色々なIF集   作:超人類DX

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基本、ネジがごっそり抜け落ちてます。


離れない

 他人のケツ持ちをしてやれる程俺は暇でも無ければ良い奴でもない。

 何でもかんでも無条件で引き受ける奴なんて居るだなんて思わないで欲しいものだ。

 まぁ、両親かセンパイだったら無条件だけどな。

 

 なのでまぁ、誰かと結婚だか何だかする事になっても尚チャンスを貰ったから協力しろなんて話を持ち掛けられても俺は断るよ。

 

 その人自体がどうなろうが俺には関係がないからね。

 

 

 

 その日一誠はソーナの予想通り、二度目のチャンスとなる悪魔ゲームに勝つ為にリアスが動き、部下になったらしいクラスメートの男子二人に呼ばれて旧校舎の部室に招待されていた。

 

 

「急にお呼び立てしてごめんなさいね?」

 

「いえ別に。えーっとそれで? 天下の二大お姉さま方だのマスコットちゃんだの美少女転校生ちゃんだの、クラスメート君二人だの隣のクラスのイケメン君だのが、これから帰って夕方の子供アニメでも見ながら一人人生ゲームでもしようと考えていた俺に何の用すかね?」

 

 

 何故呼び出されたかは既に予想範囲内ながら知っているが、それでもあくまで只の一般人である事をすっとぼけて装い、微妙にテンションの低い面々を見渡しつつ呼び出した理由を問う。

 

 

「…………。話も武勇も既にソーナから聞いてるわ、赤龍帝の兵藤一誠君?」

 

「あ、はい、聞いてるんですねハイハイ」

 

「お前、散々貧乳って小馬鹿にしてた生徒会長と仲良かったんだな……」

 

「聞いたときは色々驚いたぞ」

 

「それは光栄だね――で?」

 

 

 クラスメートというだけで別に特に接点の無い二人の男子に自分の一部についてあれこれ言ってるのを聞き流し、さっさと用件を言ってくれとリアスを見る。

 同じ悪魔なのにどこからどう見ても関心する箇所が見当たらないのは、他の人間と共通する事であり、この時も一誠はリアス――いやこの部屋に居る全存在に興味が沸かなかった。

 

 

「アナタがソーナに加勢してレーティングゲームを結果はどうであれ勝利させたのは知ってるという上で話すわ。

近々私もゲームをするのだけど、今の戦力では相手に勝てない」

 

「ふーん?」

 

「でも私は勝たなければならない。だからアナタの力を貸して欲しいの。

対戦相手をゲーム会場丸ごと消滅させたアナタのその強大な力を」

 

 

 次が無い切羽詰まった者がする目をしながらリアスは一誠に頭を下げた。

 すっとぼけてるが、既に一誠は何故リアスが自分にわざわざこんな話をしたのかをソーナを経て知っている。

 しかしだからこそ一誠はそんなリアスやそれに倣って頭を下げる悪魔集団に一言。

 

 

「俺、慈善活動とか好きじゃないんですよね、悪いですけどお断りします」

 

 

 あっさりとした梅酒の如くハッキリと断った。

 

 

「理由を聞いても良いかしら?」

 

 

 流石に断られるのは予想してたのか、リアスは努めて冷静を装いながら理由を聞いてくる。

 それに対して一誠は何にも書いてないメモ帳を取り出して自分にしか見えないように広げると、ペラペラと語り出す。

 

 

「まず今後の予定ですが、学業に努めてからは真っ直ぐ家に帰って子供向けアニメを見なきゃなりません。

特に金曜日は楽しみにしている『ほっとけハム三郎』というハムスターアニメがあるし、予約録画してるとはいえリアルタイムで視聴したいんです。

で、土曜日は早朝に『セーラームフーン』を見てから『ワンコ仮面』と続き、『ふるるん! あまつぶちゃん』と『まもりきゃら!』という流れで午前中は全部それを見るつもりで外に出ない。

で、日曜日は『仮面ハンマー』とか『激辛レンジャー』とか『二人三脚でフリキュア』と…―――まあ、とにかく外に出たくないんですよ。なのですいません」

 

『……………』

 

「全部子供向けアニメじゃねーか」

 

「しかも若干女児向けに傾いてるし……」

 

 

 予定をメモ帳に書いておく程几帳面な性格じゃない癖に、さも私は予定をメモ帳に書いておくタイプでその通り以外に行動する気なんて無い的な雰囲気を出す。

 クラスメート二人に何やら突っ込まれた気がしたが、とにかく助けるだの加勢するだのの気は全く無いという意思だけは伝わった様で、一様に渋い顔だ。

 

 

「ちゃんと謝礼をするつもりなのだけど……」

 

「謝礼? ならば1000億ドルをキャッシュでくださいよ」

 

「え、円じゃなくてドルって10兆円ぐらいじゃん」

 

「無理とわかってて言ってるなこの野郎……」

 

 

 全く加勢してやる気なんてありませんな態度を一切崩さない。しかしだからと云って力ずくで言うことを聞かせるのは不可能だ。

 何せ笑いながらソーナの対戦相手を文字通りに消し去ったのだ。

 例によってソーナが不思議なナニかでその対戦相手達を復活させたので何とか大事にはならなかったが、それでもその対戦相手達の精神は完全にへし折られて再起不能になってしまっている。

 

 そんな力を保持する人間を加えてまでライザー・フェニックスとの婚約を粉々にしてやりたいくらいリアスは嫌で形振りかまってられない訳だが、残念ながら一誠にその思いは届くこともなく、また届いたところで簡単に切り捨てられてしまう。

 

 

「もし今度負けたら俺達と木場以外の人達があの野郎の好きにされちまうんだぞ!」

 

「嫌だろ!? そんなの嫌だろ!?」

 

「あの野郎が誰の事か知らないけどさ、俺は別にこの人達がどうなろうが知らないね。

というかさ、別に殺される訳じゃないんだろ? なら良いじゃん」

 

 

 極めつけはこの自分達に対する本気の無関心さ。

 普通の人間達は自分達をチヤホヤしてたが、この少年はどうやら数少ない例外だった様で、ハッキリと自分達の今後がどうなろうと知ったことでは無いと言い切った。

 しかしだからこそ解せない。

 

 

「それなら何故ソーナには手を貸したの?」

 

 

 本当はほんの少しだけ察しているけど、聞かずには居られなかったリアスの質問に、元浜と松田から胸ぐらを掴まれていた一誠はその手を簡単に払い除けると、襟元を正しつつ笑う。

 すると『明らかに』彼の放つナニかが変化した。

 

 

「決まってるでしょう? あの人が大好きだからさ」

 

 

 いっそ清々しいまでの宣言に、全員が言い返す言葉を見つけられずに沈黙してしまうのと同時に、放たれる気持ち悪さに顔色が真っ青になる。

 そう、あのソーナ・シトリーが好きだから手を貸した――それは彼女の意味不明な中身を知った上でそう言ってるに他ならず、更に言ってしまえばこの一誠という少年もまた……。

 

 

「本当ならあんな場面くらいセンパイ一人で片付けられる。けど、そうしないで俺がでしゃばった理由はひとつ、わかってても我慢ならなかったってだけ。

ふふふ、知ってるぜ俺は? あの人が自分の抱えるモノを同族に理解された事が無いってね。

でも俺は理解できる――あの人の全部を! そしてあの人は俺の全てを理解してくれる! 両親以外でそんな奴は誰一人として居なかった。同族の人間ですら俺という存在自体に生理的嫌悪をする。

 それは恐らく普通の感性なら間違いない当然の反応なんだろうよ、けどね……それでも俺は人として生まれた以上、死ぬまで生きる。

世界の全てが俺を否定しようがゴキブリ以上にしぶとく生き続けてやる!」

 

 

 悪魔として終わってる人格であるソーナと同じ、人として終わってるのだ……この兵藤一誠は。

 かつてソーナに見せられた本質に恐怖した時と同じ、悪魔すら寒気を覚えるヘドロの様な一誠の本質に、それまでいきり立っていた眷属達は脂汗を垂らしながら震え、リアスもまた顔がひきつった。

 

 

「ソーナと同じね、アナタは……!」

 

「良いねグレモリー先輩? その言葉こそ最高の褒め言葉だぜ」

 

 

 どう生まれ育てばこうなってしまうのか。

 どうしてこうなってしまうのか……。

 吐き気すら催すおぞましい雰囲気を無害な笑顔を浮かべながらも放ちまくる一誠に、既にほぼ心が折れる。

 

 

「何だよ皆して怖がってさ? さっきまでも勢いはどうしたんだよ元浜君に松田くん?」

 

「く、来るな!!」

 

「ふざけるな! お、お前……お前は一体何なんだこの化け物が!!!」

 

「あららぁ? 人の事を化け物呼ばわりとはとても心外だぜ? なぁ、他の人達もそんな気分なのかい? どう思うよ、ねぇ?」

 

「ひっ!?」

 

「あ、アーシアに近づくな!!」

 

 

 無自覚にナニかを振り撒く。世界にとってすれば恐らく癌でしかない存在。

 マイナスという概念を知らない普通の悪魔達には到底理解し得ないからこそ、ニコニコしながら眷属達にナニかを振り撒こうとする一誠にリアスは加勢して欲しいことも忘れて出ていけと追い出す。

 

 

「っ!? も、もう良いわ!! アナタに頼んだ私が間違いだったわ! 出ていって頂戴!!」

 

「おいおい、そっちから呼び出しておきながら酷い言い種ですね。

ま、それで良いなら俺もこんな場所に用事なんてありませんから帰りますよ――では皆さん『またいつか、とか』」

 

 

 片手を軽く上げながら背を向けて退室していく一誠。

 今後リアス達は果たしてどうなるのか……それこそ一誠にとって心底どうでも良かった。

 

 

 

「最強に気分が良い。センパイの同族にセンパイと同類扱いされたんだ。くくく……気分良すぎてどうかしちゃいそうだぜドライグゥ……!」

 

『あぁそうかい。気の毒な連中だ。よりにもよって一誠に加勢なぞ頼むなんてな。

俺からすれば単なる自殺行為にしかならんよ』

 

「そんな事言うなよドライグ? ドライグにそんな事言われると泣いちゃうぜ」

 

 

 ニヤニヤしながら旧校舎を後にする一誠の様子を見ながらドライグがリアス達を同情する。

 とはいえ、ドライグもドライグでこの一誠に相当影響されてるせいか、ほぼ言ってることは単なる冗談だったりする。

 

 

『もっとも、異質だからこそお前は歴代でも最強最悪だ。

そして恐らくお前の代で赤龍帝も終わる――お前が永久に君臨するからな』

 

「おいおいドライグ、俺だって寿命があんだぜ? そんな大袈裟に言えるのかよ?」

 

『ふん、寿命だと? あの小娘と生きる為だけに強引に寿命と老化の概念を否定したお前が言える台詞ではないだろう?』

 

 

 単なる異質な少年が、偶然である運命の出会いを経て完全にイカれたのを誰よりも近くで見てきたドライグだからこその言葉に一誠は苦笑いする。

 

 

「まぁね、センパイやドライグともっと一緒に居るには俺だけ寿命が短すぎるからな。

父さんと母さんは既に知ってるし、ドライグは俺にとって兄貴みたいなもんだから」

 

『ふん、ドラゴンである俺がお前のだと? 全く笑わせてくれる小僧だ』

 

 

 心を許す相手にはどこまでも素直で、どこまでも甘ったれ。

 それが一誠の本質のひとつであり、その心を許した者達に手を伸ばす者が居れば修羅となって殲滅する。

 

 その為に進化を止めず、その為に世界すら敵に回す。

 そんな宿主に巡り会えたドライグは果たしてまともなのか?

 

 

『まったく、これだからお前の中は心地よすぎる』

 

「気に入ってくれて嬉しいよ俺は……ふふふ」

 

 

 きっとまともじゃない。

 歴代の宿主の中とはまるで別物である一誠の中身を心地よすぎると表現してる時点で……。

 混沌を越えた人外を気に入ってしまったドライグもまた――イカれていた。

 

 

「行ってきましたー、そした見事に追い出されましたー……っと?」

 

 

 イカれた者同士の精神間トークをしながら真っ直ぐ躊躇無くソーナの元へと帰った一誠は、生徒会室の扉を開けて中に入った途端、勿論待っててくれたソーナと、それに控える女王の真羅椿姫以外誰も居ないことにキョトンとする。

 

 

「あれ、副会長さん以外は?」

 

「………………。アナタなら理由くらい知ってるんじゃないですか?」

 

 

 首を傾げる一誠に何とも言えない顔をする椿姫の言葉に少しだけ刺があるが、一誠は特に気にもせず『はて?』と本当にわからないといった顔をする。

 

 

「あぁ、もしかして具合でも悪くなったとか? 大変だな、風邪かな?」

 

「……………」

 

 

 ヘラヘラと笑うその顔すら気持ち悪い。椿姫は思わず言い掛けたその言葉を何とか飲み込んでため息で誤魔化すと、一誠並にマイペースにお茶を飲んでたソーナが口を開く。

 

 

「本質を晒したら皆は来なくなったわ。

これも予想通りね」

 

「へー、もしかしたらと期待したのに、残ってくれたのは副会長さんだけか」

 

「その椿姫もどうやら無理をしてるみたいだけど」

 

「そ、そんな事! わ、私はどうであれ貴女に救われた身です、例え貴女がどんな方だろうと女王である以上ついていくつもりですから!」

 

「ふーん……?」

 

「な、なんですか……」

 

 

 どうやら殆どがソーナの本質に付いていけなくなった(リタイア)中、眷属としては最古参クラスの椿姫だけはその付き合いの長さと意地で残る意思を示した様で、その意思に対して一誠が探るように目を細める。

 

 

「アンタが男だったら俺は嫉妬でもして思わず八つ裂きにしてたかもね」

 

「な……!」

 

「けどまぁ、良かったよ……真羅先輩が女の子で」

 

 

 本質をさらけ出す一誠の言葉に椿姫は戦慄するのと同時に、この男はどこまでもソーナが好きなのだろうと嫌でも理解してしまう。

 

 

「センパイの傍にこれからも居てあげてくださいね?」

 

「い、言われるまでも……!」

 

 

 コインの表と裏の様に。

 

 

 

 

 ソーナと一誠の本質があまりにも似すぎている。

 その事をゲームの際に知ってしまったソーナの両親と姉であるセラフォルーは、ソーナの眷属達からの報告に深刻な顔をしていた。

 

 

「奴がいるせいで会長――いえ、ソーナ様がますますおかしくなってます。

きっと奴による影響が零ということはあり得ないと思ってます!」

 

「……うむ」

 

「それは確かに……けど……」

 

「……ソーナちゃん」

 

 

 眷属達の言葉に両親と姉はある種の納得と同時に、それだけなのかという疑惑を抱いていた。

 赤龍帝……そしてあまりにもソーナに似た得体の知れない気質。

 

 それは確かに互いを引き合わせた事で更に加速させているのは理解できる。

 

 

「しかし引き剥がすにしてもどうする? ソーナの様子からしてまず離れるとは思えない」

 

「唯一見つけた同類だと私達に嬉々と語ってた所を見てもそうだし、彼とは10年も前に出会ってそれを話さなかったのよ、相当あの人間の子に入れ込んでる筈だし、もし無理にでも引きはなそうとしたらソーナはきっと反感を覚えてしまうわ」

 

「……。でもこの子達の言うことも分かる。

ソーナちゃんは確かに普通とは少し違うかもしれないけど、あの男の子が居なければきっと直るかもしれないもん」

 

 

 ソーナの姉・セラフォルーの言葉に両親は何も返さないものの表情は同意した様子だ。

 生まれた時から何もかもが既存の悪魔達と違って、それにより周囲から無意味に否定される。

 それは血の繋がった両親ですら理解できず、欠落した娘と思ってしまった程だ。

 

 だがそうだとしてももし引き剥がしたらどうなるか……。

 きっとソーナは笑うだろう……笑って自分達を許しながら何かを消すだろう。

 血筋の力とは全く異なる理解できない力を使って。

 

 

「只でさえあの少年の力も異質だ。対応を間違えたら間違いなく取り返しのつかないことになる。

かといってソーナに悪影響なのも事実……どうしたものか」

 

「正面からお話ししてそれとなくソーナの前から消える事を頼んでみるとかは……」

 

「下手したら笑いながら排除に掛かりそうね。

あのゲームの時に見せたソーナちゃんへの強すぎる思いは偽物とは思えないし」

 

 

 深刻になる前に対処をしなければ……。ソーナの眷属達の言葉を深く受け止めたソーナの家族達は一誠という存在をどう遠ざけるかを考えるのだった。

 だがきっとそれは遅いのかもしれない……いや、遅かった。

 

 既に二人三脚と化している一誠とソーナは誰の干渉すら許さないし、ましてや引き剥がした所で自然と引き合わせるだろう。

 かつてソーナが偶然一誠を発見した様に、運命めいた引力によって……。

 

 

「ねぇセンパイ? 試しにセンパイのその綺麗な顔を剥がして良いかな?」

 

「一応聞くけど、理由は?」

 

「ちょっとした確認だよ。

ふと思ったんだよね、俺ってもしかしてセンパイの顔が綺麗だから好きなだけなのかもしれないって。

そこで、センパイの顔を剥がしても果たして俺はセンパイが好きなのか? それが知りたいんだ……ねぇ、ダメかな?」

 

 

 端から見なくても最早狂ってしまってるこの二人を引き剥がすのは不可能なのだ。

 顔面を剥がしたいと真面目な顔して言い出す一誠に引くどころか、優しげに微笑む時点で全てが遅いのだ。

 

 

「ふふ、なぁんだ……そういう事なら喜んで剥がされてあげるわ」

 

「うん、ありがとうセンパイ」

 

 

 眼鏡を外して微笑むソーナの頬に一誠の手が触れる。

 

 

「普通は引くけどセンパイって何時もそうだよね?」

 

「失礼ね、アナタだからこそ受け止めるのよ? 他がこんな事言ったらひっぱたいてやるわ」

 

「そっか……うん、じゃあ――」

 

 

 ありがとうソーナ。

 その言葉と共に一誠の手がソーナの顔面を剥がした。

 血が噴き出し、そのまま地面に倒れるソーナの身体。

 

 

「…………」

 

 

 その様子をソーナの返り血を全身に浴びた一誠は無機質な瞳で見下ろす。

 だがそれはほんの一瞬だけであり、やがてその口許は歪み、くつくつと漏れるような声と共に全身を震わせ、血を浴びた姿で盛大に笑った。

 

 

「くく、クククッ! はははは! アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」

 

 

 歓喜と安堵。

 その感情が一誠を祝福するかの様に降り注ぐ。

 

 

「全っ然!! 変わりゃしない!! 全く変わらない! ハッキリ感じる、例えセンパイの顔が無くなろうが俺は全く変わらない!! アハハハハハッ!!!」

 

「………」

 

 

 物言わぬ亡骸となったソーナの身体を抱き、狂った様に嗤い続ける姿は狂気そのものであり、高揚しすぎた精神は新たに一誠を進化させる。

 

 

「あぁ、好きだぜソーナ……! くくく、例えアナタの顔が消えてようが、手足が吹っ飛んでようが俺は変わらずアンタが好きすぎるらしい! 新発見だぜ……くくく!!」

 

 

 思う存分嗤い続けた後、一誠の表情はとてつもなく慈愛じみたものへと変わり、ソーナの剥がされた頬を撫でながら呟く。

 

 

幻実逃否(リアリティーエスケープ)……」

 

 

 現実と夢を強引に入れ換えるもうひとつのスキルを。

 そのスキルによりソーナの剥がされた顔面は元に戻り、ゆっくりと閉じた目を開けたソーナは全てお見通しだとばかりに微笑むと、血まみれの一誠の頬を撫で返す。

 

 

「どうだった? いえ、言わなくても分かるわよ私は? そうでしょう一誠?」

 

「うん……全然変わらないよソーナ。さぁ、次はアンタだ。俺を肉塊にして確かめてくれ――それでもし心境が変わったら遠慮無く殺してくれ……」

 

「確かめるまでもないけど……良いわ」

 

 

 甦ったソーナに懇願し、それを受け入れたソーナは一誠の頬に添えていた手に力を込め、その身を引き裂いた。

 そして物言わぬ肉塊となった姿を前にソーナもまた嗤う。

 

 

「ほーらね、変わる訳がない。物言わぬ肉塊になった程度で想いが変わる訳が無いのよ。ふふ、ふふふ……!」

 

 

 確かめるまでもなかったと、手を翳して一誠を引き裂く前に一周させたソーナは目を開けた一誠と額を合わせる。

 

 

「でも確かめるのも悪くなかったわ……うん、とても気分が良い。

さぁ、お互いに気持ちの変化が全くなかった記念よ……おいで?」

 

「うん」

 

 

 求め合う様に影は重なる。

 身体も……何もかも、ここが学校内であろうと関係なく。

 

 最早誰も止められない……それほどにイカれていた。

 

 

おわり。

 

 

 

 

 

 同質はある、しかし同類は唯一無二。

 

 一誠とソーナが完全な同類である様に、世界のどこかには同類同士が出会って背中合わせになっている者達も居るのかもしれない。

 

 

「俺に赤龍帝を始末しろと? 確かに目立った敵も最近出てこなくて退屈してたが……悪魔が俺にな」

 

「お願い、報酬は言い値で払うから」

 

「………。まぁ良いだろ」

 

 

 とある日、とある場所。

 とある依頼を受けた男。

 その男は依頼をした旧知と言えなくもない女悪魔が去ったのを確認すると、軽く天井を見上げながら独り言の様に呟く。

 

 

「遂に悪魔にとって赤龍帝の小僧が邪魔になったらしい、まあ、あの女の妹との接触を断ちたいからだろうが……どうする?」

 

「無理ね。彼と彼女の気持ちは私達が一番よく知ってる……そうでしょうコカビエル?」

 

 

 コカビエルという男の言葉に返事をするのは、座ってる彼の背中に立つ美しき女性。

 その女性の言葉にフッと笑ったコカビエルという男はその背に漆黒の翼を広げながら頷く。

 

 

「まぁな、同質を越えた同類が引き合った以上、引き剥がすのは不可能だ。

俺とお前がそうだった様にな」

 

 

 その広げた翼を見た女性はその背に純白の翼を広げる。

 

 

「ええ、そうね……天使と堕天使という違いを持つ私達が結局そうであった様に」

 

「お陰様でコソコソと定期的に会わんと落ち着かなくなってしまった。

ミカエルやアザゼルが知ったらさぞ怒るだろうなァ? ガブリエル?」

 

 

 白と黒。

 表と裏……。

 同質を越えた同類であるかの様に二人の背は重なる。

 

 

「会ってみる価値はあるが、適当に切り上げるか。そうだ、そういえばお前の下部にいる人間の中に居ただろ、教会を追い出された神父が。

そいつを焚き付けて適当に事件でも起こすか――俺はそうだな、戦争でもしたくなったとか言っとけば信じるだろ周りは」

 

「けどそうしたらアナタは……」

 

「構わん、グリゴリという組織に居ても敬遠されてるしな」

 

「…………わかったわ、それとなく私もサポートする」

 

「助かる……。

クククッ! 小僧とセラフォルーの妹はどうやら相当似てるらしいな……俺達と」

 

「ええ、だからこそセラフォルーの思う通りにはなりそうも無いわね」

 

 

 同類同士の邂逅まで後少し……。

 

 

終わり




補足

肉片だろうと顔面が剥がれてようが変わらない。

つまり、引き剥がすなんて不可能。


その2
最初から全開のもう一組の存在は……まあ、ヤバイのかもしれない。


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