※クソ嘘予告追加
特性を知った時、この人は世界のパワーバランスを容易に崩す存在だと思い知らされた。
際限無く進化をし続け、限界という概念が一切存在しない。
その特性は数多の冒険者が喉から手が出る程欲しがるだろう事は、客観的な立場から見ても容易に予想できた。
故に、ひょんな事から知り合いになったと思っているロキ・ファミリアのアイズは暇さえあれば、殆ど無名に等しきヘスティアファミリアのホームへと通い、何としてでもあの理不尽とも言えるパワーの一端を取り込めないかと思っているのだが……。
「おーいベル坊~ お前のマイフェイバリット・エンジェルが来たぜ~」
「アイズさん!!」
アイズは龍帝から全く手にもされなかった。
いっそ清々しいまでにかわされ、皮肉にも白髪の男の子にどうやら懐かれて……。
「アナタに用があって来たのですが」
「あ、そう。
じゃあベル坊に戦い方でも教えてやってくれ。俺は二度寝する」
「………」
鍛え甲斐が無い奴と見なされてるのか、それとも一切興味が無いのか。
何時もベルの修行に付き合えと言うだけで、何も教えてはくれない態度にアイズはちょっと挫けそうになるが、それでもめげない。
だって彼の力は剣に通ずるものは無いにせよ、まさに理想なのだから。
何せ手からビームだなんてロマンにも程がある。
意外と男子的憧れを持つアイズはすぐ横でキラキラした眼差しを送ってくるベルにちょっと微笑みかけながら、ホームの中へと戻っていったイッセーの背中をジーッと見つめるのだった。
「よしよし、これであわよくばベル坊の筆下ろしでもしてくれりゃあイッツパーフェクトだぜ」
「僕は反対だからね」
そんなアイズの気持ちとは裏腹に、弟分の恋のサポートに全力を尽くそうとするイッセーは、今日もお外で楽しく弟分のベルがアイズと身体を動かしているのを窓から見守りながらニタニタしている。
その横でアイズ―――というよりは、アイズの所属するファミリアの長と犬猿の仲故に、ベルがアイズにうつつを抜かすのがまだ気に入らないヘスティアが、嫌そうな顔で反対だと主張する。
「別にあの子が嫌な子って訳じゃないのは知ってるさ。じゃが丸君を大人買いしてくれるしさ。でも、やっぱりロキの所に居るってなると嫌だ。
それにもし本当にイッセー君の思惑通りの仲になっちゃったら色々と大変なんだよ?」
「大変で結構だろ。恋っつーのは障害が多ければ多いほど盛り上がるってもんよ」
まともな恋なんてした事が無い癖に、したり顔で恋について語るイッセーにヘスティアの目付きは更にジトっとしたものになるが、これ以上文句は言えなかった。
何せイッセーが間に入っていなければ今頃感情に任せて喚いてベルとの関係に亀裂が入っていたのかもしれないのだ。
「でも、ああも頻繁に来られたらそろそろロキ辺りに嫌味でも言われそうだよ……」
「確かに、一応仮にもあの小娘は他所のファミリア所属だからな。
まぁ、文句抜かすのであればはっ倒してやりゃあ良いぜ」
くつくつと嗤うイッセー。
まだアイズの所属する例のファミリアの長たるロキという存在とは会った事すら無いが。
弟分の恋路の邪魔をするのであるなら流石に止められてるので殺しはしないが、張り倒してでも公認させるつもりだ。
張り倒す程度で済ませるのであるなら、ヘスティアも良いと言ってるし、何の問題も無い。
「そもそもあの子って、イッセー君に師事を仰ぎたいから来てると思うんだけど……」
「教える意味が無いだろ。力の使い方からしてまず違うんだし。お前が教えろってんなら少しは見てやっても良いが……」
「…………あの子には悪いけどイッセー君までだなんて嫌だ」
「だろ? だから教えないよ俺は」
現時点でベルとイッセーが家族として加入したこの状況でイッセーまでもがアイズに構い始めたらヘスティアは本気で泣き喚ける自信があり、小さく、罰が悪そうに嫌だと言った。
千歩程譲ってベルはまだ未熟だし、何より発現させた特性もあるのでアイズ相手に鍛練するのは我慢できる。
だがその上にイッセーがアイズに親身になって教え始めてしまったらと思うと、ヘスティアは嫌だった。
「もしイッセー君が居なくてベル君だけだったら今頃、物凄く嫌な奴になってたよ僕は。……………今も嫌な奴だけどさ」
「愛着を持った者に対する執着心は俺にも分かるちゃあ分かるが、前にも言った通り、執着し過ぎて俺みたいに全部を喪うはめになるぜ?」
「わかってるよ……。イッセー君がそこの所を気にしてくれてるって分かるから何とか我慢出来るんだし」
「別にお前の為じゃないんだけど……」
ヘスティアの言葉に対して微妙に嫌がる顔をしたイッセーだが、出会った当初に比べたら相当ヘスティアの為に行動しているし、そもそもこんな気安く会話すらしてない筈だ。
ほんの少しでも懐に入れた相手に対しては絶大なる献身を示し、その者に対しては命を投げ出してでも何かをしようとする。
それが本来無意識に封じたイッセーの性格であり、ヘスティアもこの前の事で十二分に理解し、嬉しく感じている。
「……」
「よし! やれベル坊! ドサクサに紛れておっぱいにダイブしてやれ――ええぃちくしょう! あの小娘め、そこで避けるんじゃねぇ!!」
窓からベルとアイズの修行風景を見ながら煩悩丸出し発言をしまくるイッセーをジーッと見つめるヘスティア。
ベルの兄貴分で、人外嫌い、口は悪いし、その上短気。
そんな彼の動向がヘスティアは最近気になってしまっている。
彼が人妻にナンパを仕掛けて玉砕したと聞けばもやもやとした感情が出てくるのは何時からだったか。
彼が拭えぬトラウマを抱えたままだと知って、心の底から何とかしてあげたいと思い始めたのは何時からだったか。
声を出せば粗暴な言葉遣いばかりなのに、悪夢に魘された時は誰よりも弱気な姿を見て包み込めてあげられたら良いなと思ったのは何時からだったか。
とにかくイッセーの事が気になって仕方ないと最近ヘスティアは思う。勿論ベルの事も大切な家族と思っているけど、イッセーに対しては家族よりももっと強い……。
「チッ、小娘め、横から口でも挟んで隙を作らせみるか?」
「はぁ……」
ブツブツと如何わしい事を考えてるその横顔を見つめながら、ヘスティアは深くため息を洩らすのだった。
そんな日常を過ごしていく中、一切寝ずに行動し続けるのは流石に無理なイッセーは、相棒のドライグやヘスティアに説得される事で、おっかなびっくりに眠ってみることになったのだが……。
『ふふっ、待ってましたよ先輩♪ ほら、前より強くなれました。これで先輩にもっと
案の定、意識を手放したイッセーはトラウマの元凶ある白猫が夢として出現する。
『痛い……あは、あはははは! 痛い、凄く痛いです先輩! でも、でも……! はぁ……ん……キモチイイ……もっと、もっと痛みをくださいよぉ……』
殺しきれないという悪夢。
尋常ではない速度の進化によって迫り来る恐怖。
苦くて辛いその思い出はどれだけ忘れてしまいたくても忘れられず、睡眠というコントロールが効かなくなる時間になる事でイッセーの精神の中をミキサーの様にかき混ぜてしまう。
「く……ぁ……!」
「イッセーくん……」
ベルにだけはこの姿を見せたくない。
だから悪夢を再び見るようになってからは寝る時間を大幅に―――それこそ一睡もせずに居た訳だが、人として生きる限りは限界がある。
いくら進化をしようが寝るという行動をしなければストレスが溜まってしまうのは元が人間故に仕方ないのだ。
だからこそベルから離れた小部屋で眠るのだが、やはり悪夢を見ずに寝るのは不可能だったらしく、心配したヘスティアが見たのは、魘され続ける苦しそうなイッセーの姿だった。
「や、め……ろぉ……!」
何もできない。本人からも『お前に出来る事なんて何も無い』と言われた。
けど、それでもヘスティアは自分で出来る事が何かある筈だと思い、魘されるイッセーの手を取って握り続け、落ち着くのを願った。
「やっぱり僕じゃダメなの?」
魘され続けるイッセーに対して問い掛けても返事は無い。
家族と思っても、その家族の抱く苦しみに対して何も出来ない自分が悔しい。
恐らくベルですら無力となるこの苦しみを……。
「えっ?」
珍しくセンチな気持ちになっていたヘスティア。
だが、その時握っていたイッセーの手が確かにヘスティアの手を握り返した。
「う……ぐ……」
「イッセーくん……?」
まさか起きたのか? と思って顔を覗き込んでみるが、イッセーの顔色は悪いまま魘されており、起きている様子は無い。
時折聞こえる『近付くな』という譫言により、きっと例の白猫に追い回されている夢なのだろう事は予測できる為、握り返してきたこの手は何かにすがりたいという意味での事なのだろう。
当初驚いたヘスティアはそう考え、ただその手を握り続けて少しでも悪夢による精神的負担を減らそうと思ったのだが……。
「ゼノヴィア……イリナ……ま、待って……くれ……! おれを……ひとりに……しな……いで……」
「っ……!」
この手を握り返した理由を聞いてしまったヘスティアの胸がズキリと痛む。
ゼノヴィアとイリナ……その名はかつてイッセーが大切に想った女性の名。
他の誰にも代わりにはなれない、イッセーにとって永遠に忘れることはない愛した者。
「…………………」
わかっている。どう足掻こうが自分に代わりは務まらない。
それはイッセー本人からもハッキリ言われた現実。
しかし――それでも……。
「僕はその二人じゃないよイッセーくん……」
ヘスティアの胸の中はチクチクと見えない痛みが残る。
「なんだかなぁ。乱暴な癖にこんな面を見せられちゃうんだから卑怯だよ。
どうせなら完璧な暴君で居てくれたら、きっとこんな気持ちにもならなかったのに……」
自嘲気味に笑い、魘されるイッセーの額に触れるヘスティアは自分の前で二人の名を譫言で呟くイッセーにその心中を吐露する。
「本当に、なんだかなぁ……」
どうせなら一切の妥協を許さない人外嫌いを貫いて欲しかった。
自分を所詮は人ではないからと、心を閉じてくれていれば良かった。
そうでなければ、ほんの少し見せてくれる優しささえなかったらこんな気持ちも抱くことはなかったのに……。
「ん……ぅ……?」
「あ、起きた。大丈夫かいイッセーくん?」
「ヘスティア……? ………………………何でお前がここに……」
「だって眠ったら嫌な夢を見るんだろ? 僕じゃあ役に立つかどうかはわからないけど、ちょっとでも悪夢がマシになれるかなって……」
「……。悪い」
「っ……!? そ、そんな顔して謝らないでよ。どうせなら『余計な真似をするな』とでも言ってくれた方がイッセーくんらしいのにさ……」
「……。ゼノヴィアとイリナが先に逝った時の夢を見てた。多分俺は二人の名前を譫言で連呼してたと思う。だからだよ……」
「してたよ、でも謝る必要はないよ。
確かにちょっと悲しい気分だけど」
ベルと一緒に家族になりたい……。ヘスティアは悪夢から覚めたばかりか、異様なまでに素直なイッセーにただ想い続けるのだった。
始まりもあれば終わりもある。
イッセーにとって、それは始まりなのかもしれない。
「えーっと、誰だっかなぁ~? ウチのベル坊に嘗め腐った台詞を吐いてくれたのは?」
「口は悪いけど根は良い奴? くっくっくっくっ! ウチのベル坊が傷ついた時点でそんなものは無意味なんだ。えぇ、お手もできやしねぇ犬風情が」
たったひとつの地雷を踏んでしまったが故に出て来たのは、自信という積み重ねを容易に踏み潰す遥か怪物。
「へぇ、あの小娘のチームメイトだから容赦して欲しいってのか? そりゃあ無理な話だなァ?」
カタログスペックで語るなら、遥か格下のファミリアに所属する少年を勢いでバカにしてしまった。
それが終わりからの始まり。
「ウチのベル坊がおたくの犬ころのせいで精神的苦痛を味わいました。
今すぐこの場所を粉々にされるか、一人一人の両足引きちぎられるか、全員まとめて九分殺しにされたいのか……優しいベル坊が許すというので俺もこの辺りで妥協してやろうと思うのだけど――さぁ選択しろよ?」
モンペは基本的にしつこく、当事者が許しても尚薄ら笑いを浮かべながら、根城まで乗り込み、唐突すぎて逆に困惑するファミリアの長を揺すり始める。
「お、狼人は種族柄そういう傾向があるんや。わ、悪気は無いというか……」
「ふーん、じゃあ今から悪気の無い俺がその犬コロの両手両足を逆に折り曲げても許すんだな?」
「ひっ!?」
ちょっと魔が差しただけだった。
最近チームメイトのアイズが弱小ファミリアの小僧とよろしくしているのを見て、つい嫉妬心で言ってしまっただけだった。
なのに、それなのに、出てきたのはモンスターペアレントも真っ青な
「光栄にでも勝手に思え。力は全盛期とは程遠いが、本気になるのはこの世界では貴様等で最初で最後だァァッ!!」
咆哮と共に大気が暴れ、全身から迸る赤いオーラは地面を引き裂き、星全体を震えさせる。
一人の人間が持つ力としてはあまりに異質であまりに強大。
人の身だったその身体は龍の鱗に覆われ、目の周りは赤く縁取られ、その瞳の色は全てを平伏させん金色。
歴代赤龍帝の誰とも重ならない全く新しく、異質な領域。
深紅に燃える紅蓮の赤龍帝。
「チッ、あのクソガキに殺られた頃よりもやっぱり落ちてるが、十二分にぶちのめせる」
その姿は黄金の大猿と化した男が理性を取り戻す事で至った深紅の形態に酷似しているが、誰もその元ネタを知る者は居らず、力の質から姿の何もかもが変質したモンペ男の姿に誰しもが目を奪われ、誰しもが動けない。
「おい、
「…………へ? う、ウチのこと?」
「他に誰が居るんだ? えぐれ胸めが」
「や、やめてくれへん? それ言われるのいちばんキツイんや」
どうしてこうなったんだろう……。絶壁だのえぐれ胸だの戦闘力0だのと地味に罵倒されまくりの神様は、段々とサド丸出しな顔になって割りとコンプレックスな部分を罵倒されればされる程、あの折り合いの悪い胸だけは無駄にデカい女神がニヤニヤしながら小さく『ザマァ(笑)』と嘲笑っている姿を幻視ししたとか。
「犬コロォォッ!!」
「ギャイン!? お、お呼びで御座いますかァァッ!!!?」
「ベル坊がとても美味い飯をご所望だ……三分以内に用意しろ」
「わ、わかりましたぁぁぁっ!!!」
そしてその後、徹底的な恐怖による脅しにより、悪気はそんなに無かったのに地雷を踏んでしまった狼君は……。
「べ、ベル様! お、お食事のご用意ができました!!」
「えっとあの……」
「だ、ダメですか……? も、もも、申し訳ございません!! ど、どうかこの薄汚い野良犬にお慈悲を! お慈悲をくださいぃぃぃっ!!」
ベルきゅんのパシりに昇格したのだった。
「よし、これでベル坊の肉盾が出来た。これからはベル坊に危険ができてもあの犬ころが喜んで盾になってくれる筈だぜ」
「あのさイッセーくん、あれからロキが部屋に引きこもっちゃったらしいんだけど……」
「さぁ、俺は知らないな。なぁ小娘?」
「私は何も見てない。何も知らない」
「な?」
「『な?』って言われても……。いやイッセーくんがロキにちょっかい掛けられても平気なのはわかってるから安心は安心なんだけどさ……」
補足
懐に入れた相手であれば人種関係なく献身的になる。
だからこそヘスティア様も辛いのだ。
その2
地雷は踏んだらいけない。
仮にもしベルきゅんじゃなくて、ヘスティア様がディスられてもモンペ発動しちゃうでしょう。
続き? 需要どころか単なる自己満なので考えとりません。