色々なIF集   作:超人類DX

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幼馴染みの子供達が楽しんでるその頃……か?


お義父さんの悪友

 友……というよりは腐れ縁か? 同じ堕天使として色々と切磋琢磨した好敵手が少なくとも俺には二人いる。

 一人は堕天使のリーダー的ポジションとなっている男・アザゼル。

 そしてもう一人はそのアザゼルの友であり、一応俺のことも友と呼んでくれる武人・バラキエル。

 

 俺が一誠を引き取り、人間界で育てる決心を固めて神の子を見張る者(グリゴリ)を脱退した後もこの二人とはちょくちょく連絡を取り合う事が多く、時間が合えば酒を酌み交わす仲でも一応ある。

 

 

「かぁーっ! 此処の所忙しくて久しく飲んでないから身体に染みるぜぇ!」

 

「よく言う。シェムハザに殆ど押し付けてるだろう」

 

「相変わらずいい加減だなお前は……」

 

 

 人間界のとある居酒屋。

 仕事帰りの人間達がごった返す中に混じり、俺達堕天使は店の奥の座敷で暫く振りとなる飲み会をしていた。

 大ジョッキに注がれた安いビールとつまみ片手に他愛の話をする……言わないが割りと俺はこの時間が嫌いではない。

 

 

「何処かの誰かが組織を抜けてくれちまったからな。

デカ過ぎる穴埋めも楽じゃないんだよ」

 

「元々俺が所属してたのは殆ど名前だけだろ……」

 

「いや、コカビエルという名前だけでも当時は他勢力に対する抑止力になっていたからな……アザゼルの言いたいことはわかるぞ」

 

「そーいうこった。まぁ、抜ける理由が理由だから文句はねぇけどさ」

 

 

 適当に頼んだ料理が次々と運ばれ、それをチマチマ口に運びながらボトルで頼んだ酒を煽りつつ俺達の話は進んでいく。

 

 

「奇しくも俺達は『子』を持つ親同士って奴だ。

まあ、バラキエルの所とは違って俺とコカビエルは子と血の繋がりは無いが」

 

「うむ……何と無くだが、この接点があったからこそ、こうして呑気に酒を酌み交わせてる気がしてならんよ……」

 

「かもな。幸い俺達の子供同士の仲が良く、今こうしてる間も三人で楽しんでるだろう」

 

 

 中々塩の効いた枝豆のお陰か、酒を煽るペースが何時もより早いと自覚しつつ、こうして飲んでる間も家に居るだろう一誠達の事を考え……そして思い出す。

 

 

「フッ、もう10年近く前になるな。

バラキエルが娘に対してヘタレたせいで危うく縁が切れそうになった事件も」

 

「あーあったあった!

バラキエルが類を見ないヘタレを見せたあの事件な」

 

「い、言うな!

確かにお前達二人にあの時檄を飛ばして貰えなかったら、今頃朱乃と疎遠のまま後悔し続ける日々だったかもしれぬが……」

 

 

 女受けの良い容姿をしてるアザゼルは俺と同じく誰かと添い遂げる事もなく、義理の息子を育てているのだが、このバラキエルはちゃんと人間の女と添い遂げ、その間に生まれた実の娘が居る。

 

 が、当時はそれを『理解』しようとしない馬鹿共が居てな……卑怯にもバラキエルが留守の時に人間の嫁さんとまだ小さかった娘を襲撃し、娘は何とか助かったが嫁さんは亡くなってしまったという事件があった。

 

 当然その馬鹿共は丁度安心院なじみから一誠を託されて直ぐだった俺とアザゼルとで秘密裏に処理し、バラキエルの娘に二度と手を出せんようにしてやったのだが、それで終わりではなかった。

 

 

『なに? お前の所の娘が家を飛び出した?』

 

『あ、あぁ……散々俺の朱璃が死んだと責められてな』

 

 

 一誠を引き取って間もない頃。

 アザゼルとまだグリゴリとして活動していた俺の下に死人同然のやつれた姿で現れてそう宣ったバラキエルは、放って置けば自ら自害してしまうので無かろうかと思わせる絶望オーラを纏っていた。

 バラキエルの嫁さんに手を掛けた馬鹿共は既に処理済みであり、もう二度とその娘に手を出せん様にもアザゼルと組んで根回しも完了したが、父娘にとっては寧ろ此処からが本題だった。

 

 

『もう終わりだ……俺のせいで朱璃は死んだ。

朱乃もそう思って家出してしまった……俺は親失格だ……』

 

『『……』』

 

 

 見た目通りの武人が見る無惨に萎んでいる姿に、事情が事情なだけに茶化すことも出来ず、項垂れるバラキエルに俺とアザゼルは無言で顔を向き合わせ、取り敢えずさっさと娘の朱乃を探せと命じたのだが……。

 

 

『む、無理だ……探し当てる事は出来るけど、もうあの子は……』

 

 

 バラキエルは見たこともない程に情けなくヘタレてしまい、無理だの、嫌われてるのにどんな顔をして会えば良いのだだの……取り敢えず俺とアザゼルからすればムカッとするようなヘタレっぷりを無様に晒していたので――

 

 

『ガタガタ言ってんじゃねぇぞゴラ?』

 

『嫁を殺されてショックだという心中は察してやるが、だからといって家出した実の娘も探そうとせずに弱音を吐くだけだと? 子を持つ親としては最低だぞバラキエル』

 

『ア、アザゼル……コカビエル――ガッ!?』

 

 

 ちょうどアザゼルも俺と同じく血の繋がりのないハーフ悪魔を子として引き取ったという話を聞いていたし、ちょくちょく情報交換でもしようかと思っていた横で実の娘を言外に放置すると聞かせれればこうもなろう……と、久々に同志に対して変な怒りを覚えた俺達は、同時にバラキエルの顔面に拳を打ち込んでやった。

 

 

『ぐ……!』

 

『どうだ、少しは目が覚めたかバラキエル?』

 

『嫌われた程度で子供を放棄するボケには良い薬だ』

 

 

 派手に吹っ飛び、近くにあった備品を壊しながら崩れるバラキエルに俺達は容赦なく罵倒する。

 こうでも言わんとこの手の輩は目を覚まさん。

 

 

『こんな所で後悔する暇があるのなら、さっさと草の根分けてでも探しに行け!』

 

『あぁ、コカビエルの言うとおり、連れ帰って来るまで此処に来るなこの馬鹿野郎が!』

 

『お、お前達……』

 

 

 だからこそ敢えて突き放す言葉をぶつけ、バラキエルのモチベーションを上げさせ、無理矢理外に放り投げる。

 

 

『だ、だが……』

 

『だがもへったくれもあるか、早く行って娘に対して自分なりのケジメを付けろ!

これでもし間に合わんとなって娘まで失ったとほざいてみろ……』

 

『俺とコカビエルで死んだ方がマシだと思える地獄を味合わせてやる……!』

 

『っ……!』

 

 

 アジトの外に捨ててもまだそこでヘタレてるバラキエルに殺気を向けながら尻を蹴り飛ばす言葉を送りつけ、それで漸く決心したバラキエルは飛び立つ。

 

 

『ったく、世話の掛かるダチだ』

 

『ムッツリなマゾなのだし、嫁さんに似た実の娘にさっさと罵倒されてでもケジメを付けろというものだ……。

でなければ奴はずっとヘタレとなってしまう』

 

『違いねぇ』

 

 

 世話の掛かる友人に苦笑いしながら、奴ならきっと大丈夫だと信じて俺達は待つだけ。

 俺達が友に出来る唯一の事であり、バラキエルの尻を蹴り飛ばしてまで動かしたその結果は現在の通りである。

 

 

「今でこそ笑い話で済ませられるが、あの時お前達に背中を押されなかったら今もずっと疎遠だっただろう。

本当にあの時のアザゼルとコカビエルには感謝しきれない」

 

「へ、あの事件のせいで余計信用できる奴が少なくなった上に、数少ない信用できるお前が使い物にならなくなったら困るってだけだ……感謝なんて要らんよ」

 

「あぁ、俺も同じだ。

感謝よりこの場の代金をお前に持ちにしろ……それでチャラにしてやる」

 

 

 当時を思い出したのか、ホロ酔い気味だってバラキエルが真面目な顔をして俺とアザゼルに頭を下げるので、揃って適当な理由ではぐらかす。

 俺もアザゼルも感謝されたいから尻を蹴り飛ばした訳じゃないしな。

 

 

「う……それは構わないが……むむ、人間界の通貨の持ち合わせはそんなに無いんだ。

朱乃からお小遣い制にされてて……」

 

「ぷはっ、娘に財布握られてんかよ!? なっさけねぇの!」

 

「まあ、お前の娘に対する溺愛っぷりを考えれば、その制度も嬉々として受け入れたんだろうが……」

 

「うん。最近ますます朱璃に似て来てな……、

笑顔で『お父様? 浪費を防ぐためにも来月からお小遣制ね?』と言われると奴隷の如く従いたくなるというか……」

 

「出たよムッツリマゾ男の真骨頂」

 

「お前の顔でマゾって色々と変態だろう……」

 

「うるさい! 朱璃にしばかれたり朱乃に罵倒される気持ち良さがお前らに分かって堪るか! アレは俺だけのもんだ!!」

 

 

 少し遅かったせいで、バラキエルの娘である朱乃が転生の駒で悪魔となり、しかもその主があのサーゼクスの妹で、『話し合い』の為にバラキエルとアザゼルと俺……とついでに修行になればと一誠とヴァーリを連れて冥界に訪れ、そのせいで少しばかり騒動にはなったものの、バラキエルの娘はちゃんと戻ってきてくれた。

 

 やはり何もせん内から諦めるのは良くはない……その教訓をひしひし感じた思い出の一つとして、俺の中に刻み込まれた……そんな話さ。

 

 

 

 

 

 コカビエル・バラキエル・アザゼル。

 かつては堕ちた天使として他勢力に猛威を振るったこの三人も子を持つことで良い意味で丸くなっており、過去の思い出を肴にジャンジャン酒を飲みまくる。

 

 三人ともアルコールは強い方なのだが、気の許せる友との飲みだからという理由で若干気が抜けたのか、ほんのちょっぴりのホロ酔いとなっていた。

 

 

「それにしてもアザゼルとコカビエルは誰かと添い遂げんのか? 二人とも子は居るが嫁はいないだろ?」

 

「んぁー?」

 

「そのフレーズ、この前ウチの一誠にも言われたぞ」

 

 

 そんな折に気分が良くなっていたバラキエルから振られた『嫁は要らんかね』トークに、着ていたYシャツの第2ボタンまで外して胸元を晒してるアザゼルとコカビエルは眉を潜める。

 

 

「おりゃあ考えたことねーやー! うぇっひひひひひ!」

 

 

 若干――処か三人の中で一際飲みまくってたアザゼルは真っ赤な顔で気味の悪い声で笑いながら居ないと言い、まだシラフなコカビエルも同意するように頷く。

 

 

「俺もだな。この前一誠にも言ったのだが、俺はどう見ても女受けせん顔だからな」

 

「そう、か? 俺が出来たんだし、お前だってあのガブリ――」

 

「昔よりゃマシだぎゃー! それでもコカビーは悪人顔だなもし!」

 

「…………。おい、アザゼルが出来上がってしまったぞ」

 

「みたいだな……。

俺達よりハイペースでガボガボ行ってたし当然と言えば当然だが」

 

「ウェヒヒヒヒ!!」

 

 

 二本の箸を両手に持ち、グラスを太鼓の様に叩きながらゲラゲラと笑いこけるアザゼルに、いくら飲み会だとしても気が抜けすぎだと呆れるバラキエルとコカビエル。

 

 

「なんらよー! バラキーだけ結婚したからってえらそーにしゅんよぉ! おれが本気だったらハーレムできるくれーわかっれんらろぉ!?」

 

「お、おう……わかってるわかってる」

 

 

 終いにはコカビエルとバラキエルに絡み出す始末であり、折角ガブリエルの話を持ち掛けようとしたバラキエルは顔をひきつらせながら鬱陶しく肩を組んでくるアザゼルをやり過ごそうと四苦八苦だ。

 

 

「でも結婚なんてしましぇーん! ヴァーリがちゃんと自立できるまで育てまーしゅ!」

 

「あ、そ、そうかそうか……」

 

「珍しく出来てるな」

 

 

 酔っぱらい特有の面倒さを存分に出しまくるアザゼル。

 言わないが、この集まりを誰よりも楽しみにしてるが故であり、バラキエルとコカビエルも分かってるのだが、それでも若干ウザイと思うのは仕方無いのかもしれない。

 

 

「俺もアザゼルと理由は同じだ。……。まあ、コイツと違って縁が無いのもあるが……」

 

 

 顔立ちが整ってるアザゼルとは違い、本来のコカビエルの容姿はまさに人じゃございませんであるが故なのと、本人がそれを自覚してるせいで形成されている鈍さもあってやや諦め傾向だった。

 

 だがそれはコカビエル視点の話であって、友であるバラキエルとアザゼルからすれば違うのだ。

 

 

「おーおいおいおい、コカビーちゃーん? 縁が無いなんて嘘はよかねーじゃーん?」

 

「何がだ……っと、ベタベタするな」

 

「ああ、その点はアザゼルに同意だ。というか、よく考えなくても普通気付くものだろう?」

 

「バラキエルまで……何の話だ?」

 

 

 イマイチ要点が掴めてないコカビエルが絡んでくるアザゼルを突き飛ばしながら首を傾げる。

 『戦闘・努力・這い上がり』……と、一誠も真似てるコカビエルという堕天使を形成するこの三大用語のせいで極端に他人からの好意に疎い面があるせいで、気付きもしない姿にバラキエルはおろか、出来上がりのアザゼルですら呆れてしまう。

 

 

「お前マジかよー? お前に負けてならすっかりお熱なガブリーちゃん無視すかー? イケメンすぎんだろー?」

 

「は? ガブリー……というとまさか、ガブリエルの事か?」

 

「そのまさかだよコカビエル。

お前……あれだけ甲斐甲斐しく来てくれるのに、その理由を察しないのか?」

 

「いやいや、ガブリエルが来てる理由ってミカエルから俺が人間界で悪さしないように監視しろと命じられたという理由だからだろう?」

 

「わーお」

 

「今の言葉が本気なら最低だな」

 

 

 心底分からないといった顔のコカビエルに、これにはアザゼルとバラキエルも呆れを通り越してしまった。

 ある日を境に劇的に変わり、どんな相手も油断せず迎い撃ち、誰よりも己を高め続け、気付けば堕天使の種族を軽く超越する力を持つ、冥界最強の魔王・サーゼクスと双璧を担う程の男が鈍感なのだ。

 

 友であり、尊敬の念すら抱いていた二人からすれば『ないわー』と思わざるを得ないのも無理も無かった。

 

 

「いやいや、ガブリエルは違うし勘違いしてるのは寧ろお前等だ。

アイツは天界一の美女と言われ、あの小煩いセラフォルー・レヴィアタンからライバル視されてる程の女で天使だぞ? 俺の下に来るのも人間である一誠を心配して――」

 

「やべ、一発殴りてーっすバラキエル殿」

 

「おう……俺もそう思った所だアザゼル殿」

 

 

 ガブリエルに対しては、一誠の事について多く助けて貰ったのと戦った際の強さもあって寧ろ嫌いではないが、だからといって彼女程の女が自分になんてあり得ないとあくまで冷静に言い張るコカビエルに、愉快な態度だったアザゼルやバラキエルまでもが、ちょっとだけ殴りたくなった――というか殴った。

 

 

「いきなり何を――」

 

「うるへー! さっさとあの天界一の美女を堕天させろコノヤロー!」

 

「一誠君もガブリエルに懐いてるのだろう? 寧ろ好都合だろうに」

 

「いや、責められる理由が――」

 

「ついでに、まだまだ一誠君に俺の大事な朱乃は渡さんと言っておけ!」

 

「あ、あぁ……。(ガブリエルの事はイマイチ分からんが、朱乃については保証しかねるぞバラキエル。あの二人は微妙に互いを好きあってるっぽいし……とは言わんでおくか)」

 

 

 ガブリエルについてと、そこから派生した一誠と朱乃について責められたコカビエルは無理に抵抗せずただ頷く……。

 既にバラキエルの想定以上の事が実はあることを話すことなく……。

 

 

「ええぃ、イチゴゼリーじゃんじゃんもってこーい!」

 

「やはり今日はお前持ちでガンガン飲む!」

 

「あ、あぁ……急に何なんだコイツ等……」

 

 

 もしガブリエルが聞いたら凹むだろう話を分かってないコカビエルは、バラキエルまで絡み酒を始めるのに戸惑いつつ、チビチビと日本酒を煽るしか何と無く出来ない。

 

 例えそう――

 

 

「~♪」

 

 

 その頃天界の何処かで……。

 

 

「あ、ガブリエル……さま?」

 

「な、何でしょうかあのコート? ガブリエル様のお召し物にしては随分とサイズが……」

 

 

 

 

 

 

「すんすん……。

うふふ、コカビエル……♪」

 

 

 異様にブカブカで袖が余る黒のロングコートを羽織る天使様が、スキップする勢いで機嫌良く歩く姿をコカビエルが見たとしても、多分もっと直接的じゃないと気付かないだろう……。

 

 

終わり




補足

鈍いというか、目標前提で生きてるので興味が無いというか……堕天覚悟で特効しないとダメだよというか。

その2
此処でお分かりの通り、この一誠には幻実逃否(リアリティーエスケープ)はございません……いや、無いというか『預けてる』といった方が正しいか。
 理由は、唯一平行世界の一誠とは違ってこのマイナスが『気持ち』によって自分のコントロールが効かなくなり、うっかりすると全部を否定しかねない事になるので、封印を兼ねて預けてる次第。

その3
オッサン三人は悪友みたいなもんです。

んで、アザゼル先生に女性の影は――――


その4

結局ガブリエルさんはコートを頂き、余りの嬉しさに天界でも何処でもコカビエルさんの前以外はずっと羽織りつつクンカクンカと……だ、堕天しちゃう。

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