色々なIF集   作:超人類DX

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どうせすぐ打ち切るから的なノリで超展開だぜ。


きっと続き

 言ったら妄想扱いされそうだし、事実自分でも妄想としか思えないので秘密にしているのだけど、俺はたまに夢を見る。

 

 その夢は、地球にある世界とは思えない世界で、とても豪勢で、とても大きなお城みたいな所に住まう赤髪のイケメンや銀髪のメイドさんとか、兄弟だと思われる赤髪の女の子とか……まあ、なんかもう見てるだけで目眩がしてきそうな美男美女が住まうお城がある訳さ。

 

 

 で、そんなお城には母ちゃんも落ち着いたドレスを着て、赤髪のダンディなおっさんと楽しげに過ごしている訳であってさ。

 

 夢にしてはリアリティーがあるっつーか、怖くて聞いた試しはないが、ひょっとしてこれは俺が生まれる前の母ちゃんの人生なのかもしれないとか思ってしまう訳で。

 

 …………だとしたらこの赤髪のダンディなおっさんは母ちゃんの旦那だった人なのかもしれないとか思ってる訳で。

 だとしたらちょっとしたジェラシー的なもんを感じる訳で……てか、考えがその通りだとしたらコイツ等は一体母ちゃんを放置してどこで何をしてやがるんだって訳で……。

 

 

『やっほーいーちゃん☆ 親愛の籠ったちゅーをしたげる☆』

 

 

 ………。夢の誰かの視点になってる俺に対していーちゃんと……あのマッド女こと束さんと同じあだ名で呼ぶこのコスプレ全開の―――アレ、でもちょっと可愛くね? と思う女の人は誰なんだよって訳で……。

 

 この夢を見ると何時も頭が痛くなるし、一体全体なんなんだっつー……。

 

 

『ほーらっ、お前だとかテメーじゃなくて、セラフォルーって名前がちゃんとあるんだから呼んでっ☆

あ、でもいーちゃんには愛情を込めてセラって呼んで欲しいねっ!』

 

 

 いやマジでアンタ誰なんだ? 夢とはいえなんか距離が近い気もするし。

 ちょっと地味に夢の中の俺視点の誰かさんが羨ましいとか……。

 

 

 

 

 

 よくわからない夢をずっと昔から見る事の多い一誠は、この事だけは流石に誰にも相談できないまま今を生きていて、現在はIS学園で四苦八苦な生活を送っていた。

 

 

「首尾はどうだ一夏?」

 

「良いと思える顔してるか俺?」

 

「………あんまりしてないかな」

 

 

 一生自分の生活には関係ないものだと断定し、全く頭に入れなかったせいで揃ってISに関してド素人である一コンビは、思っていた以上にISは難しいという壁にぶち当たってげんなりしていた。

 

 

 

「一誠はまだ千冬姉に教えて貰ってるから良いぜ? 俺なんか箒にずっと剣道の稽古をさせられてて肝心のISに関しては未だなんも教えられてないもん」

 

「え……試合明日なんだぞ? 剣道の稽古って何だよ? 確かにお前はちっさい頃は箒さんちの道場で中学になるまで剣道やってたけど……」

 

「結局は身体を動かすからって理由らしいんだわ。

三年間帰宅部だった事を言ったらめっさ怒られちまったけど……」

 

「うーん……そんなものなのか? 俺はある程度頭の中でとはいえイメージできる様にななれたけど」

 

 

 どうであれ試合をする事になった以上は、負けたくはない。

 割りとそこら辺が真面目な二人は、食堂裏で缶ジュース片手にお互いの近況を報告し合いながら駄弁っていた。

 

 

「専用機だっけ? んなもん寄越されても使いこなせる自信が全然無いんだけど」

 

「あーそれわかるわぁ。

はぁ……ムチムチぷりぷりなお姉さんが応援してくれたら頑張れるんだけどなぁ」

 

 

 周囲が互い以外は全部女性という環境は、流石に一誠も滅入って来てる―――いや、千冬のドSモードを毎日味合わされるのは辛いらしく、男同士でこうやって愚痴り合うのはとても精神的な癒しになっている。

 

 

「負けたら小間使いにされちまうし、こうなりゃ死ぬほど足掻くっきゃねーべ?」

 

「あぁ、俺はまだ良いとして、お前がオルコットの小間使いなんてやってしまったら千冬姉がやべぇ……」

 

「あの理不尽魔王に比べたら、オルコットさんの方が絶対有情な気がするんだがね」

 

 

 生徒も教師も三十路過ぎなら天国だった。

 そんな事を密かに考えながらも一誠は一夏と明日の試合は死ぬまで足掻いてやると誓い合う様に、互いの拳を合わせた。

 

 

 

 

 結局は根性論のゴリ押しで何とかしようという意気で迎えてしまった試合当日。

 始まりはたかがクラス委員を決めるだけの話だったのに、随分と話が大きくなってしまったものだと、今更ながらに思いながら、一誠と一夏は同行してくれた箒と試合会場の控え室に来ていた。

 

 

「俺思ったんだけどな箒?」

 

「なんだ?」

 

「……剣道しかしないでISの事は何一つ勉強してないよな?」

 

「そう……だったかな?」

 

 

 結局一夏な剣道ばかりでISについては何一つ教えて貰ってなかったらしい。

 言われて初めて気付いたのか、目を逸らした箒に一夏は大きなため息を吐いた。

 

 

「目を逸らすなって。

はぁ、言えなかった俺も悪かったし、今更騒いでも仕方ないからアドリブで何とかするわ。

少なくとも運動不足なのは解消されたし」

 

「そ、そうか……」

 

 

 与えられる専用機待ち状態で、そろそろ緊張感を増す控え室にて一夏は仕方ないという気持ちで箒に怒る事はしなかった。

 元々自分達が無理を言って付き合わせたのだ、感謝こそすれど文句を言うのはお門違いだし、体力作りとてISの基礎なのは間違いないのだ。

 

 

「一誠は千冬姉に基礎だけは叩き込まれたらしいから、多分勝てないにしろ食らい付けるとは思うが……」

 

「だが一誠は『付け焼き刃程度だからあっさり負けるかもね』と言っていたぞ?」

 

「アイツって身体を動かす事に関しては天才的なアドリブ力を持ってるからな……」

 

 

 そう言いながら少し離れた箇所で携帯を弄ってた一誠を箒と共に見る一夏。

 恐らく千冬達の目を盗んでヴェネラナにメールでもしているのだろう。

 未知の体験を前に緊張感の無い奴に見えるが、逆にその緊張感の無さがあるからこそ妙に頼もしさを感じて自分も緊張がほぐれる。

 

 

「兵藤、時間だ」

 

「おいっす」

 

 

 そうしている内に、まだ届いてない一夏とは違って『昨晩』に届いたらしい一誠から試合が始まる。

 

 千冬に呼び出され、首の関節をゴキリと鳴らした一誠は右腕にある待機状態らしい専用機を身に付けた状態で一夏と箒にサムズアップをする。

 

 

「それなりに頑張ってくるぜ。だから俺の試合を介して相手の動きくらいは解析しとけよ?」

 

「おう」

 

「が、頑張れよ?」

 

 

 一夏と箒もそんな一誠を送り出し、試合場所へと続く通路を千冬と共に歩く。

 

 

「期待はしていない。

だが、昨晩の時点で使い方ぐらいは覚えているだろう?」

 

「散々アンタと束さんに教え込まれましたからね。

自信はあんま無いが、精々足掻いてみせます」

 

「それで良い。

まあ、もし勝てれば褒美のひとつくらいはくれてやる。だから……行ってこい」

 

 

 ポンと背中を叩かれながら送り出す千冬に、一誠は小さく笑う。

 

 

「承知……!」

 

 

 駆け出し、戦いの場へと赴く。

 何故か、どうしてかは分からないが、未知の領域を前にしているというのに、一誠はとてもわくわくしていた。

 

 

 

 

 

 試合の場は一言で言うならドーム球場ばりに広い空間であり、降り立った一誠は上空で待機していたセシリア・オルコットの姿を捉えた。

 

 

「逃げずに来ましたのね、関心ですわ……と、言いたいところですが、まさかISを展開すらさせられないまま来たと言うつもりはございませんよね?」

 

 

 生でIS――それも専用機を見るのは初めてである一誠はセシリアの扱うISのフォルムを観察する。

 そして昨晩千冬と――わざわざ送ってくれば良いのに直接渡して説明までした束の言っていた通り、自分の与えられたISは、ISであってISではない事を改めて実感する。

 

 

「展開はするさ。多分驚くと思うけど」

 

 

 一夏の精神的不可を少しでも解消させる為に無理矢理通わされてしまったこの学園。

 そして一生自分には関係の無い存在だと思っていたIS。

 

 そしていきなりのバトル。

 

 千冬に裏口入学させられて以降、色々と展開が怒濤な気がしてならない一誠は、多分見たら怒るだろうなぁ……とセシリアの目付きから感じとりながら、右腕に待機させていたISを展開させる。

 

 

「はい、準備完了」

 

「………………」

 

「光栄に思うが良い、俺の究極の変身を見られるのは、キミが最初で最後さ! さぁ、始めようかぁ!」

 

「…………………………………」

 

 

 右腕全体……肩まで覆われた赤い鎧籠手の様な装甲ひとつ。

 ただそれだけを出現させた一誠は、唖然とするセシリアに向かって某宇宙の帝王の兄ちゃんみたいな台詞を宣ってやる気満々だ。

 

 

「私を相手に部分展開だけで戦うつもりですの?」

 

 

 セシリアはまず先程よりも明らかに低い声でそう尋ねた。

 ド素人で言動から態度からふざけてるのはよーくわかっていたつもりだが、ここまで来られるとふざけてるというよりは愚弄されてる気にしかなれない。

 

 だが一誠は苦笑いしながら言う。

 

 

「いんや、俺が貰ったこのISはこれが完全展開らしい。

大丈夫、全然ふざけてないから試合やろーぜ?」

 

 

 そう言って構える一誠が空へと飛び立つ気配はない。

 当たり前だ、何せスラスターに相当する装甲すら無く、殆ど生身なのだから。

 

 

「……………………」

 

 

 もう良いや。

 セシリアの気持ちはただその一点に集約されていくと、自身の武装であるロングビームライフル的なものを構え、照準をぴったり合わせて口を開いた。

 

 

「来世まで反省してください、永久にさようなら」

 

 

 織斑一夏はまだマシだと断定し、このふざけ男をまず消す。

 セシリアは自身でも驚く程冷徹な心でその引き金を引くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 専用機とは言い得て妙だ。

 確かにあの機体とも言えぬ代物は一誠専用だ……。

 モニターに映るセシリアとの試合を見ながら千冬は心の中で昨晩の束の言葉を思い返していた。

 

 

「な、なんだよあのIS? というかアレはISなのか?」

 

「空を飛ぶスラスターも無い。

武装すら無いなんて……」

 

「あ、あの織斑先生? ひょっとしてあの機体は未完成のまま送られて来たのでは?」

 

 

 弟の一夏、束の妹である箒、そして千冬の補佐をしてくれる副担任の山田真耶は、セシリアの放つ銃撃の雨から全力で逃げ回る一誠の右腕部分のみ展開されてるISとも呼べぬものを見て、困惑している。

 

 

「いや、開発者曰く、アレが機体としては完成品らしい」

 

「でも飛べないですよ?」

 

「これまでのISのコンセプトを破棄し、全く違うコンセプトで組み上げたものだと言っていた」

 

「違うコンセプト?」

 

「ああ、ひとつは余計な武装や装甲を破棄し、使用者の身体能力と反応速度に100%対応できる」

 

 

 心配すらし始めてる三人に千冬は昨晩束から教えられた、一誠の専用機を説明する。

 

 

「簡単に言えばあの機体の性能は兵藤の能力そのものだ。

兵藤の能力が低ければあの機体の性能も同等なものになる。

逆にアイツの性能が高ければ……」

 

 

 千冬がモニターに映された一誠のビームを前に、避けるのを止めて構える姿を見る。

 

 

『しゃあ! ビーム返しパンチ!』

 

 

 装甲のある右腕でセシリアの狙撃のビームを殴り飛ばしている。

 

 

「な、殴って弾いたのか?」

 

「なんて無茶な……」

 

「アイツはそういうタイプだろ。

逃げるよりは玉砕覚悟で前へと進む……アイツの性格をよーく把握しているよ束は」

 

「けど流石に今のでシールド残量が減ってますね……」

 

 

 微妙な顔をしていた千冬に真耶が一誠の機体のエネルギー残量が減った事を報告する。

 対してセシリアの機体は未だ無傷なので、このままじり貧が続けば結果的に負けるのは一誠だ。

 

 

「……。いやまだだ」

 

 

 だが千冬はそんな状況でもまだ一誠が負けると決めるのは早いと断定する。

 そしてその答えは一誠の右腕の装甲が淡く紅く輝きを放つ事で証明されていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビットを使うまでもない雑魚だ。

 セシリアは落胆を通り越して、さっさとやられないで足掻こうとする一誠に苛立ちを募らせていく。

 

 

「いい加減諦めて直撃なさったらどうなのですか? そんな欠陥品を掴まされた以上、ここに居る私に届きすらしませんわよ?」

 

「小間使いは嫌なんでね……悪いがもう少し付き合ってくれ」

 

 

 醜い。

 勝てもしないのがわかりきっているのに無駄な事をしようとするセシリアは一誠を醜いと断じた。

 

 それなりに加減してやろうと思っていたが、ここまで醜い様を見せられては最早加減する意味も無くなった。

 セシリアは今まで蓄積させてまとめた一誠の動きの予測のデータを元に、予測撃ちをして直撃させる事にし、その照準を合わせる。

 

 

「医務室のベッドで精々後悔なさい!」

 

 

 一夏との試合もあるし、モタモタしてやる必要は無い。

 その思いと共に撃った一撃はぴったりと予測通りに避けた先へに立つ一誠へと吸い込まれ―――。

 

 

 

「やっと起きたか」

 

『Boost!』

 

 

 淡く紅く目映い輝きを放つ右腕によって消し飛ばされた。

 

 

「な……!」

 

 

 弾き飛ばしたのではなく、文字通り『消滅』させた。

 明らかにさっきとは違う状況に、間違いなく当たると思っていたセシリアは驚愕する。

 

 

「何をしましたの?」

 

 

 当然尋ねる。

 それに対して馬鹿正直に答えてくれるとは思っていなかったけど、一誠はその馬鹿正直なタイプだったのか、普通に答え始めた。

 

 

「これが俺のISの能力……らしい。

エネルギーによる消滅と――」

 

『Boost!』

 

「パワーの倍加」

 

 

 会場の地面が抉れ、一誠の全身から燃える様な赤いエネルギーの奔流が放出される。

 

 

「な、何ですのアレは? アレがIS……?」

 

 

 エネルギーそのものを使用者に与えるISなぞ聞いたことが無いセシリアは一気に未知の敵と化した一誠にどう手を出すべきが判断を鈍らせた。

 幸い一誠は飛べないので攻撃される心配は無いから考える時間はある……と思っていたのだが――

 

 

『Boost!』

 

「俺のISは飛べない。

けど跳ぶ事はできると束さんは言った――つまりはこういう事だぜ」

 

 

 セシリアの目の前に一誠が居た。

 センサーが捉えて搭乗者に警告するよりも素早く。

 そしてハッと我に返る暇も無くセシリアは……。

 

 

「うぐぅ!?」

 

「鈍い一撃が腹部へと絶対防御越しに伝わり、くの字に折れながら吹き飛んだ。

 

 

「アレが兵藤のISの能力。エネルギーによる物理的な消滅と使用者への力の倍加だ」

 

「す、すげー……空気の壁を蹴りながら空飛んでる……」

 

「まるでアクション映画みたいですね……」

 

 

 漸く一撃を見舞い、焦ったセシリアが体勢を立て直して迎撃しようとする様をモニターで観戦する一夏と箒は、ISらしくない戦い方となる一誠を見て素直にそう呟いていた。

 

 

「使用者の身体能力が反映される機体という意味ではあの機体はISとしては間違いなく欠陥品だ。

しかし兵藤だからこそあの機体でなければならん。アイツは普通のISを操るセンスがまるで無かったからな」

 

「え、そうなんですか?」

 

「恐らくはお前よりどうしようもない。

故にアイツの専用機は余計な機能を捨て、己の身ひとつで戦う機体へとなった」

 

「武装すら無い理由はそういう事だったのですか……」

 

「まあ、消滅と倍加機能に容量を食わせてしまって他の機能が組めなかったというのが理由らしいが――――んっ!?」

 

 

 更に倍加をかけ、最早生身でISの速度以上の速力で翻弄し始めてる姿を見ていた千冬が何かに気付く。

 

 

「……山田先生、今すぐ試合を中止させてください」

 

「え? な、なぜですか? まだどちらのエネルギー残量は残ってますが……」

 

「そうですよ先生? もしかしたら一誠が勝つかも知れないのに――」

 

「良いから止めろ!! クソ、どうして突然なんだ……!」

 

 

 少し焦った表情すら見せる千冬に、真耶も一夏も箒も圧されてしまった。

 一体何故中止させるのか……? それはモニターに映る一誠の目付きが、試合開始直後まであった快活なそれとは真逆の、どこまでも冷たい無機質なものへと変貌している事に理由があった。

 

 

 

 喧嘩でもなんでも、戦う事に関して昔から血が騒ぐ。

 それが何故なのはわからないし、喧嘩してる時の高揚感はとても気分が良いので特に考えもしない。

 

 そう、考えている内に意識が消えて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「くっ、お、思っていたよりはやりますわね。

ですが種さえわかれば対処などいくらでもありますわ!」

 

 

 機体の性能に面を食らってしまい、少しの間防戦強いられてしまったセシリアだが、既にその対処の方法にたどり着いた。

 要するに接近戦しかできないのだから、一切近づかせなければ良い。

 

 

(あの倍加の能力は、一定の領域まで倍加してしまうとリセットがかかるのは観察してわかりましたわ。

五度の倍加で一度零へと戻る――そこを狙えば……!)

 

「…………………」

 

『Boost!』

 

(っ!? 五度目! 倍加される時間は約三十秒! この三十秒を耐えれば!)

 

 

 倍加されている時間も把握した。

 後はその時間内を耐えて、零へと戻りさえすればと、セシリアはそういえば突然喋らなくなった一誠の猛攻をビット等を操作して避けながらカウントをしていく。

 

 

(五秒前……! 四……! 三……! 二……! 一……!)

 

「………」

 

『Reformation』

 

 

 ビットを飛び越え、眼前へと迫る一誠の右腕から倍加リセットの音声が流れ、一気に身体を覆っていたエネルギーが消え、その速度も落ちる。

 

 

「今ですわ!!」

 

 

 この瞬間をセシリアは見逃さず、構えていたライフルをほぼ零距離で直撃させた。

 

 

「…………」

 

 

 為す術も無く煙をあげながら墜落していく一誠は地面に衝突し、大の字に倒れた。

 

 

「ふぅ……私としたことが少しムキになってしまいましたわ」

 

 

 試合終了のアナウンスが流れない辺り、まだ相手のエネルギーの残量は僅かに残ってはいるのだろうが、気絶したのだろうしこれで勝利は揺るがない――そう確信したセシリアは大きく深呼吸して一息吐いていると――

 

 

「……………………………」

 

「え…………」

 

 

 ムクリと、不気味に一誠は普通に起き上がった。

 その不気味な動きに一瞬セシリアはゾッとしたが、絶対防御に助けられたのかと考察することで心を落ち着かせる。

 

 

「まだ起き上がりますの? アナタの動きは見切りましたわ、これ以上やっても無駄ですし、一応私をそれなりに本気にさせた事は認めて差し上げますから降参を――」

 

 

 ゆっくりと立ち上がる一誠に、セシリアなりの言葉を送る。

 だが一誠は無言のまま辺りを見渡す……。

 

 

「チッ……なんだこれは?」

 

 

 自分の様を確認し、忌々しげな顔で舌打ちをする。

 

 

「小娘一匹になんてザマだ……」

 

 

 目だった外傷はないが、セシリアにしてやられてる己を恥じ入りてる一誠は、暗い瞳でセシリアを見上げると……。

 

 

「………………………………」

 

「っ!?」

 

 

 音も無く、先程までが茶番だったとばかりの速度でセシリアの眼前へと肉薄した。

 

 

「がっ!?」

 

「俺の質問に答えろ小娘」

 

 

 そしてそのまま腕を伸ばしてセシリアの首を掴み、締め上げる。

 

 

「が……ぎぃ……!?」

 

 

 ゾッとするような無機質な表情。

 今さっきまでの一誠とは別人の様な冷たい雰囲気もさることながら、締め上げられて苦しさでもがくセシリアは酸素を求めて涙を流す。

 

 

「セラフォルーはどこだ?」

 

「な、なにを……言って……! ぐ、ぐるしぃ……!」

 

 

 明らかに様子が変わってる一誠の言葉の意味がわかるわけもないセシリアは、ただただ苦しさにもがきわ一誠はこの『誰とも知らぬ』小娘が情報を持っていない事を知ると、そのまま放し、地へと降りる。

 

 

「………。冥界じゃないなここは? 人間界……? チッ、前後の記憶がハッキリしない。

そもそも俺は何でこんな場所に? そうだ……ヴェネラナのババァはどこだ?」

 

 

 少し離れた所で金髪の少女が苦しそうにむせながら降りて、謎の装甲を外してる姿が見えるが、そんなものはどうでも良いとばかりに周囲の状況を探るが、思い当たる節が無い。

 

 

「…………」

 

「げほっ……ごほっ……う、うぅ……」

 

 

 あの小娘ならこの場所がなんなのか位は答えられるか……。

 そう判断した一誠は、再び噎せているセシリアに近づこうとするが……。

 

 

「そこまでだ!」

 

 

 新たな人物の出現に、一誠の視線は黒髪の女性――つまり千冬へと向けられた。

 

 

「試合は中止にする。

お前のルール違反により反則負けだ」

 

「………。ルール違反? 何の事だ? いや、そんな事よりここはどこだ?」

 

「……! やはりあの時の……!」

 

 

 どうやらこの女は自分が何故ここに居るのか知っているらしい。

 ハッキリしない記憶の間に拉致でもしてきたのか、ふざけた連中の回し者か……どちらにせよ事情を聞けば分かると判断した一誠は、ゆっくりと、両指をパキパキと鳴らしながらセシリアを庇う様に立つ千冬に近づいていく。

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 

 向かい合う二人。

 一時的に過去の記憶と人格が蘇り、現在の記憶と人格が消えて、しかもその事すら記憶していない様子の一誠を見て、千冬は息を飲む。

 

 とても冷たく、他人を一切信じようとしない暗い目はかつて一度だけ束と共に見た時と同じだった。

 ヴェネラナ曰く、自分達の為に全てを捨てる前の全盛期の一誠。

 

 人格と記憶の蘇りにと平行して復活したその覇気と力は確かに人智を超越したものを感じて千冬も冷や汗が流れる。

 

 

「ここはどこだ……セラフォルーをどこへやった?」

 

「ここはIS学園だ。セラフォルーとやらは誰の事だかすらも知らん」

 

「………………」

 

 

 正直に答えたが、この拗らせた人格状態の一誠が信じる訳も無い。

 後ろでセシリアが困惑しているのもあるし、早期にこの場を乗り切らなければならないと判断する千冬とは裏腹に、一誠は殺意を放ちながらその腕を千冬の首元へと伸ばし――

 

 

「………ぐっ!? ぐぅぅっ!?」

 

 

 突然頭を抑えて苦しみ出した。

 

 

「が……ぐっ……!!」

 

「お、おい大丈夫か――」

 

「他人が俺に触るなァ!!」

 

「っ……!?」

 

「あ、あの織斑先生? これは一体……?」

 

 

 苦しむ一誠に思わず手を差し伸べようとしたが、血走った目を向けられ、その手を叩かれて拒絶されてしまった。

 あの時と同じ様に……。

 

 

「くそ……が…ぁ…!」

 

 

 フラフラとなんとか立ち上がった一誠は、手負いの獣のような形相で千冬を睨む。

 そしてそのまま……。

 

 

「……………………」

 

 

 意識を失い、目の前の千冬にもたれ掛かる様に倒れた。

 勿論その身体を受け止める千冬は取り敢えずこの場は乗り切れたとホッとしたが、意識を取り戻してもあの人格のままなのかと考えてしまうと、不安で仕方なかった。

 

 

「兵藤の持病だ。

お前達が心配する事じゃない……取り敢えず私はコイツを医務室に連れていく」

 

 

 そう告げて一誠を抱えて行ってしまう千冬。

 後に残された者達にしてみたら、一誠が謎だけを残したので一体全体なんだったのかと思うだけであった。

 

 

「ヴェネラナ先生に報告しないと……それと束にも。

もしこのまま元の人格のままだったら――」

 

「うぇへへ……! 人妻ハーレムばんじゃーい……!」

 

「……………。あ、戻ってるな。よかった……ってオイ!? う、後ろから何処を触ってる……!?」

 

「うへへ、ぽよんぽよんだぁ……!」

 

「ば、ばかっ! これは人妻のじゃなくて私の……! お、起きたら覚えてろよ……ぁ……!」

 

 試合。

 反則負け。

 

 

「すぴー……」

 

「ま、まったく……! こんな事をしておきながら呑気に寝るなんてな……! そもそもセラフォルーって誰だ? ま、まさかヴェネラナ先生の言う悪魔の女の事か? 何故か腹が立ってきたぞ……」

 

 

終了

 




補足

夢に出るくらい魔王少女さんが……。

なんてメインヒロイン(笑)だ……。


ちなみに、記憶の無い一誠的に彼女は結構アリらしい。

それはきっと元の人格でもかなり大事な位置にあったからなのかも……。


その2
人格と記憶が戻ると一気にヤバイ事になる。

しかも失う直前なもんだから余計気が立ってるという。


その3
戻って開口一番がセラフォルーさんについてとか、どんだけ好きなんだこのツンデレめ!


……多分ご本人が聞いていたら嬉しくて普通に女の子になるんじゃないかな?


その4
しかーし、ぽよんぽよんしてしまったので変な事になったぞ! 千冬様のをな!

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