色々なIF集   作:超人類DX

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まー、貧血なのは理由がありまして……


おっぱいドラゴンだったかもしれない

 ひよっこであった頃。

 私は『最強』と偶発的に出会した。

 

 

『おかしいな? 人間以外の生物は私を除いて全て先輩が『駆除』した筈なのに……? アナタはなに?』

 

 

 何物にも染まらない事を印象づける白い髪と肌。

 全てを平伏させん強さを感じる金色の瞳。

 

 一見すると幼い少女にしか見えない『最強』との出会いは、今にして思えばその時点で進むべき道を決定付けたといっても過言では無い。

 

 

『キミは一々好戦的だね。

でも言動は強気なのに全然弱い。

一誠先輩と比べるまでもないというか、キミみたいなのと比べてたと言ったら先輩が怒っちゃうかな』

 

 

 とても強く。

 とても美しく。

 とても大きい。

 

 

 数多の生物の頂点に君臨しているとしか思えぬ強大な力を持った白い猫との一時は、私を更に上の領域へと引き上げていく。

 

 

『この世界の妖怪達はシャクシャクしても全然美味しくない。

うん、もう良いよ、先輩が来てくれた時のストレス解消のサンドバッグとしてならある程度生かしてあげるからさ、煩い奴はそのまま我慢してやるからシャクシャクしてやるよ?』

 

 

 ―――大豪雨・王喰晩餐―――

 

 

 この星よりも強く。

 

 

『あぁ、ちゃんと逃げないとキミも巻き添えになるから頑張ってね御子神くん』

 

 

 ―――六道・地爆天星―――

 

 

 何時だって誰よりも先の領域に立つ彼女の気紛れで傍に置いて貰えた私は果たして幸福だったのか……。

 それはよくわからないが、私はだからこそ彼女に初めて頼まれたのだ。

 

 

『先輩がこの世界に流れてくる時まで私は『外』で寝る。

だからもし私が寝ている間に先輩を見付けられたら何としてでも引き留めて』

 

 

 彼女の愛した、龍を宿す人間を探すという大任を。

 自分が直接探してしまうと人間に影響があるからと私に託して眠りについた師の意思を受け継ぎ、私は今を生きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キミともあろう者がその程度とはいえ、ダメージを負うとは思わなかったというのが率直な感想だぞ青野月音――いや、兵藤一誠君」

 

 

 そしてその鍵である人物は発見できた。

 これで彼女が眠りから目を覚ませばもう二度と眠りに付くことは無い。

 青野月音という人間の少年として生まれ変わったというのは少々誤算だったが、彼もまた彼女を追い求める者の一人という意味では、年甲斐もなく仲間意識を感じてしまう。

 ……もっとも、追い求める意味は根底から違うようだが。

 

 

「魔女の丘の魔女に己の血を定期的に――それも大量に与えているのが原因か? どうやらキミは確かに力自体は彼女の語っていた通りそのものだが、肉体的なレベルがそれにまだ追い付いていないらしい」

 

「話はそれだけですか。俺が何をしてようか、アンタなんぞに指図される覚えも無い」

 

「キミの行いを否定する気はない。

人としても妖としても生きていけぬ微妙な立場で迫害されていった魔女にたいして何か思うところを持とうが、私は否定しない。

しかしだ、あまり肩入れされると彼女が目覚めた時に何て思われるかだ……」

 

「……」

 

「その時キミは守れるのか? 貧血のせいではぐれ妖にダメージを負ってしまう今のキミで……」

 

「今この場でアンタを八つ裂きにすれば、そんなくだらない心配事も必要なくなると思わないですかね?」

 

「……。キミはこと非・人間族に対してはかつての私以上に血の気が多いな……。

わかった、ならば余計な事は言うのはやめよう」

 

 

 ベクトルは違えど会いたいという同じ気持ちを持つ者。

 伝説と化した彼女の力だけを求める一部他の連中とは違う気持ち……。

 

 あぁ、我が師よ……。貴女の求める男は今私の目の前です。 早く……早くお目覚めになってくださいよ。この寝坊助さん。

 

 

 

 

 

 御子神典明には色々とお見通しであった事に少し不満を覚えた月音は、不貞腐れた顔をしながら学園長室を退出する。

 

 

『この学園がある理由が、お前を誘い込む為だけのものだとは思わなかったとしても、あの男……白音とは大分深い関係らしい』

 

「わざわざご苦労な事だぜ。

その目論みにまんまと乗せられてる俺を含めてな」

 

『奴の言い分も間違いではない。

確かに力そのものに関してはかつてと変わらないが、肉体的な脆さは無視できん。

やはりお前の『進化の異常性』が機能しないせいだろう』

 

「………」

 

 

 消す事無く連行したはぐれ妖のその後がどうなるかは知らないし、どうでも良い。

 だがその時の戦闘で人質を取られて動けなくなったばかりか、少し殴られただけで貧血を起こしてしまった今の月音としての身体の限界はドライグの指摘通り無視できないものになっていた。

 

 

『自分の命をリスクに行使する魔法とやらに身体が破壊されかかっていたあの魔女を回復させる為とはいえ、血を提供し過ぎたタイミングだったから仕方ないといえば仕方ないが……』

 

 

 校舎裏の森の中に入って、自分の掌を見つめながら腰を下ろしている月音が貧弱化している理由は、夏休み中に出会した魔女に理由があり、その魔女の死に行く運命から救う為に、停滞しているとはいえ『適応進化』する異常な細胞を持ち、かつては制御できない神器使いがある程度制御可能になると言われた赤龍帝である月音の血を毎度致死量以上に提供させていたせいでもあった。

 

 

『この先、あの理事長とやらが言う様に、白音が目覚めたとしても、今のお前では借りは返せんぞ。

やはり全盛期に戻らぬ限りは……』

 

「わかってるぜドライグ……」

 

 

 月音の行いをドライグは否定する気にはなれない。

 だからこそ貧血程度に敗けぬ程の肉体的な強さを養えとエールを送る。

 だがしかし同時に心配でもあった。

 絶頂期の月音はちょうど『人間以外は全部死ね』という意見がそのまま服を着て歩いていた様な男なのだから。

 それもこれも、力だけを求めて無理矢理転生悪魔に転生させた悪魔達のせいで、あれこそがその後の人格形成になってしまった訳で……。

 

 

『それで、吸血小娘達とはどうするつもりだ?』

 

「どうするって? あの状態の方が五月蝿くないから別に放置でも……」

 

『……。頭を下げろとは言わんが、何かしらのフォローくらいはしてやれ。

珍しいタイプの小娘なんだから』

 

「……………」

 

 

 何事も無く成長したら、種族関係なく美女と胸のデカい女に鼻の下を伸ばす……まあまあ健全な男になっていたかもしれないと思うと、過酷な運命をたどる今の彼はとても幸せには見えなかった。

 

 

『取り敢えず部屋に戻って体力回復に専念するんだな』

 

「あぁ……わかったよドライグ」

 

 

 

 

 さて、そんなドライグの言う吸血小娘こと二人で赤夜萌香はといえば、クラス委員になったのと、その後副委員となった白雪みぞれと共に――

 

 

「フッ、こんなものだな」

 

「おお、流石力の大妖。

これで月音の余計な仕事のお手伝いもできたね」

 

「当然だな、足手纏いだなんて呼ばせないぞ」

 

 

 才蔵や諸葉が所属していたはぐれ妖のグループを協力して潰していた。

 いや、決して自ら進んで潰しに行っていたのではなく、偶々二人で月音に関して話をしまくっていた所に御堂なる男とその下につくはぐれ妖達が襲い掛かって来たので、月音のパワーを一番最初に浴びた影響で互いの人格との意思疏通と入れ換えが可能になった萌香と、実は結構強いかもしれない雪女のみぞれの即興タッグでボコボコにしてやったといった方が正しいのか。

 

 

「私は足手纏いになんかならないぞ……絶対に」

 

「終始そればっかり言ってるけど、何言われたの?」

 

『えっと、月音とちょっとした喧嘩……かな?』

 

「ふーん……?」

 

 

 そんな訳で、自動的に月音の仕事の手伝いが出来た形になった訳だが、裏萌香の表情はあまりよくない。

 やはり月音にハッキリと『足手纏い』と言われたのがショックだったらしく、先のはぐれグループとの大立回りでもずっと月音に言われた言葉が頭に残っていた。

 

 

「力の大妖に向かって、そこまで言い切れる月音ってやっぱり良いな。

なんていうの? 見た目は優しそうなのに、誰にたいしても媚びない男らしさのギャップ萌えってやつ?」

 

『み、みぞれちゃんは強いねある意味……』

 

「ふん、実際言われてないからそんな事が言えるんだ……」

 

「そんな事で一々ビビるお前とは違うよ私は」

 

「………」

 

 

 変な方向にメンタルが振りきれているみぞれに若干裏萌香は羨ましさを覚えてしまう。

 自分もこんな能天気に考えられたら……みたいな意味で。

 

 

 

「そうやって燻るならそれで構わないよ。

ふふ、都合も良いしね……」

 

「都合だと?」

 

「そう、都合……意味ならわかるだろう?」

 

「…………」

 

 

 不敵な笑みを浮かべるみぞれに、裏萌香はちょっとムッとなる。

 

 

「おい、お前と一緒にするな。

私は別に月音の事がどうだこうだという訳では――」

 

「あっそう? じゃあ別に私が今後月音になにをしても文句ないわけだ?」

 

「も……文句は言うぞ! だ、だってそうなったら月音と遊べないし……」

 

『素直になりなさいよ……』

 

 

 どうしてもう一人の自分はこうも意地を張るのか……。

 自分も大分精神年齢は低い方だが、もう一人の自分も大概こういう所は低いなと思うのだった。

 

 

 そんなこんなでみぞれに牽制されて怯まされてしまった裏萌香は、本日一言も月音と会話をしてなかったのもあって、すっかり第二の寮部屋となっていた月音ルームに行くべきか凄く迷っていた。

 

 

『私は早いところ仲直りするべきだと思うけどなー?』

 

「な、何で私が謝らないとならないんだ! 月音があんな事を言ったせいなんだぞ……」

 

『月音がそう言う時は理由があったりするでしょう? それに意地を張り続けたら本当に紫ちゃんやみぞれちゃんにとられちゃうんだよ? それでも良いの?』

 

 

 表の萌香の諭す様な言葉に裏萌香は言葉に詰まる。

 ドライグに変な影響でもされたのか、妙に子供扱いをしてくる様になっているのだ。

 

 それが気に入らないどころか、何故かしっくり来る気がするのは気のせいなのか……。

 

 

『何時もみたいに堂々と行けば良いのよ。

アナタの持ち味でしょう?』

 

「む……む……! 確かに月音の顔色を伺うだなんてのは私の性に合わないな」

 

『でしょう? ならば突撃あるのみよ!』

 

 

 結果、まんまと表の乗せられた裏萌香は深呼吸を途中で何度もしつつ自分の両頬を叩いて気合いを入れて月音のお部屋へと突撃することにした…………のだが。

 

 

「あ、萌香……! アンタ今までどこに居たのよ?」

 

「部活にも今日は来ませんでしたし……」

 

「逆に聞くが、紫はともかく、何でお前まで月音の部屋の前に来ている?」

 

『なにかあったの?』

 

 

 自分より先に何故か紫と胡夢が月音の部屋の前の扉に立っていたのだ。

 紫はまあともかくとして、何故胡夢まで? と、入れ替わりっぱなしの裏萌香は怪訝な顔をしながらも胡夢が手提げの紙袋を持っている事に気がつく。

 

 

「それは何だ?」

 

 

 そもそも胡夢は月音とは部活仲間であるだけの存在で、お土産みたいな紙袋を渡す様なものでもないだろうと思っている裏萌香の質問に、胡夢はちょっとだけ照れ混じりに口を開く。

 

 

「え、ええっと……実はさっきはぐれ妖の二人組に襲われて……」

 

『えっ!? 本当に!? 私達とみぞれちゃんも襲われたの!』

 

「そうだったんですか? だから部活には来れなかったのですね……」

 

 

 と、ロザリオ待機してるもう一人の自分と話し合う二人に裏萌香は痺れを切らす。

 

 

「襲われたのはわかったが、何でお前が月音の部屋に来てるのかって話だ。

大方助けられでもしたんだろうが……」

 

「ま……まぁね。その二人組が卑怯で、紫ちゃんを人質にして動けない事を良い事に、『月音』が殴られ続けちゃって……。

私と紫ちゃんが服を裂かれた瞬間、瞬殺したけど……」

 

「人質……? ん? ちょっと待てお前。今月音と呼んだ――」

 

「で、制服の上着を貸してくれたから! ………綺麗にして返そうと紫ちゃんと来た訳」

 

『ほら、やっぱり優しいよ月音は?』

 

「でも殴られ続けたせいか、貧血で具合悪そうにしてましたので、お見舞いも兼ねてます」

 

 

 目を逸らしながらもじもじまでしてる胡夢に変な勘が働いた裏萌香はギリィと歯軋りする。

 顔がなんかもうそれっぽいから……。

 

 

「分かりやすい女め……!」

 

「ち、違うわよ! 別にそんな気持ちなんて無いし!」

 

「じゃあ私が代わりに返してやるから帰れ!」

 

「べ、別に自分で返せるわよ! そ、それにお礼もちゃんと言えてないし……」

 

 

 そう言ってる割りにはもじもしてるのが気に入らない裏萌香はぐぬぬな気分で思わず月音の部屋に突撃する。

 

 

「月音! お前―――」

 

 

 やっぱり一言文句言ってやると思った裏萌香かほぼ何時もの調子で部屋に入るが、その勢いはテーブルに突っ伏しながらピクリとも動かない月音の姿によって削がれてしまう。

 

 

「お、おい月音……?」

 

『月音……!?』

 

 

 考えてみたら部屋の前でこれだけ騒いでいるのに文句や嫌味のひとつも飛んで来なかった事を思い出した裏萌香は、死んでる様に動かない月音に胡夢や紫と一緒に恐る恐る確かめる様に近付く。

 すると突っ伏していた月音の左腕にドライグの籠手が出現し、代わりに来訪者達を出迎える。

 

 

『お前達か……。

申し訳ないが月音は今貧血でダウンしている。

一晩きっちり眠れば回復はするから心配しなくても良い』

 

「貧血……?」

 

 

 ドライグの事情説明に眉を潜める裏萌香。

 

 

『色々あって今日は血が足りなくてな。

で、タイミングの悪いことに後ろの小娘二人を人質に月音を潰そうとした馬鹿共に殴られて更に失血してこのザマだ』

 

「あ、あの……ごめんなさい」

 

「私が捕まらなければこんな事にはならなかったんですよね……」

 

『別に責めちゃいない。

コイツが自分の肉体の貧弱さを自覚して貰った良い機会だったしな』

 

 

 どうやら本当に二人を守ったらしい。

 バツが悪そうな顔をする胡夢と紫にドライグがフォローを入れているのを聞きながら、裏萌香はズキンと胸が痛んだ。

 

 

『月音をちゃんとベッドで寝かせないといけないと思うけど……』

 

『それは俺も言ったんだがな……っと?』

 

 

 自分が中途半端に戦えると思われてるからなのか……。

 裏萌香はどこか寂しい気持ちになりながら突っ伏していた月音を見ていると、声に反応したのか目を覚ましてしまった。

 

 

「…………今何時?」

 

『20時前だ』

 

「あ、そう……………って、なにこの人だかり?」

 

『お前を心配して見舞いに来てくれた者達だ。窓の外にももう一人居るから、礼はしろちゃんとしろ』

 

「ん……ありがと……わざわざ……」

 

 

 寝惚けてるのか、ドライグに言われるがまま素直にお礼をする月音にドライグの存在を明確に認識した胡夢は面を食らった様に驚いていた。

 

 

「ドライグさんの言う事になら本当に素直なんだ……」

 

『お父さんみたいでしょ?』

 

『よせよ、そんな器ではないと前にも言っただろう?』

 

『えー? 私は器とかそんなの関係ないと思うけどなー?』

 

 

 大体は憎まれ口しか叩かない姿ばかりだったので、こんなに素直な月音はとても新鮮であり、ちょっとしたギャップを感じる胡夢。

 

 それはそうと取り敢えず貸して貰った制服を返そうと、全身からポキポキと音を鳴らしながら身体を伸ばしている月音に話し掛ける。

 

 

「えーっと、これ返すわ。

ちゃんと綺麗にしたから……」

 

「……? あぁ、わざわざどーも……」

 

「Yシャツの方はもう二、三日掛かりますぅ」

 

「別に返却は何時でも良いよ。

予備とかあるし……」

 

「えっと、それで体調の方は?」

 

「少し寝たら大分楽になったぜ……。

あぁ、適当に座ってくれ、今お茶入れっから」

 

「! い、良いわよ別に! むしろ私がやるから座ってなさいって!」

 

「いやでもドライグが客に茶を出すのがマナーだって……」

 

「怪我人に無理強いさせられないわよ! ほら、座ってなさい!」

 

 

 お茶を出そうと席を立とうとする月音を座らせ、紫と共にお茶の用意をする胡夢。

 寝惚けてるせいか嫌に優しすぎてさっきから顔が熱く、手でパタパタと自分の顔を扇いでしまう。

 

 

「な、なんなのよアイツ……」

 

「寝起きだからというのもありますけど、普段でも大体あんなものですよ?」

 

「それは紫ちゃんだからよ……はぁ、本当にどうしてくれんのよ……」

 

「はい?」

 

 

 熱を帯びる顔を冷ましながらボーッとした顔をしてる月音と、その前に座る裏萌香を見つめる胡夢。

 貧血でフラフラでもたれ掛かってきた時といい、どうしてこうも不意打ちばかりなのか、中々にタラシの才能を感じてしまう。

 

 

「はぐれ妖のグループに襲われたらしいが、実は私達も襲われた」

 

『なに? お前達もか……』

 

「ふーん、その様子からして大丈夫だったみたいだけど……」

 

「まぁな……」

 

『そっちこそ大丈夫なの? その……血が足りない事を含めてだけど』

 

「レバーと野菜と果物を食いまくったから、半日もすれば元に戻る筈さ」

 

「……。お前、どうして貧血になっているんだ? あの魔女の身体を治療する為にお前の特殊な血を与えているのは聞いたが……」

 

「ストックを多めにと思って身体の半分以上の量の血を渡したからな……。

流石に血が足りなかったよ」

 

『半分!? し、死んじゃうよ普通なら!?』

 

『俺も無茶だと言ったんだが、本人は休み中とは違ってそんなに頻繁に顔は見せられないと言って聞きやしなかったんだよ。

あの魔女師弟の二人も止めたんだが……』

 

 

 トントンと頭を軽く叩きながら言う月音。

 そうこうしている内に紫と胡夢が月音にウーロン茶を渡しながら合流する。

 

 

「貧血にはコーヒーかウーロン茶が良いみたいよ」

 

「どうも……はぁ……」

 

「それにしたって、妖怪ですら自分の体積の半分の血を失ったら死ぬかもしれないのに、無茶が過ぎますよ月音さんは……」

 

「しょうがないだろ……そうでもしないとあの魔女さんが死ぬんだから」

 

 

 チビチビとお茶を飲みながら顔色の優れない月音は、反省ゼロだ。

 

 

「ねぇ、アンタの血って何か特殊な力でもあるの?」

 

『大分ある。

まず俺を宿した血であることと、コイツ自体の――そうだな、異常性も加味して貴重ともいえなくもないな』

 

 

 血を魔女の丘に居た魔女にあげている事を知った胡夢の質問にドライグが答える。

 

 

「ドライグ……それ以上は……」

 

『別に構わんだろう。

知った所で目の色を変える様な小娘達とは思えないしな――あの悪魔共と違ってな』

 

「…………」

 

 

 制止しようとする月音にそう言ってから、ドライグはまだ話していなかった事を説明する。

 

 

『月音には特殊な特性があってな。

簡単に言えば月音はあらゆる環境や状況に適応して進化する』

 

「適応……進化……?」

 

『そうだ。今はある事情があってその特性が薄れているものの、コイツの血肉を他人が取り込めばその力を遥かに高められる。

もっとも、毒性が強すぎて実力も備わらない雑魚が考え無しに取り込めば逆に月音の細胞に殺されるがな……』

 

『え……じゃあ初めて会ったあの時、もし私が月音に吸血していたら……』

 

『死んでたな 』

 

 

 サラッと言うドライグにちょっぴりゾッとなる表萌香。

 

 

『だが逆を返せば、上手く調整した細胞を取り込めた者は万病を死滅させて健康体にもなれる。だからあの魔女の弟子と協力して血を微調整する為に大量の血が必要だったのさ』

 

「そうだったんだ……本当にアンタって意外と」

 

「よせよ。さんざん苦労してあの丘を正攻法でなんとかできたのに、勝手にくたばられでもしたら意味無いだろと思っただけだよ」

 

 

 事実を知って感心する皆から目を逸らしながらお茶を飲む月音。

 

 

『この事は言い触らすなよ? 面倒な事になるからな』

 

『そりゃあ勿論。

それに月音にそんな秘密があったなんて驚きだし、なんだろ、逆にもっと月音の血が美味しそうに思えてしまうのってバンパイアの本能なのかな?』

 

「確かに逆に気になる……」

 

「言うと思った。

まぁ、らしいっちゃらしいよ」

 

『じゃ、じゃあさ、ドライグくんの血って美味しいのかな?』

 

『は? 俺だと? ただの龍の血だしそもそも実体が無いぞ俺は』

 

『でも気になるのよ。

あー……ドライグくんの血……』

 

『……なんなんだこの小娘は?』

 

「時折私でもわからない時がある……」

 

 

 ドライグそのものの血の方が気になると言い出す表萌香に微妙な気持ちが籠りまくりなドライグの声が響く。

 結局、月音の細胞がどこぞのG-ウィルスみたいな特性があると知った所で誰も欲しがることな無く、気付けば空気の流れで裏萌香と月音の仲が元のドタバタコンビなた戻るのだったのだが……。

 

 

「色々とアンタの事を知れて喜んで良いのか悪いのか……。

まあ貴重な時間ではあったわ」

 

「そりゃどうも」

 

「え、ええっとそれでなんだけどさ。

私、アンタに借りを借りたままって嫌なのよ」

 

「? 別に借りとか考えなくても――」

 

 

 宴もたけなわな所で、胡夢が改めてお礼を言い、それに対して月音は物の次いでだったと言おうとした時だった。

 ササッと月音に接近した胡夢が突然自らの唇を月音の右頬に付けたのだ。

 

 

「……………………は?」

 

「「なっ!?」」

 

『わ、わぁ……!

ど、ドライグくん見た? 胡夢ちゃんが……』

 

『………俺は何も見てないし、知らん』

 

 

 固まる月音とショックで絶句する裏萌香と紫、そして息子がラブコメしてるのを見てしまって微妙に気まずい気分になる親父みたいに知らんと言い張るドライグと、キャーキャー言いながらはしゃぐ表萌香。

 

 

「こ、これで借りを返したつもりじゃないけど、お、お礼よお礼! 別に他の意味はないからねっ!?」

 

「…………………………」

 

「ちょ、貴様っ! 何をしてくれてる!!」

 

「そうですよ! 先ほどのおっぱいの件といい!」

 

「おっぱい!? なんだそれは!? どういうことだこのホルスタイン女!?」

 

「だ、誰がホルスタインよ!? 別にそんなつもりじゃないって言ってるじゃない! というか何か言いなさいよ! やってて恥ずかしくなったじゃないの!」

 

 

 途端に気恥ずかしさで顔が真っ赤になった胡夢が、リアクションゼロの月音に半ば八つ当たりに近いそれで怒鳴るのだが……。

 

 

「………………………………」

 

 

 月音は椅子からひっくり返って目を回していた。

 

 

「ええっ!? ちょ、ちょっと大丈夫!?」

 

「おい!? 倒れた月音を抱き起こすどさくさに紛れて無駄に巨大な胸を押し付けるな!!」

 

「そうですよ! そんなにおっぱいが大きいのが自慢ですかっ!?」

 

「違うっての!? な、なんなのよも~!!」

 

『言い忘れていたが、月音は意外と正攻法に弱い』

 

『そうなの!? 本当に意外……』

 

「それはつまりアレか!? こんな尻軽そうな女に月音はやられたのか!?」

 

「誰が尻軽よ!? あ……で、でも意識されてたって事よね? ………ちょっと嬉しいかも……」

 

「あー! だからおっぱいを押し付けるのはダメですぅ!!」

 

 

 犯される。

 そもそも知り合う異性がすさまじく頭がイッてる。

 そんな環境の中生き続けたせいで、割りと正攻法に弱い月音は、ちょっと照れてる胡夢のおっぱいに顔が埋まりながら目を回し続けるのだった。

 

 

「というかサキュバスなのに正攻法っておかしいだろ! ええぃ! 目を覚ませ月音!!」

 

「静かにしなさいよ! 具合悪いんだからそのまま寝かせてあげないと――――ぁ♪ そ、そんなに揉み揉みしないでよこのスケベ♪」

 

「うが~!! 最初は怯えてた癖になんなんだー!!」

 

 

 

 

『上手く元に戻れて良かったねドライグくん?』

 

『微妙じゃないか……? しかしコイツがまさかこんな空気をお前達相手にするようになるとはな……』

 

 

 それをドライグと表萌香は見守る。

 

 

「…………………………ちぃ、黒乃胡夢が要注意人物になってしまった」

 

 

 白雪みぞれも……




補足

今のままでは確実に白猫たんには勝てません。

勝つには取り戻す必要アリ


その2
一誠の異常性は現在大分薄れてますが、その血肉は凄い。

ただ、毒性が強すぎるらしいです

例えるならバイオ2のG-ウイルスみたいに、取り込んだものの細胞を支配して無限変異させるという……。


だから微調整する為にサンプルを大量に渡して最近貧血弱体気味。


その3

おっぱい! おっぱい! おっぱいオチ!


それと白猫たんのせいで正攻法に結構弱かったり、不意打ち正攻法のせいで意識が飛びました。

そして息苦しくて揉み揉みしてましたとさ。

多分意識戻って聞いたら頭抱えて自己嫌悪するでしょう。

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