色々なIF集   作:超人類DX

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なんてこったい!


いがみ合う同じ者

 鬼の様なラッシュで再起不能になった一誠だが、取り敢えずライザーが実家から大量に盗んで――基、貰ってきたフェニックスの涙でボコボコにされた傷だけはどうにかなった。

 

 

「………………」

 

「あー……まぁほら、仕方ないだろ。

切り替えて次に備えろ」

 

 

 回復し、意識を取り戻した一誠は誰が見ても顔から目からが虚ろなものへとなっており、ちょっと気の毒に思ったアザゼルがフォローの言葉を送るも、一誠は体育座りをしながら反応が無かった。

 

 

「レイヴェル、お前はちとやりすぎだ」

 

「あら、ひとつくらい『解らせて』あげるべきだと思ったまでですわ」

 

「だがな……あんな虚ろな目をしながら体育座りなんてやられると寧ろまたトラウマを植え付けてしまったとしか思えんぞ」

 

 

 その光景の原因であるレイヴェルはといえば、ライザーからの注意に対しても平然と反省の色が無いといった様子。

 まあ荒療治になるとは覚悟していたし、寧ろこうでもしなけらばならない面もあるとアザゼルも考えていたので敢えて何も言わないが、問題は朱乃だ。

 今の殺人的ラッシュで糸付きパペットに改造させられてしまった一誠を見て完全に怯えてしまっており、ギルとの手合わせも出来なくなっている様子だった。

 

 

「む、無理よ! 私が彼に敵う訳がないじゃない! ま、また叩かれてボコボコにされるだけよ!!」

 

「無理と決めつけるのは早計だろ。

それに殺される心配は無いのだけは保証出来る」

 

「だからって無理なものは無理よ!」

 

 

 完全に駄々っ子の様にイヤイヤと言い続ける朱乃は恐ろしくて堪らなかった。

 何せ自分の仲間である戦車の小猫と年の変わらない、見た目は可憐そうな少女があんな凄まじいラッシュで一誠を半殺しにまで追い込んだのだ。

 そりゃあ、それ以上に容赦する気配のギルと戦えばどうなるかぐらいは朱乃だってバカではないので解る。

 

 

「……………」

 

「だがアチラはやる気になってんぜ?」

 

「ううっ……!」

 

 

 しかも相手方のギルは無言でシャドーボクシングをしながら待機している。

 それが余計に朱乃を怖がらせるのだ。

 

 

「だが、ここで何時までも渋っていると余計痛い目を見るぞ? 短気らしいからな奴は……」

 

「うぐっ……!」

 

 確かに一理あると朱乃は思う。

 ここで何時までも嫌だ嫌だと駄々を捏ねたら余計に怒らせる。

 そして怒らせたらもっと痛い目に遇う。

 結果、朱乃はへっぴり腰ながらもギルの前に立った。

 

 

「うう……ううっ!」

 

「……………………」

 

 

 寒くは無いのに震えが止まらないし、歯がその震えに呼応してガチガチと音が鳴る。

 あの時以来再びこの悪夢みたいな将軍と相対する羽目になってしまった朱乃は大いにアザゼルを恨んだ。

 しかし非情にもアザゼルは宣言する事で背中を押してきたのだ

 

 

「じゃあ始めろ」

 

 

 死刑台への階段へと続く道へ。

 

 

「あ、あぅぅ……!!」

 

 

 きっと彼女に近しい者なら『こんな朱乃を見るのは初めてだ』と、その怯え方に驚くだろう。

 それほどに今の朱乃の怯え方は尋常では無いし、開始の合図は既に切られているのに、朱乃は震えているだけで動くことすらできない。

 

 

「………………………………」

 

 

 そんな朱乃の様子前に、目元と口元以外の顔面を包帯で覆って隠しているイッセーの名を捨てたギルは微妙に対応に困った。

 目の前の女が自分に対して恐れを抱いていることは結構だが、こうも怯えられると逆にどうやって良いのかがわからない。

 元々はこの世界の自分自身のトラウマを緩和させる手伝いをしてやろうというライザーの判断で動いたに過ぎず、この女に関しては完全にアザゼルが勝手に連れてきたオマケ以下のモノでしかないーーーのはわかるが、そのオマケもついでにカウンセリングしてくれと言われて了承してしまった以上は、散々骨の髄までしゃぶりつくしてくれたクソッタレの一人の平行世界の存在で気にくわないとはいえ、微妙に判断に困るのだ。

 

 

(殴り飛ばすか、蹴り飛ばすか……)

 

 勿論、優しくカウンセリングをしてやる気等更々ない。

 が、前と同じ要領で殴り飛ばしたらさっきのレイヴェルと同じオチになるのが関の山。

 

 

「…………」

 

 

 

 取り敢えずライザーにどうしようかと問う意味で顔を向けてみると、ライザーは無言で首を横に振った。

 それはつまり、レイヴェルと同じようにボコボコにするのは取り敢えずやめておけという意味であり、それを受け取ったギルは、出てきそうなため息を我慢しながらゆっくりと震えながらへっぴり腰になってる朱乃の目の前まで近付いた。

 

 

「………………」

 

「ひっ……!」

 

「怯えるな! 戦え! 今こそ光と雷の力を使いこなせ!!」

 

 

 目の前に立つだけで小さな悲鳴まであげていることに気付いてないのか、アザゼルが後ろから激を飛ばしている。

 トラウマを植え付けたのは確かに自分達だが、その解決法に自分達を使うだけとは世界は違えど無責任な堕天使だと内心思うギルは、取り敢えず震えて動けない朱乃の周りをグルグル回ってみる。

 

 

「あぅ……」

 

「……………」

 

 

 ウロウロ ウロウロ ウロウロウロウロ。

 まるで飼い主の周りを回る飼い犬みたいに回り続けるギルは、一周の度にビクッとする朱乃にどうしたものかと考える。

 ぶちのめすのは簡単だが、こうも戦う気力を失ってる者をなぶり殺しにする趣味は、いくら嫌いな相手とはいえど無いのだ。

 

 

(ていうか、()は何をしてやがるんだよ?)

 

 

 ある意味挑発にもなり得る行動をしてるのに、例え単なる手合わせとはいえ、何にも自分に対して言ってこないこの世界の自分自身に対してちょっと訝しげな顔をするギルが彼へと視線を向けてみると、どうやら彼は引き続き体育座りをしながら虚ろな目をしていた……。

 

 

「流石に怯えきった相手に追い討ちはできないみたいですわねギルも」

 

「嫌いとはいえ、ああも怯えられたなぁ……」

 

「ライザー様、お茶のお代わりはいかがでしょう?」

 

 

 そう、レイヴェルをじーっと見つめながら。

 

 

(…………………おい。

おい……おいおい、おい、おいおいおい……!!)

 

 

 癪な話だし、生きた環境はまだ違えど、この世界の自分自身だというのもあってか、一誠の目線の意味を即理解してしまったギルはかなり内心動揺してしまう。

 それは彼のレイヴェルに向ける視線が絶望だのトラウマだのという意味では無い……という意味だったからだ。

 

 

(あ、あのガキ……いや、俺だけども、あの野郎まさかッ……!!)

 

 

 いやわかってる。何せ自分自身だ。

 環境は違えど己自身だ。

 だからわかるのだ……わかってしまうのだ。

 一誠の気持ちがーーそして今、何を考えているのかが。

 

 

「…………………………」

 

「!? なんだ、ギルという奴から妙な気配が……」

 

 

 ギル―――イッセーと呼ばれた青年はかつて赤龍帝であり、そして無限に進化し続ける異常性を持っていた。

 だが今はそのどちらも壊され、永遠に喪った。

 

 故にかつての名も捨てる事にした彼はギルという名前を使って生きていて、その憎悪と絶望の果てに漆黒の炎をその身に宿した。

 故にその強さの原動力は憎悪と怒りであり、その感情が浮き彫りになると彼は灯すのだ…………夜と呼ばれる炎を。

 

 

 

「…………………」

 

「ひぃっ!?」

 

 

 全身から幽気の如く放たれる黒い炎に朱乃は尻餅をつきながら悲鳴をあげた。

 だがそんな彼女をギルは今見えていない。

 

 何故なら、虚ろな目をしながらも段々ニヘラニヘラと笑い始めてる一誠に対して――事もあろうにこの世界の自分自身に対して明確なる殺意を抱いてしまっているのだから……。

 

 

「! やめろギル!」

 

「何故ギルが怒りを……! よしなさいギル!!」

 

「な、なんだこのおぞましい感覚は……!」

 

「……………」

 

 

 

 憎悪を糧に無尽蔵に生成する漆黒の炎がギルの全身を包み込む。

 希望を失った代わりに怒りを。

 相棒を壊された代わりに憎しみを。

 その想いがギルの身体から禍々しい黒い炎となって出現し、対象者を殺すまで止まらぬ殺戮マシーンへと変貌させる。

 

 

「コ……コロシテ……」

 

「え……?」

 

 

 憤怒と呼ぶにはあまりにも強すぎる憎悪を目の前で体感させられている朱乃は、あまりの恐怖に下着をちょっとばかし湿らせてしまった。

 だがしかし、その憎悪の塊みたいな存在を前にしていた事で彼女は聞いてしまった。

 

 

「殺してやる……!」

 

 

 今しがたレイヴェルにボコボコにされた一誠とあまりにもそっくりで、あまりにも台詞に似つかわしくない声を。

 

 

「死ね」

 

 

 そんな声を放つと同時に全身に黒い炎を纏ったギルがその言葉と共に両の手足が消え――――

 

 

「よせと言っただろう! 落ち着け!」

 

「ギル!」

 

 

 何かが起こるその寸前に、額に濃いめの橙色の炎を灯したライザーと、先程と同じ色の炎を灯したレイヴェルが左右からギルの腕を決めながら上から押し倒した。

 

「!?」

 

 

 顔から地面に落ちるギル。

 その速度に驚くのもそうだけど、一体全体何がどうなってるのか……イマイチ分かってなかったアザゼルが近付きながら疑問を投げ掛ける。

 

 

「おい、何となくだが今そこのギルってのが一誠を『殺そう』としただろう?」

 

「え!?」

 

 

 少しばかり鋭い目をしながら問いかけるアザゼルの質問に朱乃は驚きに目を見開き――――

 

 

(……! え……わ、私もしかして……う、嘘よ……こ、この歳でお、お漏らし―――)

 

 

 自分の下着の中がパニックになっていることに今気付いて、二重の意味でパニックになっていた。

 

 

「今明らかに一誠に向かって攻撃をしようとしたな? ……本人はあんな調子で気付いてないが、何のつもりだ?」

 

「……………………」

 

 

 レイヴェルとライザーに止められて我に返ったのか、全身からあふれでていた夜の炎が消えており、アザゼルに少し殺気を向けられたギルはゆっくりと立ち上がり――――

 

 

「あの小僧がレイヴェルを見ながらニヤニヤしてたから殺したくなった」

 

「!」

 

「!?」

 

 

 確かに移動したレイヴェルを目で追いながら、虚ろながらもニヤニヤした顔をしている一誠を指差しながら、さも普通に理由を喋った。

 あまりにも普通に喋ったので思わずギョッとしてしまうライザーとレイヴェルだが、どうやら一誠とまんま同じ声だということにまだアザゼルは気づいてない様子。

 

 

「レイヴェルに……? あ、あぁ、そういう。

いやあの、アイツは無類の女好きっつーか、そこは多少勘弁してくれないか? てかまさか、あんなにボコ殴りにされたのにそんな目で見てるとは思わなかったもんで……」

 

 

 割りと理由が小さな事だったので肩透かしを喰らってしまうのと同時に割りと喋れるのかよと思ってしまうアザゼルが、ちょっとだけ謝る。

 

 

「そんな目でってギル……アナタって人は……」

 

「しょうがないだろ。耐えられねぇもんは耐えられねぇ」

 

「だからってお前な。

いや、それほどにレイヴェルが好きなのは兄としても喜ばしいが、ちょっとは制御をしないとダメだろ」

 

「わかってるよ――――って、あのガキィ!! まだ見るかゴラァ!!」

 

 しかもマジでそんな理由なのが、ニヤニヤしてる一誠に向かってドスの利いた輩みたいな声で怒鳴る辺りで察してしまう。

 ついでに朱乃がスカートを押さえながら半泣きしてるのを見て色々と察してしまう。

 

「と、取り敢えず一旦中止にして休憩にしようぜ? 俺からもその間に一誠に言っておくからよ……」

 

「それが良いですね。

俺達の方でもギルに言って聞かせるので……」

 

 

 取り敢えず朱乃に着替えを渡したり、一誠を説得した方が先決だと判断したアザゼルはライザーと相談する形で休憩にすることにした。

 そうしないと屍になった一誠を連れて帰る羽目になったり、朱乃の尊厳が台無しになってしまったりと大変だから。

 

 

 

 

 

「おい一誠……まさかとは思うが、今さっき下手したら殺されてたかもわからない相手に対して変な事を考えてはいないよな?」

 

「………………。別に考えてませんけど」

 

「本当だろうな? 良いか、これは忠告だ。

女好きなのは構わねぇが、世の中にはマジで手を出してはいけないタイプの女も居るってのだけは覚えておけ。

でないと――」

 

「ただ、俺……レイヴェルが綺麗だと思うし、殴られた時は確かに痛かったけど―――へ、へへへ……」

 

「……………」

 

 

 休憩に入り、離れた所でライザーとレイヴェルがギルにお説教をしているのを確認しながらアザゼルは一誠に忠告をした。

 だが一誠の態度を見て同時に悟った…………『あ、こらアカン』と。

 何せトラウマになってもおかしくないレベルで殴られたのに、一誠は頬を染めながらその殴られた時の感想をとても『嬉しそう』に話すのだ。

 

 これでは殴られたせいで頭のネジがごっそり抜け落ちてしまったと思っても仕方ない。

 

 

「だからそれがヤバイって言っているんだよ!? 良いから冷静に考えろ!」

 

「俺は至って冷静ッスよ。

さっきからオレンジ色の炎を灯した綺麗なレイヴェルの事が頭から離れないだけっす。殴られたあの手も……」

 

「大馬鹿野郎! 彼女には既に決まった相手が――」

 

「でも別に結婚はしてないっすよね?」

 

「嘘だろお前!? リアスやら朱乃やらはどうする気だ!?」

 

「勿論皆も大好きッス! ハーレム王になる俺としては皆が大好きです。

でもレイヴェルも好きになりました! 一人増えただけッス!」

 

「ふざけんなよお前!? 言わんとしてる事はわかるが、相手を選べよ馬鹿!」

 

「…………………」

 

「朱乃は今そのギルって野郎に心底怯えてたんだぞ!? お前は応援のひとつもしなかったよなぁ!?」

 

「あ、あぁ、すいません。レイヴェルを見てたもので……」

 

「こ、コイツっ……!」

 

 

 方向がおかしな方に傾いてしまった事を嘆くアザゼル。

 朱乃は完全に死んだ顔をしながら、自分の尊厳すらもギルにぶち壊されたショックでブツブツ言いながら体育座りをしているし、一誠は一誠でレイヴェルに対してありえない執着心を持ち出しているし……。

 

 

「前にも言ったけど、心配しなくても彼に何を言われても私の心は寸分も揺れないわ。

少しは信用して欲しいわねギルにも?」

 

「信用はしてる。

が、野郎がお前に対してそんな目を向けるのが気に入らねぇ……」

 

「うーむ、同じが故なのかもしれないな。

とはいえ、お前も少し過敏になりすぎだと思うぞ」

 

「もしよろしかったら今すぐあの男を暗殺して参りましょうか?」

 

「勘弁してくれシーグヴァイラ、お前が話すと余計ややこしくなるから。

ほら飴玉あげるから」

 

 

 向こうはギルの説得になんとか成功しているっぽいが、無理だったと話したら即座に八つ裂きにしてきそうな気配は依然としてギルから感じ取れる。

 

 

「取り敢えず休憩が終わるまで仕方ないから何かしてあげる。

何をしてほしいのギル? 流石にこの場でえっちな事は嫌だけど……」

 

「俺だって流石に言わないよ…………家帰ったらわからんけど。

じゃあえーっと、アレやってよアレ」

 

「わかったわ、『アレ』ね? 本当にギルは甘えん坊さんね」

 

 

 

 

 

「ぎ、ギルって野郎がレイヴェルに抱きつかれてる……! し、しかもあんなにおっぱいを顔に………!!」

 

「そりゃそうだろ、そういう関係なんだから――」

 

「そ、そういう関係ってなんすか!? じゃ、じゃああの野郎はレイヴェルの裸も見たってんすか!?」

 

「そりゃあな……」

 

「うぉぉぉぉっ!! 今度は奴と戦わせてくださいよ!!」

 

「……………死ぬぞ今度は」

 

 

 まさか平行世界の自分同士がこんなにいがみ合うとは誰が思うか。

 世の中はわからないものである。

 

 




補足

新たな扉が開かれてしまった。
ある意味でメンタルだけは成長できたけど代償が……

お義兄さんと呼び出したら戦争になるね……

その2
あけのんェ……


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