かつて、兵藤一誠という人間の青年は、その世界においてそれなりに順風満帆な生活だったかもしれない。
しかしながら、所詮信頼した相手は悪魔であり、価値が無くなればあっさりと捨てられた。
別にその事に恨みはあんまり無かったが、それとこれとは別に『ムカついた』ので、ただ一人で世界全てに対して宣戦布告をして、多くの種族の大半を消した。
その中には、捨てられる理由となったとある男が居た気がしたが、とにかく絶妙にムカついたので思う存分暴れた結果、彼はその命を散らせた。
そして現在。
グランバニア王・パパスの一人息子として異なる世界にて復活した兵藤一誠は、リュカという名となって割りとその人生を楽しんでいた。
相棒のドラゴンは引き続き宿り、新たに呪文という力と父親譲りの身体を持つ事で、その力をより高い領域へと進ませたのだ。
その結果、幼少期から覚醒したその力でレヌール城に居たおやぶんゴーストはタコ殴りにして泣かせてやったし、ラインハットとかいう国の小生意気な王子が誘拐された時も無事に連れ戻せたし、その途中に邪魔した知能の高めな魔物三人衆を父のパパスと共にぶちのめして返り討ちにしてやった。
そして何より、一誠としても、リュカとしても運命を感じたのは、妖精の国に行った際に出会った族長とポワンは、彼にとってそれまで旅の行く先々で二十代後半から五十過ぎの年上女性を六歳児の癖にナンパしていたのをきっぱりやめさせる程の運命だった。
どれくらい運命かというと、とにかく惚れたので結婚してくださいと、当時まだ六歳児のリュカが土下座しながら戸惑うポワンに求愛しまくったぐらいであり、その瞬間からリュカにとっての異性はポワンになってしまったという。
つまり、大人になって父が王様で自分がその国の王位継承者だったんだと知ったとしても鼻にかけることもせず、他の女性には興味も示さなくなり、父と共に未だ見ぬ母・マーサを探すために必要な天空武具のひとつが富豪の家にあって、手に入れるにはそこの娘さんに相応しき男である――つまり婚約者になるとなっても、とにかく娘には欠片も興味ないから盾だけくれと言ってのけてしまったり……。
幼少期の頃にお化け退治しに共に行った金髪少女が金髪美女になっても他人事みたいな態度だったり。
富豪の娘に欠片も興味ないからと言ったら、その姉が出てきて怒っても、まるで相手にしなかったり。
同年代なんぞ単なる小娘。
そして小娘なんぞに興味なし! と、とにかくポワンにしか興味が無くなってしまったリュカ青年は、女子としてのプライドの全てを粉々に打ち砕かれたビアンカ、フローラ、デボラの三人に今日も追い回されながら父と共に母であるマーサを救う旅を続けるのだ。
「ねぇ父さん。やっぱ母さんって美人?」
「わしが言うのもなんだが、この世の全てと比べてもマーサは美しかったぞ」
「そっか、なら早くお助けしないとなっ! 俺も母さんに会ってみたいし」
「きっとマーサも喜ぶ。
欲を言えば孫の姿を見せたら泣いて喜ぶと思うが……」
「大丈夫だぜ父さん、近い内にポワン様とゴールしてみせるからよ!」
「……。いや、その後ろの娘達の事もだな……」
「「「……………」」」
異界のドラゴンを宿すリュカの成長によって、現在まで無事に生きている父パパスも衰えなど無く、寧ろパワーアップを遂げている。
具体的に表すと、常時三回行動にホイミの呪文なのにベホマみたいな回復力で、状態異常も回復。
約半分の確率で会心発動という、チートも真っ青な親父となっていた。
正直、天空の勇者無くとも魔王とガチれるかもしれない。
しかしそんなパパスもやはり一人の父であり、大人へと立派に成長した息子が、約三人ほどの若い娘さんの人生を軽く拗らせてしまっているのが悩みの種だった。
今も妖精の村の長の事ばっかりしか話さないで、押し掛ける形で旅に同行しているビアンカ、デボラ、フローラの三人については一切の無視だった。
「ポワン様って良い匂いがするんだよ。
優しい匂いっての? なんかもう幸せにしてあげたいぜ……」
「余程好きなのはわかったが、少しだけ配慮してやるべきだぞ……?」
「? なにが?」
「「「………」」」
リュカにひと括りで小娘共と呼ばれている三人の娘さんの視線が強くなるが、本人はどこ吹く風状態だ。
「なに揃ってへちゃむくれみたいな顔してんの?」
「別に」
「なんでもありませんわ」
「さっきからポワン様ポワン様しか言わない変態リュカには教えてあげない」
「あ、そう。
…………っと、そろそろ向こう行ってくるよ父さん」
「う、うむ……」
三人の美女からの抗議の入った視線も軽くスルーしたリュカは、ルーラという呪文を使って妖精の村へとワープする。
残されたパパスは、今にも周りにある何かをぶち壊しかけない顔をしている娘さん達をどう宥めるかで微妙に苦労した顔をするのであった。
年上の女性なら誰にでもナンパする癖をポワンとの出会いにより完全にやめたリュカは、旅先での宿が決まると毎日ルーラを使って妖精の村へとワープする。
その理由は勿論、ポワンに会う為であり、最早ホームグラウンドだとばかりに大木で出来たお城の最上階にある玉座っぽい広間に来ると、耳が尖ったエルフ族の長であるポワンが、果てしなく複雑な笑みを浮かべてリュカを歓迎した。
「こ、こんばんわリュカ……」
最初に出会ってからずっと求愛されまくってきたポワンは、リュカが来ること自体嫌では無いし、歓迎する事であった。
しかし、会う度にリュカの事がある意味気になって仕方ないビアンカ、フローラ、デボラの三人に嫉妬されるのだ。
曰く、自分達はただの一度も女扱いされた事がないのに、ポワンだけは心底女扱いするから納得できないと。
「リュカ、アナタまたあの三人をほったらかしにしてこっちに来たんでしょう?」
「ほったらかしになんてしてないぞベラ? ちゃんとここに行くって言ってから来たし」
「そういう意味じゃないんだけどね……」
幼少期に最初に出会ったエルフにて、はるかぜのフルートを取り返しに共に行った戦友にて、ポワンの存在を教えてくれた……リュカにとっては恩人であり良き友人であるベラの呆れた表情は、オロオロしていて困ってるポワンの輔佐的な位置に居て、現在までにアホ丸出しな真似をしまくるリュカを宥める役割も担っていた。
「それよりポワン様にお土産を……」
「あ、はい……。毎回ありがとうございます」
「いえいえ! ポワン様の為なら地獄の底にぶち落とされようが這い戻ってみせますぜ!」
だから飛び付く事などはしなくなって来たものの、とにかくポワンの気を引こうとする事が多くて多くて仕方ないリュカの顔はこれでもかという程にだらしない。
他のエルフの住人達も、最早慣れたのか、自分達の長が果たしてあの青年の想いに応えるかどうかで軽い賭けまで流行ってる始末。
最近では、ポワンの為になるからとでも言えば、魔界の王も単独でぶちのめしてしまうのではないかとすら言われるほど、リュカはどこまでも彼女を敬愛するのだ。
そんなリュカのあんまりな価値観の被害に遭っているのは主にビアンカ、フローラ、デボラという綺麗所の娘さん達な訳だが、逆に気が合う異性も居たりする。
「はー……若干くたびれた感じのおじさんは居ないのかしら」
「朝っぱらからなんて事を言ってるのですかドリス様は……」
「だーってさぁ! この国の男の人達は普通過ぎるんだもん! 親父はさっさと結婚しろなんて言うけど、私の好みに合致しないんだからしようがないじゃん!」
グランバニア王・パパスの弟であるオジロンの娘。
つまりはリュカの従兄妹に当たるこの人物の名前はドリス。
おおよそ王族らしからぬお転婆に育った彼女は、ある程度成長した後にリュカと顔を会わせたのだが、その顔を会わせた段階でお互いにシンパシーを感じたという過去がある。
「よっ、ドリス! なーに黄昏てんだ?」
「あ、リュカ兄!」
故にその仲は結構良い。
王族らしい振る舞い方を周囲に強要されるのが窮屈だと思うという共通点も気が合うし、何よりも合うのが異性に対する求めるものが『年上』だという一点だろう。
「旅先で目ぼしいおじさん居なかった?」
「フッ、ドリスの好みに合わせて探した結果、凄いのが一人居たんだぜ」
おっさん趣味を持つドリスと年上趣味を持つリュカが仲良くなったのはあっという間であり、しょっちゅうグランバニアの城下に降りては、こそこそとリュカが旅先で発見した、ドリスの好みそうなくたびれたおっさんを教える。
ドリスの父で、リュカにとってのオジロンからは『頼むから娘の性癖をこれ以上変な方向にさせないでくれ』と頼まれた事もあったが、幼い頃からおっさん趣味で固まってるのだから、ねじ曲げるも何もなかった。
「プサンっておっさんなんだけどさ……」
「プサン? どんな人?」
「まるで だめな おっさん 略してマダオを絵に描いた様なおっさんだぜ。
ちゃんとおっさんっぽい臭いもしたし、ありゃドリスも気に入るね」
「ホント!? 是非会いたいわリュカ兄ぃ!」
従兄妹同士ののほほんとした会話とはかけ離れた会話に、こっそり聞いていた従者達は凄まじく微妙な気持ちだった。
大体、リュカに至っては三人もの美女を連れてるくせに、その三人の誰も嫁にするつもりがないと言い切ってるし、ドリスはドリスでおっさん趣味だしで、この国の未来が少し不安にすらなる。
「会えるかしら?」
「当然。何だったらすぐにでも連れてきてやるぜ?」
くたびれたおっさんが好みという少女と、一回り以上の女性が大好きだというリュカ。
まさに二人は鏡のような従兄妹なのだ。
「と、いう訳でプサンの姿になってドリスと会ってください」
「……………。いきなり来たと思いきや、何を言っているのだリュカよ」
「言葉通りの意味です。
こちとらアンタの大ポカで沈んだ天空城復活の為のオーブを拾っといてやったんですから、それくらいして貰わないと? まさか自分は神だからされるのが当然だなんて考えてませんよねぇ?」
「う……」
「ま、マスタードラゴン様に無礼ですよリュカ殿!」
プサンと会わせるという約束をしたリュカは、度の途中で偶々人の姿に変身して、高速で動くトロッコから降りられないで泣いていたプサンという男を助け、そのままの流れで天空城とかいう空を飛ぶお城の復活の手助けまでし、現在はマスター・ドラゴンという竜の姿になってる彼に対して、プサンになってドリスと会えと平然と頼んでいた。
場所は大分補修が済んだ天空城の玉座で、復活した天空人の何人かが、マスタードラゴンに対する無礼な振る舞いをするリュカに激怒するのだが、借りがありすぎるのと、リュカの中に眠る異界の龍帝の力が半端無さすぎて若干引き腰になってるマスタードラゴンは、『よい』と天空人を抑えながら、リュカに言う。
「私はくたびれたおっさんでは無いぞ」
「天空の城を沈めたばかりか、トロッコで何年も遊んでた癖にっすか? まるでだめなおっさんドラゴンでマダオじゃんアンタ」
「ぐぬっ! そ、それには理由がちゃんとあるのだ!」
「へー? どんな?」
「だ、だから、天空の主として下界に降りて色々とゴニョゴニョ……」
段々声が小さくなっていくマスタードラゴンに、傍に居た天空人は微妙に主が情けなく見えてきた。
「色々と? 色々するのがトロッコで遊ぶことっすか? へー? ふーん?」
「や、やめろ! 私をそんな目で見るな!」
「ま、マスタードラゴン様……」
「ほ、ほらぁ! 部下達も私をバカでも見るような目で見るじゃないかっ!!」
「全部アンタの自業自得だろが」
『うだうだ言ってないで、さっさとあのくたびれた中年男の姿になれ』
「うぐっ!? ウェルシュ・ドラゴンまで……!」
恐らく数百年程前の天空の勇者とその御一行が今のマスター・ドラゴンの、一人の人間に負かされてる姿を見たら引くか何かしそうな程、今の彼は情けないおっさんドラゴンそのものだった。
「あーあ! どこの誰だったかなぁ! ゲマとかいう魔物共がくたびれた天空城を潰そうと軍団で攻めてきた所を助けてあげたのは!」
「うぅ……」
「俺と父さんめっちゃ頑張ったなー! ビアンカもフローラもデボラも割りと頑張ったよなー!!!」
「うー……!」
「それなのに、このマダオドラゴンは従兄妹のお願いすらも叶えられないってのかい? とことんダメなドラゴンだなぁオイ!」
「……………ぐすん」
「ま、マスタードラゴン様ァァッ!!?」
遂に泣き出してしまったマスター・ドラゴン。
借りがありすぎるのと、一切物怖じしなさすぎるリュカの強引さに負けてしまった瞬間だった。
結果……。
「あ、あの……リュカさんに連れてこられました、プサンと申します……。
えーっとこの度は――」
「すんすん……」
「な、なんですか?」
「………………………………………!!!!! このくたびれ具合! そしておじさん感丸出しの匂い! リュカ兄! この人最高よ!!」
「だろ?」
プサンになったマスタードラゴンは、おっさんドラゴンとして物凄くドリスに気に入られてしまうのだった。
「このうだつの上がらそうな目が最高だわ! あぁ、お世話してあげたい、甘やかしてあげたい……! 膝枕してあげながら、泣きつかせてよしよしとかしてあげたぃぃ……!」
「ひぃっ!? りゅ、リュカさん!? こ、この方おかしいですよっ!?」
「なにもおかしくはない。アンタの本質を実によく見抜いてる子だよ」
「だからといって――わぷっ!?」
「くんくん……すーはーすーはー!! あぁ、このおじさんの匂いも最高! えへへ、プサンさん……アナタ独身?」
「ちょ、は、離して……! ど、独身ではありますが、私は――」
「独身なのね!? じゃあ私と結婚してください! 惚れました!!」
「ワッツ!?」
「うーん、流石俺の従兄妹よ。
告白からなにから俺そっくりだぜ」
『………中身が天空の神のドラゴンなのに良いのか?』
「大丈夫だな。ドリスは種族の違いなんて絶対に気にしないから」
身体を動かす方が得意で、リュカに素手の戦闘法を叩き込まれたせいか、割りと腕力が強いドリスに絡み付かれてしまったプサンは、現在結構な果実に今も成長中のお胸に顔を突っ込みながら抱き着かれている。
「ま、マスタードラゴンよねあの人?」
「ドリスが思いの外気に入ったみたいでね。
暫くはあの姿で居て貰うことにしたんだ」
「天空人の長になんてことをさせてるのよアンタは……」
「でもドリスさんがこれまでに無いくらいお喜びになってますわ……」
「マスタードラゴンの潜在的にダメな部分がドツボだったみたいだ。
ふふふ、やっぱ年上好みは俺の従兄妹だよあの子は……くふふ、俺も早くポワン様とああなりてー!」
「「「………………」」」
マスター・ドラゴン。
まるで・駄目な・おっさんドラゴンとしてのかつての威厳はぶち壊れ、現在ドリスに求愛されてますますダメになる。
「あ、ところでルドマンさんからさっさと二人を返せってクレーム来たんだけど、そろそろ帰ったら?」
「冗談じゃないわ! アンタに土下座させて結婚を申し込ませるつもりなのに!」
「そ、そうですわ! いい加減リュカさんも素直になってください!」
「は? 素直? うん……ルドマンさんを安心させる為にも故郷帰って結婚したら? 俺以外の誰かと」
「「…………」」
「ビアンカもだけどさ?」
「…………………。やだもん、帰らないもん」
「もんってなんだよ。果てしなく似合わないし」
デボラ、フローラ、ビアンカ
完全に意地になってリュカを惚れさせてザマァと言いたいが、全部空振りしてるせいで、現在進行形で拗らせ中。
しかし、悔しさをバネにしてるせいか既に実力が魔界の魔物達を一人でぶちのめせる程に上昇。
パパス
死の運命から逃れ、更に10年の歳月によって衰え知らずに成長しつづけるゴッドファーザー
RPGに例えるなら――
常時三回行動で場合によっては四回行動
50%の確率で会心
ホイミがベホマ並&全状態異常回復
装備はかわのこしまきとパパスの剣という質素倹約な王
リュカ
マスタードラゴンを顎でこきつかえる赤龍帝
夢・ポワン様とうへへな生活。
過去の事はすっぱり忘れてる。
ドリス
数百年前のサントハイム王女並の戦闘力へとリュカとの修行の末に到達した武闘派女性。
ジャミ&ゴンズなら一人でボコボコにできる。
リュカに紹介されて出会ったプサンに対し、リュカがポワンに求愛するのと同レベルの求愛を現在している。
グランバニア王国
歴代最強ともいえる国王勢のお陰で安泰には思えるが、パパスとオジロンの息子&娘の性癖が特殊だからちょっと心配。
補足
とにかくポワン様命ですこの人は。
最近ルドマンさんにめっさ恨まれ始めてるとか。
その2
マスタードラゴンさんはパシりにされました(笑)
というか、なじられまくってたら泣き虫になりました。
そしてプサンへと変身したそのくたびれ具合がドはまり……。
その3
ドリスさんはおっさん趣味でした。
……このリュカの従兄妹だけあるね。