何時から居たのかは分からない。
ただ気が付いたらそこに居たという印象しかなかった。
だけど見ただけで解ってしまう。
アレは如何なる存在とも違うと……。
例え無限の龍神だろうとも、あの猫にしてみたら等しく餌なのだと。
『シャクシャクする気にもならない。
はぁ……やっぱり先輩や皆じゃないと美味しくないや』
だから触れないことにした。
触れてはいけないと戒める事にした。
突然組織を抜けて悪魔の眷属に再びなろうともソッとしておくべきだった。
なのに……なのに……。
「ディオドラ・アスタロトについて兵藤イッセーに忠告しに行けば高確率で黒歌と会えると思う。
よし、行こう」
「馬鹿言ってんじゃねーよ!? そのぼろ雑巾みたいなナリでもしまたお前を半殺しにした奴が現れたら今度こそ死ぬぜ!」
「ふっ、構うものか。俺はもう負けん」
ある意味こんな盲目になりたかったと、孫悟空の子孫である美猴は、包帯ぐるぐる巻き状態となってる相棒の怖いもの知らずさに苦労する。
「と、取り敢えず写真で我慢しよーぜ?」
「写真なんか無いぞ。
くっ、こんな事なら黒歌に写真を撮らせて貰うべきだった……」
黒歌自身も得体が知れないが、このヴァーリを絶命寸前まで追い込んだという、赤龍帝の双子の弟は危険度でいったら更にその上をいくイカれた野郎なのかもしれない……。
まだ直接会った事は無いが、黒歌という前例を知るだけに、容易に想像できてしまう美猴は、今の状態でその男に見付かったら次は間違いなく殺されると思い、とにかくヴァーリを止めた。
「わ、わかったわかった。俺がなんとか頼んで写真だけでも撮らせてくれって頼むぜ。
そしてついでにお前の好敵手君に忠告もするって事で……」
「ふざけるな美猴!! お前だけ黒歌に会いに行くつもりか!? というかお前も彼女を……!」
「んな訳あるかアホ!!」
これさえ無ければ友人と思える奴なのに……。
美猴は最近引かされ続ける貧乏くじにため息を吐きつつ、喚く友人の鳩尾に一発入れて眠らせると、重い気分そのままに『散歩』へと出掛けるのだった。
「えーっと、おひさー赤龍帝くん」
「! お前は確か前に冥界で黒歌と居た……」
取り敢えず、白龍皇たる友人の執着心を半分に割れたらという意味で宿敵の赤龍帝である兵藤イッセーのもとへ偶然を装って会いに行った美猴。
時刻は既に夜と言える時間で、これまた美猴の気分を嘲笑うかの様に綺麗なお月様が闇夜を照らしている。
「美猴ってんだ、一応お前も久しぶりになるよな黒歌?」
「姉様のとなりに立ってた人……」
軽い挨拶をしつつイッセー達の格好を見て鍛練でもしていたのかと分析しつつ、彼と妹の鍛練の面倒でも見ていたのだろう黒歌にも挨拶をする。
「今度はキミか……」
その瞬間、黒歌は露骨にかったるいとばかりなため息を吐く。
どうやら前回のヴァーリの時点で相当面倒だったのだろう……。
「クロ、あれは何だ?」
そしてその黒歌に向かって自分を指差しながらアレ呼ばわりするイッセーそっくりの青年に美猴は既に黒歌の写真を撮るのを諦めた。
「前に来た白龍皇さんの連れ。
孫悟空の子孫の美猴って人よ」
「その連れが何しに来たってんだ?」
「さぁ? それは私にもわからないけど……お礼枚りか?」
「待て待て!! アンタがヴァーリをボコボコにした男だってのは知ってるし、俺にそんな勇気はないぜ!今日は動けないヴァーリの代行で赤龍帝君達にお詫び的な情報を持ってきたんだぜ」
「情報……?」
内心ハラハラしながら慎重に言葉を選んで話す美猴。
黒歌と同じ匂いをやっぱりマコトから感じた時点で、仇討ちなんてする気は失せている。
「なんだ、生きてたのかあの妄想野郎は」
「あ、そういえばヴァーリは黒歌に……。えっと美猴だったか? ヴァーリは生きてるのか?」
「全身包帯だらけのチューブだらけのものを生きてると言えるなら生きてると返すぜ。
しゃべれるだけマシだが、ありゃ暫く何もできねーや」
手足が反対に折れ曲がり、顔面の至る箇所の骨が陥没し、元の容姿が見る影もなかった状態で下水道の中を流されていたのを回収した時の事を思い出して苦い表情をする美猴は、取り敢えず敵意も黒歌に何かする気も無いことを態度で示す為に、ヒントにも似た情報を公開する。
「近々ディオドラ・アスタロトとゲームをするんだろう? 奴には色んな意味で気を付けた方が良いぜ?」
「は? 色んな意味? てか何でお前がディオドラ・アスタロトの事を知ってるんだよ?」
「色んな情報網って奴だよ。
とはいえ、その様子から見るに言われるまでもないって感じがするけど」
「まーな、奴はある意味ヴァーリと同じ感じだし」
「ストーカー……」
「あ、やっぱりお宅等の認識はそんな感じなのね。
うん……まー俺もそう思うぜぃ……」
おいヴァーリ。お前、悲しいことに本人達からストーカー扱いされてるぜぃ。
と、他の仲間達に押さえ付けられてるだろう友人に向かって心の中で憐れむ。
「でも何でそんな事を俺達に教えるんだよ?」
「ディオドラ・アスタロトに負けて終わったらヴァーリが戦いを楽しめないからだよ。
お前には強くなって貰わないとちょっと困るっつーか……」
イッセーの質問に答えつつチラッとそっくりだけど目付きだけは全然似て無いマコトを見る。
「例え話だが、今こうして話してるのがヴァーリだったとしたら困るだろ? 多分黒歌を前にそれどころじゃなくなるだろうしよ」
「あー………確かにそうかも。連れ戻すとか言い出しそうだな」
「俺たち的には黒歌はもう組織を抜けてるって認識をしてるんだが、ヴァーリはどうもな……。
仲間だからどうだとか言ってるし」
「だからさ、本人にも言ったけど、何時私がアナタ達の仲間になったのかな?」
「そりゃわかってるよ。
冥界に行った時だって互いに利害が一致しただけに過ぎないからな。
けどよ、それが理由でどうもヴァーリ的には黒歌は仲間と見なされたらしい――いや、それだけが理由じゃねーけど」
「……。言いたくないですけど、典型的なストーカー思考ですよそれ」
「あぁ、それは俺も思うぜぃ……」
黒歌の妹の白音の引いた顔に苦笑いする美猴。
こんなヴァーリでも友人である理由は、やはりこれを別にしたら話の合う奴だからなのかもしれない。
「この前は迷惑を掛けたみたいだし、これはその御詫びのつもりだ」
「意外と苦労してるんだなお前……」
「黒歌の事以外だとまともだからなアイツは……」
中間管理職の板挟みな生活に苦労してる中年サラリーマンを思わせる哀愁を漂わせる美猴に、イッセーもちょっと同情してしまう。
「そういう訳だからディオドラ・アスタロトなんかに負けんじゃねーぞ。
ヴァーリの戦う相手が減ると困るからな」
「言われなくても負けないぜ。
ヴァーリに言っとけ、傷が癒えた頃には確実に俺の方が強くなってるってな」
終始黒歌を窺っていたが、どうも彼女はマコトの傍に居るのが好きらしい。
あの黒歌がどうして……と最初は疑問だったが、マコトの放つ異様さがその答えだった。
この時点で最早ヴァーリが何をしようとも黒歌が戻ってくる事は無いと理解した美猴は、取り敢えず冗談で黒歌に言ってみた。
「でさ、取り敢えずヴァーリへの土産に黒歌の写真を一枚――」
「おい、むさ苦しい銀髪を毛根ごとひきちぎってやるから今すぐそのボケを連れてこい」
「――オーケーオーケー、冗談だからそんなに怒らないでくれよ?」
ある種反抗期の時より特定条件下での沸点が著しく低くなってるマコトが美猴の言葉に対して凄まじく低い声で物騒な事を言い出す。
この時点で命が惜しかった美猴は即座に笑って誤魔化すが、内心マコトを『コイツ、割りとどころじゃなくヤベー奴だ……』と、マコトの前で黒歌関連の冗談は止めようと心に誓った。
「俺達の方でもヴァーリを説得はする。
けどその……もし聞かずにまた来て黒歌に何か言っても殺すのだけは勘弁して欲しいというか……」
「……………」
「その時は俺がぶっ飛ばして追い払うから問題ないぜ」
だから友人の頭まで下げる。
美猴という青年は割りと良い奴なのだ。
続く?
オマケ・幸せのお時間。
基本学校が休みの時は、なるべく集まる事にしている。
この日はシャルロットも運良く来れた為、秘密を共有している四人は平和にのんびりと過ごしていた。
「せ、狭い……」
「むむ、昔の身体だったら先輩の上に乗れたのに……」
「どうしてかしら、昔は何も思わなかったのに、どうしてこんなにも私はドキドキして……」
「いーちゃんは暖かいなぁ……☆」
何故かひとつのベッドに四人同時に寝るという無理のありすぎる状況で……。
「これ無理がある――っあ!? お、おい!? 誰だよ俺のアレを触ってるのは!?」
「やんっ☆ いーちゃんだって今私のおっぱい触ったじゃない? もう、えっちなんだからぁ☆」
「お、男の子ですし仕方ないですよね? こ、こうなったらこの母が責任を持って一誠の苦しそうなそれを楽に……」
「い、良いってそんなことしなくて! こんなの今すぐ自己暗示でもかければ戻る――」
「駄目ですよ先輩! そういう我慢は身体に毒です! どうせなら私の胸に挟んで気持ち良くしてあげます」
なんだこの茶番は……と、誰もが思うだろう。
だが本人達はこんな茶番でも楽しかった。
「この世界の先輩――つまりイッセー君の事ですけど、彼の性癖を見てると、割りと先輩も似てる気がしません?」
「うん、あそこまでオープンでは無いにしても、いーちゃんも割りとおっぱい好きというか……」
「ちょっと止めてくんね?」
「寝てる時が特に如実というか……。
大体皆一度は寝てる一誠にされたわよね?」
「されたね、出ないのにちゅーちゅーって」
「されましたね……お陰で先輩の子種を寄越せって疼いちゃって布団がびしょびしょになっちゃいましたよ」
「………………………」
基本四人は大体こんな感じなのだ。
終わり
オマケ2
トラウマの果てに
兵藤誠は日之影一誠時代からのトラウマが実はあった。
それも特定の人物に対して……。
「修学旅行で京都だと……」
事の始まりは、忘れてた修学旅行シーズンにイッセーから話を振られた所から始まった。
「きょ、京都……」
「? なんだよマコト? 京都になにかあるのか?」
「い、いや別に……」
京都という地域ワードに動揺するマコト。
正直個人的に京都は嫌いだった。
それは――奴が居るから。
「大丈夫ですよ先輩、この世界のアレはきっと単なる狐ですから」
「だ、だよな……あの奇乳に襲われる訳ないよ」
苦手通り越してトラウマになってしまったとある妖怪にちょっと顔を青くするマコトにクラスメートとして同行する黒歌は密かに、かつて拐った挙げ句危うくチェリーまで取ろうとしたあの憎き女狐からマコトを守ろうと、六道仙術全開で決意する。
が、しかし……。
「…………一誠……兄さま……?」
「!?」
その修学旅行はある意味……凄いものになった。
「間違いなく一誠兄さまだよね!? ぼ、僕だよ、ミリキャスだよ!!」
「な、何だと!? み、ミリキャスがあの狐の娘になっちまっただと!?」
「私という前例があるからアレでしたが……」
母娘共々苦手だったその八坂の娘の九重がまさかの自分達の知るミリキャスだった。
「この世界の僕ってどんな子なの?」
「えっと、話した事なんて無いからわからないが、まず男で……」
「…………………よかった」
「はぇ?」
「うん、だってもし兄さまがこの世界の僕に優しくしてたら、僕、もしかしたら殺してしまうかもしれないから」
「え……」
「そもそも今までだって兄さまが居ないこんな世界なんか壊れちゃえって思ってたし、もしこうやって会えなかったら壊すつもりだったんだ僕。
でもこうやって会えたからそれはやめるし、これからは死ぬまで……うぅん、死んだってずーっと兄さまと一緒だもん。
えへへ、それを考えるだけでお腹の中が暖かくてとても幸せな気持ちになれるやっぱり一誠兄さまは僕にとってこの世でいちばん大切で大好きな人だから当然だよね? だからもう離さない、離れない、逃がさない、見逃さない。
勿論このまま兄さま達に付いていくよ? え? 今は立場が違うから反対される? 大丈夫だよ一誠兄さま、僕が一誠兄さまがどれほど大好きかをこの身体のお母さんに言ったら納得するはずだし絶対させるから。もし反対するんだったらこの地域ごと消してしまえば良いよね? そうしたら誰も反対なんてしなくなるし、えへへ、良い考えでしょう兄さま、だから頭撫でて? 抱き締めて? ちゅーして? もう僕も子供じゃないから意味もわかるし僕が1番欲しいのは兄さまなの、だってほら触ってみてよ? ずっと兄さまが欲しくて僕のここが熱いのが! えへへ、僕っていけない子かな? だとしたら兄さまにおしおきされちゃう? されちゃうのかなぁ、でも悪い子だからされるべきだよね! だから一誠兄さま……いけない僕をおしおきして?」
「………………うん、そうだな!」
「やっべー……そういえば昔からマセてて1番暴走しがちかのがミリキャス様だったの忘れてました……」
………………ちょっとヤバイ方向に行ってしまった感はあるが、その異常な愛はまさに彼等の知るミリキャス・グレモリーの異常性そのものだった。
心配するな……嘘だよ。
補足
どうやら黒歌とマコトが同類のヤバイ奴なのは見抜けたのですが、別に彼に素養があるのかといわれたらそうでもない。
その2
最後のは嘘だから気にしないでねホントに