匙とソーナとの間に微妙な亀裂が作られた騒ぎにより微妙なとばっちりを受けてしまった一誠。
本人は全然知らぬ顔なのだが、当時只のオタサー姫の走りと思っていた存在がソーナの姉で、微妙な交流があるとカテレアにより明るみに出てしまったせいでこれまた微妙に面倒な事になりそうだった。
「カテレアちゃんが人間界に居て、ソーたんの兵士君と一緒に暮らしてた!?」
『は、はい……』
「最後に戦ってから行方が掴めなかったと思ってたらそんな事に……」
『そうなのですセラフォルーお姉様。それとお姉様に確認をしたい事が……』
「なぁに?」
たったひとつの報告によって、錆び付いて二度と動かないとされていた歯車は動き始めた。
「自分なりに言葉を選んだつもりだったのですが、グレモリー先輩の残りの部下達に護衛の協力を断られました」
「え……」
既に忘れた過去となっていたものが、微妙なとばっちりのせいで掘り起こされ始めている事を全く知らない一誠はというと、まだ悪魔達襲撃が無いまま続いている護衛生活に勤しんでいた。
朱乃と朱璃の母子を全力で守る為のついでに朱乃の王であり友人であるという理由でリアスの護衛もしている一誠は、活動拠点となっている朱乃の実家の居間に全員を集めると、先日あった話をした。
「凛と祐斗と小猫とアーシアと話をしたの?」
「ええ……。あの集団の何人かが悪魔共に拉致でもされて余計な事を吐かれても困りますからね。
なので先日、自分なりに言葉を選び、なるべく癪に触る真似はしないように努めながらアナタの護衛に協力をお願いしたのですが……」
「断られた?」
「ぴんぽーん、大正解だ朱乃ねーちゃん。
兵藤さんはあの中でも乗り気になったんですけど、残りの連中――――失礼、人達からの質問に対しての俺の答えがまずかったせいで協力して貰うのは無理でした」
家の中だと外での顔見知り程度に留める振るまいをしてるせいなのと、高校生になってから一人で暮らしてたのが今回の騒動を経て実家に戻ってきたのが相まって、二大お姉様の一人として崇められてるとは思えない程に甘えている朱乃の頭を撫でながら、一誠は凛と取り巻き達との間に繰り広げられた会話の一部を話し始める。
「さっきも言いましたけど、これでもかなり言葉は選んだし喧嘩になりそうな言葉も控えたつもりだったんですけど、何かが起きた場合は朱乃ねーちゃんと朱璃さんの安全を最優先させ、グレモリー先輩やその他はその後になるとつい言ってしまいましてね。
どうにもあの人達はグレモリー先輩を後回しにする事に怒ったというよりは、この前と同じく兵藤さんを後回しにする事に不満があるようです」
「あの……さっきから兵藤さんって言ってるけど、アナタのお姉さんじゃ……」
「え? あぁ、一応戸籍の上ではそうなってはいますね……戸籍上の肉親二人に抹消されてなければ。
ですがね、俺はもう十年以上実の親から離れて生きてきましたのでそういう感情家無いと云うか――いえね、別に姉と呼べと言うのなら呼びますけどね?」
「……………」
所々に出てくる姫島母子以外に対する無関心さにリアスは閉口してしまう。
そもそも実の親元を十年以上も離れて未だに帰らず、朱乃の家に居着いているというのも変な話ではある。
一応初めて朱乃を女王として迎えた際に一度だけ幼い一誠の顔を見た事があった訳だが、今にして思えばその当時から自分達悪魔を見る目が物凄く信用の無い目だった気がした。
「お姉さんを連れてまたしても出ていってしまった為、結局あの人連中の協力は無理でした」
横になりだした朱乃に膝枕をしてあげながら、凛や取り巻き達とのやり取りの報告を終えてお茶を一口飲む一誠にリアスは何も言えないのと同時に朱乃が羨ましく思う。
(良いわね朱乃は。それこそ命を張る覚悟で守ってくれる人が居て……。
私はただ逃げ出しただけなのに……)
幼馴染みのチャランポランと思っていた少年が10年以上もの間ずっと朱乃の為だけに魔王をも叩き潰せるだけの力を磨き、敵に回してまでもたった一人で冥界に乗り込んできた。
冥界からの反応が今のところ無いのが不気味だが、それでもきっと一誠なら例え千を越える軍勢が襲撃しても迎え撃たんと立ち向かうだろう……。
「人間の執念には恐れ入るわ……」
ソーナの兵士の匙もそうだが、人の身でここまで強くなれるのか。
「ある意味あの
「え?」
「彼女のお陰で俺は朱乃ねーちゃんに会えたんだから………フフフ」
或いは一誠と匙だけが特殊なのか……。
普段では決して見ない程に一誠に甘えまくる朱乃の頬を撫でながら微笑む姿を見てリアスは冷めてしまったお茶を飲み干す。
それと同時に一誠に頬を撫でられながら膝枕をして貰っていた朱乃が眠ったタイミングが重なる。
「グレモリー先輩、俺は少し外に出ますので朱乃ねーちゃんを頼みます」
起こさないように朱乃を横抱きに抱えて立ち上がった一誠からの言葉に少し慣れない正座で痺れた足を擦りながらリアスは目を丸くする。
「私に頼んで良いの? 信用してないんじゃあ……」
「俺個人としてはね。ですが悔しいことに朱乃ねーちゃんはアンタを信用してる……。
アンタがもし男だったら今頃八つ裂きにしてやりたくなるくらいにね……」
「…………」
半笑いで話してるが、言葉自体は洒落になってない一誠にリアスは背筋が凍る思いをしてしまい、思わず表情がひきつる。
「周りには匙と真羅先輩が常に張ってて、朱璃さんにはカテレアが付いてますので何かが起きても対処はできますし、俺も直ぐに戻ります。
その間ねーちゃんの部屋で一緒に居てあげてください」
「それはわかったけど、アナタは何処に……」
「ちょっとした野暮用です」
部屋へと連れていき、後の事をリアスに頼んだ一誠の口から出た野暮用。
こんな夜なのに、それこそ朱乃を自分に頼んでまで行かなければならない用とは一体何なのかはこの時のリアスは分からなかったが、一誠の目はどこかその野暮用を楽しみにしている様なものを感じた。
野暮用と言って外に出た一誠が向かった先は人気の無い廃工場だった。
以前此処は不良達のたまり場だったのだが、先代の風紀委員長による『やり過ぎた正義』により不良達は駆逐され、今では軽い心霊スポットと言われる程に音も無い場所になっていた。
そんな場所に何故一誠が来たのか。
「ごめん、遅くなった」
「気にするな、俺も今来たばかりだ」
誰かとの待ち合わせの為であり、廃工場の中へと続く大きな扉を開けた一誠は、その人物の声と姿を目にした瞬間ニヤリと笑う。
「ったく、こんなシケた場所でわざわざ会わなくても家に帰ってくれば良いじゃんか?」
「出来ればそうしたいが……まあ、その……なんだ……まだ心の準備がな」
「それがどれだけハードルを上げてる事になってるってのを自覚してほしいな?」
電気自体は通ってるのか、壁にあったスイッチを入れると廃工場内が照らされる。
人が近寄らなくなってから暫く立ってるせいか所々埃っぽいが、それでも密会する場所としては最適だ。
「ほら、未成年で酒なんか買えないからこんなものしか用意できなかったけど、取り敢えず乾杯しようよ……バラキエルのおっちゃん?」
特に娘に対してヘタレが災いして中々対面できない堕天使の父と密会する分には……。
「サーゼクス――悪魔との小競り合いは俺も既に聞いている。
…………お前に本来させるべき事じゃ無かったのに、すまない」
「ハッ、謝る必要なんてないぜおっちゃん。
元々俺はサーゼクス・グレモリー……いやルシファーか? 奴等悪魔を信用してなかったんだ、良い機会だったよ」
「だが本来は俺が抗議に出るべきだったんだ。それをお前に――」
「おっちゃんにはおっちゃんの立場があるんだろ? 気にしなくて良いし、俺はその為だけに力をつけてきたんだ」
「………………すまない一誠」
「だーかーら謝るなっての、そんな事より久々に会ったんだし飲もうぜ? …………ジュースで悪いけど」
朱乃を取り戻す為に冥界へと乗り込み、悪魔達を敵に回した事について会って早々にひたすら謝るバラキエルは手渡されたジュースを言われた通りに空け、既に開けて此方に向けていた一誠の持つジュースの缶とくっつけ、乾杯をする。
「サーゼクスの妹を護衛してるらしいが、どうなんだその後は?」
「特に別に。ねーちゃんのついでにやってるけど、向こうからは何の反応もない。
却ってそれが不気味なんだよね」
「恐らくサーゼクスがお前に叩きのめされたから、どうすれば良いのかわからんのだろう。
アジュカとファルビウムもセラフォルーもな」
「ふーん、残りの魔王の名前ってそんなんなんだね。今知ったよ」
「一応俺にとっても知らぬ仲では無いが……一誠お前、獅子目言彦と共鳴したのか? あの時以降、サーゼクスの傷が全く癒えてないらしいぞ?」
「ふっ、そうだけど、それを聞いてザマァ無いな。
あの男、どうやらあの平等主義者の手の者だったらしいしね」
「
服の汚れを気にせずがらんどうとした工場の床に座り、一誠が持ってきたジュースとおつまみを食べながら、まるで父と子の様に会話をする。
実の親よりも遥かに強くバラキエルを父の様に慕うその姿は、リアス達に対する気の張った態度が嘘のように楽しげに見える。
「彼女は確かにスキルに関しては師ともいえる存在だけど、俺の中に言彦が宿ってると知った途端逃げるようにして俺の前から消えたからね。
嫌いとかいう感情はないけど……まあ、サーゼクス・ルシファーが向こう側である以上、敵対する事にはなるだろうな……言彦のことめっちゃ嫌いらしいし」
「一億回以上敗北させられた相手だったか……。
彼女といい、悪平等というのはよくわからないな」
「けど技術力は使える。
お陰で俺もおっちゃんも進化できたんだからね」
「この年になって強くはなれたな」
「未だにおっちゃんには勝てないけど……」
「ふん、まだまだ小僧っ子に負けてやれんわ」
互いにクスクスと笑いながら弾む会話。
しかし話の内容があるものに変わると途端にバラキエルはヘタレてしまう。
「で、朱乃ねーちゃんには何時会うの?」
「う……そ、それは……そ、その内に……」
一誠の口から出てきた実の娘の名前にたじろぐバラキエル。
バラキエルが人間の朱璃と交わったという理由で快く思わなかった一部の堕天使達による襲撃は一誠にも深いトラウマを残している。
しかしだからこそ一誠は元の父娘へと戻ってほしいと思っているし、その為に何度も二人を引き会わせようとした。
……………結果は今のところ芳しくは無いが。
「朱璃さんには会ってるんだろ?」
「朱乃が学校に行ってる間とかに……」
「いやだから、何でそんな朱乃ねーちゃんを避けるみたいに会うんだっての。
ねーちゃんもそれじゃあおっちゃんに何にも思われてないと思うだろうがよ?」
「それはわかってるが、イザ会ってみて再び『大嫌い』だなんて言われたら今度こそ立ち直れる気がしなくて……」
「はぁ……」
片方は要らぬ心配で、片方は意地を張って。
この見事なまでのすれ違い様はある意味父娘だな……とアナコンダを丸飲みしそうな風体の堕天使とは思えないくらいにウジウジとしているバラキエルを横目に小さくため息を吐く。
「これで未だにおっちゃんに勝てないんだから悔しいにもほどがあるぜ」
「いやお前には感謝してもしきれないし、本当にすまないと思ってる。
幼いお前に全てを押し付けてしまった事を……」
「へん、そう思うなら少しは勇気を出して貰いたいもんだね。
それに何時までもおっちゃんに負けっぱなしなつもりも無いんだぜ俺は」
残り少なくなったジュースを飲み干して立ち上がると同時に、座り込んでいたバラキエルに人差し指をクイクイさせて掛かってこいという挑発をする一誠。
「遊んでくれよおっちゃん? 今日こそ勝って無理矢理にでも家に連れて帰ってやる。それから朱乃ねーちゃんとの仲を許して貰おうか?」
「……。いや、お前と朱乃との仲を反対した事なんて無いし、お前なら大丈夫だと思ってるんだが……」
「こういうのは雰囲気だろ? 『お前なんぞに娘はやらーん!』みたいな?」
「他の男なら言ってたけど、お前だと嘘でも言いたくないぞそんな言葉。
だが、実力を確かめて欲しいというのなら受けて立とうじゃないか」
一誠に続いてゆっくりと立ち上がったバラキエルの身体から青い電撃が迸る。
「っ……相変わらずの迫力。
やっぱこの前相対した悪魔共とは比べ物にならないぜ……!」
その迫力はサーゼクス達悪魔を前にしても常に嘲笑っていた一誠に冷や汗を滲ませる程であり、バラキエルから放たれる電撃は周囲の既に使われなくなって久しい機材を破壊していく。
「聞けばサーゼクス・ルシファーは超越者なんぞと呼ばれてるらしいけど、俺にしてみたらバラキエルのおっちゃんにこそ相応しいと思うぜ?」
「買い被りだなそれは」
あの忌々しい事件以降、取り憑かれた様に力を求めて進化し続ける一誠と同じように、一から全てを鍛え直して力を研ぎ澄ませて昇華させたバラキエル。
その迫力、気迫、圧力の全てがサーゼクスをも半笑いで蹂躙した一誠の表情から余裕を消し飛ばし、本気となるべく全身に力をみなぎらせる。
「やっぱり父娘だよ、その力は。
くく、何年も掛かって扱える様に進化出来たからこそ、俺も同じ力で挑むぜ!」
そしてバラキエルと同じ様に一誠の全身から紫電がオーラの様に出現し、バチバチという音と共に身体に纏われる。
「人の身でよくぞそこまで再現出きるようになれたな一誠」
「血の繋がりは無いけど、それでも何かを欲しがった結果がコレしか無かったんだ。
これでお揃いになれるってね……」
バラキエルや朱乃と同じ雷の力。
一誠の中に宿る無限の進化と可能性を示唆する異常性により可能とさせた人の枠を越えた結果のひとつ。
「行くぜ言彦……ヘタレ親父を無理矢理連れて帰る時間だ」
『あの男はまたしても強くなった様だ、げげげ……新しい』
「言彦か……」
『げげげ、暫く振りだなバラキエルよ? 今回も儂を驚かせてくれる事を期待するぞ?』
「どうだかな、俺の戦い方は単純だ。
今更お前に新しさを与えられるのは難しいだろう」
『お前とやり合うのは純粋に愉しい。儂と一誠の共鳴状態ですら歯が立たない相手なのだからなァ!』
ただ繋がりの証が欲しいが為に至った雷。
「行くぜ親父ィィィッ!!!!」
「来い息子ォォォッ!!!!!」
血は繋がらなくても父と子である証の力は今ぶつかる。
「いててて……めっちゃボコられた」
「一人で何処に行ったと思ったら、朱乃の父親――バラキエルと会ってたなんて……」
「何で会ったの?」
「何でって、会っちゃダメな理由なんてないだろ?」
廃工場が滅茶苦茶に破壊されるというニュースにも出てしまう程の戦いに発展してしまってから二時間後。
思い切り頬を腫らせて着ていた服の所々が焦げた出で立ちで姫島家へと戻ってきた一誠は、寝ずに待っていたリアスや匙や椿姫……そして途中で起きてしまっていた朱乃によって傷の治療を受けながら事情聴取を受け、バラキエルと会って一戦交えたという話をした途端、変な空気を作ってしまった。
特に朱乃はバラキエルの名前が出た途端露骨に顔をしかめていた。
「アホほどに清々しく叩き潰されちゃったよ。
あのおっちゃん、また強くなってた」
「マジかよ、前々から強い強いって聞いてたけど、お前と言彦の共鳴状態でも勝てないのか……」
「言彦自身が完全体の自分でも苦戦は免れないって言ってたぐらいだ。
完全に言彦に肉体を明け渡しても同じ結果だったろうな」
匙と椿姫に手伝って貰い、腹に包帯を巻きながら一誠はそれでも楽しげに笑っている。
「バラキエルがそこまで進化してるとは……私も負けてられませんね」
「アンタはアンタで匙に触発されて独自に進化してるらしいじゃないか? そうなんだろ?」
「まぁな、お前のいう神器とは似て非なる精神を媒体にしたスキルのノウハウを教えてみたらカテレアさんは見事に発現させたからな」
人数分のお茶が入った湯飲みをお盆に乗せて部屋に入ってきたカテレアに対して匙が崇める様に話す。
「椿姫先輩はほぼ始めから持ってたし、俺の仮説トレーニングメニューってひょっとして凄いのかも」
「かもじゃなくて実際スゲーだろ。元々はバラキエルさんもそのメニューで会得したんだろ?」
「まぁね」
「あんまり量産すべき力じゃないと思うわ」
「いや、量産しようにも特定の条件を踏まなければ殆どの者達に会得は無理だよ、
身体の治療が終わり、服に袖を通しながら一誠は自身に宿る精神を媒体にする神器とは違う力について語る。
リアスが話に付いていけずにちんぷんかんぷんといった顔をしてるけど、一誠が丁寧に教えることはない。
「あんな人にわざわざ会わなくても良いのに……」
寧ろ絶賛父親と仲違い中の朱乃を宥める方に意識を全力で向ける必要があり、話に置いていかれてるリアスなどどうでも良かった。
「ねーちゃんはまだ許せないかもしれないけど、バラキエルのおっちゃん自体が悪い訳じゃないだろ? まあ、何時まで経っても踏ん切りの付けられないヘタレさについては同意できる面もあるけど、そこはさ……な?」
「嫌よ! あんな人……! 私とお母さんから逃げた人なんて!!」
ポンと肩に触れながら宥めようとする一誠に対して癇癪を起こした様に実の父であるバラキエルを否定する朱乃。
この事情の事は知っているリアスは口を挟めず黙り、匙や椿姫やカテレアも同様に二人のやり取りをただ見守っている。
「嫌い! 一誠くんに全部押し付けて自分だけ逃げたあの人なんて大嫌い!!」
「それは違うってねーちゃん。
おっちゃんだって俺みたいにずっとあの時の事を引き摺ってるし、当時何の力も持っちゃいなかった俺以上に後悔してるんだよ。
だからねーちゃんに負い目を感じて会いたくても会えないんだ。
俺だってもしもバラキエルのおっちゃんの立場だったら申し訳無さすぎて会いづらいさ……だからもう少しだけ待ってあげようぜ?」
「うぅ……」
よしよしと朱乃を抱きながら背中を優しく叩く姿にリアスはただただ改めて思い知らさせる一誠の本質に驚く。
己が認めた相手にはとことん優しい……何処かで良く聞きそうな性格だが、それでも間近で見ればその庇護を受ける者達が羨ましく思ってしまう。
「今日はもう寝よう? 安心して寝られる様に俺がずっと見張ってるからさ?」
「……………いっしょがいい」
「俺もそうしたいけど一緒は……」
「ああ、良いぜ今日くらいは。俺が見張りやるから」
「はぁぁ……朱乃ちゃんが羨ましいけど私も見張りはやるわ」
「まあ、普段はイッセーが寝ずの番をしてますからね。たまには良いんじゃないかしら?」
「…………」
絶対的な献身とその為の進化。それが一誠の本質でありある種リアスが求めるものなのだから。
「月が綺麗ね元士郎」
「ええ、このまま死んでもいいくらいに……」
「はぁ……あ、匙くんはカテレアさんと楽しそうだし、朱乃ちゃんにイッセーくんは取られるしで寂しいわ…………って、どうかしましたグレモリーさん?」
「………。隣から聞こえる二人の声のせいで眠れないのよ……!」
「それは何故です?」
「な、何故って、あ、あんな……あんな声……ど
、どう聞いたってアレしてる声をダイレクトに聞かされてどうとも思わないで寝られるわけないでしょう!?」
「あぁ、要するにイッセーくんと朱乃ちゃんのやり取りを壁越しに聞いたムラムラしちゃったと? その気持ちはわかりますわ。
私も何度二人のやり取りを聞いて一人寂しく指で……」
「そ、そんな事しないわよ!!! ………………チョ,チョットダケシカ」
「したんじゃないですか……はぁ……アッチはアッチでほら、あんな事してるし」
「え? あ、あらー……さ、匙くんとカテレアがあんな……あわわわ……! お、大人な……」
「余り者は辛いですわホント……あーぁ、それでも諦めきれないというのは辛いですよ」
「あ、アナタ本当に兵藤君の事を……」
「ええ、彼はそんなつもりなんて無かったと言いましたが、それでも私にとっては助けてくれた
「そ、そうだったの……。それにしてもあの光景をソーナが知ったらまた大変な事になりそうね……」
「まさか会長がそこまで思い込んでたとは私も予想外でした」
終わり
結婚は破棄したけど、代わりにムラムラする事が多くなってしまったリアスはますます朱乃を羨む日々だったとか。
そして何故か匙の行動がソーナに筒抜けになっていたらしく、月明かり照らす夜の下で行われたカテレアとのやり取りについていきなり突っ込まれた。
「か、カテレア・レヴィアタンとナニをしたのかしら?」
「はぁ……いい雰囲気だったんでキ――
「ふ、不潔よ!! 私に惚れて兵士になったのに不潔よ!!」
「……………………。だからそれは無いですって。
そもそも何でそんな事になってるんですか? なぁ皆――」
「元ちゃんらしくないよ!」
「そうだよ! 匙くんは騙されてるのよ!!」
「……………。話聞かない人ばっかだなオイ」
とにかく匙が自分に惚れてないと嫌で嫌でしょうがないソーナ。
そんな状況の中突如として現れたのは……。
「やっほーソーたん!☆」
ゴテゴテ通り越した何かの衣装に身を包む魔王少女。
いきなりの魔王の一角の出現に思わず身構えた匙と椿姫だが、どうやらリアス関連の用件で来た訳では無く……。
「それで、私のブログに唯一コメントしてくれたギルバちゃんはどこ?」
「は? ギルバ……?」
「何者ですかその者は?」
「隠さなくても良いし悪いようにはしないから教えてよ? 私の事を人間の中で唯一応援してくれたギルバちゃんが君達の仲間の中にいて、今リアスちゃんの護衛をしてるんでしょう?」
「「…………あー」」
カテレアとの関係がバレた時の最初の小競り合いの際にカテレアの口から出てきた話にそんな事があったとここで思い出した二人。
しかし相手が相手なので当然警戒してしまう訳で、取り敢えずわざわざ会う理由を聞いてみると、魔王少女はその目を異様にアレさせながら早口気味に言った。
「勿論特殊な条件じゃないとアクセスできない私のブログにアクセスしてくれたばかりか、唯一応援メッセージをしてくれたお礼を言いたいからだよ? 本当は少しのチャットで知った個人メールアドレスを使ってお誘いとかしてみたかったけど、ある時から送っても送っても返事が無いし、アドレスが変わっちゃったみたいなの。
それ以降ブログにも来てくれなくなったし、ひょっとして怪我か重い病気でも患ったのかなぁとずっと心配してたりもしたし……あ、でもでもソーたんから聞いた限りだとこの学園で風紀委員長さんってのをやってるみたいだからきっと照れ屋さんでお返しするのも緊張してて今まで出来なかっただけなんだとわかったし、だったら直接会ってお話しをして緊張も照れることも無いんだよって教えてまたメールしたりして仲良くなったり……あはは人間界からアクセスしてくれるなんてよっぽど私のファンなんだから大切にしないとね? そういえばギルバちゃんって男の子らしいけど本物の私を見て幻滅とかしないかな? もししないで喜んでくれたらどうしようかな? 私も嬉しくなってお礼をしないといけないのかなぁ? えへへ、私のお部屋に招待して目の前で色々な衣装に着替えてあげたりするのも悪くないかな? その時我慢できなくなって襲われたりとか……あぁん♪」
「お、お姉さま……?」
「……………。あ、頭おかしいぞこの人」
「私はまだマシね。あんな地雷じゃないわ……」
『…………』
喋ってる途中でいきなり赤くなってクネクネし始める姿にソーナすらもドン引きしてしまい、これは果たして本当にギルバなる人物の正体と居場所を教えてもいいのかと考えてしまう。
「へーっきし!!」
「? どうしたの一誠くん、風邪?」
「いや、変な悪寒が……でも大丈夫だよねーちゃん。
それよりお姉さん達は部活には来てるらしいけど、何か変わった事は?」
「特には……と、言いたいけど最近ますます四人で固まる事が多くなって微妙に溝が深まった気がするわ」
「まぁ殆どの俺のせいだなそれは……」
続く?
一誠くんなりに言葉を選んで再び協力を要請した結果………………取り敢えず朱乃ねーちゃん最優先でその次がリアス部長という話を聞いて取り巻きは激怒。
またしても断られましたとさ。
その2
バラキエルのおっちゃんは言彦と共鳴した一誠くんをも未だにぶちのめせるくらい進化しちゃってます。
そして一誠は一誠でどうしても繋がりが欲しすぎて雷の力を再現するまでに至ってるとか。
その3
ムラムラしちゃってしょうがないリーアたん。
副会長さんに指摘されて顔真っ赤だし、直後に匙きゅんとカテレアさんの大人なやり取りに真っ赤でムラムラが止まらなくなったとか。
その4
……………魔王少女さんは余程唯一くれた応援メッセージに励まされた様です。