色々なIF集   作:超人類DX

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ドライなんです。割りと。


後半は関係ないです


箒の意思

 臨海学校の二日目。

 

 先日のお遊び気分から一転し、本日は午前中から夜まで丸一日ISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる。

 特に専用機持ちは大変らしく、シャルロットは終始忙しそうに作業を進めていた。

 

 そして春人とその友人達が何故か遅刻して来たが、一夏達にとってはどうでも良かった。

 

 

「えーっと、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を開始してください。

専用機持ちの方は専用パーツの起動テストですよ?」

 

「…………」

 

 

 その遅刻者の中には、あろうことか千冬が含まれてしまっており、仕方ないので真耶が代わりに指導をしていた。

 

 

 

「申し訳ない山田先生、少し疲労が……」

 

「……。はいわかりました。では後をお任せしますので、くれぐれもお願いしますね?」

 

「え……あ、あぁ……?」

 

 

 シレッとした顔で千冬が一応謝って来たが、真耶はそんな千冬に笑顔と共に後を引き継がせると、そのまま別の仕事の為に旅館へと戻っていった。

 

 その笑顔には彼女らしからぬ皮肉が込められていたせいか、千冬もこれには狼狽えてしまうし、一組の生徒の一部からの微妙なものを見るような視線に少し居たたまれない気分になってしまった。

 

 

「とうとう遅刻までし始めちゃったね織斑先生……」

 

「本当に大丈夫なのかな……。最近はやまやが担任の先生をやってる気がしてならないよ」

 

「一夏君から少し注意的な事は言えない?」

 

「え、俺があの人にか? …………………まあ、一応言ってくるよ」

 

「えっ!? 一夏くん!? な、何も今言わなくても……!?」

 

 

 入学当初の憧れが吹き飛んでしまってる女子達の不満声。

 そりゃあ確かにいくら世界最強だのブリュンヒルデだのと呼ばれて神格化されてる感はあれど、千冬だって人なのだから多少のポカだってするだろうし、寧ろそういう隙があるからこそ好感を抱けるものだ。

 

 しかしそうじゃないのだ。

 単純に身内――それも片方だけを贔屓し過ぎるし、それが行きすぎて教師の仕事を疎かにするわ、挙げ句開き直る時すら何度かあったのを知ってしまえば、切実に『しっかりしてよ頼むから』と思ってしまう。

 

 

「先生、生徒としてじゃなくて貴女の弟として一言言わせてください。

あまり羽目を外しすぎて他の人の迷惑になるような事はもう少し控えた方が良いんじゃありませんか?」

 

「……!」

 

 

 だからつい悪気は無かったが、一夏に愚痴を溢すみたいに言ってしまったのだが、まさか本当に本人に言ってしまうとは思わなかった女子達は顔を青ざめてしまう。

 

 

「……。遅刻をしたのは私だし、少々羽目を外して気が緩んだのも認めよう。

だがお前だって解るだろう? 昨日は春人の体調が少し悪くなったんだ、だから看病を――」

 

「春人の友人達と部屋で大騒ぎしてたと俺は聞きましたがね。

………ま、看病と言い張るおつもりならそれで良いですし、俺はもうこれ以上言う気も失せましたよ。では作業に戻ります――織斑千冬先生」

 

 

 一夏の千冬からの春人との扱いの差の酷さをクラスメート達は知っている。

 春人がクラス代表だからと、美味しい所は春人がやって残りの雑用は押し付けられ。

 それで何かミスがあれば一夏だけが怒られ、この前の訓練授業の時なんかは特に酷く、クラス代表で専用機持ちの春人がセシリア等の他の専用機持ちの生徒との軽い試合形式による実践演舞の後片付けを何故か一夏一人にやらせようとしたのだ。

 

 その時は流石に一組の女子達や一夏と親しい箒や本音やシャルロット……そして真耶がそれはおかしいだろと異を唱えた事でクラス全員で後片付けをやった訳だが、春人は結局何にもせず友人達と騒ぎ、もっと言えば結局片付けたのは一夏達だったのだ。

 

 

「一応言ってきたぜ?」

 

「ほ、本当に言わなくても良かったのに……。大丈夫だったの? 怒られなかった?」

 

「ご、ごめんね? 私が変な事言ったせいで……」

 

「え? 別に何にも言われなかったし、皆が言いづらそうにしてたのも知ってたから大丈夫だよ。

そんな事より、早く作業をやろうぜ? 俺たちだけ遅れてるし」

 

「う、うん……」

 

 

 一夏本人は『余計な角が立たずに済むなら、変に逆らわずに黙ってやっといた方が楽だ』と言うが、クラスメート達にしてみたら、幼少期から押し付けられすぎて考え方が歪んでしまってるとしか思えなかった。

 今だってシレッとした顔で作業に戻ろうと言ってるし、一体これまでどんな扱われ方をしてきたのか……学園内での扱われ方だけを見てきたクラスメート達は心底『箒や本音やシャルロット等の友人に恵まれて本当に良かった』と思うのだった。

 

 

「あ、あぁそうだ篠ノ之! 篠ノ之はどこだ!?」

 

 

 病弱な春人を支えてくれる弟だと思っていただけに、今の一言はそれなりに効いたのか、暫く呆然としていた千冬は、ハッとしたかの様な顔をすると、突然別の一夏とは別のグループと共に真面目に作業をやっていた箒を呼び出す。

 

 

「織斑先生が呼んでるわ……」

 

「大丈夫篠ノ之さん……?」

 

「私達も話し声が聞こえない程度に近くまで一緒に行く?」

 

「いや、大丈夫だ。

そんなに心配しなくても大した事では無いだろう。そもそも別に悪いことなんてしてないしな」

 

 

 千冬に名指しで呼び出された箒にクラスの子達は本当に箒を心配する。

 けれどそんな子達に箒は苦笑いをしながら大丈夫だと返すも、女子達はそれでも心配だった。

 

 

「一夏君の事で何時も織斑先生に言ってるから……」

 

「もし変な事を頼まれたりしたら遠慮しないで言ってね? 私達も手伝うからさ」

 

「すまない、心強いよ。じゃあ行ってくる」

 

 

 不安そうなクラスメート達に軽く手を振りながら箒は千冬の元へと向かい、堂々と前に立つ。

 

 

「何かご用でもありますか織斑先生?」

 

「…………」

 

 

 全く動じる事も無く、真正面に立って見据えてくる箒に千冬は少し狼狽えた。

 思えば彼女は束の妹として春人が幼い頃からの知り合いだが、何時だって自分に臆した事はなかったし、何時も一夏について文句を言ってきた。

 

 だから微妙に――今にして思えば気に食わないリアス・グレモリーの声にそっくりな箒を千冬は苦手としていた。

 だがそんな苦手な箒でも所詮は学生で小娘だし、なにより今呼び出した理由を告げなければならないのだ。

 

 故に千冬は平静を装いながら静かに口を開いた。

 

 

「実はお前の姉、つまり束からお前に専用機を与える話を―――」

 

 

 

 

 

 

 

「ちーちゃ~~~~~~~~ん!!!」

 

 

 取り敢えずは今後は春人の為になるだろうという僅かな思惑を抱きながら、千冬は先日の晩に連絡のあった友人からの伝言を伝えようとしたが、よりもよってその友人の大声に阻止されたばかりか、向こうから異様な砂煙と共にそれは走ってきたのだ。

 

 

「…………やっぱり来ましたか」

 

「あぁ、そういう事だ」

 

 

 異様な速度で砂煙を巻き上げながら走ってくる人影を見て箒はとても冷めた顔をし、千冬もこんな登場をする友人に呆れてしまう。

 巻き上げた砂煙が周囲の生徒達を巻き込んでとても迷惑なのもなんのそので、その人影は見事なブレーキで千冬と箒の前で止まると、そのままのハイテンションで千冬に飛び掛かった。

 

 

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! 早速愛を確かめ───ぶへっ!?」

 

「いきなり現れる奴があるか」

 

 

 だがそこは世界最強。とある暗いルーツを持つ最強は飛び掛かってきた束の顔面を片手で掴み、そのままギリギリと締め付けた。

 

 

「聞いていた話と違うが?」

 

「くぬ! 相変わらず容赦のないアイアンクローだね!」

 

 

 しかし束もまたそんな千冬の拘束から抜け出すという荒業を披露すると、勢いそのままに箒にも挨拶をする。

 

 

「や、昨日振りだね箒ちゃん。おっと、愛しのハルくんは―」

 

「そうでしたね。あぁ、春人なら貴女に気付いてこっちに来てますよ?」

 

「束……お姉ちゃん……」

 

「ホントだ! ハルくーん!!」

 

 

 そして今度は束が来たのを見た春人がやって来たのを見た束が、さっきよりも更に速く春人に飛びかかろうとするも、千冬のドロップキックで未遂に終わった。

 

 

「人の大事な弟に不埒な真似をするな馬鹿」

 

「チィ、ハルくんを守る鉄壁ちーちゃんめ……!」

 

「……………………」

 

 

 気付けば生徒達も作業どころじゃなく、また急に現れた束に視線が向かっていた。

 

 

「箒のお姉さんだ」

 

「僕も昨日見たけど、やっぱりエキセントリックだね……」

 

「はぁ……一応楯無お嬢様に報告しておこっと」

 

 

 生徒達から少し離れた箇所では三人が他人事の様に眺めていた。

 というか、あんな状況のど真ん中に放り込まれた箒に同情を禁じ得なかったとか。

 

 

終わる。

 

 

 

 

 

 何故束が現れたのか、それは春人のサポートの為となる箒の専用機を渡しに来たかららしい。

 

 

「じゃじゃ~ん! これが最新世代にてこの天才の束さんがフルチューンした紅椿だよ! さぁ箒ちゃん! お姉ちゃんからの誕生日プレゼントを―――」

 

 

 だけど当然箒は……。

 

 

「姉さん、その足下に落ちている石ころを拾って頂けますか?」

 

「へ? あ、これ? うん、拾ったよ?」

 

「ではその石ころを私に渡して頂けますか?」

 

「? 何かの心理テスト? はい」

 

「どうもありがとうございます―――

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――素敵な誕生日プレゼントを確かに受けとりましたよ束お姉様?」

 

「…………………は?」

 

 

 そんな紅椿(プレゼント)を受けとるつもりは無く、代わりに束に拾わせた何の変哲もない小石を誕生日プレゼントとして受け取って終わらせたのだ。

 

 

「何やら勘違いされてる様なのでハッキリ言いましょう。

私は別にISの専用機に憧れを持ってる訳では、春人のサポートをしたいだなんて微塵も思ってない。

貴女は私を春人の――言ってしまえば盾にさせたい様ですが、そんな事はごめんですね」

 

「ちょ、な、なに言ってるの箒ちゃん? ハルくんの白式の対となる紅椿だよ? これさえあればハルくんとも仲良しに――」

 

「あぁ、そこから勘違いですか……。

じゃあ言いましょう――――別に春人と仲良くしたいとは思ってませんから私は」

 

「…………」

 

 

 春人には興味はない。ましてや肩を並べてなにかをするだなんてしたくもない。

 ハッキリと、束が唖然とする前で言い切った箒は束から受け取った小石を手に千冬や春人、それから友人達に、綺麗な笑顔で言った。

 

 

「そんなに春人が大好きなら、貴女方の中で好きなだけ守ってあげたら良い。

私はそんな輪に入りたいだなんて微塵も思わないし、私が守りたいのは春人なんかではない」

 

 

 自分が守りたいのは目の前の者の事じゃない。

 かつて心を潰されそうになった少年、導いてくれた姉と兄……そして一夏を一人の人間として見てくれる友人達。

 

 

「私は私の守りたい者がある。

決して貴女達では無いし、私はかつてアナタが私の大好きな親友に向けたあの目を一生涯忘れやしない。

篠ノ之束……私はもうアナタの理解の外だ」

 

 

 その為に兄代わりだった赤き龍帝に憧れた。

 自分も彼の様に大切な者を守れるようになりたいと……。

 故に箒は至ったのだ。

 

 

「そしてありがとう織斑春人。お前が存在してくれたお陰で今の私がある」

 

「っ……!」

 

 

 無神臓(インフィニットヒーロー)の後継者にて、無限を越えし絶夢(ジ・エンドオーバー)へと。

 

 

「有限も無限も全ては絶無(ゼロ)へ帰す。

そして私はこれより貴女達を越える――一夏と共に」

 

 

 か、どうかは不明。

 

 

 

その2

 

 

※これこそ一番関係ないです。

 

 

「………」

 

 

 束からの紅椿(プレゼント)を拒絶しようと思った箒。

 だがしかし、それは空から文字通り落ちてきた存在によって阻まれた。

 

 

「いやいや、いっくんと箒ちゃんが余りにも魅力的だったもんだから、つい黙ってられずに来ちゃったぜ☆」

 

『なっ!?』

 

 

 愛憎を越えた感情を持つ婚厄者が……。

 

 

「お前……!」

 

「やぁやぁ、この世界の私。

上から存分に見下させて貰ったけど、まるで昔の私みたいな空回りっぷりにお腹抱えて笑っちゃったよ。

もっとも、私を見て心底驚いてるそこの養殖ハリボテ野郎に絆されてるキミよりかはマシだとは思うけどねぇ?」

 

「ぅ……」

 

 

 篠ノ之束にあまりにもそっくり過ぎる容姿の女性の出現により、先日出会した本音、シャルロット、箒以外の全ては硬直し、一夏ですら困惑してしまっていた。

 何故なら……。

 

 

「お、いっくん見っけ! ふふ、良いオトコの顔をしてる」

 

「あ、アンタは一体……」

 

「そうだね、こうして会うのは初めてだもんね。

箒ちゃんとそのお友だち二人とは昨日会ったけどさ」

 

「なっ!?」

 

 

 困惑する一夏を優しく抱き締める。

 それは束とは殆ど他人でしかなかった一夏にとって身体が硬直してしまう程の衝撃であり、そして何よりこの束らしき女性から感じるもの全てがあまりにも一夏にとって衝撃的過ぎたのだ。

 

 

「ふむふむ、私の居た世界のいっくんとは違って、アイツに似たんじゃないんだね? 寧ろ似たのは箒ちゃんだけか……」

 

「あ、アンタは……なんで……!? ()()()ともかくとして、どうしてアレを!!」

 

「ふふ……それはこんな所で話すには勿体無いかな? 折角なら箒ちゃんやお友だち……いっくん達が慕うお二人も交えて話してみたいからね?」

 

 

 気質と赤い龍。

 そのどちらもこの束から感じ取れてしまうからこそ一夏は動揺してしまう。

 そして彼女は明らかに顔を歪めながら何かに焦っていた春人に近付き……。

 

 

「やぁ、与えられた姿と力だけの養殖君? キミの正体は知ってるよ? だって私はパラレルワールドの束さんだからね?」

 

「……!」

 

「当然私が生きた世界にキミは存在してない。

当たり前だよねぇ? だってキミはどこかの誰かに力と姿を与えられてこの世界にシレッと混ざり込んだんだからさ?」

 

 

 全てを見抜かれてると春人は全身が熱くなるのを感じながら目の前の束を消すべきだと考える。

 だがどうしたら良い? この大衆の目の前で力を解放してしまったら説明が面倒だ。

 

 

「姉さん……」

 

「! 違う私をお姉ちゃんだなんで呼んでも良いのかな?」

 

「少なくとも今はそう呼ぶべきですから」

 

「嬉しいなぁ。色々あって私の世界の箒ちゃんとはほぼ絶縁だったから……」

 

「絶縁?」

 

「いやさぁ、アイツがまだ生きてた頃、如何に迅速に殺せるかとアイツの弱点を調べようと色々と観察してた時期だったかな。

まぁ、見ててムカつくし、いっつもヘラヘラ笑ってるし、声を聞くだけで殺意が半端無くて大嫌いだった訳よ。

だから当然アイツを監視しながら一人で【自主規制】する訳じゃん?」

 

「は、はい……?」

 

「だからムカつくじゃん? 殺したいと思うじゃん? 大嫌いじゃん? そうなるとアイツの監視映像と声を聞きながら【自主規制】したくなるじゃん?」

 

「…………ごめんなさい、意味がわからないです。それは寧ろ大好き過ぎるからそうしてしまうのでは……」

 

「違うって! 大嫌いだからだよ! その証拠にアイツの肉片をここに移植したしね!」

 

「え゛……」

 

「アイツの顔を見てると、悔しそうな顔に歪めてやりたくなるし、子供扱いしてくるなら子供じゃないって服を全部脱いで見せつけてやりたくもなるし、耳に障る優しげな声で『束ちゃま』だなんて舐めた呼び方をする声を聞いただけでお腹の中が怒りで熱くなって下着だってビショビショになるじゃん!?」

 

『……………』

 

「これを憎悪と呼ばずしてなんて呼ぶのさ? 大好き? ふふ、アイツに抱く気持ちをそんなチンケな感情と一緒にされたくないね。

だって間違いなく―――大っ嫌いなんだからさ♪」

 

 

 そんな春人なんて最早どうでも良いと、一人勝手に語りながら歪みきってワケわからない感情を吐露している束に、この世界の束本人を含めてドン引きされていたのだった。

 

 

終わる




補足

クレイジーだけど、割りと何故か包容力があったりなかったり。

一夏が少なくともリアスに近いものを感じる程度には。


………クレイジーサイコ・マッドサイエンティスト・ラビットだけど(笑)

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