※出会わず、死した果てに
自分がこの世界に不要である事を悟っていた少年は、進化の果てに死ぬことが許されなかった己を、数百回と試した果てに消滅させる事に成功した。
本当ならこの先、同じ気質を唯一天然で覚醒させた悪魔の少女と複雑極まりない邂逅を果たしてしまうのだが、その道を回避し、かつての仲間達のもとへと還っていた――
――筈だった。
「む……」
暗く、何もない空間。
そんな非現実的な場所で横たわっていた少年・イッセーは眠りから覚めるかの様に目覚めた。
「ここは……？」
見渡す限り何も無い空間。
それがつい先程まで自分が居た場所では無いことをすぐに理解したイッセーは、意識を失う直前の記憶を思い出しながら、もしかして死ぬことに成功したのかもしへないと悟る。
「死ねたのか……？」
死後の世界に興味が無かったし、また行った事も無かったので断定は出来ないが、少なくとも今自分が居るこの場所が現実世界ではない。
だとするならば、数百と密かに繰り返してきた自殺が成功した――そう思うのも無理はないし、その証拠とばかりに暫くこの何も無い空間でボーッとしていたイッセーの前に、どう見ても常人では無いだろう女性が脈絡なく出現してきたのだ。
「ようこそ死と生の狭間の世界へ、兵藤一誠さん」
女性……というよりは少し幼く見えなくもないが、整ってる容姿をした全体的に水色な女性がその場に腰を降ろしていた一誠に対して挨拶をしてきた。
「誰だ？」
「私は女神アクア、自ら死した貴方を導く為にこの場に呼び寄せました」
女神アクア。
そう名乗った瞬間、イッセーの顔付きが一気に変化する。
「神……だと」
数奇な人生を歩んだイッセーにとって、神と言う存在には一種のアレルギー反応が発生する。
というのも、その神によって送り込まれた存在に自らの人生を壊されたのだ。
故に女神と名乗ったその瞬間、一誠の全身から誰が見ても解る程の殺意が剥き出しになる。
「ほほぅ、クソボケの神に散々してやられて腸が煮えくり返ってた所に女神と来たか。
良いぜお前、よく名乗ってくれたぜ？」
久しく見なかった生き生きとした殺意という名の表情は、何もかもイッセーが生まれて生きた世界とは真逆の世界を生きてきた時には見ることが無かった表情であり、全身から赤きオーラが放出される。
「待ちなさい、そう来るとはアナタの数奇過ぎる人生を見たから解ってたわ。
けど私とアナタの人生を狂わせた神といっしょくたにされては困るわね」
「あ？ そんな戯言に俺が――っ！？」
そんなイッセーに対してアクアと名乗る女神は、先程までの畏まった口調がどうやら建前だったかの様な砕けた口調と共に全身から自身とかつての仲間達が掴んだ神の領域と似た何かをドーム状に放出すると、イッセーの全身から放出されていた赤きオーラは霧散してしまう。
「とにかく話を聞きなさい。それからでも遅くはないでしょう？」
「俺に何をした……！」
「どうせ私が名乗った瞬間暴れると思っていたから、ちょっとこの空間に細工しただけよ。アナタ自身に干渉はしていないから安心しなさい」
「……」
ふぅ、と一息吐くかのように息を吐いたアクアに言われたイッセーは、自身の両手を見つめながら何か見えないもので力を抑制されていると感じ取る。
「全く、人の身でありながら神を越える領域の力まで到達するなんて、安心院なじみという女はとことん厄介な存在ね」
「！ 彼女を知っているのか……」
「名前だけはね、本来の個性を持つ彼女には我々神ですら干渉できない厄介さがあったというのは聞いてるわ。
もっとも、別系統の神のせいで相当と落ちぶれたみたいだけど」
「…………」
「断っておくけど、別に貶してはないわ。
寧ろ彼女とアナタ達には感謝してるぐらいよ、あの別系統の身勝手な神を始末してくれたんだから」
いまいち要領が掴めないが、アクアの言う別系統の神というのはどうやらイッセーが仲間達と殺した転生の神の事で、このアクアの様子から察するに敵対関係にあったようだ。
勿論、それをそのまま信じる程既にイッセーは転生の神の悪あがきでなにもかもが同じだけど違う世界を生き直してヤサグレてしまってるので無いのだが、力を抑制されている今身動きが取れないので、油断なくアクアを睨みながらも話を聞く体勢を取る。
「それで、話ってのは何だ？ そもそも俺は死ねたのか？」
「一応は死ねたことになっているわ……もっとも、既に簡単には死ねなくなるくらい進化をしてしまったアナタを手助けしたのはこの私だけど」
「は？」
死ぬ手助けをしたと吐露するアクアに一瞬目を丸くするイッセー
確かに数百と試しても死ねなかった割りにはあの時妙にあっさり死ねる感覚がした気がしたが、そうなると何故この女神とやらがそれをわざわざ手伝ったのかがわからないし、理由もわからない。
油断なく身構えながら考えていると、アクアは小さくため息を吐きながら説明をしてくれた。
「そもそもアナタが居たあの世界は本来の世界とは違うというのは自覚しているでしょう？」
「あぁ……」
「それが一番の理由。
あの世界における兵藤一誠はアナタの従姉にあたる兵藤凛が担っていて、アナタは存在しない筈のイレギュラーなのよ」
「…………」
兵藤凛……その名前を聞いた時イッセーは複雑な表情だった。
イッセー自身が生きた世界には存在しない存在であり、あの世界における赤龍帝。
彼女とは殆ど碌に話をしなかったが、別に嫌悪はしていなかった。寧ろ嫌悪していたのは自分自身だったのだから。
「アナタはあの世界に生きている間ずっと、アナタ達が始末した転生神の悪あがきの呪いを受けていた」
「呪い……？」
「そ、アナタとアナタの仲間達の人生をめちゃくちゃにした男と強制的に同じ立ち位置にさせるという呪いがね」
「なっ！？」
驚愕に今度は目を見開く。
アクアに言われなかったら恐らく知ることすらできなかっただろう事実だったのだから。
「それじゃああまりにも気の毒に思った我々が、まぁ一応、勝手ばっかりやってバランスを恐そうとする神を始末したお礼として、その呪縛を解いて望み通りあの世界での人生を終わらせる手伝いをしたって訳」
「…………」
「アナタの人生を考えたら私の言ってる事なんて信じられないかもしれないけどね」
そう少し自嘲気味に締めたアクアに対してイッセーは力無くその場に腰を下ろす。
このまま生きていたら下手せずとも自分があのクソッタレみたいな立ち位置にされていたのかもしれないのだ、仕方ないといえば仕方ない。
だがそれはアクア達別系統の神々の尽力により防がれた……それは皮肉だが憎んだ神に助けられたということでもあり、イッセーは力の抜けた声で口を開く。
「俺をどうするんだ？ 元の世界に戻してくれるのか？」
「…………」
信じてはいない。だが思わず望んでしまう。
自分が自分であれる世界への帰還……。
しかしそれはアクアは少しだけ言いづらそうな表情でと共に放たれた言葉に幻想は消え去る。
「アナタが生きた世界はもう無くなっているわ。
その……アナタの仲間達も皆、あの神によって最後の悪あがきで完全に消え去ったの。生き残ったのはアナタだけ」
「そう……か」
そんな気は最初からしていた。そんな都合の良い展開なんかある訳もなかった……と、アクアの口から説明される末路を知ったイッセーは当初見せたギラついた雰囲気も無くなってしまい、小さく笑っていた。
「そうか……俺だけ生き残っちまったのか、いや、もう死んでるからこの表現は間違いか？」
「……………」
流石に実は不遜な性格のアクアもイッセーを見て何ともいえない様子だ。
「それを聞いて少しは気が軽くなったぜ、そっか……皆もう居ないのかぁ、あはは……目の前が歪んで見えるぜちくしょう」
「……」
「はぁ……女神さんだったか？ 礼は言わせて貰うよ、ありがとう。これで心置きなく地獄に落ちれそうだよ」
散々他人を殺めたのを自覚しているのか、既にこのまま地獄へ落ちる気でいるイッセーは、神に対して初めて礼を言って頭を下げた。
ヴァーリ、コカビエル、アザゼル、ガブリエル、ミリキャス、サーゼクス、安心院なじみ……そしてリアス。
クソッタレな世界で唯一本物だった仲間達が本当に居なくなったとわかった今、最早未練は無いしこのまま地獄に落とされても何の未練も無い。
「良いぜ、引導を渡してくれや女神サマ？」
イッセーは既に消滅の道を選び、その介錯を会ったばかりの神に対して懇願する。
しかし女神・アクアは消える気満々のイッセーに対して首を横に振った。
「駄目よ、アナタは私達の手で地獄に行くことも消滅する事も出来ない。
それだけアナタの自我は私達の力を超えてしまっている」
「おいおい、神様がそんなジョークを言うとは思わなかったぜ？ 良いからさっさと消せよ俺の存在をさ？」
「よく聞きなさい！」
どこか自暴自棄になっているイッセーを一喝するかの様な声を出したアクア。
「私達の力不足である事は認めるし、我々はアナタに申し訳ないと思っている。
けれどどうする事もできないの、それ程までにアナタの力は進化し過ぎた。
一人の人間が神を越える領域の力へ到達するなんて普通はあり得ないけどアナタはやってしまったの！ だから……私だってアナタにこんな事言いたくないわよ！」
「…………」
若干逆ギレしてる感はあるが、イッセーという個人がそのスキルにより無限の進化をしてしまっているからこそ最早神ですらその自我という存在を消すことが不可能だと言うと、イッセーは口を開く。
「なら俺はどうするんだ？ 地獄にも行けない、かといって消滅もできない。
ここに閉じ込めとくのかよ？」
「しないわよ。アナタ本来の世界が消えた今、アナタには我々が管理する世界で生きて貰うしかない」
「それじゃあ前と……」
「違うわ、その世界はアナタの様な転生する者が沢山いて、アナタの生きた世界に比べたら遥かに平和な世界よ」
「今更俺に生きる理由なんて……」
「そんなものは向こうで決めれば良いじゃない！ 私だってさっさと終わらせてお菓子食べたいのよ！！」
「…………。本音爆発だな、本当に神かよ」
進化の代償に死ぬことを許されない。
その現実をアクアによって改めて突きつけられたイッセーは半ば強引に異世界への転移に了承させられる。
「一応私達も今後の対策は考えておくわ、だからそれまでの時間を頂戴」
「やっぱりここに閉じ込めてくれた方が……」
「ごちゃごちゃうるさい！ はい転生！！」
こうしてイッセーは本来生きた世界でも、本来生きた世界に酷似した世界でもない世界へと移った。
……………この強引な女神と後々再会する事になるのも知らずに。
※元・龍帝に生きる意味を！
「ぐっ……！」
女神によって強引に異世界へと投げ飛ばされたイッセー。
何故か全身に打撲の様な痛みを感じながらも、真っ暗空間ではない自然溢れる場所で目覚め、本当にここが異界であるとある程度の調査で認める。
「チッ、腹が減ったな」
右も左も文字通りわからない状態で１日中歩き回り、久々のホームレス生活へと戻る事になったイッセーは、この世界では最上クラスの狂暴性を誇る危険モンスターを狩り、焼いて食うというサバイバルを行い、かつて冥界から逃げたリアスと共に生活した洞窟に似た洞穴で自給自足の生活を送りながら、この世界の情勢を把握していく。
「ドライグも居ないのにドラゴン波ってね」
「………」
そんな時だったか、何時もの様に旨そうなモンスターを狩っていた際、偶々『的』を探してさ迷っていた少女に狩る際に手からビームを出している所を見られてしまったのは。
「み、見つけました！ こ、こんな場所に居たのですね！？」
「あ？ 何だキミは……？」
周囲に対する警戒を全くしなくなったせいか、まさか尾行されているとは思わなかったイッセーは、根城に使っていた洞窟にやって来た少女に――というか初めて見る異世界人にちょっと驚くが、どこかの世界線みたいに他種族に嫌悪感を抱いているという訳ではないので、妙に興奮している少女の話を聞いてみる。
「我が名はめぐみん！ ウィザードを目指し、最強の攻撃魔法である爆裂魔法を操る者！」
「………あ、はい」
ちょっと中二ちっくというか、目を潰した訳じゃないのにわざわざ眼帯まで装備している少女はめぐみんというらしく、近々故郷を出て街に出てウィザードになるという目標を持っているらしい。
一応この世界の情勢を知るイッセーはウィザードといいうものも、ギルドという職業案内場も知っていたので頷いて聞いていると、どうやらイッセーが獣を狩る時に放った力を見ていたらしく、それが彼女にとって色々と嵌まるものだったらしい。
「どうですか？ 是非私と爆裂魔法パーティを組んでギルドにその名を轟かせてはみませんか？」
「いや、俺別に爆裂魔法使えないし、この場所から出るつもりもないぞ」
彼女の野望(？)を聞かされ、しかも誘われたのだが、生きる意味を絶賛見失っているイッセーは当初断った。
しかしめぐみんはそれはそれはしつこく、雨の日だろうと風の日だろうと、風邪の日だろうと毎日毎日、立ち入るのですら本来は難解と言われる地域の洞窟に引きこもるイッセーのもとを訪れては勧誘する。
「けほっけほっ！ うぅ……いっせーさぁん、今日も勧誘にきまひたぁ……」
「なっ！？ す、すげぇ熱なのにバカかキミは！？」
「うへへ、わたひはしつこいんれすよー」
熱で真っ赤な少女が息も絶え絶えにそれでも諦めず笑っている。
それを仕方なく看病しながら受け続けたイッセーは、下手したらその内獣に食い殺されるんじゃないかと思い、遂に折れて彼女に付き合う事にした。
「はぁ、食うに困らない場所で結構気に入ってたんだけどな……」
「街に行けばもっと美味しいものが食べられますよ！ さぁいざ行かん！ 我々の新天地へ！！」
「………」
こんな小娘に何で振り回されてるのやら……と思いながらも、ひとつ前の世界とは違って割りと自然に振る舞えているイッセーは少女と共に街へとやって来たのだが……。
「むっ、あそこで揉めてる二人組が居ますよイッセーさん」
「痴話喧嘩って奴だろ、放っておけよ――って、なっ！？」
はじまりの街という場所で見たものは……。
「お、お前もしかして……」
「！？ あ、アンタは！」
自分をちょっと強引にこの世界へと飛ばした女神アクアだった。
何で女神がと驚くイッセーに声を掛けられ、同じく驚くアクアだったが、何かを思い付いたのか、連れと思われる若い男が此方を不思議そうに見ているのを背に突然……。
「ねぇ、アンタお金もってない？ 二千エリスで良いんだけど」
「は？ 突然なんだよ」
「いやさぁ、後ろにいる間抜け顔の男がいるでしょう？ あんちくしょうのせいで私って力を殆ど失った状態でこの世界に来ちゃったの。おかげで帰れないし、お腹は減るし、ギルドに登録しようにもお金もないの」
「殆ど失ったって……あそこの彼ってアンタの力に干渉できる程強いのか？」
「えーっと……ま、まぁね！ 油断したわ、うん……」
「すげーなあの彼……」
完全状態のアクアに一時的にも力を押さえ込まれた経験があるせいか、アクアの力をほぼ削ぎ落としたとされるごく普通に見える少年に戦慄を覚えるイッセー。
本当はしょうもなさすぎる理由で力を失ってるのだが、プライドが邪魔をして本当の事が言えず、変な勘違いを抱かせてしまった辺りはカズマという少年も御愁傷様としかいえない。
「という訳でお金貸して？ 絶対返すから！」
「それは別に構わないけど―――っと？」
そんな再会と直後に金を貸せと言ってきたアクアに対し、街に来てこの場に来るまでにかき集めた売れそうな物品を売ったおかげで割りと小金を持っていたイッセーは頷こうとしたのだが、その直後、後ろから服の袖を掴まれ引っ張られ、周りに聞かれたら面倒だからと微妙に距離が近かったアクアから離される。
何だ？ と思って後ろを向くと、袖を引っ張っていたのは若干不機嫌そうなめぐみんだった。
「イッセーさん、早く登録しましょうよ？」
「え、そりゃわかって――」
「あら、ひょっとして彼女は紅魔族？ アナタって随分と赤に縁があるわね？」
「む……だから近いんですってば。イッセーさんは私の同志なんです」
「え、何で睨まれてるの私？」
「さぁ？ どうしたんだよ？ 何怒ってんだ？」
「怒ってませんよ別に……」
見知らぬ女性と、まるで知り合いだったの如く親しげに話すイッセーを見ていてモヤモヤしていたらしいめぐみんだが、それを当然リアスという少女しか見てなかったイッセーには気づく筈もなく、ずっと不機嫌なままのめぐみんに首を傾げつつ、取り敢えずお金をアクアとその連れのカズマという名を後に知り、一瞬本気で殺意が出てしまった少年に貸したのだった。
「あの人、イッセーさんのお知り合いですか？」
「知り合いっつーか……まぁ、知ってる顔ではあるな」
「その割りには随分と親しそうでしたね……」
「そうか？ いや、俺的に彼女がこの世――じゃなくて街に居るのにびっくりしただけだしな」
「ふーん？ なら――」
「あ、いたいた！ ちょっとアンタ……じゃあややこしいからイッセーで良いわ、ちょっと私達のクエスト手伝って！」
「はぁ？ 巨大蛙の駆除ぐらいいくら今のアンタだろうとも連れの彼ひとりで十分だろうがよ？」
「うっ……い、一応よいちおー！ アレだけじゃ心許ないし！」
「何だよ……。なぁ、巨大蛙駆除の手伝いだってさ、どうする？」
「何で一々イッセーさんをあてにするんですかあの人は…」
「さぁ？ 彼女が連れてる人って俺より強いかもしれないの――」
「それは無いです！ 絶対にありえませんから！ イッセーさんの方が色々とかっこいいもん！」
「お……おぉ？」
唯一事情すべてを知るアクアが妙にイッセーを頼るのが気にくわないめぐみんなのだった。
※始まらないヨ
補足
またクロスやってるよ、しかも意味がないというね。
その2
アクアさんが女神様やってますねー……お陰で殺意度は下がりました。
その3
リーアたんと出会った当初の様な生活してたら紅い子と出会いましたとさ。
で、その紅い子に根負けして行動してたら女神様と再会し、紅い子がむっとしたとか。
その4
カズマくん、イッセーくんにめっちゃ一目置かれたの巻。
アクアさんがついデマったせいで勘違いされたの巻