覚悟して進んだ道であるので後悔は無い。
一度惑わされそうになって妹に酷いことをしてしまったけど、妹を守ってくれる彼が居る。共に戦えた仲間が居る。大切な娘も居る。
だから何の後悔も無い――――いや、嘘だ。
ひとつだけ心残りがあるかもしれない。
それは転生者に惑わされてしまった僕の妻であるグレイフィアの事。
結局最後までグレイフィアは僕とミリキャスのもとへは戻ってきてくれなかった。
それどころか本気で僕達を、転生者の力によって力を強化して殺そうとし続けた。
邪魔な存在だからと……二人が居たらあの男に愛して貰えないからと……。
人並みな言葉かもしれないけど、僕はグレイフィアが大好きだった。
だから悲しくて、辛くて……子であるミリキャスはきっと僕以上に傷付いたのだと思う。
だから僕の手で……僕のこの手で彼女を――
ふふふ、きっと一度でもあの男の言うことを信じてしまった挙げ句妹のリアスを傷つけた罰なんだろうな。
まさに因果応報……嘆く資格すら僕には無いんだろう。
それは仲間達と共に時間を逆行しても変えられない現実――そう思ってたんだけどなぁ。
安心院なじみという人外が居た。
困った事に夫はそんな人外女にお熱なせいで、政略結婚で一緒になった私にまるで構ってはくれなかった。
もっとも、私も初めはそんな男に愛など感じなかったし、子のミリキャスは可愛かったもののサーゼクスに対してどうと思うことも無かった。
けど、何と言うか……近くで見ていると余りにも夫はその人外女に相手にされなさすぎて逆に哀れに思えてきたというのか――気付いたら自分では無く何故あんな女にばかりかまけるのかという気持ちに刷り変わっていた。
何かあれば安心院さん。
その人外に近い者が居れば安心院さんはどこに?
写真をあげると言われたらアホみたいに張り切り。
貰えば貰うでその女の写真で毎晩アレをして。
嫌悪すらしていた筈なのに、見るたびに私は安心院なじみに嫉妬していた。
ミリキャスを産んだ時は周りに強要されたので仕方なくだったのに、私は気付けばサーゼクスが……。
それは何故か気付いたらサーゼクスと敵対関係になっていた戦争時代へと時が戻ってからも変わらない――いや寧ろチャンスと捉えた。
何時頃あの女の存在を知ったのかは定かでは無いものの、この時期にもっと積極的になればサーゼクスとの関係も少しはマシになる筈。
………そう思ってさっさと今の立場を投げ捨て、サーゼクス達のもとへと行ったのだけど……。
『あ、あぁうん……そっか、味方になってくれるんだね? あ、ありがとう……』
『よっし☆ グレイフィアちゃんが味方になってくれたら百人力だよ☆ カテレアちゃんが謎の失踪をしたのは気になるけどね!(まだこの時代では元ちゃんも生まれてすら無いからなぁ……)』
おかしい。
サーゼクスが妙に挙動不審だ。
私が近づこうとしてもハッキリ拒絶するでもなく然り気無く離れようとするし、どこか変だ。
まさかサーゼクスも逆行した? いや、であるなら最初から私に対してもっと邪険に扱うかの様な態度の筈だ。
そう思うのもつかの間、サーゼクスを捕まえる為にさっさと寝返った私に裏切り者の烙印が押され、旧派の連中に命を狙われ始めた。
もっとも、何人来ようが何とでもなっていたのだけど、その時助けに入ったのが……そう、サーゼクスだった。
『完成体・アスラ』
『さ、サーゼクス……?』
その時のサーゼクスの力は私の生きた時代のサーゼクスとはまるで次元の違うものだった。
寧ろサーゼクス一人が本気を出せばこの戦争は三時間もせず終わるのではないのかとすら思えてしまう程の力だった。
全身から魔力を放出し、四腕の鎧武者を思わせる巨人を作り出し、その巨人が放つ一太刀は森羅万象を破壊する。
これを見た私は間違いなくこのサーゼクスは私の知るサーゼクスとは少し違うのだと確信。
そして私が未来から逆行した様に、サーゼクスもまた別の可能性の未来から逆行した存在なのだろう……そう思った。
『えっと、ごめん……キミが囲まれていたから助太刀しようかなって……』
『勿論助かったわ……ありがとう』
『う、うん……それじゃあ』
どこか辛そうな表情。
考えたくはないが、あのサーゼクスの歩んだ未来は私と決定的な決別をしてしまった未来なのかもしれない。
もしかしたらかつて兵藤一誠という少年が清算した過去の元凶で様々な女性と関係を持っていた男みたいな存在によって私が――
そういえばこの世界はそんな感じの連中がかなり多く居るみたいだし、私も見たこと無い悪魔の一人に妙な雰囲気を当てられたので取り敢えず蹴り潰しておいたけど、多分あれもそのひとつだろう。
なるほどなるほど……はぁ、どういう過程か知らないけど愚かね、別の世界の私。
そして残念ね……勝手に捨てたのなら私が頂くわ。
ふふ……ふふふっ!
『えっ!!? ええっ!? う、動け……!?』
『ちょっとした痺れ薬よ。
ふふ、アナタの記憶の私に薬の扱いの上手さは無かったかしら?』
『き、記憶って何の――』
『とぼける必要は無いわサーゼクス。
私、未来から逆行ってものをしたの……無論アナタもそうじゃなくって?』
『!? き、キミが……そんな、じゃあこれはキミにとって将来邪魔になる僕を今の内に殺すつもりで……!!』
『バカな事を言うのはやめてちょうだい。やはり私が居た時代とアナタの居た時代は差異があるようね。
アナタの時代の私がどんな性格だったかは知らないしどうでも良いけど、少なくとも私にアナタを殺す気は無いわよ?』
『じゃ、じゃあ何故こんな――うっ、か、身体があつい……!?』
『何故? そうね、私が生きた時代のアナタとは子は生んだけどお世辞にも良い関係では無かったのよ。
バカな事にアナタを愛していると気付いた頃には色々と遅くてね、アナタはアナタで別の女にお熱で。
色々とやったけど結局無理だったわ』
『はぁ……はぁ……、そ、それは……キミのじだいの僕が間抜け……だったみたいだね……それで、僕に何を――』
『決まってるでしょう? どうもよそよそしいアナタに逃げられない為に今から既成事実を作るわ』
『え――』
『憎んでくれても構わないわ。ふふ、ねぇサーゼクス、アナタのココ、とても辛そうよ?』
『う……こ、これは……』
『わかってるわ、私が仕込んだ特大の媚薬のせい。
だから仕方ない、アナタはまったく悪くない……ふふ、憎んでも構わない、嫌ってくれても構わない……その気持ちを向けられる事すら私にはアナタからの愛に思えるのだから』
『な、なっ……!?』
あぁもうたまらないわ。
この捨てられた子犬のような表情。
ベッドに縛り付けられた状態から服を脱いだ私を見て辛そうに、理性と戦うこの表情……。
嗚呼……どうして私はあの時点で気付かなかったのか。でもこれから知れればそれで良い。
だから……だから……。
『アナタは悪くない、だから安心しなさい……ふふ、ふふふ……!』
『ひっ――』
あの人外女に絆されようが絶対にニガサナイ。
これが別世界同士の私とサーゼクスの出会い……。
その後何故か私や友達ともいえるセラフォルーに訳のわからない男達が訳のわからない事を言いながら寄ってきたけど、取り敢えず鬱陶しかったので消しておいた。
後にサーゼクスから聞いた話によれば、アレは転生者とかいう存在らしく、妙な力で多数の女と関係を持つのが殆どらしい。
そういえば兵藤誠八もそういう存在だったのかもしれないわね――興味ゼロだけど。
ミリキャスが生まれなくなるけど、同じ繰り返しは流石に辛すぎる。
その葛藤に悩んだサーゼクスだったが、結局の所この世界でもグレイフィアとは夫婦になれた。
自分の知ってるグレイフィアが持ち得ない技術で薬を盛られて逆レ○プされたからというのが大きく、更に云えば別の未来を歩んだグレイフィアだったらしい。
生まれたミリキャスの性別が女だった事に驚いてたし、物心が付くのと同時に記憶が甦り、怯えた事でグレイフィアがちょっと戸惑った所を見ればきっと転生者に惑わされることもなかったのだろうと、サーゼクスは少し強引というか積極的すぎる別の未来からやってきた妻に苦笑いだ。
「安心院さん……かぁ。懐かしい名前だ」
「チッ、あの女を知ってたのね?」
「ま、まぁね。色々と世話になったよ僕達も。
ただ、別にあの人に執着はしてないよ? そもそも其どころじゃなかったし」
「私としては、その転生者の男に身体を許した私自身に腹が立つわ。
思えばリアスお嬢様やソーナ様達が似たような存在とそんな関係になってはいたけど……」
「それ、リアスには言わないでよ? ショックどころじゃないだろうし」
「勿論よ、しかしあの兵藤一誠がリアスお嬢様一筋とは……」
「キミの知るイッセー君はフェニックス家に拾われて育ったんだっけ?」
グレイフィアという例が出た以上、もしかすれば他にも居るのかもしれないが、少なくともリアスもイッセーも――そして別世界では男の子だったらしい我が娘や仲間達は自分の知る者達だったので安心だ。
しかしその周囲……リアスを裏切った元眷属達やソーナは違うのかもしれない。
敵対していたのか、それとも仲間だったのか……却って懸念が増えてしまった感は否めない。
「しかし女性を虜にする力は困るわね。もっとも意思が強ければ割りと簡単にはね除けられる様だけど」
「それはきっとキミの精神力がずば抜けて強靭だからかも……僕以上だよ」
「当たり前じゃない。私、アナタ以外の男と関係なんか死んでも持ちたくないわ」
「あ、あははは……。
僕が生きた時代のキミにはミリキャス共々『邪魔』ってハッキリ言われたから不思議な気持ち……」
サーゼクスの様に決してマイナスではない方向に働いていれば良い。
だがもしイッセーとリアスと敵対していた未来から逆行した者が居たら……。
「あの二人は強いのでしょう? というより強いわよ。リアスお嬢――いえ、リアスは言わずもながら天と地だけど、イッセー君も私の時代の彼よりも上と見て間違いないわ。
本来の赤龍帝としてね」
「そっか、キミの時代のイッセーくんは転生者が赤龍帝だったんだっけ? そっか……なら大丈夫、かな?」
グレイフィアの言葉に少し安心したサーゼクスは、取り敢えず何かあれば五秒で駆けつけられる様に注意だけする事にする。
というより自分も自分で色々と大変なのだ。
「それにいざとなれば私達が援護に行けば良い。
その頃には二人目の報告もしたいじゃない?」
「え……」
「そろそろ受け身じゃなくて、乱暴にして欲しいわ。
ほら、私って結構マゾなのよ」
「い、いやそれはちょっと……」
「何よ? ドジッ娘メイドプレイの時はあんなに激しく」
「あー! あー!!! ミリキャスに聞こえるからヤメテ!!」
「『ご主人様、また失敗しちゃいましたぁ……お、お仕置きはやめてくださぃぃ……!』って言った時はアナタは――」
「な、何の事だかわからないなぁっ?」
メンタルと性欲がもて余した人妻の如く強い別世界の嫁に振り回されてるヘタレ魔王なのだから。
「ご主人様ぁ……そんなに吸っても出ないですぅ……! って言った時も――」
「別世界の僕はどれだけキミをほったらかしにしてたんだよ!? 居たら殴りたいよ!」
「犬耳カチューシャつけて語尾に『わん♪』と付けましょうか? そして犬の様に後ろから――」
「良いってば!! い、いや正直嬉しいけどそんな無理しなくて良いから! まだ怖いんだよ! ま、またキミが他所の男のもとに行ったらと思うと……」
色々と引き摺ってる超越魔王。
雑にされすぎて逆に拗らせた人妻メイド悪魔。
そんな人妻メイド悪魔がちょっと怖い超越魔王の娘さん。
イッセーがイッセーではない。
いや、更に言えば元主も全然違う。
とはいえ、自分達が生きた時代の元主に比べたら大分マシなのだけど、問題はイッセーだ。
まさかリアス・グレモリーとあんなに仲睦まじいとは……しかも白音もどうも違う。
「はぁ……」
「元士郎……」
もしかしたらの覚悟はしていたが、やはり凹む。
カテレアさんが俺の知るカテレアさんだったのが救いだったけど、やはりそれでも凹むものは凹む。
「誰が悪い訳じゃないんだけどさ……」
最近の俺は弱気だ。
だからついカテレアさんに甘えてしまう。
友が消えてしまった絶望で命を絶ち、何故か人生をやり直し、カテレアさんと再会出来たまでは良かったのに、どうもこの世界はイッセーの双子の偽兄に似たような連中がうようよ居やがる。
お陰で何度か俺とカテレアさんは殺されかけるし、肉親達は前と違って存命だけど、今度は俺の持つ力を恐れて追い出された。
結局何も変わらない……。
カテレアさんが居なければオレはとっくに死んでたかもしれねぇ……。
「元ちゃーん、来ちゃった☆」
……。何故か元主の姉貴がしょっちゅう来るし……。
聞けば俺とカテレアさんの知る未来から戻ってきたらしいが……何でアンタなんだよりにもよって。
「またかしらセラフォルー? いい加減元士郎のストーカーはやめてほしいのだけど」
「ストーカーってなぁに? 私は元ちゃんに会いに来たんだもーん☆ あれれ、元ちゃん落ち込んでるの? ふふーん、ならおねーさんのお胸を貸してあげよう☆ そしてちゅーちゅーしちゃたりして?」
「…………」
「空気を読みなさい。今それどころじゃないのよ。アナタもわかっているでしょう?」
テンションの高い魔王の一人に注意しながら俺を抱いてくれるカテレアさんに、ふざけていた態度が引っ込む。
「…………。まぁ、ね。
ソーたんも違うし、イッセー君も違う。まさかリアスちゃんとあんな仲良しになってるなんてね……」
「アナタにしてみれば妹がどこぞのバカに惑わされる様な柔な精神じゃないとわかって安心でしょうけど」
「それは否定できないかな……。だからこそソーナちゃんの転生悪魔にもう一度なったんでしょう?」
「……ええまぁ。寿命の獲得もそうでしたけど、ちゃんとした精神力だったので……」
セラフォルーさんの言葉にカテレアさんの胸に顔を埋めながら頷く。
なんというか、この世界じゃ生徒会長のソーナ・シトリーはどうも違うというか、悔しいことに今のイッセーに近いものを感じてしまうのだ。
そう……能力保持者のような。
「そっちこそ大丈夫なんすか? まだうようよ沸いてる連中にまた何かされたんでしょう?」
「あー……何かいきなり『自分に惚れてるだろ?』的な感じで身体触って来ようとした男の人が最近来たんだけど、元ちゃん以外に触られるのなんて嫌だったから氷付けにしちゃったよ。
その人は冥界への不法侵入と魔王への狼藉でそのままコキュートス行きになったから大丈夫」
「そっすか……」
「えっと、もしかして心配してくれたの?」
「別に――」
「あ、う……ど、どうしよ、嬉しくて顔が熱い……」
「……。呆れるほどチョロいわね。何で元士郎以外の男じゃないのかしら……はぁ」
「む、カテレアちゃんに言われたくはないかも」
「まぁそうね……。私も似たようなものよ。
もっとも? アナタみたいに空回りしてるつもりは無いけど」
はぁ……せめてイッセーとちゃんと話せる機会があれば。
もし違ったらという恐怖で全然話し掛けられねぇよ……。
補足
鳥猫のグレイフィアさんの特徴。
安心院さんバカと化してる夫を当初嫌悪してたけど、その内拗らせておかしな方向に向かったもて余しメイド。
ベリーハードのサーゼクスさんとミリキャスたん
転生者に寝取られ、挙げ句本人から『邪魔』とまで言われてグレイフィアさん関連だとぽんこつ化する。
そんなのが巡りあったら……まぁ、うん。
ちなみにこのグレイフィアさん、サーゼクスさんのツボを確実に突きます。
ドジッ娘メイドプレイしかり、わんわんプレイしかり。
しかしそれでもヘタレなんで避けようとするので、どこぞのくじらちゃまのごとき謎薬品で拘束し――――うん。
その2
匙きゅんはレヴィアタン丼でした。
ただ、イッセーくんが鳥猫イッセーとあまりに違うのでちょっと落ち込み気味。