色々なIF集   作:超人類DX

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詐欺はもうしねぇ……


最終予告・デビュー

 交渉(物理)があったとは知らず、ヘスティアから武器を頂戴したベルはますますやる気を燃やしながらダンジョンへと潜――らず、やっと待ちに待ったイッセーのギルド正式登録が許可される日の為ギルドへやって来ていた。

 

 

「ウラノス様による拝見の結果、本日を以てヘスティア・ファミリア所属であるイッセーさんを正式にギルド登録させていただきます」

 

「やったねイッセー! これでやっと一緒にダンジョンに入れるよ!」

 

「おーう」

 

「これが解読不能だったステイタス記録です」

 

 

 受付を行うエイナという曰くベルがお世話になってる女性から手渡されたいつぞやのステイタス表記の紙を若干無愛想気味に受け取ったイッセーはそれを誰にも見られないように広げて中身を確認する。

 

 

 イッセー Lv.無始無終

 

 力・測定不能

 耐久・測定不能

 器用・E 230

 敏捷・測定不能

 魔力・I 0

 

 発展

【神滅】【破壊】【進化】

 

 魔法 無し

 

スキル

永久進化(エヴォリューション)】【龍帝王(ドラゴニックエンペラー)】【献身一途(メルエム)】【破壊(デストロイスタイル)

 

 

「…………」

 

「ウラノス様曰く、こんな人間は見たことが無いとの事です。

正直私もただただ驚くばかりて――」

 

「それ以上余計な事口走ったら、脊髄反射的に声帯捻り潰して舌を引っこ抜く可能性があるので、お互い平和に行こうぜ?」

 

「…………………………………あ、はい」

 

 

 あのわけのわからない文字の羅列が単に計測不能表記になった以外は概ね変わってないのと、魔力と器用さがやっぱりダメであったのを確認して用紙を閉じたイッセーにエイナは恐る恐るといった具合で個人的感想を言おうとしたが、耳が尖ってたせいか返ってきた言葉は辛辣そのものだった。

 

 

「? どうしたのイッセー?」

 

「うんにゃ、別に何でも無いよ。そうですよね、えーっと眼鏡の人?」

 

「あ、はい」

 

 

 あんな事を言われた後に向けられるイッセーの笑顔に、普段ベルから大体の人物像を聞いて知ったつもりだったエイナはただただ頷く。

 曰く、自制は出来るがこの化け物じみた人間は純粋な人間以外を毛嫌いしていて、唯一ベルやヘスティアぐらいしかまともな対応すらしてもらえない―――らしいがどうやら本当だった様だ。

 

 純粋なベルが心配になるが、ベルの様子を見てるとまるで兄弟の様に懐いてるし、若干イッセーが羨ましい。

 

 

「では早速ダンジョンにご案内しますが、今日はお二人で? リリルカさんは?」

 

「此処で待ち合わせしてますのでもう少ししたら来ると思います」

 

「リリルカ……?」

 

 

 どうせ入った所でベルのサポートしかしないつもりであるイッセーはそれっきり一切エイナと目を合わせる事も無く手続きをベルにして貰おうと一歩引くと、何やら聞きなれない名前が出てきて首を傾げる。

 

 

「誰だよベル坊?」

 

「うん、最近手伝ってくれる子なんだ。

イッセーにもちゃんと紹介するね?」

 

「おー……」

 

 

 どうやら独自のコネでも築いた様子で知り合いだと返すベル。

 すると言うが早いか、ギルドの受け付けの前に立っていたベルの元へ小柄な女の子が小走り気味にやって来る。

 

 

「ベル様お待たせしました!」

 

 

 ベルよりも幼い姿の女の子は様付けで呼び、ベルも特に気にするでも無くリリと愛称らしき呼び方をして出迎える。

 ……独自にコネ作れるなら俺ってもう必要なくね? と何となく弟が巣立っていく寂しさみたいなものを感じながら暫く見ていると、ベルがイッセーをリリルカへ紹介する。

 

 

「紹介するねリリ! この人がイッセーで今日から正式にギルド登録を完了させてダンジョンに潜るんだ!」

 

「あぁ、常日頃ベル様が仰っていた……」

 

「…………」

 

 にこにこと自慢するかの様にイッセーを紹介するベルにリリルカは取り敢えず無言で見下ろしてくるイッセーと目を合わせ――

 

 

「どうぞよろしくお願いします」

 

「…………」

 

 

 あ、やばい。あんまり洒落とか通じなさそうなタイプで下手な真似したら殺される。と、本能とも謂うべき勘が働き、三秒で敵意無いぜポーズをした。

 そしてイッセーもイッセーでリリルカが人間では無いことを悟り、衝動的にほんの少しの殺意を放ってしまうものの、ベルの仲間らしいので自制する。

 

 

「あぁ、どうも……」

 

「……?」

 

 

 互いが互いの内面について探り合ってるとは知らずにベルは首を傾げるが、ある意味で自分のお陰でリリルカが魚の餌にならずに済んだ謂わば命の恩人にランクアップした自覚は無い。

 

 

「えーっとだ、ベル坊の方が冒険者の先輩な訳だが、ベル坊の指示に従うよ。

えーっと、キミもそれで良いよな?」

 

「え、ええそれは勿論……あの、私を食べても絶対に不味いですよ?」

 

「食べるかっ!! 俺を何だと思ってんだ!」

 

 

 とにもかくにもイッセーのデビュー戦はしょっぱいものになりそうだ。

 

 

 こうして始まったダンジョン探り。

 一応初心者という事を配慮しようとベルの提案で浅い階層で魔物退治をする事にした訳だが、戦闘に関してだけは信頼可能なレベルのイッセーはあっという間に逃げ惑う魔物を追いかけてまで惨殺しまくっていた。

 

 

「なぁベル坊? もうちょい下でも良いぞ?」

 

「うーん、やっぱりイッセーにとっては軽かった?」

 

「まあ、見た瞬間逃げられたしな……魔物に」

 

「か、顔色ひとつ変えずにズタズタに……や、やっぱり食べられてしまう――」

 

「だから食わねぇよ! さっきから何だお前は!!」

 

 

 本能的に食い殺される恐怖でも感じてるのか、すっかりベルの後ろに隠れてしまったリリルカをスルーし、ベルはじゃあ……と以前アイズと邂逅した階層まで一気に降りる。

 

 

「ベル様のレベルでここまで降りて大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫だよリリ、僕はともかくイッセーは凄いんだ! 10階層だろうとへっちゃらさ!」

 

 

 それまで時間を掛けて五階層辺りまでで引き上げてたのが、いっきに高レベルの10階層まで降りてしまったリリルカは心配するが、ベルはイッセーという安心があるせいか全く怯えも無く、イッセーも特に『あぁ、こんなもんか』と横から飛び込んできたミノタウロスみたいな魔物を二人に気づかれない速度で蹴り殺しながら何食わぬ顔で付いていく。

 

 

「今日は全然魔物が出てこないや……? 僕が死にそうになったミノタウロスも」

 

「そういえば……。

10階層ともなるとその数も強さも凄まじい筈なのに……」

 

「……」

 

 先程の階層では自分を見て逃げていた魔物達だったが、この10階層では怯えながらも襲い掛かってくる程度には強力になっている。

 まだベルの腕では力不足なのを悟ったイッセーは取り敢えずバレない様に後ろからついていく体を装いつつ二人に襲いかかろうとする魔物達を叩き潰す。

 

 そのお陰で全くといって良いほど魔物は現れず、どんどんと奥へと進むベル達。

 

 

「これは売れそうだ」

 

「こちらも中々」

 

 

 その内緊張感も無くなり、心配していたリリルカも10階層ということで高値で取引されそうなものを発掘し始め、イッセーはその様子を暫く魔物狩りを密かにしながら眺め―――ふと思い出す。

 

 

「そういやよベル坊。お前が一目惚れした女ってのは相当な腕らしいんだろ? もしかしたらこのフロアに居るんじゃね?」

 

「え……?」

 

 

 

 別に悪気は無く、ただ思い出した事をそのまま言ったつもりだった。

 するととある理由でベルに近づいたリリルカは作業の手を止め、ベルは頬を赤らめる。

 

 

「そ、そうだけど。今日は何だか魔物も出てこないし、多分居ないと思う……」

 

「ベル様? 何の話ですか?」

 

「? キミは知らんのか? ベル坊が前に助けて貰った女に一目惚れした話」

 

「い、イッセー!!」

 

 

 悪気無しのまま何も知らなかったらしいリリルカに教えるイッセーにベルが恥ずかしそうに叫ぶ。

 するとみるみるとリリルカの機嫌が悪くなるが、恥ずかしさのせいでベルは気付いてない。

 

 

「へー……? そんな事がねー?」

 

「探すか? 俺も見てみてぇ」

 

 

 正直言うとベルも内心この状況ならアイズを探せるのでは? という淡い期待はしていた。

 しかしなんといっても今日は待ちに待ったイッセーとのダンジョン探索のデビュー戦だし、ふと横を見ると妙にリリルカが不機嫌になってる。

 

 何で不機嫌なのかはわからないけど、個人的感情を二人に付き合わせるのは良くないと生真面目な事を考えるベルは首を横に振って断ろうとするが……。

 

 

「……あ、向こうで誰かが戦ってる音が聞こえるぜ?」

 

「え!? ほ、ほんと!?」

 

 

 欲には勝てない訳で……。

 更に奥から音が聞こえるというイッセーの言葉に正直に反応してしまったベル。

 この10階層まで降りれる冒険者は余程の強さがなければ不可能だと知ってる故に、アイズである可能性は高いのだ。

 

 

「どうする? リーダーはお前だぜベル坊?」

 

「ま、魔物同士の争いかもしれないし、よ、様子を見に行くべきだと僕は思ったり」

 

「魔物同士の争いならそっとすべきなのでは? 白々しいですよベル様」

 

 

 ジトッとした目でリリルカに睨まれるが、一度ついてしまった欲の火を消すのはそう簡単では無く、ニタニタしだしたイッセーに後押しされる形で結局ベルはさっきよりも早足――というか最早全力疾走で音のした方へと走る。

 

 すると案の定というか、運が良かったというべきか、音のしたその場所にはベルのお目当ての女性が一人で魔物複数と戦っていた。

 

 

「おーいたいた」

 

「あ、アイズさん……」

 

「………」

 

「間違いないんだな? ほほぅなるほど、中々の趣味だなベル坊?」

 

 

 バッサバッサと剣で魔物を斬り倒す姿を物陰に隠れて覗きながら頬を染めるベルにイッセーが軽く肘で小突きながら茶化す。

 リリルカはすっかり不機嫌になってしまって無言となっているが、アイズを目の前にしたベルは気付いておらず、ただひたすらアイズの勇姿を眺めていた。

 

 

「どうすんだ? 突撃でもしちゃうか? 前に助けてくれたお礼を言いつつ一発どうですか? 的な」

 

「ぶっ!? べ、ベル様に何て事を!!?」

 

「一発……?」

 

 

 そんなベルの背中を余計過ぎるレベルで押そうとするイッセーの言葉に意味を知ってたのか、リリルカが真っ赤になって口を挟むがイッセーは鼻を鳴らす。

 

 

「ふん、草食系(メトロセクシャル)だなんてほざいてるのは只の負け犬の遠吠えなんだよ。

時代はやはり肉食さ、歳なんざ関係ねぇ……気に入った女は強引に迫ってこそ男だぜ」

 

「あ、アナタの言ってる事は只の獣と同じですよ!」

 

「ハッ、キミがそれをいうのか? そもそもキミは――」

 

 

 ベルの教育方針について何故かリリルカと口論し始めるイッセーだが、リリルカの声が大きかったのかいけなかった。

 

 

「………誰?」

 

「「あ……」」

 

 

 物陰に隠れていた三人が剣をしまったアイズに見つかってしまった。

 別に悪いことはしていないのだが、隠れていたというのもあってベルはどうしようかとイッセーに不安の眼差しを向けてると……。

 

 

「あ、おーい、アンタの後ろから魔物が襲ってきてんぞ?」

 

「む……」

 

 

 アイズの後ろから更に多くの魔物が群れをなして姿を現し、物凄く気の抜けたイッセーの声でアイズは振り返りながら剣を抜こうと柄を握る。

 だがアイズはその群れの数を見て思わず目を見開く。

 

 

「数が多い……」

 

 

 そう、多い――いや、多すぎるのだ。

 しかもどことなく魔物達の様子がおかしい。

 一体一体が凶暴化し、まるでひとつの存在を消す為に徒党を組むかの様に囲む。

 

 

「きゅ、急にこんなに魔物が!?」

 

「ど、道理で降りてから今まで全く出てこなかった訳ですよ!」

 

 

 流石にこの数はマズイとアイズは剣を抜きながら考える。

 後ろで騒いでる三人の内二人はどうも戦力になりそうと無いし、ボーッとしてる三人の中では一番年上に見える青年に関しては最早草みたいな気配しかない。

 つまり結局ひとりで倒さないといけない訳で……と考えていたアイズだが。

 

 

「おいお前、取り敢えず下がってろ。そのカスの群れは俺が黙らせてやる」

 

「は?」

 

 

 剣を抜いたアイズに向かってその草みたいな男が強気発言をし始め、アイズはキョトンとしてしまう。

 

 

「どうにも俺のせいで凶暴化してるみたいだしな。くく、畜生共ってのはどこも変わらねぇな」

 

「何を言って……そんな軽装じゃ……」

 

「良いから下がってろっての。

俺が排除してやるんだ……その代わりウチのベル坊の筆下ろしでもして貰うがな」

 

「筆……?」

 

 

 何を言ってるんだこの男は? と筆下ろしの意味がちょっとよくわからないアイズは一瞬考え込むが、その思考は吹き飛んだ。

 

 

「フラストレーションが溜まりに溜まってんたんだ。スッキリさせろよ畜生共……!」

 

『Boost!!』

 

 

 軽装だった男の左腕に赤い光と共に現れた籠手の様な装甲と何者かの声により全身から魔力とは違う赤いオーラがバーナーの様に吹き荒れる。

 

 

「え……え……?」

 

「あ、イッセーが久々に赤龍帝の籠手使ってる!」

 

「え、えっ!? べ、ベル様アレは一体?」

 

「とにかく下がって! アイズさんも早く!!」

 

「ちょ……」

 

 

 意味がさっぱりわからないし、何だこれは? と考えてる間に白髪の少年に手を取られて無理矢理男の後ろまで引っ張られるアイズは両手に紅いエネルギーの塊の様な球体を作り、それを合わせて構える男の姿を見る。

 

 

「まあ、仮にも神が作ったんだ……壊れやしないし加減はしてやるよ。10倍ドラゴン――」

 

 

 その力はまるで神の様で。

 その力は自分をちっぽけな蟻と思わされる程に強大で。

 

 

「波ァァァァッ!!!!」

 

 

 あまりにも理不尽で……。

 数百はくだらない魔物の群れは妙な構えをした男の両手から放たれた鮮血を思わせる赤い巨大な光線により消し飛ばされた。

 

 

「……………。あっら、加減したとはいえ相当無くしてんな……まあ、この状況なら助かったけど」

 

 

 フロアの一部が完全に消し飛ぶ程の力により魔物が全て消滅させた本人は気の抜ける様な声でそれだけを言うと……唖然としてるリリルカを無視して同じく固まってるアイズの前に立つと。

 

 

「はい約束、ウチのベル坊の筆下ろし――じゃなくても良いからせめてデートしてくれ。どうかお願いします」

 

 

 村に居た時以来見なかったドラゴン波なる必殺技を見れて喜んでるベルを横に、デートしろよと強引に迫るのだった。

 

 その後どうなったのか……?

 

 

 取り敢えず地上へと戻ったイッセーはホームへとベルと共に戻るのだが……。

 

 

「イッセー君の華々しいデビューのお祝いをしようと僕は物凄く奮発したんだよ色々と。

なのにさ……なにこれ? 何で?」

 

「おい、言わせて貰うが俺は無理矢理恩を売り付けてベル坊とせめてデートをさせてやろうと思っただけだ。

良いか、俺自身あんな小娘に興味ゼロだ。なぁベル坊、俺の異性の趣味を教えてやれ」

 

「えーっと、純人間で、30半ばから58歳までの人だよね?」

 

「そういう事だ。つまりアレはどうでも良い」

 

「じゃあ何で連れてきたの? 何で居るの?」

 

 

「…………………」

 

 

 ホームの中まで平然と入ってきてジーッとイッセーをガン見するアイズを前にヘスティアの機嫌が過去最低にまで落ち込んでいる。

 

 

「キミもホームに帰りなよ。何でついてきたのさ?」

 

「凄い力を見たのでその正体を……」

 

「……。10階層のフロアの半分が謎の消滅を迎えたって話はイッセー君のせいなんだね?」

 

「フラストレーションが溜まっててよ。10倍まで上げて撃ったら思いの外脆くてな。でも結構スッキリしたので後悔も反省もしない!!」

 

「久々にイッセーのドラゴン波が見れて僕嬉しかったです神様!」

 

「いやいやベル君!? イッセー君の力なんかホイホイ使ってたらダンジョンが完全に消え去るからね!? そこは寧ろ注意しないとダメだから!!」

 

 

 折角イッセーのデビューのお祝いに色々と取り揃えたご馳走も冷めるし、そのイッセーはアイズにストーキングされ、そのストーキングしてるアイズにベルはデレデレで……。

 なにから何まで気に入らない状況にヘスティアはポカポカとイッセーの胸元辺りを叩いて抗議する。

 

 

「イッセー君のばか! キミまでそうなっちゃったら僕はどうすりゃ良いんだよ!!」

 

「どうするって……取り敢えずベル坊とデート――あわよくば夜のプロレスごっこでもさせれば御の字だし。

な、ベル坊だってこの子と夜のプロレスごっこしたいだろ?」

 

「ぷろれす? なにそれ?」

 

「ダイレクトに言うと子作――」

 

「ノー!!! それ以上はいけない!!」

 

 

 何も知らないアイズとベルに意図を話そうとするイッセーの口をヘスティアが無理矢理塞ぎ、アイズに向かって言う。

 

 

「キミはどうしたいんだい? 言っておくけどキミは剣士だろ? イッセー君のスタイルとは合わないよ?」

 

「そうは思えないというか、さっき挑んだらそこら辺で拾った枝であしらわれました」

 

「ワッツ!? そ、そこまでしちゃったの!?」

 

「だって手合わせしたらベル坊に修行付けてくれるって言うから、修行を介して仲も縮まるかなって……」

 

 

 ありふれた物を武器にする特性まで見せていた事を知り、だからここまで拘ってるのかと漸く理解したヘスティアはますます面白くないとイッセーに食って掛かるが本人に反省の色は見えず、逆にヘスティアの右手の甲がほんの少しだけ赤く腫れている事に気づく。

 

 

「おいヘスティア、お前その手どうした?」

 

「へ? いや別に……って僕の事じゃなくてイッセー君が――あ……」

 

 

 話を逸らそうとしてると思ったのか、そうはいくかと威勢を崩さなかったヘスティアだったが、右の手首を掴まれたら一瞬でおとなしくなってしまう。

 

 

「強くぶつけたのか?」

 

「え、えーっと、そ、そうだけど……は、話を逸らそうとしても無駄――」

 

「どこで? つーか何で?」

 

「う……」

 

 

 ジッと真剣な眼差しをするイッセーに一瞬ながらドキドキしながら目を泳がせたヘスティアは渋々手の腫れについて話す。

 

 

「酔っぱらった住人がさ、いや、酔っぱらってたからしょうがないんだよ? 僕のお尻を触ってきてさ……びっくりしてつい揉み合いになって……」

 

「………」

 

 

 単なる不可抗力だと話すヘスティアに対し、イッセーは掴んでた手首を離す。

 

 

「……………そいつのツラは? どんなツラだ?」

 

「!」

 

「っ!?」

 

「イッセー……?」

 

 

 すると明らかに声が低く、明らかに殺意に満ちた形相で特徴を聞き始めたイッセーにヘスティアは『あ、まずい』と思い、近くに居て耐性がまだ全く無いアイズはその殺意の強大さに膝を付き、ガタガタと震えだす。

 ちなみにベルは何気にそんなイッセーに実は慣れており、怒ってるとだけ察知していて割りと平気そうだった。

 

 

「か、顔なんて覚えてないよ……。それに仮に覚えてても教えないよ。絶対に危ないことをするんだろ?」

 

「するわけねーだろ、ちょっとソイツの所行って手首から先切り落として口ん中へ突っ込んでやるだけだし」

 

 

 いやそれが危ない事だから! と何でこんな怒ってるのか神の身でイッセーが嫌う存在であるのを知ってるせいで逆にイマイチわからないヘスティアは落ち着かせる。

 

 

「殺気引っ込めてよ、その子が怖がってる」

 

「……………。チッ」

 

「だ、大丈夫ですかアイズさん?」

 

「だ、大丈……夫……うっぷ……」

 

 

 後少し遅ければ床にぶちまけていたアイズを出汁に何とか落ち着かせる事に成功するものの、精神ダメージが凄まじい。

 

 

「ちょっと変だよイッセー君? どうしたの?」

 

「わかんねーよ、急にイラッとしたんだ。

何でかお前が誰かに嘗めた真似されるとソイツに殺意が……」

 

 

 それもこれもこの前の晩以降、自覚せず持ち始めたヘスティアに対する情によるものなのだが、イッセー自身にもそれがわからず、片手で顔を覆いながら椅子にもたれるように座って大きくため息を吐いていると――アイズを介抱していたベルが悪気無しにこう言った。

 

 

「そっか、イッセーは神様の事が好きになったんだね?」

 

「え!?」

 

「…………はぁっ!?」

 

 

 まるで僕とお祖父ちゃんみたいに! と無垢に笑って言うベルにヘスティアは驚き、イッセーは驚きのあまり椅子からひっくり返った。

 

 

「ベル坊、それはありえない! 絶対に無い! 間違っててもありえねぇ!!」

 

「そ、そんな否定しなくても良いじゃん……かなり傷つくよ僕……」

 

「でもさっき怒った時のイッセーの様子は昔僕が盗賊に浚われた時に助けてくれた時の顔と同じだったよ?」

 

「そ、そうなのベル君?」

 

「はい、本当にそのまま同じで――」

 

「ふ、ふーん? そ、そうなんだー? へへ……」

 

「絶対にありえねぇ!!! 何で俺がこんなちんちくりんなんぞに!? 天地がひっくり返っても無いっての!!」

 

 椅子から転げ落ちた体勢の状態でテンパり気味に否定しまくるイッセーと、ベルに言われて不機嫌回復どころかニヨニヨし始めるヘスティア。

 アイズはそんな様子を見て――というよりイッセーをコントロールできてるベルを見て『あれ、もしかして凄い子?』と変な勘違いをし始めるのだった。

 

 

「そっかー、少しは認めてくれたんだー?」

 

「な、何だその目は? ふざけるなよ、絶対に違うからな。誰がオメーみてーなド間抜けなんぞ……」

 

「えへへ……」

 

 

 兵藤一誠、年齢不詳。

 異界の地にて久々に少年時代の感情を取り戻し始める。

 

 

終了




補足

現状、ベルきゅんをとにかくハーレム王にしたいイッセー君。
ちなみにすでに自分はそんな欲は消えてます……叶えてはいましたし。


 その2
10倍ドラゴン波。
基本状態のイッセーの必殺技のひとつ。撃てば相手は消える。
元ネタは10倍かめはめ波。

 聖剣・枝ンダル
 ゼノヴィアさんから託されたデュランダルを失ってたので、代わりに作った剣。

作り方はそこら辺の枝を拾う→完成


その3
何でヘスティア様が嘗められるとイラつくのかイマイチわかってなく、ベルきゅんに言われて必死こいて否定する。

じゃないと色々と凹むから。

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