ごめん、まだ整理してないのに……。
何でも良いから恩返しが、役に立ちたいという想いは強い。
様々な『事情』を持つ者達を住まわせ、それでも嫌な顔せず受け止める兄の為に……。
自覚は無いものの普通にブラコンであるイッセーは今、血の繋がりは無いけど別の繋がりの強い白音の為に、そしてそれが兄の負担を軽減する事になると信じて、今回初めてリアス・グレモリーにこれまでの鍛えた成果と技術を貸す決意をした。
「まずは力を貸してくれてありがとうイッセー君」
何度も何度も呼び出されては勧誘されまくる事である意味通い慣れたオカルト研究部の部室。
そこの主である部長のリアスやその部下である姫島朱乃と木場祐斗に丁重にもてなされるイッセーは、そんなリアスの言葉に対して軽く笑って首を横に振る。
「別に義心に駆られた訳でもありませんから、そんな畏まらなくても構いませんよ部長さん。
単純に約束だけ守ってさえ貰えたら別にそれでいいし」
「小猫から聞いたわ。今回の事が上手く片付いた暁には、貴方達兄弟に対しての勧誘をやめるねという話を」
「ええ、俺も兄貴も菓子だの茶だのタダで貰えるんで悪くはないんですがね。ほら、周りの目が……ね?」
こっちの条件を飲めさえすれば問題ない。
と、あくまで誠牙の負担や家に匿ってる形になっているミッテルトやアーシア達の為に自分一人が囮になる事を選んだイッセーはさも普通の事の様に隣に座ってる小猫こと白音の頭を手持ち無沙汰故に撫でる。
「勿論、俺が持つ
なので落とし所としてはこんなものかなって」
「よくわかったわ。ならばセーガ君には今回の話もしないし今後の事についてもちゃんと考えさせて貰うわ」
「助かります。それで、俺に協力して欲しい事については白――っと、小猫から粗方聞いてますが、もっと具体的な説明が欲しいのですけど……」
「当然ね。ええっと、これはかなり個人的な話になっちゃうのだけど――」
普通なら少しでも触れられれば嫌がる小猫が、まさに借りてきた猫の様に大人しく、心地良さそうな表情で撫でられている中、リアスは今回の協力者になってくれたイッセーに何故こんな話になったのかを説明する。
簡単に言ってしまえば、親の決めた婚約者とは絶対に結婚したくなく、その意見を貫く為に悪魔同士が決闘の代わりに行う様になったゲームでの勝利を目指すというものであり、だいたいは白音の言う通りだった。
「なるほど、お金持ちのお嬢様ってのも大変なんすね……」
「よりにもよってライザーなのが特に嫌だったのよ。
私には私の理想の男性の像というのもあるし、彼はそんな理想とは真逆の男で……」
「ふーん……」
若干遠い目になるリアスにイッセーはお金持ちのお嬢様にもそれなりの悩みがあるんだなぁ……と何処か他人事の様に思う。
最早完全に自覚はしてないが、持て囃されるだけの容姿とスタイルを持つリアスにそんな感情が殆ど無いのだ。
そんな事よりも今頃家で教育子供向け番組を見てるだろうオーフィスやらミッテルトの今後についてを真面目に考える方に意識を向けてるせいで。
「大体はわかりましたし、俺の力が役に立てるか別にしても協力はしますけど、外様の俺が眷属にもならずに何とかゲームってのに参加するのはルール違反にはならないんすかね?」
「それについては心配ないわ。予め眷属が揃ってないという事でわざわざ向こうからハンデをくれたから」
「そっすか……」
どうやら相手方は既に勝ちを確信しているらしい。
これなら仮に勝っても正式眷属じゃないから……という難癖を付けられる心配は半々で無さそうだ。
「なら良いです」
「ありがとう、これで勝てる確率が上がったわ。いえ、何としてでも勝つわ」
「………」
勝って婚約話を消す事にとにかく燃えるリアス。
こうして親しい後輩の、もしかしたら危なくなる貞操を守るという意味で協力する事になった訳だが、早速とばかりにリアスから細かいゲームのルールの説明を受けようとしたその時、それまで口を閉ざしていた彼女の右腕とも称される黒髪の美少女が、珍しくかなり遠慮した面持ちで口を開いた。
「あの……聞いていたので解ってはいますけど、やっぱりセーガ君は参加しないのでしょうか?」
どうなら誠牙の不参加について何か思う所があるらしく、女王・姫島朱乃はとても高くて買ってくれない玩具をダメもとで親にねだる子供みたいな表情でイッセーに問い掛けた。
「えーっと……?」
「朱乃、聞いた通りよ。
セーガ君は出れないし、イッセー君が協力してくれただけでもありがたいと思わないと」
「それは勿論わかってはいますけど……」
元々協力なんてするつもりも無かった事を考えたら片割れだけでも力を貸して貰える事を有り難く思うのは朱乃とて理解している。
だが、それとは別に朱乃的にはセーガも参加してくれたら……という思いがあった。理由はさておき。
「兄貴まで巻き込んだらその分の収入が無くなりますからね。
それに、弟としては兄貴を巻き込みたくないですし……」
もし誠牙が聞けばまず間違いなく協力してしまうだろう。
人が良すぎて詐欺にでも逢いそうな性格で、挙げ句自己犠牲に走りやすい兄を誰よりも一番知ってると自負できるからこそ、今回は自分一人だけが協力しようと思ったのだ。
故にイッセーは何故か妙に兄に拘る朱乃に対してハッキリ理由を提示して不参加であると話す。
だが朱乃はこの説明に対しても理解はしてても……と残念そうな顔をしている。
「そう、ですわね……」
「どうしたのよ朱乃? セーガ君が居ないと何か不都合でもあるのかしら?」
「い、いえ別に……」
「兄貴に何か言いたいのであれば代わりに聞いておきますけど」
「大丈夫ですわ」
どうにも歯切れの悪い反応の朱乃にリアスもイッセーもさっきから同性の友達になりたいと兵藤兄弟を常日頃から見ていた木場祐斗と首を傾げる中、既に隠しもせずイッセーにもたれて甘えまくりだった白音が思い付いたかの如く言った。
「あぁ、もしかしてセーガ先輩とキャッキャうふふな事でもしたかったとか?」
「っ!? こ、小猫ちゃん!」
「は?」
半分冗談で言った白音。
しかしその瞬間、目に見えて朱乃が慌て始めた瞬間、部室に居る者達は悟ってしまった。
「え、まさか朱乃……?」
「ち、違います! 別にそういう訳ではありませんから!」
「目に見えてテンパってるじゃありませんか」
「い、いきなり小猫ちゃんが変な事を言うからよ!」
「いやー、それにしたって慌て過ぎじゃありません? てか兄貴っすか? ………あー、マジですか?」
「だ、だから違う!」
どう見たって違う様には見えないくらい慌てふためく朱乃にイッセーは内心『おい兄貴、マズイぞ』と、今頃何の文句もなくバイトをしてるだろう敬愛する兄に対して呟いた。
「別にバカにする訳じゃありませんから安心してくださいよ。
ただ……うちの兄貴はちょーっと難しいっすよ?」
「難しい?」
違うと主張する割りには、弟のイッセーの難しいという言葉に機敏な反応を示して耳を傾ける朱乃。
二大お姉さまの片割れがまさかねぇ……と弟の癖に見守る親みたいな心境となるイッセーは、その難しさの理由を伝える。
「愚弟の俺とは正反対に、うちの兄貴は優良物件ですからね。
家事できる、働き者、包容力凄まじい――とまぁ、後70程良いところを挙げたいけど割愛して、とにかくそんな兄貴がモテない訳がないんだよなぁ……な?」
「そうですね。確かにセーガ先輩はね……」
家に居るアーシアとか、白音の姉とかとかとかとか。
理不尽な状況に放り込まれても文句すら言わず、しかも言ってしまえば他人でしかない者達全員の面倒すら見てしまう男がモテない訳が無いと、何故か自慢気に語るイッセーから話を振られて同意した白音は、何か言いたげな眼差しをイッセーに送り返す。
「もっとも兄貴は遠慮してて恋人を作った事はありまけんけどね」
「! へ、へぇ……?」
否定してた癖に興味津々という内心が外面まで貫通している朱乃にイッセーは苦笑いする。
「しかしまさか姫島先輩さんがねぇ……?」
「私も全く気づかなかったわ……」
「まぁ、人を好きになるのは個人の自由ですから俺は何も言いませんが……敢えて言うならウチ兄貴はそう安くねーぜ?」
「だ、だから別に私は……」
「お兄さんが大好きなのねアナタは」
「当然でしょう。自慢過ぎる兄貴ですから?」
「ブラコンなんですイッセー先輩は……」
思いがけない情報により少しだけ場が和やかになった。
本人は全く知らずにアルバイトに精を出しまくってる訳だが……。
さて、そんなセーガはと云えば、贔屓にして貰っているアルバイト先のオーナーさんからお総菜のお裾分けを貰ってホクホク顔で自宅へと帰っていた。
「ほうれん草のおひたしに、金平ゴボウ、それに揚げ出し豆腐か……。ふふふ……」
前世含めてとにかく生きる為に自分を犠牲にして働き続けた結果、仕事先の先輩等々に物凄く好かれやすくなっていたセーガはこの世界でも健在らしく、夫婦で経営しているスナックのママさんからのお裾分けにニヤニヤしていた。
「ただいまー」
イッセーと同じアルバイトをし、今日は自分だけがシフトに入っていた為、当然既に帰ってきてるだろうと思っていたセーガ。
しかし待っていたのはオーフィスとアーシアとミッテルトと黒歌の留守番組だけだった。
「あれ、イッセーは?」
「? 一緒にお仕事をしていたのでは……?」
「いや、今日シフト入ってないぞイッセーは」
「白音も来てないっす」
「……」
帰ってくる自分を出迎え、アーシアと黒歌がいそいそと何時の頃からか脱いだ制服の上着だのなんだのをハンガーに掛けてくれる中、イッセーと白音が家にまだ戻ってない事を知るセーガは、昼間イッセーが連れていかれた事を思い出す。
「もしかして二人で内緒でエッチな事でもしてるのかにゃ?」
その思い出しと同時に黒歌が爆弾を投下すると、それまで冷静だったミッテルトとオーフィスがこれでもかと言うレベルの鋭い視線を黒歌に向けた。
「笑えねぇ冗談っすね」
「無い。あり得ない、イッセーは最初に我と交尾する」
「それもねーよ」
黒歌にしてみれば単なる冗談が、イッセーに惹かれた龍と堕天使にしてみれば笑えない冗談だったらしく、凄まじい形相に黒歌も顔がひきつる。
「昼間白音から何か話をされてたっぽいから、多分それが理由かもしれない」
「話? また悪魔関連?」
「恐らく……」
子犬同士の喧嘩みたいに互いに『うー!』と睨み合うオーフィスとミッテルトを横に、朧気になってしまってる『記憶』を捻り出す。
(確かこの時期辺りにグレモリーさんに婚約の話が持ちかけられて騒動になった―――んだっけ? 多分それについて白音がイッセーに相談したんだろうけど、だ、大丈夫かな)
表面上は皆を心配させまいと平静を装ってるセーガだが、内心はイッセーと白音が心配で堪らなかった。
婚約話を破棄する為のゲームを本来なら眷属となってる筈のイッセーが参加するのだから、ある意味では正しい流れではあるし、もっといえば本来よりも既に何段階も進化してるので、相手方に負けるという事も無い。
無いのだが、それでも心配性なセーガは不安だった。
(俺を巻き込まない様にとイッセーが釘を刺したんだろうけど……)
そろそろ取っ組み合いに発展しそうなオーフィスとミッテルトをアーシアと黒歌が宥めてるのにも気付かず、ソワソワと手狭気味な部屋の中を歩き回るセーガは、イッセーの考えてる事を完全に当てている。
「セーガさん、大丈夫ですか?」
「うぇ? な、何が?」
「イッセーと白音が心配なんでしょう?」
その落ち着きの無さのせいで、宥めてるのに成功し、お互いに『フンッ!』とソッポ向いてるミッテルトとオーフィスを背にアーシアと黒歌が心配してるセーガの心境を見抜いていた。
意外とそこら辺が分かりやすいのは、生前の影響がある為か、少し肩を落としながらセーガが首を縦に振る。
「まぁね、二人の力を疑ってる訳じゃないけど、それでもやっぱりさ……」
「だったら尚更信じてあげないと」
「そうですよ。お二人もきっと無事に戻って来ますよ!」
「そ、そうだな……うん、そうだよな!」
黒歌のアーシアの言葉で少し持ち直したセーガの暗かった表情が明るくなる。
そうだ……イッセーも白音も己ごときに心配されなくても十分に強い。
きっと乗り越えて帰ってくる筈、ならば本当なら必要すらない自分は笑って出迎えるまで。
そう自分に言い聞かせて気持ちを持ち直したセーガは、二人にありがとうと笑うと台所に向かった。
「今日はちょっと奮発しようかな! 腹空かせた二人が帰って来た時の為に!」
そうだ、イザという時は自分が助けに行けば良い。
その為に今まで鍛えてきたんだ。
セーガは慣れた手付きで包丁で食材を切りながら、帰ってくる二人の為に腕によりをかけるのだった。
「ねぇねぇセーガ、そろそろ発情期なんだけど……だめ?」
「だ、ダメですよ黒歌さん!! わ、私だってセーガさんに……」
「気持ちは嬉しいけど、俺には無理だよ。
責任取れるだけの安定収入を持つまでは……」
「だと思ったにゃん。セーガはお堅いにゃん」
「おばあちゃんが言ってたからな……。責任も取れもしない奴に女の子を幸せにできる訳がないって」
「今の時点で幸せだったりするんだけどなぁ~? ね、アーシア?」
「はい。セーガさんとイッセーさんのお陰で今がありますから……」
「イッセーはともかくとして、俺は何もしてないよ……」
終わり
補足
歯車さえくるわなければネオ白音たんと平和に楽しくみたいな事もありえたのだ。
転生兄とも楽しく平和にもありえたのだ。