色々なIF集   作:超人類DX

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彼は……ラキスケからのキラーだった。

彼は……年上キラーだった。

そして彼は……やっぱりアホだった。


◯◯キラー

 二人と違って俺の身体の半分は人ならざる者の血が混じっている。

 二人と出会い、共に過ごす上でその血にコンプレックスを抱いた事は一度や二度ではない。

 

 でも二人はハンバーガーを噛りながら言ったのだ。

 

 

『良いじゃん。所謂半人半魔って奴だろ? まるで主人公みたいでカッケーじゃん』

 

『お前が仮に純人間だったとしても、ゲスな性格だったら友達になろうとは思わなかったし、生まれとかは関係ないだろう』

 

 

 アホで一言何時も多い俺の二人の親友は、小さな事は気にしないんだ。

 ………気にしなさ過ぎて見落しが多いのがたまに傷だけど。特にイッセーが。

 

 そんな俺達が歴史で伝えられてきた状況とはまるで別物の過去の人間界に飛ばされ、現地人の下に紆余曲折あって降りながら元の時代へと戻る為に過ごしている。

 

 俺達の時代と比べたらとても不便だが、その分空気は綺麗だと思う。

 

 もっとも、もしアザゼル辺りが居たらどうなってたかわからないがな……。

 

 

 

 ヴァーリ・ルシファー。

 ハーフ悪魔という出生を持つ彼は現白龍皇で三バカの1人である。

 過去の世界に飛ばされ、過去人と邂逅し、帰る為に軍門に降っている彼は主に頭の良さそうな女性の傍でせっせと働いている。

 

 

「これで良いのか?」

 

「助かる。近々大規模な討伐が行われるから、準備が忙しくてね」

 

「陸遜はどうしたんだ?」

 

「穏には別の仕事を任せている。だからこれは私が抑えなければならないのさ」

 

「ふーん?」

 

 

 昔の人間は大変だな。

 と、ここに来てそろそろ一年半くらい経ってそうな気がしてならないヴァーリは、難しそうな顔をしながらミミズみたいな字の書類とにらめっこしている周瑜という女性を見ていた。

 

 ヴァーリは主にこの周瑜からこの世界の文字等を教わり、時々書類仕事を手伝わされる事が多く、基本的に彼女の傍に居ることが多い。

 

 

「それに雪蓮もお前達が来てからそれなりに頑張っては居るしな。

支える者としてちゃんとしなければ」

 

「そういうストレスを引き受け続けたから胃をやった事だけは忘れるなよ」

 

「わかってるよ。

けれど不思議だよお前は、無理矢理お前の血を飲まされてからは信じられないくらい身体が軽くなったし」

 

「………イッセーとジンガには黙っていろよ? 何を言われるかわからないからな」

 

「分かっている。私だって病の事はこの先も伏せていたいからな」

 

 

 その日々の中、この周瑜という者は1人でなんでもかんでも抱えてストレスを蓄積させやすいタイプだと知り、以前それが限界を迎えてこの時代では下手をすれば死ぬかもしれなかった重度のストレス性胃潰瘍になってしまい、吐血までしたこともあった。

 

 その時は咄嗟に無理矢理白龍皇としての己の血を飲ませて自己治癒能力と免疫力を爆発的に高めさせた事でなんとか完治させる事には成功したが、ヴァーリは未だにこれで良かったのかと思う事があった。

 

 

「兵の数はこれで……」

 

「……………」

 

 

 が、まぁやってしまった事は仕方ないし、死なずに済んだならそれで良かったとヴァーリは思うことにした。

 何より体調が回復してからの彼女はこんな仕事でも楽しそうにやっているのだから。

 

 

「んっ、大体一段落ついたし休憩にしよう」

 

「そうか、外の空気でも吸って来い。

俺は適当に身体でも動かして来る」

 

 

 そうこうしている内に周瑜が仕事を一段落つけたのか、休憩をする気らしい。

 それを聞いたヴァーリは彼女に外の空気でも吸って来たらどうかと提案し、自分は適当に身体を動かそうと部屋を退室しようとするのだが……。

 

 

「折角だし、私もお前の運動というやつに付き合わせてくれ。

手伝わせた礼だ」

 

 

 どうやら彼女も付き合う気らしく、そのままヴァーリに付いてきた。

 

 

「身体が鈍るのが嫌だから勝手にやってる事なんだが……」

 

「良いだろう別に? そもそもお前を1人にすると心配なんだよ」

 

「何故……?」

 

「さぁ、何となくだな、ふふふ」

 

「…………」

 

 

 その理由も1人で出歩かせるのが心配だからしい。

 アンタは俺の保護者か……と内心思うヴァーリだが、別に付いてこられて困ることも無いのでそのまま彼女の前を歩いて外に出る。

 

 

「アレから身体の調子はどうだ?」

 

「お陰様で凄まじく調子が良い。

これで私も鍛え直せるくらいにね」

 

 

 そして適当な場所で身体を動かす事になった二人は互いに軽く組み手の様なものをしながらた他愛の無い話をしていると……。

 

 

「ち、違う! 違うんだぞ!? 事故だこれは!!」

 

「そう何度も事故ってあるのかしらね?」

 

「そ、そうだとしか言えないんだ! すまない! ホントーにすまないっ!!」

 

「……別に良いんだけど、そう必死になって謝られるとなんか腑に落ちないわね」

 

 

 別の場所でジンガが微妙な顔をしていた孫策に土下座して謝ってる姿を発見してしまい、思わず二人で隠れながら覗いていた。

 

 

「またやったのかアイツは……」

 

「大方神牙が雪蓮に何かしたって所か?」

 

「多分な。また身体に接触したかなにかだろ」

 

「わざとじゃないのがまた驚きだよ」

 

 

 この世界の曹操が見たら、自分のある意味での子孫がこんなんだと知ったら泣くんじゃないかと思うくらい、情けない姿を晒している友人に深いため息を吐くヴァーリ。

 

 

「俺はああはならないようにしようと改めて思う。

もっとも、あんな間抜けなつもりは無いがね」

 

「……ふーん?」

 

 

 打ち合いの最中に間違えて胸を鷲掴んでしまってから始まり、もつれあってスッ転んだ拍子に股ぐらに顔を突っ込むなどなど、この世界に来てからの神牙は妙な女難に襲われている。

 相手は大体あの雪蓮なのだが……下手したら殺されても文句なんてなにひとつ言えないのがまた悲しい。

 

 自分はあんな間抜けにはならないと固く、平謝りし続けるジンガを見ながら思うヴァーリ。

 

 

「さて二人も行った事だし続けるか。

アンタはどうする? 俺1人でも構わないが……」

 

「引き続き付き合わせて貰うわ。

こういう所で色々と発散しないといけないしね」

 

 

 もっとも、起こるわけも無いが……と三人の中では最も女に興味が無さ過ぎてED疑惑まで持たれた白龍皇は、周瑜という女性と組み手を再開するのであった。

 

 

 

 

 ここに来てから妙な災難というかトラブルというかTo LOVEるというか……。

 とにかく変な不運に見舞われる曹操こと神牙は、その手に神滅具である黄昏の聖槍を手に、演舞をしながら不運を祓おうと必死だった。

 

 

「クソッ! この俺が何でこんなっ!」

 

 

 決して善人とは思えぬ道を歩んだけど、だからといって何故こんな女難にあわされなければならないのだ……と、神牙はただただイライラしていた。

 

 

「それもこれもイッセーの奴が俺のチーズバーガーを食ったせいだ!」

 

 

 そう考えると、こうなった元凶は一誠にあると神牙は今は居ない一誠に恨み言を洩らす。

 もっとも、それを聞いた瞬間、馬鹿なのに単純な戦闘力はスキルとの組み合わせもあって一番であり、一誠にボコボコに殴られてしまうので決して本人の前では言えないのがまた哀しい。

 

 

「第一俺は曹操の子孫なんだぞっ! それが何故孫呉共にコキ使われなければいけないんだ!」

 

 

 どうやら彼なりに相当なストレスになっていた様で、本人達が居ないことをちゃんと確認した上で辺りの物を壊しながら毒づいている。

 

 

「特にあの孫策とかいう、孫策とすら思いたくもない女! あの女に何故この俺がヘーコラしなければならん! その気になればこんな場所壊滅だってさせられるのにィィィィ!!!!」

 

 

 遂には山の中とはいえ、禁手化を発動し、破壊しまくりながら孫策をディスる神牙。

 帰れる目処が付いたら絶対にこの溜め込んだ不満をぶちまけてやるっ!! そんな勢いすら伺える程の激昂は山の半分を消し飛ばす事で漸く収まりがついた。

 

 

「ふーふー……! しかも力も元の四分の一以下。

こんな弱体化のせいで次元に穴すら開けられないなんて情けなさ過ぎて涙まで出てくる……!」

 

 

 その内周瑜じゃないが、ストレス性胃潰瘍にでもなりかねない程に溜め込んでいた神牙は、陰鬱な目をしながら黄昏の聖槍をしまうと、あんまり戻りたくはない江東の領内へと戻るのだった。

 

 

「一誠は羨ましいだなんて暢気な事を言っているが、俺からしてみれば他人に気を使わなきゃならない時点で疲れるだけだ。

しかも悪いのがこっちだから余計に気を使うし……」

 

 

 一応雪蓮に対してやってしまっている事は自分が悪いと自覚はしてるらしく、前時代以前の格好をしている民達とすれ違いながらブツブツと文句を言っている神牙。

 途中ここに来て顔見知りになった民に声を掛けられたが、返答している余裕すらない。

 

 

「こうなったらこの世界の賊達でも纏めあげてテロ組織にでもしてしまおうか……」

 

 

 挙げ句の果てに世界征服めいたことまで考え始めてるくらい割りと追い込まれている神牙。

 もっとも考えてるだけで実際やれる度胸は一誠とヴァーリが居る時点で無いのだけど。

 

 

「あー! じんがみっけー!」

 

 

 そんな折だったか。

 ブツブツとあぶない奴みたいに独り言を言いながら町中を歩いていた神牙は不意を突かれた様によれよれな声をした何者かに真横からタックルされ、盛大にひっくり返った。

 

 

「ぐぇ!?」

 

 

 普段の神牙ならこんな間抜けな声を出すことなんて無かったが、生憎今の彼は不平不満を溜め込み過ぎて周りが見えていなかった為、どこぞの危険タックルですら回避できずにその者と共にひっくり返ってしまう。

 

 

「もー! どぉこ、いってらのよぉー?」

 

「うぐ、そ、孫策殿か……さ、酒臭い……」

 

「また真名で呼んでない……」

 

「くっ、雪蓮殿」

 

「よろしい!」

 

 

 そしてそのタックルしてきた者は居ない間に相当飲みまくってたのか、ぐでんぐでんに泥酔した孫策こと雪蓮だった。

 思い切り馬乗り体勢に町の通りのど真ん中でされて周囲が一瞬ざわつくも、雪蓮と神牙だとわかった瞬間『あぁ、またか』的な顔をしていた。

 

 

「神牙がいつの間にかいなくなったから、さびしくてひとりで飲んでたのよー……!」

 

「部下とかご友人でも誘えば良かったでしょう? というか降りて貰えませんかね」

 

「嫌よ! 逃げるかもしれないれしょー!」

 

「に、逃げませんよ……」

 

 

 お、女を殴りたいと思ったのは生まれて初めてかもしれない。

 と、どこぞの新世界の神を目指すノート使いみたいな事を内心思いながらも、何とかベロベロになってる雪蓮を宥めながら退いて貰って周りに誰か知り合いは居ないかと見渡しても誰も居ない。

 

 

「さっきまで黄蓋様とご一緒でしたのですが……」

 

「そ、そうですか」

 

 

 町人に聞いてみれば、どうやら黄蓋という孫呉の重要的な人物と一緒だったみたいだが、1人で帰ってしまったらしい。

 

 

「ちょっとーなんれ祭の事をきにするのよー!」

 

「痛い痛い!? か、噛みつくってアンタは獣か!?」

 

 

 くそ、あの飲んだくれ二号め……! と雪蓮同様に酒浸りな黄蓋に対して呪詛めいた事を内心思えば、その雪蓮が不満顔でもたれてきながら腕に噛みついてくる。

 それも割りと本気のせいでくっきりと雪蓮の歯形が腕に刻まれるくらいに。

 

 

「わ、わかりましたから孫策殿。

と、取り敢えず屋敷に戻りましょう?」

 

「じんがも一緒?」

 

「アナタ1人で帰れるとは思えませんからね……」

 

 

 くそ、この小虎が……。

 と思いはしつつも何だかんだで肩を貸しながら雪蓮を歩かせて屋敷まで送る神牙。

 そして思う。一誠じゃないが、女の好みに酒は飲まないおしとやかな女をタイプに指定しようと。

 

 

「あははっ! 神牙達が来てから毎日が楽しいわっ! 蓮華も変わってきてくれてるしっ!」

 

「そうですか……」

 

 

 俺達はさっさと帰りたいのだがなっ! と、千鳥足の雪蓮の足取りに合わせてゆっくり歩く神牙は心の中で呟く。

 

 

「ずっと顔色が悪かった冥琳も元気になってるし……ホント、こんな日々がずっと続けば良いのに……」

 

「…………」

 

 

 しかし酒のせいで若干本音が洩れてるのか、ほんの少し儚げに微笑む雪蓮に神牙は耳を塞ぎたくなる。

 

 

「やめてください。

俺達は所詮外様なんだ、アンタ達とは違う時代を生きていて、帰らなければならないんだ」

 

「…………帰る」

 

「そうだ。アンタ達はアンタ達でなるべく生きるべきなんだ。

確かに他所から来たどこの誰ともわからない俺達を招いてくれた事には感謝する。しかし―――」

 

「いやらぁっ!!! 死ぬまで居てよぉぉぉっ!!」

 

「なっ!? いだだだ!? ちょ、ちょっと真面目になったかと思ったらこれか!? 子供かアンタは!?」

 

 

 情は持たない。持ってはならない。

 三バカは癖がそれぞれありすぎる性格だけど、ただ一つ共通してしまうものがある。

 それは繋がりに餓えているという事。

 

 曹操はその辛かった半生により。

 ヴァーリはその血筋により。

 そして一誠は全てに裏切られた事により。

 

 故に三人は……三人の間には互いを何があっても裏切らないという鉄よりも固い結束があった。

 だから、雪蓮の様な言葉は神牙と二人の心を揺れ動かしてしまう。

 

 

「ほ、ほら着きましたよ……」

 

「送ってー……」

 

「こ、この女………はぁ、仕方ない」

 

 

 自分達はこの時代に存在すべきではない。

 故に帰る。

 戻った所で元の時代が自分達にとって住み良い世界かと言われたらそうではないけど、それでもこの時代には居るべきではない。

 

 

「ほら、布団を――ぬぐっ!? お、おい俺の服の袖を掴んだまま寝るな! 離せっ!」

 

「すー……すー……」

 

「おいっ! ふざけるなよ女! これ以上アンタ付き合わされて堪るか――うぐ! ふりほどけない!」

 

 

 だから俺達の中に入るな。

 帰るその時まではお前達にとって気に入らない者を消すことも吝かじゃない。

 だが俺達を仲間だとは思わないでくれ……そうでなければ俺達は――

 

 情を決して抱いてはならないと思い続ける神牙のそんな本音を知ってか知らずか、寝オチした雪蓮は去ろうとする神牙の服の袖を掴んで離してくれない。

 三人の中では文句なく身体能力が最低である神牙も、ずっとマンツーマンで鍛えられてきて成長してしまった雪蓮の腕力に敵わなくなってきたのだろうか、その内神牙の腰に腕を回して抱きついてくるせいで完全に身動きが取れなくなってしまう。

 

 

「この女……いい加減に……!!」

 

 

 もう頭にきた。

 殺しはしないが少し痛い目くらいには遇えと拳を握りしめた神牙は抱き着いて離さない雪蓮の頭に向かって振り下ろそうとしたその時だった。

 

 

「お母様……」

 

 

 小さく、か細い声で母の――どうやら既に亡くなっているらしいこの世界の孫堅を呼ぶ雪蓮に、神牙は思わず拳を緩めてしまう。

 

 

「なんなんだこの女は……」

 

 

 元の世界ですらこんなタイプの女には会った事は無かった神牙は、少し見てしまった彼女の繊細な面を前に全身の力が抜けてしまい、振り下ろそうとした手がそのまま眠る彼女の頭に触れている。

 

 

「本当に今日だけだぞ……」

 

 

 親の愛情を知らないからこそ、繋がりに餓えている青年。

 本来なら殺し合う筈の英雄の子孫は、外史の英雄となる女とどうなるのか。

 

 

「ふふ……」

 

「チッ、呑気に寝て……。

お陰で俺は夜通し確定じゃないか……」

 

 

 それはまだ分からない。

 

 そして明く日の早朝。起きた雪蓮が神牙を抱き枕にしてたのに気付き、勢いで閨に連れ込んだと勘違いされて、彼女らしからぬ微妙に気まずい態度をされるのかもまだわからない。

 

 

「テメェ!! 遂にやらかしやがったかこのムッツリがっ! 天誅! 天誅!!!」

 

「ぐげぇぇっ!? ち、違う誤解だ! 俺は何もしていない!」

 

「一晩部屋を共にした時点で何も無いとは言わさねぇ!! 死にやがれ! 死にやがれぇぇっ!!」

 

「ぎぇぇぇっ!? じ、自分が童貞のままだからって八つ当たりは――ぎゃぁぁぁっ!?」

 

「馬鹿だな、また余計な一言を……」

 

「雪蓮。本当に何も無かったのよね?」

 

「え、う、うん……それが飲み過ぎて殆ど覚えてなくて……。

祭は覚えてない?」

 

「さぁなぁ? わしはなーんも覚えてないぞ? ただ、神牙が甲斐甲斐しく世話をしていたのだけは見てたが?」

 

 

 わかる事は、彼のTo LOVEるはまだ終わりそうも無いという事ぐらいか。

 

 

「ちくしょー! 悔しいよぉっ! よりもよってあの馬鹿に先越されたのが俺は悔しい!!」

 

「まだそうと決まった訳じゃないんだし……」

 

「一々うるさい奴だ」

 

「うるさいとはなんだ! 男にとっては割りと重要なの! キミ等みたいに将来間違いなく行き遅れるに決まってる堅物なんぞには理解できないだろうがな!!」

 

 

 大きくなりそうな戦いの前だというのに妙に緩い空気の孫呉達。

 一誠にボコボコにされて床にひっくり返ってる神牙は泣いても良いとは思うが、取り敢えず雪蓮に抱き起こされながら顔面に胸を埋めてる時点で、どう思うのかは諸君に任せたい。

 

 

「あらあら、まさかのお世継ぎですかぁ~?」

 

「いや、無いと思うが。

身持ちは一誠を抜かせば俺も神牙も固いつもりだし」

 

「という事はヴァーリさんも未経験なんですかぁ~」

 

「? それがなんだ? 別に一誠みたいにそれを恥とは思わないぞ俺は」

 

「あらそうですかぁ」

 

「まったく、忙しい時期だというのに……」

 

「すまないな……俺の友人が」

 

「別にお前のせいじゃないさ。

それより寝癖がついてるぞ?」

 

「? どこにだ?」

 

「こっちだこっち……おほん、仕方ないから私が直してやるから屈んで――」

 

「はーいヴァーリさん、私が直してあげますよぉ」

 

「む、すまんな。だがお前の胸のせいで息がし辛い」

 

「………。ホント貴方って人は――ふふふ」

 

「………………」

 

 

 この変なやり取りの印象も諸君に委ねるし……。

 

 

「ちくしょう! なんで俺ばっかりこんな……」

 

「ふーん? そんなに欲しいならシャオが一誠の赤ちゃん産んであげよっか?」

 

「小蓮! 変な事を言うな!」

 

「そうです! この男は本気にしますっ!」

 

「えー? そんなに一誠が嫌いならずっとシャオの傍に居て欲しいんだけどな? 一誠は嫌?」

 

「20年は早いぜ小蓮ちゃま! マセガキはお仕置きじゃあ!」

 

「キャハハハ! くすぐったいよぉ一誠ぇ!」

 

 

 末っ子幼女にマジ擽りやってじゃれあってる一誠に対する評価も委ねます。

 

 

「本当に子供には好かれるなアイツ……」

 

「町の子供達の殆どから好かれてたと知った時は驚きましたよ」

 

「やっぱり一誠様は凄いのです!」

 

 

 おばけのフリをして孫尚香という真名が小蓮という幼女と追い掛けっこをして遊んでる一誠に蓮華と思春は、彼が町の子供達からすらも絶大な支持を集めているという事実に解せない気分だったとか。

 主に乳龍帝という仮面ヒーローに扮して子供心を鷲掴みにしてる辺りはあまり健全とは思えないが。

 

 

 

「おい、そろそろ約束の時間になるのだが……」

 

「ん? あぁわかったよ。

んじゃあ小蓮ちゃま、また後で――」

 

「ダメぇ! 一誠はずっとシャオと一緒なの!」

 

 

 だがそうとは別にこの小蓮はかなりどころじゃなく一誠に懐いていて、ここ最近は思春や流れでやることになった蓮華の進化レッスンの時間になると大泣きしながら一誠に引っ付いて行かせようとしない。

 

 

「蓮華お姉様も思春も一誠が嫌いなんでしょう!? でもシャオは一誠が大好きだもん! だから連れてかないでよっ!」

 

「いやあの、私も思春もなにも好きでコイツをだな……」

 

「これも修行の為ですので……」

 

「だったら二人でやれば良いじゃん! 一誠はシャオのものなのっ!」

 

「「………」」

 

「え、何で二人して俺を睨むの?」

 

 

 一誠の腰辺りに引っ付いて離れようとしない小蓮が二人をこれでもかと威嚇しまくり、蓮華と思春はジトッとした目を困惑する一誠に向ける。

 

 

「お前はこんな幼い子供にすら手を出すのか?」

 

「最低だな。最低最悪だ」

 

「罵倒っ!? 俺罵倒されてる!? なんで!?」

 

「きっとお二人が妬いているのです!」

 

「「それはありえない、これにそんな気持ちは欠片も無い」」

 

「ちょっとやめてよ……流石に傷付くぞ俺だって」

 

「ほら、そんなに嫌なら一誠だってシャオと一緒の方が楽しいもん」

 

 

 別に自分もそうは思ってないけど、そこまでステレオ気味に言われるとちょっとは傷付く一誠。

 そもそもこの小蓮に懐かれたのも、偶々出会して偶々水切りで遊んで、偶々ドラゴン波を見せてあげて、偶々足を怪我したからおんぶしてあげて、そのまま手当てもしてあげて、町に出て遊んで、町の子供引き連れて現代の外遊びを教えてたらガキ大将的な位置に祭り上げられただけの事だった。

 

 そりゃあ確かに町の幼女何人からか、将来大きくなったら貰って欲しいみたいな事は言われたが……。

 

 

「ねぇ良いでしょう一誠? シャオとずっと一緒に居ようよ?」

 

「その前に、取り敢えず二人との約束もちゃんと果たさないといけないってのは良い子な小蓮もわかるな?」

 

「…………うん」

 

 

 横道に逸れたが、とにかく小蓮にとてつもなく懐かれている一誠はあくまでも彼女を子供と見なしていてそんな感情はゼロだ。

 今だって離れようとしない小蓮と目線を合わせる為に屈んで、思春と蓮華との約束を先にしていることを優しく説明し、小蓮もそれはわかっているのか、ちょっと悲しげに俯きながら小さく頷く。

 

 その時の一誠の顔は何時ものちゃらんぽらんさが無く、とても真面目で呼び方もちゃまを付けていない真剣なものだった。

 

 これには蓮華と思春も少し驚く。

 

 

「退屈かもしれないけど、二人との約束を果たす所を小蓮も見に来ても良い。

で、それが終わったら好きなだけ遊んでやる……どうだ?」

 

「わかった、シャオちゃんと待つ……」

 

「ん! 良い子だな小蓮ちゃまは!」

 

 

 あの一度言ったら聞き入れないある意味母の孫堅に一番似ている小蓮が言うことを聞いた。

 やり取りを見ていた者達もかなり驚くが、一誠はそんな小蓮を肩車しながら蓮華と思春と明命に話し掛けた。

 

 

「この子も連れていくけど、良いだろそれくらいは?」

 

「あ、あぁ……」

 

「そ、それは構わないが……」

 

「あ? なんだ揃いも揃って罵倒してくるかと思いきや、今度は間抜けなもんでも見る様な顔して?」

 

「多分そういう意味では無いと思いますよ一誠様」

 

「?? なんのこっちゃ。

まぁ良いや、さっさと行くぞ。ほーら一誠号が発進するぜ小蓮ちゃま! ちゃんと掴まれよ?」

 

「うん!」

 

 

 嘘だろって誰もが思う程に一誠に懐いている小蓮。

 彼は子供受けだけは凄まじいのだ。同じ目線で語らえるから。

 

 

「ねーねー、やっぱりシャオはすぐ一誠の赤ちゃんが欲しい」

 

「ダメだ。もっと大きくなってからだ。

それに、小蓮ちゃまが綺麗に成長してる頃は俺はジジィになってて、俺なんかよりよっぽど良い男に出会える筈だぜ?」

 

「居ないもん。一誠の他なんかシャオには考えられないもん……」

 

「へっ……そこまで言ってくれる女なんて居なかったぜマジで。

ちょっと複雑……」

 

「じゃあシャオが一番だよね? ずっと一番だよね?」

 

「あぁそうだな。そこまで言われるとちょっと期待しちゃうぜ? へっへっへっ!(まあ、その頃には二度と会えない場所に俺達は帰るからな……)」

 

「本当!? 約束だよ一誠!」

 

「あぁ、約束だ」

 

 

 とても嬉しそうにはにかみながら一誠の頭を抱き締める小蓮に、一誠は凄い複雑な顔をしながら、後ろからジト目で見てくる真面目二人の視線にチクチクと背中を刺されるのだった。

 

 

「変態」

 

「ドスケベ」

 

「ま、まぁまぁお二人とも……」

 

 

 それはある意味ご褒美なのかもしれないけど、基本的にS寄りな一誠にすれば堪ったものじゃないのだ。

 

 

「えへへ~ シャオのおっぱいだよ一誠!」

 

「あーうん、ちゃんとあるねー(棒)」

 

「「…………」」

 

「ちょ、やめてよ二人とも……そんな目で俺を見るなよ……」

 

 

 適当に小蓮に合わせてあげてるのに、マジと捉えてる二人の視線がとても痛い。

 一誠は今日も一誠だった。




補足

曹操くん、とんだ災難。
その災難っぷりは彼に匹敵できるかもしれぬ。


その2
彼は然り気無い行動をするから母性をこちょこちょさそてることにまるで気付かないED疑惑持ち。


その3
……まあ、しょうがないよね。
だって本人がガキだもの。

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