ここ最近、北郷軍の活動拠点界隈で不審者の報告が相次いでいる。
それは変な仮面を付けた二人組の事――ではなく、何かを探ろうとする者達であった。
「ここ最近、不審者が相次いで目撃されている」
『…………』
それが何者であるのかは既に確認済みであり、北郷軍の実質トップである一刀は所謂組織の幹部クラス達を集めて話をしていた。
「その不審者は幸いにも一誠が捕らえて尋問してくれたお陰で、正体も発覚したが、同時に抜き差しならない状況である事もわかった。
どうやら月の時の様に今度は俺たちが『敵』になった」
その席にはかなり珍しい事に、一誠が参加しており、一刀に目線を向けられると同時に口を開く。
「スパイ――あーいや、諜報員? この時代では何て表現するかは分からないけど、ソイツを捕まえて吐かせた話だと、どうやら曹操ってのも孫堅ってところの勢力が同盟を組んだらしい。
その勢力には俺の友達も其々居る」
「一誠さんと同等の力を持つ方達ですよね?」
「いや、同等以上と仮定してくれて良い。
とにかく戦闘になるなら実質二人を同時に相手取らなきゃならない時点で不利なのは間違いないしな」
「それって前に一誠さんが暴走した時みたいな……」
「まあ、そういう事だ。
だが前みたいにはならない」
戦争となれば、実質一誠と同等かそれ以上の二人を相手にしなければならないという現実に少々不安に思う面々。
妖術めいた力で数千の兵を一撃で消し飛ばせるという事を知っていれば誰だって不安に思うのは仕方ない事だ。
それ以前に、一誠はその二人を相手に敗北すらしているのだから。
だが一誠は『前と同じようにはならない』と同時に言った。
何故ならあの時持っていなかったものを一誠はある程度取り戻せているし、なにより――
「恋が居るからな。
前みたいには絶対にならないし、俺も少しだけ頭を冷やすさ」
「…………」
本来なら掴む事のない領域を掴み、凄まじい成長速度で今の一誠と同等の領域まで進んだ恋が今度は居る。
そして何よりドライグが――
「ドライグとの意思疏通を復活させられた今、あんなバカな真似はもうしない」
左腕全体に龍帝の力を纏いながら一誠は言う。
「後は敵戦力を事前にどこまで削げるかだ。
それは頭の良い君達に任せる」
今度の喧嘩は勝つ。
冷静に、熱くならずに、クールに勝つ。
ドライグという精神的な支えを蘇らせた一誠は今とても冷静そのものだった。
さて、そんな冷静さを割りと取り戻した一誠に対して、以前よりはそれほど怖がらなくなった北郷軍の幹部達だが、彼が冷静になればなるほど平行して恋との仲が縮まっている事に対してかなり複雑な心境を抱く者が居ることもまた事実だった。
「俺が思うに北郷君。
戦争に発展した場合の町の人たちの安全を考えて地下豪を作るべきだと思うんだが」
「巨大地下シェルターか……。
けど作る時間はないぞ?」
「ある程度掘る作業は俺がやる。
ドライグが言うには、ここいらの地盤はかなり固いらしいからな」
「よし、可能な限りの人員を手配してみよう」
ドライグが復帰してからの一誠は、以前の様な棘のある雰囲気も大分無くなっている。
それは別に良いことなのだが、その理由となったモノの中には恋が大きく関わっていて、また見ててわかる通り、一誠は恋に対してかなりの信頼を寄せ始めている。
何度も言うが、その事自体を悪いとは思っていないけど、やはり棘だらけだった時でも彼の内面をフィーリングで察知して慕おうと頑張ってた者達――主にチビッ子達にしてみればあまり面白いとは思えない訳で。
「あのー……やめにしません? こんな隠れて一誠を見るだなんて真似は」
実質一誠がほぼ心を開いてる者の一人である音々音は、一刀と何やら話をしている一誠を数十メートル離れた物陰から伺う連中達の中に混ぜられた状況の中、じーっと見てる者達に向かってやめないかと、珍しく大人な対応をしていた。
「ねねはどうせ家に戻れば何時だって一誠お兄ちゃんの傍に居れるからそんな事が言えるのだ」
「そ、そうですよっ! 私達なんてお話出来るかどうかもわからないです!」
「だからこうやって機を伺うしかないんですっ!!」
「最近会えないし………」
ねねを含めて見事にチビだらけという面子。
その面子はお察しの通りの面子であり、ねねの提案に対して若干嫉妬めいたものを醸し出しながらやめることをやめないと宣言している。
「鈴々が一番最初にお兄ちゃんと知り合えたのに……」
「私はその次なのに……」
「私だって雛里ちゃんと同じ頃だったのに……」
「最近璃々とも遊んでくれない……」
「いや、一誠も忙しいから仕方ないのでは……?」
ブツブツ言ってるチビッ子達にねねは本当に一誠ってチビッ子に好かれやすいな……と、自分の事を棚に上げて思った。
言われてみれば、それが当たり前になっていたから指摘されるまで思わなかったけど、確かに自分の居る位置はこのチビッ子達にしてみれば、おいしい位置なのかもしれない。
かくいうねねもかなり一誠に優しくされてるので。
「かといって一誠をこんなこそこそ尾け回すのというのはどうなんですかね?」
「じゃあ普通に行って一誠お兄ちゃんが相手になってくれると思う!?」
「普通に訪ねれば最近の一誠なら相手になってくれると思うけど……」
「じゃあ閨は!?」
「それは無理だと思いますが……」
何を言っているんだコイツ等は……とねねは呆れてしまう。
そもそもそこまで一誠に相手にされてなかったのに、そこまで拘る理由があまりわからない。
「まだ流れ者だったときに一誠お兄ちゃんがお腹を空かせた鈴々の為に食べ物を持ってきてくれたもん……」
「本が読めなくて困っていた一誠さんに読み方を教えたら『ありがとう』って言ってくれたもん……」
「危うく矢で射抜かれそうになった所を助けてくれたもん……」
「川に連れてってくれて遊んでくれたもん……」
「……………………」
えぇ……? ねねはブツブツと其々なんかしらの理由を言うチビッ子達に引く。
そんな事で……? というか、その当時の一誠の状況を考えたら、そこに居なかったねねだって『単にめんどくさくて適当にあしらう為の建前だった』とすぐに解る。
「そもそも以前断られてませんでした?」
「? 断られたってなに?」
「そんな話あったっけ朱里ちゃん?」
「はて、全然記憶にないよ雛里ちゃん」
「なんの事だろうね?」
「…………………」
コイツ等やべぇ。
ねねは直感的にこのチビッ子達が、自分に都合の悪いことを記憶から消去している事にますますドン引きする。
まあ、逆立ちしたってこのチビッ子達が一誠に対して無理矢理だなんてのはありえないので、思わせるだけ勝手に熱が冷めるまで思わせておけば良いと思う。
「むっ! ご主人様と話し終えたらしいのだ!」
「町の方にむかってます!」
「行きましょう!」
「おー!」
「……………」
ただ、この行為……(現代的な表現をするならばストーカー)だけは止めさせないとダメな気がすると思ったねねは、町の中へと消えていった一誠を追いかけるチビッ子達の後を追うのであった。
そして町へと入った一誠は通りをテクテク歩いていた。
「あ、一誠様!」
「今日はお一人ですか?」
「一人だけど、様付けはやめてくれません? なんかむず痒い」
結構慕われてるのか、老若男女――いや、子供達から多目に声を掛けられている一誠。
どうやら恋かねねが居ないことを不思議がられているらしい。
「今日は呂布様や陳宮様とはご一緒ではないのですか?」
「え? まあ、二人も忙しいみたいなんで……」
常に恋やねねと居ると町の人達からも認識されてるらしい。
実はすぐ後ろにそのねねがチビッ子達に巻き込まれる形で居るとはどうやら気付いてない様だが……。
「いや、すぐ後ろ居る」
この人だかりながら多少近づいてもバレないだろうと思って気を緩めたその瞬間だった。
ぐるりと振り向いた一誠の両目が完全にこそこそしていたチビッ子達を捕らえていた。
「「「「うっ!?」」」」
「……はぁ」
あーあ、見付かっちゃった。
蛇に睨まれた蛙みたいに硬直してしまうチビッ子達とは反対に、やれやれと首を横に振るねねは、近付いてきた一誠に事情をとりあえずチビッ子達に代わってしてあげた。
「後を尾けていたのはまず謝ります。
どうもこの人達は一誠と遊びたいらしいのです」
「は? 昨日缶けり遊びを教えてあげたじゃん」
「そういった大勢で行う様な事じゃないだそうです」
「「「「………」」」」
ねねの思わぬフォローにちょっと驚いてる四人は、恐る恐る一誠を見上げると、一誠は『ふーん?』と四人を見下ろしている。
「俺今腹減って、飯を食べようと思ったんだけど……よかったら来るか?」
「「「「!?」」」」
これが大人だったらきっと『あっそ、俺今これでも忙しいんだ』とでも言って煙に巻いてたのだろうが、相手がチビッ子達だったからもあってか、ご飯を食べに行くのを誘ってきた。
「それは一誠の奢り?」
「ガキに出させるかよ。
俺この時代だと意外と小金溜め込んでるんだぜ?」
「なら同席してやりましょう。
で、どうされますか皆は―――」
『行く!!』
「――――だ、そうです」
「? 皆腹でも減ってたのか?」
「いえ、そうではありませんが……」
当然行くと即答というか、必死さまで伝わってくる四人にねねはため息を吐いた。
一誠がまるで意図を察してないというのも含めて。
「えーっと、時間掛かっても全然構いませんので、ここで出す料理を全部一品ずつください」
そうこうしている内に、チビッ子達を連れて、よく一刀と行ってはベロンベロンに泥酔する料理屋へとやって来た一誠は、全員を座らせてから店の主人に全品を注文する。
「これでコーラやらクリームソーダがあったら最高なんだがなぁ」
「? こーら? くりーむそーだ?」
「な、なんですかそれは?」
「んぁ? あぁ、ねねには話した事があったからつい普通に言っちまった。
アレだアレ、俺や北郷君が居た時代の飲み物の名称だよ」
「はわぁ……ど、どんなお飲み物なんでしゅ!? ……うぅ、か、噛んでしまいましたぁ……」
「言いたいことは伝わってるから大丈夫だ。
えっと、どんな飲み物かって話だけど、アレだ……飲んだから口の中が弾ける」
「は、弾ける!? き、危険なお飲み物なのでしょうか?」
「弾けるっても、危険なもんじゃないよ。
寧ろこう、のど越しが良くて何度も飲みたくなる…
「何時か飲んでみたいのだ」
「この時代で再現するのはかなり難しいな」
未来の飲み物で結構話が膨み、そうこうしている内に大量の料理がテーブルの上を彩ると、一誠は一応手を合わせてからバクバクと食べ始める。
「最初は昔の食い物なんか絶対に薄味で不味いとか思ってたけど、慣れてくると中々イケるぜ」
「一誠の場合は味より量じゃありませんか……」
「まーね、よくわかってるじゃん」
「そりゃあ一緒に居ればわかりますよ」
育ちがそうさせたのか、本来の時系列の一誠よりも遥かに食い意地が張りまくっており、出てくる料理を片っ端から平らげていく。
「? 早く食ったら? これ一応俺が金出すから遠慮すんなよ?」
「あ、じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」
「す、凄い……一誠さんと一緒にご飯食べてる」
その内チビッ子達も一緒になってチビチビとご飯を食べ始める。
基本的に飯を前にしている一誠の機嫌は結構良いのだ。
「こうなるなら恋も連れてきてやりゃあ良かったかな」
「あー……まあ、たまには良いのでは?」
「? ねねがそんな事を言うのも珍しいな?」
「まー……はい」
恋を同席させたら変な空気になるからと思っていたねねの曖昧な顔に一誠は首を傾げながらもバクバクと食べる手の速度を緩めない。
「一誠さん、何時ものお酒は?」
「はぇ? あ……いや、良いです。
今日はそんなつもりで来た訳じゃないので」
その内店主らしき者から酒を出そうかと言われるが、酒自体が強い訳じゃない一誠は、泥酔してしまって子供達に変な真似をしてしまうかもしれないからと丁重に断る。
「? 飲まないの?」
「別にそんな好きじゃないし、強くもないし。
あれ誰だっけ? 昼間っからガボガボ飲んでる――えーっと……」
「厳顔殿の事ですか?」
「そうそうその人。
フッ……かなり前に泥酔させてから持って帰ってやろうと北郷君を利用して勝負したけど、気付いたら知らん雑木林の中に一人で寝てたからな……。
俺はあのおねーさんみたいに強くねーわ」
「お持ち帰りって……それは一体どういう意味でしょうか?」
「今後の学の為に聞いて置きたいです……!」
「やけに食い付くなキミ達は……?
いや、まぁ……なぁねね?」
「こっちに振らないでください! それと不埒ですぞ! 恋殿を裏切る気ですか!?」
「いや、当時は恋とも知り合いですらなかったし……」
「今後は絶対に駄目です! もし恋殿を泣かせたら……」
「わ、わかったわかった!」
ねねにちょっと圧倒される一誠。
「ま、まぁ大人になればわかるよきっと……。俺からはそれしか言えねぇ」
「「………」」
「そういえば少し前までのお兄ちゃんって、桔梗とか紫宛とかによく声を掛けてたのだ」
「まあ、女の趣味が年上だったからな……あははは」
「ふーん、おかーさんをそんな目で見てた事もあったんだ?」
「この話を璃々のお母さんには内緒な? 甘露あげるから。
それにどっちも北郷君の方が魅力的だったらしくて断られたからね、あっはっはっはっー!! ……………はぁ」
趣味が人妻、未亡人、年上と固定されていた一誠が、豪快に当時の撃沈エピソードを笑い飛ばしながら語ると同時にため息を洩らした。
「えっと、どうして年上の方が?」
「んぁ? あぁ、これはもう過去の話でもうどうでも良い話なんだけど、初めて好きになった女の人――いや、人ってのはちょっと語弊はあるけど、とにかく女の人が年上だったからかな……。一発で失恋したけど」
ちょっと遠い目をしながら話す一誠。
彼の女性遍歴がこれで少しだけわかったチビッ子達はなんで自分達が一誠より年上じゃないのかとちょっと神を呪った。
「まあ、年上に変な理想を求めてただけで、結局年上とかそんなん関係なかった訳だけどな」
「! という事は今は年が下の女性でも……!?」
「へ? あぁ……さぁ? もうそういう考えはしたくなってるからわからん」
恋の事もあるのか、今の一誠はあまりそういう話に関心を示さない。
「本当、人生ってわかんねーな。くくく……」
『………』
当初、勝手にズカズカと自分の心の中に入ってきた恋を殺してやりたいと思うほど憎悪していた事もあったのに、気付けば自分は恋の事を受け入れてしまっている。
恋が本気で殺そうとする一誠をそれでも受け止めようとした心の強さがあっての事なのだが、一誠はそれが面白くてつい笑ってしまう。
「前にも言ったと思うが、もう一度教えてやるよ。
誰かに恋をするなら俺みたいな死ぬほどめんどくさい奴だけはやめとけ」
「む……どうして?」
「俺はな、いろんな意味を含めて一度『好き』になった相手を手離さない主義なんだよ。
例え相手が嫌になって俺から離れようとも、俺は地平線の彼方まで追いかけて絶対に連れ戻す。
……な? めんどくさいだろ?」
「それは逆にごほうびなのでは……?」
「子供にはそう思えるみたいだが、実際体感してみろ……死ぬほどめんどくせぇはずだぜ?」
「そんな事はないとおもうけどなー」
まだ子供だな。一誠は首を傾げるチビッ子達に思いながらお茶を飲む。
自分の気質を端的に感じ取れたからこそ大人というか年上達は断った筈であり、現にそういうめんどうさがまるで無い一刀がモテるのはそういった思いやりがあるからだ。
一誠にはそれが完全に欠けている。
「だから恋が本当に不思議だよ。
ホント……くくく、だからもうあの子も手離さない……例え俺に愛想を尽かそうがどこにも逃がさない―――――くくく、クククッ!」
彼は彼が受け入れた者しか愛さない。
そして決して手離そうとはしない。本人の意思などまるで関係ない。
失った恐怖が一誠をそうさせている。失ったトラウマが彼の執着心を強大なものへと変えている。
これが一誠の強味でもあり、そして致命的な弱点でもある。
しかし子供にしてみれば、その泥沼みたいな執着心が純粋に見える。
だから彼は子供に好かれやすいのだ。
一度受け止めた相手にどこまでも尽くし、時にはその命を懸けて守ろうとするヒーローみたいな気質に思えて……。
「だからこういう男には引っ掛かるなよ? 棒に振るぜ将来を?」
『…………』
それを正直に言ってしまうからこそ、そして彼が見せる然り気無い気遣いがあるからこそ、チビッ子達には魅力的に思えてしまう。
「以上、
その思いが彼の異常さをより異常たらしめていくのだ。
「フッ、もう消えたと思ってたが、この感覚は久々だな……」
「? 何の事ですか?」
「ん? ふふ、その内解るよ……その内な」
一度壊された心と共に小さく萎んでしまった精神の力が蘇っている。
ねねに対して意味深な台詞を言いながらパクりと食べる一誠はちょっと笑っていた。
兵藤一誠
全盛期の10%程度。
赤龍帝の籠手(ギリギリ禁手化)
あらゆる環境・状況・力に対して即時に適応し、糧として永久の進化を促す。
自身が受け入れた者を自身の領域まで引っ張りあげる。
「腹五分目って所だな」
「アレだけ食べておきながらまだ食べる気なんですか……」
「いや食わんさ」
自分みたいな変な男にだけは絶対に引っ掛かるなと忠告したが、実の所余計に惹き付けていた事を自覚していない一誠は、チビッ子達を送り届けた後、ねねと共に自宅へと戻っていた。
そこには既に恋が、拾ってきた動物達と戯れて待っていた。
「おかえり……遅かった」
「ああ、悪い。チビッ子達と飯を食べてたもんで……」
「チビッ子……? あ……うん」
とてとてと小動物みたいに寄ってきた恋の頭を撫でながら、家の中に入って軽装に着替えると、わざわざ作らせた縁側で星を眺めながら一服する。
「事の始まりは一誠の後を尾行しにいった事に始まりまして……」
「別に大丈夫。ただご飯を食べただけでしょう?」
「それ以外にする様な事なんて無いしな」
「でも一誠は厳顔殿や黄忠殿に以前不埒な真似をしようと画策していたらしいですぞ!」
「お、おい! 言うなよ!?」
「恋殿に隠し事はよくありまけんからねっ!」
「不埒……?」
「違う違うっ! まだ恋やねねと知り合う前の話だよ! それに今となっては別になんもやろうとも思ってないから……」
「なら……良い」
「ほっ……」
ねねの告げ口でちょっと焦った一誠だが、あっさり許して貰えたっぽいのでホッとする。
『くく、随分と変わったなイッセー?』
「茶化すなよドライグ……」
『茶化してはいない。
俺にとっては結構良い傾向だと思っているからな』
「今やったらちんきゅー飛び膝蹴りを食らわせやりますからね」
「イエッサー」
イッセーがあの二人以外とこんな他愛の無い会話が出来る日が来るとは。
涙は流せないけどちょっと感激してしまう乳ドラゴンならぬ父ドラゴン。
もっとも、このドライグも最近表に出てこいと星辺りにせがまれるので別の意味で大変なのだが……。
「ふわぁ……なんだかねねは疲れちゃいましたー
ドライグ殿、寝る前に未来のお話をしてくれませんか?」
そうこうしている内に夜も更け、欠伸をしたねねが突然イッセー――じゃなくてドライグに未来の話を寝る前にして欲しいと頼み始めた。
「? そういう話なら俺が――」
別にドライグじゃないとできない話ではないし、寧ろ現代っ子な分一誠の方が知識豊富なので、一誠がそう言おうとした瞬間、ドライグがさっさと一誠の中から実体化する。
「構わんよ。
じゃあ場所を変えるぞ」
「ではねねの部屋で」
「わかった」
そしてドライグとねねはさっさと行ってしまう。
あまりにも二人だけでさっさと話を決めて行ってしまったので、一誠はポカンとしながら見送る事しかできなかった。
「なんなんだアイツ等?」
そう言いながら横に居た恋に『なぁ?』と振ると、恋が突然身を寄せてきた。
「…………」
「お、おう? どうした?」
いきなりだったのでちょっとドキッとしてしまう。
いくら強くても、得物をぶんまわしても恋の身体は女性の体つきなのでやわっこく、とても良い匂いがする。
「……一誠、行こ?」
「そういう事か、二人して変な気を使いやがって……」
ここでやっとドライグとねねの意図が掴めた一誠は、恋が頬を染めながら身体を寄せてくるのを受け止めながら苦笑いを浮かべる。
「よっと」
「おいで……一誠……」
恋の身体を抱え、決して何人足りとも踏み込むことを許さなかった筈の己の部屋に連れ込むと、敷いてあった寝床に恋を一旦降ろし、そのまま彼女を抱きながら押し倒すと、一誠は甘えるようにその胸に顔を埋める。
「悪い、暫くこうさせてくれ。
なんか落ち着くんだ……」
「………うん」
暫く甘えた一誠とそれを受け止めていた恋の影が重なる。
恐らく、遠くない未来に二人の命が宿る筈だと……。
終わり
正直言って彼女達はショックだった。
確かに先に裏切ったのは己だし、あの男に何かをされてしまったのも事実だった。
けど、だからといってやり直す事すら許されないのはあまりにも酷だった。
「調査の結果、確かにイッセー先輩の居る自宅には赤髪の女性と二人の子供とお手伝いさんだと思われる人が一緒に住んでいます」
「そ、そう……」
「それもその……幸せそうでした」
「………」
全てから解放された時には全てが遅かった。
一誠が白龍皇と曹操と名乗る神滅具つかいの男と共にあの男を殺して呪縛から解放された瞬間、己のやってきた事に発狂しかけ、落ち着いた頃に思い出したかの如く一誠を探したがどこにも居ない。
そして発見した頃には見知らぬ……それもリアスに似た髪の色をした女性と結婚をして家庭まで築いていた。
「戻ってきて貰うのは不可能だと思います……」
「で、でも戻ってきて貰わないと私達の今後はどうなるの!? イッセーさえ居たらあの時の様に強くなれるのよ! そうなれば私達をバカにする周囲を黙らせる事だって……!」
だがそれでも彼に戻ってきて貰いたい理由はひとつ。
彼の他人をも引き上げる特性に惹かれていたから。
それは同時に一誠自身の事はまるで考えていないと吐露するのと同じであったが、ショックが大きすぎてその事に気付いていない。
「ヴァーリ・ルシファーと曹操という人もどうやら其々家庭を持っているらしいですが……」
「そんな二人の事なんてどうでも良いわ! イッセーよ肝心なのは!」
「………我が昔イッセーに分け与えた無限も投げ返された」
オーフィスも感情に乏しいが、明確に拒絶されたというのは理解しているのか、元気がない。
しかし嘆いた所で現実は変わらない。
やってしまった過去も変えられない。
大きめな家の庭で双子らしき子供達と笑顔で遊んでいる一誠や、それをほほえましく見守る謎の女の形成するコミュニティに入れる訳でもない。
「ふーん、アレがヴァーリと同じ―じゃあないわね。純粋な悪魔なのね? 想像していたのとはちょっと違うわ」
「あまり関わる事はお薦めできないとだけはいっておくぞ」
「言われなくても関わらないわよ。
別に用も無いし、あるとするなら私達に余計な真似をしないでと釘を刺すくらいかしら?」
「ああ、そうだな華琳」
「ま、それより次の子を作るわよ。
嫌とは言わないわよねヴァーリ?」
「は……はい」
そこには恋と同じく帰還の際に、ヴァーリに付いてきた華琳
「未来の酒は美味いなぁ! なっはっはっはー!」
「だから飲み過ぎ――うぷっ!?」
「つれねーこと言うなよ神牙ァ? おら雪蓮達も今の内に脱がせろ脱がせろ!!」
「ぎぇぇぇっ!?!?」
なんかもう大変な子沢山になってる曹操こと神牙も居るし。
「ひ、久々に飲んだ炭酸飲料がこんな美味いなんて!」
「それにしても空気が汚れてますね、未来の世界というのは……」
「でも便利だよ。
ほら、遠くに居ても会話が出来る箱とか」
なんかついでに来ちゃったボスとその仲間達も居るし……。
「だ、第一あの女達はなんなのよ!?」
「さ、さぁ……私達にもよくは……」
彼等の形成するコミュニティに入ることなんて、もう無理なのだ。
嘘だよ
補足
過去が過去なので、受け入れた相手に対する執着心が多分一番強いですね。
だからそれを受け入れられる強さがないとまず滅入ります。
恋ちゃまはまさにその壁を簡単に乗り越えてきた子なんです。
その2
多分ご懐妊したら一番喜ぶのはこのパパドラゴンかもね(笑)
その3
仮の話、
もし帰還組が他に居たら……。
ヴァーリくん……ナチュラルハーレム。
曹操くん――肉食だらけハーレムで食われて神牙一族でサッカー対戦可能なレベルの子沢山。
……なんてね。