色々なIF集   作:超人類DX

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前半は本編。

後半は本編とは一切無関係話


夢へ……

「海が見えたよ!!」

 

 

 トンネルを抜けたバスの中でクラスの女子が声を上げる。

 臨海学校の初日、天候にも恵まれた快晴だった。

 

 

「………」

 

「大丈夫ですか春人さん? 顔色が……」

 

「大丈夫……バス酔いしてるだけだから……」

 

「大丈夫じゃないよ。着くまで少し横になった方がいいよ。膝貸してあげる」

 

「いや、ここは夫の私が面倒見よう」

 

「黙れガキ共、春人は姉の膝で寝るのが良いのだ」

 

 

 元気な生徒も居れば、バス酔いでダウンしてる者も居る。

 春人はまさに後者であり、完全にグロッキー状態になってるのを姉だの友人だのが膝枕の権利を争っている。

 

 

「姉からいきなりメールが来たんだが……」

 

「何だって?」

 

「誕生日プレゼントは期待して良い。だそうだ。

ハッキリ言って私はこの文面の時点で不安しかない」

 

「それってもしかして、篠ノ之博士が来るかもしれないって事なの? 大騒ぎになるんじゃあ……」

 

「そうなったとしても本人は全く気にしないし、更に言えば私の誕生日プレゼントを渡すというよりは春人が目当てなんだろう。

それならそれで別に良いが、だったら私の誕生日なんて祝わないで欲しいものだ」

 

「結構博士の事嫌ってるねしののん……」

 

「嫌いというよりは、もうどうでも良いと思ってる。

一夏にした事を抜かせば、どこで何をしようが興味が沸かないんだ私は」

 

 

 そんな春人達のゴタゴタしてる席から少し離れた席では、箒の姉である篠ノ之束がひょっとしたら姿を現すかもしれないという話で若干盛り下がっていた。

 

 

「臨海学校の間に誕生日を迎えるからと、一誠兄さんとリアス姉さんからプレゼントも貰えたし、姉からのプレゼントとやらはちょっとな……良いと思った事なんて本当にひとつも無かったし」

 

 

 リアスからは世にも珍しい紅いダイアモンドがあしらわれたペンダントを、一誠からは赤いレディース用の腕時計を臨海学校に行く朝にプレゼントされ、既に身に付けてる箒にとってすれば、7日当日に一夏から渡される約束をしてあるプレゼントさえあったら、もう他は要らないとすら思っているし、ましてや碌な物じゃないと解りきってる実姉からのプレゼントは本当にご遠慮願いたいものだった。

 

 

「良いなぁ、あの二人からのプレゼントを毎年貰ってたなんてさー」

 

「千冬姉さんからプレゼントとかもらったこと無いって言ったらその年から毎年くれる様になったんだよ」

 

「え……た、誕生日プレゼントすら無かったの一夏は?」

 

「双子ではある春人には誕生日プレゼントを与えてたらしいがな。

もっとも、見ての通り一夏はこんな調子だがな」

 

「流石に引くよそれは……」

 

 

 然り気無く腕時計とペンダントに其々一誠とリアスの魔力が込められ、もしもの時は込められた魔力が箒を守る様になってる仕掛けが施されてるらしく、二人からのプレゼントに触れながら箒は不機嫌そうに一夏が過去に誕生日すら姉や弟に祝われてない事を暴露すると、シャルロットも本音も割りと引いた。

 

 

「別にプレゼントなら二人にして貰ってるしなぁ。

寧ろ今頃急にされてもお返しを考えるのが面倒じゃね?」

 

「………」

 

 

 後ろの席で誰が春人を膝枕するかで喧嘩し始めてる千冬達を一瞥しながらシレッとお返しが面倒だと言い切ってしまう一夏に、本音もシャルロットもなんとも言えない気持ちになってしまう。

 

 

「二人や箒から祝って貰えてるんだし、これ以上のものはないだろ?」

 

「確かに、催促をしてこないだけマシかもな」

 

「だべ?」

 

 

 何でここまで一夏が蔑ろにされてるのか。

 おかしいレベルを完全に通り越してると思い始めるが、本人がこんな調子なせいかイマイチ悲壮感が無かった。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで現地に到着した一同は、挨拶だのなんだのや、予め割り振った部屋割りこどに別れて荷物を置いたり、初日の自由時間の海遊びの準備をしたりと急がしそうだ。

 

 

「春人は私と同じ部屋だ」

 

「なっ!? 学園でも同じ寮部屋ですのに、こんな時ですら同じだなんて横暴ですわ!」

 

 

 案の定その部屋割りについてまだ揉めてる所があったが、一夏はマイペースに一人部屋となってる己の部屋に行って荷物を置き、着替えて海にレッツゴー―――かと思いきや、一夏はそのまま一人部屋にて寛いでいた。

 

 

「今年の夏休みもイチ兄とリアス姉に色々な所に連れてって貰えるらしいし、そもそも来て早々海で遊ぶ気にはなれないぜ」

 

 

 どうやら初日は海で遊ぶつもりは無かったらしく、携帯を使ってメールを打っていた。

 

 

「『到着しました。こっちは海が近いせいか風が少し強い気がします。これが所謂潮の香りという奴でしょうか(笑)』…………と」

 

 

 到着した事と、現在の状況を半保護者である一誠とリアスに送る。

 そして携帯をテーブルの上に置き、暫しのブレイクを挟んだ一夏は徐に正座をし始め、静かに目を閉じた。

 

 

「学園に入ってからはあまり大っぴらに鍛えられなくなってるからな。

イメージトレーニングはしっかりとやらないと」

 

 

 一誠とリアスの二人から教えられた技術を研磨させる為のイメージトレーニング。

 それは龍を宿したとはいえ、人の身でありながら人の限界を超越した一誠の様になりたい夢の為。

 どんな理不尽な状況が突然襲ってきても対処し、自分が大切に想う者達を守れる様な男になりたいという子供のような小さな夢の為に。

 

 

「春人。お前が誰かなんてもうどうでも良いし、お前は千冬姉さんの弟として生きたら良いさ、もう詮索する気も無いしな。

寧ろ感謝してるくらいだぜ? お前のお陰で箒と親友になれたし、二人と出会えて――そして強くなれた」

 

 

 最初は困惑したかもしれない。

 誰とも分からぬ存在に恐怖を感じたかもしれない。

 唯一の家族を奪われて嫉妬もしたかもしれない。

 何をしても最早どうにもならないと絶望したのかもしれない。

 

 

「だから俺は邪魔をするつもりなんて無いぜ? 好きな人生って奴を謳歌したら良い、その事に関してだけは応援するさ」

 

 

 否定せずに敢えて前向きに考えて受け入れてみる。

 向こうが嫌悪するならさせてやるまでだし、罵倒したいのならさせてやる。

 

 

「けどな春人。

自覚があるにせよ無いにせよ、人にはここまでなら許せるという領域があるんだぜ? お前が誰にでも好かれながら生きる生き方は否定しないけど、もしその領域を土足で越えて来た場合は……」

 

 

 今頃千冬達辺りに海辺で揉みくちゃにされているだろう春人に向かって、聞こえる筈の無い声を放つ一夏の全身からほんの僅かな超常的な『力』が溢れた。

 

 

「俺はお前を許しはしない」

 

 

 何をしようが否定しない。返せとも言わない。

 けれどもし、例え自覚が無かったとしても領域を越えて来たら、許すことなく叩き潰す。

 ゆっくりと開かれたその瞳はリアスの赤い髪の様に真っ赤に輝き、放たれる超常的な力が部屋にある家具や物を静かに震わせていた。

 

 

「だから頑張ってくれよ? 俺は本気で応援してるんだぜ織斑春人?」

 

 

 やがて身体を覆っていた超常的な力は眼前に手を翳した一夏の左手に集束し、球体へと形を変えていく。

 

 

「箒がイチ兄に似たとするなら、俺はきっとリアス姉に似たんだろうな。

ふふ、翔心正銘……か」

 

 

 長年リアスと一誠を見た事で、その憧れが精神を爆発させた事で、紛れもない『魔力』という概念が宿る。

 それはきっとリアスが『どんな事になろうとも一誠と共に生き続ける』という答えを出す事で至った異常性に酷似したものであり……。

 

 

「ふぅ……! 流石に人間のままだから疲れるな。

しっかし、昔リアス姉に悪魔だとカミングアウトされた時は箒共々びっくりしたなぁ」

 

 

 一夏の出した異常性(コタエ)だった。

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

※ここからは本編と関係無しです。

 

 

 もしも――

 

 

 

 

 貴重なサンプルがこの世界に居た。

 何やら余計な存在も居たけど、力を託された別の世界の篠ノ之束は大分上機嫌に()()作業に熱中していた。

 

 

「あまり大胆に動くと勘づかれるかもしれないし、慎重に行くよドライグ君」

 

『それは良いが、この世界のお前自身に見られたのは些かマズかったのではないのか?』

 

「あぁ、それなら心配ないよ。

アレが私を知ったとしても誰かに一々喋ることはまず無いし、独力でなんとかしようと考えると思うぜ? それに、仮にそうじゃなかったとしても私がどうにかされると思う?」

 

『……。まあ、無いな』

 

 

 この世界には鍵が存在してる。それもとびっきりの鍵が。

 自身の野望を叶える為に留まる事を決めた束は、この世界の自分自身やその取り巻き達の事など眼中にすら入れず、とある世界のマッドサイエンティストをぶちのめして手に入れた、この世界では完全なオーバーテクノロジーである特殊端末を使って鍵である男の観察をしていた。

 

 

『久々に家に戻ったけど、やっぱり落ち着くわ』

 

『それは良いけど、せっかくお休みを貰ったのに家に居るだけで良いの?』

 

『行きたいところも特に無いし、何よりこうして久々に一誠と二人だから……』

 

 

 端末に映し出される鍵となる男が、自宅だと思われる狭いアパートの部屋の中でダラダラしているが、そんな男に赤髪の女性が極自然に、甘える様に身体を預けている。

 そんな光景を前に別世界の束はジーッと感情の読めない目で見つめながら、託された相棒に確認する。

 

 

「で、ドライグ君? 彼女は間違いなくリアス・グレモリーで合ってるの?」

 

『あの目立つ赤髪は間違いない……。だが信じられん、別世界の存在とはいえ、あの悪魔と一誠があんなにも……』

 

「別世界だからこそ、違った人生を経たって事でしょ。

確かにキミと私にとってのアイツはよく『人でも無い生物に欲情できる訳がない』だなんて言ってたから違和感みたいなのは感じるけどさ」

 

 

 束と龍が知る一誠とこの世界にどんな経緯があって流れ込んだのかはまだ分からない一誠の違いについて語り合いながら、リアスが一誠に対して甘えながら言葉を紡いでいくのも油断無く観察する。

 

 

『昔は家も無くて、よくあの洞窟で寝る時はくっついてたわね』

 

『そうだなぁ。風呂とかもドラム缶風呂でな? サバイバルしてたなぁ』

 

『あの時は一誠がアルバイトで外に出ようとするだけで不安で泣いて迷惑ばかりかけてしまって……』

 

『それは良いよ全然。

寧ろ灰色みたいな生活にリアスちゃんみたいな美少女に頼られてるって思ったらテンション上がりまくりだったし』

 

 

 

「………ふーん、どうも何かがあってあの悪魔さんは彼と一緒に生きる事になったみたいだねぇ」

 

『家も無いと言ってたが、奴の実家のグレモリーと何かあったのだろうか? 俺が記憶する悪魔共と違って随分穏やかだが……』

 

「間違いなく何かがあったと考えても良いね。

第一この世界に流れ着いてる時点で彼等にとっての元の世界では碌な目にあってないだろうし」

 

 

 どうやらかなり互いに信頼し合ってるのだけは間違いなく、リアスを当たり前の様に受け止めてる一誠の表情を見ても、互いが互いを必要とし合っているのが良く分かってしまう。

 

 

『おいタバネ、これ以上見る気なのか? その二人、どう見ても――』

 

「言ったでしょう? アイツを復活させるには一番のサンプルなの。

何を思い、何を必要とし、何を理由に生きているのをまずは知らないといけない」

 

『だがその、どう見ても――』

 

「勘違いしてる様だねドライグ君? 確かに彼は別世界のアイツ自身かもしれない。

けど、それだけの話で、アイツ自身じゃない。だから例え悪魔と今からナニをしてようが関係無いよ」

 

 

 密着した姿勢で触れ合い、リアスの声がほんの少しだけ変化し始めてるのを前にしても冷静に観察を続行していく束を前に、ちょっと気を使ったつもりだったドライグは、こういう時の線引きの強さは凄まじいなと思ってしまう。

 

 

「箒ちゃんに声が似てるってそういや前にアイツは言ってたけど、確かに似てるかも」

 

『本当にこのまま観察を続行して良いのか?』

 

「しつこいぜドライグ君、良いったら良いのさ。

束さんは如何なる時も妥協なんてしないし、そもそもさぁ、別にアイツに対してどう思ってる訳じゃないから彼がどんな女とナニしてようが知らねーし」

 

『……』

 

 

 どうとも思ってないと言い切る束に、ドライグは内心『嘘言え』と思う。

 本当にどうでも良かったら、既にこの世から居なくなった()()を寸分違わぬ状態で造るだなどという狂気じみた行動は取るわけがない。

 

 

「種族はともかく女自体の好みはほぼ同じか……ふふ、アイツは相当の変態野郎だったからなぁ」

 

 

 不可能としか思えない、ゴールへの道筋すら見えない野望。

 その野望を抱き、行動するまでに至った経緯をドライグは束の先代にあたる赤龍帝の中から見ていたのを思い返した。

 

 自分のやる事は全て間違ってばかりで、やる事成すこと全て何もかもが遅すぎる馬鹿だと自嘲していた端末に映る一誠とは違う兵藤一誠。

 

 ある造られた姉弟に生きる術を教え、それを憎む者達に謝り続けた。

 

 

「アイツも私に欲情した変態だったなぁ……ふふ」

 

 

 その憎む者の中には、リアスと一誠が抱き合う姿を前に過去を懐かしんでる束も含まれていた。

 だが束の場合はその憎悪が強すぎたのと、天然の規格外だったが故に一誠の細胞を己に埋め込んで強引にその領域に近付くという頭がおかしいとしか思えない真似をし、憎悪がやがて愛憎へと変わっていった。

 

 無論、一誠を慕っていた者……特に弟の方からは嫌悪されていたが、束は束なりの方法で一誠の領域に近づいていった。

 何時か超越し、ザマァ見ろと笑ってやるその日まで束はある意味身を削る努力を重ねたのだ。

 

 

「そういえば私のおっぱいを鷲掴みにして欲情したっけ? よく当時のちーちゃんが襲われなかったもんだよね」

 

『…………』

 

 

 そんな束に対して一誠は贖罪の思いを重ね続けていた。

 結局己という癌のせいで人生を狂わせてしまったと……。

 束だけではなく、他の者達へも……。

 

 だから束は一誠が大嫌いだった。

 同じ才は無いからと、一々気遣おうとする態度が大嫌いだったし、子供扱いしてくるのも気に入らなかった。

 

 どれだけ努力を重ねて近付いても、喜ぶ事はせずに心底謝るのがムカついてしょうがなかった。

 自分の意思で越えてやるというのに、何故謝る? 何故認めない? 何で何時までも子供扱いする? 複雑だからこそ束は一誠が大嫌いだったし、同時に言葉にした事は無かったけど惹かれていったのかもしれない。

 

 だが結局一誠は最後まで束に対して贖罪をし続けた。

 

 

『脳の一部が壊れてるか……。

で、その壊れた箇所はどんどん広がっていく……ね』

 

 

 一誠という存在が壊れてしまうその時まで。

 

 

『ははは、今まで散々悪いことをしてきた罰って奴だな。

進化をする異常性がその脳の悪い所までを進化させていくだなんて皮肉だと思わないか? 笑ってくれよ束ちゃま?』

 

 

 始まりは頭痛を訴える頻度が多くなり、遂にある日昏倒した時から始まった。

 

 

『俺の身体は脳を含めて進化を重ねすぎたせいで、普通の人間とは構造も別種だ。

つまり、潜んでるこの腫瘍も単なる腫瘍じゃあ無いらしい……徐々に俺の脳は壊れていく』

 

 

 生きる為に進化を重ね続けた男が、宿った小さな病気をも進化させてしまい、脳を……自己を自壊させていく。

 それは日に何度か一誠が一誠でなくなる――狂暴な獣の様に暴れる様になり始めた事から壊れていく様がわかってしまう。

 

 

『無理だよ束ちゃま。いくらキミでも俺の脳みそをどうこうできることは無いよ。

後少ししたらいきなりスイッチが切り替わって、キミを殺してしまうかもしれない……だから俺を殺してくれ』

 

 

 ただ暴れるだけの獣の時間――『一誠』である時間が日に日に短くなっていく中、彼は自分を姉弟に恨まれる覚悟で拐って隔離した部屋の中で束に懇願した。

 しかし束はそんな一誠の願いを一蹴し、専門外だった脳外科の知識を僅かな期間で吸収し、その世界の権威すらも超越しながら、天才と呼ばれた意地とプライドを以て一誠を治そうと努力した。

 

 けれどどうあっても束は一誠を治せなかった。

 どれだけ知識を吸収しようと、どれだけ努力をしても、一誠は壊れていく……。

 

 

『遂に……身体も動かないし、左目も真っ暗だ……。

しんどいなぁ……キミが、頑張ってくれてるのに……はは、ホント俺って……』

 

 

 その壊れていく様は、束が挫折を味わいながらも足掻こうとする様はドライグも見ていられなかった。

 身体の自由すら利かなくなり、壊れていく脳が視神経を破壊し、やがて声すらもやっとの思いでしか出せなくっていく。

 

 

『……もう……いいよ……キミ…………は、本当に凄いよ。

才が無かったのに……自力でこじ開けて……さ、ここまで……来て』

 

『黙れ……! 話す暇があるなら……余計な体力は使わないでよ……!』

 

『いや、もう流石にわかるんだよ……後少しで……俺は……完全に死ぬ……。

だから……なぁ、近くに居るんだろ……? 俺の手……握ってくれ……』

 

『うるさい……! うるさい!! 勝手な事ばかり言わせてたまるか! お前は絶対に――』

 

『小娘、俺からも頼む……。一誠の手を……』

 

『っ!』

 

 

 束にしてみれば最高の挫折だった。

 ムカつくくらい強すぎた男がこんなに痩せ細り、声すらもまともに出せなくなるほどに壊れていくのを止められなかった。

 ドライグに言われ、一誠は見えてなかったから分からなかったが、この時程束が泣くのを我慢しながら一誠の手を取った姿は見たことがなかった。

 

 

『俺の全てを……キミに全部やる。

だから、皆を……頼むよ……束ちゃ……』

 

『やめろ……やめて……! やめてってば! 私に押し付けるな! 生きて自分でやってよ!!』

 

『ど、ドライグ……こ、この子を……た、たのむ……ぜ?』

 

『……わかった』

 

『ちょっと、聞けよ! 最後まで私の気持ちを無視するだなんて許さないよ! 私はアンタに――』

 

『は、はは……キミみたいな子が……子供の……頃から居てくれたら……全力で口説いたのになぁ……はははは………は…―…』

 

『な、何を今更……! ぁ……』

 

 

 その力の全てを束に託し、一誠は死んだ。

 いや、もしかしたら病気と発覚してから自ら受け入れ、死を選んだのかもしれない。

 事切れた一誠の亡骸を前に束は最後まで思い通りになってくれなかったと初めて泣いた。

 

 そして決意した。

 

 

『散々勝手にしてくれたんだ。

だったら私が勝手にしたって良いよね? 造る……アイツを、誤差が一ミリもないアイツを造って蘇らせる……』

 

 

 どんな手を使おうが一誠を復活させてやると。

 そしてその日より篠ノ之束は赤龍帝となったのだ。

 

 

「よし、大体わかってきたよ。

どうやら彼はアイツと同じで胸の大きな女が好きみたいだね。

アイツがしょっちゅうこの束さんの胸に欲情して押し倒してくるみたいに!」

 

『……』

 

「思い出すよ、私を滅茶苦茶にしたいって発情した犬みたいな目で見てたのをさ。

何度も組伏せられて――――んっ……ぁ……ごめんドライグ君、暫く引っ込んでて貰える?」

 

『……。わかったが妄想も大概にしろよ? それと終わったら風呂入って着替えてから呼んでくれ、お前の生々しい姿を見せられると複雑すぎて、仮に復活した一誠がすぐに干からびてしまうのではないかと心配になる』

 

「おいおい逆だぜドライグ君? 束さんが、じゃなくてアイツがこの束さんを欲しがってるのさ!」

 

『はいはい……はぁ、一誠、お前もとんだ女に引っ掛かったな。

復活したら割りと覚悟しないと死ぬぞまた……』

 

 

 婚厄者という精神と共に。

 

 

終わり




補足

一夏はどっちかというとリーアたん寄りの力に覚醒してます。

つまり――エグいレベルの模倣。


その2
この束さんはあくまで『一誠に迫られて困ってました』と言い張りたい様です。

思い出を回想してはドライグに呆れられるレベルに発情兎さんになってもそこは言い張りたいらしい。

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