元々駒王学園に通うのは気が進まなかった。
けれどイッセーがあんなにも目を輝かせながら『女子比率が圧倒的なんだぜ!』と言われてしまえば頷く他ないわけで……。
表向きには事故で死んでしまってる事になっている両親の親戚達が支援する形で高校だけは取り敢えず出ないと就職も儘ならないと考えた転生者・兵藤誠牙はこうして入学前から期待に胸膨らせまくりな弟・イッセーと共に悪魔が混ざってる駒王学園へと入学し、なるべく空気になろうと努めてきたつもりなのだったが……。
「うちは親戚からの支援があるとはいえ、それに甘えっぱなしで済ませるつもりは無いんです。
ですので放課後に部活動をやる暇は申し訳ありませんが無いんです」
やはり空気に徹してもほんの少しでも気を抜けば、決壊してしまったダムの様に知れ渡ってしまうらしく、誠牙と一誠の二人は最近とある悪魔にそろそろしつこいレベルでの勧誘をされていた。
「その支援を私が引き受けるわ。そうなれば無理に働く必要も無くなる――悪い話ではないと思うわよ?」
「寧ろ逆に他人である貴女にそこまでして頂く義理もありませんし……」
「お気持ちはありがたいのですし、ハーレム王になれそうな魅力的お話ではありますが……」
別にこの目の前の赤髪の悪魔が悪い訳じゃないし、誠牙的には一誠は仲間になるべきなんだろうとも考えている。
しかし、それは一誠の背景に何も無ければ話であり、今の一誠には無限の龍神やらはぐれ堕天使やら、今素知らぬ顔で羊羮を頬張っている小猫改め白音と中々親密な関係を築いてしまっているのがマズイ。
特に無限の龍神――オーフィスとただならぬ関係だなんてバレてしまえば雪崩式に厄介な事が起きるし、今家で待ってるアーシアの事も表沙汰になって大変な事になるのは間違いない。
今更ここまで来てそれらを見捨てる事が出来る程割り切れた性格はしてない誠牙としては、本来一誠がなるべき転生悪魔道よりも、色々な事があったけどそれでも居てくれる今の数奇な仲間達との日常の方が大切なのだ。
無論、その話をして一誠も同意してるし、一誠自身も確かにこの赤髪の悪魔ことリアス・グレモリーや彼女の右腕である姫島朱乃を眺めて鼻の下を伸ばしっぱなしではあるけれども、仲間になるつもりは無いらしい。
「そこまで断られると何かを隠してる様に見えるのだけど?」
「まさか、俺達にわざわざお声を掛けて頂いただけでも光栄と思ってるってだけですよ」
「そうそう、あのグレモリー先輩にここまで気にして頂けるだなんて、この学園の男子共に自慢しまくりですよ……へっへっへっ!」
ニヤニヤしながらリアスの胸だの脚だのを見るイッセーに、白音が密かに面白くなさそうな顔をしているのを見ながら誠牙は内心ため息を吐く。
「そろそろバイトなので……」
「……。わかったわ、時間を取らせて悪かったわね」
「いやいや、バイト前の良い気付けになりましたよ……ウェヒヒヒヒ」
どこぞの魔法少女的な可愛らしい笑い声――とは似ても似つかないドスケベ心丸出しな笑い声を発するイッセーを連れて今居た部屋――つまり旧校舎の部室を後にした誠牙。
これで諦めてくれたら……と何度目になるかもわからない希望を抱くが、リアスにとって嫌すぎる騒動が近付くにつれて勧誘の話が多くなってる事を思えば、所詮希望的観測なんだろうと大きくため息を吐くのだった。
「マズイ、ほぼ見抜かれてるかもしれないぞ」
「オーフィスとかミッテルトとかアーシアの事がか?」
「あぁ……。というかあの人達の持つ情報網なら寧ろ見抜かれてない方がおかしいしな」
「マジでかー……という事はさっきのも牽制してたって事になるのか?」
「そう考えておいて良いと思う」
学園を出て二人で歩く。
見た目は一卵性双生児の如くそっくりな為、ある意味で目を引くこの兄弟は、先程までの出来事を振り替えって軽く肩を落とす。
「アーシアまではまだ大丈夫だけど、ミッテルトとオーフィスはマズイと思う。悪魔的にも」
「確かミッテルト……てか堕天使と悪魔は一応敵対関係なんだっけ?」
「トップ同士は比較的そうでも無さそうな筈だけどね。
リアス・グレモリーさんは話せば分かってくれるかもしれないけど……」
「他はそうじゃないのかもしれないと?」
「あぁ……俺もそこまで詳しくは無いけど」
「そっか……」
リアスはまだ事情を話せば理解してくれる可能性はあるものの、その他の反応によっては何をされるか分からない。
故に下手にしゃべる訳にはいかず、だからといってこのままにしていたら傷口も拡がってしまう。
どっちを選択すべきか悩む誠牙を近くで見ているからこそ、一誠も上手い手を考えてこの兄の手助けをしたいと考えるが、やはり良い手は浮かばない。
「白音が上手く誤魔化してくれてる内に上手い流れを考えないと……」
「だな。何だかんだでアイツには足向けて寝れねぇよ……。色々とベタベタ鬱陶しい時あるけどさ」
普段は鬱陶しいだのと邪険に扱うような言い方を白音にするイッセーもこの事だけは本当に感謝している様子で、今も多分自分達の事についてを上手く誤魔化してくれているだろう姿を思い浮かべて苦笑いする。
「なぁ兄貴、わかってると思うけどアーシアとミッテルトにはこの事言わない方が良いよな?」
「あぁ、アーシアもそうだがミッテルトも自分のせいだと思うだろうからな」
「アイツ、同族に役立たずって言われて見捨てられてしまったからな……。普段はああだけど、傷付きやすい筈だぜ」
魔女と揶揄されて元居た所を追い出され、堕天使に騙されて危うく死にかけたアーシア。
その堕天使の仲間に役立たずと罵られて見捨てられたミッテルト。
誠牙の微かな記憶に残る限りではミッテルトはそんな事をされる筈もなければリアス辺りに消された筈だが、この世界ではそんな立場であり、不憫に思ったイッセーがわざわざ自分に頭を下げてまで助けてやろうと言ってきたお陰で生きている。
まあ、それのせいでホイホイされた訳だが。
「俺はまだドライグってわかりやすい力があるから注目されてるけど、問題は兄貴の力だ。
確かこの世界には存在しない力なんだろ? 兄貴の剣と召喚される金色の鎧ってさ」
「元が何の力なのかも俺にはわからないし、無理矢理神にねじ込まれた力だからな……狙われるとは思いたくはないけど」
そして神滅具を宿すイッセーと、それに近い力を持つ誠牙。
ハッキリいって地雷集団と呼ばれても反論できないこのメンツの目的はただひとつなのだが、世界がそれを許してはくれない。
『いっそ世界征服でもしたらどうだ? 不可能ではないだろ?』
「よせよドライグ、そんな柄じゃねーよ。特に兄貴はな、『昔』からめっちゃ苦労しっぱなしだったんだぜ?」
「別に苦労とは思ってないよ。
ただ、俺が死んでしまったことで元の世界に居るお祖母ちゃんが心配なだけで……」
『確かロクに働かない親兄弟をお前の働いた金とその婆さんの年金でなんとか生活を維持させてきたんだっけか?』
「……。まぁ、有り体に言ってしまえば……」
「俺が兄貴の立場ならとっくにグレてるね」
「お祖母ちゃんが居なかったら多分そうだったかもな。けどお祖母ちゃんは何時も言ってたよ、『今は辛いかもしれないけど、何時かその辛い分だけ返ってくる』ってな……それと、俺にずっと謝ってたっけな……お前の人生を犠牲にさせてって……。
別にお祖母ちゃんが悪い訳じゃないのにさ……はは」
「兄貴……」
身内に対する自己犠牲精神が凄まじく、それ故にイッセーがここまで慕う理由になっている誠牙は儚げに笑う。
「せめて我が儘を言うなら、お祖母ちゃんだけでも一緒に連れてきたかったかな……そうしたらもしこの立場でもイッセーだって苦労しなかったかもしれないし」
「多分どっちも好きになってると思うぜ俺は」
「こんな与えられた力なんて要らなかったのに……」
生前に心残りを持つ誠牙。
きっと元の世界の自分の祖母なら『頑張って守ってみせろ』と言うだろうと思う……だからこそ与えられた力で気に入らないが、今この手に抱える大切な者達を守る為に注ぎ込む。
「おばあちゃんは言ってたな、『辛いことから逃げても、絶対に追い掛けてくる。だから迎え撃って捩じ伏せろ』ってな。だからやってやるさ」
「勿論俺も協力するぜ? 兄貴達に何かする様ならぶちのめしてやんぜ!」
それが兵藤誠牙の精神。
「あ、イッセーとセーガっすよアーシア!」
「アーシアにミッテルト? どうした?」
「夕飯の材料も無いし、どうせあの胃袋宇宙の猫が来るんだからとアーシアと買い出しっすよ」
「ふーん、オーフィスは?」
「オーフィスさんなら家でおか◯さんといっしょ見てますよ?」
「…………。中身は俺達の数千倍以上生きてるんだよな? やっぱ妙に歳を感じねぇなアイツ」
「まぁ、基本子供じみてるますからね、それよりイッセー、折角だから家までウチを抱えろっす」
「えぇ? 嫌―――あ、おい! 良いって言ってねぇだろうが!」
「ふふ、楽しそうですねあのお二人」
「イッセーも本気で嫌がっちゃいないからな」
兵藤誠牙
転生者
備考・おばあちゃんっ子だった黄金騎士。
「ええぃ! 俺は一人まったり入りたいの! 早く出て………ひっ!? ど、どこ触ってんだよ!!?」
「イッセーが隠してた本を読んだ、どうやらこうやって身体をヌルヌルさせてくっつくと喜ぶ」
「ボディソープで良いですね?」
「寧ろ興奮度跳ね上がりッスね!」
ニャメロン! ヌルヌルサセナイデー!
「大変だなイッセーも……」
「う、うぅ……せ、セーガさぁん……! き、聞いてたらお腹が熱くて……」
「……耳栓して寝ような?」
「あ、ひどーい! そこは黒歌でも呼んでヌルヌルすれば良いって言えばいいにゃん!」
「!? お、お前は黒歌!? ど、どこから入ってきたんだよ!?」
「窓からだけど?」
「む……白音さんのお姉さん」
「ふふーん、どうセーガ? イッセーも白音とあんな事になってるし~?」
「おばあちゃんが言ってた。『責任が取れる男になってもない奴がそんな真似をするな』って。
色々と嬉しいけど断るよ」
「むぅ……お堅いにゃん」
「……ふふん」
「あ、今鼻で笑ったわねアーシア? こんなおっぱいしてるくせににゃ!」
「きゃ!? や、やめてください~!!」
「…………………明日は晴れか」
おわり
補足
取り敢えず生前からクソ苦労したけど、本人はどこぞの天の道を行く人みたいにお祖母ちゃんによってグレずに頑張ってたらしい。