色々なIF集   作:超人類DX

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もしも……もしも風紀委員長の内面が割りとめんどくさかったら。


もしもに更にもしもになるシリーズ
もしもの状況


 駒王学園・風紀委員会。

 

 

 数年前までは委員数100人を越えた一大組織だったが、約二年前から生徒会が完全に学園を取り仕切る組織へと成り上がってしまったせいで、現在では『風紀委員? なにそれ、この学校にあったっけ?』と一般生徒に言われるくらいに衰退してしまった。

 そのせいで、去年から共学へとシフトした駒王学園の風紀は乱れに乱れており、とある男子生徒は平然とこの学舎に如何わしい映像ディスクを持ち込むは、女子更衣室を覗こうとするわで、時代はまさに風紀世紀末となっていた。

 

 

 だが、そんな衰退しきった風紀委員会に一人の男が舞い降りた。

 風紀を取り締まるというよりは、逆に取り締まられる側じゃねーかとブーイングとバッシングを生徒達(特に女子達から)から受けながらも堂々と就任した男……。

 その名も……。

 

 

「はいその女子ストップしなサーイ。風紀委員会主催のボディチェックデース。

男子はそのまま行って結構だが、女の子達は此処に一列で並んでくださーい」

 

 

 おっぱい馬鹿と言われるアホ……兵藤一誠だった。

 とにかく胸。女性特有のあの母性さえあれば何でも良いと豪語しちゃう、最低極まりないこの男は今日も先代が卒業して一人になってしまった風紀委員を盛り上げる為にボディチェックと評したセクハラを行おうと鼻息荒く正門を陣取っていた。

 

 

「時間が押してケツカッチンなので、皆さんのご協力お願いしマース」

 

「何がボディチェックよ! それに託つけてセクハラするだけじゃない!! 絶対嫌っ!!」

 

『そーよそーよ!!』

 

「セクハラじゃありまセーン。ちゃんとした検査です。

もしかしたら事故でパイタッチしちゃうかもしれないだけでーす。

拒否権なんてありませんので早く一人目……そこのショートカットの子からどうぞ~」

 

「その似非外人みたいな口調をやめなさいよ! むかつくのよ!!」

 

 

 正門の門を人一人分しか通れないように閉め、僅かに開いている所を一誠が通せんぼしているせいで、多数の生徒達が通れないでおり、その元凶である風紀委員長に出るわ出るわのブーイング。

 しかし一誠は至って平静のまま、自分から見て一番手前から罵倒の言葉をぶつけていたショートカットの女子生徒にニヤニヤしながら手招きをする。

 

 

「ふざけるな! 死ね!!」

 

「いてっ!?」

 

 

 が、当然風紀委員の癖にドスケベなこの男に触らせる身体なんぞ無いとショートカットの女子生徒は持っていた鞄を顔面に投げ付け、それをゴングに次々と他の女子生徒達が鞄だの石だのをバランスを崩して尻餅を付いた一誠に投げ付ける。

 

 

「いてっ!? ちょ……まっ!? 石はやめろ!」

 

「今よ皆!!」

 

 

 油断しきってたせいで、何時もならひょいひょいと避けられる筈の飛び道具を全身で堪能する羽目になった一誠。

 当然ボディチェックと称した下心を満たせる事は無くなり、ボコボコにされたまま地面に転がされて放置されたまま、生徒達は門を開けて中へと入っていく。

 

 

「く、くそぅ、誰だよ石投げたの……」

 

 

 目論見が失敗し、最初に鞄を投げ付けられて痛む鼻を擦りつつ、土の付いた制服を手で払いながらブツクサと文句を言う一誠を誰も気遣おうとはしない。

 それは勿論、ド変態が故の友達の少なさが原因なのは謂うまでも無いのだが、こうまで欲望に素直だと一部の男子から羨望の眼差しで見られる事もあるようで無い。

 男子は男子で、このドストレートに女子に対する欲望を見せる姿に感心こそすれど、彼の立ち位置が実に気にくわない訳で、セクハラをしてボコボコに返り討ちにされた一誠を見ても、『ざまぁ見ろ!』と思う割合の方が大きかったりする。

 

 

「ちっきしょーめ。

ちょっと触るくらいさせてくれても良いのにケチな奴等めが……!」

 

 

 ブツブツと自分の行いを棚に上げた発言をしながら、今日も収穫も無しと肩をがっくり落とした一誠は、これ以上此処にいても仕方ないと気落ちした気持ちで教室に戻ろうと歩きだそうとした所で……本日二回目の顰蹙を買う出来事が巻き起こった。

 

 

「おはようございます一誠くん。

今日も朝からお馬鹿な事をしてるみたいで?」

 

「あぁ!? あんだよ!?」

 

 

 あのショートカットの女め、今度松田と元浜と組んで凄い仕返しをしてやる……! 等と反省の色無しに復讐しようと考えながら正門を潜った時だった。

 そんなアホな事を考えてるせいですっかり周りに気付いて無かった一誠の後ろから呼び止める声に、ボロボロにされてちょっと不機嫌だったのか、ついつい態度の悪い感じの顔と声で自分を名を呼ぶ誰かに向かった振り向き、そして一瞬で後悔した。

 なんせ其処に居たのは――

 

 

「あらあら、随分とご機嫌ナナメのようですねぇ……『一誠くん?』」

 

「げげっ!?」

 

 

 ニコニコと常人なら一撃で惚れてしまいそうな『良い笑顔』で若干背の高い一誠を見上げるように見つめていた一人の少女に、一誠の下心満載な思考は一気に吹き飛び、まるで化け物と相対してしまいましたと言わんばかりに顔色を青白くさせながらズササーッと後ずさりをする。

 

 

「人から声を掛けられたらそんなお返事を、しかも私にするだなんて……ふふふ、何か嫌な事でもあったのかしら?」

 

「い、いやー……その……」

 

 

 死人みたいな顔色をしながら目を泳がせまくる一誠とは真逆に、少女は周囲がため息を漏らしてしまう程の綺麗な笑顔のまま後退する一誠と距離を詰めて行く。

 

 

「ち、違うアンタの事じゃない……! ちょ、ちょっとしたゴタゴタがあって、い、イライラしてただけで決してアンタにそんな返しをするつもりは無かったつーか……」

 

「へぇ、ゴタゴタ? 私、今来たばかりで一誠くんが何をしたのか見てなかったので、出来たら教えて欲しいですわねぇ? そうすれば納得するかもしれませんし?」

 

「え"?」

 

 

 必死になって言い訳をしようとする一誠に少女が更なる追い討ちを相変わらずの笑顔でする。

 

 

(や、やばい……!

アンタと顔合わせしない為に、早めに来て女子達のボディチェックしようとしてましたなんて言ったら…………)

 

 

 長い黒髪をリボンで一つに縛り、ザ・大和撫子と言われる程の美しい容姿を持つ少女に、女子に対して強気にセクハラを決行しようとする一誠らしからぬ焦り具合を見せながら、笑顔のまま距離を詰めてくるこの少女が納得する言い訳を必死こいて考える。

 が、悲しいかなこの少女の思わぬ出現が、異常で異質な人間ととある人外のお墨付きを貰ってる筈の一誠の思考を混乱させてしまい……。

 

 

「ご、ごめんなさい……風紀委員と託つけて女の子のボディチェックをしようとしたら返り討ちにされました……」

 

 

 嘘を言って後でバレたら拷問される。

 その恐怖とを天秤に掛けた結果……一誠は昔から一々煩くて怒ると怖い『幼馴染み』に本当の事を言わざるおえなかった……まる。

 そして当然……。

 

 

「へぇ、毎朝逃げるように一緒に行かなくなった理由がそれですか? へぇ……へ~~~~~~ぇ?」

 

 

 幼馴染みで一誠より一つ年上の少女……姫島朱乃は一切目が笑ってない笑みで、一目散に逃げようとした一誠の手首をガッチリ掴んだ。

 そりゃもう……ミシミシと骨の軋むような音が聞こえちゃうくらいに。

 

 

「ちょっ、ちょっと姫島センパイ? ぼ、僕ちゃんの手首ちゃんが泣いてるんですけどね? ねっ!? 痛いよ!」

 

「姫島センパイだなんでよそよそしい……今までみたいに『朱乃ねーちゃん』と呼んでくださいな?」

 

 

 ほほほ……とお上品な声で笑ってるその下では、今にも一誠の手首を砕かんとする朱乃の手があり、一誠からすれば百パーセント怒ってるのが分かる態度が恐怖心をつつかれて止まない。

 

 

「あっ! また姫島先輩と一緒にいるぞアイツ!」

 

「いやぁぁっ! 手とか繋ぐなんてありえないわ!!」

 

「羨ましいぞ、死ね!!」

 

 

 当然、このやり取りを見ていた他の生徒達は、朝っぱらから学園ナンバーワンド変態の一誠と学園二大お姉様の朱乃がイチャコラしてると思い込み、朱乃では無く一誠に口撃を繰り出す。

 

 

「ば、バッキャロー! この恐怖で青白くなってる俺のクールフェイスを見てわかんねーのかコラ!

どう見ても『今からこの人に処刑される』ってツラしてんだ――いぎゃぁ!?」

 

「あらあら、人様にそんな汚い言葉は『めっ!』ですよ? うふふ……」

 

「あががが!」

 

 

 何も知らない生徒達の想像を真っ向否定しようと吠える一誠だが、まるで犬を調教するかの如く手首を掴んでいた手に力を込めて笑顔で黙らせた朱乃。

 これが一誠が入学した時から定期的に行われるイベントの一つなのは謂うまでも無く、一誠は五体満足で果たして生還出来るのかと不安で不安で仕方がなかった。

 

 

「朱乃。いきなり走るから何事かと思えば……」

 

「あら部長。申し訳ございませんでした」

 

 

 しかし運はまだ一誠を見捨てちゃ居なかった。

 

 

「グ、グレモリー先輩!?」

 

 

 朱乃と同じく、学園二大お姉様の片割れで紅髪と美しい容姿で大人気の少女……リアス・グレモリーと以下その他の出現が、救いの女神ならぬ悪魔の登場で歓喜の表情を浮かべる一誠と見ていた多数の生徒達を大騒ぎさせる。

 

 

「すいません、昔から変わらず手の掛かる子が騒ぎを起こしたみたいで」

 

「みたいね……。おはよう兵藤くん」

 

「っす! いでっ!? は、はよざーっす!」

 

 

 一切手を緩めないまま話をして居る朱乃で察したのか、ちょっと苦笑い気味に一誠に声を掛けるリアスは、内心『前にも怒られてるのに、ある意味大物になりそうねこの子……』と手首をへし折られる勢いで掴まれてバタバタと暴れる一誠に変な評価を下している。

 

 

「い、一誠……その、おはよう……!」

 

 

 そんなリアスの後ろには数人の人影があり、当然の如くリアスや朱乃の同じ『人気者』の称号が似合う容姿を携えている男女。

 その中に一誠と同じ色をした髪を持ち、物凄い特徴的なアホ毛を持つ女の子が、妙に遠慮しがちに目を泳がせ、意を決して挨拶をしていた

 

 

「いててて、くそぅ……」

 

 

 一誠の双子の姉で、リアスが取り仕切る『オカルト研究部』なる部活の部員である兵藤凛が、とても姉弟とは思えないおっかなびっくり態度で挨拶をした。

 しかし、悲しいことに一誠手首が痛くて聞こえてなかったのか、そもそも初めから姉弟仲が良くなかったのか、凛の挨拶を丸無視して手の痕が残る己の手首を気にしていた。

 

 

「う……」

 

 

 兵藤姉弟の仲は絶望的に悪い。

 それも一誠が家出をして独り暮らしをするレベルにでた。

 凛は弟に対して嫌うという事もなく、寧ろ端から見たら『ちょっとだけ危険に感じる』レベルでのブラコンだ。

 しかし一誠は違う。とある事情か一度たりとも凛という存在を――双子の姉というものを信用しかことがないし肉親感情も皆無だった。

 それは、一誠だけが認識し、記憶するトラウマレベルでの昔話があるからなのだが、今その話はしないでおこう。

 

 

「わ、わかってたけど、一誠に無視されるのって辛い……グスッ」

 

「凛先輩……」

 

「元気出しなよ。もしかしたら彼は痛くて聞こえなかったのかもしれないし……」

 

 

 既に泣きそうになってる凛を、白髪の後輩と金髪の同級生が心配そうに駆け寄る。

 搭城小猫と木場祐斗……凛を慕う仲間であり、どちらもリアスや朱乃に退けをとらぬ学園の人気者である。

 ……まあ、祐斗の場合はその整った容姿と性別が男だということで女子達から王子だとか呼ばれ、男子達からはメチャクチャ敵視されていたりするが……それでも人気者は人気者だった。

 

 

「ふふ、あれだけ言ったのに、色々な女の子に発情してたみたいね?」

 

「い、良いだろ別に……! そこまで縛られる云われなんて……あひゅ!?」

 

「「……」」

 

 

 そんな凛達の気持ちは見向きすらしてない一誠はといえば、一々何かやるだけ――主に学園の女子達にちょっかいをかけようとするだけで怒る朱乃に辟易しながら、ちょっとした言い合いをしていた。

 そのやり取りは端から見れば、単なる痴話喧嘩のそれに聞こえなくもなく、聞き耳を立てていた一般生徒達のほぼ全てが、このド変態風紀委員長である一誠を、鈍器で殴らんばかりの眼光で睨んでいた。

 だが、そんな事に気を使う性格でも無く、更に言えば異様なまでににこやか――つまり怒ってる朱乃に何とか一言言い返してやろうと、一誠はよせば良いのに余計な事ばかり言い続ける。

 それこそ悪手であるというのにだ……。

 

 

「ふーん、そんな事を言うの?」

 

「え……あ……」

 

 

 気付いた頃には後の祭り。

 朱乃が黒いオーラが幻視する位の殺気を放ち始めてから、今更になって『言いすぎた』と気付いた所で全てが遅い。

 

 

「部長。始業まで10分程ありますので、ちょっとおいとまを……」

 

「あ、うん……行ってらっしゃい」

 

 

 ゾッとすらする低い声と、一誠にとってすればの死刑宣告に、本人は隙を見て逃走を図ろうとする。

 けれどそんな事が今更許される筈も無しに、スタートダッシュをしようと地を蹴りだすその刹那に、朱乃は背を向けていた一誠の制服の襟を無造作に掴む。

 

 

「おごっ!?」

 

 

 掴まれたことにより、思いきり首が締まり、一瞬だけ意識が遠退く一誠は、咳き込みながら恐る恐る背後を窺う。

 

 

「じゃあ、行きましょう……一誠くん?」

 

 

 そこにいるのは……怖い怖い幼馴染み。

 

 

「いやー殺される!! おっぱいハーレム築いて無いのにこ~ろ~さ~れ~る~!!!」

 

 

 だから一誠は余計な事を言いながら叫んだ。離せと。

 その言葉が更に現状を悪化させてるのに気付かずにだ。

 勿論、それを言われて朱乃が離す訳もなく、一誠は死刑執行前の囚人の気分になりながら、人気の少ない旧校舎の空き教室へと連行されるのであった。

 

 

 

 

「いてて……。

本当に手首がイッちまう所だったぜ……」

 

「ふん、スケベな事をやるからだわ」

 

 

 校舎内にまで響き渡る一誠の断末魔だが、旧校舎の空き教室へと連れてこられてからは嘘の様に静かになり、危うく砕かれそうになった手首に残る痣を見ながらブツクサと言っていると、それまで胡散臭い笑顔だった朱乃の表情は、誰が見ても不機嫌なソレであり、口調も幼い少女の様に拗ねたソレだった。

 

 

「どうせ本気で折ってもすぐ自然治癒するんだし、あんなに騒がなくても良いじゃない」

 

「俺は都合の良いサンドバッグじゃないやい!」

 

「ふん……それで?」

 

 

 痣の箇所を擦りながら文句を言ってる一誠をスルーしながら朱乃が拗ねた様子で、何でまたセクハラをしようとしたのかと言及する。

 すると一誠はそれまで態度に出ていたふざけた空気を引っ込めると……。

 

 

「こうやってバカやってないと、余計な詮索されちまうだろ? ただでさえアンタは人気者なんだから」

 

 

 不機嫌そうに此方を見ている朱乃の方を見ずに答える一誠に、当然彼女はますます面白く無くなる。

 

 

「ふーん? 一誠くんのお好みの条件を全部揃えたのが今目の前に居るのに、そういう事を言っちゃうのね?」

 

「はぁ、お好み?」

 

 

 不機嫌そうに口にしたその言葉に、一誠は此処で初めて片方の眉を吊り上げながら朱乃へと視線を向け……そして鼻で笑う。

 

 

「はん、俺の好みはおっぱいが大きくて優しいグレモリー先輩みたいな人であって、オメーみてーなマウンテンゴリラの皮を被った乱暴女じゃ――」

 

「………………………………………」

 

「あ、はいすいません……チョーシ乗りました。朱乃ねーちゃんは最高です」

 

 

 昔から変に煩くて引っ付いてくる幼馴染みに辛辣な言葉を投げ掛けようとしたが、ビリビリと手から電撃を放出している姿を見て一瞬で意見を変える。

 好き好んでスズメバチの巣をつつく趣味は一誠に無いのだ。

 

 

「ハァ……俺のせいで『そう』なったことに対しては申し訳ないと思うけど、だからって縛られる謂れは無いんだけどな?」

 

「縛ってなんか無いわ。『浮気は許さない』という健全な気持ちの上にちゃんと動いているつもりなの。

そもそも、私からは何度も言ってるのに『逃げようと』するアナタが悪い」

「浮気ねぇ……」

 

 

 まるで当然だとばかりに言い切る朱乃に一誠はしょっぱい表情だ。 

 あの、何処から途もなく沸いてきた姉と名乗る凛……そして沸いて出た筈なのに、兄弟なんて存在しなかった筈なのに『自分の子供だと』言い切る両親にある種の恐怖を感じ、幼い頃に逃げ出し、帰る家も無くした時に手を差し伸べてくれた存在……それが朱乃――いや姫島一家だった。

 

 

「委員会の仕事だし、服装のチェックは仕方ないんだよ。

スカートの丈の長さチェックしかりね――それで間違えてパンツ見てもそれは事故なんだぜ事故」

 

「わざとの癖に」

 

 

 凛という得体の知れない存在を知らなく、兵藤一誠として接してくれた姫島一家が居なければ、今頃自分はどうなってかわかりゃしない。

 だからこそ朱乃の言うことは極力聞いてきた。 

 なのに、いつの日か……『あの日』を境に自分に変化が訪れ、朱乃に対して無責任な事を言ってしまったばかりに、今では自由にセクハラ――もとい恋愛が出来ず、朱乃という幼馴染みに邪魔をされてしまう始末。

 

 

「しょーがねーじゃん、委員会は現状俺一人だけだし、これ以上生徒会に調子こかせるなと先代の冥ちゃん先輩に釘刺されてるんだ。

ねーちゃんだって冥ちゃん先輩は知ってるだろ? あの暴君的な性格とか」

 

「それは知ってるわ。けど、あの人が何で一誠くんを後継者にしたのかもよくわからない程度しか知らないわ」

 

「それは俺の学年で唯一あの人のやり方に着いていけたのが居なかったからなー……朱乃ねーちゃんの学年には一人も居なかったらしいし」

 

 

 いや、正直成長した朱乃は引くほど……母親の姫島朱璃に似た美人にはなったと素直に認めることは出来るし、いっそ彼女の言う通り、素直に喜べる様な関係にでもなれれば一誠も今頃はセクハラド変態野郎と言われなかっただろうが、現実は何処で間違えたのか、若干歪んだ愛情を示してくる怖い幼馴染みなのだ。

 

 

「今年は一年で一人も入ってこなかったし、結局俺が引退するまで続けなきゃいけないのよ。

そこんとこねーちゃんによーく説明したんだけどなー」

 

「だからといってスケベな事をするのは嫌」

 

 

 現に一誠の質問にアブノーマルな答えを返してから薄く微笑んだ朱乃が恥ずかしげも無く一誠に抱きつき、その豊満な胸を顔面に押し付けながら低い声で言うのだ。

 

 

「嫌なの。一誠くんが他の誰かに鼻の下を伸ばすのを見るのも、あの人外さんに取られるのも……」

 

 

 一誠が密かに手にしたこの世に二つと無いある異能力を開花させた人物。

 一誠いわく、実年齢がやばい女で昔朱乃も見たことがある、美少女と言っても差し支えない人外。

 幼い頃一誠に救われた朱乃からすれば、一番に警戒すべき相手。

 それに負けないためにも朱乃は裏工作混じりで頑張るのだ。

 

 

「ちょっ……苦しい……!」

 

「ふふ、この前また胸が大きくなったのよ? どう?」

 

「す、素直に喜べないんだけど……! てかなんだよ急に……!?」

 

「それは当然、なりふり構わず発情する困った幼馴染みを、私が犠牲になって解消してあげるだけよ?」

 

 

 ド変態と言われるまで自分を追い込んで鍛え抜き、常に限界を越えた成長をする彼をモノにする為に……。

 

 

 

 兵藤一誠

 所属:駒王学園・風紀委員会委員長。

 種族:人間。

 備考:強さ(アブノーマル)弱さ(マイナス)を兼ね備えたハイブリッター

 

 

 姫島朱乃

 所属:駒王学園・オカルト研究部副部長

  裏:グレモリー眷属女王(クイーン)

 備考:雷の巫女。

 

 

 二人の共通点:幼馴染み――

 

 

「わかったわかった! わかったからちょっと一旦離れてくれ!」

 

「離したら逃げるじゃない」

 

「この期に及んで逃げないって! ほら!」

 

「…………」

 

 

終了。

 

 

 

 

 

オマケ……違い

 

 

 と、一見すればスケベな風紀委員長と二大お姉様と呼ばれる少女のドタバタしたお話………と思われるが、実の所は少しばかり違う。

 姫島朱乃が、かつて母と共に命を奪われた際にその失った命を否定することで救ってくれた少年を愛してるのは変わらないけど、逆にその救った事で獲た目標の為に永久的な進化を続ける少年はその心の有り様がほんの少しだけ違っていた。

 

 

「そもそも朱乃ねーちゃんだって色々と言い寄られてるんじゃねーのかよ?」

 

「? 言い寄られてると言われたら、何度か告白されたという意味でそうかもしれないわ」

 

「ほーらな。いっそ付き合ってみたらどうだよ?」

 

 

 例えば漸く離れてくれた朱乃に対し、一誠がちょっと拗ねた様に朱乃が告白されたことがあると話した事に悪態付く。

 

 

「昔っからそうだけど、ねーちゃんはモテモテだからねー? 引く手多数なんじゃございませんのー?」

 

「何で怒ってるのよ?」

 

「べっつにー」

 

 

 そもそも女子に対してセクハラする事実は否定しようが無い事実だ。

 しかしそのセクハラに走る理由は何を隠そう朱乃の――

 

 

「この前二年の奴にコクられたの俺見ちゃったっつーか……」

 

「そうなの? 言っておくけどちゃんとお断りしたわよ? 当たり前じゃない」

 

「………」

 

「あ、まさかヤキモチ?」

 

「ちがわい!!」

 

 

 朱乃の気を引く為でもある。

 年々美人になっていく朱乃に男達が放っておくわけが無いと近くで見ててよーくわかってるからこそ、わざとらしく自分が朱乃に近しい存在だとアピールする為にアホな真似までして目立ち、抑止力となる。

 

 そこそこ素直になれてないせいで遠回しだけど、それが一誠の不器用さだった。

 

 

「そんな遠回しな事しなくても良いのに……」

 

「……。俺はまだねーちゃんや朱璃さんをボケ共から守れる程の――バラキエルのおっさんに託される程の男じゃないからな。

時々思うんだよ……もしもねーちゃんが誰かと恋愛したら、俺はもう必要なくなるんじゃないかと……」

 

 

 幼い頃、自分を受け入れてくれた家族が襲われた時に見てしまった光景が今でもトラウマとして残るからこそ、その日以降宿った己の力を鍛え、今度は如何なる存在をから守れる様になりたい。

 それが一誠の持つ本来の気持ちであり、もしその核となる朱乃が他の誰かに恋して自分が必要なくなったら――それを考えるだけで一誠は生きる意味を見失う。

 

 朱乃の気持ちを受け止めるにはまだ足りない自分としては……それが一番怖いのだ。

 

 

「今でも十分守ってくれてると思うけど私は……」

 

「いいや、まだダメだ、こんな中途半端ではねーちゃんを守りきれない。

もっと……もっと力を付けないと」

 

 

 もう喪うのは嫌だ。

 その気持ちはある意味で朱乃と通じるものがある。

 だって一誠はずっと昔から――

 

 

「なぁねーちゃん。俺がこれからもバカやればねーちゃんは構ってくれるよね?」

 

 

 朱乃と――朱乃の家族以外はどうでも良いのだから。

 本来の一誠が時折見せる強烈な執着心と狂気を孕んだ瞳に朱乃は暫しポカンとするが、やがてその頬を緩めると、いつの間にか自分より大きくなった男の子の身体を抱き締める。

 

 

「当たり前じゃない。寧ろずっと一緒にいるよ……仮に一誠くんが逃げたって追い掛けちゃうんだから」

 

 

 狂気すら思わせる程に、ただ自分を守る為だけにその異常性を増幅させ続ける姿を見続けて来て、他の男に心を奪われるか? 朱乃の答えは即答のNOであり、その証拠とばかりに一誠を座らせ、その顔を自分の胸で抱く。

 

 

「私だってそれが嘘でも一誠くんが他の女の人に現を抜かす姿はみたくない」

 

「…………ごめん」

 

「謝らないで……不安にさせてるのは私も一緒だから。

『才能』が無いばかりに一誠くん一人に負担をかけてるのは私だから」

 

 

 母と自分が死を否定されて蘇ったあの日最初に見た泣きじゃくる男の子を知ってる。

 バカをやって命を落とし掛けても尚自分を守る為に諦めなかった背中を知っている。

 

 

「私と母がこうやって生きているのも、一誠くんが頑張ってくれたからだって一番知ってる。

ちゃんとこうして心臓だって動いてるんだから……わかる?」

 

「……」

 

「…………。チャイムが鳴っちゃったけど、どうする?」

 

「……。ねーちゃんは?」

 

「私は……少しサボっちゃおうかな? 風紀委員長さんの前で言っちゃうけど」

 

 

 だから怖いほどに互いが互いを執着する。

 抱き締め合い、手を繋ぎ……そして。

 

 

「ふふ、昔を思い出すね? 森で遊んでいたら古いエッチな本を見つけちゃって、二人で読んでたら変な気持ちになって、本の通りにしてみようって……何時間も……」

 

「バラキエルのおっさんにバレたらぶち殺されるだろうな……無知だったとはいえ」

 

「あの人は関係ない。それで一誠くん、今サボるって決まった訳だけどどうするの? 一誠くんが欲しいって我儘言ったら困る?」

 

「……ちょっとだけ」

 

「そっか……それならちょーだい?」

 

 

 肉親よりも長く共に過ごした二人はそのまま倒れ込む。

 秘密の秘め事として。

 

 

IF……もしも風紀委員長イッセーが最初から朱乃ねーちゃん一辺倒だったら。終わり




補足

オリジナルと違って、めんどくさい感じに朱乃ねーちゃんが大好きであり、例の姉は嫌いというよりは『もはやどうでも良すぎて雑草』という感じになってます。

つまり、相手にしようと思えばまぁ普通にできるけどそれ以上が無いみたいな。


その2
なので、本編以上に朱乃ねーちゃんに対してアレであり、何かあろうものならもうD×Sシリーズの如く思い切るやり方で出撃したりとか……するのかも?


その3
最後あった通り、偶々二人で小さいとき遊んでたらそっ系の漫画雑誌があり、小さくて無垢だったまんま二人して興奮してしまいそのまま――――と、アレがこうしてアレした感じに。

なので本編と比べて割りと朱乃ねーちゃんは余裕があります。

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