イッセーが主人公じゃあありません………この人達です。
悪人顔堕天使の生き方
圧倒的な差。
絶望的な差。
心を潰されるほどの差。
かつて俺は一度だけ体験した事がある。
とるに足らない存在だと思っていたあるひとりの女に……。
敗北という名の絶望を俺は知ったのだ。
その女に触れる事すら叶わず、惨めな惨敗を喫した俺はその後かなりの時間を凹んだ記憶がある。
だが直後に始まった三大勢力戦争が俺の目標を定めたといっても過言ではなかった。
俺のプライドを傷つけたあの女に借りを返す。
その為にはこんなちっぽけな戦争ごときに時間を掛けてるような今の弱い己を受け入れなければならない。
受け入れた上で弱さと恐怖を克服し、先へと進む。
恐怖を克服する事こそが生きる事。
世界を頂点から見下ろす者は、ほんの小さな恐怖を持たぬ者なのだ。
だから俺は、あの時の恐怖を克服しあの女に勝つ。
その為に今を生き抜くのだ。
「遅い」
日ノ本のとある町のとある家屋のリビングにて、男は食事を前に腕を組ながらテーブルの前に座っていた。
「夕方には帰ると言っていたが、少し遅すぎる」
ウェーブの掛かった黒い頭髪、異様に白い肌、そして何よりどこからどう見ても悪人にしか見えないその顔。
比喩とかじゃなしに人間でも食い殺せそうな程の怖い顔をした男は誰かを待っている様で、テーブルに並んだ食事に手を付けず、腕を組ながら座して待っていた。
「確かに少し遅いですよね……心配です」
そんな悪党顔の男の呟きに対して、反対側に座って同じく待っていた少女も同意する様に頷いていた。
この少女は、渋い顔をしながら座る悪人顔の男の前に座るにはあまりにも似つかわしくない可憐な容姿をした少女なのだが、一体全体何故そんな少女とこの人でも丸飲みしそうな迫力をした顔の男と共に食事をする様な間柄なのかは今は説明しないでおこう。
とにかく今二人はこの食事の席につく筈の最後の一人の帰りが遅いことを気掛かりに思っており、特に少女の方は心配そうな表情だ。
「……。しょうがない、俺が探して連れて帰って来よう」
そんな少女を見て男は少しため息混じりに席を立つと、待ち人を迎えに行ってくると少女に告げる。
すると、それを聞いた少女も共に行くと言い、席を立った。
「私もお迎えに行きます!」
「……………」
虫も殺せなさそうな少女にしては妙に強い決意を感じる目に、当初待機をさせるつもりだった男は『しょうがない……』と呟きながら少女の同行を許可した。
「そもそもお前が此処に来てる事をお前の兄は知ってるのか?」
「大丈夫です! 書き置きしてからちゃんと来ましたので!」
「………それはきっと大丈夫じゃないと思うが、まぁ良い」
靴を履き、庭へと出た男は少女の妙な行動力に対して後々厄介な予感を抱きながらも、今はどこぞで遊んでるだろう
そう、男は人ではないのだ。
「行くぞ、舌を噛むなよ」
「はい……!」
月が照らす夜の空へと駆ける……。
その男は――堕ちた天使そのものだった。
至高の堕天使となり、あの方からの寵愛を受ける。
その為に人の好意を利用し、人の持つ特別な力を奪おうと暗躍した。
だがその目論みは、好意を利用してやった少年が敵対する種族の眷属になった事で失敗してしまった。
「終わりよ堕天使・レイナーレ。
アナタの仲間は皆私の眷属達が始末したわ」
「お、おのれ……! 悪魔なんかに私の夢が……!!!」
かき集めた駒も壊された。
残るは己一人だが、その己も最早この町の管理をする上級悪魔とその手下に囲まれている事で風前の灯火だった。
「夕麻ちゃん……」
その手下の中には天野夕麻という名前を使い、好意を利用してやった少年……兵藤一誠も居る。
彼は複雑そうな表情で自分を見てる――それは即ちまだ自分に対して未練を残している可能性があるということ。
命の危機によって脳細胞が活性化していたレイナーレはすぐにそれに気付き、彼に向かってすがる様な目をしながら言った。
「わ、私を助けてイッセー君! 助けてくれたらアナタをずっと愛するから!!」
このドスケベ男ならもしかしたら引っ掛かるかもしれない……という希望を抱きながらペラペラと助かりたいが為の台詞を吐いたが……。
「……。部長、もう良いです……こんな姿は見たくない」
「そ、そんな……!」
イッセーはレイナーレから背を向け、部長と呼ばれる少女――リアス・グレモリーに介錯を頼んだ。
それはつまり完全な
「そんな……嫌よ!! 私は至高の堕天使となってアザゼル様からの寵愛を受けるのよ!! こんな所で死ぬのは嫌!!」
「散々人の命を弄んできたアナタに言う資格は無いわ」
背を向けるイッセーの表情は伺い知れない。
そしてレイナーレは死にたくないと泣き叫ぶが、リアスの手には既に己を消滅させる魔力が溜められていた。
「消し飛びなさい」
「……!!!!」
こうしてレイナーレは悲痛な断末魔と共にその生涯を閉じる――というのが恐らく本来の流れなのだろう。
だがこの時、廃教会には来る筈のない客人が現れてしまった。
「こんな所で年頃の小僧と小娘が遊んでるとはな……」
『!?』
「っ!?」
背に漆黒の翼を広げながら降り立つ悪人顔の男によって。
「っ! 援軍かしら?」
「ま、まだ居たのか……!」
突如現れた男の存在感に、リアスやイッセー達はレイナーレの援軍と思い、少し動揺しながらも構えた。
が、レイナーレ自身は既に己が詰んでいると悟っていたし、ましてや援軍なんか存在しない。
だがその姿を前にした瞬間、レイナーレは自分にとって雲の上の存在の一人である男の名を口にしていた。
「コ、コカビエル……様……!」
「な、なんですって!?」
寵愛を受けたい堕天使アザゼルと同等の力を持つ者として聖書にすらその名を刻む最上級堕天使の一人にて神の子を見張るものという組織の幹部。
普通ならこの町にいる事自体がありえない筈の大物堕天使の名を聞いたリアスも一気に血の気が引いてしまった。
「こ、コカビエル? あの部長……誰ですかあの怖い顔した男は?」
「堕天使・コカビエル……。
レイナーレとは比べ物にならない力を持ったトップクラスの堕天使よ……」
「な、何でそんな奴がこの町に!?」
「わからないわ……! ただ、レイナーレの援軍として来たとするならもしかして、今回の騒動の黒幕はコカビエルということになるかもしれないわね」
「あ、アイツがアーシアを殺して神器を奪えってレイナーレに言ったってことですか……!?」
半壊してる廃教会を見渡し、リアス達の事は気にも止めてない様子のコカビエルに警戒していると、理由はわからないがチャンスだと感じたレイナーレはすがりつくようにコカビエルに向かって懇願しはじめた。
「こ、コカビエル様、お助けください!! 私は今堕天使の同志をこの悪魔達に殺され、今まさに私も殺されようとしています!」
「………」
勝った。
少なくとも彼が居ればリアス・グレモリー達なぞ直ぐにでも消せるとレイナーレは内心ホッとしながら、後ろでさっきまでの余裕顔から一変させたリアスに対してザマーミロとほくそ笑む。
「残念だったわねリアス・グレモリー! コカビエル様の前ではいくら上級悪魔だろうと勝てっこないわ! あははは!! 無様ね!!」
「くっ、命乞いしてた癖に偉そうに言ってくれるわね……!」
「皆で部長を守るんだ! イッセー君も!!」
「お、おう!!」
運は私を見捨てなかった! と虎の威を借りる狐みたいにイキり出したレイナーレにリアス達がムカッとしたその時だった。
「おい、何を勘違いしてるのかは知らんが、俺はこの中級堕天使なぞ知らん」
「……え?」
「っ!? こ、コカビエル様……!?」
コカビエルはレイナーレとは何の関係も無いとあっさり言いきったのだ。
思わずポカンとするリアス達とは対照的にレイナーレは一気に焦り出すが、そんな彼女には一瞥もくれる事なく、羽織っていた黒いロングコートのボタンを外すと、そのコートの中から金髪でとんがり帽子を被った少女がひょこっと姿を現した。
「誰? 堕天使――の気配がない?」
「いやそれよりも結構可愛いくないすかあの子!?」
「今そんな話をしてる場合じゃありませんよ……」
コカビエルのお供にしてはあまりにも可憐なその少女に、思わずテンションが上がってしまったイッセーに仲間達が注意をするも、一体何者なのかという疑問は残る。
無論、レイナーレに至ってはアザゼルに並ぶ程の大物堕天使がほぼ人間と思われる小娘を連れ歩いてる事に驚愕していた。
「こ、コカビエル様、その者は……」
だから思わず聞いてしまうのも無理はない。
だがコカビエルはそんなレイナーレを無視すると、ひょっこりと姿を現した少女に問い掛けた。
「ルフェイ、アイツは居るか?」
「お待ちください――――――はい、居ます」
とんがり帽子を被った、ルフェイと呼ばれた少女が手に大きな筆の様な物を持ちながら何かを探り当てている様子を見せていると、コカビエルは突然リアス達を見ながら口を開く。
「悪魔のガキ共、俺達は別に貴様等に何をしようとか、そこの中級堕天使の味方の訳では無い。
単に飯の時間になっても帰ってこない放蕩弟子を迎えに来ただけだ」
「なっ!?」
「それを信じろっていうの?」
再び絶望の底に叩き落とされる様なコカビエルの台詞にレイナーレが愕然となり、リアスは疑うように身構えたままだが、コカビエルは平然と――今度はレイナーレに向かって口を開く。
「そこの中級堕天使よ。貴様が何をしでかしたかは知らんが、奴等が攻撃するという事はそれ相応の事を奴等が管理してるこの町でやったという事だろう?」
「そ、それは……」
「大方、あの祭壇の上で死んでる人間の小娘に何かをしたと見る。
ふん、俺は別に人間の味方のつもりはないが、悪魔の管理する町で騒ぎを起こしたのなら、それに対応できる力を持つべきだったな」
「で、ですからコカビエル様のお力を何卒!!」
「砂利同士の小競り合いに何故俺が介入しなければならん。そこの悪魔の砂利共より貴様が弱かった――足掻く力もないなら大人しく死ね」
「そ、そんな……!」
顔に違わぬ非情な一言に、今度こそレイナーレは詰んだ。
「と、いう訳が砂利共―――ん? 貴様のその髪の色……そうか、ひょっとしてサーゼクスの妹か?」
「!? お、お兄様の事を……」
「まぁな、奴に頼んでこの町に住んでる様なものだ。
そうか、お前がサーゼクスの言ってた『リーアたん』とかいう変わった名前の妹だったか……」
「り、リーアたん?」
凄い真顔でリアスの事をどこぞの萌えキャラ的な呼び方をしたコカビエルに、聞いた事がなかったイッセーはびっくりし、リアスは顔を真っ赤にしながら否定した。
「ち、違うわよ! それはお兄様が勝手に呼んでるだけで、私の名前はリアスよ!!」
「? そうなのか、まぁなんでも良いが―――という事は貴様の女王が――――――お前だな? バラキエルの娘は?」
「っ!?」
「顔を見ればすぐにわかるものだな。
バラキエルの死んだ嫁によく似てる……」
「なっ!? な、何故アナタが母を……!?」
リアスの女王でイッセーにとっても憧れの一人である姫島朱乃の驚愕する反応に対してコカビエルは深くは答えなかった。
「どっちにしろ、この中級堕天使はお前達が処理するのだろう? 俺は単にここで遊んでた弟子の回収に来ただけだ」
「弟子って……」
「ちょうどこのルフェイが弟子の気配を探知したからな……呼べばくるだろう。――――フリード!!!」
少しまだ聞きたいことがあったリアス達だったが、弟子の回収に来ただけだと言って話を切られたので有耶無耶になってしまう。
そしてその弟子の名前を呼ぶコカビエルに、今度はイッセーが驚いてしまう。
「ふ、フリードだって!? あ、あのイカれた神父野郎が……!」
そういえば姿が見えない事に今さら気づいたイッセーが驚いていると、そのフリードが文字通り上から降ってきた。
「呼ばれて落っこちて――ドロローン!」
ばこん! という床を粉砕する音と共に現れたはぐれ悪魔祓いのフリードにイッセーが思わず吠える。
「て、テメーフリード!!!」
「んぁ? あぁ、キミか。悪いけど後にしてくんね?」
「こ、このっ!」
アーシア絡みで少し因縁のあるイッセーは、軽く一蹴する言い方のフリードにムカつくが、それ以上にムカつく事になる案件がこの後発生する。
「お呼びかいボス?」
「お呼びかい……じゃないこのバカ者が。
夕飯の時間になる前には帰ると言いながら何をしてたお前は?」
「なはは、実はそこで震えてるレイナーレ
明らかにレイナーレに対して皮肉ってる様付けをしながら、理由を説明するフリードにコカビエルがため息を吐く。
「それは前に言っていた、自分と同じ者の様子が気になったのと関係があるのか?」
「まーね、向こうは全然気付いちゃねーけどねぇ?」
「……え?」
意味深にリアス眷属の騎士の少年を見ながらにやつくフリード。
何だ? とクビを傾げる騎士の木場祐斗にフリードに関する記憶は無いので何の事を言ってるのかはわからない。
ちなみに、コカビエルに見捨てられた時点で流れに乗じて逃げようとしたレイナーレだが、あっさりリアスと朱乃に拘束されてしまって、今度こその詰みになっている。
「フリード様!」
そしてそんな状況の中、フリードが堕天使の大物と繋がっててレイナーレ達とは関係なかったと知ったイッセーは、それでも微妙に気にくわない気分でいると、突然コカビエルの横に居たルフェイがフリードに飛び付いて抱き着いたのだ。
「あぁっ!? ふ、フリードみたいな野郎があんな美少女に抱き付かれてるだと!?」
嬉しそうにフリードに身を寄せるルフェイを軽く受け止めてる絵がまた余計にムカつくイッセーが、さっきまでのシリアスさを忘れて吠えるが、虚しいことにフリードもルフェイも聞こえちゃいなかった。
「え、ルフェイたん? なんで来てるんだよ?」
「フリード様のお帰りが遅くて心配だったので、コカビエル様に無理を言って一緒に……」
「飯まで作ってくれたんたぞ? ……兄のアーサーが後日殴り込みに来そうだから、お前が対処しろよな?」
「げっ、あのシスコン兄貴か……」
「大丈夫ですよ! ちゃんとコカビエル様とフリード様の家にお泊まりしに行ってきます! って書き置きしましたし!」
「いやー……それ却ってやばいだろ。寧ろマジギレする感じっしょ」
妙にアットホームな乗りを放つコカビエル達だが、取り敢えずあのフリードがこんな美少女と密着だなんて、何か許せないイッセーは覚醒したばかりの神器が感情に呼応して左腕に出現させながら吠えまくる
「おいこの野郎! フリード! アーシアに変な事しようとしてた野郎がそんな可愛い子と仲良くしやがって!!」
「………アーシア?」
「変な事なんてしてねーよ。
まあ、手助けもしてねーけどよ」
「黙れ! そのきょとんとした顔をやめろ! ムカつくんだよ!」
「なーにを怒ってんだか……?」
「ねぇフリード様? アーシアって誰ですか?」
「へ? あぁ、今俺に吠えまくる男が仲良くなった女の子なんだけど……なんでか俺がその子に変な事したって勝手に思ってるみたいでな? (今そこの祭壇で死んでるってのは言わないでおきましょ……。ボスも然り気無く見えない様に配慮してくれてるし)」
「で、ではそのアーシアという方とは何にも無いのですね?」
「始まってもねーしなぁ。精々二、三回挨拶した程度?」
「よ、良かった……」
アーシアという、多分女性だと思われる者とは別に何でもないと言ったフリードにホッとしたルフェイがギュッと更に強くフリードに抱きつく。
「テメー! こんな状況でイチャイチャしてんじゃねーよ!!」
「イチャイチャ? なにが?」
「こ、この野郎……やっぱムカつくー!!!」
レイナーレが消し飛ばされてるのも見ずにわーわーと喚くイッセー。
こうしてある意味長きに渡る因縁が幕を開けた……とは、この時誰も知らない事だった。
「帰るぞ二人とも、飯が冷める」
「うぃーっす、じゃあな赤龍帝くんに、転生して生き返ったアルジェントさん? ……それにそこの金髪くん?」
「えーっと、お騒がせしました」
「待ちなさいコカビエル。アナタとは後日確認しなけらばならない事ができたわ」
「別に構わん、サーゼクスに好きなだけ確認してみろ」
堕天使と白夜の騎士と魔法少女。
終了
補足
丸い様で、力なきものはそのまま死ね思考なので非情だったりする感じのコカビー
イカれてる様で、白夜に覚醒してるからもともなのかと思ったら、ルフェイたんのお陰で割りとエキセントリック気味なフリード
絵本で読んだ白夜の騎士探しの旅してたらマジで発見し、そのまま押し掛けてしまった魔法少女。
……あと、その魔法少女が心配すぎて大体引きこもりになるけど、魔法少女がフリードに対して親愛を越えた感情を抱いてるからキレて決闘しにくる兄貴――とか。
え、誰か忘れてる? 気のせい気のせい。
てか、マジで今回はあの天使様とこのコカビーはほぼ無関係です。