箸休めです
神滅三バカ日和
一時のテンションに身を任せると後で絶対に後悔してしまう。
誰かが昔言っていた言葉だけど、まさに彼等はそんな状況に後悔している真っ最中だった。
「まさか好物のチーズバーガーを誰が食った食わないかで揉めた結果がこんな事になるなんて……」
「オメーが黄昏の聖槍を振り回しながら暴れたせいだからな」
「いや、そもそもお前がチーズバーガーを食うからだぞイッセー」
誰かが呼び始め、遂には固定された三馬鹿。
上から曹操と名乗っていた青年・ジンガ。赤き龍を宿すスケベ小僧・イッセー。強い者と戦う事が三度の飯よりも大好きな戦闘バカ・ヴァーリ。
奇しくも同世代で神滅具を其々宿し、更には己の
彼等の生きる世界ではそんな風に周りから評されている。
「コンビニもない。ゲーセンもない。TVもない。ソフトクリームも食えない。電気も通ってねぇ。携帯も使えねぇ。………………現代っ子の俺としては耐えられないんだが」
「俺は寧ろ今の生活が懐かしいけどな。
貧乏だったし……」
「だが俺達の生きた時代とは明らかに逆行してるし、強い者だってそんなに居ないぞ」
が、実際は些細な事で喧嘩したり。
余計な事を言って相手を激怒させたり。
平然と格上に喧嘩を売り回ってしかも勝利したり。
………早い話が割りと年相応にガキっぽい性格の三人は何時しか呼ばれたのだ――神滅持ちの三馬鹿トリオと。
「それは俺の大好物のチーズバーガーを勝手に食ったイッセーのせいでこうなったんだぞ!」
「あ!? ふざけんなテメー! その前にオメーが人が楽しみしてたソフトクリームを食ったからだろうが!!」
「子供かお前達は……」
今回の想定外の出来事にしたって、始まりは非常に餓鬼のやり取りそのものであり、ジンガの大好物のチーズバーガーをイッセーがソフトクリームを食われた仕返しにムシャムシャ食い散らかし、それを見て激怒したジンガが神器の力とスキルを全解放して次元に大穴を開けてしまったのが原因だった。
ブラックホールの様に三人が吸い込まれ、気づけばド田舎としか思えぬ未開の土地に立っており、調べてみれば現代機器がなにひとつ存在しない戦国めいた世界。
挙げ句ジンガにしてみれば目眩を覚える不思議過ぎる世界……。
「それよりどうやって元の時代に戻るかを考えなければならないだろう?」
「……。確かに。
すまなかったよイッセー、俺も少しムキになりすぎた」
「……。あぁ、俺も大人気なかったぜ。わるい」
イッセー的には嬉しい誤算めいた世界。
三馬鹿トリオはそんな世界で只今元の世界に戻るためにせっせと生きているのだ。
「三人で力を全解放しても、あの時みたいに次元に穴は開かない所を考えると、何か別の手段を考えなければならないと俺は思う」
「……まあ、アレだけ試しても駄目だったしな」
「それしかないのは解るが、そもそもあるのか?」
「「「…………」」」
時には賊みたいな輩をシバいて逆に金品を巻き上げ。
「それはわからない。
が、俺が思うに俺達とは別に恐らく未来からやって来たと思われる男がキーマンだと思う」
「あぁ、天のなんたらって奴か?」
「確かどこかで兵隊を編成しながら各地を練り歩いているんじゃなかったか? 探そうにも笑えぬレベルで弱体化しているから未だ探せずじまいだけど」
時には小金持ちを装って町に出向いて情報を集め。
「あの子達にはそれとなく吹き込んでるんだけど、あんまり興味を示してくれないんだよなぁ」
「
「まさか俺達をコキ使えるから必要無いと言い出すとは思わなかったぞ」
そんな事を繰り返しながら知らず知らずの内にとある人物が治める領土に入り込み、更にはちょっとした理由で三人が喧嘩をしてしまった騒ぎで捕まり……。
「みーんな美少女&美女だから良いけど、生きるべき時代が違いすぎるからなぁ」
「お前は何時でも女を基準にするな……」
「それで何度女に騙されてきたと思っている。まるで懲りない奴め」
「美女なら許せる性分だからなっ!」
女性の方が男性より強いというのが常識となっているこの世界で、笑えぬ弱体化を果たしても尚異様に強い男三人という事でその領主に興味を持たれてしまい、釈放の代わりにその領主の管轄下で働く事になり……。
「まぁでも、この世界ではなるべく控えるわ。
どうせ元の世界に帰れば永遠にお別れだし」
「そうしろ。あまり情は持つな。
奴等とはあくまで利害の一致で手を組んでいるとだけ考えろ」
「じゃないと後々辛いからな……」
結果それなりに領主達に目を掛けられ……。
「えー只今帰りましたー」
「見回りの結果、特に騒ぎも無く実に平和だと感じました」
「ちなみに占い師は居ませんでした」
「あらそう。
それは何よりだったわ」
『……』
その領主が何と女版孫策でしたとさ。
「あぁ、所で噂の天の――えーっと、なんだっけ?」
「天の遣いな」
「そうそれ! その天のお遣い様はどうやら――」
「あぁ、良いわ良いわその話は。
別に興味なんてもう無いし」
あまり三国志に詳しくは無いイッセーとヴァーリは知らない。
まあ、孫堅がこんな褐色肌の美少女で、配下の名あり達も同等の時点で史実もへったくれも無い訳だが。
「さて、そんな話よりも次のお仕事を頼みたいのだけど」
「「「………」」」
だから微妙に扱い辛い。
特にこの孫策に関しては何に対してものらりくらりで、そのわりには自分達をどこぞに放逐しようとはせず手元に置いている。
今も天の遣いなる存在についてを話してみてもあっさりと『興味ない』と返されてしまった挙げ句、然り気無く次の仕事まで命じてきたのだ。
「まずは神牙、アナタは私の訓練に付き合って」
「は、はぁ……また俺ですか」
特にジンガは一度手合わせを願われたので軽く捻ってやって以降、やたらと孫策に拘られてしまっている。
「次にヴァーリ。アナタは何時もの通り冥琳から読み書きを教わりなさい」
「……。なんで俺が」
「真面目に聞いてるのがアナタくらいだって言うのよ。そうでしょう冥琳?」
「そういう事だ、行くぞヴァーリ」
「……………」
ずるずると褐色黒髪の眼鏡美人に首根っこを掴まれながら退室していくヴァーリに、一誠と神牙は心の中でだけ同情しておく。
「そして一誠。
アナタは蓮華の様子を見てあげて?」
「げっ!? お、俺があの子をすか? う、うーん…」
そして一誠もまた命じられた仕事に少し難色を示す。
「あら、嫌なの?」
「いや、向こうがすこぶる俺を嫌ってるのに、わざわざ俺に様子を見させるのはよくないんじゃないかなって……」
本来なら今孫策の口から出てきた蓮華なる名前の者は彼女の妹で美少女なのだが、如何せんこの一誠の性格がかなりちゃらんぽらんなせいか、初見の時点でかなり嫌われたという出来事があった。
それに加えて一誠も一誠で生真面目タイプとはあまり反りが合わない気質故に、いくら美少女相手でも勘弁願いたかった。
「うーん、私的にはまだあの子が警戒しているだけにしか思えないけどなぁ?」
「………」
けど孫策はそれでも行けといった笑みだった。
その笑みからは『絡ませたら絶対に面白くなるから』的な思惑が見え隠れしていた。
「わ、わかりましたよ。
けどどうなっても知りませんからね?」
「ん、よろしい!」
結局美少女の頼みには弱かった一誠は渋々と頷きながら一礼し、退室していく。
今の三馬鹿は帰る為に働かなければならないのだ。
「孫権さーん、あっそびましょー!」
渋々嫌々引き受けた一誠は、これならヴァーリやジンガの仕事の方が楽しそうじゃないか……とかブツブツ文句を言いながらも離れにあった蓮華――つまり孫策の妹の孫権の元へとやって来て、扉を叩きながら、まるで友達の家に遊びにきた小学生みたいな事をし始める。
「…………」
しかし返事が無い。
中に気配は感じるので居ることには居るのだが、どうやら無視をしているらしい。
「孫権さーん! 孫権ちゃーん! 孫権ちゃまー!! 出てこないと永遠に叫び続けるからねー!!!!!」
結果、ちょっとムッとなった一誠は扉をドカドカと叩きながら名前を連呼し始めた。
本人的にも好きで来てる訳じゃないし、何より孫権とはあまり反りが合いそうに無いのもあったので、遠慮するよりは開き直ってしまった方が楽だと最近気付いたらしい。
これには中で無視をしていた孫権も堪らなかったのか、顔を真っ赤にしながら扉を開けて怒りの表情だった。
「うるさいぞ! そんな大声で何度も名前を呼ぶな!!」
姉と同じ髪色と肌。
それは文句無く美少女なのではあるが、性格が真面目で姉と比べるとお堅い印象がある少女の怒りに、一誠も対抗して指で彼女の額を軽くはたいてやる。
「俺だって来たかねーやい。
アンタのねーちゃんに命令でもされなかったら、誰が来るかってんだ」
ペシッと軽く額を小突かれた時点で蓮華が一瞬呆気に取られたが、直ぐ様顔を真っ赤に怒りに戻ったと同時に固く握りしめた拳を顔面目掛けて叩き込もうとする。
が、当たり前の様にヒラリとかわされてしまう。
「くっ!」
「様子から見ても元気そうで結構」
「お前の鼻を叩けたらもっと元気になれそうだ……よっ!!」
「そんな蚊みてーなパンチじゃあ無理だ無理」
「このっ、言わせておけば!!」
ブンブンと拳を振り回してくる蓮華にヘラヘラしながらおちょくる一誠。
やがてスタミナが切れたのか、諦めた様にその場に膝をつく蓮華が恨めしそうに息ひとつ乱さない一誠を睨む。
「気は済んだ? あーめんどくせぇ」
「くぅ! か、勝手に私の部屋に入るな!」
「うっさいなぁ、様子を見ろって言われて仕方なくなんだからしょうがないだろ? ほら、茶ァ出せや茶」
「お、お前、日に日に私に対する敬いが消えてないか……?」
「アンタみたいなのに対して下手に出てたら付け上がられるだけだって思っただけだし、俺はこれが素なんでね。
んな事より早く茶ァ出せよ」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
孫策に対しての態度とは明らかに違いすぎる今の一誠は、平然と蓮華の部屋に上がり込むと、図々しく座りながら茶を要求する。
その時点で護衛として隠れていた蓮華の部下が殺意を向けてるのだが、本人は分かってる上でスルーしていた。
「あーぁ、ジンガやヴァーリが羨ましいぜ。
どうであれあんな美人と遊べてさ。それに比べて俺は、堅物で卑屈になってる生真面目なんかの様子を見てるだけって……あー不公平だぜマジで」
「だ、誰が卑屈だ!」
遂にはごろ寝しながら文句を垂れ始める一誠に蓮華はウガー! と吠える。
こんなちゃらんぽらんが服を着て歩いている様な男に言われる筋合いなど確かにないのだ。
「お前のねーちゃんは今ジンガ相手に武芸の腕を磨いてるぜ? で、アンタは何をしてた?」
「うっ……そ、それは……」
なのにこうやって胸の内を見透かしてくる。
それが蓮華は気に入らなかった。
「まあ、わからんでも無い気持ちではあるから俺もこれ以上は何も言わんけどよ」
「……………」
確かに多少姉に対してのコンプレックスの様なものは持っていた。
何時だって前を歩く姉の背中しか追いかけられなかった自分の弱さを呪った事だってあった。
「わ、私にどうしろというんだ……」
「そんなものは自分で考えるんだね。俺はあくまでアンタのねーちゃんに頼まれてるだけの外様でしかねぇ」
そう突き放す様な言い方に蓮華はちょっとムッとなるものの何も言えずに項垂れた。
目の前の男は大嫌いだが、何度かこんなやり取りをしてる内に蓮華は自然と自分の抱える色々なものを打ち明けていた。
「私は姉様のような器は無い。
でも私は私なりに最善を尽くすつもりだけど……自信が……」
「あーぁ、真面目ちゃんが考えそうな事だな。
んなもん、開き直って好きにやりゃあ良いんだよ。考えるだけで動けない能無しよりまだ馬鹿でも突っ切れた方がマシだぜ」
「お前と一緒にするな……」
「そりゃそうだ」
「そこは何か言ってくれよ。変な所で素直になられてら困るだろ……」
それは彼の考えを理解できないから――なのでは無いのかもしれない。
彼のような後先を一切考えないちゃらんぽらんさが新鮮で、そして何より彼の魅せたものが説得力を持っていたから羨望にも近いものを抱いているのかもしれない。
「なぁ、お前達の居た『天』の者は皆強いのか?」
「天じゃなくて未来だよ。
それに皆が皆が強い訳じゃない。俺達がちょっと特殊なだけだ……」
「ではお前達の探している天の遣いはもっと強いのかな……?」
「さぁね、それは会った事も無いから何とも言えないぜ」
皮肉にも蓮華は彼という不真面目男にこれまで二度は命を助けられた。
一度目は食事に毒を盛られた時にそれを看破し。
二度目は他の町を襲ってた賊集団に拉致されかけた時に。
特に賊を撃退した時に見た彼の強さは異常だった。
腕に赤い鎧の籠手のようなものを纏い、全身から血の様に紅い気を迸らせ、まるで龍が喰らうが如し力……。
「興味あんなら探して会わせてやろうか?
寧ろ俺なんぞより余程気が合うんじゃね?」
「そうだな、お前みたいに人の心を見透かした様にモノを言っては来ないだろうな」
「だろ? ふふふ、今やっとアンタと気が合ったな。俺達としてもその天のなんたらに興味もって貰いたいと思ってたところで――」
「が、私もその天の遣い自体には興味は無い。
そもそもお前という不真面目で不敬が服を着て歩いている様な奴を前にすれば誰でも普通に見える」
「……………訂正。やっぱアンタとは気は合わんわ」
純粋にそれは綺麗だった。
不覚にもその時見た彼の横顔はとても凛々しかった。
「所でお前、何故私を真名で呼ばないんだ? 一応腹立たしくも前に二度も命を救われた借り返しのつもりで授けたんだが?」
「あ? アンタこそお前か貴様としか俺を呼ばないだろ」
「言われてみれば確かに……」
「やっぱ変な所でアンタ馬鹿だな」
「ば、馬鹿とはなんだ馬鹿とは! お前に言われたくはない!」
自由に生きている。
きっとそれが羨ましくて蓮華は一誠が嫌いなのだろう。
「よしわかった! 今呼べ私を! 真名で!」
「はいはいかしこまりましたよー……蓮華ちゃま」
「ちゃ、ちゃまってなんだ!? 普通に呼べ普通に!」
「そうやってすぐムキになるガキにはちゃま付けで充分だぜ」
自由で強い……姉の雪蓮の様な彼が。
終わり
大体雪蓮の読み通り、ちゃらんぽらんな一誠に蓮華よ相手をさせた事により、若干彼女の生真面目さが薄らぎ、良い塩梅となっていた。
「て、手から光る弾を出してぶつけるのは反則だ!」
「戦場で殺し合う相手にもそれを言うのかよ蓮華ちゃま?」
「ちゃ、ちゃまって言うな!!」
手から謎の光る弾を放つ一誠から涙目で部下達と逃げてる姿もそうだし……。
「武器が無くなったら落ちてるものを使え。
泥でも砂でも相手の顔面にぶつけて視界を奪ってからぶちのめせ」
「それは卑怯じゃ……」
「…………。あのさ、向こうは殺す気で来てるのに卑怯とかで片付けて死ぬ気なのか? 死んだらそれで全部終わりなんだよ。
良いか? どんな手を使ってでも生き残る事は決して恥なんかじゃあないんだよ」
「わ、わかった……。そんな真面目な顔で言うなんて思わなかったよ……」
闘う者の気構えも教えてくれている。
「テメー! それは俺の小籠包たろうが!!」
「今お前だって私のを食べたじゃないか!」
……まあただ、ちょっと程度が似て来た気はしたけど。
「ねぇ雪蓮……大丈夫なの? あの蓮華が一誠と取っ組み合いになりながら料理の奪い合いをしてるけど……」
「ええっと、ジンガの世界の言葉で表すなら、結果おーらいって奴よきっと」
互いに頬をひっぱり合いながらマウントポジションの奪い合いをしてる二人にちょっとだけ微妙な空気になるものの、それでもどこか蓮華は楽しそうだった。
「アンタのせいで周りから生暖かい目で見られるんだけど」
「くっ、私とした事があんな事で熱くなってしまうとは不覚……」
彼女は無意識に学習し始めたのだ。
心に余裕というスペースを作る技術を。
「ほら見ろ、あの白い制服を着た俺達くらいの年の青年が天のお遣いらしいぜ? 興味持ったよな? てか持ったって言ってくんね?」
「…………………。うん、あまりどうとは思わないかな。
それより今日はどんな事を教えてくれる?」
「あ、うん。じゃあドラゴン波の出し方を―――じゃなくてさぁ、キミ最近口調がずいぶんと変わってる気がしてならないのは何で?」
「? 私は普通のつもりよ?」
「いやいや! もっとこう攻撃的だったろ!? なに妙に女の子っぽいの!? やめて! 鳥肌が立つんだけど……」
「あ……ご、ごめんなさい。そんなつもりはなかったの……」
「……。い、いや俺もちょっとごめん。
う、うんまあ良いと思うよ……うん」
「そ、そうかしら? ふふ……一誠に言われるとちょっと嬉しい……」
(あ、あっれー? なんでこうなったんだろ……)
そして一誠や神牙やヴァーリの様な技術を観て学習していく余裕を。
「確認するぞ? お前等は彼女達に情は抱いてない――よな?」
「「……」」
「……。その目の逸らしっぷりでわかったよ。
どうするんだよ……ホント」
彼等という三人の持つ精神に触れることで彼女達は到達してしまうのだ。
精神という名のスキルへと。
「私が勝ったら帰らないでとは言わない。
けれど、私が勝ったら私を連れていって……!」
「卑屈だった子が言うようになったな……。
良いぜ蓮華―――最後の喧嘩だ!」
続かない
補足
世界征服くらいなら余裕でできるけど、三人はあくまで元の時代に戻りたいので無双はしません。
火の粉くらいは振り払いますが……。
その2
ちなみにこの一誠はオーフィスともソーたんとも出会わなかった三バカのひとりです。
その3
反りが合わんとか言ってる割りには割りとおちょくるのは楽しんでる。
まあ、ひんぬー会長さんみたいなもんです。……全然ひんぬーちゃうけど。