色々なIF集   作:超人類DX

195 / 1033
インフルエンザで身体が動かん!

けどぶちこむ!


討ち入り

 穢らわしい存在だと罵られ、無意味に命を奪われた時の絶望は今でも忘れてはならない。

 そして、その時初めて抱き、そして今でも糧とする強烈な劣等感を消してはならない。

 

 弱いから喪い、弱いから守れず、弱いから奪われる。

 冷たくなった母娘の血の感触が未だにこの手に残る感触は消えない。

 

 だから俺は決めたんだ。

 誰にも文句を言わせない程の力を手にしてやると。

 それが例え間違っていようとも、俺はそれでも強くなるんだ。

 

 

「珍しいもんだね、キミ達が風紀委員室に来るなんて」

 

 

 鬼と言われようが、クズと罵られようがな。

 

 

 

 

 

 リアス・グレモリー達が勝てばそれで良し。

 そう思ってたけど、内に宿る言彦の言った通り、そう簡単に事は運ばないらしい。

 

 

「負けた……ふーん?」

 

 

 神器は想いを糧にする力と呼ばれる様に、スキルもまた精神の在り方により形作る。

 寧ろ、より密接に精神に関わる辺り、スキルの方が精神性でいえば神器より上なのかもしれない。

 

 その現実を認めたくないという想い故に。

 大切な人達を何者からも守るという想いが故に。

 

 

「負けたのはいいとして、朱乃ねーちゃんはどこ?」

 

 

 守るべき人達以外は全てゴミと断ずる一誠の精神性は、レーティングゲームに見事負けましたと自分の下へとやって来たリアスと朱乃以外の面子を前に、今を以てして最高潮に達したのは云うまでも無い。

 

 

「め、冥界にまだ……部長の結婚式に付いていて……」

 

「は? …………………。まぁ良いや。で、それならなんでお姉さんとキミ達だけが此処に戻って来たの?」

 

「そ、それは……一誠に謝らないとと思って……隙を見てこっちに……」

 

「なーるほど、要するに逃げた訳だ?」

 

「「「………」」」

 

 

 レーティングゲームの日から二日後。

 未だに朱乃達が帰ってこない事になんと無く察してしまった一誠は、もう我慢なら無いと自ら椿姫かなじみの手を借りて冥界に乗り込もうと風紀委員室にて12日目になる真面目な学生生活を送りながら考えていた時だった。

 

 

「何て言うかさ……10日くらい前にあれだけ自信満々に啖呵切っててこんなオチってキミ達的にどうな訳?」

 

「「「………」」」

 

「いや黙ってないで何か言おうぜ?」

 

 

 絶対に普段なら来ない筈の、それもリアス眷属の四人がバツの悪そうな顔でこの場所に訪れた時点で一誠は敗北を察し、暫くは凛、祐斗、アーシア、小猫の言い訳じみた話を黙って聞いてやったが、一誠にしてみれば何を言われようが、アレだけ啖呵切っておいて負けた時点で言い訳にしか聞こえず、更に言えば凛はまだまぁまぁの戦果だったらしいにしても、この残りの凛の取り巻き三人は目も当てられない無様さを相手だけでは無く、観戦していた悪魔達にも見られてしまったという時点で一誠は呆れて物も言えない気分だった。

 

 

「修行したんだろ? 自信あったんだろ? 少なくとも俺にはそう聞こえたぜ?」

 

「り、凜先輩は悪くないです。わ、私達が……」

 

「いやだからな? 誰が悪いとかって話じゃないの。わからないかなぁ……」

 

「き、キミは僕達を責めたいんだろ? だ、だったら兵藤さんでは無く僕を……」

 

「話通じてる? 俺別に兵藤凜さんを責めるとかそんなんしてないし、あれだけ自信満々だったのに揃って呆気なく負けたのは修行をちゃんとしてての事なの? って聞きたいんだよ?」

 

「う……!」

 

 

 極めつけはこの期に及んで『凛は悪くない』と馴れ合ってる事に対し、最早皮肉じみた姉貴様呼ばわりすら止め、他人ですと言わんばかりのフルネーム呼びとなる一誠に凛の身体がビクリと震えた。

 

「兵藤さん曰く秘薬とやらを使われたせいで負けた……みたいな事を言ってたけどさ、どれだけ頑張りましたと嘯いていようが負けは負けなんだよ。

それをやれ誰々は頑張りましたからだのってさ……いやいやいや、それでおたく等の王様が結婚させられたり、朱乃ねーちゃんが色々と危なくなったら意味が無いだろ。

そもそも聞けば朱乃ねーちゃんが一人で必死こいてグレモリー先輩を守りながら戦ってたのを呆然と見てましたって? ……………………そりゃ誰も悪かねーわなぁ」

 

「「「っ!?」」」

 

 

 かなり飄々とした声とは裏腹に、委員長席として使っていた机を蹴り上げ、天井に勢いよく激突させてバラバラに粉砕させた一誠は、それでも尚微妙に自分に向けて責める様な視線を向けてくる三人と、既にその時点で色々とへし折れてしまってる凛に向けて行動に伴わない声を出す

 

 

「さぞ相手の悪魔男は拍子抜けだったろうね、馴れ合いだけの口先だらけの方々に余計な体力まで使ったんだからさ。てか、あーぁ……机壊しちゃったよ勿体ない」

 

 

 バラバラに砕けて落ちた机の残骸を更に蹴り飛ばしてしまった事に後悔した顔をする一誠は却って不気味であり、四人はどうすれば良いのかわからずにひたすらに縮こまる。

 

 

「こんな所で言い合っても意味がない。だから聞くよ、ねーちゃんは冥界のどこ?」

 

「ルシファー領の都市……」

 

 

 思わず行動に出てしまった自分に反省しつつ、努めて冷静に朱乃の居場所を問うと、凜が萎縮しながら都市部に居ることを話す。

 

 

「どうせなら朱乃ねーちゃんも連れてきてくれたら良かったが……まあ、キミ達にゃ無理か」

 

 

 どうであれそのライザー・フェニックスとやらに負けてめでたくご結婚となった今、目の前で塞ぎ込んでるフリしてるだけにしか見えない木場を除いた女共……そして何より朱乃がその会ったこともない男の手に掛かってしまうのだ。

 別にこの三人とリアスは良い……どうであれ負けたのは本人達なのだから。

 しかし朱乃を巻き込む事だけは絶対に許さないし、この事をバラキエルが知ればまず間違いなく冥界に進行して暴れるに違いないのだ。

 

 

「堪らない世の中だよな、まったく」

 

 

 ある意味父親的な意味合いでバラキエルを慕う一誠にしてみれば、バラキエルの堕天使としての立場を崩す真似だけはしたくない。

 

 となればだ……。

 

 

「場所を知ってどうするんですか?」

 

「まさか人間のキミが乗り込むつもりなのかい……?」

 

「あ、危ないですよ……?」

 

「………」

 

「危ない? そんなもの百も承知だよ。

けど行かなきゃ朱乃ねーちゃんが危ないだろ? もう良いからキミ達は黙っててくれない?」

 

 

 自分が……立場も何も無い自分が朱乃を例え悪魔達を敵に回しても連れ出すしかない。

 

 

 バラバラになった机を退かし、風紀委員室の隅っこにある一人用のロッカーを開けながら、訝しげな表情をする三人と、何故かさっきから全く喋ろうとしない凛を背に、明らかに学園指定の制服とはデザインの異なる……もっと言えば改造長ランを取り出してその身に羽織る。

 

 

「男装していたらしい先々代から流れて来たって前の先輩に言われて取っておいたが、こんな前時代的なもんをまさか着る事になるとはなぁ」

 

 

 先代……つまり一誠を後継者に指名してきた前風紀委員長から引き継ぎの時に渡された先々代風紀委員長が着ていたらしい、一誠の体格に合う様に先代達が改装した男子用改造黒長ランのボタンを閉め、等身大鏡で確認しながら自嘲じみた笑みを浮かべる一誠は、この長ランの意味を知らずに変な顔になってる四人にもう一度朱乃とリアスの詳しい居場所は何処だと口にしながら、開けっぱなしにしていたロッカーから『風紀』と行書体で書かれた腕章を取り出し、それまで自分でつけていた腕章と取り替えて腕に着ける。

 

 

「『殺す気で風紀を執行する時にだけ着けろ』って言われた通り、今から着けさせて貰うぜ……冥ちゃん先輩」

 

 

 現世代で唯一自分だけが風紀委員に入り、その長を引き継ぐ時に自分をスカウトしてきた『小学生にしか見えない小さな先代風紀委員長』から貰った腕章を、懐かしそうに微笑みながら撫でながら、当時自分が口にしていた先代の愛称を小さく紡いだ一誠。

 その表情は何処までも穏やかで、どこまでも慈愛的で、どこまでも敬愛的であり、小猫とアーシアと祐斗は幽霊を見るかの様なギョッとした顔をし、凛はぽけーっと決して自分には見せること無い一誠のその表情に見惚れた。

 

 

「……」

 

 

 だがそれは一瞬の事であり、数秒後には冷たい無表情へと変えた一誠は、立ち尽くす四人に三度目となる言葉を……。

 

 

「キミ達はそこから一歩も動かないでね。邪魔されたくないし」

 

 

 どこまでも冷たく言い放った。

 

 先々代から受け継いだ長ラン。

 先代から受け継いだ腕章。

 その両方を今その身に纏った兵藤一誠は、個人的でありながら執行する決意を完全なものにしたのだ。

 

 

「ふぅ、久々の討ち入りだぜ」

 

 

 その背に書かれた『風紀』という二文字の下に……。

 

 

 

 冥界・ルシファー領都市=ルシファード。

 

 現魔王が一人、サーゼクス・ルシファーが納める冥界大都市の一つであるこの場所は騒然としていた。

 

 

「リアス様とライザー様の結婚式が中継されるらしい」

 

 

 冥界大貴族を背に持つ者同士の結婚。

 そのニュースは冥界全土に伝わり、そして今ルシファー城にてその結婚式の様子が中継されるという程だった。

 

 だが、しかしその結婚式は――

 

 

「居た、朱乃ねーちゃんの気配」

 

 

 たった一人の人間の少年の出現により、滅茶苦茶にされるのだった。

 

 

「あの無駄にデカい建物の中か……」

 

 

 人間文字で風紀と書かれた腕章と、背に同じ文字が書かれた長ランを羽織った……悪魔以上にやることがエグい進化の塊の様な少年に。

 

 

 

 リアスは絶望した。

 そして何処までも自分が選んだ選択が愚かな事だったと後悔した。

 

 

「………」

 

「リ~アス~ 似合ってるぜ?」

 

「……………」

 

 

 どんな理由にせよ自分達は負け、取り決め通りに目の前でヘラヘラしながら結婚衣装へと着替えさせられた自分の身体に触れてくるライザーと結婚しなければならない。

 それだけでも絶望なのに……。

 

 

「リアスの女王やそのあの騎士以外の下僕達もちゃんと可愛がってやるから心配すんなよ?」

 

 

 朱乃達もまたそれに巻き込んでしまった事に、何よりも口では何やかんやと言うが、その実朱乃を誰よりも大切にしていた少年の期待までも裏切った。

 その事がリアスの精神を今にでもへし折ろうとしており、そして最後まで自分を守り、負けてからずっと傍に居てくれた朱乃にまで今まさにベタベタ触れてるライザーを見るだけで悔しさで涙が溢れそうだった。

 

 

「朱乃に触れないで!」

 

「何だよ、早速妬いてくれんのか? 嬉しいねぇ?」

 

 

 無言でライザーに髪だ何だと触れられても我慢してる朱乃を少しでも守ろうと威嚇するリアスだが、言われた本人の金髪でチャラそうな風貌のライザーは、それをリアスの嫉妬と受け取り、睨むリアスの頬を撫でる。

 

 

「心配しなくても絶対に愛するさ……くくっ」

 

「………っ!」

 

 

 元々リアスはライザーが好きか嫌いかで言えば嫌いだった。

 オカルト研究部の部室に現れた時も、これ見よがしに眷属達に邪な真似をしていたのを見せられれば好きになれる訳も無い。

 だからこそ、眷属達を巻き込む形になろうとも頭に血が昇って否定していたリアスはレーティングゲームに臨んだのに、結果はこのザマ。

 

 非戦闘員のアーシア、戦車の小猫、騎士の祐斗は最序盤で脱落し、兵士の凛は赤龍帝として終盤まで踏ん張ったけど脱落し、残った女王の朱乃とリアスで王のライザーを一人残して殲滅までこぎ着けた。

 しかし結局は不死のフェニックスの力には勝てず、体力負けをする形で敗北してしまった。

 

 

「騎士はともかくとして、兵士と戦車と僧侶は何処行ったんだ?」

 

「……」

 

「ん、まさか逃げたのか? 無駄なのに」

 

「知らないわよ。気付いたら姿を消してたし」

 

 

 挙げ句のはてにはその小猫とアーシアと祐斗と凛が挙って朝から姿を見せない。

 この状況を考えると逃亡したと考えても納得出来るし、最近は一種の疎外感すら感じていた。

 だから巻き込んでしまった事を思えば、逃げたとしてもリアスは憤慨するつもりは微塵も思わず、寧ろ朱乃も逃げてしまえばよかったとすら思っていた。

 

 しかし朱乃は頑なに……。

 

 

『私は何処までもアナタの女王で、友達のつもりです。

だから最後までアナタの傍らに居る……きっと来てくれるから』

 

 

 包み込む様にリアスの手を取り、微笑みながら離れないと言ってくれた。

 それはリアスにしてみればどれ程に嬉しかったか……言葉に表すにはあまりにも足りない事だった。

 

 しかし、朱乃の言う『来てくれるから』というその彼はまだ姿を見せない。

 いや、よく考えたら彼は自分達の状況を知らないから無理も無いし、知らせる手段も無いのだ。

 

 人間界に一旦でも戻る事を許さなかったライザーのせいで……。

 

 

「ライザー様、そろそろお時間ですので控え室の方へ」

 

「おっと、わかりましたグレイフィア様。

じゃあリアス……また後でな」

 

 

 考えてみれば彼は冥界にどうやって来れるというのか……。

 それでも信じきった表情で微笑む朱乃には申し訳ないが、リアスには到底彼が助けに――ましてや来たところでこのそうそうたる悪魔達から逃げ仰せるとは思えない。

 

 ライザーからされそうになった額へのキスを全力で逃げながら、リアスはただただ刻一刻へと迫る絶望の時間に気持ちを沈ませていくのだった。

 

 

 

 

 結局来ること無く始まった結婚式。

 魔王や悪魔の有権者、そして両親が見ている中を、式用に豪華に作り替えた会場のロードを歩くリアスは、いよいよ以て覚悟しなければならない絶望の時間へと入っていく。

 

 

「それではこれより、ライザー・フェニックス様とリアス・グレモリー様の―――」

 

「………」

 

 

 来訪席に座る朱乃と目が合い、そのまま逸らしてしまうリアスの耳には取り仕切りを任されてる悪魔の声は聞こえない。

 あるのは力が無い故に招いてしまった絶望の未来。

 慰みものにされる親友というヴィジョン。

 

 結局姿を現さなかった凛、小猫、アーシア、祐斗に心の中で『逃げられるところまで目一杯逃げなさい』と想うリアスは遂にライザーとの誓いのキスを――――

 

 

「っ!?」

 

「……! ふふっ……♪」

 

 

 させられそうになった正にその刹那、会場から音が消えた。

 

 

「て、敵襲か!?」

 

 

 ガラガラと瓦礫が落ちる音が未だ止まない中、突然の状況に泡を喰ったかの様に来賓の悪魔達が、砂煙により塞がれた視界もあってか盛大に騒ぎ立てる。

 

 

「チッ、魔王様の御前だというのに、誰だこんなふざけ……た……」

 

 

 それは本日の主役であるライザーも同じであり、折角モノにした女との結婚式を邪魔されてご立腹ですとばかりに、こんな真似をした犯人を燃やしてやろうと意気込んだのだが……。

 

 

「な……なんだよ……これ……?」

 

 

 砂煙が晴れ、視界が確保されると同時に飛び込んできた地獄絵図の様な光景に開いた口が塞がらず、イケイケの根性すら削がれたまま目の前の会場だった……いや、もっと言えば冥界の象徴の一つであるルシファー城『だった』筈のこの場所の現状に呆然となってしまった。

 

 

「僕の力も含め、何重にも張った障壁ごとだなんて……一体何処の誰がこんな事を」

 

 

 現・ルシファーであり、リアスの兄でもあるサーゼクスすら目を見開き、自分達の居るこの場所以外が『更地』となって消えたルシファー城に、並みの存在の仕業ではないと確信し、傍らに控えていた妻と共に警戒心をマックスに上げる。

 

 だが、どよめく悪魔達が目にしたのは最も信じられないモノだった。

 

 

「無駄にデカいし、いっそのことぶっ壊しちまえって判断は正解だったな」

 

 

 砂煙が晴れ、悪魔達の目に飛び込んで来たのは、警備の悪魔の一人の足首を掴んで引きずりながら此方へとやって来た一人の少年だった。

 

 

「だ、誰だ貴様!?」

 

 

 ズルズルと、歯が全てへし折られ、見るも無惨な顔面へと成り果てた警備の悪魔を引きずりながら近付いてくる変わった格好の少年に悪魔の一人が吠える。

 

 

「……」

 

 

 だが少年は返事をせず、持っていた警備の悪魔を適当に放り捨てると、そのまま真っ直ぐ進み、唖然と固まるライザーと目を見開くリアスの前までやって来て――

 

 

「あんまりにも遅いから迎えに来たぜねーちゃん」

 

 

 そのまま直角に曲がり、同じく動けない悪魔達の居た来賓席だった場所へと行き、その中に一人微笑んでいたリアスの女王・姫島朱乃の前に立つと、これだけの騒ぎを起こしておきながら平然と迎えに来たと宣うのだった。

 

 

「は?」

 

「あ、あれはリアス嬢の女王……」

 

 

 雷の巫女という二つ名でありリアスの女王という事もあってある程度顔が割れてる朱乃に話し掛ける少年に悪魔の一人が声を溢す。

 しかし誰も不思議な事に動けない。

 あまりにも大胆で、あまりにも不届きで、あまりにも凶悪な所業を真正面から貰ったが故に、観察するかの様に目を細める魔王やそれに準じる者達以外の全員が動けない。

 

 

「やっぱり来てくれた」

 

「当たり前だろ。ったく、負けちゃったらしいじゃねーか?」

 

「うん……ごめんなさい」

 

「別に責めてる訳じゃないさ、無事な姿を見れて漸くほっとした」

 

 

 親しそうに話してるのを見ても動けない。

 

 

 

「で、負けてから暫く経ったけど、何にもされてねーよな?」

 

「…………。えっと、あの人に髪を触られたとか、お尻を触られたって事以外はまだ……」

 

「…………………あ゛?」

 

 

 妙に朱乃の口調が甘えたものになってて、更にいえば頬をほんのりと紅く染めながら目の前の少年に抱き着く姿を見ても。

 抱き着いた体勢で、スッとライザーを指差して自分が負けてからの数日にされた事を話し、それに対してそれまで笑みを浮かべてた少年の顔が一転して鬼の様な形相に変質したのを見せられても動けないし声も出ない。

 

 

「へー……ねーちゃんの……ほー?」

 

「でも、負けたらそうなるって決まりだったから……」

 

「あぁ、そうだったね。なら仕方ない――」

 

 

 リアスと並んで少年に対して動揺しているライザーにスタスタと近付くのを誰も止めようと出来ない。

 そして――

 

 

「わきゃねぇぇぇだろぉぉぉがぁぁぁぁっ!!!!!」

 

「ぐげぇ!!?」

 

 

 どう見てもクリーンヒットな拳を顔面に貰い、何かが砕ける様な鈍い音を奏でながら床へと叩き付けたライザーを助ける者も皆無。

 

 

「が、がぼ!? き、ぎざま――くべぇ!!?」

 

「殺す、殺す! ぶっ殺す!」

 

「ぎげがばぁっ!?」

 

「うははは!! 死ねぃ!!」

 

「き、貴様、何をしてる!」

 

「取り押さえろ!!」

 

 

 何のカラクリなのか、頭髪がグレモリーの悪魔の如く真っ赤に変色させながらライザー・フェニックスを馬乗りで殴り続ける姿を目にしてやっと、その場に居た朱乃とリアスとその身内と魔王以外の悪魔は反応し、一斉に飛び掛かったのだが……。

 

 

「退け雑魚共がぁぁぁっ!!」

 

 

 リアスに激怒した時よりも更なる憤怒を搭載した乱神モードとなった……リミッターの外れた進化の化身へと一気に成長した一誠を止めるには、あまりにも無謀だった。

 

 

「ふ、はは、ヤベェよ……そのまま連れ帰るつもりで済ませるつもりが、完全に頭の中でイッちまったぜ……。

ははは…は…――全員皆殺しダァァァァッ!!」

 

 

 朱乃という理由を素材に爆発した一誠の進化は、たった数秒で別次元とも呼べる進化を促したのだ。

 

 

「待って一誠くん! めっ!」

 

「ぬ……」

 

 

 ただ、朱乃が素早く顔面がグチャグチャにされたライザーの首を掴んで吊し上げていた一誠の背に抱き着きながら止めたお陰で止まりはしたが……。

 

 

「あ、あの兵藤君……ど、どうやってここに?」

 

「あ? アンタのお仲間に聞いたんですよ。

アンタが負けて見事にご結婚なさるとね」

 

「え、四人と会ったの? 私のバカさ加減に愛想を尽かしたと思ったのに……」

 

「それは知りませんがね、取り敢えず奴等からこの場所と行き方を聞き出してからは知りませんよ。興味もない」

 

「あ、そ、そう……。ところで兵藤君、その、言い辛いのだけど……」

 

「え、あぁ……あそこに居る強そうなのがこのまま帰してくれないって顔してる事ですか? 流石にわかりますよ俺でも」

 

「………」

 

「派手にやり過ぎよ……」

 

 

 そのまま朱乃を連れてすんなり帰れる状況では無かった。

 

 

「こんな派手な真似をしてくれたばかりか、リアスと親しそうにしている様だけど、一体キミは誰なんだい?」

 

 

 殺気を滲ませながらこちらを見据える赤髪の青年。

 その男こそリアスの兄であり魔王であるサーゼクス・ルシファーであり、場を荒らした一誠に穏やかではない圧力を放っている。

 

 

「駒王学園・風紀委員長。只の人間として姫島朱乃を迎えに来た」

 

「彼女を? ……リアスでは無いのかな?」

 

「別に彼女のことはどうでも良い。どこの誰と結婚しようが俺には関係ない。まぁ、場を荒らしといて説得力は無いだろうけどね……」

 

 

 ハッキリとリアスはどうでも良いと返す一誠に若干傷ついた顔をするリアスに気付かずに続く。

 

 

「だが姫島朱乃だけはそこでくたばってるカス野郎に渡すわけにはいかない。聞けば中々の女好きらしいし、そんな奴が朱乃ねーちゃんみたいな人に何をしでかすかくらいは想像できる。

……………許すわけないだろ、そんな事」

 

「…………。なるほど、理由にはなってる」

 

 

 目の前の少年が『誰』なのかを知っているサーゼクスは納得した様にうなずいた。

 彼が何者で、妹の女王をどれほどに大切にしているのかを……彼がまだ幼い頃に一度だけ見た事があるが故に知っている。

 そして――

 

「あぁ、そうさ。だから――

 

 

 

 

――――――遠慮せず掛かって来いよ悪魔共? げっげっげっげっ!!』

 

 

 

 スイッチが入れば誰よりも危険な存在であることも。

 

 

「っ……!? い、言彦……!」

 

『朱乃よ、どうやら一誠は余程奴等に腹が立ったらしい……儂を引っ張り出す程度には懲らしめたいとな……げげげ!』

 

「え! え!? ひょ、兵藤……くん……? そ、その角みたいなのは……」

 

「リアス、今の彼は一誠くんじゃない。

一誠くんの中に宿った何か……言彦と名乗る誰かです」

 

「い、言彦?」

 

「何よりも危険で、何よりも破壊的……」

 

 

 堕ちた破壊の英雄。

 

 

終わり

 

 

 

オマケ・本日のイチャイチャ

 

 

 この日、クラスメートに読まされたエロ本にて裸ワイシャツなるジャンルがある事を知った一誠。

 その姿見て自然と朱乃がこうだったらと考えてしまったのは云うまでもない。

 

 

「……。なぁ朱乃ねーちゃん」

 

「なぁに?」

 

 

 なので偶々風紀委員室に来た朱乃に、偶々余ってたサイズ大きめのワイシャツを引っ張り出した一誠は、カーテンを閉めてから言ってみた。

 

 

「裸ワイシャツってのがあるらしいんだけどさー……で、できる?」

 

 

 意外と自分から頼むことがあんまり無かったので微妙に吃りながらサラピンで朱乃が着るには一回りはサイズ大のワイシャツを机に起きながら、着てくれないかと頼んでしまった一誠。

 それに対して突然の事で一瞬目を丸くした朱乃だったが、やがてフッと笑うと、ワイシャツを手に取り……。

 

 

「着るの? 良いわよ?」

 

「マジ!?」

 

「うん、裸って事は中に何も着けないって事で良いのよね?」

 

「お、おう……じゃあ一回外出るわ……」

 

 アッサリ了承し、廊下へと出ていく一誠を見送ってからそのまま着替える朱乃。

 一誠の為なら文字通り本当に何でもする辺りは彼女も彼女で中々にアレである。

 

 

「おお……!」

 

「なんだかスースーするわ……」

 

「色々とインパクトが凄いぜ……!」

 

 

 そして本当に裸にワイシャツ一枚姿になった朱乃は、見えそうな箇所を裾を引っ張って隠しながら、実際着てみてちょっと恥ずかしそうにしながら感激中の一誠に見せてあげる。

 

 

「ありがとうねーちゃん! これで頑張れそうだよ色々と!」

 

 

 存分に見れて満足した一誠は朱乃にお礼を言い、もう着替えて良いぜと言う。

 が、話はここからであった。

 

 

「…………。見せるだけなの?」

 

「へ?」

 

 

 満足した様子の一誠とは反対にちょっと不満そうな朱乃が一誠が座るソファの隣に座ると、そのまま身を寄せる。

 

 

「こんな格好させて、これで終わりなんて嫌」

 

「え、でもねーちゃんこれから部活あるんじゃ……」

 

「少し遅れても問題ないわ……ね、一誠くん……」

 

 

 ワイシャツ一枚という姿で胸を強調させ、そのまま抱きつく朱乃が一誠の耳を軽く噛む。

 

 

「またお腹の中が熱いの一誠くん……だからちゅーちゅーして?」

 

「えっと……どこまで?」

 

「できれば全部」

 

「絶対遅くなるっつーか、俺スイッチ入ると猿になるの知ってるよな?」

 

「昔からそうなのだから知ってるわ……お願い」

 

 

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

「……。朱乃? 遅くなったのはわかったけど、またお肌が艶々なのはどういうこと?」

 

「ふふ……ごめんなさいね? こればかりは内緒ですわ……ふふふ♪」

 

 

 遅刻をする日は決まってお肌が艶々なオカルト研究部の副部長と。

 

 

「あーっと、さーせん……委員室の掃除でワックスがけしてたら遅くなりました」

 

「そうですか……………腰でも痛めたのですか? それにちょっと窶れてる様な……」

 

「あ、いえ……俺も俺で好きでやったことですから」

 

「はい?」

 

 

 委員会の集まりに遅刻する度に幸せそうだけど窶れてる風紀委員長が居たとかいないとか。




補足

本編だとまあなんやかんやとリアスさんもついでに助けられたけど、このルートだととにかく『朱乃ねーちゃん』しか頭に無いので、彼女が誰と結婚しようがどうでも良い。

その2
本編と違って割りと冷静に自称姉達とやり取りできる……と見せかけてどうでも良すぎて逆にこうなってるだけ。
ある種本編以上に救いがない。


その3
朱乃ねーちゃんに悪戯する=そいつは死ぬ。

うっかりセクハラした焼いた鳥さんは全身どころか顔面もグチャグチャにされたあげくぽい捨てされましたとさ。


その4
ダボダボ裸ワイシャツ朱乃ねーちゃんにドキドキした一誠くんなのだった。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。