宇宙ハンター結城リト
とある宇宙人の王女様がおったそうな。
しかしその王女様には全宇宙に色々な婚約者候補達が居るらしく、その現状が嫌で嫌で仕方なかった王女様は逃げ出し、宇宙へと飛び出し、とにかく追っ手を振りきろうと逃げた結果、地球という星のとある家に流れ着いたそうな。
その地球人の家の長男である少年は当初この王女が胡散臭くて即座に追い返そうとしましたが、優しい妹がそれを宥めた結果、王女を追って来た宇宙人を長男が流れでぶちのめしました。
結果どうなったのか――――少年は別に王女に対して何を思っている訳じゃないのに……。
『よォ結城リト。話は全部聞いたぜ』
「……………」
王女様のお父さん……つまり王様からのビデオレターを頂きましたとさ。
何だかんだとララが家に住む事になり、その追っ手をぶちのめしてしまったリトは、先日ぶちめした一人であるザスティンなる宇宙人に呼び出され、ただ今ララの父親からの伝言を聞かされていた。
『ザスティンから話は聞いてる。テメーはどうやら全宇宙の中でもかなり貧弱種族である地球人共の中ではかなり一線を画しているようだ』
「………」
かなり口が悪い王様の言い方にリトは無表情で聞くだけ聞いている。
ちなみにザスティンは単なるボイスレターなのに奇妙な機械の前に膝をついて頭をたれている。
『その上でララの婚約者候補には興味が無い――くくく、中々面白いじゃねーか? 中々見ないタイプだ。
まあ、それはそれとして、ララの意思は理解したよ、少し俺様も強引すぎた』
「………」
親としての最低の良識程度は持ち合わせてるらしい……と、リトは王の声を聞き流しつつ思っていると、王は少しだけ間を置いた後、話を再開する。
『だが今更今回の話を取り止めにするにはあまりにも話が進み過ぎちまってなァ? まぁ、単に宇宙全土にこの中止を通達すんのがめんどくせーってだけなんだが。
じゃあどうするか? 婚約者候補共にはこう言ってやった……地球人のとある男が新たに婚約者候補となって今現在ララと共にいるとな』
「あ?」
しかし聞かされた話は余りにも自分にとってすれば最低すぎる話であり、思わずザスティンを睨み付けた。
「……………おい」
「も、申し訳無い……王が貴方の事を聞いて興味を持ってしまったのだ」
『今頃この話をした途端ザスティンに対して何か言ってるテメーが想像できるぜぇ?』
しかし王だけあるのか、リトの行動の殆どを見抜いた様に言う王にリトはイラッとする。
『だが話は最後まで聞け地球人。
テメーが今の所ララに欠片の関心がねー以上、あくまでこれは体裁だ。
通達すんのがダリィ俺様の代わりに他の婚約者候補達を諦めさせる為のな』
「……」
『つまり、近日にも地球に来るだろう他の候補共を黙らせる……それがテメーに課す俺様からの条件だ。
婚約者にはなりたくないテメーにとっても悪かねーだろう?』
「……………………」
『いいか、いつか俺が決めていた『婚姻の儀』までにララを守ってみろ。
テメーの事はすでに銀河全体に知れ渡っている、他の婚約者候補どもは必ずお前のもとに現れるぞ? ララを奪い取るためにな!! だからそいつ等を見事蹴散らしてみろ! あぁ、わかっていると思うがな、もし途中でララを奪い取られちまった場合はこの俺の興味と期待を裏切ったっつー事で―――
―――貴様の命をそのちっぽけな惑星ごとぶっ潰す!! 覚えとけ』
恐らく間近で聞けばその殺気も凄まじいだろう宣言。
『そういう訳だ。じゃあな不思議な地球人、結城リト。精々この俺を失望させんなよ?』
図らずとも地球の命運がリトによって握らされてしまったのだ。
声が切れたと共に不思議な機械は機能を停止する中、リトはただただ深いため息を吐くのだった。
「まぁ、当然だわな。向こうからしたら俺は自分の娘の結婚話を単に邪魔してるだけの存在な訳だし」
「も、申し訳ない。思っていた以上に王が……」
「その話はさっき聞いたので良いです。
はぁ……要するに俺がその婚約者候補の一人とやらの体になって代わりに他の婚約者候補達に中止である事を教えれば良いって事でしょう?」
「そうなるな……」
「はいはいわかりましたわかりました。ララと出会して懐に入り込ませた時点で大なり小なり面倒な事になるという覚悟はしてましたからね。
あぁ、ザスティンさん? 王さまに言っといて貰えます? 了解しましたって」
これで子の意思を完全に無視したようなタイプならさっさと返すなりなんなりしてたが、それなりに子を思う親の様子は感じられた。
だからこそ、かつて娘の意思より赤の他人のイエスマンになった親という存在を知っているイッセーは了承したのだ。
『宇宙人か、少しは骨のある連中であれば良いがな』
(どうかな……)
面倒なのは変わり無いものの。
結城リトは確かに地球人だ。
地球で生まれ、地球で生きた者なのだが当たり前だし兵藤イッセーとしてもだ。
ただし……
故に兵藤イッセーだった結城リトは戦う事に慣れていた。
だからこそララの護衛達を叩き潰せたのだし、その力は自分の精神に呼応するスキルによって無限の進化を続けている。
好む好まざる関係なしに、今のリトは化け物と呼ばれても差し支えないのだ。
「た、頼む! 俺を殺さないでくれよ!」
宇宙人から見ても……だ。
「殺さないでくれ? お前に虐げられた連中や今縛られて気ィ失ってる西連寺さんが聞いたら何て言うかなァ?」
「ひぃっ!?」
それを知らないまま、ララの父親であるギドから地球に居るララの結婚相手というゴールに一番近い地球人からララを取り返せばその者が結婚相手になる……という話を聞いた多くの婚約者候補宇宙人達が、リトを狙い始めた。
その第一号がリトとララの通う学校の体育教師に化けて潜入していたどこかの星の王だか王子が、春菜を人質にリトに婚約者候補から降りろと脅迫したのだが、結果はこの通り、人質だった春菜はあっさり奪い返され、今まさに殺されそうになっていた。
「た、頼む殺さないでくれ! ララの事も婚約者候補である事も全部諦めるから! な、何だったらお前が望むものをなんでもくれてやるから殺さな―――
「しかしガッカリだなァ!! ……………粋がってた割りにはそうやって命乞いをするんだ?」
「ひ……ひぃぃぃぃっ!!!!」
「永遠におやすみ」
これが本来の結城リトなら心優しい為、このまま逃げていくのを見逃していたのかもしれない。
だが相手は結城リトの身体に憑依してしまった、かなり荒んだ人生を送ってきた結果、敵に対する容赦も慈悲も欠片も持ち合わせちゃいない兵藤イッセーだった。
張りぼてのボディも粉砕され、小さな生物でしかなかったその宇宙人は恐怖の悲鳴をあげてもどうにもならず、呆気なくそのままリトに踏み潰された。
「ドライグを使う必要すらなかったな」
『しかし思っていた以上に早いな、宇宙人が来るのが』
「どちらにせよ今潰しちまったよ」
潰れて物言わなくなった宇宙人の亡骸に手をかざし、かつて悪魔の少女と交わった事で会得した滅びの魔力を使って綺麗さっぱり消し飛ばして証拠隠滅を完了させたリトは、誰にも打ち明けていない相棒の龍と話をしながら、先程の宇宙人に悪戯されて少し破けた体操服姿で気を失っているクラスメートを見下ろす。
「このまま放置するか……」
『せめて誰か呼んでやれよ……』
さも当たり前の様にそのまま帰ろうと言い出すリトに、ある意味人間である本人より人間味があるドライグがすかさず突っ込む。
「チッ……」
ドライグに言われちゃ仕方ないと渋々気を失う春菜を抱えたリトは、先程文字通りこの世から消し飛ばした宇宙人に呼び出されて訪れた体育倉庫から出る。
『おい、小娘の服が裂けてて見えてしまってるぞ?』
「気絶させられたあげく軽い触手プレイさせられていたからな……まったく、この子も災難な……」
全然関係ない子なのに……と少しだけ春菜に同情し、取り敢えず体操服の上着が真ん中から縦に裂けられてて見えちゃってるので、着ていた制服の上着をそのまま着せ、保健室にでも持っていけば後は何とかなるだろうと、すやすや寝てる春菜を抱えて歩く。
「り、リト!」
そんな折りに、リトを探していたのか、バッタリと会ったその瞬間、まるでご主人様が帰って来て死ぬほど喜ぶ犬みたいな反応をしめしながら寄ってきたのはララだった。
「どこ行ってたの? って……春菜?」
リトの腕に抱えられてる春菜を見たララが首を傾げる。
どうやら眠っている様だが、何故か男子の制服の上着を着ていて、Yシャツ姿のリトを見る限りどうやらリトの上着らしい……匂いがまんまそうだし。
「春菜と何かあったの?」
それを認識した瞬間、ララの胸中に言い知れぬモヤモヤが発生する。
リトにそうやって抱えられた事もなければ、リトに上着を着せられた事だって無い。
ましてや当初知らなかったとはいえ、ララがリアスなる誰かを探してる時に春菜がリトを隙あらば見ていた事を知っていた。
だからこそララは今まで感じた事のないよくわからない気持ちになっていたのだ。
「何も、そこで倒れてて保健室に連れていこうかなと思っただけ」
「じゃあリトの上着を着せてるのは………」
「倒れた拍子に体操着が裂けてたらしくてな、流石に半裸はアレだから貸しただけだ。
もっとも、本人はまだ知らんがね」
「ふーん……」
嘘だ。ララは直感的にそう思ったが聞けなかった。
リアスの事を聞いてしまった時の様に、余計な一言がリトに嫌われてしまうかもしれないと、ララは思ったのだ。
(確かリトは教室で誰かと電話していた……。リトの電話帳には家と猿山と美柑ぐらいで他に無いし、美柑か家からの電話だったら直ぐに学校から出る筈。そうじゃないとなれば他の誰か……猿山は教室に居たから無い。
そうなると……他の誰でもない誰かから?)
だから考える。
聡明な頭脳を実は持ってるララは見ていたリトの行動から答えを辿っていき、やがて導き出す。
「もしかしてだけど……パパが選んだ婚約者候補の誰かと会ってた……?」
「………」
そう考えれば辻褄があってしまう。そしてほんの一瞬だけ目が揺らいだリトを見ればそれが当たりである事も。
「春菜はもしかして……」
「意外とマジで頭良いよなお前。
はぁ……正解だよ正解。非通知で呼び出されたかと思ったら体育教師に化けたお前の婚約者候補の一人でな。
西連寺さんを人質にお前を渡せだの何だのって喧しかったから軽くぶちのめしてお帰り頂いたのさ」
………あの世にね。と、最後は心の中で呟きながら事情を説明するリトにララはごめんと謝る。
「ごめんね……私のせいで春菜もリトも」
「俺の事はどうでも良いが、この子は完全に巻き込まれた。
この子がどこまでの事を見たのかはわからないが、なるべく忘れさせたい」
「あ、うん、私の発明品があれば部分的な記憶を夢として認識させられるからそれは大丈夫……」
そう当たり前の様に言ったララにリトは少し驚いた。
「幻実逃否みたいな事が可能な発明品だな……」
「へ?」
「いや、何でもない。
それなら保健室まで一緒に来てその発明品を使ってやってくれ」
「うん」
部分的にとはいえ、スキルのような事が可能な発明品を作り上げられるララを若干見直したリトに言われ、二もなく頷いて後ろをひょこひょことついてくるララ。
こうして宇宙人襲来は人知れずとっとと捻り潰されたのだった。
人とは思えない何かが私を縛って嗤っている。
私は動けない……けどそんな私の前に現れたのは結城くんだった。
結城くんは人とは思えないけど普通に喋る生物と何やら話しているけど、会話の内容が何故か聞こえない。
やがて怒ったよくわからない生物が結城くんに襲い掛かる……。
私は危ないと叫ぶ……でも結城くんは笑っていた。
その顔がとてもかっこよくて……そしてとても強くて……。
「ドラゴン波!」
あの時見た赤い鎧の腕の様なものを左腕全体に纏った結城くんの手から赤い光線が放たれ、謎の生物は倒れた。
そして結城くんは縛り付けられた私のもとへと走り、縄を解いてくれると、とても優しい声で気遣ってくれる。
「大丈夫か春菜?」
優しく私の頬を撫でながら愛しそうに名前で呼んでくれる……。
あぁ、やっぱり私は……そう思いながら段々と顔を近付けてきた結城くんに応える様に身を委ね、目を閉じて唇に来る感触を待っ――
「はぇ?」
気が付くと私は保健室のベッドの上だった。
「え……あ、あれ?」
保健室の天井? いや、その前に結城くんはどこ? などとまだ覚醒しない脳で考えながら暫く天井をみつめていると、横から桃色の髪が視界に入ってきた。
「目が覚めた?」
「え、ら、ララ……さん……?」
最近結城くんが大好きだと言い切り、しかも結城くんの家に居候をしているという、少し羨ましい位置にいるララさんの名を呼ぶと、何故私が保健室のベッドの上に居たのかを簡単に説明してくれた。
どうやら私は貧血で倒れたらしい……そしてその倒れたところを見付けてくれたのが――
「ゆ、結城くんが?」
「そうだよ、ほら、その制服の上着はリトのだよ」
「……!」
結城くんで、しかも結城くんの制服の上着を着せてくれたらしい。
私はララさんに指を指した先にあった、ハンガーに掛けられていた男子の制服の上着を見て全身が熱くなってしまう。
結城くんが倒れた私をここまで……。
「ゆ、結城くんはどこに?」
「今美柑――あ、リトの妹と電話してるよ?」
「そ、そうなんだ、ちゃんとお礼言って返さないと……」
だからあんな夢を見たのかな。
は、恥ずかしい……考えてみたら私を下の名前で結城くんが呼ぶ筈なんて無いのに……。
恥ずかしいやら、もう少しだけ続きを見たかったやらで悶えそうになっていると、不意にララさんが口を開く。
「春菜が羨ましかったなぁ、だってリトが抱えてたんだよ?」
「そ!? そう、なんだ……」
抱えられてたんだ私……。ど、どうやって抱えられたんだろう? ま、まさかお姫様抱っこ的な感じだったりして……。
「私はまだして貰えてないんだー えへへ、だから春菜が羨ましい……」
「そ、そんな事……」
それを言うなら私だってララさんが羨ましい。自分の気持ちをハッキリ言えるし、結城くんに構ってもらえてるし……。
私は未だにまともに話もできないのに……。
「春菜はリトのどんな所が好きなの?」
「はィ!? わ、わわ、私はそんな……!」
「私はちゃんとあるよ?
ちょっと冷たいけど、寂しい人……。私を特別扱いしないで他の人と同じ扱いをしてくれる。
だからリトには嫌われたくないし、捨てられたくないし、その為ならなんでも出来る。私にとってリトはそういう人なの……」
「ら、ララさん……」
ホント、羨ましいな……。
補足
荒んだ人生経験のせいでモラルという項目のネジが抜け落ちてしまってるので容赦が全くありません。
もしこの今回文字通り潰された宇宙人の星の連中が総出で出てこようが笑いながらグシャグシャにしちゃう程度には。
その2
どんどんララさんの依存度が大変な事に……。
その3
ヤミたそー