あの時は笑って煽ってやったついでに言ったが、本当にリアスちゃんの両親が公開処刑じみた真似を決めたのだろうか?
いや……リアスちゃん自身はある意味俺より苦すぎる思い出があるからクソ野郎の存在しないお陰で影響されていないこの世界の両親に対しても警戒心を一切解いてない様だけど…………本当にこの世界のリアスちゃんの両親が元からそんな感じのタイプだったと言えるのか?
確かに俺みたいなやつをジェネラルとして転生させた事に対して―――つーより、俺自身に対して警戒はしてる様だったし、赤龍帝である事を知ってからは別の意味で警戒してたとは思ったが、それにしたって今までこんな事は無かった。
ましてや娘の意思を無視して勝手に事を進めるだなんて初めてだった。
だからこそ若干ながら俺は疑ってる。果たして本気でこんな茶番を考えて同意させたのか……と。
尤も? どちらにせよ恩を仇で返しまくった元眷属共と自称親友と吹いてるボンクラ糞眼鏡は俺も許さないけど。
永続進化の異常性が一誠、全ての技術を無差別に会得出来る異常性がリアス。
その二つの異常性を互いへと還元する事で、かの有名な
「まず相手を過小評価しないこと、そして無理と悟れば意地を張らずにすぐ逃げる事」
「尻尾を巻いて逃げる事を貶すやつが居たら中指立てながら『じゃあ正々堂々死んでろ』とでも返してやれ。
まぁつまり、キミがこんな茶番に付き合う必要は欠片も無いって事だ」
次の休みの日を使って開催される事になってしまったレーティングゲームを前にイッセーとリアスは
「当たったら最悪死ぬかもしれないけど、まぁ頑張れ」
「キャァァァッ!?!?」
そのレクチャーとは、当たれば間違いなく身体の一部が吹っ飛ぶだろう滅びの魔力が込められた弾を投げ付けられるといったものであり、アイカは普段クラスメートのエロコンビに対してみせる飄々とした態度が無くなり、涙目になって夜の運動場を逃げ回っていた。
「ま、待って! し、死ぬ! 本当に死んじゃう!!」
「その言葉を敵が聞いてくれたら世界は今頃平和だろうぜ」
「そ、それはそうだけ……どぉ!?」
ご丁寧に赤龍帝の籠手でわざわざ倍加まで掛けて殺傷力を高めた魔弾を、アイカの懇願を無視してフルオートライフルの如く撃ちまくるイッセーに手加減する様子は全く見えず、既に着ていたジャージは砂に汚れまくり、大股開きながら時おり着弾の爆発で吹っ飛ばされるアイカは改めてイッセーの隠し持つ鬼畜っぷりに泣いた。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
「何だかんだ言いながらちゃんと全て避けられたじゃない、凄いわよアイカ?」
「そ、そりゃあ当たれば文句無く死ぬと言われたら必死にもなりますし、何より本当に諦めて絶交された方が嫌ですから」
しかしそれでもアイカは弱音は吐いても一度も止めたいとは言わなかった。
それはひとえに漸く自分の感じていた実の親にすら抱いていた差異の答えを教えてくれたイッセーとリアスとの繋がりを切りたくない為であり、リアスの抱える立場上、こういった面は避けて通れないのは既に今回の事で知った。
与えられてばかりの自分が何かできるとするなら、イッセーと同じくリアスを守る力を持つ事。
二人は常日頃から『逃げる事を考えて戦おうとはしなくていい』と言ってるけど、アイカにはそれが耐えられない。
確かに元は一般人だし、神器なんて無いし、戦うだのといった経験だってこの日本人である自分には無縁だった。
だが戦車という位置をくれた以上――
「こ、のぉ!!」
「………へぇ? 逃げるだけじゃなく反撃ねぇ?」
「げ! き、効いてない感じ?」
出来るだけの事はしたい。
弾幕から逃げ続けたのを、意を決してターンし、手を翳して撃ち込んでいたイッセーに肉薄して素人同然の腰の入らないパンチを頬に当てたアイカは一切効いてないと笑いだしたイッセーに冷や汗を流しながら。
「ぎゃん!?」
尻を思いっきり蹴飛ばされるのだった。
「ま、またお尻蹴られた……そ、その内蹴られすぎて大きくなりそう……」
「良かったな。ヴァー―――いや、どこぞの尻好きに口説いて貰えるかもしれないぜ?」
「し、知らない他人に褒められても嬉しくないんだけど私……」
流石に直接攻撃は手加減されたので、蹴られた箇所が消し飛ぶというスプラッターは無かったものの、半泣きになって自分のお尻を抑えるアイカを見たら、クラスメートは果たしてどんな顔をするのか。
リアスに手を貸して貰いながらヨロヨロと立ち上がるアイカは次なるレッスンへと移行する。
「触りは教えた訳だけど、あれからどう?」
「えーっと大体は……ただ、どう引き出すのかが微妙で」
「俺はこう、背中をゾワゾワさせながら出すな。こんな感じ」
悪魔へと転生する事で持つ事になった魔力のコントロール。
純粋悪魔であるリアスが先導してアイカにその扱い方を教え込む訳だが、ただ教えるだけでは無くリアスとイッセーはとある素養を既にアイカに教えていた。
「ゾワゾワ……ぞわぞわ……?」
「えーっとそうだな、背中を指でなぞられた時のあの感じだな。――ほれ」
「ひゃん!?」
「あ、出たわ」
かつてイッセーがリアスと行動を共にし始めてから暫く経った時に会得した滅びの魔力の発現。
本来ならリアスの母の血筋であるバアル家を受け継ぐ者にしか許されない力だが、かつて例外としてイッセーが精神的にも物理的にもリアスと繋がり、その異常性を互いにリンクさせた事で扱える様になったそのノウハウを生かしてアイカにも仕込んでいるのだが、引き上げる特性がそうさせたのか、転生してからそれなりに経つ今、イッセーが悪戯感覚でアイカの背中を指でなぞって擽った瞬間、実に可愛らしい声と共にアイカの手から小さな魔力の固まりが撃ちだされ、地面を軽く消滅させた。
「ほらな?」
「ぞ、ゾワゾワの感覚はわかったけど、いきなりはやめてよ。私背中とか弱いんだから……」
「自分なりの感覚を掴むまではしょうがないわね、もう少しで良いから我慢できる?」
「そ、そう言われたらしますけど……」
「なにこれ、反応がちょーおもしれぇ……」
「イッセーがこれでもかと楽しそうな顔してこっち見てるせいで嫌な予感しかしません……」
普通ならこんなやり方で会得出来る訳はないし、本来ならこのやり方はリアスとイッセーだかこそ可能にしてる芸当だ。
しかしアイカは種族や血筋云々を抜かし、何よりも精神的なものが二人に近いので、二人のアシストという最高の環境があればアイカも可能にしている。
「仮の話、リアス先輩と同じ力を完全に扱える様になったら、二人が手合わせしてる時に見せるあの魔力で作った髑髏の上半身みたいなのも使えるのかしら?」
「修羅の事か? あれはキミにはまだ早すぎるだろ……第一あれって魔力というよりは……ねぇ?」
「指紋と同じで個人に宿った力といった方が正しく、扱える様になるには進化の壁を何段階も越えなければならない――――と、聞いたわ」
「つまり今の私には不可能という事ですか?」
「そうなるし、仮に扱えたとしても最初は本当に辛いわよ? 全身の細胞がズタズタに引き裂かれる様な激痛に襲われるし」
「そうそう、慣れてマスターすれば無くなるんだけど、まぁそれまでは燃費は悪いは、身体中は痛いはで良いこと無しだぜ」
だからこそアイカは自覚していないものの、一般人出でありながら異常過ぎる飛躍的な成長をしている。
それこそ、元眷属や親友を今更自称している者達が嫉妬する程に……。
「取り敢えず今のアイカに必要なのは敵を捻り潰す力よりかは、敵から逃げ仰せる手札と身体能力だ。
もし敵が俺以上にヤバイ変態だったら大変だろ? 捕まったら全身まさぐられた挙げ句犯されましたなんてありえない話じゃねーし」
「そうよ? 勿論アイカをそんな目に遇わせない様に私達も極力傍に居るつもりだけど、絶対とは言えないから……」
「私なんか襲おうとする相手なんて居るんですかねー? リアス先輩ならわかるけど……」
「いや、キミって可愛らしい顔してると思うぜ? なぁリアスちゃん?」
「ええ、冥界に居るような連中と比べてもアイカは可愛らしいわ」
「二人にそんな真顔で言われると少し照れるね……」
挙げ句二人揃って褒めちぎるし、イッセーはどうでも良いとして、リアスとの関係を戻したがる連中さてみればアイカの位置は羨ましいどころじゃない。
もっとも、元が一般人でしかも二人の持つのと同じ素養がある時点で勝ち目なんてあるわけが無い時点で無駄な羨望だったりする訳だが。
リアス達が戦闘の調整をしていたその頃、冥界に戻ってゲームを控えていたライザー・フェニックスはやはり微妙に納得できないものの、どこからか流れてきたのを手に入れた変装してないリアスの写真を眺めながら一人フェニックスの実家の部屋で考えていた。
「やはりおかしいぞ。好みの外見で思わず乗ってしまったが、そもそもこういった写真が何故出回ったんだ? どう見ても隠し撮りしたようなアングルだし」
何やら難しそうな顔で一人呟くライザー
どうやら今になって今回の出来事に違和感を覚えた様であり、今手にしているリアスの写真の出所が気になる模様。
「それにいくら何でも下僕が二人しか居ない相手とゲームで白黒付けさせるのも変な話だし、明らかにリアスに負けさせるつもりにしか思えない。
リアスのジェネラルが言ってた通り、まるで公開処刑だと云わんばかりだ」
リアスを気に入って婚約するのは良いが、その過程に違和感が憑き纏って逆に気に入らないライザーは、あの時は見せたリアスの様子やグレイフィアの態度を思い返す。
「グレイフィア様はどこかリアスに対して戸惑っていたし、比較的両家の仲が良好でてっきり親友かと思っていたソーナ・シトリーを他人だと云わんばかりな突き放し方をしていたのにも驚かされた。
やはり何かあるとしか思えない」
特定の人物というよりは全体に対して拒絶感を示していたリアス。
こんな見るまでもなくどっちが有利だとわかるレーティングゲームで無理矢理婚約話の有無の取り決めをするのもこうして冷静になってみると誰かの作為を感じる他無いし、もっといえばその誰かに利用されている気がして気にくわない。
「リアスを俺のものにするのは良いが、それが誰かの作為から来るものだとしたら気に入らねぇな。
一体どこの誰が俺を利用してるのか……」
結婚自体は寧ろウェルカムだが、それに至るまでの道のりが誰かに誘導されている気がしてならないとライザーは顔を顰めながら写真をしまう。
「まあ、この機会を逃すチャンスは無いしどちらにせよゲームには勝つ。
あの時のリアスの様子を見るからに、ただ自棄になったとは思えないから油断は一応せずにな」
身体を起こし、ベッドから降りて拳を握るライザーは油断はしないと言い聞かせる様に呟く。
…………油断しようとしまいと、爆発物に向かって対爆スーツ無しで飛び込んでる様なものだとはこの時まだ知らない。
終わり
悪魔をここまで虫けらの様に扱う転生悪魔は見たことが無かった……と、後に誰かは震えながら証言する。
「チッ、ルールに殺すのは禁止と明記したのはどこの馬鹿だ? お陰で余計な気まで使わないとならないじゃねーか」
「あ……あぁ………!」
反り血まみれの転生悪魔。
その足元には死にはしてないものの、それぞれ血だまりとなって倒れ伏す仲間達。
実質戦える相手が王を抜かせばこの女王駒を持つ転生悪魔のみと聞かされていた自分を含めた眷属達は気楽にやるつもりだった。
しかし音も無く背後から現れたその少年は顔色ひとつ変えずに次々と仲間達を血祭りにあげ、残った僧侶である自分も今まさにこの腹を空かせて機嫌の悪い獣みたいな男によって半殺しにされるのかと想像すると震えが止まらず、その場にヘタリ込んで動けない。
「加減、加減……こんくらいか?」
「ひっ!」
意図的に手加減されているのに、一撃で死に体同然にされるのをまざまざと見せられた為、その場で軽く拳を振るって確認する動作を行う少年に、金髪で勝ち気そうな少女なその碧眼から涙を流しながらただ震える。
「ゆ、許してください……!」
「は?」
ただ怖い。その気持ちが少女を動かし、少年に向かって地面に額を擦り付けながら懇願させる。
「も、もう私に戦う意思はありません! で、ですからどうかお慈悲を!」
「それ、もし逆にぼろ雑巾になった俺が言ってもテメー等は聞き入れてたか?」
しかしその懇願は少年に届かない。
「まあ、事故だと思って諦めろ。
なぁに、死なない程度にぶちのめすから命は助かるぜ? それにさっき無意味に名乗ってのが本当ならお前はフェニックスなんだろ? だったら手足吹っ飛んでも再生くらいはわけ無い――違うか?」
「ひぃぃっ!?」
少年の身体から有り得ない量の魔力が吹き荒れ、髑髏の上半身の様な形に形成される。
「リアスちゃんは完成体まで出して折ろうとしてるらしいけど、お前はどうやらそんな必要も無いみたいだな?」
「な、なんでもします! アナタ様の言うことを何でも聞きますのでどうかっ!」
「昔同じような事をクソビッチ共に言われた事あったけど、全員もれなくイラッとして生皮剥いでやったっけ? まあ、そんな泣かずともゲームのルールだから殺さないし、いい加減うっさいから黙ってろ?」
「うびゃ!?」
髑髏の腕に掴まれ、そのまま地面に叩きつけられて潰れた蛙みたいな声を出す少女。
その後どうなったかは不明である。
補足
隣人をも引き上げる特性と、模倣する特性持ちが一人に対して教え込めばそらこうもなる。
その2
どうもお尻を蹴り飛ばすのが好きな模様。
そして蹴られて涙目になる桐生さん見てるとゾワゾワする模様――てか桐生さんをおちょくるのが楽しい模様。
その3
最初から警戒してたリアスさんは既に見限りましたが、逆に他人だからこそリアスさんの両親の動向に違和感を感じてるイッセーくん。
答えは果たして何なのか……