色々なIF集   作:超人類DX

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深夜投稿だから若干深夜チック……か?


野望

 此度の若手悪魔の会合には例年よりも多くの貴族達が顔を見せていた。

 今回出席する次代を担う若者達が注目に値する粒揃いだからというのも勿論そうなのだが、何より彼等が気にするのは、今まで誰一人として眷属を持たず、また自ら『持つつもりは全くない』と公言していた筈のセラフォルーが将軍として加えた存在が本日顔を出すという理由があったからだ。

 

 何を言おうとも持とうとすらしなかったあのセラフォルーが自ら『運命的な出会いだった』とすら語るその将軍は如何なる者なのか……。

 

 多くの悪魔達は席に座り、若手悪魔達に混ざって現れるだろう将軍を待ち、そしてその時はやって来た。

 

 

「…………………………………」

 

 

 多くの若手悪魔とその眷属達が入室し終えた後、ほんの少しだけ遅れて最後に入室した燕尾服を来た青年。

 事前にセラフォルーから燕尾服を着ている子が私の将軍だと聞いていた多くの悪魔達は緊張の様子も無くただ無表情で若手悪魔や眷属達よりも更に一歩後ろに立つ青年に注目していた。

 

 無論、セラフォルーとサーゼクスと同じ四大魔王の名を担う残り二人の魔王たるアジュカ・ベルゼブブとファルビウム・アスモデウスも……。

 

 

「よく集まってくれた。

次世代を担う貴殿らの顔を改めて確認するため、集まってもらった。

そしてこの度は知っての通り、セラフォルー・レヴィアタン様将軍(ジェネラル)殿にも参加して頂いている」

 

「………………………………」

 

 

 そして始まりの挨拶と同時に初老の悪魔が早速とばかりにマコトの事についても話す。

 当然その視線は彼へと集中し、どれ程の者なのかという探るような視線が殆どだ。

 

 

将軍(ジェネラル)殿、そんな後ろでは無く前へと出てくれないか? もっと貴殿の顔を見たい」

 

「…………………………………」

 

 

 多くの若手達よりもある意味注目されているマコトが初老悪魔に言われる。

 しかしマコトは動こうとしない……。

 

 

「いーちゃん、前に」

 

「は」

 

 

 ほんの一瞬顔をしかめた初老悪魔や傍に居た若手悪魔だが、コスプレ衣装では無いセラフォルーが微笑みながらその愛称を呼ぶと、即座にマコトは若手悪魔達の前へと躍り出た。

 

 

「さてと皆も聞いてる通り、この度私セラフォルー・レヴィアタンは眷属を持つことになったわ。

これも大体お察しの通り、燕尾服を着た彼がその将軍であり、名を兵藤誠――――そして悪魔名はギルバ」

 

 

 直立不動のまま動かないマコトについてを、かつてセラフォルーとヴェネラナとグレイフィアとシトリー夫人であるアレクシア・シトリーのかつて日之影一誠が『四大鬱陶しい年増共』と揶揄していた者達に名付けられた悪魔名を呼んだ。

 

 

「ギルバ……?」

 

 

 悪魔名って何だ? と周囲がざわつく中、セラフォルーはパンパンと手を叩いて静める。

 

 

「とにかく彼は今後私の将軍として生きていく。

彼に対してふさわしくないだなんて思いたければ勝手に思えば良いけど、あんまりにも鬱陶しく言ってくるのであるなら―――――私は魔王を降りるよ」

 

『なっ!?』

 

 

 その爆弾宣言には先程以上の波紋を呼ぶ。

 無論横で聞いていたサーゼクスやアジュカやファルビウムですら驚愕する程であり、下で聞いていたソーナも驚いていた。

 

 

「それほどまでに私はいーちゃんが大好きだからさー? 立場が邪魔してその気持ちを貫けないのであれば……みたいな話だし、あんまり気にしないで良いぜ?☆」

 

『…………』

 

 

 彼女らしいテンションで一応そうは言っているものの、もし彼との関係に文句が出てくるなら即座に魔王を降りるという言葉は何時までも彼等の耳の中に残ってしまう。

 また彼はそれ程の決意すら抱かせる程の存在なのか……? ますますギルバなる名を冠するマコトに注目が集まってしまう。

 

 

「こほん……まぁ、何だ、レヴィアタン殿と軽いジョークもあったが、彼が今後彼女の眷属として生きていく訳だが、あー……ギルバ殿? 何か言うことはあるか?」

 

 

 微妙に変な空気が支配する中、進行役になってる初老悪魔が見下ろす形でマコトに問う。

 当然マコトを知る者からすれば返答なんて無いだろうと思っていたのだが、マコトはどこで覚えたもかも身内にはわからない所作で悪魔達へと一礼する。

 

 

「只今我が主の紹介に預かりました、ギルバです。

まずは我が主であるセラフォルーお嬢様が皆様を困惑させてしまった事をお詫び致します」

 

 

 淡々とした口調ながらも噛むこと無く言ってのける挨拶に悪魔達は格好だけでは無い事を一応知る中、同じく見ていたサーゼクスは隣の親友の言葉にまだ整理をつけてないまま、マコトの所作についてのあることに気が付く。

 

 

(そうか……。何故彼を見て違和感を感じなかったのかがわかった。

グレイフィアにどことなく似てるからだ!)

 

 

 自分の嫁に喋り方から所作までの何もかもが似通っている事に気付いたサーゼクスは、ならばグレイフィアが教えたのか? と考えるが、グレイフィアは少なくとも双子の兄である兵藤一誠とはリアス経由で何度か会った事はあったものの、彼とは全く無いと話していたのを思い出してそれは無いとすぐに思い直す。

 

 流石にマコトがかつての一誠で、サーゼクスが拾う形でグレモリー家に幼少期から加わり、別世界の自分の嫁と母と親友の母に仕込まれた結果こうなったとまでは思わないだろう。

 

 

「皆様はセラフォルーお嬢様の性格を承知していると踏んで言いますが、今のは全てお嬢様の冗談です。

というより、仮にそう宣うのでしたらひっぱたいてでも訂正させますのでどうかご安心を」

 

「いーちゃんってばひどーい! 私は本気なのにー!」

 

「お黙りなさい。皆様を困惑させてどうするのです」

 

「ちぇー、手厳しいなぁいーちゃんは」

 

『……………』

 

 

 しかもやり取りも自分とグレイフィアにそっくりだ。

 なんというか、セラフォルーが尻に敷かれてる辺りとかが。

 

 

(まあ、本当に文句抜かす様ならセラフォルーがでは無く、俺が無理矢理連れていくが。

ババァもろとも……な)

 

 

 本当は一度スイッチが入ってしまえば狂犬の如く暴れまわって意思を貫くという危険性を孕む異常者である事もまた気付けない。

 

 

 何とも言えないお披露目もそこそこに、今度こそ若手悪魔達のお披露目に移行する中、サーゼクスは今度セラフォルーに色々と聞いてみようと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「さて、セラフォルーの将軍のお披露目は一先ず終わりとして次は君達だ。

君達は家柄実力共に申し分のない次世代の悪魔だ。

だからこそ、デビュー前にお互い競い合い、力を高めてもらおうと思う」

 

 

 色々と波紋を呼びまくるお披露目も終わり、次はリアス達若手悪魔達の番となり、自然と背筋が伸びる中、サーゼクスの言葉に先程まで色々と残念な匂いを放っていたサイラオーグが、嘘みたいにしっかりした様子で前へと出て口を開いた。

 

 

「それは我々もいずれ『禍の団カオス・ブリゲード』との戦いに投入されるのですね?」

 

 

 サイラオーグはサーゼクスに向かって直球に訊く。

 

 

「それはまだわからない。

だが、出来るだけ若い悪魔たちは投入したくないと思っている」

 

 

 サーゼクスの答えに納得出来ない様子のサイラオーグは眉をつり上げた。

 

 

「何故です?

若輩者いとはいえ、我らとて悪魔の一端を担います。

この歳になるまで先人の方々からご厚意を受け、なお何も出来ないとなれ―――――」

 

 

「サイラオーグ、その勇気は認めよう。

しかし、それはまだ無謀というものだ。

何より未だ成長途中の君たちを戦場に送るのは避けたい。

それに次世代の悪魔を失うというのはあまりに大きいのだよ。

理解して欲しい。君たちは君たちが思っている以上に我々にとって宝なのだよ。

だからこそ大事に、段階を踏んで大きく成長して欲しいと思っている」

 

 

 気持ちの籠ったサーゼクスの言葉にサイラオーグも一応の納得をしたようだが、その表情にはまだ不満が見て取れた。

 

 

(禍の団ね……。

あったな、そんなどうでも良い集団連中。

ていうか潰せるだろあんなもん誰でも……)

 

 

 サイラオーグから禍の団の話がチラッと出たのを聞いていたマコトが他人事の様に思っている。

 

 

(セラはこの世界で本気になった事が無いらしいからコイツ等は知らないのか? まあ、連中がのさばろうが知ったこっちゃないって感じなんだろうけど……)

 

 

 再会するまでの永い時間を諦め半分で生きてきたと言っていた事を思い出したマコトは、禍の団というかつての頃にも存在していた気がした連中達を放置してるセラフォルーがそういうつもりなら自分も何もしないと考える。

 

 

(この世界の俺――てか兄の経験になる都合の良い相手になるのなら放置で良いな。

スキルを持たない分、どうもこの世界の俺は少しだけ経験不足な所があるし。

もっとも、俺に無いものを沢山持ってるから既にこの世界の()という表現じゃ無い気はするけどよ)

 

 

 ならばイッセーが強くなって、自分で手にしたコミュニティを守れる強さに至る為の経験の相手になれば良い。

 禍の団をイッセーの強化パッチ扱いとして見なしていたマコトは自分達の邪魔にさえなければセラフォルー同様放置する事を心に決め、若手悪魔達に何やら話している悪魔の声を聞き流しながら静かに目を閉じた。

 

 

「さて、長い話に付き合わせてしまって申し訳なかった。

なに、私たちは若い君たちに私たちなりの夢や希望を見ているのだよ。

それだけは理解して欲しい、君たちは冥界の宝なのだ」

 

 

 マコトにとっては随分と()()を感じるこの世界のサーゼクスの言葉によって締められる。

 

 この世界のサーゼクスにはかつて結局は一度も勝てなかった()であるサーゼクスの様な『相対するだけで勝てる気がまったくしない』という、緩やかながらも絶対的な差を感じない。

 精々内包する魔力の質が()()()()()だけ異質な程度か……。

 

 

(セラもきっとそれを感じたのだろう。

まあ、見た感じ幸せそうだから、余計な接触はやっぱり控えた方が良いな)

 

 

 この世界のサーゼクスが悪い訳では勿論ないし、誰の罪でもない。

 異質な世界に抗う事で到達した異常者の存在する世界を生きたからこそ平凡に戸惑うだけなのだから。

 

 

(アンタとはもう一度全力で、悔いの無い喧嘩がしたかったよ兄貴)

 

 

 棲む世界が違う。

 だからその邪魔を決してしてはならない。

 今一度この世界のサーゼクスを介して、目標だった兄貴分に別れを告げたマコトは()を生きる為に培ってきた技術を投入することを誓う。

 

 

「最後にそれぞれの今後の目標を聞かせてもらえないだろうか?」

 

 

 そんな複雑な感情を向けられているとは当然思うわけもないサーゼクスが、若い悪魔達に夢や目標を問う。

 するとその言葉に一番早く答えたのが、マコトの中で要注意危険人物リスト入りをこの度人知れず果たしたサイラオーグ・バアルだった。

 

 

「俺は魔王になるのが夢です」

 

「ほう……?」

 

 

 何の躊躇いもなく言ってのけたサイラオーグの豪胆さに一部の悪魔達から感嘆の声が洩れる。

 

 

「大王家から魔王が出るとしたら前代未聞だな」

 

「俺が魔王になるしかないと冥界の民が感じれば、そうなるでしょう」

 

 

 再び顔を逸らすことなく、自信満々に言い切るサイラオーグにサーゼクスも頼もしいと笑みを浮かべている。

 

 

(……………。俺には寧ろ魔王になるのは単なる()()にしか感じないな)

 

 

 そんなサイラオーグの言葉に誰もが注目する中、マコトはただ一人冷めた様子だった。

 別にサイラオーグ自身に恨みも無いし、もっと言えば彼がこれからどんな人生を歩もうが知った事ではない。

 

 だが先程彼と交わしたやり取り――かつてヴェネラナだったシャルロットの事に関してだけはマコトは彼に対して『排除』を視野に入れていた。

 

 

(手っ取り早く権力を掴み、その後ババァを合法的に傍に置くって寸法だろう。

………チッ、考えてる事が同じなせいか読みやすくてイライラしやがる)

 

 

 考えてる事が似てるせいなのか、彼自身への興味はかつて同様欠片も無いのだが、読めてしまう事にマコトは内心舌打ちをしていた。

 

 

(この小僧がどんな経緯でババァを知ったのかはこの際どうでも良い。

バアルである以上、その機会はあったのだろうからな。

だが、セラ同様にババァだけは誰にも渡しはしねぇ……。

我ながら今更すぎる事を考えてる自覚はあるが、()()で居られて受け入れてくれるのは二人だけだ……)

 

 

 どれ程の実力だろうとも、どんな立場だろうとも、セラフォルーとシャルロットという真の意味でマコトを知り、そして受け入れてくれる存在の救いと癒しを漸く知った今のマコトは若干ながら行き過ぎる情が生まれている。

 

 酷かった反抗期が終わったといえば聞こえは良いが、最早今のマコトには二人に対して強い執着心を持っている。

 …………もっとも、そんな面倒な精神状態と化してるマコトに対して二人も二人で、簡単に受け入れてしまってるので然して問題はないのだが。

 

 

「私はグレモリーの次期当主として生き、そしてレーティングゲームの各大会で優勝することが近い将来の目的ですわ」

 

(フッ、あれだけ鬱陶しいと思ってたセラとババァにこんな感情を抱くとは、つくづく俺という人間は身勝手なクズ野郎だぜ)

 

 

 サイラオーグの番が終わり、この世界のリアスが語る夢を全く聞かずに自嘲するマコト。

 日之影一誠であった彼ともっとも年齢が近く、もっとも傍に居たリアスとソーナに対して当初この世界の二人に対して複雑な感情を持っていたが、既に赤龍帝のイッセーと匙という支えも存在してるのなら無意味に関わる必要は無いと割り切ってしまったせいか、彼女達に対する関心が薄れ始めていた。

 

 

『私達の夢は、ある人間の男性を決して独りにさせない事です――』

 

『意地っ張りで、寂しがり屋……他人には理解されない彼に追い付き、決して独りにはしない。

その為に私とリアスは強くなり続ける――』

 

『『――私達にとっての英雄(ヒーロー)だから』』

 

 

 かつての世界線において留守番をしていたマコトは知り得なかったが、進化の領域に踏み込んだリアスとソーナは同じようなシチュエーションを前にこう宣言していた。

 無論グレモリー家とシトリー家に卑しく取り入る邪な人間扱いをされていたので、他の悪魔達は不満を持った。

 しかしそれでも二人は常にサーゼクスの背を追いかけるマコトの背を追い続けた。

 決して独りにはさせまいと……ただ健気に。

 

 

「―――――冥界にレーティングゲームの学校を建てることです」

 

 

 リアスであってリアスではない。

 ソーナであってソーナではない。

 マコトにとって今の二人はそういう認識であり、否定するつもりもない。

 ただ、余計な真似をして二人の邪魔になるくらいなら関わることはしない。

 夢も目標も――なにより()()も違う二人を気にかける者は沢山居るのだから……。

 

 

「……レーティングゲームを学ぶところならば、既にあるはずだが?」

 

 

 リアスに続き、次はソーナがかつての世界では持たなかった夢を語る。

 それは如何にもこの世界の彼女らしい夢なのかもしれないが、その道はかなり険しそうだ。

 

 

「それは上級悪魔と一部の特権階級の悪魔のみしか行くことが許されていない学校のことです。

私が建てたいのは下級悪魔、転生悪魔も通える分け隔てのない学舎です」

 

 

 現在の冥界もやはり貧富と身分の差は大きく残る。

 故にソーナは分け隔てない何かを作りたいと語るも、上層クラスの悪魔達はそんなソーナを笑った。

 

 

『ハハハハハハハハハハハハハハッ!!』

 

「あ?」

 

 可笑しくてたまらないと大笑いする悪魔達に、漸く独り悶々とセラフォルーとシャルロットについて考えていたマコトの意識が引き戻された。

 

 

「それは無理だ!」

 

「これは傑作だ!」

 

「なるほど!

所謂、夢見る乙女と言うわけですな!」

 

「若いと言うのは良い!しかし、シトリー家の次期当主ともあろう者がその様な夢を語るとは!

此処がデビュー前の顔合わせの場で良かったというものだ!」

 

「………。私は本気です」

 

(? 何がだ? つーか何か笑われてるし)

 

 

 全然話を聞いてなかったマコトは何故ソーナが笑われてるのかについて首を傾げる。

 何かギャグでも噛ましたのだろうか? と暢気に思ってると、ソーナの兵士である匙が突然上層悪魔に食い付いていた。

 

 

「黙って聞いてれば、なんでそんなに会長の―――――ソーナさまの夢をバカにするんスか!?

こんなのおかしいっスよ!!

叶えられないなんて決まったことじゃないじゃないですか! 俺たちは本気なんだ!!」

 

 

 匙の怒りのこもる声に漸く状況を理解するマコトはふと妹が笑われてるこの状況に対してのセラフォルーの反応を伺う。

 

「……」

 

 

 違うとはいえ、妹としてかなり大事にはしてきたのだろうと思ってたマコトがセラフォルーの反応を見てみると、笑ってる悪魔達に対してとても冷めた表情を浮かべていた。

 怒るでも無く諌めるのでも無く、ただただ『つまらない玩具を見るような目』は、最初から関心が無いといった様子がうかがえた。

 

 

(まぁ、だろうな。

否定はしないが肯定もしない……コイツ等が目の前で惨殺されようが知った事ではない……か)

 

 

 大体俺も同じ気分だぜセラ? と、ソーナを嘲笑う悪魔達に抱く気持ちを察するマコト。

 

 

「口を慎め転生悪魔の若者よ。

ソーナ殿、下僕の躾がなってませんな」

 

「申し訳ございません、匙、下がりなさい」

「で、ですが……!」

 

「命令よ、下がりなさい」

 

「くっ!」

 

 

 悔しげに歯を食い縛りながらもソーナの命令に従う匙は俯きながら拳を震わせている。

 

 

(本当にこの世界のソーナが好きなんだなキミは。

不思議な気分だよ)

 

 

 そんな匙を見てマコトは不思議な気分になるのと同時に、やっぱりソーナにもリアスにも極力関わるのは辞めようと決意を固める。

 そして残りの若手達の夢も語り終え、これで終わりかと思われたその時だった。

 

「さて折角だ、貴殿の夢も聞かせて貰えるかな?」

 

「………………は?」

 

 

 終わったら即セラと合流し、久々に汗でも流そうかと指の関節を密かに鳴らしていたマコトに悪魔の一人が突然話を振ってくる。

 唐突過ぎて一瞬反応が遅れたマコトはキョロキョロと周りを伺うと、全員の視線が集中している。

 

 

「………………………」

 

「晴れてレヴィアタン様の眷属になった貴殿にも夢がある筈。ならば聞かせて貰えるかな?」

 

「夢? あ、あぁ……夢ね」

 

 

 こっちを見るな、流石に吐くぞ。

 と内心毒づくマコトは何とかその本心を隠すと、聞いてくる悪魔達に向かって……いやもうこの際だし言ってしまえと口を開いた。

 

 

「夢という言葉で終わらせるつもりは無いが野望はある」

 

「む……?」

 

 

 口調が変わった……? と全悪魔達が訝しげな表情を浮かべる中、マコトはこちらを見下ろすセラフォルーと見つめ合いながら漸く手にした生きる意味を宣言した。

 

 

「セラフォルー・レヴィアタンとしてではなく、ただのセラフォルーとしてを守り続け、ある女を自由にする」

 

 

 魔王の眷属等という肩書きなぞどうでもいい、セラフォルーを個人として認識し、傍に居続け、そしてとある女を必ず自由にして連れ出す。

 

 

「その為なら俺は何でもやる。

例えそれが世界にとって悪とみなされようが、全てを敵に回そうが……」

 

 

 全てはこんな自分をずっと受け入れてくれた二人の為に。

 己の為だけに力を求めた異常者は愛を与えてくれた者の為にその力を注ぐ。

 

 

「っ!? こ、この力はセラフォルーと同じ氷の魔力……!?」

 

「な、なんと……!

転生悪魔が魔王と同じ魔力の性質を持っているのか……!」

 

 

 放たれる魔力に冷気を感じた悪魔達は、マコトが既にセラフォルーと同じ性質の魔力を扱える事に驚愕する。

 無論、横で見ていたイッセーやリアス……そしてソーナ達も。

 

 

「もし俺からセラとあの人を奪うのであるのなら――――誰だろうと殺してやる」

 

『…………』

 

 

 セラフォルーの眷属になったとはいえ、高々転生して日の浅いだけの存在だと高を括っていた。

 だが放たれる魔力は大きさとは関係無しにとても異様で冷たい殺意を感じてしまい、誰しもが言葉を失ってしまう。

 

 

「もういーちゃんったら、まーたそんな事言ってさぁ? 勘違いしちゃうよ?」

 

「? 嘘や冗談でこんな言うわけないだろ。

言っとくが俺は本気だからな……セラ」

 

「ぅ……。は、反抗期が終わったら終わったで別の意味で大変かも……」

 

 

 ただ一人、この場の中で全てを知るセラフォルー以外は、反抗期が完全に終わって逆に素直になりすぎて将来変な意味での女ったらしになりそうなマコトの、真っ直ぐで素直な言葉に頬を赤らめながら照れていた訳だが……。

 

 

(ある女を自由に……? ま、まさか……!)

 

 

 いや、別の意味でマコトと言葉の意図に気付いて焦ってる純粋な男子は居たらしいが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうであれ、セラフォルーの将軍としての力は既に備わっていると見なされたマコトはある種他の悪魔達に少しは認められていた。

 が、本人は別に認めようがそうでなかろうがどうでも良いので関心は無い。

 

 

「ついあのサイラオーグとかいう奴に先を越されると思って釘を刺してしまったが……」

 

「本当に彼がおば様を?」

 

「流石にババァの本当の秘密は知らないが、どうもそうらしい……」

 

「ふーん? モテ期だねおば様も」

 

「冗談じゃないぞ、モテ期だろうがなんだろうがババァは誰にも渡さねぇ……」

 

 

 彼にとって重要なのは、セラフォルーとシャルロットの邪魔になりそうな連中を片っ端から消す事であり、評価なんてものは二の次だ。

 

 

「先に聞くけどよ、お前には居ないよなセラ?」

 

「へ? 何が?」

 

「だからほら、そんな感じの男とか……」

 

 

 若干めんどさい性格に変貌しつつあるそんなマコトは、会合後のパーティーには出ずに直ぐ様セラフォルーと共に個室に籠り、サイラオーグについてやシャルロットの今後についての話し合いをしている。

 その最中は常にシャルロットに対する執着心を示しており、サイラオーグがそんな感情を持ってる事に対して忌々しそうな様子だった。

 

 

 シャルロット――ヴェネラナが聞いたら泣いて喜びそうだな……と、ちょっとしたジェラシーを感じてたセラフォルーだが、突然マコトにそんな質問を少し言葉濁し気味に聞かれるものだから、思わずポカンとしてしまう。

 

 

「逆に聞くけど、いーちゃんは居ると思う?」

 

 

 思わず少し意地悪な返しをしてしまうセラフォルー

 なんというか、可愛くてしょうがなかった。

 

 

「……。いや、居ると思ってしまうっていうかよ。

魔王としてとはいえお前も人気がある訳だし……」

 

「…………」

 

 

 昔ならセラフォルーが何をしてようが鼻で笑って『物好きしかいねーだろ』とバカにする言い方をしてたマコトが、本気で心配そうに目を泳がせながら聞いてくる。

 反抗期が終わるってスゴい……改めて素直になってるマコトに思うセラフォルーは、もう少しだけ意地悪してあげようと意味深に微笑む。

 

 

「どうかなー? 魔王になる前はしょっちゅう純血家との縁談話を持ち掛けられてたし、魔王になった後もちょくちょくあったよーな……」

 

「……まあ、だよな。

そりゃそうだ、お前程の女だもんな」

「お前程の女って、どーいう意味よいーちゃん?」

 

「ちょっと煩いかもしれないけど、悪い性格じゃないし、綺麗な顔してるし、体型もちゃんと女らしくて……」

 

「ぅ! す、ストップストップ!! も、もう良いよいーちゃん! そ、そんなハッキリといーちゃんに褒められると思ってなかったし!」

 

「は? いやだって本当の事だろ。

ていうか、今更ながらカミングアウトするけどよ、ガキの頃からお前達は普通に綺麗だとは思って――」

 

「う、うー……! いーちゃんが女ったらしになってる~!」

 

 

 アホみたいに平然とペラペラとセラフォルーを褒めちぎるものだから、流石にセラフォルーも本気で照れてしまう。

 かつても散々この年下の男の子に泣かされてきたが、今も別の意味で振り回されてる気がしてならない。

 

 いや、嬉しいのだが。

 

 

「……心配しなくても、元からいーちゃんしか頭に無かったからそういった話は全部はね除けてたよ私は」

 

「そうか、それなら安心だ。

仮にこれからそうなろうとしても………ダメだな、多分お前をそんな目で見るのが居たら八つ裂きにしてしまいそうだよ俺は」

 

「い、いーちゃんってさ、昔も少しだけそんな気がしたけど、結構独占欲が強いよね……」

 

「多分な……。俺は散々お前達を否定しようとしてきた癖によ……悪い」

 

「嫌じゃないし、寧ろ嬉しいから謝らないでよ。

ふー……少しは慣れてきたけどさ、あんまり他の人に言わないでよね?」

 

「言うかよ。どうでも良い奴はどうでも良いってのは変わらないんだから」

 

 

 頼むから誰彼構わず天然で口説くような男にはならないでと言うセラフォルーに、マコトは上着を脱ぎ、締めていたネクタイを緩めながら座っていたソファーに深く背を預けると、セラフォルーも苦笑いしながら隣に座る。

 

 

「パーティーには出ないの?」

 

「柄じゃないしな」

 

 

 座ると同時にマコトに寄り掛かるように身体を預ける。

 昔なら鬱陶しいと言われたのが、今ではこうしても自然と受け入れてくれる。

 

 それがセラフォルーにはとても心地よいものだった。

 

 

「じゃあ時間が余っちゃったね? 私も出る気分じゃないしさ?」

 

「魔王がそれで良いのかよ?」

 

「構わないよ、どうせ他の三人も居るしね」

 

 

 だからついついもっと近くに……と身を寄せ、やがてマコトを押し倒す形で横になると彼に跨がる。

 

 

「こうして見ると大人になったね?」

 

「お前にしてみたらガキだろうがな……」

 

「そんな事無いよ? 今だってほら、いーちゃんを前にすると胸がドキドキする」

 

 

 そして自分の気持ちを訴えながらマコトの手を取り、自分の胸に当てて心臓の鼓動を聞かせる。

 

「私もね、いーちゃんや皆が居ない世界なんて無意味で無価値だと思ってた。

でも、こうしていーちゃんやおば様に会えた今、同じようにやっと生きる意味を見付けられた……」

 

「…………」

 

「だからかな、前よりももっと強くこう思う……」

 

 

 跨がるセラフォルーがゆっくり身体を屈ませ、マコトと唇を重ねる。

 何度も何度も……少し離れては重ね……やがて瞳を潤ませ、頬を上気させながら言う。

 

 

「いーちゃんが欲しい……」

 

 

 二度と放さないのはセラフォルーとて同じだ。

 何をしようとも、どんな手を使おうとも永久に一緒に居たい。

 そしてもっと深く繋がりを持ちたい……。

 

 

「セラ……」

 

 

 抱く気持ちを吐露したセラフォルーにマコトは……。

 

 

「ぁ……いーちゃ――んっ……♪」

 

「今更やっぱ止めたは聞かないからなセラ……」

 

 

 受け止めた。




補足

別の意味でめんどさい性格になってきてる日之影一誠(元)

重いのだ色々と……。

まあ、受け止める相手の器がとても大きいからなんとかなってるのですが。


その2
否定はしないが別に肯定もしない。

この世界のリアスとソーナに対する認識はこんな感じです。
つまり、邪魔になるような事は避けまくる決意ですね。


その3
イチャイチャしてたらとてもイチャイチャに進化しちゃう事態。

その後、とても幸せそうにひょこひょこと変な足取りで歩いてるセラフォルーさんが居たとか。


そして

「マコト? どこに行って――あれ? 頬が痩けてね?」

「……。ちょっと負けただけだよ。次は負けねぇ……」

「は?」


 想定外にちょーだいされて負けたとさ

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