中の人ネタが……
対策も何もなく、結局はぶっつけ本番で挑む事になった一夏。
専用機・白式と運の良さで上手いことセシリアを追い込みそうになったが、そこでエネルギー切れを起こして敗北。
結果クラス代表はセシリアに決まった筈なのだが……。
「一年一組のクラス代表は織斑君に決まりました!
一繋がりで良い響きですね~」
『いぇぇい!』
「……………え、何で?」
どういう訳か負けた一夏がクラス代表になってしまっており、何故そうなったのか全く分からない一夏は呆然と呟いた。
「やっぱり二人だけの男子なんだし勿体ないもんね~」
「良かったねーおりむ~」
「いや、だから俺試合に負けたんだけど……」
すっかりクラスが祝福する中、元からそんなに乗り気じゃない一夏は負けた事を主張するが、そこで先日の試合に勝った筈のセシリアがまたしても勢いよく席を立つ。
「それは私が辞退しましたからですわ!」
妙に大袈裟に辞退の所を強めに発するセシリア。
「まぁ、勝負はたしかにあなたの負けでしたわ。
しかし考えてみれば当然のことですし、わたくしも大人げなかったなと反省しまして、クラスの皆さんの意見もうけて一夏さんにクラス代表を譲ることにしましたわ!」
「…………えぇ?」
じゃあ何でわざわざ試合までしたんだよ……と、先日までとは真逆過ぎるセシリアの態度に一夏は微妙過ぎる気持ちになる。
既にクラスメート達は一夏代表オッケーな空気だし、これでは箒とイッセーを付き合わせた意味が全く無い。
「そ、それでですわね、このまま代表となっても危ういので、このわたくしが直々に一夏さんのコーチをして差し上げようかと思うのですが……」
それなのにセシリアは急に照れながらコーチをするとまで言い始める。
別に嫌では無いのだが、同室である四組の更識からどうやって許して貰えるのかとか、何処でバレたのか、その姉から笑ってるけどチクチク来る嫌味を言われたりとか色々と大変な状況だったりするのだ。
そうで無くても一夏的には先日まで自分の突然の懇願に付き合ってくれた箒とイッセーに引き続きコーチをして貰えたら良いのではとも考えてるので、唐変木な一夏はそれをそのまま言ってしまう。
「いや、ありがたいけど、既に一誠と箒にコーチして貰ってるから……」
「むっ……!」
気安い性格により、既に兵藤では無く名前呼びになってる一夏が、空気を読まずに言ってしまうせいで、知らん顔していたイッセーと箒が睨まれた。
「あら適正ランクCの篠ノ之さんと兵藤さんに務まるとは思えませんが?」
妙に毛色の違う敵意を見せるセシリアに箒は『あぁ……』と納得し、イッセーは……無視だった。
「私はオルコットにコーチして貰うべきだと思うが……イッセーはどうだ?」
「まあド素人より国家代表の候補生さんに教えて貰う方が絶対良いとは思う」
「あ、あら……?」
イッセーはともかく、思いの外物分かりの良い箒の反応にセシリアは肩透かしを喰らう中、妙にショックを受けた様子の一夏は自分に近いイッセーの肩を揺さぶりながら捨てられた犬みたいな顔をする。
「そ、そんな! 箒も一誠も俺のコーチするの嫌なのか!?」
「そんな事は言ってないっての。単に効率の問題――」
「でも二人とも生身でもスゲーじゃん!」
「それは然程関係無いだろ」
「ある! まず箒なら何でも聞けるし!」
箒は兎も角として、この二日ですっかりイッセーに懐いてしまった一夏に揺さぶられながらISは専門外と言うイッセーとそれに同意する様に頷く箒。
こんな態度なものだからセシリアからまた何とも言えないジェラシーじみた視線を貰う訳だが、千冬の一言により取り敢えずこの話は終わりを迎え、結局一夏はクラス代表へと選ばれるのだった。
イッセーは無愛想に見えて実は割りとひょうきんな面もある。
例えば……。
「頼むよ一誠に箒~ このままじゃ気まずすぎて胃に穴が……」
「例の四組の女子の件か? まだ和解できないのか」
「だ、だってよ、土下座してもゴミを見るような目をするだけで何も言わないし……」
「いっそキミも黙ってればどうだ? もっとも、俺なら逆ギレでもするがね」
「い、いやそれは流石にな……悪いのは見た俺だし、それに更識の姉さんに何を言われるか……」
「? 更識の姉? もしかして生徒会長の事か?」
「そ、そうそう。どうも姉妹だったみたいでさ……」
「………誰?」
普通に会話は出来るし、軽い冗談も言える。
人嫌いという類いでは無く、他人と親しくなるのを怖がっているといった方が正しいのかもしれない。
人の名前と顔を全く覚える気まで無くしてるのは流石にどうかとは思うが……。
「お姉さんの名前出したら物凄く睨まれた挙げ句『二度とその名を私に聞かせないで』と言ってますます嫌われたし……俺はもうどうしたら良いんだろ」
しかし話は戻るが、一夏と同室の四組の更識なる女子はそんなに見られた事を気にしているのか。
いやまぁ普通に気にする方が正常なのだけど、どうも聞いていると裸を見られたのとはまた別の事で一夏を避けている様に感じる。
「他に怒らせる事でもしたのではないか? いくら何でもキレすぎにしか思えねぇぞ俺には」
「わからない。それについても聞いたけど、無言で睨まれただけだし……」
すっかり私達の部屋に入り浸る事になってしまった一夏は肩を落としながら身に覚えは無いと答える。
うーん、やはり他に理由がありそうだな、更識の反応を聞くに……っと。
「ほらイッセー、おかわりだぞ」
「………」
空になってたイッセーの湯飲みにおかわりをいれないとな……。
イッセーの過去を知った上で無力な私に出来ることはこんな程度だし、できる限りの事はしたい。
「ホント仲良いな二人は。
良いよなぁ、こんな事言うのはあれだけど、折角なら二人と同じ部屋の方が平和だったかもしれないぜ……」
「これでも色々あるんだぞ?」
「俺にはそうは見えないぜ……」
「………」
それが一夏には羨ましいらしい。
うーん……もし私が一夏に惚れていたらどうしていたのだろうか? どう見ても一夏に落とされたオルコットと喧嘩でもしていたのだろうか……?
「やはり此方に居ましたわね一夏さん!!」
「げっ!? せ、セシリア!?」
「まったくもう! 訓練をする約束でしたでしょう!? またこんな所でサボって!」
「悪かったなこんな所で、だが約束をすっぽかすのは良くないぞ一夏?」
「………」
「ち、違う! 俺はまず頷いてすらいないんだよ! なのにセシリアが――」
「ほら早く! おほほ、ではごめんあそばせ篠ノ之さん?」
「えっと、頑張れよ?」
………。無理だな、キャラが濃すぎるからその時点で勝てる気がしない。
これがもし一夏では無くてイッセーに惚れたりしたら……。
「た、助けてくれ一誠!」
「あら兵藤さん? 一夏さんの訓練の邪魔をよもやとは思いますがしませんわよね?」
「別にしないし好きにすれば良いんじゃないか? ただ、余計な事かもしれないが、強引すぎると嫌われるぜ?」
「っ!? よ、余計なお世話ですわ! フンッ!!」
いやこれも無いな。仮にあってもイッセーなら即断るだろうし、何よりイッセーはリアス・グレモリーが……。
「嵐の様な小娘だな。ああいうの苦手だな……ツラと身体はまぁまぁだけど」
うう、考えるのはよそう。初めから芽が無い相手を好きになった自分が悪いにしても凹んでしまう。
はぁ……良いよなリアス・グレモリーは。
リアス・グレモリーの視点での夢を何度も見てるけど、イッセーは凄い優しいし強いし裏切らないし……ハァ。
その男らしさに絆されてしまったセシリアにとって、兵藤一誠と篠ノ之箒――特に箒はライバルに思っている。勿論一夏についてのだ。
「織斑君、クラス代表就任おめでとー!」
『おめでとー!!』
見た限りでは箒からは一夏を大事な友人としか見てないようにみえる。
だが一夏からはどうも……。
「いやーこれでクラス代表戦も盛り上がるね」
「ほんとほんと」
「ラッキーだよね。同じクラスになれて」
「あ、あははは……」
聞けば箒は一誠とも昔馴染みらしく、箒的には一誠の方にそういった感情があるのが見える。
何せ何かにつけて世話を焼くし、それを進んでやりたがる節すら見える。
つまり妙な三角関係に近い関係になっており、そして一誠はといえば特に誰にも興味が無いといった無愛想な態度だ。
今だって一夏の為に開かれた軽いパーティに誘って連れて来られたらしい一誠が教室の隅で箒と一緒に居るのが見える。
「一夏は人気者だな」
「モテそうなタイプっつーか既にモテてんだろうしな」
セシリアにしてみればあの立ち位置の方が都合は良い。しかし余裕を見せられてる様で微妙に気に入らない。
だからこそ一夏の隣をキープし続けるのだが向こうは悔しがってる様子がまったくない。
「どーもー!新聞部でーす。話題の織斑君と兵藤君の取材に来ましたー!」
そんな折りに現れた新聞部の人におおっという声が上がる。
「あっ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。ではまず織斑君!クラス代表になった感想をどうぞ!」
「いやどうぞって言われても頑張りますとしか……」
この取材ついでに自分の存在でもアピールして牽制でもしようかと考えるセシリアだが、一向に自分へのコメントを求められない。
というのも、新聞部の副部長は一夏の他に一誠に興味があるらしく……。
「あ、居た居た! 兵藤君、キミにも何か一言――」
「俺にその声を聞かせるんじゃねぇ! 殺すぞクソボケがァ!!!」
「ぇ……」
和気藹々とした空気は一撃でぶち壊された。
「え、えっと……あの……」
悪気も無く悪意も無く話しかけたつもりが、突然鬼のような形相になった一誠はいきなり黛薫子に殺意混じりに怒鳴り散らした。
「い、イッセー!」
「っ!?」
いきなり殺すぞとまで言われた割りと本気で傷ついた薫子を見て慌てて箒が咎めると、ハッとなったイッセーは驚いて固まる周囲を見渡し、罰の悪そうな顔をしながら俯く。
「す……いません……」
「あ、あの……私の声が嫌いな誰かに似てたとか……?」
「本当にすいません!!」
「あ、イッセー!?」
そのまま教室を飛び出すイッセーと、薫子に謝りながら追い掛ける箒。
残った面々は一瞬にして冷えきった空気に困惑し、いきなり殺すぞとまで言われた薫子も流石に傷ついたらしく、無理に笑って誤魔化そうとする。
「ちょ、ちょっと強引だったのかな私……」
「いや、普通だと思いますけど……」
「何なんですの彼は? こういう場で声を荒げて……」
「兵藤君の顔、凄い怖かったね……」
「う、うん……何時もはあまり表情も変えないから余計に」
自分が悪いのかとすっかりしょげてしまった薫子を慰めつつ、セシリアは元々平行線だった好感度を更に下げてしまう。
そして一夏は出ていったイッセーと箒を心配するのだった。
「…………ちくしょう、脊髄反射的に反応しちまった」
『喋り方以外は殆ど似てたな……グレイフィア・ルキフグスだったかの悪魔に』
「なに? というと確かリアス・グレモリーの兄の妻……だったか?」
『あぁ、自分の夫と娘を捨ててカスに走ったバカな雌悪魔の一人だ。まさかこんな所で似た声の主に会うとは思わなかったが』
教室を飛び出し、外へと飛び出し、偶々あった木を殴り倒しながら頭を抱えるイッセーが何故薫子に怒鳴り散らしたのかを理解した箒は、精神的にまいってるイッセーの背中を擦る。
「そうだったのか、だがイッセー……声がいくら似てるかといってあの先輩はグレイフィア・ルキフグスという悪魔ではないのはわかるな?」
「………わかってる」
恐らく相当嫌いな存在の一人だったのはこの反応で察する事ができる。
しかしだからといってイッセーのやった事は褒められるものではないし、薫子は何もしてない。
「私も行くから、一緒に謝りに行こう?」
「………」
それはイッセーもわかってる、だから頭を抱えるのだ。
故に箒は優しげに、諭すように謝りに行こうと提案し、イッセーは無言で頷き、箒に手をひかれて元来た道を戻る。
「似た声ってのは結構多いものだな。まさかとは思うが他にも居やしないだろうな……」
「もう嫌だ……」
「そんな事言うな、私が居る……といっても頼りにはならないかな……あはは」
「………」
その後戻ったイッセーは箒と一緒に薫子に謝って許してもらえたのだが、その際箒が完全にイッセーのお相手的な認識をされる事になってしまったとか。
「昔イッセーを苛めていた女の声に似ていたらしくて、つい反射的にあんな事を言ってしまったのです。
イッセーも後悔して反省してますので、どうか許しては頂けないでしょうか? ほらイッセー……」
「……申し訳ありませんでした」
「い、いえいえ! そういう事情があったとわかれば私は平気だから、うん!」
「ありがとうございます……よかったなイッセー、良い先輩さんだぞ」
「………………」
「それにしても篠ノ之さんはまるでお母さんみたいね?」
「へ? あ、まぁ……それくらいしかイッセーにはしてやれませんから……」
「………」
「うーん、空気を読めない発言かもだけど、二人の関係の取材をしてみたくなったわ」
終わり
補足
サーゼクスとミリキャスを裏切ったグレイフィアは物凄く嫌いです。
無論リアスを見捨てた裏切り者共も同様ですが……。
その2
お陰で新聞部さんはとんだとばっちりだし、いきなり怒鳴り散らされて軽く泣きました。
その3
皮肉にもこれにより箒さんの母性力が上がってしまってヒロインやっちゃってるという……。