もしも……だったら。
ベリーゼロモード
奇妙で、楽では無かった。
全てを奪い取られた事もあったけど、奪われて無となった先に出会えた人が居たからこそ、私は胸を張って幸せな生涯だったと宣言出きる。
生まれ変わっても一緒に居よう……。心の底から誓い合えた大好きな人との約束を胸に私はその生涯を閉じた――筈だった。
死ねば無へと還る。
世界その物に反逆し、そして勝ち取った私達の行き着く先はきっとろくでもないものだという呪詛の言葉を受けていたからてっきりそんなものだと思っていたのだけど、どうやら少し勝手が違うものだったみたい。
私は私として再びこの世に生を受けていた。
同じ名前、同じ容姿……そしてかつて奪い取られる前の立ち位置として。
父と母はまとも。
兄と子を見捨てた義姉もまだまとも。
そしてなにより全てを一度は失う理由となったあの男が存在していない。
それはつまり、何事もない平和な世界―――かと言われたら別にそうでは無く。
私の知る限りでは兄弟は兄一人の筈だったのに、この世界はどうやらもう一人の兄弟が居るらしい。
私にとっての双子の弟……そう、弟。
その時点で私からしたら嫌な予感しかしなかったし、案の定その弟らしき男は労せずなんでもこなせる天才児として有名になっていた。
で、これまた案の定、色々と隠しながらひっそりやっていた私は比較されて見下される側になっていた。
正直、それだけであるなら別にどうだって良かった。
私が無能であろうが、ゴミであろうが、私は彼とさえ再会できてまた一緒になれたら名も光も要らないと思っていたのだから。
でもその弟は私がかつて眷属にし、そして私を見捨てた者達をどこからともなく連れてきて次々と眷属にしたのだ。
結果私は政略結婚の道具と成り果てた。
……………まあ、私を見るその弟の目が蔑んだものの目だから、わかりきった話ではあったけど。
こうなれば未来なんて簡単に予測できてしまう。
どこぞの純血と結婚させられて産む機械にされて終わり。
夢も希望もありはしない…………。
だけど残念だったわね。
私はかつての様に奪われて終わるだけの女では無い。
彼に――どれだけ傷を負っても私と共に居てくれたあの子と共に私は強くなったし、その力と勘はちゃんとある。
抗わせて貰う。
全力で、しっかりと、自分の意志を押し通させて貰う。
何故生まれ直したのかなんてどうでも良い。
私はずっと昔から心に決めている人が居るのだから。
だから会いに行こう。
私の勘はよく当たる。
私が私であるということはきっと彼もまた彼なんだと。
ほんの少しの不安はあったけど、会いに行けの全ては満たされた。
ご両親が殺される事無く平和に生きていた彼と向かい合ったその瞬間に、私達は本当の意味で再会したのだから。
「ただいま……イッセー」
「おかえり、リアスちゃん」
ほんの少し生まれた事情が違っていたとしても、その魂は紛れもない彼……。
その時点でどんな事情だろうと関係なんてないわ。
生まれ変わっても一緒。
その約束が今果たされたのだから……。
グレモリー家の凡婦。
生まれ直しとなったリアス・グレモリーはかつては存在しなかった双子の弟と魔王をやってる兄との板挟みみたいな感覚でそう揶揄されていた。
だが彼女はそんな凡百達の声など気にも留めず、またかつて自分を裏切って転生した男に走り、今は双子の弟の眷属となる者達とも関わることなく、死ぬまで共にあった青年との再会を果たしていた。
「俺の両親が殺される事もなかったんだけど、どうも昔と色々と勝手が違うみたい」
「というと?」
「まずこの世界の親父がべらぼうに強い。
えーっとね、なんでも親父の家系には伝説の赤き鬼武者の血が通ってるだとかなんだとか」
「伝説の赤き鬼武者? 私達が居た昔の世界にそんな者は……」
「居なかったね。
どうやら前と今の世界は色々と微妙な差異があるみたい。
リアスちゃんの双子の弟とやらもそうだろ?」
「そうね……」
再会はわりとアッサリしていたけど、一度認識すれば最早離れる事は無い。
リアス・グレモリーと兵藤一誠。
悪魔と人間のペアの繋がりはとても強いのだ。
それが例えお互いに少々ながらの違いがあったとしてもだ。
「だから例え話、やつみたいなのが襲撃しても親父一人で返り討ちにしてたかもな」
「そうなの。
でも、そんな方の子って事は一誠も……」
「あぁ、俺は鬼の一族と人間のハーフ――なんだけど、どうやら俺はその伝説さんの先祖返りみたいらしくてな、相当強い力を持ってる……らしい。
あ、勿論ドライグも宿してるぜ?」
まず一誠はかつての世界には存在しなかった鬼の武者の血をひそかに受け継ぐ存在である事。
左腕に赤龍帝の籠手、右腕に鬼の籠手なる相手の魂を吸い取って己の糧にする鬼の力を宿していた。
「ドライグの籠手と違って、この鬼の籠手というのは生物感が強いわね。
寄生してるみたいというか……あ、目みたいな部分が瞬きしてる……」
「この目みたいな部分に珠をはめると、武器が出てくるらしいんだって。
俺のご先祖様の鬼武者さんはそうやって戦ってたんだとよ」
「ふーん?」
『今の一誠はその一族の習わしで剣術もある程度覚えがある。
もっとも、俺の方が使い勝手が良いみたいだがな』
人間の中へと解けていき、今では殆ど存在しない一族の末裔が今の一誠らしい。
それを聞いてもリアスは一誠には変わりなかったので特に気にすることはない。
寧ろ驚いたのはその後の話だったのだから。
「匙って覚えてるか? あのソーナ・シトリーの兵士だった……」
「少しだけなら。
……いつの間にか居なくなってたから、多分殺されてしまったんだと思ってた彼のことね?」
「そう。
どうやらその匙もまた一族の者らしいんだ。
それも……えーっと、最強最悪の黒き鬼武者――破壊神とまで言われた鬼武者の先祖返りとして」
「それは―――この世界のソーナは眷属にはできないわね」
いつの間にかソーナの兵士としての全てを抹消されていた一誠と同い年の男子が、この世界ではやばい潜在能力を秘めすぎた存在であると聞いたリアスは、既に双子の弟に骨抜きされて色々と終わってるだろうソーナでは眷属には無理だと苦笑いする。
「それだけじゃなくて、どうやら俺とリアスちゃんとはまた違う過去の平行世界の記憶を持ってるみたいなんだ」
「………少し興味あるわね」
「だろ? んでよ、一族同士って事で割りと繋がりがあるから今度久々に会うんだけど、リアスちゃんも会ってみるか?」
「え、良いの? その……私部外者よ?」
「あぁ、そんな難しい事じゃないし、親戚達が会って酒飲んで駄弁るだけのアレみたいなもんだから大丈夫だぜ」
親戚みたいな繋がりは一応一族の中ではあって、時折集まってはどんちゃん騒ぎをするという話を聞き、リアスは出席してみることにした。
実は悪魔達にとって鬼の一族は天敵どころか、一度古代の時代に絶滅寸前まで追い込まれ、恐怖の対象にされてるとは、悪魔の歴史内でも抹消された事なので知らないリアス。
まあ、鬼の一族にしてみれば、いきなり自分達の領域に我が物顔で侵入して好き勝手したから、駆除しただけの話なのだが……。
とにかく地方の温泉宿を貸しきった一族同士のプチ会合の日に同席したリアスは、いつの間にか消されていた匙元士郎という少年と会った。
「初めまして……なのか? 俺は匙元士郎、アンタの事は過去の記憶と一誠からうざいくらいののろけ話で知ってる」
強い覇気を纏った姿にリアスは良い意味で裏切られた。
なるほど、これはどう逆立ちしてもソーナは眷属にできないわ……と。
「二人が知ってる世界じゃ俺はそのソーナ・シトリーの眷属になって、いつの間にか消されていたらしいが、俺はなる気なんてねーぞ」
「いや、どう逆立ちしてもこの世界のソーナではアナタを眷属にはできないと思うわ。
それに会う気も無いんでしょう?」
「まーね。一誠から聞いてる限りだとろくな目にあわされてないみたいだし。
それに俺は相棒を探す目標があるからな」
「? 相棒……?」
「俺や元士郎みたいな一族の先祖返りをした一族を探してるんだとよ。
なんでもこいつのご先祖様はあの柳生十兵衛宗厳の孫娘と一緒に戦ってたとか」
「いや、一誠のご先祖様とも戦ったらしいぜ?」
「へぇ……」
彼には彼の目的があるらしく、どうやらソーナの眷属になって抹消される心配はないらしい。
こうしてこの世界における一誠と元士郎の違いを飲み込んでいくリアス。
「あー、そういえば前に曹操の子孫を名乗るやつに勧誘されたっけ?」
「あったな、結城秀康と明智秀満の子孫だからどうたらこうたらって」
「……。それ確かテロ組織の英雄派だとかに居たんじゃなかったかしら……」
「まあ、普通に断ったけどな。
子孫言われてもピンとこないし」
「鬼の力を解放した姿を見せたらドン引きされたし」
リアス・グレモリー
正心翔銘
備考・自由を勝ち取れた悪魔の少女。
兵藤一誠
赤龍帝
無神臓
伝説の赤き鬼武者……の後任者
備考・鬼と龍を兼ね備えて無敵に見えるリアスバカな少年。
匙元士郎
黒い龍脈
最強最悪の黒き鬼武者……の後任者。
備考・黒き破壊神にて、絆パワーで創造神をぶちのめした灰塵の蒼鬼の生まれ変わり。
「あ、俺リアスちゃんの眷属になるからな。
父さんも母さんもOK出したし」
「じゃあ俺もなるわ」
「え……? 一誠はわかるけど匙君がなるのは……」
「妙な勧誘避けも兼ねてですよ先輩。
大丈夫っす、これでもそれなりに修羅場は潜ってます」
Secret……既に自由はゲット。
人知れず化け物を眷属にしてしまったリアス。
悪魔を絶滅寸前まで追い込んだ鬼の一族の末裔と知って大騒ぎになるのだが、リアスはその全てを突っぱね、密かにしていた己の力も解放する。
「へぇ、アレがリアスちゃんの弟ね……」
「サーゼクス様にちょっと似てますね」
「まぁね」
それにより色々と疑いのある弟を知ったり。
「で、彼はリアスちゃんの眷属だった連中を眷属にと……おやおや? 確かはぐれ悪魔だった姉まで眷属にしてるじゃあないか」
なんかもうリーチだったり。
「レーティングゲームでフルボッコにしてやったら、何故か俺達が責められてる件」
「拍子抜けするくらい弱すぎたんだが……。
おかしいな、俺の前世でもああも弱くはなかったぜ?」
「多分私達が逆に強すぎてるからよ……」
ツモって白い目で何故かみられたり。
「アオニィ! アオニィだろアンタ!?」
「どわっ!? な、なんだお前!?」
「オレだよ! 茜! ちょっとヒョロヒョロになっちまってるけど、絶対アオニィだ!」
「………。ひょっとしてあの子が?」
「意外と……なんか、女の子だったな」
冗談半分がまさかの子孫と――それも先祖返りどころか記憶持ちと出会したり。
「幻魔はいなくなっちまったし、何故かオレはちゃんと覚えてるしでさー。
ほらみろよ、ちゃんと目も持ってるんだぜ?」
「鬼ノ眼か……一族でも稀に発現するって聞いてただけに初めて見たな」
「で、アンタは天海の生まれ変わりか? そっちは……誰?」
「あ、えっと、リアス・グレモリーよ。種族は悪魔……」
「悪魔? あ、それくらいなら知ってるぞ。
幻魔に似てるけどそんな似てない奴等だろ?」
どこに行こうにも後ろをついて回る十兵衛ちゃんにちょっとうんざりし始めてる元士郎。
「お、おい、言っとくが俺は結城秀康の生まれ変わりであって、秀康自身じゃない。
だから――」
「そんなのは知ってる。
だって最後アオニィはオレの前で逝ったんだからな……! でもそんなの関係ない! そもそも顔もなにも違うけど髪の色なんかは似てるし、匂いなんかも同じだ! もうぜってー離れてやんねーぞ!」
「……。ま、良かったじゃん。
相棒と会えてさ」
「想像してたのと違い過ぎて……」
現代版の柳生制剛流抜刀術免許皆伝で現代人とは思えぬ居合いの達人な少女に四苦八苦しながらも、取り敢えず孤児だったみたいなので保護することにした。
「やったぜ! 見てるかアオニィ! ソーナ・シトリー達との試合にオレ一人で勝った! 褒めてよ!」
「お、おう……」
「スゲーなあの子……」
「居合いの達人なだけあるわ。
ソーナ達が泡吹いて気絶してる……」
お陰でまたしても変な増強フラグが立ち。
「よっしゃ元士郎! 久々に解放しようぜ!」
「ああ、ぶった斬る!」
「「鬼武者変身!!!」」
伝説の赤き鬼武者と最強最悪の黒き鬼武者は現代に復活する。
「おおっ! アオニィの鬼だ! やっぱアオニィだよなぁ……へへっ!」
「えーっと、聞いて良いかしら? アカネは匙くんが……」
「? 好きだぜ? アオニィじゃないかもしれないけど、オレは好きだ。
ま、まあ……恥ずかしいから言えねーけど」
「そう……うん、良いと思うわよ私は」
鬼と悪魔……始まらない。
「で、リアスちゃんの弟はどうするよ? どうもできねーと思うが」
「完全に向こう側から恐怖の対象にされてるし、問題はないと思いたいけど……」
「? そーいやオレいきなり口説かれたぜ?」
「はぁ!? お前それマジか!? な、なんて返したんだよ!?」
「別に、え、えっと、す、好きなやつが居るから無理って……」
「好きなやつ!? お前に!? だ、誰だよ!?」
「そ! そりゃ決まってるだろ……気づけよ鈍感……」
終わり
補足
鬼武者としてはパラメーター的に全部レベル1です。
元ネタの金城――ではなく、左馬介様の手にした武具というか珠も封印状態で代々保管されてはいるらしい。
今のところ雷斬刀レベル1しか使えないみたいだけど。
その2
黒き破壊神様の方も同様にレベル1です。
その3
今思う。
鬼武者シリーズにしては、オレっ娘キャラは攻めてるなぁと……。
しかもエンディングで眼帯属性追加ですからねぇ。