バカなと言われても仕方ない。それ程までに空を飛ぶソイツは強いと感じてしまう。
死ぬかもしれない強敵だと。
だがそれでも……。
「戦闘意欲じゃないのはわかってる。けど、どうしようも無く俺はわくわくしちゃったぜドライグ」
『ソーナの小娘以外にまさかこれ程の水準が存在していたとは……。
お前に宿る前から存在していたというのに何故気付かなかった……』
自分の中にある進化の異常性は歓喜の感情を無限に増幅させている。
それほどまでにあの堕天使は進化するに十二分な力がある。
「ゴチャゴチャと余計な言葉は要らんな? 掛かってこい……二人まとめて相手になってやる」
「へへへ、光栄だね堕天使殿。確かにアンタが何者かだなんてこれから分かることだからな――ね、センパイ?」
「ええ……高揚が止められないわ」
星全体を揺るがす程の黄金の闘気を放っても尚余力を感じさせる堕天使へ一誠と眼鏡を外したソーナもまた其々が持つ闘気を解放した。
「! ほう! ほうほうほう!!! その若さでその水準か!! クハハハハ!!! よし、速く掛かってこい!!」
鮮血を思わせる荒々しき赤色の闘気と、静水を思わせる穏やかな蒼い闘気を纏った少年と少女を前にコカビエルの精神もピークに達する。
「行くわよ一誠!」
「くくっ、了解だぜソーナ!!」
今人外同士の闘いは始まった。
「な、何よ……アレは……?」
「あの大きすぎる力を放ったコカビエルと互角に渡り合ってる……」
赤、蒼、黄金の色を其々纏った闘い。
拳と拳がぶつかる度に学園の敷地は悲鳴をあげ、其々手から放たれるエネルギーの塊が相殺し合えばリアス達は虫けらの様に吹き飛ばされる。
「良いぞ小僧に小娘! 今の段階で既に俺を越えていやがる!! こんな奴は俺の相棒だけだったぞ!!!」
「喋ってるとは余裕ね!!」
「現代っ子なめんな!!!」
『Boost!!』
ソーナと一誠の拳を両手で抑え、スパーク掛かった黄金のオーラを更に大きく放出させたコカビエルが投げ飛ばす。
障壁がまるで意味を為さないし、既に学園周囲に張り込んだ障壁は最初のぶつかり合いで破壊されている。
では何故街は吹き飛ばないのか? それは三人が肉弾戦をメインにして闘っているからであり、破壊される度に何とか全員で張り直しているからに他ならない。
ハッキリいってしまえばそれだけで既に英雄的働きをしてるに同等な訳だが、当の本人達は目の前で見せられてる化け物同士の喰い合いとも云える闘争にショックと恐怖を抱いてしまってそれどころじゃなかった。
「あ、あの女もそうだが、あの人間は何なんだ!? な、何故あんな力を……」
コカビエルの力の前に完全に逃げ腰と化していたライザー・フェニックス達がソーナと一誠の説明不能な力について何やら喚いているが、それを答えられるだけの知識をリアス達はおろか、然り気無く戦いを見ているセラフォルーは答えられない。
妹のソーナですらあんな力を今まで隠していて話もしなかった事にショックが大きすぎるのと、コカビエルの力が想定を遥かに超えて強大過ぎたのとと色々とありすぎて。
「こ、これは……うぐっ!? な、なんだ!?」
「あ、アレはシトリー様と兵藤君……? こ、コカビエルと闘ってるのか?」
その頃、やっと遅れて学園から強大な力を感じ取った聖剣復讐騎士と、悪魔祓いの片割れがやって来たが、目の前で繰り広げられる強大な力と力の応酬を前に場違い感が半端なかった。
「「シィッ!!」」
「ぐおっ!?」
「そ、ソーナちゃん……」
一誠とソーナが同時に突き出した拳がコカビエルの顔面と鳩尾をそれぞれ捉え、ジェット機の様に地面へと落下して巨大な砂煙と共にクレーターが作り出される。
「相棒って言ってたって事はまだ本気じゃないだろうぜソーナ?」
「姿は見えない様だけど死なない為にも油断は禁物よ一誠?」
「当然」
息をするかの様な、いっそ踊るようなコンビネーションを見せるソーナと一誠を前にセラフォルーは無意識に親指の爪を噛みながら悔しげに睨んでいた。
それはきっと別の場所からこのふざけた戦いをしてる三人を見てるだろうソーナの眷属達も同じ気持ちなんだろう。
眷属よりも他人である一誠がソーナの動きに120%シンクロし、まるで2対1な筈なのに1対1にすら見えてしまう程の見事な連携。
「プレゼントだぜソーナ」
「ありがとう」
赤龍帝の籠手で倍加した分の力をソーナと折半する為に手を繋ぐ一誠と、それを嬉しそうに応えるソーナにセラフォルーの嫉妬はレヴィアタンの様に増幅していく。
何から何まで気に入らない、ソーナの関心の全てを独り占めする一誠が、ソーナをもっと理解できない場所へと誘導してるのが。
これならソーナの兵士と最近なった匙の方がマシだし、まだ納得できたしひょっとしたら此方側に戻せたかもしれないと思えた。
けど……そんな自分達の事を嘲笑うあの龍帝は――
「ははは!! こんなに愉しい戦いは初めてだ……まだまだ終わらせんぞ!!!」
「……」
「……」
最初から理解できない所があったソーナをもっと理解できない場所に拐う。
黄金の闘気を纏ったコカビエルの一撃を受けて吹き飛んだ一誠をひたすらに殺意の籠った目で睨むセラフォルーは、ダメージによりフラフラになるのをただ待ち続けた。
「くく、良いぞ良いぞ……やはり10%程度で闘うなんぞ貴様等には失礼すぎた」
さっきの仕返しとばかりに地面に叩き落としたコカビエルは、刹那で復帰して膝蹴りを見舞おうとする一誠とその直ぐ後ろから手に蒼いエネルギー弾を複数撃ち込んで追撃の援護をするソーナに向かって心底嬉しそうに嗤う。
(まだ餓鬼ともいえる年齢でよくぞここまでに至った。
くくく、いっそもう周囲にバレても構わんからガブリエルを呼んでペア同士の闘いがしたいくらいだ……!)
わざわざ自分に赤龍帝の抹殺を依頼してきたセラフォルーが今まさにその赤龍帝の――イッセーと呼ばれた少年に殺意を向け、残りの有象無象がアホ顔で見ているのを横目にコカビエルは若い二人のペアから放たれる猛攻を半分は貰って身体の所々から血を流しながら、立場上今この場に呼ぶわけにはいかなかった自分の相棒の姿を思い浮かべる。
ただの偶然顔合わせた瞬間、惹かれ合い、現在までの間にコソコソと会っては互いにその力を高め合った最良のペア。
きっとイッセーとソーナも自分とガブリエルの時と同じ。だからこそコカビエルはこれ程まで充実した闘いを独り占めするのは良くないと思ってしまったのだ。
「ガブリエルゥゥゥ!!!」
「ぬおっ!?」
「くっ!?」
自分ほど闘いを好まないガブリエルは多分呆れた顔でもするだろう。
しかしそれでもこの体感する事のない領域での戦いだけは共に体験しなければならない。
黄金色のオーラを爆発させ、追撃せんと肉薄した二人を弾き飛ばしたコカビエルは充血させた様な真っ赤な目をさせながら更にオーラを爆発させながら最良の相棒の名を叫ぶ様に呼ぶ。
その瞬間、遂にこの闘いの余波に耐えきれなくなった聖剣融合の魔方陣が砕け散り、バルパーが発狂したりその隙に復讐騎士の少年に一刀両断されたり、何気に天然のデュランダル使いだったらしい悪魔祓いにはぐれ悪魔祓いがボコボコにされてたりと、コカビエルにとって全部がどうでも良い事が同時に展開されていた様だが全てが関係なく、その叫びは新たな超越者を呼び寄せた。
「貴方がそこまで誰かに圧されてるなんて初めて見ましたよコカビエル」
「!」
「……」
月夜を照らす夜空に一筋の光が現れ、やがて太陽を思わせる輝きと共に増した光を背に純白の翼を広げた女性が姿を見せる。
「て、天使!? な、何で!?」
「お、おぉ……すげぇ美人が……」
「だ、誰だ? あの美人さんは?」
光と共に現れた天使のその容姿を前に男達は見惚れ、悪魔達はセラフォルーを含めて目を見開いて驚愕する。
何故このタイミングで純粋な天使が現れたのか……そして何故――
「随分と周囲の視線だらけの場所に私を呼んだ様だけど、大丈夫なのですか?」
「そうでもせんとこの小僧と小娘に殺られるからな……。お前には悪いが……」
「いえ、そこは重要じゃ無い。
寧ろ貴方の意思ならば周囲にこの関係がバレてしまおうがどうでも良い。
ふふ、どうやら思わぬ所でコソコソと隠れるのをやめる時が来た様だわ」
傷ついた敵対種族である筈のコカビエルの傍らに、それが当たり前だと云わんばかりに付き、そして当たり前の様に会話しているのか。
「が、ガブリエルちゃん……!?」
誰も理由なんて知る訳がない。
だからもっとも驚いた者の代表としてセラフォルーがその容姿から何からライバル視していたガブリエルに向かって問い詰めようと口を開く。
「な、何でガブリエルちゃんがコカビエルちゃんと……」
「? あぁ、どうもセラフォルー・レヴィアタン。良い月ね?」
「し、質問に答えてよ!」
ライザーや兵士二人やら、復讐騎士等の男子達がガブリエルの容姿に釘付けになる程の――自分の知ってるガブリエルならまず持ち得ない筈の妙な艶かしさを放つ天使にセラフォルーは妙に負けた気分になる。
「見て自由に想像してくれて構いませんよ、わざわざ応えるつもりはありませんから」
「そ、それじゃあ困るよ! だ、だってアナタは天使で」
「天使? あぁ、そうですね私は天使でコカビエルは堕天使。
世間的には敵対関係な筈でしたね――――で、それが?」
全く相手にされてない感満載なセラフォルーがガブリエルとは思えない一言に固まる。
いや、セラフォルーだけでは無く、天使の降臨に思わず膝を折ってたゼノヴィアや、蚊帳の外感満載だったリアス達すらガブリエルの言葉を信じられないといったリアクションだ。
当たり前だ、本来なら天使と堕天使の関係はそういうものなのだから。
「て、天界を裏切ったの?」
「裏切る? ……ふむ、私は一度も彼等に仲間意識を感じた事はありませんでしたよ。
昔から私は『異端』と見なされてましたからね……」
赤と蒼のオーラを放ったまま何時でも動ける様にと警戒しながら此方を見据える少年と少女に対して向ける様な言葉を小さく放つガブリエルが首の関節を鳴らし始めたコカビエルの肩に優しく触れる。
「縦横無神」
するとどうだ、コカビエルの肩に触れながら何かを呟いたその瞬間、それまでソーナとイッセーの二人から受けていたダメージの全てが文字通り消え去った。
「! ……精神構造の能力も同じね私達と」
「幻実逃否――いや、負の面を一切感じない……」
「助かったぞガブリエル。やはりこの二人は俺達と同質だったよ」
「その様ですね。まったく、アナタは闘いの事になると何時もそう。
いい加減子供だって欲しいのに……」
「柵が多すぎるんだよお互い。
だが……それも後少しで終わるかもな」
コカビエルとガブリエルを見て漸くセラフォルー達がそれに気づく。
「そ、ソーナちゃんと同じ……」
「せ、セラフォルー様も今感じました? あ、あの薄気味悪い気配がガブリエルから……」
「が、ガブリエル様がコカビエルと組んでただなんて……そ、そんなの嘘だ……」
一人別の意味でショックを受けてる悪魔祓いが居たが、向かい合う四人に関心はない。
「初めまして赤龍帝さんにセラフォルーの妹――いえ、ソーナさん。
私はガブリエル――見ての通り単なる天使です」
「アンタ見て下の野郎共が前屈みで固まってんぜ?」
「違うわイッセー、校舎の屋上から見てた匙も前屈みよ?」
「ヒュウ♪ 顔に似合わず魔性の天使だねぇ?」
「私にはよくわかりませんが、その割りにはアナタは私を見ても何にも感じてない様に見えますが?」
「当たり前でしょう? 俺が前屈みになるのはセンパイにのみだぜ。
いくら同じ何かを持ってても、同類は互いに一人だけだ」
コカビエルの傍らにいると十倍程艶かしさが増すガブリエルに悪魔ですら大変な事になる中、イッセーは平然と否定し、ソーナを褒めちぎる。
しかし微妙にほのぼのとした気はしたが、それも直ぐに終わる。
「コカビエルの頼みですし、私自身コカビエル以外の同質のものを抱える者がどれ程か気になっていました。
ここから正真正銘の2対2になりますがよろしいですね?」
「当然……くく、もっと本気出せるぜソーナ?」
「ええ、新しい領域に入るわよイッセー」
「ほう、まだ上があるのか……くくく、そうこなくてはな!」
赤と蒼の闘気を更に強めた同質のペアにコカビエルは嗤った。
セラフォルーの依頼を受けておいて本気で良かったと……。
そして今こそガブリエルと共に至った境地で闘う時だと。
「ガブリエル、最初から飛ばすぞ。こいつ等は只の砂利ではない」
「ええ、下手したらこっちがやられるものね」
コカビエルの言葉に頷いたガブリエルがコカビエルと同じ黄金のオーラを全身から放出させる。
「その若さでよくぞここまで……故に俺達も見せてやろう」
「我々の領域を……!」
黄金のオーラを纏ったコカビエルとガブリエルが拳を握り、内なる力を解放する。
ほぼ全壊した運動場の地面が割け、周囲に巨大な岩が舞い、暴風がふきあれる。
「かぁぁぁ……!」
「はぁぁぁ……!」
「うわ!? また地震が……!?」
「も、もう障壁が意味を為さないよこれじゃあ!?」
「な、何かに掴まるのよ皆! ライザー! 祐斗!! 何時まで前屈みになってるのよこのバカ!!」
「お、おぉふ………ふぅ。おう、俺は大丈夫だ」
「僕も大丈夫です(キリッ)」
外野が何かしてる気がしたが、イッセーとソーナの視線は目の前で力を増幅させていている天使と堕天使のペア一点に捧げられる。
そして――
「「はぁぁぁぁぁっ!!!!!!」」
金色に輝くオーラが強烈な閃光と共に爆発し、地球全体――いや、宇宙の星達にも衝撃を与える。
そして、閃光が晴れた先には――
「気配の質が変わった……」
「纏う力の質と色も……」
放たれた黄金の暴風が嘘の様に落ち着い緩やかなオーラ。
それは奇しくもソーナの放つ蒼いオーラに似てなくもないが、特筆すべきは纏う気配があまりにも透明であり、オーラの色が黄金から変化したというべき点だろう。
「ガブリエルとの手合わせ以外でなるのはこれが初めてだ」
「お待たせ致しました……これが私とコカビエルで掴んだ進化です」
天まで届きうる揺るかな黒みがかったピンクのオーラ……薔薇色の力。
「行くぜガブリエル?」
「アナタとなら、何処までも……」
美しき
究極進化の天使・ガブリエル
種族・天使
備考・縦横無尽となりて傍らで支える女天使。
補足
縦横無神。
ガブリーさんの持つなにか。
読みはまだ不明。
その2
元ネタ……某ブラック。
やばい、インフレがやばすぎる。