色々なIF集   作:超人類DX

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イッセーに女性の影があればプンプンしたりしくしくだったりするめぐみんだが、実はそんなめぐみんが一番……


『時折気持ち悪い仲の良さだよな……』byカズマ

 自らの相棒であったドライグと引き裂かれた際、イッセーは数多くの技術を失った。

 それは自身が会得した技術の大半が相棒である龍と共に磨きあげたものだからだ。

 

 無論、技術を失ったからと悲観はしていない。

 そんなモノよりも相棒と永久に離れ離れになってしまった事の方がイッセーにとって何よりも辛いのだから。

 

 だからそれが例えレプリカの紛い物であったとしても、かつて一番身近に共に戦い抜いた相棒が蘇ったのはとても嬉しく、また戦うだけしか能が無いと思っているイッセーは基礎的な赤龍帝としての技術を復活させた事は、今組んでいる者達へのフォローが可能になるという事。

 

 

「俺自身の魔力を贈る事が出来れば、一発でダウンするって事もある程度無くなる筈」

 

 

 そのしつこさに根負けした風変わりな女の子の弱点をより深く補える。

 それがイッセーが考える今の使い方だった。

 その結果がどうなるかは――お察しなのかもしれないけど。

 

 

 

 

 一晩何処かへ行ってしまった挙げ句、女性の匂いを付けてイッセーが帰ってきて以降、一応その時は落ち着いためぐみんは、地味にひょんな事から加わる事になったパーティの面子に危機的な気持ちになっていた。

 

 

「そういえば昨日は気分が悪そうだったから挨拶が出来なかったな、私はダクネスだ」

 

「あ、どうもご丁寧に、兵藤一誠ッス」

 

 カズマを除けば現在加入するパーティの性別が全部女性であり、性格云々を除けば皆容姿に恵まれている。

 先日急に顔色を悪くさせて一言も喋ることがなかったもう一人の加入者であるクルセイダーのダクネスと握手を交わしているイッセーを横から見ているめぐみんは、見事にカズマ以外が女性になってるこの状況に危機感を持っていた。

 

 

「俺と同じ前線タイプって佐藤君からは聞いたけど」

 

「その通り! 私は防御に少々自信があってな! 頭を踏みつけられようが、ぬるぬるしてる触手に絡み付かれようが問題ない!」

 

「ふーん……?」

 

 

 触手~の辺りから恍惚に満ちてる顔のダクネスに微妙な顔をして一応相槌を打ってるイッセーの反応を見る限りでは、性格が残念過ぎるを除いたら金髪美女といえるダクネスに対してどうとも思っちゃいない様だが、それでもやはりめぐみん的には精神衛生上よろしくはなかった。

 

 

「イッセーさん、ほらお水を……」

 

「お、サンキューめぐみん」

 

 

 最初は同志的な意味で仲間になって欲しいと思ってたのが、半年の間の小さな冒険を経て、最近ではイッセーが異性と話をしているのを見てるとモヤモヤしてしょうがない。

 今だって微妙な顔でダクネスと握手を続けていたイッセーの意識を向けようとしているし、昨晩に至っては一晩部屋に戻らなかっただけで寂しさと不安で泣き出している。

 

 

「ま、まぁこれでアクアから盾にされる事も無くなるし……」

 

「は? いくら防御系のスキルに強いからってイッセーに比べたら藁の家――」

 

「爆殺されたくなかったら大人しくダクネスに守られてろ!」

 

「おお、早速こき使われる流れなのか!? いくら泣きわめこうが容赦なく盾にされるんだよな私は!?」

 

「生真面目っぽい変な子だな」

 

「でも悪い人では無いから……」

 

 

 まあ、ダクネスに関してはイッセーも特に彼女に対して異性としての意識が皆無なのでまだ良いとしよう。

 問題は当初から謎の顔見知り関係であるアクアと……。

 

 

「あ、何か飲むかクリスさん? 頼んでやるよ」

 

「へ? いや、今はいいかな」

 

 

 何故だか妙に色々とイッセーが直々に気を使っているクリスというシーフだ。

 

 

「腹減ってるか? 果物切ったからやるよ」

 

「あ、うん……じゃあ頂くよ」

 

「何かあったら遠慮なく言えよ?」

 

「………………………………」

 

 

 イッセーはダクネス共々昨日が初対面だと言っていた。

 にも関わらず、異様にクリスに対してあれこれと気を使っているのをめぐみんは物凄くズキズキと痛む胸に触れながらジーっと見ている。

 

 

「そうだ、金ならあるから何か欲しいものでもあったら――」

 

「イッセーさん」

 

「――んぉ? どしためぐみん?」

 

「いえ……妙にクリスさんに気を使ってません?」

 

「そうか? ……そうなの?」

 

「あ、うん……確かにそう思うかも」

 

 

 もしかしたら……という疑念を抱き、犬宜しくにクリスの匂いを嗅いでみたけど、昨日イッセーから滲み出ていた女の匂いとは違っていた。

 では一体何故、本人は全然自覚していないらしいが、めぐみんやクリス本人ですら思うくらい気を使っているのか……。

 ダクネスとアクアとカズマが何やらどんちゃん騒ぎしているというのに、此方サイドは頭に何個も?を浮かべているイッセーを抜きにしても妙な緊張感が放たれていた。

 

 

「あのさ、別に良いからね?」

 

「? おう」

 

 

 困った事に、無意識にクリス――というかエリスに対してお礼のつもりで気を使っている事に対して殆ど自覚していないから、さっきからめぐみんの視線が痛いクリスは言う。

 流石にクリスも昨日今日知り合ったばかりだとはいえ、めぐみんの態度を見れば大体が察する事は出来るからこそ逆にめぐみんに気を使うという、嫌すぎる三角路線が完成してしまうのは仕方ないのかもしれない。

 

 

「取り敢えずお仲間増えたし何かやらないのか?」

 

 

 下手したら爆裂魔法のうっかり照準ミスがひとつ増えてしまうことになりかねないというのに……。

 

 

 

 

 そんなめぐみんの心境をある意味解ってしまった不幸なカズマは、クリスはともかくとしても、ある意味で理想的過ぎる盾役が仲間になってくれたのにホッとしていた。

 

 

「なるほど、アークプリーストはパーティの要だから守れという事だな?」

 

「そう、出来れば兵藤をこのアクアが盾にする前に……」

 

 

 本当ならば、盾にしかならないクルセイダー――しかもかなり特殊な性癖を持っている疑いのある者なんて更に余計な気苦労を背負う事になるのでお断りしたい所だ。

 しかしながら、盾役が居なければ何時までもアクアはイッセーを盾にしようとひっつくし、その度に怒ってるとかでは無く、完璧な無表情でめぐみんが凝視し、時折ブツブツと小さく……

 

 

『照準をミスしたと言い張れば或いは……』

 

 

 と、どう考えても秘密裏にアクアを物理的に消そうとしている事を言っているのだから、カズマとて必死にもなる。

 確かにカズマ的にもアクアは怠惰で傲慢で強欲でおおよそ女神だなんて信じられない性格をしているけど、誰も好き好んで目の前で人体がバラバラにされる様を見たい訳じゃないし、下手をしたらその余波が自分に飛んで来る可能性だってあるのだ。

 

 

「しかし盾役だけを頼んでくるとは、キミは中々酷い男だなぁ? ぐふふふ、おっと涎が……」

 

「………」

 

 

 それを考えれば、取り敢えず盾役になって何でもかんでも当たってくれと、普通なら激怒する筈の役目を押し付けても、寧ろ盾にされる事やらそんな鬼畜めいた命令をされていると勘違いしてカズマに妙な期待の眼差しを贈りながら涎を拭いてるダクネス程度の問題児なぞ正直軽いものだった。

 

 

「いやぁ、参ったなぁ……? これから私はボコボコになってまで盾にならんといけないとは……くへへへへ!」

 

「とにかく頼むぜ本当に? 皆の安全の為にもさ」

 

 

 アクアが物凄く不満顔をしながら睨んできてるが、そんなものは無視だと気付かないフリを決め込んでダクネスに念を押すカズマ。

 確かにイッセーの力はチートじみてるし、アクアが盾にするのも納得できる程に頑丈ではあるが、その更に背後から爆裂魔法をぶちこまれてしまったら盾もへったくれも無いのだ。

 

 

「チッ、アイツが盾の方が絶対に安全なのに……」

 

「寄生してる上に盾とかお前って本当にゲスだな」

 

「アンタに言われたかないわ!」

 

 

 何よりも己の安全の為に、カズマはただただ一人頑張るのだ。

 

 

 そんな要らぬ気苦労をカズマが負っている元凶とも云うべきイッセーはといえば、例え紛い物だろうと戻った力を懐かしんでいた。

 

 

(流石にドライグそのものって訳にはいかないけど、それでも形が存在するってだけでも嬉しい)

 

 

 原点にてルーツ。

 自身が強くなれた最大の理由のひとつである赤龍帝が全体のたった数%ながらも戻ってきたのは大いなる誤算だったけど、大いなる歓喜でもある。

 

 

(とはいえ、俺はドライグそのものでは無いし、鍛え直すつもりも無い。

あくまでこの力は危なっかしいめぐみんのサポートに使わせて貰う)

 

 

 本当はドライグ自身と逢いたい気持ちはある。

 しかし失ってしまったものは最早取り返すことは出来ないし、神々からの贈り物で紛い物とはいえ、本当なら二度と使えることの無い筈の力が戻った。

 

 だからこの力を危なっかしいめぐみんに使う。

 そう自然に考えられる様になっていたイッセーはふと気が付く。

 

 

(……って、何で俺はあの子にそこまで考えてるんだ?)

 

 

 ふと自分がめぐみんの事を考えている事を疑問に思うイッセー

 少し前までならここまでフォローしようと考える事なんて無かったのに、どうしてなのか考えている。

 

 

「まぁ、ほっとくと危なっかしいからだな」

 

 

 その理由を本人は色々と危なっかしいからだと結論付け、それ以上は深く考える事をやめた。

 

 

『緊急! 緊急!! 冒険者各位は至急正門へ集まってください!』

 

 

 だが、それもまた無意識にしている事だと、けたましく鳴り響くアナウンスから知ることになる。

 

 

 

 

 

 とにかくアクアの盾役が仲間になってホッとしていたのも束の間、ギルドから緊急のクエストとして召集される事になったカズマは、内心では早速アクアの盾としてのダクネスの強度を確かめようという、ナチュラルなゲス思考を展開させながら街の正門へと他の冒険者達共々集まっていた。

 

 

「緊急だからって召集されたけど、一体何があったんだ?」

 

「心配しなくとも私が守る。カズマは私から離れないように」

 

 

 まだ冒険者になって日が浅いカズマにとって初めとなる緊急クエストに若干の不安を感じていると、ダクネスが嘘みたいな真剣そうな顔で周囲の者達に呼び掛けている。

 若干口から涎がまた出てる気がしたけど、見なかったことにした方が良いとカズマは思った。

 

 

「まさか危険かつ巨大なモンスターが街を襲いに来る……とかか?」

 

 

 これだけ大勢の冒険者を集めている事から考えるに、大勢のモンスターの襲来等を考える。

 普通ならそう考えてしまう時点で不安になってしまうのだが、カズマは多少緊張感のある顔をしてても不安に駆られてはいなかった。

 というのも今自分の近くには、神視点でも化け物と称される同じ転生者たるイッセーが、張り切ってるめぐみんと呑気に喋りながら存在しているからだ。

 

 しかしそんなカズマの多少の緊張感は、山の方から此方へと向かってくる緑色の塊の正体を知った瞬間、色々と台無しな気持ちにされてしまうのだった。

 

 

「キャベキャベキャベキャベ……!」

 

「何じゃこれは!?」

 

 

 一部が羽虫のように飛び回りやがらこちらへ向かってきていた緑色の大型モンスター――では無く、カズマが目にしたのは自律行動をしている………キャベツだった。

 

 

『ヒャッハー!! 収穫の時間じゃぁぁぁっ!!』

 

 

 自律行動をするキャベツを前に、周りの冒険者の老若男女が、まるで核戦争で世紀末と化した荒野を逞しく生きるモヒカン共の様に、捕まえては手持ちの篭にぶちこむという作業に没頭していた。

 

 

「皆さーん! 今年もキャベツ収穫の時期がやってまいりました! 

今年のキャベツは出来が大変よろしく、一玉の収穫につき一万エリスとなります!

ですので、できるだけ多くのキャベツを捕まえ、この檻におさめてください!」

 

『ヒャッハァァァッ!!』

 

「いやちょっと待て! なんでキャベツが飛ぶんだよ!?」

 

 

 よくよく考えたらファンタジーな世界だから、キャベツだのレタスだのカカロットだのブロリーが飛んでも不思議では無い。

 しかし何か間違っている気がする……こう、もう少しシリアスさがあっても良いのではないのか――と、アクアからこの世界のキャベツが生物として普通に飛ぶという話を聞きながらカズマは思った。

 

 

「キャベ!」

 

「ぬおっ!? こ、このキャベツ、結構狂暴だと!?」

 

 

 しかしイザそのキャベツを捕まえようとすると、思いの外素早く、また狂暴なキャベツが文字通りその身ひとつでぶつかってくる。

 キャベツだからと最初は舐めていて、寧ろ帰ろうかとも考えていたカズマも気づけばキャベツを追い回しながら四苦八苦していた。

 

 

(そ、そうだ! このキャベツならダクネスの盾強度も確認できるんじゃね!?)

 

 

 思い出した様にダクネスの盾としての性能を確認しようとカズマはちょうどすぐ後ろ近くに居た彼女の様子を見ようと振り向く。

 

 

「くっ! よ、鎧が砕けて……くっ! ……………くへへへへへ!」

 

 

 そこにはキャベツの突進でわざとそんな強度のを選んでるのでは無いかと疑いたくなる鎧が破壊されて悦び始めているダクネスの姿だった。

 悔しいかな、容姿とスタイルは良いので、鎧が砕けて晒されていく姿に一瞬見とれてしまうが、問題は彼女が本当に文字通りの盾としてしか役に立たない点だった。

 

 というのも、一応応戦しようと持っていた剣を振り回しているのだが、ものの見事にその刃が舞うキャベツを捉えていないのだ。

 びっくりする事に、掠りもしちゃいない。

 

 

(い、いや……火力面は兵藤とめぐみんの二人で十分だから――うん、しょうがねぇ、これはしょうがねぇんだ)

 

 

 そのあまりの当たらなさに、一瞬だけ仲間にしたのを後悔しかけたカズマだが、欲しかったのは盾役だったのだと自分に言い聞かせて見なかった事にした。

 とにかく今もそうだが、キャベツに反撃されて顔面を殴打しているアクアがイッセーを盾にしてめぐみんを爆発させなければそれで良いのだから。

 

 

「はーっ! はーっ!! くっ、こんなキャベツに弄ばれるぐらいなら死を―――あぁん♪」

 

「……………」

 

 

 例え悶えてようが、悦んでいようが、絶対に仲間にするには地雷過ぎるにしてもカズマは飲み込み続けた。

 自分の安全安心の生活の為に。

 

 だが、事件はまさにこの時発生した。

 

 

「折角なので私の爆裂魔法を御披露目――へぶっ!?」

 

 

 正直いって周囲を消し飛ばしてしまう爆裂魔法しか使えないめぐみんは今回の緊急クエストに合ってない。

 だが多くの的という名の軍勢を前についついフルパワーで発動させたくなる衝動に駆られてしまっためぐみんが、持っていた魔法の杖的なものを振り回しながら魔力を溜め始めたその瞬間、キャベツの一つが物凄い勢いでめぐみんに突貫すると、爆裂魔法を発動させる前にその顔面に激突したのだ。

 

 

「い、いったぁ……!」

 

 

 かなりの勢いに身体が仰け反り、そのままひっくり返ってしまうめぐみんが、鼻を抑えて悶絶していると、待ってましたとばかりに他のキャベツ達が一斉にひっくり返って尻餅中だっためぐみんに襲い掛かかった。

 

 

「ちょ、おいダクネス! めぐみんがピンチ――」

 

「あはぁ……♪」

 

「あ、あまりにボコられて使い物にならなくなっちまっただとっ!?」

 

 

 それを目撃したカズマが、自衛手段でめぐみんが爆裂魔法を使う事を恐れて盾役のダクネスを呼ぶが、文字通りキャベツ達に滅茶苦茶にされていた彼女は地面にひっくり返りながら一人恍惚状態になってしまっており、使い物にならないのは一目瞭然。

 

 まずい、このままだと自分達もろともここいら一帯が吹っ飛ばされると思ったまさにその瞬間だった。

 

 

「あ、私の一張羅が……!」

 

 

 咄嗟に回避行動に移ってダメージは回避したけど、ダクネスみたいにキャベツのせいで着ていた服の一部が破けてしまって肌が露出してしまう。

 本人は恥ずかしさよりも一張羅を破かれた事にショックを受けている様だけど、破け方がまるで漫画のサービスシーンみたいでこのままだと色々と危ない――――――と、ほぼ脊髄反射的に他の男冒険者共々めぐみんの姿に視線を向けてしまったカズマ。

 

 だがその瞬間、カズマの横を暴風の様な突風が通り抜け、そのままめぐみんを襲っていたキャベツが吹き飛ばされた。

 

 何故か? 答えは簡単だ……ちょっとめぐみんから離れた箇所でキャベツを取っ捕まえて食っていたイッセーがめぐみんの様子に気が付き、近くに居た冒険者を故意ではなく吹っ飛ばしながら駆けつけたのだ。

 

 

「イッセーさん……!

 

「め、めぐみん……! か、顔をぶつけたのか?」

 

 

 殆どがイッセーとめぐみんのやり取りなんぞどうでも良くキャベツ狩りをしてる中、明らかに様子がおかしいイッセーが尻餅をついていためぐみんの目線になるべく合わせようと膝を付き、鼻が真っ赤になってて少し口の端が切れて血が出ていたその顔に触れている。

 

 

「中々骨のあるキャベツにやられちゃって……」

 

「ふ、服が……! これを着るんだ!!」

 

「へ? あぁ、ちょっと破けちゃったみたいですけど……」

 

 

 ベタベタとめぐみんの顔に触れたり、服が破けてていれば、めぐみんプロデュースで着せられていたマントを掛けたりするイッセー。

 

 

「イッセーさんのが大きくて引きずっちゃいますけど」

 

「大丈夫だ……あぁ、もう大丈夫だからな」

 

 

 それを見ていたカズマも、イッセーが居るなら爆裂魔法で吹っ飛ばされる心配も無いだろうと―――思っていたのだが、次の瞬間だった。

 

 

「あ……」

 

『うわっ!? な、何事――』

 

 

 ゆっくり、不気味な程ゆっくりイッセーが立ち上がった時、全身から白いオーラを炎の様に放出させた。

 そのオーラは形通りに暴風の様に地面を抉り、周囲を吹き飛ばし、キャベツ狩りに興じていた他の冒険者達をも巻き込んだ。

 

 

「お、おい……」

 

 

 あ、あれやばくね? その暴風の様なオーラを前にカズマは何とかふんばりながら思っていると、いつの間にか横に居たアクアが『あちゃー』といった顔をしながら口を開いた。

 

 

「まっずいわね、何を思ったのか、本気になってるじゃない」

 

「だ、だよな? ほ、他の冒険者とキャベツが吹っ飛んでるし」

 

 

 アクア曰く今のイッセーはヤバイ……てのは見てもわかるが、どんな表情をしているのは目の前で尻餅状態でポカンとした顔をして見上げてるめぐみんにしかわからない。

 わからないが、誰がどう見ても怒気を発しているのは白色だったオーラが金色へと変化し、更に勢いが増し、更には金色のオーラに青白いスパークの様なものが混じりはじめてより激しくなっているのを見れば解る。

 

 

「信じられないわ、あのめぐみんって子は」

 

「や、やっぱりめぐみんが怪我したのを知って頭に来たって理由だよな?」

 

「多分ね。けど、だかこそ信じられない。それほどあの子を受け入れているっていうのがね――っと、早く大きなものに掴まりなさい、吹き飛びたくなければね」

 

「! お、おう!」

 

 

 アクアは信じられないと言いながら近場にあった大木に掴まり、カズマもそれに乗じて金色のオーラに混ざるスパークが更に激しくバチバチと音を鳴らしているのを耳に入れると……ようやく振り向いたイッセーが――色々と形容しがたい鬼の様な形相で、逃げ惑うキャベツ軍勢目掛け、左腕を正拳突きの様に突き出すと――

 

 

「龍拳・爆発!!!!!」

 

 

 拳から、いや、イッセーの身体から現れた金色の龍が逃げ惑うキャベツ達を全部残らず食い尽くしてしまった。

 幸いな事に幸せそうに意識を吹っ飛ばしてるダクネスや、いつの間にか姿の見えないクリス等にはみられては無いが、アクアやカズマ、それから一部の他の冒険者達にはばっちり見られており、キャベツを残らず破壊した龍が天へと昇り、やがて金色の粒子の様なもの共に消えていくのをただただ唖然としながら見ていたのだった。

 

 

「龍拳……!? ほ、ほわぁっ!! イッセーさん! い、今のは何ですか!? ど、ドラゴンが出て来てどわーって!!」

 

 

 ただ一人、力の一部を取り戻す事で復活させた奥義のひとつを生で見て大興奮のめぐみんを除いて。

 だがそれまでめっちゃシリアスな顔をしながら消えていく金色の龍を見上げていたイッセーは、寄ってきためぐみんに対して嘘みたいに慌てた顔で両肩を抑え始めた。

 

 

「お、おい大丈夫かめぐみん!? か、顔は……!? 身体……ああっ!? ひ、膝から血が!?」

 

「え、膝……あ、転んだ拍子に――」

 

「衛生兵!! 衛生兵!!! 誰か治療しろぉぉぉっ!!!」

 

「ちょ、い、イッセーさん……?」

 

 

 

 ほんのちょっとめぐみんが膝を擦りむいてると、ベタベタとその時点でセクハラ案件間違いなしレベルに触れながら気付いたイッセーが、自身の解放した力で吹っ飛ばされて気絶してる冒険者達目掛けて治療できないかと喚き散らす。

 

 そのあまりの……というかほぼ見ない狼狽え方には流石のめぐみんも困惑してしまうのだが、イッセーはお構いなしに近場に居た誰とも知らない気絶中のプリーストの頬をひっぱたいている。

 

 

「お、おいキミ! 仲間が大ケガしたから回復的な魔法を!! 起きろぉぉっ!!」

 

「ぶへ!? ばぶっ!? ひでぶっ!?」

 

 

 普通に女性プリーストなのだけど、てんぱりすぎてるせいか、顔が腫れ上がってるのも構わずひっぱたいてたたき起こそうとするイッセーに、アクアと共に前もって隠れて見ていてハッとしたカズマが止めに入る。

 

 

「お、落ち着け兵藤!! た、大した怪我じゃないんだから……」

 

「落ち着けるか!! 嫁入り前の娘さんなんだぞ!? ええぃ! そこのお前でも良いから寝てないで起きて治療してくれぇぇぇっ!!」

 

「よ、嫁入り前なんてそんな……えへ、照れちゃいますね?」

 

「照れてないで止めろっての!? また一人知りもしない冒険者さんの顔が大変な事になってんだぞ!!」

 

 

 カズマはひとつ学習した。

 下手にめぐみんが怪我をしたら星ごと下手したらぶっ壊されると。

 そして割りとまともなのかなぁ……とイッセーに対して思ってたけど、一度タガが外れたら誰よりも変人になるのだと。

 

 

「しょうがないですねぇ、ほらイッセーさん、私は大丈夫ですから……ね?」

 

「大丈夫な訳――」

 

「本当に大丈夫ですって! あ、でもイッセーさんに今すぐギュッてして貰えたら全快できちゃうんだけどな~?」

 

「よっしゃ任せろめぐみん! こ、こうか!?」

 

「ぁ……♪ えへへ、イッセーさぁん……」

 

 

 気絶から覚めた冒険者達が何事だと状況に困惑してるど真ん中で、少女と青年が抱き合っているというシュールな画にカズマは時折思っていた事を思わず口にした。

 

 

「あの二人ってさ、時折気持ち悪いくらい仲が良いって思うんだけど……」

 

「うーん、不思議ね。めぐみんは一体どうやってアイツにあんな……」

 

「ダクネスはまだよがってるし……へ、変人ばっかじゃねーか」

 

 

 互いに名前を何度も呼びながら抱き合ってる、アホなカップルみたいなやり取りを見られまくっても尚やめず、結局誰も彼も仲間になった連中が変人だらけであったと気苦労倍増の予感に大きなため息を吐くのだった。

 

 

「イッセーさん!」

 

「めぐみん!」

 

「イッセーさぁん!」

 

「めぐみん!!」

 

「大好きですイッセーさん!」

 

「俺も割りと嫌いじゃねぇぞめぐみん!!」

 

 

 

 

 

 

「…………………。何時まで抱き合いながらアホな事やってんだお前等は!!!」

 

 

終わり




補足

怪我したと認識した瞬間、無意識にリミッターが外れて、単体最終奥義が……キャベツさん達は犠牲になったのだ。


その2
気絶から覚めた多くの冒険者達が目にしたのは、忽然と消えたキャベツ達と、外のど真ん中でロリっ娘と男が互いの名前連呼しながら抱き合ってるという光景。

一部二人の名前と顔は知られてるけど、それでも男の方に引いた者は居たとか―――『あいつロリコンなの?』みたいな意味で。

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