大体好きになってもその恋が叶う事なんて無い。
だって俺は
だから人を好きになるのは極力止めてたし、人付き合いも零となった。
けれど、最後に好きになったあの子は……多分俺以上に
最近知った悪魔って奴を治療してしまったばかりに異端者扱いされて居場所を追い出され、それに漬け込んだ堕天使が彼女を騙し、彼女の中に在る力を抜き取って殺されるなんて俺なんて目じゃないレベルの不幸っぷりを彼女は味わった。
だから俺は彼女を助ける気になった。
弱い奴と不幸な奴の味方になると昔決めた通りに、俺は彼女を利用しようとする悪魔……兄者含めての前に立ち、彼女を奪い取ってやった。
俺という人間が現れて若干驚く悪魔達に俺は言った。
『教えてやるよ化物共……。
右手に杭を、左手に釘を持ち、どう見ても返り討ちにされるのがオチだと分かりきった状況の最中、俺は俺の持つ
何度殺され掛けても立ち上がり、笑いながら最後は彼女を奪って逃げてやった。
「へ、へへ……初めて勝ったぞ……!」
それは誰が何と言おうと俺にとっては初めての勝利であり、彼女を抱えながら町外れの森へと逃げ込んだ俺は、冷たくなってる彼女の身体を抱えたまま座り込む。
先の戦闘で嫌というほど受けた外傷は既に逃げた為に存在しない。
後は、この子を……アーシアちゃんを……。
「待ってろアーシアちゃん……死後の世界とやらからキミを逃避させるから……」
冷たいアーシアちゃんの身体をそっと地面に置いた俺は、その頬に触れながら小さく自分の中にある捩れを発動させる。
降り掛かる現実から、自分にとって都合の良い幻実へと逃げる俺の
世界に散らばる人間の持つ神器とは違う、現状この世に俺しか発現していないらしいスキル。
これを使えばアーシアちゃんが死んだという現実からも逃げ、死んでない事に出来る。
だから俺は躊躇無しに使う……他人に対して初めて己のスキルを。
「
頬に触れながら小さく呟いたその言葉の通り、次の瞬間、死人の様に白かったアーシアちゃんの顔色に血色が戻り、胸を上下させながら呼吸もしている。
「…………ぁ」
そしてその目もゆっくり開かれる。
「イッセー……さん……?」
「ああ、俺だぜアーシアちゃん。へへ、遊びに来たらちょいと大変な事になったっぽいじゃないか……けどもう大丈夫だ……何も心配することはない。
キミを騙した連中は皆居ないからね」
ボーッとした瞳で俺の名を呟くアーシアちゃんに、俺は精一杯の作り笑顔を向けて安心させようとするが、正直今の状況はヤバイ。
あの悪魔共の中には兄者……いや、兄と名乗る身元不明な男も居たし、もう家には帰れない。
考えてみればアーシアちゃんはこのまま死んでしまっていた方が幸せだったのかもしれない程にお先真っ暗なのだから。
「家にはもう帰れねぇし……どうしようかねぇ」
こうなった事情をアーシアちゃんに説明はした。
どうやら死ぬ前の記憶が曖昧だったらしく、俺の説明を受けて顔を青くしながら小さく震えて怯えてしまったが、芯が強いのか今は不安そうにしながらも俺と一緒にこれからの事を考えてくれている。
「アーシアちゃんの居た国にも帰れないんだよね?」
「はい……帰っても同じ事をされるかも……」
「だよねー」
既に夜中で真っ暗な森の中ってのもあるので、冷え込んでおり別な意味で震えているアーシアちゃんの声は暗い。
取り敢えず気休めのつもりで渡した制服の上着で我慢して貰わなければならないのも、己の無力さを引き立たせるだけだった。
「ごめんなさいイッセーさん……私なんかの為に」
「ん、そんな事はキミが気にする必要は無いよ。
俺は助けたい――いや、キミに死なれたら困るからこうしたってだけの単なる自己満足だからね……寧ろ
結局はそうだ。
好きになった子が死んだって現実を否定し、逃げただけだ。
口じゃ散々あの悪魔共にアーシアちゃんの為だとかほざいてたが、行き着く先は己の身勝手さだ。
「そんな事……私もイッセーさんと一緒に居たかったですし、身勝手だなんて思わないでください……」
だというのにアーシアちゃんは簡単に許してくれる。
お前のせいだ、お前さえ居なければとだけ言われて生きてきた俺に彼女だけはそう言ってくれる。
……だからかな。時折確かめたくなるんだよ……
この子の顔面を剥がし、肉片だけになっても好きでいられるのか。
とね。
もしかしたら顔が好きなだけかもしれない。
その姿が好きなだけかもしれない。
だから試したくなる……目の当たりにしてみたくなる。
上っ面だけの好きなのか、それとも本当に好きなのか……。
「ね、アーシアちゃん。もしさ、キミをこうして助けた理由がキミを好きになったからって言ったら……迷惑?」
「え……」
でもそれは出来ない。
この子を相手にそんな事は今は無理だ。
なので俺は思ってる事を
こんな状況で言うべき事じゃ無いのは分かってるが、俺は言った。
これで拒絶してくれればそれならそれで構わないと、半分やけっぱちで言った。
「俺はね、生まれてこの方人から好意的に見られた事が無かった。
俺の近くで不都合な出来事が起こる度に、他人からも実の両親からも兄からも『お前のせいだ』って罵倒されて生きてきた……」
思っていた事を全部言葉に換えて。
「まあ、それは多分そうなんだろうし、俺自身も納得して生きてきたから怨みとかは無いんだけどね。
だから、初めてキミと会って俺を気色悪がらずに友達だって言ってくれた事は本当に嬉しかった……………だからこそ、俺はその時点でキミが好きになったんだよ実は」
「イッセーさん……」
横には驚いて言葉が出ないって顔のアーシアちゃん。
まあ、そりゃそうか……そう思われてるなんて思ってもなかったろうし……あー……こりゃやっぱり無理かな。
「え…えっと……そ、それって……その……こ、告白って事ですか?」
「ん……まあ……。ハッ……知り合って間もない奴にこんな事言われりゃあヒクよね……分かってたぜ……」
「い、いえ、嬉しいです! こ、こんな私と友達になってくれただけじゃなくて……好きだなんて……」
嬉しいか……そんなこと言われたのもキミが初めてだぜ。
私には何も無かった。
皆さんを治療する……神様から与えられたこの力以外は何もありませんでした。
友達もいませんでしたし、私の中にあったのは只主にお祈りするだけの身体だけでした。
それがある日を境に、私の人生は楽しくなりました。
兵藤一誠さん……。
少し他の方と雰囲気が違って見え、道に迷って途方にくれていた私に手を差し伸べてくれた男の人。
そして……素敵な人。
どんくさい私を見捨てず、お友達にもなってくれ、そして私を死から救ってくれた人……。
初めて出会ったあの日から、毎日会いに来てくれ、面白いお話をたくさん聞かせてくれる時の笑顔にドキドキしたりしたのは秘密でした。
独りぼっちだった私に最後まで優しくしてくれたのはイッセーさんだけ……だから私はある日から彼に惹かれていった。
他の方は彼を見て嫌そうな顔を見せますし、教会の方達も『彼とは関わるな』と何時も言ってましたが、私はそれを無視して毎日イッセーさんと会ってしまいました。
だから私に主からの罰が下ったのでしょう。
私は…………一度死にました。
でも、その死から救ってくれたのは他でも無いイッセーさんでした。
その時の事は覚えてませんが、堕天使や悪魔の方から私を連れ出し……こうやって生き返らせてくれました。
聞けばイッセーさんは私の持つ力とは別種の
死からも逃げるその力は、私から見れば神様の様な力に思えます。
でもイッセーさんは人間です。
私と同じ人間……私が好きになった素敵な方です。
だから私はイッセーさんの告白を…………。
「私を……独りぼっちにしませんか?」
「嫌でも傍に置くぜ」
「私を、捨てませんか?」
「逆に捨てられても地の果てまで追い掛けてやるぜ」
「……こんな私を、愛してくれますか?」
「当たり前だぜ」
この日から……私は
これまでの不運の何もかも受け入れます。
だって、そのお陰でイッセーさんに出会えたのですから。
補足
この後の二人は……まあ、リアルに『幸せなチューしてしゅーりょー』ですね。
何時かこんなネタで長編書く場合は、もうちょい掘り下げまくるし、逃亡しないで次の日知らん顔して二人で登校するって話にしますけど。