色々なIF集   作:超人類DX

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美柑ちゃまとドライグのおかげでギリギリ……


清涼剤のおかげ……

 自由になる為に、誰にも縛られない為に。

 人生を取り戻す為に遮二無二走り続けた。

 

 その果てが今であろうとも、あの時確かに全てを取り戻せたのだから後悔は無い。

 

 ただ、やはり自分の心を土足で踏み込まれるのだけはイヤだった。

 

 何も知らない癖に自分の愛した悪魔(女の子)の名を語られるのは我慢できなかった。

 

 バカらしい独占欲なのかもしれないけど、それでも結城リトとして生きる兵藤イッセーは永遠の別れを突きつけられてもリアス・グレモリーを愛しているのだから。

 

 

 

 

 

 

 ララ・サタリン・デビルークはこの短い期間の中で結城リトの事を徐々に知っていった。

 気紛れで動き、気分のついでで結果的に誰かを助ける。

 その気分ついでに助けて貰ったのが自分だからこその判断であり、そんなリトに最もしてはならないのは『人の心の中に無許可で入り込む』という事だった。

 

 

「へぇ、そのザスティンって人をうまく説得できたお蔭で暫くはララさんもここに居られるんだ?」

 

「中々話の解る人で助かったよホント」

 

 

 昨晩初めて見た心の底からの拒絶の意思。

 怒るでも無く、罵るのでも無い――ただ心底どうでも良い、そこら辺に落ちた消ゴムを見るような目。

 あの目と表情は一晩明けた今でも、否、生涯忘れる事は出来ないだろう。

 

 

「? どうかしたのララさん?」

 

「何だ、食欲ねーならその目玉焼き俺に寄越せ」

 

「コラっ! 行儀悪いよリト!」

 

「………」

 

 

 あれからリトは昨日の事を忘れているかの様に自分に接している。

 きっとそれは暗に『昨日の事を誰にも洩らすな』という意味なのだろうし、きっとあの表情を美柑に向けた事は無いのだろう。

 短い間しか見てないが、リトはどうも美柑に対してだけは良い兄でありたい様だ。だからあの暴力的なまでの力をなるべく見せることもしないし、言動や態度は優しげだ。

 兄と妹なのだからそれは当然だし、今頃故郷にいるだろう妹達を持つ姉の側面もあるララにしてみれば納得できる行動だ。

 

 

「ダメ! 食欲はちゃんとあるもん!」

 

「だってさリト、諦めなさい」

 

「ちぇ」

 

 

 ならばリトに見捨てられたくないという強烈な思いを自覚したララは合わせる事を学習し、何時ものララとして振る舞う。

 それが窮屈に思うのは当然なのだが、不思議と全く窮屈には感じないと想いながら、ララは笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 見るだけなら多分ほほえましい朝食を済ませた結城兄妹とララは、それぞれ学校の準備をし、登校を開始する。

 結城リトとして生き直し、周囲を騙している事に対して罪悪感はまだ残るものの、ララという他人の介入があるせいかここ数日でかなり自然な会話を美柑とできる様になっていた。

 

 

「うーん、最初はどうなるかと思ったけど、ララさんには感謝しないとね」

 

「へ? なんで?」

 

「ララさんが来てくれたお蔭でリトと会話する機会が増えたから」

 

 

 それは美柑も感じていたらしく、小学校まで送る道を経由しての道を三人で歩いていた時にララに向かって礼を交えてララが来る前までのリトとの微妙に距離感のあった関係を吐露する。

 ララにしてみれば、自分が来るまで美柑と殆ど話をしていなかったという事に驚きだが、道を歩くだけで近所の野良猫らしき猫達が自然と集まってリトにじゃれついている光景を見ていると何となく納得してしまう。

 

 

「だぁぁっ!!! 朝っぱらから鬱陶しいんだよ猫共!! 俺は猫だの猫耳生やした奴が嫌いなんだ!」

 

『みゃーん♪』

 

「べぶ!? お、俺の顔にべばりつくなこの雌猫……!!」

 

 

 美柑は『リアス』という何者について聞いた事は無いのだろう。

 そして知ってたとしてもララは聞くことはできない……。

 

 

「相変わらず猫には好かれるねリトは」

 

「俺は嫌いなのに、何なんだあの生物は?」

 

「…………」

 

 

 聞けば今度こそ終わる。

 散々引っ付かれ、やっとこさ追い返した猫達の群れに辟易した様子のリトとそんなリトに苦笑いしている二人の一歩後ろを歩くララはぶるりと一人震えるのだった。

 

 

 

 そんなララの心中とは裏腹に、リトは内心一人毒づいていた。

 

 

(クソが、まさか寝言なんてベタなもんを聞かれるとは思わなかったぜ)

 

『ちょうど素っ裸でお前の寝てるベッドに宇宙人小娘が潜り込んできた時だな。

確かにお前はうわ言の様にリアスの名を呼んでいたぞ』

 

(何で起こしてくれなかったんだよ……)

 

『別にリアスの名を聞かれた所で困ることは無いと思っていたからな。

宇宙人小娘が呼んだだけで本気になるだなんて誰が思う?』

 

(ぐっ……)

 

 

 最も触れられたくない部分の中でも最高峰ともいうべき地雷、リアスについてをララに聞かれた事につい脊髄反射で反応してしまった事にただ後悔しかないリト。

 あの過敏すぎる反応さえ無ければ、ララとて単なる寝言なのかと納得していた筈なのに、あんな本気にしか見えない態度を示したせいで逆にララに対してリアスを記憶させてしまった。

 

 一歩後ろを然り気無く向いてみれば、明らかに昨日自分が出した態度を引きずってる様だし単純にめんどくさくて仕方ない。

 

 

『リアスが忘れられないのは解るが、単に聞いただけの小娘にそんな態度をしたともしリアスが知ったら怒るだろうな』

 

(ぐ、ぐぬぬ……!)

 

 

 美柑とララには絶対に聞こえないドライグの言葉が今はリトであるイッセーの心をグサリと刺す。

 確かに今のこのヤサグレた姿を見たらリアスは怒るかもしれないし、ドライグの言うとおり別にララに悪意があった訳じゃないのもわかる。

 

 あの時は完全に頭に血が昇ってしまったが、思い返せば返す程、ちょっと悪い様な気もしないでもなくなってきた。

 

 

『悪いと思うなら少しは詫びでもいれるんだな』

 

(詫びって……そこまでするかよ)

 

『お前の態度は基本的に他人に対して攻撃的すぎるんだよ。

まぁ、転生の神やらアヤセカズマだのというふざけたカスを相手取ったせいでそんな性格になってしまった感は否めんが、ここはどうであれそんな世界とは別物なんだ。母親の胎内から出てきた瞬間命を落とした結城リトの身体に宿って生きる以上、少しはその過剰な警戒心を薄めても罰は当たらんだろう?』

 

(バカな、リアスちゃんやサーゼクスさんやミリキャスやガブリエルさんやヴァーリやアザゼルさんやコカビエルさんみたいに接しろとでも?)

 

『そこまでせんでももっと普通に接してみたらと言ってるんだ。お前は一々極端すぎるんだよ……』

 

(…………)

 

 

 命を互いに預け合った仲間達とララ達はまさに次元が違うし、同等に接する事はリトにもできないが、ドライグは同じとまではいかないまでも、少しだけ向き合ってみたらどうだと、まるで奪われた兵藤イッセーとしての両親の代わりが如く諭す。

 リトとしても独りになった時からずっと一緒である相棒を無視できない訳で……。

 

 

「じゃあまた夕方」

 

「うん、頑張ってねー!」

 

「ふふ、そっちもね?」

 

「…………」

 

 

 美柑と軽い挨拶を交わして別れ、彩南高校へと向かって歩を進める間、ララとはまさに二人きりになる。

 

 

『ほれ、何か話してみたらどうだ?』

 

(何を話すんだよ? 天気が良いですねとかか?)

 

『知るか、餓鬼じゃあるまいしそこは自分で考えろ。俺は寝る』

 

(ちょ、おい!? 散々焚き付けておいてアドバイスゼロって―――おい! おーーーい!?!?)

 

 

 まるで某動画サイトでスルーされるサイヤの王子の息子みたいな大声を精神間とはいえ出すリトを無視してドライグはさっさと寝てしまった。

 

 

「……………」

 

「…………………」

 

 

 美柑と別れてから学校までの道。

 通学路というのもあって小中学生や会社へと通勤するサラリーマン、散歩をするご老人等と何度もすれ違う中、ただ無言で歩くリトとララは互いに微妙な気まずさのせいで話ができない。

 

 朝は美柑という仲介人が居たのと別にドライグに指摘される前だったので普通に話せたかもしれないが、指摘された今、微妙にどう話して良いのかわからない。

 

 

(クソっ! 高々宇宙人相手に何を後込みしてるんだ俺は……)

 

(うー……昨日の事もあって話しかけ辛いよー……)

 

 

 あの小うるさいロボットのペケは今本物の制服をララが着ているのでスリープモードになっていて何も言葉を発してはこない。

 リトと出会う前のララであるなら、その天真爛漫さでぐいぐいと来ていたのだが、リトに対してのみ下手な事をすれば本気で嫌われてしまう。そしてリトに嫌われたくないという思いがある為、彼女らしからぬ勢いの無さだ。

 

 

「あのさ……」

 

 

 そうこうしている内に学校も近くなってきた頃、自問自答している内に訳のわからない開き直りをし始めたリトが隣を歩くのすら躊躇って少し後ろを歩いていたララに話し掛けた。

 

 

「え? な、なぁに?」

 

 

 昨日の事もあるし、美柑を介さなければ話も出来ないだろうと思っていたララはちょっと驚きながらも慌てて返事をすると、なんとリトがララの歩幅に合わせ、歩くスピードも減速させ、隣を歩き出した。

 

 

「昨日の事なんだけど……」

 

「! う、うん……ごめんね、昨日は変な事聞いて……」

 

「いやそれはもう良い。単に気になっただけなんだろうし、俺もちょっと過敏に反応しすぎた」

 

 

 リトが自分に謝った。その瞬間ララの目はこれでもかと見開かれ、どう返して良いのかわからず曖昧に頷く。

 

 

「昨日も言った通り、その名前は口にしないでくれ。特に美柑達の前では絶対に言わないでくれ……」

 

「うん……。あのさ、美柑は知ってるの?」

 

「いや知らないし、俺も不覚だったよ。まさか寝言で知られるだなんてな」

 

「………」

 

 

 昨日とは違い、冷たい表情や声は抑えられた言い方のリトはそのまま前を向いたまま話を続ける。

 

 

「その……なんだ、悪かったな。昨日は完全に八つ当たりだった」

 

「え……」

 

 

 謝った。他人にはかなり攻撃的なリトが今はっきりと

謝った。

 言ってしまえばそれだけの事であり、ララとしても許してくれたんだと喜ぶつもりだった。

 だがララの心情は喜びとは別のものもあった。

 

 

「リト……」

 

「俺は『昔』から他人に対してどうも構えてしまうもんでね。正直今だってお前を信用できるかわからない。

けどまぁ……美柑とああも仲良くしてくれてる訳だし、俺もそろそろ餓鬼みたいな態度はなるべく控えようかなとか何とか思ったりしないでもない」

 

「リトーっ!!!」

 

「あぶね!?」

 

 

 全身にみなぎる歓喜。

 ララは知らないし、リトも自覚していないのだが、それは所謂『飴と鞭』に酷似したものであり、強烈な鞭が続けられる中にあるちょっとした飴のせいで今ララは大変喜んでしまっていた。

 その喜び様は、学校もすぐ近くで他の生徒達が見ている前でほぼ不意打ち気味にリトに抱きつくくらいであった。

 

 

「ええぃ、離れろ鬱陶しい!」

 

「えー……?」

 

 

 一々抱きつかなきゃ生きられないのかこの宇宙人は! と、美少女に抱き着かれてるというのに鬱陶しがるリトが無理矢理引き剥がすと、ララはちょっと不満そうだ。

 

 

「あ、あの一年坊! ララちゃんに抱き着かれてたぞ!」

 

「ふざけんなよ! 羨ましい!!」

 

 

 当然転校初日であっという間に顔が割れてファンまで出始めたララにそんな真似をされればヘイトが溜まるし、その目撃情報も何故かすぐに広まってしまう訳で……。

 

 

「おいリト、お前朝っぱらから正門の所でララちゃんに抱き着かれてたらしいじゃねぇの?」

 

「あ?」

 

 

 完全に犬に懐かれたかの如くちょこちょこ着いてくるララと共に教室に入れば、男子達から嫉妬混じりの歓迎をされてしまう。

 その中にはかなり何とも言えない表情の春菜とかも居るが、生憎リトはまるで知らないし気付こうともせず、嫉妬男子達に向かって辟易したような声で言う。

 

 

「ララの故郷じゃ、信頼の証にああやって抱きつく習わしがあるんだとさ」

 

「なにぃ!? てことは俺達もララちゃんに信頼して貰えれば……!」

 

 

 また適当な事を言って煙に巻き席に座る。

 この口から出任せのお蔭で、もしかしたら自分もという淡い期待を抱いて次々とララの信頼を得ようとあれこれと話しかけまくり、リトへのヘイトを誤魔化せた訳だが、比較的冷静に見ていた猿山だけはどうやら違う様だ。

 

 

「嘘だろリト? 流石にいくらなんでも無理があるぜ?」

 

「あぁ? こうでも言わねぇとうるせーだろあの連中は」

 

「まーな、正直俺も羨ましいと思うしな」

 

 

 どう見てもララからリトへと向ける感情は信頼だのといった程度のものでは無いと、既にサンプルを知ってるからこそ見抜けた猿山は、相変わらずの無愛想顔の友人に苦笑いだ。

 

 

「………」

 

 

 そんなリトの無愛想な態度を遠目から見ていた春菜は、頬杖つきながら猿山と何やら話してるリトと、男子話し掛けられてるララとを交互に見ながら、やはり単なる知り合い関係ではないと確信するのと同時にちょっと凹む。

 

 思わぬ伏兵――というべきか、かなり強力な相手なのはまず間違いないくらいに取り敢えずララは美少女だし、たまたまララがリトに抱きついた現場を一緒に見ていた友人二人が面白いネタを発見したかの如く、群がる男子達を蹴散らしてララに話しかけている。

 

 

「へー、ララさんの故郷じゃ信頼の証にああやって抱きつくんだ?」

 

「ひょっとしてそれだけじゃなかったり?」

 

「…………」

 

 

 籾岡と沢田が探る様にしてリトが口走った話が本当かを確かめる。

 当然そこら辺がかなり気になっていた春菜も然り気無く加わって話を聞こうとすると、ララは男女関係なく魅了する儚げな表情を魅せながら言った。

 

 

「違うよ? 私、リトが大好き。だから抱きついたの」

 

『………』

 

 

 完全に時が止まった。

 それほどまでに衝撃的なカミングアウトかつ、ララの表情に見惚れてしまったのだ。

 

 

「リトの事はまだまだ解らない。けど、私はもっとリトが知りたいし、もっと好きになりたい。

そんな気持ちを抱いたのはリトが初めてだから……」

 

「そ……そう、なんだ……へぇ?」

 

「それはまた……凄いね」

 

 

 さしもの籾岡と沢田も茶化せる空気でないと悟ったのか、何とも言えないリアクションなのだが、春菜は違った。

 

 

「だから負けない」

 

「……!」

 

 

 リトが好きと言った時、確かにララの視線は春菜へと向けられていた。

 幸い誰も彼も――リト以外はララに見惚れていたので気付かれはしなかったが、春菜の気持ちをララは見抜いた上でララはハッキリと宣戦布告めいた行動に出たのだ。

 

 

「……………」

 

 

 真剣な眼差しのララに春菜は一瞬だけ目を逸らしてしまった。

 だが意を決したのか、すぐにララをまっすぐ見つめ返した春菜は静かに頷いた。

 

 

「俺は別に好きじゃないんだけど、てかやめてくんね?」

 

「「……」」

 

『テメェェ! リトォォッ!!』

 

 

 空気を読まないリトがその宣言をアッサリ拒否したせいでイマイチ締まらなかったが。

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

似非オマケ・引き上げる特性

 

 

 無限に進化し続ける異常性である無神臓には副産物的なものがある。

 それは信用した他人を引き上げる――という特性。

 

 それは恐らく宇宙人相手にも適応するのかもしれない―――いや、実際適応した。

 

 

「重要なのは気配の強さや動きを掴むことだ。

お前は目で追うから俺の動きについてこれないんだ」

 

「くっ……!」

 

「って、何で俺を殺しに来たとか宣う小娘相手に解説かましてるんだろうか……」

 

 

 正直拍子抜けしかなかったララの婚約者候補の宇宙人達による刺客の中でもまぁまぁ戦える宇宙の殺し屋少女を適当に一蹴している今日この頃。

 かつてリアスの婚約者を名乗った上級悪魔レベルの殺し屋少女の戦い方が特殊な為、何となくついアドバイスじみたものを送っている事に気付く。

 

 

「ま、まだです……! まだ負けてません!!」

 

「へっ、最初の頃よか随分熱くなってるじゃないか。

しかしだねぇ、残念ながら俺はこれから妹と買い物に行くんでね、今日のお遊びはここまでだ」

 

 

 まあ、鬱陶しいからだろうと結論付けてそのまま切り上げる。

 当然次の日もまた殺し屋少女はやって来て殺すとリトに挑み掛かってくるのだが……。

 

 

「タンマタンマ! 今日はそんな気分じゃないからやめよーぜ」

 

「……逃げる気ですか?」

 

「俺に触れさえできない癖に良いキャラしてんなお前。

まぁそれで良いや、逃げって事で良いわ。んじゃな」

 

「ふざけないでください、私は今日こそアナタを仕留めるんです」

 

「あー! もうわーったわーった! 飯奢るから今日はマジ勘弁してくれ」

 

「………」

 

 

 単純に怠かったので逃げようとするリトを無視して突撃かまそうとする殺し屋少女に対して誤魔化しのつもりでご飯を食べさせる事にしたリトは、ひょこひょことララみたいに着いてくる少女を引き連れ、ほぼ使わずにためまくっていた貯金を解放する。

 

 

「たい焼き? 何だ食いたいのか?」

 

「なぜそんな事を聞くのですか?」

 

「いやだってどう見ても食いたそうじゃん。へーい、たい焼き二つプリーズ」

 

 

 偶々見つけたたい焼き屋が気なる様子の少女にたい焼きを食わせるリト。

 

 

「んー、美柑と………しゃーねーからララの分も買っとこうかな」

 

「…………」

 

 

 異質な力を持つ地球人……というか依頼してさっさと殺さないといけない筈の相手に奢られる殺し屋少女。

 挑み続けても尚、未だに片手で一蹴され続けてるせいか、微妙に殺す殺される関係とは違う方向に進んでいる気もしないでもない。

 いや、ハッキリ殺し屋少女は感じていた……この地球人に挑めば挑む程自分のレベルが上がっている事に。

 

 

「不思議な地球人ですねアナタは」

 

「は? なにが?」

 

「いえ、何でもありません……」

 

 

 理屈はわからない。けれどハッキリとした確信がある。

 この地球人は生まれながらにして他の地球人とは違うのだと。

 

 

「今日こそアナタを仕留めます」

 

「あのさ、お前仲間とか居ないの?」

 

「そんなものは必要ありません」

 

「チッ、なんだよ。もし殺し屋仲間とかいたら、ムッチリボディのもて余した人妻フェロモン出してそうな殺し屋派遣して貰おうと思ったのに……」

 

「…………それは私では不満だと言いたいのですか?」

 

「当たり前だろ? 貧相な小娘とだなんてモチベーションが上がらねぇってんだ」

 

「小娘は良いとして貧相はやめてください。別に貧相じゃないし」

 

「貧相だろうが。まぁでも世の中にはそんな小娘好きの好き者も居るだろうし、落ち込むこたぁ………っと?」

 

「……………。アナタに言われると無性に腹が立ちます」

 

「へぇ? 俺の頬を切ったか。

くくっ、ちょっと気に入ったかもお前を」

 

 

 誰も理解できない……その領域に立つ唯一の地球人に勝つ。勝って……なんか今までムカつく事ばかり言われたので取り敢えず貧相呼ばわりしてきた事を詫びさせて、滅茶苦茶褒めさせてやろう。

 

 直接挑み続ける事で『進化』の片鱗を見せ始めた殺し屋少女は、頬を切ってやることでほんの少しだけ――やっと自分を見始めた地球人を前に静かに笑った。

 

 

「ちょっとだけ相手になってやるよ? 行くぞドライグ」

 

「っ!? その、左腕は……!?」

 

 

 まだまだ差はあれど……。

 

 

 

終了




補足

ドライグが最後のひと押しのおかげで何とかリカバリーできました。

まあ、飴と鞭的効果に発展してエライことになりましたが。


その2
本人は犬様派ですが、何故かどこかの世界線のごとく猫様に異様に好かれるらしい。
周期的に野良猫が集まってスリスリしてくるんだとか。


その3
ヤミたそー

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