もっとも、聖なる系のものによる耐性は『否定』によって克服してるので滅されませんけど。
夢を叶えるという真実には決して到達できない。
遠い異界の悪魔の少女に宣告されてしまったバニルがその後どうなるかはまだ誰も知らない。
何故なら、半日限定でイッセーと同等の身体レベルにねじ曲げられてしまったバニルはそのままえっちらほっちらとカズマ、ミツルギ、イッセーという男三人衆によって街の外の森に運ばれてそのまま放置されてしまったのだから。
変な意味で魔王軍幹部の一人を人知れずに撃退した事になるこのマイナスパーティ+αの目的はあくまでもその日を楽しく生きられたら良いというだけなのだから。
他がどうなろうが、それこそバニルが直後に獣に食い殺されてしまおうが知った事ではないのだ。
「何の仕事やるよ?」
「近くの森での薬草詰みなんてどうかしら?」
「篭一杯で2000エリスか……悪くはないな。
途中で何故かキレてるドラゴンの襲撃とかなければだが」
「もう少しだけで良いから、討伐系のクエストをしてみないか?」
だから何時も次の日から彼等は何事も無かった様にクエストをしてお金をゲッツしようとギルド場に来ている。
最近ミツルギの提案によって、四人はそれぞれが持つ独特のマイナスオーラを若干ながら抑え込んでいるらしく、彼等の近くに居た者達が突然発狂するという騒ぎは無くなっている。
もっとも、制御する気がないイッセーとソーナ。
自分を隠しても窮屈なだけだと教えられた事で急速に退化を進めるカズマとゆんゆんは抑えることはしても制御してやろうという気は更々ないし、言うなれば便利化してるミツルギに対する義理立てみたいなものだったりするのだが。
「これなんかどうかな? 墓場に出る幽霊の徐霊作業」
「この中で徐霊に精通してる奴がいるのか?」
「居ないわね。ゴーストバスターは専門外だわ」
そんなミツルギはここ最近で割りとこのマイナス四人の扱い方に馴れてきていた。
スイッチが一度入り始めると、勝つとか負けるとかじゃなくて相手のもつなにかを台無しにしてしまうおぞましさを何度も見てきたが、それでも普段は気の良い者達ではあるのだ。
イッセーとソーナは普通に自分を受け入れてくれてるし、ゆんゆんとカズマも自分に対して優しい。
それ以上に彼等は命の恩人でもあった。
故にミツルギは魔王討伐よりも今はこの四人へのフォローをある意味の生き甲斐にしていた。
「霊じゃなくてアンデット討伐はどうだ? これなら物理攻撃も通用するだろうしな」
「まあ、ミツルギ君も鍛えたい様だし、やってみても良いか?」
「ただ、多分俺はまるで役に立てないぞ? ソーナとゆんゆんはともかく」
「そこは任せてくれ。
自分がやりたいと言った以上は迷惑はかけんさ」
ミツルギ――皮肉にも彼等と出会ってからの生き生きとしていた。
そんなミツルギたっての希望により、普段ならほぼ間違いなく選ぶことはない討伐系のクエストをする事になった訳で、早速受付にて正式受注をしようとした時だったか。
「あ、キミ達は確か……」
ノーアイテムという、どこぞの縛りゲー状態でやる話をしながら受注の印を受け付けに押して貰ったと同時に声を掛けられた五人は、いきなり話し掛けてきた白髪ぎみの少女に――
「………え、だれ? センパイ知ってる?」
「さぁ? 見覚えはないわね。カズマ君は?」
「俺だってねーぞ。ゆんゆんは?」
「私も記憶には……ミツルギさんは?」
「僕も――多分ないな」
全然知らなかったので、話し掛けられたということもあって少々面食らっていた。
誰も記憶にないと言われたその少女は苦笑いを浮かべていた。
「あはは、まあ記憶に無いのは仕方ないよ。
だって話した事なんてないもの」
どうやら誰も彼女と面と向かって話をしたことは無いらしい。
なるほど、と全員が納得しつつも、ならば何故自分達を知ってる体で話し掛けてきたのかがわからないでいると、少女は名乗るのと同時に語る。
「アタシはクリス。
最近じゃアクアさんとかライカくん達と一緒に居る事が多いんだけど……」
「アクア? あー……そうなんだ」
「…………」
アクアという名前を聞いた途端、若干嫌そうな顔をし始めたカズマと、逆に既に黒歴史化してる過去を思い出して恥ずかしそうに顔を伏せるミツルギ。
「今日は偶々一人で行動してた時に偶然にもキミ達が居たからさ。
ほら、何度かアクアさんとかと話してた事があったじゃない?」
「あるにはあったけどよ……」
「別に知ってる顔ってだけで仲良い訳じゃないぞ」
ソーナなんか自分で転生させた癖に目の敵にされてるし。
基本的にアクアの性格とはあんまり反りが合わないカズマはハッキリと友達ではないと言い切る。
というかもっと言えば、そのライカとやらも嫌いだし、めぐみんとかいうのもゆんゆんが苦手にしてるのであんまり関わりたくはないとすら思ってる。
たしかもう一人居た気がしたが――名前すら知らないし。
なんて思いつつ、クリスという少女にこれからクエストがあるからと煙に巻こうとした五人だが……。
「ん? クリスじゃないの? そんな所で何を――ぬっ!?」
やはり運が悪い者達の集まり。
そこに来て一番めんどくさくて関わりたくないと思っていたアクアが偶然通り掛かったあげくにこっちに気付いたせいで大変な事になってしまう。
「この悪魔女! ここで何をしてるのよっ!!」
早速ソーナに突っ掛かりだすアクア。
自分がよくも調べずに適当に転生させておきながら、悪魔だったとあとで知ったものだから、基本的にアクアはかなりソーナに攻撃的だった。
「ひっそりとクエストでもしようとしてるのですが……」
めんどくせぇ……。
全員満場でアクアの突っ掛かりに対して思う中をソーナもめんどくさそうにため息を吐きながらクエストをするんだと返すが、アクアの攻撃的な性格はそれでは納得できないらしく、胸ぐらまで掴んできた。
「アンタに嫌がらせする為に聖水を仕込んだ水を飲ませても効果無いし! どうやったら消滅すんのよ!!」
「聖なるものに対する耐性の無さはとっくの昔に『否定』されてますので私は」
「はぁ? 否定? 何を言ってるのか知らないけど、物理で殺れって事かしら!?」
「今の貴方にそれが出来るのであれば……ですが」
悪魔とは対極した存在だからこそ仕方ない部分はあるが、視界に入れる度にこんな絡まれるともなれば鬱陶しいことこの上ない訳で……。
「上等よ、木っ端悪魔なんか私の力で―――」
「……………………」
そろそろイッセーが密かに巨大な釘と杭をスタンバイし始めた時だったか。
本当に物理で殺るつもりなのか、胸ぐらを掴みながら空いた方の手に拳を作って振り上げた瞬間、その拳は止められた。
「やめてくれないか?」
「!」
散々アクアを崇拝していたミツルギが……。
「む、アンタどっかで見たことが……」
「そこら辺の住人ですよ。
最近このパーティにいれて貰った新参者でしてね。自分を拾ってくれた恩人が今まさに暴力を振るわれようとしてるのを黙って見てられなくて割り込ませて頂きました」
そう言ってソーナからアクアを引き剥がしたミツルギ。
悲しいかな、そのアクアに一切覚えられなかったみたいだが、本人に残念な気持ちは無かった。
「貴女こそお一人で何を? 確かお仲間達が居た気がしますがね?」
「あ、それはちょっと別行動中――って、なんで言わなきゃならないのよ?」
「そうですか。ではこの――えーっと……」
「クリスだってば」
「そうそう、このクリスという方を連れてとっととお引き取りくれませんか? お仲間ですよね?」
「……………」
どうせこの分じゃ自分をボコボコにしたライカとかその他も覚えちゃいないだろうな。
と、そんな事を思いながらクリスを連れてさっさと去れと言い放つミツルギ。
多かれ少なかれ、第二の人生のチャンスをくれたアクアには今も感謝してるが、仲間に殴りかかってくるとなればミツルギとて黙っている訳にはいかない。
「……チッ、覚えてなさいよ」
「あ、ちょっと! アタシはまだ――」
結果、ミツルギの妙な迫力に圧されたアクアは悪役みたいな捨て台詞と共に何か言いかけたクリスを連れて去っていった。
「はぁ、やっぱり覚えてすらなかったか……」
ちゃんと去っていくのを確認し終えたミツルギが、大きなため息を吐いた。
あの様子だと楽しくやってるみたいだし、ソーナが絡まれる事を抜かせば放っておく方がベストなのだろうが、なんか地味に傷つく。
「ドンマイ。しかし結局なんだったんだ?」
「あのクリスだっけ? あの人も結局なんだったのかもわからんかったしな」
「めぐみんが居なくて良かった。
居たらきっと更に拗れてましたよ話が……」
「彼も居なかったしな……ライカという名前の男も」
とはいえ、今のミツルギはそんな自分に同情してくれる人たちがちゃんと居る。
なので最初ほどショックは大きくもないし、寧ろこの程度で済んだ事にホッとしていた。
「取り敢えず気を取り直してクエスト行くべ?」
「あぁ、そうだな。
でも本当にアイテムは要らないのか?」
「接種する系の回復アイテムを使うといつも不良品だったりするし、揃えるだけ金の無駄になっちゃうからね」
「イッセーがプリースト代わりみたいなものだし」
頑張れミツルギ。負けるなミツルギ。
ミツルギによって追い返されたアクアは、あとになってムカムカしていた。
「居たわ!絶対に連中の邪魔をして恥をかかせてやるわ!」
そのムカムカが高じてしまったせいなのか、アクアはなんとクエストに出発した五人の後を尾行し、信じられないことに妨害してやろうという暴挙に出たのだ。
しかも、集合させた仲間達を引き連れて。
「こんな事がバレたらギルドにペナルティをされるのに……」
「だからバレなきゃ良いのよ! あんな悪魔女がお金を得て私より良いもん食べてるだなんて嫌よ!」
カズマやイッセー達と同じ転生者であるライカなる男は、出来ることならアクアを止めたかった。
何故なら彼は本当にあの五人とは関わりたくはないから。
(み、ミツルギが色々と変なD×Dキャラのパーティに加入してるなんて……。
性格からなにから俺の知ってる二人ではないけど、下手に関わるのはヤバイ気が……)
だがアクアは止まらないし、更に言えば仲間の一人であるめぐみんも……。
「ぐぬぬ、ゆんゆんがあんなに楽しそうにカズマとか言う人とお話を……。
何故……何故今のゆんゆんを見てるとモヤモヤが止まらないのですかっ!!」
「それは気に入らないからよ! 悪魔女にあの子が騙されてるからよ!!」
カズマと楽しそうに会話しながら目的地に移動しているゆんゆんを見ながら歯軋りしていて、アクアに相当協力的だった。
「どうしたんだあの二人は……?」
「さ、さぁ?」
そんな中でも比較的
「情報によると、墓場に出没するアンデットの討伐らしいわ。
フフフッ、戦闘の混乱に乗じてあの悪魔女に聖歌のパワーをたっぷり込めた特大の聖水をぶっかけて滅してやるわ!」
「お、お前、そんな事をしたら連れの男に殺されるぞ……!」
「へん! あの悪魔女のオマケ共に遅れを取るアクア様じゃあないわ!」
「あっ!? ゆ、ゆんゆんがカズマって人と手を繋いでます!! ゆんゆんの癖に!!」
ただの逆恨み集団みたいになってなくもないが、ライカにしてみれば生前知識の事もあってか、カズマやイッセーやソーナとは本当に関わりたくないのだ。
それにミツルギを仲間にしてる辺り、執拗にボコボコにした事もあってあの全員から自分は嫌われてる気がしてならない。
ゆんゆんがまさかあんな腐った目をしたカズマとああも仲良くなってしまったのは想定外だが、放っておけば普通に関わる事もない相手なので、できればこんな真似だってしたくもない。
「ゆ、ゆんゆんの癖になんなんですか……!
あんなに幸せそうな……ッッ!!」
「め、めぐみんはなんでそんなゆんゆんを……」
だが何故か知識とは違ってこのめぐみんは異様にゆんゆんを気にするし、本人が言った様に、ゆんゆんは今カズマと手を繋ぎながら本当に幸せそうな顔を……なんか寒気がするのは気のせいかどうかは別にしても、しているのを納得できないと言わんばかりに嫉妬している。
思わず訊ねてみると、めぐみんはぎょっとする程に瞳孔の開いた目でライカを睨む。
「ゆんゆんは故郷では変人でいつも独りだったので、私が友達になってあげようと色々としてあげたんです……!
なのにゆんゆんは常に私を避けて、最後の方は私を見た瞬間全力で逃げ出してました。
意味が分からないと思うでしょう? こっちは善意なのにその善意を無下にしたんですよゆんゆんは!!」
「お、おう……」
こいつヤベェ。
瞳孔開きっぱなしな目で過去にあったゆんゆんとの事を語るめぐみんに、ライカばかりではなくダクネスとクリスも引いた。
「それなのにゆんゆんは同族の私は避けてるのに、あんなどこの馬の骨ともさっぱりわからない男とあんな仲良くなってるなんて不条理でしょう!? 見てくださいよ! あんな笑顔するゆんゆんなんて見たことないです私はっ!!!! だから……だから……!」
「お、オーケーわかったよめぐみん! わかったから落ち着――」
「ゆんゆんにちゃんと聞くんです。
ちゃんと聞いて、取り敢えずアクアの言うとおりあの悪魔らしい女の人やオマケの人達に騙されてる事を教えて目を覚まさせるんです。
それに気付いたゆんゆんはきっと私に感謝するので、そこで私は改めてゆんゆんと友達に『なってやる』んですよ。
フフフ、そうなったらゆんゆんとなにしましょうか? きっと私に感謝しまくりで私の言うことならなんでも聞きはじめるから色々とさせちゃいましょうか? 例えばお風呂に一緒に入ったり爆裂魔法の素晴らしさを教えて一緒に修行したり師匠だなんて呼ばせたりしたり。
その時は厳しくしませんとね! なんてたって師匠ですし?泣いても……いや寧ろ泣かせたほうがその顔でゾクゾクできるから泣かせてやりましょう毎日泣かせまくってやりましょう……ヒヒヒヒッ!!」
『……………』
あ、ヤベェじゃない領域だこれ。
流石にアクアも引いたし、目が完全にイッてるめぐみんに全員が満場一致でゆんゆんが逆に危ないことを悟った。
「っ!?」
「? どうしたんだゆんゆん?」
「い、いえ、今強烈な寒気がしたような……」
「大丈夫か? 俺の上着だけど、良かったら着な。
なにかあったらすぐに言えよ? ゆんゆんの友達だからな俺は!」
そんなめぐみんのゾッとする念を受信してしまったゆんゆんは、カズマに上着を着せて貰い、一気に幸せな気持ちになったのだとか。
「カズマさんの匂いがする……ふふっ♪」
カズマに出会ってから、ゆんゆんはそれまでの灰色の人生が嘘みたいに充実していた。
それが例え退化の道であろうとも、ゆんゆんは今確かに言えるのだ。幸せだと。
「仲が良いな二人は。
俺にもちゃんとキミ達の他にも友達ができるかな……」
「大丈夫だろ。
俺達と違って今のミツルギは寧ろ向こうから寄ってくるんじゃねーの?」
「それはちょっと違うだろ。
キミやゆんゆんやイッセーやソーナさんみたいな切れぬ繋がりが羨ましいんだよ俺は……」
出会えて良かった。
見付けてくれて本当に良かった。
ゆんゆんにとってこの繋がりは確かな宝物へと変わっていた。
それを邪魔する奴は誰であろうと許さない。
そんな思いを強く持つ程に……。
「え、そういう風に俺達見えるの?」
「見えるな。羨ましさを感じるくらいに」
「マジかぁ。俺達そんな風に見えるだってよゆんゆん?」
「嬉しい……です……えへへ」
ズルズルと、優しくゆっくりと、ゆんゆんは退化していく。
「センパイ、後ろの連中はどうするよ?」
「邪魔するならそろそろ考え時かもね。カズマ君とゆんゆんの邪魔になるなら……」
「ミツルギ君にもリベンジさせてあげたいしね……」
終わり
マイナスの中に放り込まれても自分を見失わないミツルギは、アンデット相手にその強さをより磨いていく。
「震脚!!!」
地面を思いきり踏み込み、なんと擬似的な地震まで発生させるミツルギは剣術のみならず体術も一級品に成長していき、バッタバッタとアンデット達を薙ぎ倒していく。
間違いなく魔剣を使ってた頃よりパワーアップしているミツルギによってアンデット達は綺麗に昇天した中、彼等と尾行者達は偶々活動していたリッチーの王に出会した。
「リッチー? しかも魔王軍の幹部だって? この前のバニルという悪魔と仲間か……」
「バニルを知っているということはもしかして、貴女がソーナ・シトリーさん……? バニルが……『や、奴によって吾輩はもう……』と絶望してましたが……」
「あら、生きてたのね彼は?」
バニルの知り合いで、最近のバニルが引きこもりになってしまった的な話をリッチーの――ウィズという名の女性から聞いたソーナ達だったが、尾行をされてるのを放置していたアクアが殺気バリバリて突然襲撃してきた。
「滅せよ!! そして、我が金となれぃぃぃっ!!!」
「キャアァァァッ!?!? き、消えちゃうぅぅぅっ!!」
対ソーナ用に、現在のアクアの残された力を総動員させて作成させた聖なるパワーによってマジで昇天しかけるウィズ――の、横で平然としてるソーナ。
「よせアクア!」
とうぜんライカなる男は止めに入るが、既にウィズの身体は首から下までが消されてしまっていてどうにもならなかったしアクアも止める気がまるでなかった。
「ゆんゆん、ふふふ……そこの男に騙されてるかわいそうなゆんゆん。
仕方ないので同郷のよしみで私が助けてあげましょう!」
「めぐみん……! カズマさんに何をする気!?」
「決まってます……我が爆裂魔法で塵にしてあげるのです! という訳でエクスプロージョン―――――」
しかもめぐみんもそれに乗じて取り敢えずカズマを手始めに亡き者にしようと爆裂魔法を発動させたのだが……。
「うるさい」
「ぐぴゃ!?」
何をしても平気だったソーナの見事過ぎる踵おとしがアクアの脳天に刺さり――
「あ、あれ!? 私の爆裂魔法が発動しない……!?」
「危なかったぜ」
めぐみんはカズマのマイナスによって爆裂魔法の発動をキャンセルさせられていてなんとか場は収まった。
「あぁ、私このまま昇天しちゃうんですね……」
だがウィズの昇天だけは止められそうになく、本人は悲しいやら唐突やらで泣くよりも変な声で笑ってしまっていた――首だけで。
「キミ、ライカといったな。
俺達を尾行したと思ったら突然攻撃をしてくるのはどういう了見だ?」
「お、俺は止めたんだよ! だけどこの二人が……」
「止めようとしたことを免罪符にして殺人を正当化させるなよ。
今すぐ連れてこの場から去れ! でなければ俺は仲間を攻撃した理由をひっさげてお前達全員と戦うぞ!!」
「うっ……!(み、ミツルギの癖になんだこの迫力は!)」
そしてミツルギは本気の義憤でアクア達相手に啖呵を切って退散させ――
「え、キミ死にたくないの?」
「えっと、ま、まぁまだ生きたいですけどもう無理かなって……あはは、奇妙な人生だったなぁ……あははは、あれ、涙かしらこれは? うぅ、まだ死にたくないよぉ……人に戻りたいよぉ……!!」
「人に戻りたい……? キミもしかして元々は人間だったの?」
もう消える五秒前のウィズが泣きながらまだ生きたいと言うので……。
「さぁ、皆さんご唱和願いますっ!!!」
「え……?」
「it's reality escape!!!」
流れで取り敢えずウィズが昇天する現実を『ねじ曲げて』みた。
「あ、あれ? 私の身体っ……! 生きてる!?」
「俺達はマイナスであって人でなしではないからね。
まあ、生きたいって言われちゃあね……それにバニルって悪魔の話もまだ終わってないし」
現実をねじ曲げるマイナスが他人の役に立った初めての事例。
「思い入れとか、信念とか俺達にはよくわからないからさ。
ついでにキミを『人間』にねじ曲げた。怒らないでよ? 俺達は悪くないんだから」
「に、人間に戻った……?」
彼女はこんな簡単に、嘘みたいに、神を相手にしてもヘラヘラ笑うマイナスによって人に戻るのだ。
「キミ、ちょっとゼノちゃんとロスちゃんに似てたからついね」
「ゼノちゃん? ロスちゃん?」
「確かに二人に似てなくもないかしら?」
もっとも、その理由が泣き虫な女の子に似てたからという理由だったからであって、別にウィズがどうとかじゃないのだけど。
「あ、年上だったんですね……」
「ち、違いますよ! い、一応二十歳ですよっ!?」
「すいません、偉そうにタメ口で」
「本当に構いませんからっ! やめてくださいよ! 年増とか思わないでっ!!? 行き遅れとか思わないでっ!!」
「あぁ、このすぐ泣く所とかも似てるわねゼノヴィアさんに」
「逆に気になってきたんだけど、その二人の事……」
「む……女の人らしいですけど、気になるんですかカズマさん?」
すぐ涙目になるところはゼノヴィアに……。
「い、今私の胸触りましたよねっ!?」
「さわってないっす。マジで勘弁してくださいよ……」
「に、妊娠しちゃう……せ、責任を!!」
「あ、ここはロスヴァイセね……」
変な固定観念がロスヴァイセに。
結局、ノリと流れで助けてもマイナス故に良い方向には向かわないのがイッセークオリティなのだった。
「人間に戻った……ふ、ふふふ! この人のお陰で私はもう人間に……!」
「……………………………」
「余計な事をするんじゃなかった……って顔だなイッセー?」
「俺ってホントバカだよな……はぁ」
嘘だよ
補足
めぐみんェ……
その2
この転生者はマイナス相手に当たり前に持つ嫌悪感があり、できればマジで関わりたくないけど、ギャグ補正引っ提げてる周りのせいで巻き込まれてるみたいです。
もっとも、ミツルギ君に若干びくびくさせられてしまうっぽくてアレだけど。
その3
まあ、嘘だけどね。
ゼノちゃんとロスちゃんがブレンドされたみたいなウィズさんに追いかけ回されるイッセーなんて見たかないでしょ? すぐ取っ捕まるだろうし。