色々なIF集   作:超人類DX

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一誠くんが進化の繭を突き破り始めた頃。

彼はその気配を遠くで察知した


金色の覇王と白き龍皇

 俺の身体には人ではない血が流れている。

 そして俺の身体には人の血も流れている。

 

 半端者……それが俺の課せられた運命だった。

 

 人である事を望んでも、身体に流れる人ならざる者のか血が許さない。

 

 人ならざる者であることを選べば、差別の対象として蔑まれる。

 

 どちらにも為れぬ半端者。

 

 俺が人と悪魔の間に生まれた俺の宿命。

 

 

 だから俺は最強を望んだ。

 頂きに上り詰める事しか生きる意味を見出だせなかった。

 強くなって己を守らなければ生きる事も儘ならなかった。

 

 母は死んだ。

 父も死んだ。

 

 そしてその父の父――俺にとって祖父であるあの男は俺を見て嗤った。

 全く憐れんでない癖に、如何にも俺が可哀想だと嘘泣きまでしながら俺を嗤った。

 

 その時点で俺は『この世のカス』なんだと心を歪ませていった。

 その祖父に笑われながら放り捨てられ、その後アザゼルという堕天使に拾われて、奴の興味対象である神器研究の素体として生きる事になっても希望なんて抱く方が無駄で無意味だと心を腐らせていくのと同時に、その本心を隠す様に俺は『戦うことでしか自分を表現できない男』を演じる様になっていった。

 

 何故ならそうした方がこの腐っていく精神を忘れられるから……。

 

 

『悪魔は悪魔らしくね……。

本当にその通りだと思うぜ、俺もそんな悪魔に利用された挙げ句このザマだからな。

でも、たまに思うんだよ、じゃあ悪魔の悪意に人は勝てないのかってさ。

結論は出たよ――――割りと勝てる』

 

『悪魔を倒すヒーローってカッコ良いと思うんだ。

もっとも、アンタに対しては友人を『侮辱』したからって理由だが。

ひとつ人間の事を教えてあげようか悪魔さん?

この世でもっとも大切な事は『信頼』であり、忌むべき事は『侮辱』だ。そして『侮辱』という行為に対しては殺人も許されると俺は個人的に思っている。

アンタは最初から信頼もへったくれも無く俺達の友人を『侮辱』した……………つまり――』

 

 

『『判決――お前は死刑だ中二ジジィ』』

 

 

 でも俺は出会った。

 同じ様な運命を辿る友人二人を。

 運命を受け入れるのでは無く、抗う二人と。

 一人は俺と殺し合う宿命を持つ男。一人は英雄であることを誇りに生きる男。

 

 

『宿敵とかそんなもん俺達の次の世代にでも託しとけってんだ。

とにかく飲め、ジャパニーズヤクザ風の五分の契りごっこしようぜ』

 

『ハーフ悪魔だからと後ろめたい事を思っているのなら心配するな。

俺達はお前個人と友達になりたいだけだ。生まれとか育ちなんて小さい事だよ』

 

 

 本当なら敵同士になっていてもおかしくはなかったのに、俺達は『友』となった。

 そして運命に抗う覚悟を誓い、共に強くなった。

 

 それは決して楽な道のりではなかったけど、覚悟と友が居る限り俺の腐敗した心は癒されていった。

 

 暗闇の荒野に己の足で進むべき未来を切り開いていく覚悟。

 それが俺達の生という不確かなものに対する答えへとなって……。

 

 

 これからもそれは変わらないと俺は思っていた。

 

 だが運命は俺達三人を奇妙な冒険へと放り出した。

 

 神牙の先祖が生きる――しかもどうやら性別がほぼ逆転した変な世界に。

 

 しかも三人がバラバラに飛ばされて。

 そして何よりどうしようとフラフラしていた俺を拾ったのがあの――――

 

 

 

 

 

 ルシファーという忌む血と決別するという意味でただのヴァーリとなった暗い銀髪と蒼い目をした少年。

 始まりはとてもくだらない何時もの喧嘩だったのに、少年は不可思議で奇妙な世界の大地へと降り立った。

 

 そしてそこで出会った者は――なんというか、どうリアクションして良いのか微妙にわからない者達だった。

 

 

「……。一誠から強い力の波動を感じる。

どうやら一番燻っていたアイツに何かがあったらしい」

 

 

 許昌なる前時代甚だしき古代中国の街を治める、これまた前時代どころじゃない大きめの建物のとある大部屋。

 21世紀の現代っ子である筈のヴァーリは今そんな場所に留まっているのだが、そんな彼の声に対して大きな椅子に座る金髪を巻いた美少女と呼んでも差し支えがまるでない少女が『へぇ?』と声を出す。

 

 

「貴方の友人の一人の、北郷という男が持つ勢力に居る者ね?」

 

 

 妙に態度が偉そうな少女だが、事実本当にここいら一体を支配下にしているボス的な存在である。

 それと元々そういう気質というのもあるが……。

 

 とにかくそんな少女にヴァーリは頷く。

 

 

「ああ、その通りだよ」

 

 

 ここに来てから少し伸びた銀髪を揺らしながらヴァーリは少女に忠告する。

 

 

「孫堅だったか? 神牙が今居る所と連合を組んで天の遣いとやらを潰すのであるなら、さっさと事を進めるんだね」

 

 

 事実偉い少女に対して対等な物言いで話すヴァーリに対して少女は特に不快になる事もなく、どうして? と返す。

 

 

「貴方と彼と組めば抑え込められるのではないの? 事実突然大暴れした時は抑え込めていたじゃない」

 

「あの時は一誠の精神状態がほぼ錯乱していて精細に欠けていたからなんとでもなっただけだ。

言っておくがもし三人互いに何も無い全開状態で戦えば一番個人の戦闘能力が高いのはアイツだ」

 

「…………貴方が素直に認めるなんて珍しいわね」

 

「事実だからな」

 

 

 傷ついた獣の様な荒々しい殺意を以前直接ぶつけられた事があった少女は、ヴァーリが冗談でものを言っている訳ではないと理解すると、直ぐに近くに居た腰元的な者に指示を出す。

 

 

「全員ここに来る様に伝えて来なさい」

 

 

 抱えていた数千レベルの兵を一撃で破壊された経験があった少女は、ヴァーリから聞いた話を胸に以前から進めていた事を一気に達成させる決意を固める。

 

 

「大きな戦いになりそうだわ……」

 

「例のお遣いとやらの組織した軍は、俺達の時代でいう民間軍事会社に似ている。

一誠はそういう事はしないタイプだし、恐らくはその彼が発案させて組織したのだろう」

 

「ええ、そろそろ目障りだと思っていた所だし、ちょうど良いわ」

 

 

 自分の軍に比例しうるばかりか、この時代においては画期的過ぎる北郷一刀の組織の影響を削ぐ。

 少女――曹操は彼女が信頼する武将や武官達を集めてヴァーリから聞いた話を説明した。

 

 

「集まって貰って早速だけど、天の遣いが作り上げた軍は最早無視出来ないものへとなってしまったわ。

……一度見た時はそんな才も素養も感じられなかったと高を括っていた私のせいね」

 

「そんな! 華琳様のせいなどではございません! そもそもヴァーリ! お前の友人とやらが居るからと華琳様は慈悲を与えてくださったのだぞ!」

 

 

 自分の落ち度だと話す曹操――真名を華琳という少女に対して彼女を敬愛してやまない者の一人、夏侯惇という女性が無言で華琳の後ろに立つヴァーリを睨んで食って掛かる。

 

 

「どう責任をとるつもりだ!」

 

「……。一誠が向こうの勢力に所属していた時点で、どの時期だろうと潰すのは容易ではなかった。

偶々俺と神牙のもとへと来て話を断ったあの時ぐらいしか強いて言うなら機はなかったが、あの時こちらの兵力は暴走した一誠に軒並み消されただろう?」

 

「……………ぐっ」

 

 

 全身から赤いなにかを放出し、手から妖術めいたなにかを手当たり次第ばらまきながら自分達の戦力を消し飛ばしていた現場は彼女も間近で見せられたし、何ならその一誠という男に『殺してやる』とまで言われた。

 

 あの時はこのヴァーリと江東に居る神牙という男が押さえ込む事でこうして生き残っていたが、居なかったらと思うと夏侯惇は悔しそうに歯を食い縛る。

 

 

「あの消された兵を再編成させていたこの間に、どうやらヴァーリが言うには彼の力はある程度――理由はわからないけど取り戻したみたいなの。

つまりこの前よりもさらに彼等を潰すのは容易でなくなったわ」

 

「で、ですから尚更ヴァーリに責任を取らせるべきです! 元々コイツの友人だからという理由で華琳様がご苦労をなされて――」

 

「見逃さないで進軍させていたら、きっと今こうして話し合う事も出来なかったと私は思う。

あの戦力に対抗できるのはウチではヴァーリしか居ないわ」

 

「姉者。

言いたいことはわかるが、ここは抑えた方が良い。

姉者だって当時天の遣いの男を見た時はここまで大きくなるとは思っていなかったのだろう?」

 

「ぅ……」

 

 

 すぐ隣に居た夏侯淵という女性が宥める様に言うと、ようやく春蘭という真名を持つ女性は落ち着く。

 確かにあんな人とは思えない殺意と不可思議な術めいた力に対抗可能な者はヴァーリしか居ないのだ。

 

 

「ですが、野放しにさせてしまった原因は彼にもありますので。

やはり責任を彼に持たせるべきだと思いますわ」

 

 

 そんな中、手を挙げながら発言したのが華琳にどことなく似ている少女、曹洪という者だった。

 真名を栄華というこの少女は基本的に軍の経理的な担当なのだが、ヴァーリをある程度深い所まで知っているという事で今回出席していた。

 というか、今集まっている面子はヴァーリが何者で、どこから来たのかを知る者達のみである。

 

 

「あの事件のお陰でどれだけ我が軍の経済に打撃を与えたか……」

 

「…………。すまん」

 

「あ……。

い、いえ……! 別に責めている訳ではありませんのよ? 一応その後立て直せましたし、貴方も働いてましたし……」

 

「………」

 

「そ、そんな顔しないでくださいましっ! あぁもう!」

 

 

 男の癖に調子が狂うと栄華は思う。

 そもそも彼女はかなりの男嫌いなのだけど、ヴァーリがあまりにも無反応というか、ひょっとして不能なのでは? と疑う程に無害過ぎるのと、雑用だろうがなんだろうが、常人なら不可能だろうというレベルの仕事すらも文句も言わずにやるのものだから、毛嫌いというものは無いらしい。

 

 というより、今回集まったこの曹操こと華琳。

 夏侯惇こと春蘭。

 夏侯淵こと秋蘭。

 曹洪こと栄華。

 曹仁こと華侖。

 曹純こと柳琳。

 等といった辺りは、ヴァーリの事情を知る者達であり、ある程度の横文字も彼から教えられた面子だ。

 

 そして結構割りと、そんな彼を様々な意味で受け入れてる者達でもあった。

 

 

「……。栄華の言うとおりだ。

俺が無理を言って野放しにさせて事を大きくしたのは間違いない。

だからそのツケは必ず回収する。ふっ、しょっちゅう喧嘩してきた相手だからな。慣れたものさ」

 

 

 これが以前ヴァーリが一誠に『まだやる事が残って居る』と返した理由。

 受けた恩義を返さなければならない者達。

 

 

「決まりね、では私が孫堅に交渉するわ。

…………話を通じさせるには骨が折れるけど、彼の協力は不可欠でしょう?」

 

「……。万が一の保険としてだが頼む華琳」

 

 

 一誠と神牙と同じく、化け物の血を持つ自分を蔑まさなかった者達。

 

 

「では解散よ」

 

 

 友が『覚悟』を与えてくれた様に、この白き龍皇に『誇り』を与えた者達。

 

 

 

 

 

 華琳の一言で会議は終わった。

 部屋を退室したヴァーリは、今後始まる大きな喧嘩は前とは違って容易ではない事は認めつつも血が騒ぐのを感じてつい笑みを溢しながら、力を少しでも取り戻す為の訓練でもしようと考えていると、後ろから呼び止められた。

 

 

「あの……ヴァーリさん、少しよろしいかしら?」

 

「? あぁ、栄華か。なんだ?」

 

 

 その呼び止めた相手は先程素直に謝られて慌てていた栄華だった。

 華琳の従姉の一人なので、結構面影があるのだが、如何せん彼女もまた癖が強い人物だった。

 

 

「えーっと、先程のお話ですが、あまりお気になさらないでといいますか……。

ほ、ほら! 変に気を持たれてしまって集中できないとなると困りますし?」

 

「? あぁ、うん」

 

 

 初見の時、『ケダモノが私に近寄るな』と言った事もあり、ちょっと距離の感覚がよくわからなくなってる様な言い方を前にヴァーリは特に考えもせず頷く。

 何せこの栄華という女性は小さめの女の子を愛でるという、ヴァーリにしてみれば変わった趣味を持っているし、というか基本的に華琳の配下はどこか変だった。

 

 

「ですから、ええっと、……あ、そうです! 気分転換に貴方の時代にあるお金を増やす方法をまた教えて頂けたら幸いですわっ!」

 

「株だのヘッジファンドの話はこの世界に無意味だと思うのだが……」

 

「別にお話を聞くだけですっ! ですので差し当たっては街の小料理屋にでも――」

 

 

 変な女だとは思うが、別に嫌いでは無いとも思っている。

 今も一人であれこれ表情を変えながら何かを言おうとしてるのだが、その瞬間、不意を突かれる様にヴァーリの背中に衝撃が走った。

 

 

「ヴァーリ! ちょっと目を離したらすぐに居なくなっちゃうから探したッス!」

 

 

 凄まじく威勢の良い声と共にヴァーリを背後から体当たりよろしくに飛び付いてきた金髪少女に、栄華は顔を引き吊らせた。

 

 

「なんだ華侖?」

 

「何だ? じゃないっすよヴァーリ! どうせ一人で秘密の特訓をするつもりなんでしょう? 私も連れて行けっす~!」

 

 

 とにかく元気で……つまりちょっとうるさい華侖に飛び付かれてもヴァーリは特に反応もせず淡々とした態度のままだった。

 

 

「相手になって欲しい時は何時も頼んでいるだろう?」

 

 

 彼女と特訓をしてると、いつの間にか彼女の面倒を見ていることが多くなるヴァーリとしては、一人で特訓をした方が効率が良かったりするので、今は一人でやるという話をしたのだが、華侖は嫌だ嫌だと離れようとしない。

 

 

「華侖! はしたないから早く離れなさい!」

 

「嫌っす~! ヴァーリが連れていくと言うまで離れないっす~!」

 

「だったらそんなに密着せずとも宜しいでしょうが!」

 

「…………」

 

 

 と、勝手に自分を挟んで従姉妹喧嘩が始まる。

 ヴァーリはそんな二人に挟まれる形でふと思う。

 金髪って煩いのが多いんだな……と。

 

 ギャーギャーと何で喧嘩してるのかもそもそもわかっていない少年は、めんどくさそうにため息を吐くのだった。

 

 

 

 

「…………と、いう訳でお前を理由に二人から逃げてきた」

 

「懸命な判断ね」

 

 

 結果、あんまりうるさくは無い金髪こと華琳を理由に二人から脱出してきたヴァーリ。

 一人で何やら物思いに耽った顔をしてた華琳に部屋に招いて貰ったヴァーリは、飲み慣れてしまったこの世界のお茶を飲んで一息吐く。

 

 

「柳琳の所の兵と訓練してみようと思ったけど、邪魔をするのも悪いし、春蘭と秋蘭は別件で忙しそうでな。

その他の面子とはあまり関わりもないし……」

 

「私が暇そうに見えるの?」

 

「まあ割りと……」

 

「……。言ってくれるわね。

私に対してそこまではっきりと物を言えるのは貴方ぐらいよホント」

 

 

 まあ事実今は暇をしてたけど……と一緒になってお茶を飲む華琳。

 このヴァーリとの出会いは輝く月空を見ていたら、文字通りその空から華琳の屋敷の庭に落ちてきた――といったものだった。

 

 名も字も持たないばかりか、かなり変わった真名である男。

 そして何より彼の背にある人ならば持たぬ綺麗な翼……。

 

 

 曹操と名乗った時はヴァーリの時代の言葉曰く『しゅーる』な顔をされたのは今でもハッキリ覚えている。

 

 冗談半分で春蘭や秋蘭と『遊んでいた』時に部屋に呼び出して見せてやった時に、『なんだ? それが終わるまで此処に居れば良いのか?』とガン見された挙げ句、無反応だった時に味わったあの妙な敗北感も忘れない。

 

 

「アナタに聞きたいけど、アナタって女に興味あるの?」

 

「さてね、そういう感情を持つ暇も無く身体を弄くり回されたりだの、捕虜めいた生活をしてたからな。

もっとも、そういった教育は一誠に無理矢理されたがな」

 

「ふーん……?」

 

 

 異界から迷い混んだ不思議な者。

 人であって人でなしと自称し、人ではない事を証明させられた事もあったが、華琳に恐れも差別の感情もなかった。

 

 

「それを聞けて良かったわ。たまにアナタに男色の気があるのかと疑っていたから」

 

「それこそ気色悪いな。

一応こういう女が良いみたいな考えは持ってるんだぞ俺も」

 

「へぇ? 例えば」

 

「……………………。尻だな、こう、後ろから見て良い形をした女の尻を見てるとたまにわくわくする」

 

「な……なるほど」

 

 

 何故なら彼は結構……いい人だったから。

 そして愛情深い人だったから。

 

 

「ちなみに要らん情報だが教えておいてやる。

一誠は事あるごとに胸のデカい女に現を抜かす。神牙は鎖骨とうなじの綺麗な女が好みだ」

 

「本当に要らない情報ね……。

特に一誠という男には微妙に殺意が沸いたわ」

 

「……といっても一誠の場合は好みがそれであって、実際踏み込む事はしない。

アイツはかつて裏切られてきて極度の人間不信に陥っているからな」

 

「だから唯一の友であるアナタ達がそれぞれ奪われたと思って彼は殺意を剥き出しに暴れたのね」

 

「あぁ、故に俺達はアイツに自立心を持たせようと思った。

結果は……ひょっとするとある意味失敗したかもしれないがな」

 

「………最大の敵が完成したなんて私にしてみれば笑えないわよ」

 

 

 だから手元に置いている。

 だから彼を特定の地位を与えず自分直属の位置に置いている。

 反対は多かった。けれどその反対の声を黙らせたのは他ならないヴァーリ自身だった。

 

 そして直属に置いているからこそ、華琳は時折他の誰にも決して見せない弱音を見せてしまう。

 

 

「正直不安よ……。

孫堅の所に協力を仰げなかったらとか……。

アナタが彼に負けて全滅する道へと進んだらとか……」

 

 

 アナタが何時か私の傍から去っていってしまう時が来ると考えてしまうとか……と、そこだけは声に出さずに不安を吐露する今の華琳は覇気を放つ曹操ではなく、ただの少女にヴァーリは見えた。

 

 

「…………ちょっと待ってろ」

 

「?」

 

 

 だからヴァーリは行動する。

 誇りを与えてくれた少女達に少しでも何かを返さなければと。

 不安に思うのならその不安を払拭させてやるのもまた恩を返す事だろうと。

 

 

「アルビオン」

 

 

 部屋を背に白龍皇の光翼を背負ったヴァーリは部屋を出て城を出て街の外へと出ると、空から何かを探すかの様に飛び回り、そして何かを発見するとそのまま降りてそれを取り、再び華琳のもとへと戻る。

 

 

「これをやるから元気を出せ」

 

「は?」

 

 

 そして取ったものを差し出す。

 それは何の変哲もないそこら辺に咲いてた名も知らぬ小さな花だった。

 

 

「一誠に言われたんだよ。

女が元気を無くしているのを見たらとりあえず元気付けてやれって。

……もっとも、アイツがそんな真似を本当にしてる姿は見たことなんて無いが」

 

「……………」

 

 

 取るに足らない花を一輪貰った華琳は暫くその花と真顔のヴァーリを交互に見る。

 そしてそれがとても可笑しくなって、ついはしたなく笑ってしまった。

 

 

「あ、あはははは! ほ、本当にアナタって人は……どこまで私の事を驚かせるのかしらねっ! あははははは!」

 

「? 元気が出たのか?」

 

「ふ、ふふっ! ええ……出たわよ」

 

「そうか、それは何よりだよ。

それと心配しなくても俺は負けんよ」

 

「ええ、信用しているわよヴァーリ……」

 

 

 天然でこんな真似をしてくる男なんて見たことはなかった。

 しかも何の下心も無しにする男なんてヴァーリぐらいなものだろうと、華琳はその花を……書物栞にでもして大切にしようと思った。

 

 

「アンタも元気を取り戻したみたいだし、俺はそろそろ戻る。

あまり長居をしていると春蘭やら荀彧辺りに怒られてしまうからな」

 

「待ちなさいヴァーリ」

 

 

 戦力として使える駒だと最初は思った。

 だが彼はその過去もあってどこか純粋だった。

 戦うことでしか己を表現できない不器用さもあるけれど、人ではない血を宿しているのかもしれたいけど、華琳にとって彼は紛れもなく『一人の人間』だった。

 

 

「お礼をしないなんて私の名が廃るわ。

こっちを向いて少し屈みなさい」

 

「? こうか?」

 

 

 だから彼を大切にしよう。

 己の覇道の為に時には自分の代わりに血に染まる彼を。

 戦うこと以外の理由を教えてあげよう。

 

 何の疑いもなく少し屈んだヴァーリに、ほんの少しだけ爪先を立てた華琳は、その頬――にでは無く唇に自分の唇を重ねた。

 

 

「流石に意味はわかるでしょう?」

 

「わかるが、なぜ俺にしたんだ?」

 

「言ったでしょう? このお花のお礼よ。

でも……はぁ、動揺がひとつも無いのは悔しいわね」

 

「? すまん……?」

 

「謝られると余計惨めよ。

……どうせ私のお尻はアナタ好みじゃあないわよ」

 

「は? ………………………」

 

「ちょ……な、なによ……あんまり見ないで頂戴」

 

「………………ふむ、悪くないと思うぞ俺は?」

 

「……………本当に悔しくてそろそろ本気でなんとかしたくなるわ」

 

 

 白き龍皇に『希望』と『覚悟』を与えられた少女は共に高みへと昇る。

 

 

「なんとかの意味は知らんが、少なくとも俺はアンタは嫌いじゃない。

………強くなってくれそうだからな」

 

「……それは私が宿しているという『神器』とやらの事を言っているのかしら?」

 

 

 その身に英雄の器を覚醒させて。

 




補足

彼は結構素直というか天然で周りを癒せるタイプらしいのです。
それとあんまりも無反応過ぎて逆に変な信用をされてるというね……。



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