タイトル通りかな。
……一応、本編でももしかしたらあり得たかもしれない話
その2小猫さんの場合
にゃんこは好きだが、だからといって人の形ににゃんこの耳付けられても困るというか、ぶっちゃけどうとも思わない。
けど世の中にゃあ、そんな人種というか種族も居るんだなと知ったのはもう随分と前の話だ。
「やあ、どうしたの?」
時間的には授業中と言っても良い時間帯だというのに、我がクラスは俺しか居ない。
2年に進級してから数ヵ月程で不登校やら自主退学やら精神病棟に入院する生徒が続発した為に学級崩壊してしまったというのが主な理由であり、今じゃ黒板にデカデカと『永久自習』と書かれて放置されちってて、俺一人がこのクラスの人間だったりする中、扉を開けてすました顔して入ってきたのは、俺にとっては後輩に当たる人物であり、一人の女子生徒さんだった。
「暇だから遊びに来ました」
綺麗な白髪と黄金の瞳。
居るだけで構わないから何もするなと教師からも生徒からも見捨てられた俺とは違って、学園内でも屈指の人気者である搭城小猫ちゃんは、あっけらかんとした顔でそう宣いながら、真ん中の席に只座ってるだけの俺の前の席の椅子をこちらに向けて座る。
「暇だからって……授業中だろキミは?」
「単位は足りてますので何の問題もありません」
「おぉっと、学園のマスコットちゃんが堂々とサボり宣言だー 先生に言ってやろ~」
「良いですよ。どうせ先輩が告げ口しようにも逃げられるでしょうし」
ヘラヘラと笑う俺と、クールな小猫ちゃん。
正直対極に位置しても良いと言える俺とこの子だが、何故か仲は悪くないと思ってる。
双子の兄者にも両親にも見限られ、当然他人からは理由もなく嫌われてるというのに、この子は何故か俺を前にしても気持ち悪がったりしないでこうやって会話してくれる。
何故かはこの子が普段周りに隠しているとある『事情』って奴から何となく察する事が出来たりするけど、それでもやっぱり分からない訳で、まあ俺の中では悪くないと思ってるので深くは考えなかった。
「誠八先輩から今日も一誠先輩と関わるなと言われました……」
「ああ、また? 『お兄ちゃん。』も何をそんなに目くじら立ててるのか知らないけど、キミもそんな事を言われといて此処に来るのも中々大概だぜ」
俺と兄者の仲は……正直そんな良くない。
何でも兄者は俺の存在自体が不愉快らしく、顔を合わせる度にメチャメチャ嫌な顔をしてくる。
で、俺はと言えば別にそこまで嫌いって訳でも無かったりするんだけど、まあ向こうが嫌がってるのをわざわざ自分から関わる理由も無いので、家でも学校でも会話ゼロの生活が続いている。
で、今の話は兄者……そして小猫ちゃんが所属してる部活か何かの時に兄者から言われた話らしい。
「部長は別に構わないとおっしゃってましたし、私自身、先輩は悪い人じゃないと思ってますのでこれからも続けるつもりです」
「ふーん?」
で、この小猫ちゃんって子は大概に変な子であり、何か知らないけど知り合ってから今の今までこうして会っては他愛の無い会話をしている。
それが周りから止めろと言われてようが今言った通り止めるつもりが無いらしく、キッパリハッキリと俺と会う事を止めないらしい。
変な子だねホント。
「ま、俺としては学園のマスコットちゃん独り占めしてお話出来るってだけで役得だからね。
実は大歓迎だったりするんだぜ?」
「別に学園のマスコットになったつもりは無いんですが……先輩に歓迎されるのは別ですけど」
「え~? でも毎朝キミと……あのほら、紅い髪の人達と揃って門潜るだけで騒がれてるじゃん? 『小猫ちゃーん!』とか」
「……………。やめてください」
毎朝騒ぐ男子の連中の真似した途端、ムッとした顔をする小猫ちゃん。
どうやらあの毎朝恒例の儀式みたいな奴は実は好きじゃないらしい。
「好きで騒がれてるだけじゃないんですよ此方は……」
「おいおいおいおい、滅多な事は言うもんじゃあないぜ小猫ちゃん? キミを目当てにこの学校に登校する奴だって居るんだから……ほれ、コーラ飴いるかい?」
「そんなの迷惑です……頂きます」
偶々持ってたコーラ飴を渡すと、若干嬉しそうに受け取って口に入れる小猫ちゃんだが、毎朝の儀式については心底嫌ですと言った顔だった。
この飴舐めてる姿の写真撮って売ったら一儲け出来ねぇかなとか密かに考えたのは秘密だ。
「先輩は私や部長達を見ても騒いだりしませんよね……」
「え? あぁ、まあね……。俺があの中に混じったら確実に騒ぎになるからな、主に乱闘騒ぎ的な。
それにだ小猫ちゃん。俺も一応男だし、そりゃあ綺麗な人やら可愛い子が居たら目移りはするんだぜ?」
組んでいた足を組み替えながら言うと、小猫ちゃんの目元が一瞬だけピクリと動く。
「……。例えば?」
「例えば……そうだなぁ。一番は俺を気色悪がらないってのが条件かな……後は……うーん……」
毎晩裸エプロンでご奉仕してくれる女の子、かなぁ。
とまあ、何でか知らないけど後輩の子に性癖を暴露してしまった瞬間、小猫ちゃんの顔というか目は……道端に落ちてるタバコの吸い殻を見る様な目だった。
「変態ですね、最低です」
「酷いなぁ、言えと言ったのはキミじゃないか。
ま、良いけどね……この夢は将来まだ見ぬお嫁さんにやって貰う予定だし変えるつもりもない!」
「そんな人居ませんよ、どうせ先輩を好きになる人なんて居ません。絶対に」
「む……そんな事無いさ。世界は広いんだ。キミみたいに俺を気味悪がらない人だってーー」
「居ませんね、私以外は誰も居ません。なのでその変態な妄想が実現する事なんて絶対無いです。残念でした」
酷いな……というか何をムキになってるんだこの子は。
「ムキになんてなってませんよ。本当の事を言っただけです」
「それをムキになってるって…まあ良いや。
ハァ……素敵な恋人が欲しいなぁ……。若干スケベな子とか……ふへへ」
なんて言ってみてるけど、恐らく俺には一生縁の無い話だってのは小猫ちゃんに言われるまでも無く居ないだろうさ。
だったらせめて叶いそうもない妄想くらい良いじゃないか。現実逃避くらいしても良いじゃん!
「
「…………」
「なにさ? 笑いたきゃ笑えば良いさ……。『お兄ちゃん。』と違って俺はどうせ孤独死の似合う男さ」
裸エプロンとかも正直どうでも良いんだよな。
何で似た顔なのに、モテモテな兄者と違って俺はこんな感じなのか……やっぱり
「む、ほらチャイム鳴って昼休みなったぞ。早く戻ってご飯食べなさい……。
俺は一人でシクシク此所で泣いてるから」
なんやかんやで昼休みを告げるチャイムが鳴り、じーっとコッチを見てる小猫ちゃんに戻りなさいと促すが、小猫ちゃんは動かない。
「んーどうしたの? 割りと好きなお昼ご飯の時間だぞ、戻らんのか?」
「いえ、孤独な先輩が哀れなので一緒に食べてあげようと思ってます」
若干鼻で笑う感じで言いながら、サッと弁当を机に広げ始める小猫ちゃん。
「哀れて……今更そんなこと言われてもね……」
「何ですかその顔? 嫌なんですか?」
グデーっと座ってる俺の態度が気に入らなかったのか、更に不機嫌になる小猫ちゃんに俺は思った事をそのまま伝える為に口を開く。
「別に嫌とかじゃ無いし、寧ろ嬉しかったりするよ。
でもね、欲を言わせて貰うならキミの部活の部長さんか、あの黒髪の副部長さんとかと食べたいなぁとか……。
何かあの人達って頼めば『あーん(はぁと)』とかしてくれ――――――無くても良いか! うん、小猫ちゃんとお昼だけでも贅沢の極みだってのに俺は何を言ってるんだろうね!!」
「………」
最後まで言おうとする前に、箸の先端が俺の左目の眼球ギリギリまで迫ってきたので、止めて小猫ちゃんをよいしょする方向にチェンジした。
最近になってからなんだけど、どうもこの子、俺の妄想話が嫌いらしく大概こうなるんだよね。
「……あーんして欲しいんですか?」
「いーや要らなーい」
「今して欲しいって言ったじゃないですか」
「え、まあして欲しいけど……キミからは良いや。
こうして話に付き合ってくれてるだけでありがたいしね、これ以上俺の話に付き合って貰う事は無いさ」
「…………」
その癖、こうしてカッコつけると不機嫌になっちゃうんだよなぁ。
この子はよー分からんね。
「馬に蹴られて死んでください」
「残念だが、俺は死んだって現実から逃げるから死なないよーん」
でも俺はそんな小猫ちゃんは嫌いじゃない……あ、白音ちゃんだっけ本当の名前。
訳あり……ぶっちゃけるとこの子のお姉ちゃんとの色々な出来事で名乗らないらしいけど。
「そういえばさ、キミとあのおねーちゃんが猫妖怪だってのは分かったケドさ、あのおねーちゃんが喋る際に語尾に付く『にゃん』って何なの? 誰かに媚びてるの? 俺はぶっちゃけ好きじゃないぞアレ」
「さあ、知りませんね。というか、あの人の話は止めてくれませんか?」
「あぁ、ごめんごめん」
どんな種族でも兄弟間で問題があるのは共通なんだよね、だから俺はこの子に惹かれるものがあるんだろうけどさ。
補足
この一誠くんは原作に割かし近いタイプながら、やっぱり何処か退化してます。