色々なIF集   作:超人類DX

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ゲームオーバー手前シリーズです。

これも途中までやってて放置してたのでって感じ。


ゲームオーバー手前編・ちょっとその後

 あれは夢だったのかもしれないとすら思えてしまう衝撃。

 突然襲撃してきた無人のISに対して放たれた龍の咆哮。

 

 ISを乗らず、ただ一人の人間がその龍を拳を突き上げたと同時に呼び出した―――まさに荒唐無稽でアニメの様だ。

 

 

 だが更識簪は見てしまったのだ。

 お流れになってしまった自分の専用機を踏み台にして専用機を有した憎い男を助ける為に、いきなり消えろと言ってきたもう一人の男が放った――

 

 

『龍拳・爆撃!!!』

 

 

 龍の拳を……。

 

 

 

 襲撃IS事件から数日。

 赤龍帝としての力をほんの少しだけ見せた事により、イッセーは尋問されてしまうと箒は思っていたが、目撃者がごく一部だった事と、相手が不法侵入者である事も相まって割りとすぐに解放された。

 

 ごく一部の目撃者が生徒数人と千冬だったのか幸いだった様で、目撃した生徒には他言無用を厳命させる事で何とか上手く誤魔化せたらしい。

 もっとも、バレて大事になった所でイッセーをどうにかできる存在が皆無な訳だが。

 

 

「災難だったわね織斑君? せっかくの試合がおじゃんになっちゃって」

 

「……」

 

 

 さて、そんな目撃者の一人であり、直接イッセーの秘密に助けられた一夏はというと、完全に中止となったクラス代表戦後も変わらずイッセーと接していた訳だが、相も変わらず同室の更識簪との仲は改善しない。

 おかげでシスコンの姉である更識楯無からの嫌味が以前にも増して増えてしまい、今もまたわざわざセシリアと鈴が睨み在ってる真ん中で肩身の狭い思いをしながら朝食をとっていた時に現れて呼び出しをしてきたのだ。

 

 セシリアと鈴がそれを聞いてどんな反応を示したのかはお察しであり、既に一夏の表情は疲れたものになっている。

 

 

「更識には何もしていないし、機嫌を損ねる真似もしていませんよ俺は」

 

「私はまだ何も言ってないわよ? 第一アナタが簪ちゃんを怒らせる事はしないって信じているし?」

 

「………」

 

 

 おどけて信じているだなんて言う楯無に一夏はひっそりと『よく言うぜ……』と毒づく。

 

 

「今日来て貰ったのは他の事なのよ。

ほら、例の襲撃事件の際、アナタと凰さんはどうやって助かったのか気になっちゃって」

 

「外部に洩らすなと先生に言われていますので言うわけにはいきません」

 

「まぁそう言うしかないか。

うーん、あの時はまだ先生方も駆けつけてないし、織斑君と凰さんが撃退したとも思えない。

となれば、他の誰か――例えば第三者が撃退したって推測できるんだけど、何かコメントはある?」

 

「……俺と鈴じゃ力不足とでも?」

 

「あらやーね、そんな怖い顔しないでちょうだいよ? 単なる私なりの推測なんだから」

 

 

 やっぱりこの人だけは苦手だ。

 悪気があろうと無かろうと、キャラからして疲れると一夏は微笑む楯無から目を逸らし、最近ちょっと気になる布仏虚が今留守にしている現状に大きく肩を落とす。

 

 

「虚ちゃんと会えなくて残念ねぇ?」

 

「…………」

 

 

 しかもその心理も楯無に見透かされている。

 虚が居るからこの現状も耐えられるが、もし居なかったらとっくに嫌な先輩と認識していたと思えば、やはり虚は天使だと、一夏は一日一回は姿を見れば挨拶に赴いて話をする虚を恋しく思うのだった。

 

 

 

 

 結局楯無と嬉しくもない二人きりの時間を過ごした一夏は、あまり帰りたくは無い寮の部屋の扉を開け、今日はさっさと寝てしまおうかと考える。

 どうせ同室の簪とは会話も無いし、常にピリピリした雰囲気をぶつけられるだけなのだからさっさと寝てしまった方が余程建設的だ。

 

 

「ねぇ」

 

 

 だがそんな気持ちとは裏腹に、普段は絶対に自分から話しかける事は無い筈の簪が浴室から出た一夏に対してベッドに腰掛けた状態で話しかけてきた。

 

 

「な……なんだ?」

 

 

 唐突過ぎて思わず驚いて声を詰まらせた一夏は内心、もしかして怒らせてしまったのか? と戦々恐々としている中、無口に無口を重ねている簪は口を開いた。

 

 

「あの人って何なの?」

 

「は?」

 

 

 淡白な言い方で何かを訊ねた簪。

 しかし何の事だかわからない一夏にしてみれば、あの人って何だよ? となる訳で、主語が抜けてて意味がわからず首を傾げていると、簪は続けた。

 

 

「二番目に起動させた人」

 

「二番目って……一誠の事かよ?」

 

 

 どうやら一誠について知りたいらしい。一誠の名を出すと頷いた簪に一夏は不思議に思う。

 何で一誠の事を知りたがるのかと。

 

 

「私も見たから」

 

「見たって……何を?」

 

「あの人がISを使わず凄い事をして襲撃者を撃退した所を」

 

「……………!」

 

 

 その答えはすぐに分かってしまった。

 どうやらこの簪はイッセーが見せた原理不明のパワーを使っての撃退風景を見ていたらしい。

 それを瞬時に察した一夏は簪が質問する意味を理解できたが、答えることはできなかった。

 

 

「悪いけど、一誠の許可も無く教える事はできない。

教えたら俺は一誠を裏切ってしまう事になるからな」

 

「…………」

 

「第一、俺もよくわからないし……」

 

 

 一誠の友人で在りたい一夏も原理がわからないらしい。

 ちょっと俯きながら答える姿を見て簪はほんの少し心の中で舌打ちをするものの、この件について一夏に文句を言っても意味は無いのでその気持ちを押さえ込む。

 

 

「一誠に直接聞いても教えてはくれないだろうし、解ってると思うけど他の誰かに話すのはやめた方が良いぜ?」

 

「…………」

 

 

 そう言いながら寝るつもりでベッドに潜り込む一夏に対して簪は内心『言われなくても話すわけがない』と呟く。

 本音もあの場に居てあの原理不明ながら心を奪われる力を見た訳だが、あの姿を他の誰かに話すだなんて勿体無いにも程がある。

 

 だが一夏とは違って、自分はそれほど一誠と親しい訳じゃない。

 いや、それどころか初対面の時点で失せろとまで言われたぐらいだ。

 嫌われる真似をした覚えすらないのに、血走った目と殺意に溢れた形相で……。

 

 

「くかーくかー……」

 

「……………」

 

 

 しかしどうしても知りたい。

 左腕に突然出てきた赤い装甲の様なものについてもISの部分展開では無い事も知っている。

 故に知りたい。

 

 

『龍拳・爆撃!!!』

 

 

 あの、ヒーローの様な姿を確かにした男の事を。

 

 だから簪は引っ込み思案な性格に活を入れ、明くる日からちょっとだけ行動する事にしてみた。

 

 

「一夏~ 今日はアタシと訓練するからね?」

 

「凰さん! 何度も言ってるでしょう!? アナタは二組なのですから施しなんて要らないと!! そうでしょう一夏さん!」

 

「み、みんなで訓練すれば良いんじゃ……」

 

 

 

「朝から大変だな一夏も」

 

「我慢強いどころじゃないな織斑くんは」

 

「それにしても、向こうの方から一夏の同室の更識がジーっと此方を見てるのだが、どうやら一夏を見てる訳じゃないみたいだ」

 

「あ? …………チッ」

 

 

 

「ね、ねぇねぇかんちゃん? やめようよ、盗み見る様な事は……」

 

「………………」

 

 

 観察し、正体を掴む。

 もしかしたら光の巨人になるためだとか、仮面のライダーが変身する為のアイテムを持ってるのかもしれない等と、実はヒーローに憧れを持つ簪は、親友の言葉も無視してひたすら観察しまくった。

 

 

「今日は中華っぽくしてみた。どうだ?」

 

「……………普通」

 

「! そうか! ふふっ♪ その言葉を貰えるだけで私は嬉しいよイッセー」

 

「ふん」

 

 

「毎日箒の手作り弁当か……良いよなぁ一誠のやつ」

 

「!? へ、へぇ、そこまで言うなら作ってあげないこともないわよ一夏?」

 

「時には飴も必要ですものね」

 

 

 

「今日もしののんの手作りお弁当かぁ。今度試しに作ってみようかな? 食べてくれると嬉しいし」

 

「…………………………」

 

「……………。ねぇかんちゃん、その内いっちーが怒ると思うから本当にやめようよ?」

 

「ダメ、まだ変身アイテムを見てない」

 

「そ、そんな物持ってるわけないよ……」

 

「じゃああの時左腕に現れた赤いアレについて本音は説明できるの?」

 

「で、できないけど……」

 

 

 絶対に正体を掴んでやる。

 その妙な決意の炎が簪を突き動かす。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ……ひぃ、ひぃ! ふ、二人とも全然手加減しない……」

 

「訓練というよりは、取り合いが高じてキミに八つ当たりしてる感じだったな。見てて思った事だけど」

 

「取り敢えず水だ。ゆっくり飲め」

 

「さ、さんきゅー二人とも……ぜぇ、ぜぇ」

 

 

 

「チッ、織斑の訓練なんかどうでもいい、何であの人は訓練しないの?」

 

「だ、だって専用機持ってないし、いっちーは整備科志望だって……」

 

「整備科? …………って、待って、何で本音がそんな事を知ってるの?」

 

「いっちーから直接聞いただけだけど……」

 

「何で普通に会話できてるの? ねぇ、何で?」

 

「な、何でって……色々相談したりするから」

 

「は? 私は初対面の時点で失せろと言われたのに? おかしいでしょうそれ?」

 

「ご、ごめん……」

 

 

 皮肉にも、似た声をした者の関心を買ってしまっている一誠。

 それは世間的にストーカーにも近い行為だが、簪にその自覚は無く、ただただ差し置かれて簡単に一誠に近付けてる本音に八つ当たりするのだった。

 

 

「早くベルトみたいな奴出して欲しい」

 

「だ、だからそんなのは無いと思うんだけどな……」

 

 

 

 

 

 セシリアと鈴音は焦っていた。

 というのも、いくらアプローチしても一夏は全く靡かないどころか、最近の一夏は何時も決まって……。

 

 

「あ、虚センパイだ! こ、こんにちは!!」

 

「どうも一夏くん。今日も訓練だったの?」

 

「はい!」

 

「「………」」

 

 

 この三年で生徒会の役員をしたいる布仏虚なる女にうつつを抜かしているのだ。

 二人の無言の睨みを背中に受けても、一夏は虚と話をしていて全く気づく様子がない。

 

 

「お嬢様――いえ、会長がまた何か言われたみたいだけど、代わりに謝るわ」

 

「いえそんな……虚センパイは悪くないですよ」

 

「あの方も悪い方では無いから……許してあげて?」

 

「そりゃもう。妹さんを心配しているからこそだってわかってますし」

 

「ありがとう、そう言ってくれて……」

 

「へへっ……」

 

「「………………」」

 

 

 気に入らない。照れた様にはにかむ一夏の表情を引き出す虚がかなり気に入らない。

 だからつい二人はわざとらしく声を張り上げた。

 

 

「一夏! 早くいくわよ!」

 

「今日はこれからISのシステムについてみっちりご教授致しますので!!」

 

 

 グイッとそれぞれ左右から一夏の肩を掴む鈴音とセシリア。

 しかし……。

 

 

「二人とも、ちょっと後にしてくれないか?」

 

「「っ!?」」

 

 

 今まで見たこと無い、底冷えするような声と表情を向けられた二人は思わず固まってしまった。

 

 

「あ、後ってなによ!!」

 

「そ、そうですわ! ISの事を学ばない訳にはいかないのですよ!?」

 

 

 しかし我が強い二人は負けじと言い返す。

 すると今度はため息混じりで一夏は言う。

 

 

「二度も言わせないでくれよ二人とも?

勉強ならちゃんとする………………だから今だけは本当に邪魔しないでくれよ? なぁ?」

 

 

 まるでどこぞのキメラアントの王を彷彿とさせる冷たい声が再び二人を刺し、今度こそ二人は黙り込んでしまった。

 

 

「あの、お邪魔の様なら私は……」

 

「大丈夫です、邪魔な訳がありませんよ。

それよりセンパイ、その……も、もしよかったらこれから一緒にご飯とか……」

 

「わ、私と? い、良いけど、変な噂をされたら迷惑に……」

 

「迷惑な事なんて何もありません! お願いします、センパイと話をするだけで俺は心が安らぐんです!」

 

「え…?」

 

 

 唐変木とは思えない、緊張した面持ちで虚を誘い、虚もその言葉にほんのり頬を染めている。

 そんな見たくもないやり取りを前にしてもセシリアと鈴音は口を挟めない。

 

 

「一誠と箒は安らぐのですけど、センパイと話すと心臓がムズムズするというか……はは、なに言ってんだろ俺……」

 

「わ、私なんかにそんな……」

 

「何かにだなんてとんでもない! センパイはすっごい綺麗だし! え、えっと可愛いと思います!」

 

「っ!? か、可愛いって……うぅ、あ、あんまり年上をからかうのは……」

 

「からかってませんよ俺は! 本当にそう思ってます!!」

 

「うぅ……か、顔が熱い……」

 

「「……」」

 

 

 虚に対する黒い念を強めすぎてという意味で……。

 

 

「あれが所謂修羅場って奴か。

うーむ……大丈夫か一夏のやつは?」

 

「誰を好きになるのかは織斑くんの意思だからな。こればかりはしょうがないだろ…………確かに刺されやしないか心配だけど」

 

 

終わり

 

 

 

 

 その姿を見た時の衝撃は凄まじく、またその力はやはり本物だと確信した。

 妹の在り方を変えた少年の力は……。

 

 

「無理なのはわかってたけど、これで新しいデータも手に入れられたから良しとしようかな」

 

 

 どこかの国の上空。

 妙な形の浮遊物の中、薄暗い小部屋の主は、部屋全体に設置されているモニターに映るものを見て薄く笑う。

 

 

「龍拳かぁ。ISのエネルギーで再現するのは何とかなるけど、課題としてはその分のエネルギーを溜めるのに既存の機体では三時間も掛かっちゃうって所だね」

 

 

 作り上げ、差し向けた機体がただの一撃――龍の咆哮と共に粉々にコアごと破壊されていく様を映像として眺める一人の女性。

 稀代の天才とまで吟われ、全世界から狙われた若き女の関心は今このモニターに映る少年にむけられている。

 

 

「箒ちゃんの人生観を変えて、その心を独り占めしちゃうってのは気に入らないけど、ある意味変えてくれた事でこの束さんとの仲がそれなりに良くなったのだから、複雑だよねー」

 

 

 その感情は独り言の様に吐露した通り、複雑なもの。

 自分のやった事により疎遠になりかけていた妹の箒との仲をまだ当時幼い少年の存在により、精神的な進化を果たした事で修復する事ができた。

 

 ある意味感謝はしたい。

 したいが……箒の心のほぼ全てを占領するという意味では姉である篠ノ之束としては複雑だった。

 

 

「本当は彼の一部……それこそ髪の毛でも手に入れば万々歳だったけど失敗しちゃったし。

うーん、次はどうしようかなぁ」

 

 

 憎い……という訳ではない。

 寧ろ周りに理解されない何かを抱くという意味ではジャンルは違えどシンパシーすら感じる。

 だから彼の動向は出来る限り把握し、その過程で彼の中に龍とISとは全く違いすぎる力があることを知った。

 

 数年前、何かの目的で空間を無理矢理力で抉じ開けた際見た全身に纏われた赤い鎧の姿と力を倍加させる特性を参考に作り上げた新作は見事に壊されたものの、束は寧ろ天才には及ばない遥か怪物の領域に立つ少年に心を踊らしていた。

 

 

「ホント、強いねキミは。

箒ちゃんが追い掛けるのもわかる気がするよ……ふふ♪」

 

 

 思いは複雑。しかしどこか心が踊る。

 既に何百と少年が自分の差し向けた新作に向かって龍の拳を繰り出す姿を映した映像を再生させながら微笑む天才は、手持ち無沙汰になっていた左手が無意識に自身の下腹部に触れている事に気付く。

 

 

「なんだろうね、この気持ちって……。何となく箒ちゃんに悪いって気持ちになるけど……………ぁ……んんっ……」

 

 

 それがダメな事、イケナイ事だとわかっていても、

束の手は……指は、敏感な部分に触れ、艶かしい声を漏らす。

 

 自分は知っているけど、向こうは知らない……少年の姿を見つめながら……。

 

 

終了




補足

気になりすぎて軽くストーカー入り始めたかんちゃん。

ただ、何時それが地雷踏み踏みになるかが心配だし、本音ちゃまは何気に近付けてるという。


その2
一夏きゅんは癒しを虚さんに見出だしたよ! 色んな意味でよかったね!


その3
はい、大体の予想通りの束ちゃまだよ!
ただし、イッセーくんは認識してないのと、束ちゃまからの好感度は低くはないです。

寧ろ可能性を貰えたという意味では、いじいじする程度には高いんじゃね?

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