教会から派遣された悪魔祓いとかシスターとの会合祓い終わった。
正直、三人程名前があやふやで――正直になりましょう……まったく覚えちゃいませんが、その人達から言われた事だけはちゃんと把握しているので問題はありません。
要するに私達は何時も通りにしていれば良いという、それだけの事なのですから。
イザイヤ先輩……じゃなくて祐斗先輩に色々と聞いてきたゼノヴィアなる方の事は気になりますけども、私のやるべき事は何時だって決まっているのです。
「せんぱーい! イッセーせんぱーい!!」
そう……私の先輩と今日も遊んであげるという日常を。
「……………………」
「お疲れ様ッス先輩!」
兵藤イッセー先輩。
年齢的にも、悪魔眷属的にも先輩であるこの人は学校に通い始めて半年でボッチになっていた。
その理由はどうやら私や部長や副部長にあるみたいで、簡単な話妬まれてるというアホ程どうでも良い理由でハブられてしまっていて、今も周りが授業から解放されたとばかりにベラベラとくっちゃべり合っているのに、先輩は誰にも話し掛ける事もなく、そして話しかけられることもなく一人教室を出て廊下を歩いている。
だから私は後輩として毎日先輩のお迎えに行き――
「無視するなんて酷いッス先輩! 今朝まであれだけ愛し合ったのに!」
後ろから飛び付きながら後輩らしく先輩に絡む。
飛び付いた瞬間、それまで先輩なんか見えてないみたいにベラベラとやってた、私にしてみればそこら辺に落ちてる単なる空き缶みたいな連中がこぞって先輩にしょぼすぎて鼻で笑いたくなるちっさい殺気を向けてくる――のと同時に私は文字通りの猫みたいに首根っこを先輩に掴まれて持ち上げられていた。
「デカイ声で根も葉も無いことを言うなと、俺もう100回は言ったよなぁ……?」
「うげぇ!? い、痛いッス! ヘッドバットは勘弁ッス~!」
そしてガッツンガッツンと何度もヘッドバットをされてしまった。
先輩はこの前部長の婚約破棄を賭けてバトルしたライザー・フェニックスばりに女性に目が無いのに、その女性の趣味がとても片寄ってしまっているせいで、対象外に位置する私に対して結構容赦がない。
いえ、普段は優しい先輩なのですけど、好きであることを素直に告げると何時もこうしてくる。
「嘘じゃないじゃないっすか!」
「言い方を選んでくれないかな!? 毎度毎度要らん妬みを買いまくって嫌なんだよ!」
「そんなの無視しましょうよ! どうせそこら辺の空き缶でしかないんですから!」
「お前はもっとイメージを大事にしろや!」
最近だとお尻ペンペンをされたし……。
まあ、最初は痛かったけど段々途中で気持ちよく―――って
この話はどうでも良いですね。
とにかく今は先輩と今日は何して遊ぶかです。
幸い部活は今日はお休みで、何時もより時間も余ってますからね……ふふふ。
「ご飯連れてってくださいよ~?」
「お前連れてったら財布が一瞬で空になるから嫌だ」
「良いじゃないっすか~? お代は私の身体で払いますしー?」
「そうやって自分を安売りする女は嫌いだぜ。それに部活が無いとはいえ俺は別に暇じゃねぇ」
「暇じゃねぇってどういう事っすか?」
「昨日イザイヤに質問責めしてた悪魔祓いが一人居たろ? あの後イザイヤの様子が変だからよ、ちょっと散歩するんだ町中を」
「あ、ふーん? ……ふふっ、じゃあしょうがないッスね! そのお散歩、私もお供するっす!」
「…………。イザイヤには内緒だかんな?」
「当然わかってますよ~? 奢ってくれたらですけどねっ!」
ほら、だから大好きなんですよ先輩?
フリードという男の事について聞かれてから祐斗の様子が変というのを見て察したイッセーは、こっそりと質問をしてきたゼノヴィアという者を調査しようと町中をついてくる後輩を連れながらフラフラしていた。
「居ないっすね昨日の悪魔祓い達。
本当に任務ってやつをしてるんすかね?」
「してなきゃ問題だろ」
「あれだけ偉そうに干渉するなって啖呵きってきたからには、さっさと終わらせて欲しいもんですよ」
フリードというはぐれの悪魔祓いとは過去に一度だけ顔を合わせた事があったからこそ、少し気になって独自に調査をする事にしたイッセー。
勿論聖剣云々の事には触れないし、興味も無い……………という訳では、祐斗の過去の事もあるので断言はできないが、天界側から不干渉を提示されている以上はしない。
あくまでフラフラ町を歩いてたら、偶然ゼノヴィアとその他を見つけてしまって何かしてる所を目撃してしまった――という体を作るだけなのだが、肝心のゼノヴィアとその他の姿がどこに行っても見つけられない。
「先輩先輩! たこ焼き屋さんっす! シェアしながら食べましょう!」
「分かったから手を引っ張るなって………あ、たこ焼きひとつ」
本当にちゃんと任務とやらをしてるのかが若干不安になってしまうくらい見つからないまま、ウザい後輩化してる白音にねだられてしまうがままにたこ焼きを買うのであった。
と、イッセーにしては人妻バカモードにならない真面目君状態を維持してる訳だが、今回はそんな彼をピックアップした話ではない。
あきらかにシェアどころか八割は白音のちいさなお口に吸い込まれたたこ焼きをひとつ納得いかない気分で食べてるイッセー……………………が居る箇所から約十数メートル程離れた木陰からコソコソと覗き見してる誰かさんのお話に切りわかるのだ。
「た、たこ焼き食べてる……」
そう、自意識過剰がちょっと強めの黒い猫で、イッセーが金出して買ったたこ焼きの殆どをニコニコしながら食らってる白音の姉こと黒歌のお話だ。
「あ、今度はたい焼き食べてる……」
彼女は、とある過去により現在ははぐれ悪魔となっていて、妹の白音とはかれこれ結構な時間離れ離れとなっていた。
そんな彼女が何故危険が伴う覗きをしているかといえば、勿論妹の心配というのもあるのだが………。
「なんで告白してこないのかしら?」
何より彼女は告白待ちをしていた。
相手はそう……今妹にたい焼きをムシャムシャ食べられてしまってため息を洩らしているそこら辺に居そうな兄ちゃんことイッセーに対して、彼女は何故だがそんな事を思うのだ。
「マジで見当たらないぞオイ」
「逆の意味で不安になってきたッスね」
「もしくは既に消されたとか……」
「コカビエルにッスか?」
「ありえなくもないだろ?」
客観的に自分を見て、容姿とスタイルに恵まれている事を自覚している黒歌は、イッセーがその内間違いなく自分に土下座しながら結婚してくれと言ってくる――――と、本気で思っている。
妹の白音の孤独を救った者の一人にて、白音に戦い方を教えた直接的な師でもある彼の事は確かに好意的な気持ちである。
が、だからといって自分からそれを伝えるのはプライドみたいなものが働いて嫌だし、女に対するアホさも知ってるので、やはり向こうか告白させたい………と、はぐれ悪魔でお尋ね者なのに色恋沙汰に悩む余裕さえ持ってしまっている黒歌は、白音となにやらくっちゃべりながらフラフラ町中を歩いているイッセーを物陰から覗きながら考える。
「黒歌姉様が居れば、探し物とかも楽なんすけどねー」
「黒歌……? あぁ、白音の姉ちゃんだっけ?」
「!?」
そんな折だったか。
白音が黒歌の事について話し、それを物陰から見ていた黒歌が動揺したのは。
「探し物が得意だったのか? 白音の姉ちゃんは?」
「探し物ってよりは、かくれんぼが得意なんすよ。
ほら、先輩がよくやってるステルスゲーの、バンダナ巻いた主人公みたいに」
「うそ、 スネークできるのか? あのねーちゃん?」
「本気出した姉様って誰にも気付かれる事なく背後に立って心臓とか握り潰せるッス」
「マジで? こえーな……」
イッセーと直接会った事があるのは一度であり、その時は一言二言な挨拶で終わったが、それ以来彼の口から自分についてが出てくるのを聞くだけで、黒歌は恋した乙女みたいにドキドキしていた。
「センパイに紹介したら、めっちゃ嫉妬しそうだよな」
「シトリー先輩の事ッスよね? ……多分拗ねますよ。
イッセー先輩はどうなんすか?」
「俺? いや、見たことはあるけど別にそれだけだし――若すぎるな」
「やっぱりそれ言うんスね……」
「あたぼーよ。人妻系ハーレム王になれるんなら俺なんでもできそうだぜ」
普通に黒歌は別にどう思うとか云々以前に、よく知らないと言われてるのだけど、とにかく自分の事について喋ってるという事に対する嬉しさが勝り過ぎて、肝心な所が聞こえてなくてドキドキしまくりな黒歌。
そのしおらしさで行ってみれば、イッセーとて少しは何かしらの反応を示しそうなものだが、生憎告るじゃなくて告らせたい黒歌にその考えはゼロ。
「や、やっぱりあの時私を見た時から好きだったんだね……ふふふっ!」
好きとか以前に、ただの後輩の姉ちゃんという認識しかイッセーは持ってないのに、好きだと勘違いしてる黒歌の明日はどうなるのか……。
「あ、居たッス! 居たけど…………アレはなにをしてるんすかね?」
「赤い羽の募金か?」
嬉しすぎて二人のまさに一歩後ろまで近づいて、ハァハァしてもこの二人に気付かれない辺り、彼女は間違いなく『側』の存在なのだろう。
黒歌
仙術全般
備考・黒歌様はこくらせたい
間違いなくフリードがこの街に居る。
先日の木場祐斗の顔色を見れば確信すら感じる。
だから私は密かにこの任務を利用して奴を捕まえようとしていた。
私に道を示してくれるだけ示しておきながら、勝手に去ったアイツを……。
「が、贋作の絵を買って資金が無くなった……だと……?」
だがその道はまだまだ険しいらしい。
いきなり石ころに躓いたのだ―――しょうもない石ころに。
「悪いゼノヴィア、ちょっと目を離した隙にイリナが……」
「だって展示会の人が言ってたのよ? かの有名な聖人様のありままの姿の絵だって……」
「ご、ごめんなさい、私も信じてしまいました……」
「………………………………」
紫藤イリナが贋作の絵を勝手に買ったせいで、任務資金が一気に底をついてしまった。
資金を佐上ジュンに一任させたのは間違いだったと後悔するにも遅く、資金の代わりにあるのはただの落書きだ。
もっとも、この絵が仮に本物だったとしても私は嫌悪しか抱かんし、寧ろ切り刻んですらやりたいが。
「今更嘆いた所で金は戻って来る訳ではない。
だからひとつ提案がある」
そんな本心を隠す中、佐上ジュンが資金不足回復についての提案をする。
なんでも人の多い場所に立って物乞いみたいに集めるというものらしい。
曰く『寄付』を募るという事らしいが、正直私は詐欺師の真似事をしている気がしてならないと思ってしまった。
が、何もしなければ空腹に悩まされる事もまた事実なので、私はこの三人と共に箱を持って道行く人々に寄付を願った訳だけど、やはり異教徒しかないこの国でそんな簡単に集まる訳でもなく、私達はただただ時間を無駄に浪費していた。
「集まらないですね……」
「日本ってどうしてこうなのかしらね!」
「………」
日本に限らず、他の国なら警備隊が出てきて連行されるかもしれない事を考えたらまだ温情のある方だと思う。
はぁ、私は何をしてるのか……本当ならこんなことをしている場合じゃないのに。
そんな事を思いながら箱を持って立っていた私達の前に思わぬ者が現れた。
「なにしてんの?」
「今そこに居た人が警察に通報してましたけど」
先日の会合で見た覚えのある悪魔の下僕二人が、我々を変人でも見るかの様な顔をしていたのだ。
「あ、アンタ達は昨日の悪魔!」
「な、なにをしに来たのですか!?」
どこかで買ったのだろう、甘い匂いを漂わせる紙袋を片手に、ムシャムシャと甘い匂いをさせて食べながら、変人を見る目をする茶髪の男と白髪の小柄な少女に、紫藤イリナとアーシア・アルジェントが不意を突かれて動揺したような顔をしている。
「昨日の話し合いを忘れたのか? 俺達には干渉するなって言ったよな?」
佐上ジュンもそんな二人に警戒した面持ちであり、そんな三人に悪魔二人は微妙に可哀想なものを見る目で口を開く。
「いえ、先輩とデートしてるだけで、別に干渉なんてしようとも考えてませんけど?」
「偶々食べ歩きしてたらアンタ等が怪しい真似してるし、警察に電話されてるぜって教えようと思っただけで、そんな要らん干渉とやらをするつもりはねーぜ?」
「で、デート?」
そう言いながら、私の腹の虫をとても疼かせる旨そうなものを食べる二人の悪魔の言葉に何を驚いてるのか、佐上の奴が驚いた顔をしていた。
「き、木場祐斗はどうした? 彼は聖剣に恨みがあるから暴走してるんじゃ……」
「一々無機物に恨みを抱くほど祐斗先輩も暇じゃありませんし、ご心配なさらずとも邪魔も干渉もしませんよ」
「というか、こんな所で募金詐欺みたいな真似してないで、早いとこ終わらせて欲しいんだけど」
「ぼ、募金詐欺じゃないわよ! お恵みを頂戴したいだけ!」
「端から見たら完全に怪しい連中が金せびってるだけにしか見えねーぞ? あ、ほら……そうしてる間に向こうから青い制服の公僕が来てんぜ?」
と、男が後ろ指を指した先には確かに青い制服を着た者が三人ほど近付いてくる。
「くっ、引き上げるぞ三人共! お、おいお前確か、兵藤イッセーだったよな!? 絶対に余計なことはしるなよな!」
「? 何で俺の名前を……? 俺あの時名前なんて名乗ったっけか?」
「スケベ過ぎて要注意人物として有名なったのでは?」
「マジ? まいったな、三十路迎えても清いシスターしてるお姉様は魅力的だけど、出会いも無ければなんもしてねーぞ?」
スケベかどうから別にしても、確かに何で佐上は彼の名前を知ってるんだ……?
だが考えてる暇も無く私達は撤退する事になった。
はぁ……本当に私はなにをしているのやら。
こうして撤退した私達は、任務のにの字も儘ならない状態で郊外の雑木林に逃げ込んで、ほとぼりが冷めるまで待つ事になった。
「おい、どうするんだ。
これでは任務も儘ならんぞ」
「ジュン君は悪くないわ!」
「そ、そうですよ。元を辿れば私達のせいなんですから……」
全員分の資金の管理をしていた佐上に少し八つ当たり気味に問う。それを紫藤イリナとアーシア・アルジェントが庇う――そんな無駄なやり取りで話は結局平行線だった。
確かに言い争いをしたところで腹が膨れる訳じゃないが、焦りが私に苛立つを募らせてしまう。
けれどその苛立ちは――
「おやおやぁ? こんな所に迷える羊がいるじゃありませんかー?」
薄暗い林の奥から聞こえた声によって吹き飛ばされた。
「誰だっ!」
紫藤イリナ、佐上ジュン、そして私が身構える。
敵――かどうかはわからないが、少なくとも敵じゃない存在だとは思えない。
教会から押し付けられた残りの聖剣三本を手にしながら、林の奥へと目を凝らし――――
「おーおー、こういう状況をカモがネギをしょって来るって奴か? 残りのクソ剣の残り三本をわざわざ持ってきて貰うなんてさぁ?」
「っ……!」
私は剣を思わず落としてしまった。
「あ、アナタはまさか……!」
最後に見た時から何年も経っているが、その面影はまるで変わらない。
目を引く銀髪。血の様に赤い瞳。
そして『自分は頭のイカれた奴だ』と主張する偽悪的な雰囲気。
間違いない――この男は……。
「狂気のはぐれエクソシスト、フリード・セルゼン!」
私の身代わりになって人生を狂わせたアイツだ。
「へー? 俺も随分と有名だねぇ? 後輩達にも名が知れ渡るなんてよぉ?」
「私達の間で知らない者は誰一人居ないわ。
あんなおぞましい事をしたんだから……!」
「ソイツは結構! けど、そんなナマクラで俺を斬るってのはナメすぎじゃねーの?」
「お前は今コカビエルの所にいるな? 言え、残りの聖剣は?」
「素直に答えると思ってるのかい色男くん? 知りたきゃ吐かせてみろよ?」
白と黒と赤を基調としたロングコートを靡かせ、左耳に付けているイヤリングを揺らしながら煽るフリードが拳を握り締めながら、構えた。
「……奪った聖剣は使わないのか?」
徒手空拳で戦おうとするフリードに佐上が違和感を覚えた顔で問う。
そうか、知らないのかコイツ等は……フリードが剣を宿している事も、わざわざ奪った聖剣を使う必要も無いことも。
「あんなガラクタに頼らんでも遊べるんでね俺は。
そら来いよ? こねーなら、俺から行くぜぇぇぇっ!!!」
この間、私の事は一度も見ていない。
「ハッハハァ!! 盲信してる主様御用達の聖剣様なんだろぉ!? もっと楽しませろォ!!」
「うっ、噂通り狂ってる……」
「コカビエルの下へと居付いてるだけある……なっ!」
この戦いの時も……。
「んだよ、つまんねーな。そこで犬みてーに怯えてるシスターちゃんは非戦闘員だとしても、オメー等仮にも聖剣を扱えてる身分なんだろ? もっと本気出してくんねーとわざわざやってやってる意味がねーだろ?」
「こ、の……! バカにしてェ!!」
「よせイリナ! 挑発に乗るな!!」
アイツは私と一切目を合わせない。
私の事なんて覚えてすら居ないのか、私が弱いと思っているから興味すら無いのか。
「おっと? 色男君はどうやら何か切り札でもあるのかな?」
「黙ってろイカれ野郎」
「おいおいおいおい? クソ主様を信仰する悪魔祓い様がそんな言葉遣いを悪くされてはいけませんなァ?」
「言ってろ……。今すぐお前を半殺しにして捕縛する……!」
デュランダルを見せれば思い出してくれるのか……。
そんな事を考えている内に、佐上は全身から聖なるものを感じる光を放出させ、オーラの様に纏い、そしてフリードに肉薄した。
「うおっと!?」
その速度は先程までとは比べ物にならない速さであり、フリードは佐上の振るった剣を間一髪避けながら後退する。
「逃がすか!」
身のこなし方からして、当然ながらあの時よりも更に強くなっていると感じる私を尻目に、佐上が剣から衝撃波を飛ばして追撃する。
「チッ……!」
これにはフリードも少し顔付きを変えると、左耳に付けていたイヤリングを指で弾き、術の様なものを発動させ、近くにあった倒木を浮かせて自分の前へと引き寄せると、衝撃波と相殺させた。
「……!」
「い、今のは術?」
「間違いありません、あの人が術を発動させてました……!」
「…………」
天賦の才を元々持っていたフリードが行った即時発動の術の制度に紫藤イリナやアーシア・アルジェントは驚いている様だ。
「ちょっくら驚いたぜ。
おたく、意外と使えてるタイプなんだな?」
「………」
「いやー、散々ガキの身体弄くり回して使い捨てにしまくったクソ実験の結果がおたくだって思うと吐き気がしてたまんねーよ?」
コートに付いた汚れを手で払いながらニタニタ笑うフリードに、佐上と紫藤イリナは嫌悪に顔を歪める。
『どうしてそんな顔で言える』のか………と。
「生きたくても生きる事も許されずにゴミみたいに扱われたガキ共の犠牲の上に扱える聖剣様はさぞかし良いもんなんだろーねぇ? どうなんよ? んんー?」
「黙れ! お前が言うなっ!!」
「おおっとと? 目を逸らすなよ? 清廉潔白だとほざき散らしてるクソ共が過去にやったことは、テメー等はなにもされてないからって知らん顔かい?」
お前の言うそのクソ共を過去に皆殺しにしたのがお前なのに。
私を守って、全部の汚名を被ってまで……。
抵抗も、意見もできなかった当時の私の代わりに地獄へと進んだ男の言葉に――私は黙っていられなくなった。
「…………。フリード・セルゼン」
私の過去を抹消してくれた男の名前をしっかりと呼ぶ。
そして前に立ってしっかりと見る。
そうで無ければ、この運命としか思えない偶然の再会によるチャンスを私はまた手放してしまうから。
「私を覚えてないかフリード……」
「あ?」
「ゼノヴィア……お前何を言って――」
もう任務なんかどうでも良い。
私の目的は違うし、聖剣なんぞ寧ろ全て壊れてしまえば良いと思っていた。
だから……だから―――
「私が宿したこの剣を――デュランダルを見れば誰だかわかるだろう? ジョワユーズのフリード」
「……………………………………」
私はこの男に借りを返す。
その為だけに今まで生きてきた。
この剣を扱える様に鍛えてきた。
「ジョワユーズ……だと? 馬鹿なフリードがそんな剣を宿してるなんてあり得ない……!」
「そ、そもそもゼノヴィアがデュランダル使いって聞いてないわよ?」
「何がどうなってるのですか? ゼノヴィアさんもフリード神父の事を知っている様な様子ですし」
後ろでガチャガチャと何か言ってる様だけど、私の目はそれまでふざけていた顔から一変して無表情になっているフリードに注がれている。
「俺を覚えてやがったのか、チビっ子……」
そんな私にフリードは舌打ちをしながらも、昔私の事を呼んでいた呼び名を口にした。
ああ……覚えていてくれたんだなお前は……。
「そうか、忘れてなかったんだな。
そっか……何故だろうな、お前からしたら迷惑でしかないんだろうが、素直に嬉しいよフリード」
良かった。本当に良かった。
ここまで生き延びてきた甲斐がこれだけでもあったと思える程に、私は不思議なくらいに幸福だった。
「ちっ、泣き虫チビっ子が。
んな事より後ろのお仲間共が困惑してんぞ?」
「え? あぁ……三人は私がお前と知り合いであることを知らないからな。だが、事情を話せば分かって―――くれるかな?」
「無理だな。
俺ははぐれ、オメー等は正規。
その時点で敵同士なんだよ……それくらい理解しろやチビっ子」
「チビっ子はよしてくれよ。
見ての通り成長したんだぞ私は? ふふん」
「けっ、俺見て動揺してろくに戦えてなかった泣き虫は成長したところでたかが知れてんだよ」
後はどうするか。
いや、私の中では決まってる。
泣いてばかりで背中に隠れていたあの頃とはもう違う事を……示さなければならないんだ。
「退けゼノヴィア! ソイツははぐれなんだぞ!」
「だ、そうだ。旗色悪いし俺は逃げるぜ」
悪いが佐上達とはただの任務仲間であって友人ではない。
それに元々私は神という概念が大嫌いなんだ。
はぐれになる事に躊躇いなんて無いよ……。
終わり
補足
寧ろ聖書系統が死ぬほど嫌いにも関わらず、それをひた隠して悪魔祓いをやって来たのは、彼に追い付く為。
ある意味別系統で狂った精神力ですね
その2
槍術、剣術に加えて術も使いこなして戦うフリード。
徒手空拳も可。
その3
佐上なんたらについては、彼は身体能力がどこぞのソルジャー並で、使う技も大体それっぽい。
身の丈以上の刀も扱うし、鈍器みたいな剣を振り回せるし、リミットブレイク的なもんも可能。
…………………惜しいのは、勝てると思ってた相手が自分のまるで知らぬ底知れる実力と、剣を宿していた事でしょうか……。