元ネタは――まぁ、うん。
夕食まで各自自由にして良い。
その言葉を聞いた時、マコトとじっくり話をしたいと思って直ぐ様接触しようとした。
けどどういう訳か俺が別の事に気を取られた間にマコトの姿は忽然と消えていた。
「マコトー! マコトーー!!」
セラフォルーさんに付いていって無いことは解っていた。
なので逆に心配になってしまっていた俺は、暇そうにしていた木場やゼノヴィア、アーシアや小猫ちゃんに頼んで一緒に城内を探し回ってる訳だけど、名前を呼んでもマコトは返事も無ければ姿も見せてもくれない。
「イッセーよ、弟を探すのは構わないが、少し声が大きくないか? その、場所も場所だろう?」
「それはわかってるけど、これだけ探しても居ないとなると不安なんだよ……!」
これだけ広い場所を探すとなると骨が折れるし、名前を呼びながら歩き回った方がマコトも気付いてくれる筈だと思ってるのだけど、手伝ってくれるゼノヴィアや皆はあまりよくないと言う。
「そもそもいつの間に消えてしまったのが解せないですよね。
レヴィアタン様に今は付いて無い筈なのに、どこへ行ったのやら……」
「もしかしてジオティクス様とお話してるのかもしれないんじゃないかな? どういう訳か嫌にイッセー君の弟君を気にしていたし」
だから大声で何度もマコトの名前を連呼するなよ……と、遠回しに言われた気がした俺はちょっとムッとなるが、確かに常識とは言いがたい真似をしていると言われたら否定は出来ないので取り合えず呼ぶのは止めるとする。
それにこれだけ探しても見つからないとなると、木場とゼノヴィアの言う通り、部長のお父さん――即ちジオティクスさんとどこかの部屋で話をしてるのかもしれない。
「……。仮にそうだとしてもアイツはシャイだから部長のお父さんと話が出来るのかが心配だ。
やっぱり姿を見るまでは安心できないぜ……だから探す!」
「わ、わかりましたから、取り合えず何度もお名前を連呼するのだけはよした方が……」
「オーケー、名前を呼ぶのは止めるよ。
その代わり部屋中をひとつひとつ確認するがな!」
「…………。ここ、部長の実家なんだけどな」
「んな事はわかってるよ! モラルの欠片も無い行動なのも十二分に承知してる! けどそれ以上に俺はマコトが心配――」
「わかりましたわかりました、先輩が思ってた以上にブラコンなのは最近でよーく理解しましたから、大人しく静かに探しましょう? 騒ぐのも無しです、わかりましたか?」
「おう、わかったぜ。
しかし、小猫ちゃんだけはわかってくれるのか? なんて良い子だ、今度デートでも――」
「…………バカ言ってないでとっとと探しに行きますよ」
「――ナチュラルに断れちまったぜ。でも俺は諦めんぞ!」
「はいはい……」
ちょっと協力的に感じた小猫ちゃんに感激してデートに誘ったら素っ気なく断れたけど、あんまり怒った様子もなくマコト捜索に引き続き協力してくれた。
うん、俺って良い仲間に巡り会えたよ……だから是非共みんなもマコトと友達になって欲しい。
そうしたらみんなもきっとマコトの良さをわかってくれる筈だから――俺はそう信じてる。
「よーし、かくれんぼのお時間だ……!」
「ねぇ、イッセー君ってあの弟君が悪魔に転生してから余計変な事になってる気がしないかい?」
「確かに以前から転生する前の弟さんをオカルト研究部に入れて欲しいって言ってましたけど、木場さんの言う通り、最近更に弟さんを気にする様になってますね……」
「イリナから聞いた話によると、昔はそこまでじゃなかったらしいぞ。
イリナはイッセーの弟と一度も話をした事は無かったらしいがな」
「…………」
大丈夫だ……。人と接する事がちょっと苦手なだけで、悪い奴なんかじゃないって俺が皆に教えるんだ……!
普段以外のマコトの姿をセラフォルーの眷属になる事で知り、またそれが理由でブラコンという概念を知らず知らずの内に加速させていっているイッセーは、引き続きマコト捜索を続けている。
会って話して、皆と仲良くなってくれたら良い。
兄として弟のコミュニケーション能力の低さを心配しているからこそという理由が今のイッセーを突き動かしているともいえるし、単純に自分が知らないマコトの面を知っているセラフォルーに嫉妬しているからなのかもしれない。
ともかくしらみ潰しに巨大なリアスの実家の中を渋々付き合う仲間達と共に探し続けたイッセーは、遂にそのマコトの姿を発見する事になった。
「い、い、いい居た……! おーいマコ――」
「! ストップです先輩……!」
「グェッ!?」
ゴテゴテの魔法少女衣装を正装と言ってしまえるセラフォルーの趣味だと思われる燕尾服姿のマコトを漸く――場所にしてグレモリー家の中でも割りと隅というか奥というべき場所の廊下にて発見したイッセーな途端に嬉々とした顔で弟の名前をまた大声で呼ぼうとしたのだが、その瞬間後ろに居た小猫が何かに気が付いたのか、呼ぼうとしたイッセーの襟から少し下辺りを引っ張る事で止められてしまう。
戦車としての特性により腕力が可憐な美少女とは思えないくらいに強い為、服を引っ張られたそのパワーが見事にイッセーの首を締め付け、捻り潰されたカエルの様な声を出しながらむせていた。
「ごほっ!? げほぁ!? こ、小猫ちゃん!? 一体何を――」
当然締め付けられた苦しみで顔が真っ赤になり、涙目にもなったイッセーが抗議の声を出そうとするが、小猫はゼノヴィア、アーシア、祐斗と共に無理矢理イッセーを押さえ込んだ。
「しっ……! 静かにしてください、そしてよく弟さんを見てください」
「な、何だよ皆して……やっとマコトを見つけたのに何をよく見ろって……?」
4人に上から押さえ込まれたイッセーが指を指す小猫に言われた通り、少し不満そうな顔をしながらマコトを見てみると……。
「窓を拭くには新聞紙が早い。洗剤の節約にもなるし、何よりインクの油分が手垢等の汚れを分解し、艶だし効果も少しは期待できる」
「へぇ? 昔教えてなかった掃除方法ね……」
「
その内、そういった『小技大全集』的な本を読むのが趣味になっちまったよ」
「という事はやっぱり腕は衰えてないのね?」
「やることも無かったし、アレのせいで今でも条件反射的に動くんだよ……」
グレイフィアとは違う見知らぬこの家のメイドの一人だと思われる女性と、どんな会話までかは聞こえないが、とにかく一緒に古い新聞紙を使ってえらく庶民的な窓ふきをしているマコトがそこには居た。
「窓枠に関しては要らない歯ブラシとかが良いけど、流石に今調達するのは難しいか……」
「他の使用人も含めて直ぐ捨てちゃうから……」
「じゃあしょうがないとして、次の掃除にでも行こう」
引く程順応した様子でそのメイドと掃除をしてる。
それだけなら何してるんだ程度で済むのだが、ミソなのが、全く見知らぬ謎のメイドとくっちゃべりながらという所だ。
小猫達にでもしてみれば、マコトという男はイッセーの弟で顔立ちなんかも似てるのにも関わらず、見分けが簡単すぎるくらいに喋ろうとしない、掴みにくさナンバーワンの印象しかないのだ。
そんな男が今日初めて確実に出会った筈の、グレモリー家のメイドと世間話っぽい会話かましながら何故か掃除をしてる……。
余計何を考えてるのかがわからなくなると思っても責められる訳がなかった。
「あのメイド服の人は一体誰なんだ? セラフォルーさんみたいにマコトと話をしてるし……よく見たらスタイルも中々で美人かもしんねぇ……」
「またそういう目で先輩は……。そうじゃなくて、あのメイドさんと平然と会話を展開させている弟さんを不思議に思うべきでしょう?」
「そうだよ、話しかけても首を縦か横にしか振らないか、あっても小声で『はい』か『いいえ』としか言わない彼が、間違いなく今日初めてであった相手と会話してるんだよ?」
「というか、話す時は普通に話せるんだなイッセーの弟は……」
「私は何度かイッセーさんとお話するのを見てますけど、それでも驚きました……」
どんな流れでそうなったかはわからないけど、恐らく庶民的な掃除方法のレクチャーをあのメイドにしてるのだろうマコトの妙に生き生きとした声と動きについて指摘されたイッセーは、眼鏡を掛けたちょっとキツい言い方をしそうなメイドの美人指数や隠れ
「確かにマコトが初対面だろう相手と普通に話をしてるのは驚くべき事だろう。
しかし、俺は最近マコトについてあることに気付いたのだ!」
「は?」
「気付いたって何にだい?」
兄貴だからこそ誰よりも気付くのが早いんだぜ! と、別に自慢にもならないのに自慢気に胸を張るイッセーに取り敢えず皆は気になるという体を装いながら聞いてみると、まずイッセーはせっせと窓掃除の仕上げをしてるマコト―――では無く、せっせと新聞紙の使い方についてのメモを取ってたメイドを指差す。
「まずあの人を見てみろ。まず間違いなく俺たちよりも年上だと思うだろ?」
「……。まあそうだと思いますね」
「そしてセラフォルーさんはシトリー会長のお姉さんでこれまた年上だ」
「だな」
「それが何だと言うんだイッセー君?」
「わかんねーか? つまりマコトは――」
軽く一回り以上は年が離れた人が実はタイプだったんだ!
背後に『デデーン』的な効果音が流れそうな宣言にも似た言葉に、小猫達は返す言葉が微妙に見付からなかった。
「セラフォルーさんはマコトを小さい頃から知ってて、その時告白されたなんて言ってたけど、それはまず有り得ないと俺は思う。
が、しかしだ……悔しいがセラフォルーさんは年上、つまりマコト的には好みバッチリで、あの人もきっと年上の人なんだろう」
「う、うん。だから彼は会話をしてるってイッセー君は言いたいのかい?」
「あぁ、そして逆に同世代や年下、10程度離れた年上は対象外だろうな」
やはりマコトは間違いなく弟だ! と、女性に対する性癖は一致せずとも根が似てると一人勝手に喜んでるイッセーに仲間達はそれは違うんじゃないかと思うが、自分達もマコトの事は全く知らないので、否定はできなかった。
「次は鏡だが、浴室の鏡の水垢を取るには酢が有効だ。
水に混ぜてスプレーボトルで吹き掛け、ティッシュで流れないようにし、ラップで覆う。
そして半日放置した後乾いたふきんで――」
「その前に彼等に見つかってしまった様だわ」
「は? ………あぁ」
「あぁ……って、大丈夫なの? 私と一緒に居る所や話をしてる所まで見られてたみたいだけど、彼等に怪しまれるのでは……」
「多分大丈夫だし、別に怪しまれた所で何も悪いことはしてないんだから問題なんかないさ。
そっちこそ大丈夫なのか? その、色々と複雑な身らしいし……」
「私は別に――基本的に他の使用人に紛れてのらりくらりやってたし、彼等にしてみたら私はこの家の使用人の一人程度の認識しかされてないはず。ただ、私の出生を知ってる人達に見られると少しだけ怪しまれるけど」
そんなイッセー達の姿に気付いてたかつてのヴェネラナ・グレモリーことシャルロットは、マコトがどうせ彼等とこれまでに碌なコミュニケーションを取らなかっただろうことを見抜き、心配するが逆にマコトの方から心配されてしまった。
反抗期絶頂期の頃というか、多少過ぎた後でも基本的に構う自分を鬱陶しいといった態度を崩さず、今もそうだけどババァと呼び続けていたあのかつての一誠にまさかそんは心配の言葉を貰うとは思わなかったせいか、少しだけ嬉しそうだった。
「心配してくれるの? 結局ずっと反抗期だったアナタが……」
「まぁな。今更だけど、アンタを含めて皆には悪いと思ってるよ……。
失って初めてアンタ達の優しさの大事さを知った大バカ野郎だけど」
それに加えてこんな事まで言ってくれた。
セラフォルーにも同じ様な言葉と感謝をしたのだろうし、恐らく確実にセラフォルーは二度とマコトから離れる事は無いだろう。
それがとてもヴェネラナ――いや、今は家系から抹消されているシャルロット・バアルは羨ましい。
「あの子が羨ましいわ……」
「ババァ……」
不器用な優しさも無論知っているけど、今の優しさを一身に受けられるセラフォルーが羨ましいと吐露するシャルロットにマコトは彼女が別の存在として生まれ変わってから今まで受けた苦労を想像し、神妙な面持ちとなる。
そしてだからこそ、血の繋がりも無ければ種族として根本的に違う生物であった自分に愛情を与えてくれたかつてのヴェネラナに恩を返さなければならない。
その決意が、これまでこの世界のイッセーの邪魔にはならないと動くことの無かったマコトを突き動かした。
「使用人は辞めれないのか?」
「へ?」
「だから、この家の使用人は退職できないのか? もしだ、もし退職できたら俺がセラに頼んで……とかさ。
多分セラもアンタがヴェネラナだったと知れば協力してくれると思うというか……ええっと、その……」
最後辺りで気恥ずかしくなったのか、少し言葉を濁しながら目を逸らしたマコトをシャルロットはポカンとしながら見つめていた。
「
けどババァが……アンタが居るって分かった今、そんな事を思える訳が無い。
アンタを囲む柵をぶち壊し、またアンタに構い倒される日に戻れるんだったら―――――俺は何でもやれる気になる」
「い、一誠……!」
下手したら完全にプロポーズ的な台詞だが、本人にそんな自覚は全くない。
あるのはかつてヴェネラナだった彼女からもらった愛情に対する恩返しだ。
「そ、そんな……セ、セラフォルーちゃんに怒られちゃうわよ?」
本人は真面目だった。親子愛的な意味だったし、ヴェネラナだった彼女がそんなアホな解釈をする訳もないと思っていた。
けど悲しいかな、シャルロット・バアルとしての苦労と、この世界のヴェネラナがジオティクスと結ばれる幸せそうな姿を見せられ、自分はバックアップ以下の人形と罵られてきた度にかつての幸せな頃や一誠との思い出を糧に頑張ってきた故に、若干色々と拗れていた。
「すぐにでもセラと会わせて事情を話す。
セラならアンタがババァだったとわかれば間違いなく協力してくれるし、アイツだって喜ぶ」
再会の時点で嬉しさのあまり抱き締め、セラフォルーに嫉妬までしてた彼女にしてみれば、今向けられたマコトからの言葉は回りに回って
ましてやずっと反抗期だった子がこんな真面目で男らしい表情になって言うのだから――しょうがないのかもしれない。
「私はもうヴェネラナでは無いのよ? それでも良いの……?」
「だからどうした、俺だってもう一誠じゃない。
ヴェネラナで無くともアンタは俺にとってはヴェネラナのババァだ」
「……ど、どうしましょう私、今凄く嬉しいわ……。アナタにそんな事を言って貰えるなんて……」
「喜ぶのは早いし、今もう完全に決めた。
アンタだけは必ず一緒にまた生きる為に連れ出す。何なら誘拐犯扱いされようが拐ってやる」
恩を返す為に彼女を連れ去るという意味で宣言するマコト。
アンタが欲しいから絶対に何がなんでも拐ってやると宣言されてしまい、本気でときめいてしまったシャルロット。
「ふ、ふつつかものですが、末永くどうかよろしくお願いします」
「任せろ。
まずはセラに事情を話すか……」
この解釈の違いは割りと深刻なのかもしれない。
「……………。あのメイドさんがズレた眼鏡を何回も直しながら顔を真っ赤にしてうつむいてしまった……。
まさかマコトの奴は……さ、流石俺の弟だぜ……!」
「いやいやいや、そんな訳……無くもない気がしてきました」
「こ、これってでもまずくないかい? 下手したら問題が……」
そんな光景を会話は聞こえないにせよ、イケナイ現場を見てしまったとばかりにドキドキしながらイッセー達は見てたらしい。
終わり
補足
悪魔っぽくない? だってわざとだもん。
別にシャルロット・デュノアさん関係ないからね?
その2
基本的に年上ばっかりと話しまくるから、イッセー達に年上好き――しかもかなり離れたという勘違いをされたマコトだった。
まあ、当たらずとも遠からずですけどね。
その3
再会の喜びとこれまでの苦労で少し拗れてた元ヴェネラナさんは、マコトのマジ宣言を―――なんとプロポーズされたと解釈してしまいました。
ナンテコッタイ