色々なIF集   作:超人類DX

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ごめん、前回のたぶん続き。


※奇妙な関係

 三国志みたいだけど根本的に何かが違う不思議な世界に来てからどれくらい経っただろうか。

 数えたら余計暗い気分になりそうだからと敢えて数えることをやめていた一刀はすっかり『天の御遣い』としての役割も板についてしまっており、色々な三国の英雄の名前を冠する女性達と出会いを重ねて後に蜀という勢力となるの土台を建てていく。

 

 益州を蜀という国の場所に指定し、ならず者達をまとめ上げ、三国の英雄の名を冠する女性を仲間にし、大きな戦争を生き抜き、絆を育む。

 ………とまぁ本来ならそんな流れになるのだけど、彼はかなりの擦れが生じているものの、これから先がどうなるかを予想していた。

 

 だからこそ一刀はその滅びの未来を回避する為に、何より自分と同じ状況にある少年の持つ異質過ぎる力を目の当たりにして『名だけの足手まとい』は嫌だと自分なりに鍛練をした結果……燻っていたカリスマ性が覚醒してしまった。

 

 それこそこの世界に存在する三国の英雄をも上回る資質に。

 

 

 結果彼はならず者達すらをも勢力として抱え、説得し、軍隊としての基礎を叩き込み、戦力を増強した結果、国も、思想も、イデオロギーも無い国境無き軍隊へと変貌させていた。

 

 胜利老板―――勝利のボスとして。

 

 

 つまる所、他とは違って自由に動ける居を持たぬ傭兵軍団であり、金さえ払えばどんな土地へと赴いて戦う。

 

 当初劉備達が掲げていた理想とは少し離れてしまっていたが、結局の所『身軽が故の強さ』が結果的に虐げられていた弱者を守る事になっていたのと、綺麗事では世の中は変わらないという『現実』と、だからこそ自分達が為さなければならないという『覚悟』が劉備三義姉妹達の道を決定付けさせたといっても過言ではない。

 

 

 天国でもあり、地獄でもある。

 まさに天国の外側(アウターヘヴン)の世界を一刀達は造り上げはじめたのだ。

 

 

『俺達は故郷(クニ)を棄てる。

互いの祖国を棄て、この惑星と一体となる。

そこには、国も、思想も、明確な目的もない!

俺達は必要とされる土地へと赴き、俺達の為に戦う。

国の為でも、政府の為でもない!

俺達は必要とされるからこそ戦い、そして持てぬ者達の『抑止力』となる!

俺達は、国境なき軍隊…………『時代』が俺達の目的を決める。

けど、俺達は金で買われる事になる。

時代が望めば、様々な犯罪や反乱に手を貸すことになるかもしれない。

……………そうだ、俺達は『地獄』へ堕ちる』

 

 

 考えに考え、劉備達と話に話し合った結果導きだした修羅の道。

 決して理解されることなど無い。そして理解を求めてはならない。

 けれどそれでも持てぬ者達の抑止力となる存在になって守る………時代という怪物と戦う道。

 それは行動で示してきた事である程度その半生を察知してしまった彼を見て決めた道。

 

『しかしここ以上に俺達の居場所はあるか?

ここは俺達にとっては唯一無二の家。

天国でもあり、そして地獄でもある!

それが、俺達の――そして持てぬ者達にとっての自由! 外側の避難所(アウターヘイブン)だ!』

 

 

 居場所を見付けられない彼を見て考え付いた結論と世界。

 北郷一刀は完全に覚醒したのだ。

 

 

 流れ者、弱者、はぐれ者達すらをも受け入れる避難所を造り上げて……。

 何より虎牢関の戦いの時に見た彼と、彼の友人の力を見たことで……。

 

 

 

 

 最悪にも帰れない。

 一誠は未だフルパワーに戻れぬ現状に対して、何より以前起こった大きな戦争のお陰で再会できた友人達も、また力を弱体化させいる事でフルパワーになれない現状に元の世界のテクノロジーやら食べ物がそろそろ恋しかった。

 

 

「董卓さん達を受け入れる?」

 

「董卓の名だけは捨てて貰うことになるけどな。

何せ史実と違って彼女達は悪政すら敷いてなく云われもない言い掛かりで戦争を仕掛けられたみたいなもんだからな」

 

「……あ、そう」

 

 

 逆にこの一刀という青年は、日に日によくわからないカリスマ性が曹操―――一誠にとって神牙並に覚醒し、PMCまがいの団体を結成してしまってこの不思議な世界をそれなりに満喫している気がする。

 先日だってよくわからない演説で兵達の士気を一気に高めさせてたし、彼は一体どこへ向かおうとしているのやら――と、新たにまた厄介そうな者達を引き込んだ事を話された一誠は中華まんらしき食べ物を頬張りながら聞いていた。

 

 

「キミと劉備さんがリーダーなんだから、好きにしたら良いんじゃないの?」

 

「いや、この状況まで漕ぎ着けられた最大の功労者の一誠にはちゃんと言っておかないとな」

 

「功労者って。別に俺は何もしてないと思うけどね」

 

 

 そんな一誠に一刀は心底信頼する相棒の様に話す。

 事実一誠は『戦闘能力』が異次元の領域であり、本人は舌打ち混じりに『笑えないくらい弱体化してる』と毒づいていたが、ここに来るまでに新たに仲間になった三国の英雄の名を持つ少女達が束になろうとも一誠は勝てる程だ。

 だからこそ先の虎牢関の戦いの時は三国最強クラスの呂布を抑え込められたのだ。

 

 

「それより一誠の友達のあの二人はここに来ないのか?」

 

「やることがあるんだとさ。

情に絆されでもしたのか……まったく馬鹿な奴等だぜ」

 

「……そうか」

 

 

 だから一誠は表向きは下っぱの傭兵だが、一刀にとっては何よりも信頼の置ける相棒だと思っている。

 だがしかし、今までずっと彼を見てきたけど、一誠はどうやら他人との間に見えない壁を作り、決して己の近くに踏み込ませないというきらいがあった。

 それは劉備達を未だに真名で呼ばないし、よそよそしい口調がそれを裏付けさせていて、張飛――つまり鈴々や諸葛亮や鳳統といった―――何故か本当にちんまい子達から懐かれてもあまり相手にはしないといった事が多い。

 

 以前等は、趙雲というちょっと癖のある女性に半分からかわれたり絡まれたりもしたけど、あまりにもしつこかったのか、『殺すぞお前』と低い声で言われてしまっていたのを思い出す。

 何時もの彼なら美女相手に鼻の下を伸ばして、原始人みたいな口説き文句を垂れ流す癖にだ。

 

 

「誰か消したい相手が出てきたら呼んでくれ。

俺は頭を使うことが苦手だからな」

 

「……なるべく俺達も一誠にばかり頼らないで行こうとは思ってる」

 

「良いって良いって。

それしか取り柄なんて俺にはないんだからよ」

 

 

 それ以降、劉備達とは同じ組織に属しているけどあまり関わることが無くなっている。

 無理強いするのはよくないと一刀は思っているので今はまだ見守っているし、劉備達も決して一誠を嫌っている訳ではないし、寧ろちんまい方は懐いてるので大丈夫だとは思うが、一刀はのろのろとした足取りで退室していく一誠を複雑な表情で見送り――

 

 

「あ、しまった。『あの事』を言ってなかった」

 

 

 肝心な事を言い忘れてしまうのだった。

 

 

 

 寂しい。

 一誠は元来スケベで人懐っこい性格の少年だ。

 『ある出来事』によってトラウマとなってい以降は決して他人を信用しないどこか冷めた性格になってしまっていたが、それでもあの友人二人に対しては信頼を寄せていただけに、あの二人が他人ごときの為に各々別勢力で働いてるというこの状況は、その他人に友人を奪われた気がしてとても寂しかったし、何なら二人を縛り付けてるその他人を殺してしまいたいとすら思っていた。

 ……まあ、それをやったら逆に拗れそうだという考えはちゃんとあるので今ところやりはしないが。

 

 

「ハァ……」

 

 

 本当の意味で子供の頃だったら、三国世界だけど美女だらけのこの世界が楽しく思えたのだろうけど、今の一誠はトラウマが先行しているせいか口だけの状態だ。

 

 先述した趙雲という女性に絡まれた時は、あまりのうざさに思わず本気で殺してしまいそうになるし、妙にちんまい少女達に懐かれても微妙に嫌だと思ってしまう。

 

 何かがあればアッサリと掌を返されるという経験があるせいか、今の一誠はとても人間不信なのだ。

 

 

「………」

 

 

 そんな彼は一刀の気遣いで離れの方に一件屋敷を持っていた。

 大きな戦いがあれば先行して戦力を削りまくり、何なら敵将も何人も消してきたという功労が、この世界においてそれなりの財を築かせている――という物理的な証拠であるこの屋敷に一人で、誰も近づかせないで暮らしているのだけど……。

 

 

「…………………」

 

「………………は?」

 

 

 誰も居ない筈のその屋敷の門の前にポツンと一人誰かが立っていた。

 

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

 

 何だコイツ? と、ほんの一瞬誰だか解らずに訝しげな顔をした一誠だが、あまり思い出したくないという意味での明るい赤毛が少し前にあった出来事に冠する記憶を呼び覚ました。

 そう、あれは虎牢関制圧の際に自分が直接対峙してぶちのめした女性……。

 

 

「呂布さん……?」

 

「…………」

 

 

 そう、ゴツい男を勝手に想像してたらやっぱり普通に少女だった呂布その人だった。

 相変わらず言葉数が少なそうで、どうにも何を考えてるのかが読めない顔をしてる……と、あの時思いの外本当に手こずった事を思い返しながら名を呼ぶも……呂布の反応はあるのか無いのかわからず、こっちをジーっと見ている。

 

 道でも迷ったのか? そういえば董卓達を受け入れたとか言ってたなと、色んな事を思い返しながら、取り敢えず一誠は今来た道の方角を指差しながら口を開く。

 

 

「北郷君ならこの道をまっすぐ言った指令所に居るよ」

 

「…………………」

 

「んじゃ」

 

 

 反応はないけど道案内だけはしてあげたし大丈夫だろうと、一誠はそのまま彼女の横を通りすぎて屋敷の門を潜る。

 すると……

 

 

「………………」

 

「は? なに?」

 

 

 一誠に続く様に呂布が何故か入ってきた。

 なんかもう音もなく普通に後ろをついてくるからちょっと一誠もびっくりだ。

 

 

「ここ一応俺の家的な場所だけど、なに? 俺に何か用なの?」

 

 

 イマイチ思考が読めない一誠は、先日対峙した際、加減したらヤバイとそれなりにボコボコにしてしまった呂布に対して問い掛ける。

 

 零距離で手に溜めた赤い光弾をぶつけ、吹き飛んだ呂布に飛んで追い付き、そのまま頭を掴んで地面に叩きつけ、トドメに赤い光弾を至近距離で連打しまくったとか、割りと容赦ない事をしたにも拘わらず起き上がって戦闘続行をしてきたのには本当に驚いた。

 

 紛いなりにも三国最強の腕っぷしは伊達じゃなかったと、その時後ろで見てた曹操と特にヴァーリはわくわくしてたみたいだが、確かに一誠も純粋にこの少女の持つ性質には驚いた。

 

 

「…………報復か? この前の時の」

 

 

 等と、結構鬼畜な事を仕出かしてた事を思い出した一誠は、ひょっとして報復に来たのかと考えたが、ここに来て呂布が口を開いた。

 

 

「…………違う」

 

「………あ?」

 

 

 違うと今確かに言った。

 じゃあ何で背後に立つんだ? と眉を潜めていると呂布は言う。

 

 

「月と詠達とここに来た。

けど住む場所がない」

 

「だから?」

 

 

 誰だよその名前らしき二人は? と基本的にこの世界の少女達の真名を知らないし、聞いた所で忘れてしまってる一誠は賈駆だの董卓だのの真名を言われても誰の事すらもわかっていない。

 

 その事を横に放置したとしても、呂布に住む場所が無いと言われても一誠にしてみればそれこそ一刀に言えよと思うわけで。

 

 

「北郷君なら手配してくれるだろうよ」

 

「もう言った」

 

「は?」

 

 

 相変わらず本当に揚々が無い言い方の呂布にますます訝しげな顔をする一誠。

 

 

「そうしたらご主人様に教えて貰えた。だからここに住む」

 

「ふーん? …………………………………………それって場所間違えてるだろ」

 

「間違えてない。だってここだって直接案内された」

 

「……………………」

 

 

 なるほど、無駄に広いからか? と一刀の考えが読めない一誠は一応理解はする。

 だが、ちょっとそれはいくら見た目が美少女でもごめん被りたい話だった。

 

 

「あ、そう。なら言わせて貰うけどね呂布さ――」

 

「恋」

 

「あ?」

 

「真名」

 

 

 いきなり真名を授けてきた呂布改め恋に、一誠は一瞬固まる。

 だが先述の通り、真名の意図を聞いて知っていた一誠は呼ぶ気にはなれない。

 

 

「それは良いが呂布さんよ。

一応ここの家主は俺なんだ、彼が何を思ってキミをここに置いていったのかは知らないが――」

 

「恋」

 

「呂布さんは違う場所を提供してもらうべき――」

 

「だから恋」

 

「…………………」

 

 

 はよ呼べバカヤロー……とは言ってもないし思ってもないが、難くなに真名で呼ばせて来ようとする恋にそろそろうんざりしてくる一誠。

 何年も前なら喜んで! とでも思ってただろうが、今の彼にそんな余裕は無いのだ。

 ましてや他人なのだから。

 

 

「それにここに住むのは恋がご主人様に頼んだから」

 

「………………………ほほぅ? 俺への報復か? あんまりにもしつこすぎてあの時は最終的に馬乗りで殴りまくったからなぁ?」

 

 

 昔なら『マジっすか!?』と手放しで万歳してただろうが、疑心暗鬼状態の今の一誠はやはり報復に来たのかと、あの時何度も立ち上がってきていい加減うんざりして馬乗りでタコ殴りにしてやった事を思い出しながら両指をバキバキ鳴らす。

 

 

「……………」

 

 

 あの時は思いの外苦戦し、弱体化も酷くて疲労困憊でトドメを刺し忘れたが、今なら完全に殺れると両目を真っ赤に輝かせながら未だ意思疏通が出来ない相棒を左腕に纏いながら戦闘態勢になるが、恋からはあの時放っていた殺気がまるで感じない。

 

 

「あなたとは戦わない。もう仲間」

 

「仲間……ねぇ」

 

 

 本当に戦う気は無いらしく、一誠も戦闘態勢を解除しながら仲間と宣う恋の言葉を鼻で嗤う。

 

 

「滑稽だよな。その言葉を言っておけば何でもかんでも誤魔化せるんだからさ」

 

 

 仲間なんて所詮その場しのぎの誤魔化しの言葉だと思い込んでいる一誠は、何を考えているのかわからない恋にため息を吐きながら仕方ないと口を開く。

 

 

「荷物があるなら自分で運んでくれ。

それと部屋は適当に使ってくれ」

 

「ありがとう」

 

「…………」

 

 

 一瞬でも寝首をかきに来たら即時バラバラにする気で一誠は断った所でこの場所から良いと言うまで梃子でも動きそうに無さそうな恋を住まわせる事にした。

 もっとも、その直後、彼女が拾った犬猫まで住まわせ、更には彼女に懐いているチビッ子直情軍師までオマケについてきた時点で後悔しかけていたが。

 

 

 

 

 

 強い男は見たことが無かった。

 故に虎牢関で軽薄そうな男と対峙した時、感情の起伏が極端に無い恋でも衝撃は凄まじかった。

 

 

『なんなんだァ今のは……?』

 

 

 斬っても斬っても通用せず、真っ向からの力比べも互角。

 

 

『ガァァァァッ!!』

 

 

 挙げ句に左腕には不思議な甲冑。

 手に赤く輝く光を放ち、それをぶつけてくる。

 最後は……

 

 

『そろそろ死ねっ!!!』

 

 

 初めて地面に叩きつけられ、上にまたがれ、しこたま殴られた。

 逆はこれまで何度もあったけど、された事は初めて。

 これが敗けるという事なのかと意識を手放す直前まで彼に殴られながら思った恋は、なんだったか――外側の避難所という変な名前の軍に渡ると知った時は彼と再会できると、不思議な事にちょっとわくわくしていた。

 

 色々と問答はあったけど、彼の持つ屋敷に住まわせ貰ったし、家族同然の犬猫や音々音も嫌そうな顔をしながらもなんやかんやお世話してくれるし……。

 

 

「鍛練を見てくれ? 嫌だよ、俺は今から1日中ゴロゴロして過ごすという崇高なお仕事が残っているんだから」

 

「そこをなんとか頼めないか? 礼はちゃんとするので……」

 

「駄目だな、今からジローとコジロー達をモフモフするから」

 

 

 割りと結構優しい。

 その代わり、自分より前に付き合いのある筈の者に対してはかなり壁を感じさせるけど。

 趙雲だったか………以前聞いた話によるとかなりしつこく一誠に絡んだ挙げ句、本気で殺すぞと言われた女性がトボトボと追い返されて去っていくのを一誠と見送った恋は、屋敷の庭に戻って恋が拾いまくってきた犬猫その他もろもろと戯れながらお茶を飲む。

 

 

「北郷君が頑張ってくれてるお陰で俺はこうして暇を満喫できる。

くくく、あの馬鹿二人は忙しいのかなぁ? 情に絆されるからだぜ」

 

「また星殿が来たのですか?」

 

「鍛練を見てくれだってよ。

暇じゃねぇって追い返してやったがね」

 

「その前は鈴々殿達が訊ねて来ましたし、結構慕われてるのですね一誠殿は」

 

「体の良い暇潰し相手かなんかだと思ってんだろうよ。

あ、これ食う?」

 

 

 当初かなり敵意をもってた音々音とも気づけば普通に仲良しになっている。

 恋にしてみればそれはとても良い事であり、二人がのんびりしているのを見てほっこりした気持ちになる。

 

 

「しかし、君たちを住まわせてから暫く経つが、殺し合いをしてた事が遠い過去みたいだぜ」

 

「恋殿を負かせたのは後にも先にも一誠殿ぐらいです。

ここの軍ですら一誠殿を抜かせば恋殿が一番ですし」

 

 

 一誠の言う通り、ここに来てから暫く経つ。

 そんな中で恋は一誠と人となりを知った。

 一誠は他人に対して……例え同じ軍に所属する仲間であろうと異様に警戒しているのだけど、一度その枷が外れた相手にはとても優しかった。

 ちょっと不器用だし、本人は『態度を変えちゃいない』と素直じゃないところもあるけど、明らかに自分や音々音には他には無い優しさを見せてくれる。

 

 恋にとってそれはちょっとした優越感だ。

 

 

「鍛練か……。うーん」

 

「? 一誠殿?」

 

 

 それに平行して最近ちょっぴり音々音の位置が羨ましくも思う。

 今も一誠の膝の上に座っているのだけど、当たり前だが恋はああいう事をされた事は無い。

 

 

「いや、恋ちゃまに宿る神器(セイクリッドギア)の扱い方を教えるべきかと思ってな。

何せマジに暇だからよ」

 

「せい……なんですって?」

 

「神器だよ神器。

ほら、北郷君には前もって教えてたけど、キミ達にも暇すぎたから教えたろ? 俺のこの腕みたいな力の事だよ」

 

 

 良いなぁ……と何となく眺めていた恋に一誠がおーいと話しかける。

 

 

「と、いう訳で暇だしキミの潜在能力を引き出したらどこまで行けるのかも気になるから、ちょっとした事に付き合って欲しいんだけど」

 

「凄いです恋殿! やはり恋殿です!」

 

「……………?」

 

 

 何が凄いのだろうか? 自分からしてみたら一誠の膝でのんびりできる音々音の方が凄いし羨ましくも思えるのだけど……と思っていると、一誠がどうやら自分の中に宿ってまだ覚醒していない神器についてを語る。

 

 

「………と、まぁこんな感じ」

 

「一誠と同じ……」

 

 

 まだ自分には引き出されていない力が眠っていて、その力の根元が一誠と同じだと聞かされた恋は、力を高める事よりも一誠とお揃いっぽくなれる事にちょっとした魅力を感じてしまう。

 どうも最初の容赦の無さと愛想の無さが、時間を経て今の様な警戒心を緩めた―きっと本来の一誠の気質に変わることで恋は一誠に好意を抱いてしまっている様だ。

 

 

「うん、やってみる」

 

「お、意外と乗り気。

こういうの興味無いと思ってたんだけどね」

 

「だって一誠と同じになれる。

一誠の事をもっと知ることができる」

 

 

 恋はもっと一誠を知りたいと思っている。

 それはどんな想いなのかは彼女だけの秘密。

 

 

「何故だ!? 何故彼女には教えておいて私には教えないんだ!?」

 

「じゃあ聞くけど、何で俺がキミに教えなければならないんだ? 教える相手を選ぶ権利があるのはこの俺だ」

 

「ぐ、ぐぬぬ……! 納得できない」

 

「じゃあ一生納得しなくて良いぜ。

さて恋ちゃま、まず基本的な事は『想いの強さ』だ。

強い気持ちを持つことで神器は第一段階に到達する。

まずはそうだな……恋ちゃまにとって強いものを想像してみな」

 

「うん……」

 

 

 他の仲間がうらめしそうにこっちを見てる中、鍛練を開始した恋は、恋にとって強いと思う存在――即ち一誠の事を想い浮かべる。

 

 

『おいじーっと見たってこの食い物は渡さねぇぞ! 部屋は貸してやるし犬猫共を飼うのも好きにしたら良いが、食い物だけはテメーで調達しな!』

 

 

 まだ凄いツンツンしてた頃の一誠を。

 

 

『無駄な事を今楽にしてやる……!』

 

 

 手から赤い弾を敵の軍団に投げ、それが巨大化して全てを破壊するのを冷たく見下ろす一誠を。

 

 

『ヴァーリィィッ!! 神牙ァァァッ!!』

 

 

 友人二人が各々別の道を歩んでいて寂しそうに戦いを挑んだ一誠を。

 

 

『クソ……何でだよぉ……!』

 

 

 その二人に敗け、寂しそうに肩を震わせる一誠を。

 

 

『俺の中に踏み込むな! 他人の癖に俺の何がわかるっ!!!』

 

 

 その姿を見て可哀想だと思って歩み寄ったら拒絶してきた一誠を。

 

 

『やめろ! やめろ!! 俺をそんな目で見るな! 近づくな! やめろってんだよ!!』

 

 

 それでも歩み寄って抱き締めても最初は暴れる一誠を。

 

 

『クソォ……ちくしょう……!』

 

 

 そして暴れなくなり、寂しそうに泣いた一誠を。

 

 

『………誰かに言ったら本当に怒るかんな』

 

 

 次の日恥ずかしそうに威嚇してくる一誠を。

 

 

『…………これをやるよ。

く、口止め料だからな! 変な意味なんてないぞ!』

 

 

 そしてそこから今に至るまで徐々に心を通わせていく日々を。

 確かに強いかもしれないけど、恋は一誠の隠している弱さも知っている。

 でも、それでも一誠は恋にとって自分の先を行く強い人だった。

 そしてなにより―――

 

 

「………これが」

 

「な、なんと……! 恋殿の両手が輝いて」

 

「ま、まるで一誠殿の力と同じ……ぐ、ぐぬぬ!」

 

「ずるいのだ……微妙に納得できないのだ」

 

「だ、だから恋さんにはちょっと優しかったんですね……」

 

「うぅ……」

 

 

 とても大切に想えるから。

 かつて一誠が自分を一度は拾った悪魔達に対して馬鹿正直に抱いていた想いと似た想いが恋を目覚めることは無かった力を与える。

 

 

「出来た……一誠……」

 

「飲み込み速いなホント……」

 

 

 一誠をして驚かせる成長を示して。

 

 

終わり

 

 

 ヴァーリと神牙がそれぞれ他に現を抜かしてるのが凄く気に入らなくて、一時荒れた時期もあったけど、恋が己に近しい領域に到達したことでちょっぴり心にゆとりが持ててきた。

 ただ、この一件以降、恋からの距離感が結構近くなっているのもまた事実だった。

 

 

「………ナンパできねぇ」

 

「突然なんだよ一誠?」

 

「だから、町行ってもナンパができないんだよ。

最近声を掛けて成功しかけても後ろから恋ちゃまが現れるせいで失敗するんだ」

 

「……あー」

 

 

 ナンパ趣味を持ってる一誠に一刀は色々とお察しした声を出すが敢えて何も言わないでおいた。

 

 

「ナンパした所でご飯食べるだけなんだし、そろそろ卒業したらどうだよ? その分恋達に構ってやるとか」

 

「十分こっちは譲歩しとるわい」

 

「良いじゃないか。恋だって凄い美人さんなんだし……」

 

「それは認めるけど、それとこれとは別だろ。

第一、あの子は単なる同居人だし」

 

「………………」

 

 

 こいつマジか……。

 他人に対して壁を作りすぎたせいで信じられないくらいに鈍い一誠に一刀はとても呆れた。

 どう見ても恋は一誠に……。

 

 

「じゃあ嘘だと思って恋にナンパしてみろよ?」

 

「はぁ? 何で?」

 

「良いから良いから! 騙されたと思って!」

 

 

 仕方ない。

 そう思った一刀は背中を無理矢理押してみる事にした。

 嫌がる一誠を鍛練場で他の者達と試合している恋のもとへと連れていき、そのまま背中を押しまくる。

 

 

「んだよ……もう」

 

 

 早く行けと物陰から訴えてくる一刀に渋々休憩中の恋に近づく一誠。

 他の者達が珍しく現れた一誠に声を掛けようとするが、皆一刀に止められていく中、一誠に気づいた恋がとてとてと走ってきた。

 

 

「どうしたの一誠?」

 

「…………………」

 

 

 凄く純粋な目の恋に一誠は『マジで言わないといけないのかよ……』と躊躇してしまうが、これで嫌われたら元に戻るだけだからと、ちょっと寂しい気持ちで一誠は言った。

 

 

「あの、俺と一発どうですか?」

 

 

 原始人みたいな口説き方を。

 

 

『うわぁ……』

 

 

 ドン引きする女性たち。

 

 

「あわわ……!」

 

「はわわ……!」

 

「???」

 

 

 一発の意味が理解できてるマセロリ&そうじゃないチビッ子たち。

 

 

「ちっがーう!! なんでそんな原始人みたいなナンパなんだよ!?」

 

 

 こんなナンパの仕方じゃそりゃ全部断られるわ! と一刀は暫く目を丸くしていた恋の反応を伺うと……。

 

 

「う、うん……良いよ」

 

 

 最初はわからなかった表情にほんのりとした紅潮が入り、そのまま頷いて一誠の手を取ったのだ。

 

 

「…………え、ちょっと待って。

ねぇこれ冗談なんだけど? 聞いてる? ねぇ?」

 

「……………」

 

 

 そしてそのまま訓練場から連れて出されていく一誠。

 潜在能力を引き出したら現状の三バカ同等のレベルに到達していた恋は焦る一誠の声が聞こえないようで、そのままどこぞのお部屋に連れていくと……。

 

 

『ちょ、ちょっとなに脱いでんの!? 冗談だよ! 軽く唆されただけなの!』

 

 

 中で一体何が行われようとしているのかが解りそうな会話が聞こえてしまう。

 

 

「ご、ご主人様!? あ、あの二人はまさか……!」

 

「せ、成功しちゃったんだね……あははは。

さ、さぁ良い子は出歯亀なんてせずに向こうにいきましょうね!」

 

『ごめん悪かった! だから服を脱がせるなっつの! うぇあ!? な、生おっぱい……!?』

 

 

 半日後……若干泣いてる一誠ととても充実した顔をした恋が出てきて微妙な空気にさせられたのかはわからない。

 

 

「ど、どど、どうしよ……。抑え込まれたと思ったらズルズルと……。

し、しかも避妊具無しで……」

 

「ほ、ほらだから言っただろ? ナンパなんて卒業したゃえって……」

 

「お前マジでどうしてくれんの!? あ、あれでもしガキでも仕込んでしまってたら俺どうするの!? 恋ちゃまが最近自分の腹撫でながらこっちを見てる度に恐怖なんだけどっ!?」

 

「い、意外とそういう面は誠実なんだな一誠も……」

 

「当たり前だ! 俺はセクハラは大好きだけど本当にやらかさないように線引きくらいはしてるっつーの!」

 

「……一誠」

 

「どぅわ!? れ、恋ちゃま……」

 

「やっぱり一誠とずっと一緒に居たい……」

 

「う……。な、なんだ……? 今までどうとも思ってなかったのに、急にドキドキする……」

 

「……。思春期到来だな」

 

 

……なんてね




補足

ロリにもプニにも好かれやすいけど、呉ルートと違って二人とは離ればなれなせいか、余計他人に対しての壁が分厚いのであまり優しくはなれてない。

その2
弱体化三バカと初戦の時点で食らい付けるレベルの呂布ちゃん。
そんな子が神器持ちで、ほぼマンツーマンで修行までつけられたら………。

どんな神器なんだろね?


その3
一誠君の口だけナンパ方法は、基本的にどこかの銀さんがファンのアナウンサーとたまたま出くわした時の第一声だっなり、

若かりし頃のエイリアンハンターが後の嫁さんとなる女性をナンパした時の第一声と大体同レベルです。

なんで流石に無理だろうと踏んだ筈が―――成功しちゃいましたとさ。で、既に同等レベルに到達されたせいで連れ込まれて……………。


続きは――――赤コンビ化した話しかできねーよ?

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