色々なIF集   作:超人類DX

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影アシストしながらイッセー達がテロ組織を撃退した体を作り上げたマコトとセラフォルーだったが……。


新たな進化の兆

 その後、マコトとセラフォルーがかつて遭遇した通りとなった。

 禍の団を名乗る集団の襲撃、その頭クラスのカレテア・レヴィアタンの来訪。

 

 案の定彼女はレヴィアタンの称号を奪ったとセラフォルーに対して恨みを抱いている様子だったが、そんな恨み等最早どうでも良かったし、セラフォルーもまた適当に聞き流してしまっていた。

 

 そしてこのまま戦うのか? と思いきや、カテレアが堕天使のアザゼルを組織に勧誘し、それをアザゼルが断るという流れでそのまま戦闘に突入してしまい、結局セラフォルーと戦うことは無かった。

 

 しかも、アザゼルが片腕を犠牲に勝利した事で永遠に戦うことも無くなった。

 

 

「流れに身を任せたらこうなっちゃうみたい」

 

「そういえばあの時は確か、お前が一瞬で黙らせたんだったな……。なるほど、完全に死んだか……」

 

「前は何だかんだで仲良くできたから少しだけ複雑……」

 

 

 カテレア・レヴィアタンが敗死したと片腕が無いアザゼルを見て悟ったマコトとセラフォルーは、少しだけ複雑そうな表情を浮かべていた。

 

 

「いーちゃんの方はどうだったの? イッセー君やリアスちゃん達のフォローに行ってたらしいけど……」

 

「気付かれない程度に五月蝿い連中の数を減らしてきただけだ。

そもそも、進化はしないにしても彼等のレベルはそれなりにあるからな……」

 

 

 この世界のイッセー達に気付かれない様にフォローも済ませた。

 故に最早出番は無いとこの襲撃騒動でわたついてる周囲に溶け込むように会議室の隅っこで呑気に腰掛けながら話す二人。

 実はその間に禍の団に勧誘されたという理由で堕天使側から脱退した白龍皇が試すつもりでイッセーと軽く戦うといったやり取り等があったが、かつても含めて白龍皇の存在そのものに関心が一切無かったせいか、そこの所を完全に忘れていた。

 

 

「白龍皇? 誰だそれは?」

 

「ほら、前も禍の団に勧誘されたらしいイッセー君に歳の近いハーフ悪魔の男の子だよ」

 

「……? はて、そんなのが居たっけか? てか今までも居たのか?」

 

 

 カテレアが敗死するのと同時に襲撃者の鎮圧も大体が済んで少し周囲も落ち着きを取り戻した頃に、アザゼルが苦々しい表情でヴァーリなる者が抜けやがった等と言っている事で漸く思い出――す事はせずとも存在を認識したマコト。

 

 聞けばそのゴタゴタの最中にイッセーが戦って何かしたらしいが……外様の自分が一々聞いても意味なんて無いのでセラフォルーの護衛と称して動く事はやはり無かった。

 

 

 

 

 

 皆は全く気付いてなかったらしいけど、俺は確かに見た。

 禍の団とかいうテロ組織の襲撃の際、神器の制御をできないギャスパーが利用され、それを助ける為に色んな種族のはぐれと戦ってた時に、セラフォルーさんの横から全く動いてなかった筈のマコトが、凄まじい速度で敵にすら何をされたのか悟られずに次々と倒していく姿を……。

 

 

「…………」

 

 

 俺の見間違いじゃないのは確かだ。

 しかし、それだからこそ疑問が残る。

 

 マコトのあの異様な強さは一体何なのかと……悪魔に転生して日が俺よりも浅い筈なのに、まるで戦うことに慣れているような――いや、もっといえば殺める事すらに躊躇が無い様なあの無表情さが……。

 

 

「何でアザゼルがオカルト研究部の顧問なのよ……!」

 

 

 あの無機質で作業の様に次々と襲撃者達を誰にも悟られず消していった姿が、会談を終えて数日経っても頭から離れない。

 この数日で堕天使トップのアザゼルさんが先生になってオカルト研究部の顧問になっちゃったとか色々あったけど、俺の頭の中は数日前のマコトの姿が鮮明に焼き付いていた。

 

 

「先輩、変な顔して上の空ですけどどうしました?」

 

「へ? あぁ、別に……なんでもないぜ小猫ちゃん」

 

「? そうですか……」

 

 

 皆に行っても信じてくれないかもしれないのと、仮に信じてくれたら逆にマコトがもっと敬遠されてしまうかもしれないからと考えて、あの時の事は誰にも言わないし、また俺もマコトと話す時は一切話題に出さない様にしている。

 

 相変わらずマコトがオカルト研究部に入れる事は無く、なんか気付いたら――ていうかもっと外様な筈のアザゼルって人がこんな簡単に顧問として入ってこれる事に理不尽な気分にすらなるが、波風立てる様な事はしたくないので心の奥底にこの気持ちはしまおうと思う。

 

 

「しばらくの間は俺がお前らの神器の面倒見てやるよ。赤龍帝の籠手も魔剣創造も停止結界の邪眼もな」

 

 

 禍の団に渡ったヴァーリに負けない為にも俺自身も強くならないといけない。

 ハーレム王に到達する為にもな……。

 

 

「で、兵藤の弟は何処だ? 姿が見えねーが……」

 

 

 そんな事を考えてたせいなのか、それとも単たる偶然なのか、部室に上がり込んでたアザゼル――いや、今はアザゼル先生が部屋を見渡しながらマコトについて聞いてきた。

 どうやら先生的にマコトはオカルト研究部に入部してると思ってた様子………。

 

 うん、やっぱりそう思うよな?

 

 

「彼はこの部員じゃないわよ」

 

 

 そんな先生の質問に対して部長は部員ではないとハッキリ言ってしまう。

 そこは『今は』と付けてほしかったりしますよ……。

 

 

「そうなのか、なら生徒会か? セラフォルーの将軍(ジェネラル)だし、そっちが自然か? 生徒会長はセラフォルーの妹のことだしな」

 

「生徒会でも無いわよ。彼は帰宅部よ」

 

「帰宅部? どっちにも入ってないのかよ? チッ、少し話をしてみようと思ったが、この分じゃもう帰ってるのかよ……」

 

「話って……何の話をするつもりですか?」

 

 

 そもそも全く親しくないし話せるのかどうかも分からないが、話をしてみたかったと言う先生に思わず声が出てしまった。

 

 

「そりゃあ、あの眷属を持ちたがらなかったセラフォルーの眷属にどんな経緯でなったのかとか……だな。お前が知ってるなら教えてくれても構わんが……」

 

「残念な事に俺にもわかりません。

何でもマコトが小さい頃に一度セラフォルーさんと出会って、本当かどうかはわかりまけんけど、告白したとかなんとか……」

 

「は? あのセラフォルーにか? お前の兄弟だけあってマセてるんだな弟の方も」

 

「……。多分違うとは思いますけどね」

 

 

 エロ本読ませても真顔で読むだけで反応ゼロな奴だし、元浜と松田と共に巻き込んで色々付き合わせたけど、やっぱり無反応だったし、それを考えたらセラフォルーさんに告白なんて想像すらできないわ。

 ………つーか、アレはどう見ても逆だろ。

 

 

「妙に使いの仕事が上手かったし、身のこなし方も単なる一般人出の転生悪魔とは思えなかったんだが……何か思い当たる節はあるか?」

 

「そういえば昔から朝早くに家を出て自己トレーニングをしてましたけど、それは理由になりますかね?」

 

「それは意識すれば誰でも出来そうだから微妙だな。

うーん、改めて考えると不思議な奴だなお前の弟は」

 

 

 会談の日の事を話そうかと一瞬考えたけど、やっぱり言うのはやめておこう。

 俺と先生の会話を聞いてた部長達に知られたら、余計敬遠されかねないし。

 

 

「一番手っ取り早いのはセラフォルーに直接聞いてみる事だが……」

 

「…………」

 

 

 確かにその方が早いのかもしれない……。

 そう思いながらアザゼル先生顧問のオカルト研究部の1日目は終わり、家に帰る事になった。

 

 ちなみにだけど、俺の家ってリアス部長の実家の支援だかですんごい豪邸に建て替えられたりしてる。

 両親は喜んで簡単に受け入れちゃったりしてるんだけど、マコトはあの時新しく建て替えられた家を見て微妙な顔をしてたっけな……。

 

 

「多分家に居ますけど……」

 

「ならちょっと様子を見るか」

 

 

 そんな自宅にアザゼル先生が来る事になった。

 理由は多分家に居るだろうマコトを一目見るためだとか……。

 そしてリアス部長達もまた同行してる。

 元々家を改造したのはそこを活動拠点にする為なのも入ってるらしいからな……まあ、殆どタダ同然でデカい家に住めるのだから当たり前の等価交換だと俺は思うし、こういうところで部長達美少女のポイント稼ぎをしないとね……くふふ。

 

 

 とまぁ、そんな事を考えながら家に帰ってアザゼル先生について両親に説明すると、割りと簡単に受け入れてくれた。

 そしてその流れそのままにマコトは帰ってるかと聞いてみると……。

 

 

「マコトなら帰って部屋に居るけど……」

 

「けど? どうしたんだよ?」

 

「えっと、邪魔しない方が良いと思うわよ?」

 

『?』

 

 

 何故か母さんはソワソワしていた。

 邪魔って何の事だ? と俺を含めた皆が頭に?を浮かべるも、そんな言い方をされると逆に気になるのが種族問わない性というものであり、俺達はマコトの部屋に行ってみる事にした。

 

 まさか遂にエロに目覚めてエロ本読書か!? ……なんて想像もできない姿を無駄に思い浮かべたりしながら部屋の扉を開けてみると……。

 

 

「すー……すー……」

 

 

 結論から言うとマコトは単に寝ていただけだった。

 なるほど、邪魔になるという意味は起こしてしまうからだったのか……と思う俺達ではなく、その邪魔の理由はどうやら違う意味だったらしい。

 

 

「? 大勢でなぁに?」

 

 

 外観と内装は大分変化した自宅だけど、マコトの部屋だけは元の自宅の部屋の広さと内装のままだった。

 これは本人が『広いのはちょっと落ち着かない』と言ったのを俺が聞いてそれを頼んだからである。

 

 だからマコトの部屋だけは別の家の部屋みたいな内装な訳だけど、そんな部屋の中に居たのは……すやすや寝てるマコトを膝枕していたセラフォルーさんだった。

 

 俺達の来訪に慌てるでも無く、ただ目を丸くし、アザゼル先生の姿を見ると少しだけ驚いていた。

 

 

「あれ? 何でアザゼルちゃんが?」

 

「…………。こいつ等の通う学校の教師と部活の顧問になったんだが」

 

「ふーん……? それで遊びに来たってことかな?」

 

「まぁそうなるが……」

 

 

 流石のアザゼル先生もちょっと思うところがあるのか、よくリアス部長をからかうような様子は鳴りを潜めてただただすやすや寝てるマコトを見ていた。

 無論部長達も同じ気持ちらしく、とてもシュールな顔だった。

 

 

「あ、あの……どうしてセラフォルー様がここに?」

 

「いーちゃんの家に遊びに来ただけだけど?」

 

「いーちゃんって……その、彼の事ですよね?」

 

「そうだよ? だっていーちゃんは私の眷属さんだし、別に不思議じゃないと思わない?」

 

「それはそうですが……」

 

 

 うむむ……女っ気が無いと思ってたマコトがよもやこんな羨ましい事をして貰えてたとは……! と俺は考えるが、逆にセラフォルーさんを知ってるリアス部長やアザゼル先生からしたらそうでは無いらしく、何と無く微妙な顔だ。

 

 

「お前余程そいつを気に入ってる様だが、一体何がどうなってそこまで……」

 

「そんなに気になるのものなの? お兄さんのイッセー君が気になるのはわかるけどさ☆」

 

「…………」

 

 

 笑ってるけど、少しだけ声が低くなったセラフォルーさんにアザゼル先生は深く聞くだけ損をすると思ったのか、それ以上追求することは無かった。

 

 

「それで他には? 何か訊きたい事があるなら答えても構わないぜ?☆」

 

 

 遠回しにマコト関連以外だったら良いと言うセラフォルーさんだが、正直そのマコトとの関係についてが知りたいので誰も質問する事ができない。

 俺もマコトとこの人とだけなら会談の時の事を聞けたが、皆が居る手前聞くに聞けない。

 

 このまま退散が無難かもしれないな――とか考えていた頃、すやすや寝ていたマコトが寝返りの様に仰向けからうつ伏せの体勢に変わり、そのままセラフォルーさんの腰に腕を回した。

 

 

「っとと、いーちゃんに捕まっちまった☆」

 

「つ、捕まっちまったって……。マコトの体勢的に色々とマズイ気がしないでも無いと俺でも思うと言いますか……」

 

「? なにが?」

 

 

 キョトンとした顔して何が? ってさ……。

 逆にその反応なのに俺はビックリなんすけど。

 周りってか、特に女子組の反応を見てみなさいよ? 完全に赤面してるじゃんか。

 

 

「見ようによってはお前の股ぐらに顔突っ込んでる様にしか見えねぇんだが……」

 

 

 そうそう、アザゼル先生の言う通り、今のマコトはうつ伏せてセラフォルーさんの腰にしがみついてる様な体勢なせいで、そんな感じに見えてしまうのだ。

 不思議な事にこれがまた全く恨めしくも何ともなく思えてしまうんだ。

 

 俺と同じくモテないからなのか……それとも何と無く割って入ったら後が怖いからと思ってるからなのか……。

 

 

「そ、ソーナが見たら怒りますよ!? こ、こんな……」

 

「何で怒られるのさ? 悪いことなんてしてないじゃん」

 

「教育上色々と宜しくないって事ですよ!」

 

 

 うーん、ますます謎だ。

 どうしてそこまでセラフォルーさんが許してるのかが……。

 

 

「ちょっと声が大きいよ? いーちゃんが――んっ♪ 起き……ちゃうよぉ……☆」

 

 

 途中、マコトが僅かに動いた途端、セラフォルーさんが喘ぐ様なエロい声を漏らしながら部長に注意しようとしてるけどよ……気まずいだけだし、多分火に油注いでるだけっす。

 

 

「なりません! 今すぐ彼を起こした方が良いです!」

 

「起こしてどうするっての? ていうか、リアスちゃんってそんな初心な子だっけ?」

 

「そういう問題じゃないです! 何と無く今後大変な事になりそうだからです!」

 

「大変ねー? その大変な事があったとしてもリアスちゃんに関係があるとは――やぁんっ♪ くすぐったいよいーちゃんったら♪」

 

 確かにリアス部長も何でそこまで止めるんだろ? 部長も前に俺がレイナーレに殺されかけて悪魔に転生した次の日の朝に素っ裸で俺のベッドで寝てたのに……。

 ……。やべ、想像したらまたそんなシチュエーションが来ないか期待したくなってきたぜ。

 

 

「んー……?」

 

「あ……もー、大声出すからいーちゃんが起きちゃったじゃない」

 

「起こして然るべきです! 私の眷属達にも悪影響ですし!」

 

「部屋に入ってきたのはリアスちゃん達じゃないの……」

 

 

 それは確かにそうだ。

 悪いのは俺達だと思いますよ部長。……まあ、本人的には色々と納得できないでしょうけど。

 

 そんな事を思いながらムクリと起きたマコトは寝ぼけ眼で自分の状況がまだ掴めて無さそうな様子だ。

 

 

「ぁ……? 俺寝てたのか?」

 

「眠そうにしてたからね☆」

 

「そう……か。余計な手間を取らせて悪かったな……」

 

 

 目を擦りながらセラフォルーさんと話をしてるマコトの口調はかなりラフだった。

 やっぱり会談の時のやり取りとは切り替えてやってるみたいだな――あ、俺達に気付いた。

 

 

「ど……どうも」

 

『…………』

 

 

 リアス部長達の複雑そうな表情を前にちょっと圧されでもしたのか、慌てて頭を下げている。

 

 

「な、何で俺の部屋に皆さんが?」

 

「さぁ? 急に来たから私にも何がなんだかわからないや?」

 

「イッセー、何でだ?」

 

「いや、このアザゼル先生がマコトと話をしたいと言ったから案内したんだけどよ……入ってみたらセラフォルーさんは居るし、そのセラフォルーさんに膝枕されてすやすや寝てるもんだから面食らって……」

 

「み、見られたくない所をバッチリ見られたのか俺は……」

 

 

 うわー……と片手で顔を覆いながら項垂れるマコト。

 

 

「なんつーかさ、セラフォルーさんみたいな人にあんな事して貰えるとなれば、普通なら俺も騒ぐ筈なんだけど、不思議な事に全くそんな気にならなかったぐらい自然だったぜ?」

 

「え、そう見えた? イッセー君ってば良い子だね!☆」

 

「ぐ……なんか複雑」

 

 

 目に見えて喜んでるセラフォルーさんの横で苦虫を噛んだ顔をしているマコト。

 アザゼル先生はそんな二人を見ながら小さく『セラフォルーがそこまでコイツを信用してる訳か……』と呟いてるのが耳に入ったが、俺もそう思った。

 

 

「兵藤の弟……確か誠だったな? お前はどうしてセラフォルーの眷属になったんだ? それに、そのやり取りからして相当親しい様だが……」

 

「なに、まだ聞くつもりだったんだ? うーん、どうして誰も彼もそんなに気にするのかなぁ……」

 

 

 セラフォルーさんは、そこまで気にする事なのかと言うが、俺やセラフォルーさんの事をある程度知る人にしてみたら疑問に思うのは当然だ。

 ましてや俺はマコトをよく知ってるし、そんなマコトが完全に気を許してる様にしか思えない行動をしてるんだから、何でそこまでと気にならない訳がない。

 

 

「彼女が……セラフォルーが――あー……可愛いからじゃ理由になりませんか?」

 

 

 そんな俺達の疑問に対してマコトはちょっと言いづらそうに答える。

 

 

「彼女程の女性に勧誘されて嫌だとは言わんでしょう? 何やら物々しい理由を皆様はご想像されている様ですけど、理由なんてそんなもんですよ」

 

「つまり、セラフォルーに惚れてるからって理由か」

 

「えーっと…………はい」

 

 

 …………。違う嘘だ。

 確かにセラフォルーさんに対してマコトはかなり好意的なのは間違いないけど、そういう理由で眷属になった訳じゃないと思う。

 もっと別の――兄貴の俺ですら知らない他の理由が……。

 

 

「根は兄貴と似てるから――と、今は納得してやるよ」

 

「どうも……」

 

 

 その証拠にセラフォルーさんが少し真面目な目をしながらマコトを見てる。

 きっとセラフォルーさんとマコトの間に何か秘密があるにちがいない。

 

「よーし流石は兄弟、よく言ったぜ! やはりハーレム王兄弟として成り上がるべきだぜ!」

 

「そこまで器用になれないけどな、イッセーと違って」

 

「そんな事は無いぜ! 寧ろ膝枕して貰えるテクを教えて欲しいぐらいだしな!」

 

 

 でも今はそれを聞かず、俺らしく納得しといておく。

 何時か知る為に……。

 

 

「イッセーの場合、頼んだらやって貰えるんじゃないのか……?

ほら、そこの先輩さんとか後輩さんとか、アルジェントさんとかも……」

 

「そうだったら良いが、生憎まだまだ無理っぽいんだよ……」

 

 

 そして今自覚した。

 何で俺がマコトに悔しい思いをしないのか……。

 

 それは――

 

 

「セラフォルーさん、マコトをよろしくお願いします」

 

「ふふん、任せなさい! 近々甥っ子か姪っ子を紹介してあげるからさっ☆」

 

「…………」

 

 

 兄貴として俺は多分、この人に嫉妬してるからなんだと思う。

 生まれた時から一緒だったマコトは俺にだけは普通に話をしてくれると思ってたのが、この人は俺と同じ――いや、俺以上に信頼されてる事に。

 

 

「イッセー先輩の目が笑ってない……」

 

 

 美女に嫉妬するのはこれが初めてだよ……。

 

 

 

 

 

 

「………………………………。俺がお前の眷属になった途端、急に絡まれ始めたが、お前、この世界でどんな生き方をしてたんだよ?」

 

 

 セラフォルーに惚れたから眷属になったと、咄嗟に誤魔化して取り敢えずこの場を回避したマコトは、イッセー達が部屋から出ていったのを確認すると、自室に鍵を掛けながらセラフォルーに問う。

 

 

「別に普通に生きてたつもり。

ただ、駒の転生システムが出回った時に『眷属は作らない』って釘を刺してただけかな?」

 

「それはチラッと聞いたが、どうやらそれのせいで逆に目立ったらしいな。

別にそれならそれで構わないが、マジの理由を話すわけにはいかないから面倒だな……」

 

「いっそ暴露しても困らないと思うけどね?」

 

「『俺達は前世で親しかった仲だからです』だなんて、普通ならデンパ丸出しな理由を話して信じて貰えるとは思えないんだが」

 

 

 妙に機嫌がさっきから良いセラフォルーにお茶を入れてあげながらマコトはため息を吐く。

 魔王の眷属の時点で注目される覚悟はしてたが、こうも頻繁に理由を探られるとなると、鬱陶しい感情が沸いてくる。

 

 しかも咄嗟にとはいえ、あんな恥ずかしい理由をでっち上げ、それを言い触らされたらと思うと、今になって後悔の念も出てくる。

 

 というか、さっきから妙にセラフォルーの機嫌が良いのはさっきの台詞が理由だった。

 

 

「アイツはもう自分のコミュニティをちゃんと形成してる。

アイツ自身で作り上げたものを引っ掻き回して壊す真似だけは俺はしたくない……」

 

 

 だからこの世界のリアス達の関わりを避けてきた。それはこれからも変わらない。

 セラフォルーの眷属になったのも、そんなイッセーのコミュニティから立場上距離を取れると睨んでいたからというのもあった。

 

 

「でもさ、向こうから私といーちゃんの事に首を突っ込んで来た結果壊れちゃったとしても、それはいーちゃんの責任じゃないと思うよ? あぁ、勿論あの子達の邪魔をしない様に心掛けるのは良いことだと思うし、私も協力を惜しまないつもり」

 

「良くも悪くもお前の名前が大きすぎるからな……。いや、お前を責めてる訳じゃないからな?」

 

 

 だが魔王セラフォルーのネームバリューはこの世界でもやはり大きなものだった。

 距離をとるつもりが余計縮まってしまっている……それがマコトにとって不安の種だった。

 

 

「昔のいーちゃんならもっと本能の赴くままに行動するワイルドさがあったのになぁ……」

 

「それが許されたのはお前達が居たからだ。

……。当時それすらも気付かず周りに当たり散らしてた間抜け野郎だった訳だが」

 

「私も皆もそれを分かってた上でいーちゃんが好きだったからね」

 

「…………。本当に俺は馬鹿だよ」

 

 

 昔の様にはいかない。

 ただ進化を求めて力を振るう生き方をすればこの世界は瞬く間に理を崩壊させてしまう。

 

 右手にかつて進化の果てに手にした力である『滅びの魔力』と『水の魔力』と『氷の魔力』を順番に生成しながらマコトは失って始めて気付いた己を罵る。

 

 

「この力も封印だ。

もしこの世界のグレモリー家に滅びの魔力(この力)を見せたらマズイじゃ済まされないからな。勿論ソーナとの繋がりで得た魔力もだけど」

 

「その二つは無理だとしても、私から会得した魔力なら扱っても問題ない筈。仮に何か言ってきても私が黙らせるから」

 

「セラ、お前少し過激になったな?」

 

「もう誰とも会えないと思ってたし、一番会いたかったいーちゃんと会えてまた傍に居てくれる様になったからかな? 前よりももっと執着心を持つようになったから☆」

 

「そこはソーナと言えよ……」

 

「勿論ソーたんも大好きだよ? でもいーちゃんは……」

 

 

 右手に作り上げた滅びの魔力と水の魔力を消し、唯一傍にいるセラフォルーを象徴する氷の魔力から小さな氷結晶を部屋内に展開させながらマコトは苦笑いを浮かべる。

 

 

「もっとも、俺も今は同じ心境だから何とも言えないがな。どうにも、セラが俺の知ってるセラだと分かってまた一緒になってから変に拘る様になっちまった。

ガキの頃は良い年こいてまだ痛いコスプレしてる奴だと思ってた筈だったんだけどなぁ……」

 

「よく罵られたもん、しかも着てた衣装も吹き飛ばされてさ?」

 

「あーやってたなぁ。しかも俺は半泣きになるセラ見てゲラゲラ笑ってさ……。

今にして思うと相当俺もアレだったな……」

 

 

 

 小さな氷の結晶が部屋の中に広がり、キラキラと白く輝くのを見ながら過去を思い返す二人。

 かつてなら『鬱陶しい』の一言で突き飛ばしてたマコトも、過去を語らいながら身を寄せてきたセラフォルーを受け止めている。

 

 

「皆はもう居ないけど、いーちゃんは一人じゃないよ。

大丈夫……ずっと私が傍に居るから」

 

「涙が出るほど心強いぜ……ククッ!」

 

 

 当たり前を失って始めて、その当たり前の大切さに気付く。

 それが皮肉にもマコト――日之影一誠が赤龍帝の代わりに爆発させた進化の異常性を更に進化させていく。

 

 

「あれ、いーちゃんの目の色が……」

 

「? 俺の目がなんだよ?」

 

「うん、綺麗な銀色に変わってる」

 

「銀色? ……いや待て、そういうセラの目も銀っぽいぞ?」

 

「へ?」

 

 

 無論、根性と対抗心と愛情で同じ領域まで這い上がったセラフォルーもまた同様に。

 

 

「!? この感覚!」

 

「いーちゃんも? 今私も久しぶりに感じたけど、これって……」

 

「あぁ、壁を越えた感覚だ! でも何で……?」

 

 

 新たな領域へと二人で進む。




補足

兄弟というよりは平行世界の己自身によるものなのか、唯一マコトが異様な速度で敵の数を然り気無く減らしていた事に気付いたイッセーくん。

そしてそんなマコトが有り得ないくらい信頼を寄せてるセラフォルーさんに嫉妬を自覚してしまう……。

だからマコトを羨ましく思わなかったのです。


その2
膝枕してたらほぼ抱き枕にされちゃったセラフォルーさんはそれはもうご満悦でしたが、妙に口を挟んでくる周囲に若干ムッとなったとか。

まあその後、突然進化の壁を乗り越えた感覚を揃って感じたし、その直後今度はマコトに膝枕して貰ったらしいのでそんな些細な事は忘れた様です。


 進化した結果……どこぞの極意の兆を――

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