」
どうやらヴァーリにトドメを刺す直前、何者かが割り込んでヴァーリを庇ったらしい。
当たり前の様に追撃したトドメは刺す気でいるクウラと白音だが、パワーをヴァーリから奪い取り過ぎて気配の察知が難しくなってしまった。
「屋敷周辺を全員で捜索し、発見次第クウラ様のもとへと連れてきます」
「ああ……頼む」
「え?」
「? なんだ?」
「ぁ……い、いえ! なんでもありません!!」
何かに驚いた顔をする白音にクウラは疑問に思うが、白音モードよりも更に大人びた姿となった彼女は、突然妙に張り切ると、伸びた長い白髪を靡かせながらクウラに一礼し、見ていた黒歌達に指示を飛ばす。
「今すぐ全員で屋敷周辺の捜索!
白龍皇と彼の仲間と思われる者を探し出し、クウラ様の前へと連れてきて!」
「え、今ので死んだんじゃ……」
「何者かが庇ったのだろう? ともなればその庇った者も相当の重症の筈というわけか?」
「そう。
このままクウラ様の部下になりたいなら全員動いてください」
死体を見るまで己の勝ちを認めない。
クウラの気質をよく知る白音は、全員にそう指示を飛ばし屋敷を出る。
「もし発見した時、向こうが抵抗するなら迷わず殺して」
「し、白音も過激になったね」
「例え不可能だったとしても、一度でもクウラ様の敵になるなんて宣言した輩に生きてる価値は無いんだよ姉様。例え子供であろうが、クウラ様に牙を剥いた者は私の敵だから……ふふふ」
「? 妙に嬉しそうなのはどうして?」
「さぁ? 姉様には教えなーい♪」
クウラの気質をある意味一番多く受け継いでいる白い猫は追撃を開始した。
(『頼む』って……。クウラ様が確かに私に頼むって言ってくれた……。
あは……! な、なんだろ……嬉しい……とても嬉しくて胸の中が暖かい……!)
知らぬ内に与えられた『飴』によって……。
補足
喰うものを白音たんにも分けてあげてる所が一番丸くなってる部分かも。
他は相変わらずっぽいが。
その2
白音モード最終形態(現段階)
原作のver2ではなく、クウラ様による地獄訓練と喰う異常により作り上げた戦闘形態。
黒歌お姉ちゃんに負けない美貌とスタイルと扇情的さを持つが、クウラ様の敵に対する容赦の無さが更に向上。
容姿そのものも大人びており、イメージ的には……
化物語
つばさキャット
つばさタイガー等々に出るブラック羽川さん。
戦闘力・約35万
赤龍帝のパワーを学習した事により、そこから一時的に100万到達可能。
その3
クウラ様に頼むと言われただけでテンションMAX白音たん。
そうなったらさあ大変だ