その名の通り無限を司る龍神である、今は彼女とカテゴライズされているオーフィスは、己にとってはつい最近とも言える10年近く前に、一人の人間と共鳴した。
『きみ誰? 言っとくけど、これ拾ったの俺だからあげないよ……』
兵藤一誠。
人間でありながら自分と同じ無限を持ち、人間でありながら自分の宿敵であるもう一つの龍神が司る夢幻を持つ人間の雄。
『また沸きやがったなこの小汚いガキがっ!!』
『っ……!』
ボロボロでみすぼらしく、孤独にゴミを漁りながら生き永らえていた姿がオーフィスにとって最初に見た一誠の姿だったが、そんな姿よりも何より彼女が感じたのは、一誠が内に秘めていた無限の力だった。
『あーぁ、今日はパン一個だけか……ついてないな』
『人間。けど我と同じ――』
『っ!? …………………って、さっきのキミか。何? やっぱりこのパン狙ってたの?』
虫が夜の電灯に集まるが如く本能――と云うべきなのか、オーフィスは共鳴する何かを感じながら、当時の一誠と同じ年代の姿……つまり現在と同じ黒髪ロングのロリっ娘姿で接触した。
『我とお前は同じ――同類。我は初めて自分と同じと会った』
『同じって何……?』
『無限――そしてグレートレッドと同じ夢幻。
お前はその両方持ってる……人間なのに』
『? むげん? ぐ、ぐれーと?
あの……ひょっとしておままごとでもしたいの? というかキミの父さんと母さんは何処だよ? もしかして迷子?』
『無い。我はずっと独り。けれど今からは違う』
『???』
結果……彼女は次元の狭間の故郷で引きこもるよりも、ホームレスの様な姿で醜く生き永らえていた一誠の旁の方が落ち着くと気付かされ、以来ずっと年月を経て少年から青年へと成長し、無限に恥じぬ進化を誰よりも遂げるその旁に、ロリっ娘姿のまま引っ付いていた。
『くっ、も、もう動けないよオーフィス』
『我の勝ち。けどイッセーは凄い。我の全力でも絶対に殺せない……何れ我を確実に越える――――ふふ』
『そうかな……オーフィスが言う程俺は強くないと思うけど』
『我が感じてるのだから間違いない。大丈夫、自信を持って?』
それがオーフィスにとっての『絶対なる安心』だったから。
だからオーフィスは自身の身体を、人間に合わせる為の一時的な擬態では無く、限り無く人間に近い――もはや殆ど人といっても過言では無い肉体へと変質させた。自分の孤独感を埋めた人間の少年と同じになりたかったから……。
『イッセーの協力のお陰で成功した。これで我の身体は人間とほぼ同じ――イッセーと同じ』
『あんまり今までと変わってない様に見えるんだけどな……』
『見た目は変えてないけど中身は違う。
これで確実に子供が作れるし、中身は変わっても弱くはなってないからイッセーには迷惑かけない』
『寧ろ迷惑かけてるのは俺な様な……』
まあ、それでも無限の龍神である力を100%引き出せる辺り、人間とはまた別物なのは間違いないのだが、それでも人間を既に超え、宿敵である真なる赤龍神帝とタイマン勝負に持ち込めるほどに進化をし続ける一誠とは調度良かった。
「秘密ってのはさ、それをバラされたくない奴が居るから秘密って言うんだよ」
「ぐ……ぁ……!」
「それなのに無理にでも知ろうとするって事は、殺されても文句は無いって事だよな?」
「ま、待て! 命だけは―――」
そして現在の一誠は……。
「オーフィスは誰にも渡さない――だから皆殺しだ」
人であるかも疑わしき領域へと昇華する。
普通の人間とは別の存在が居るという事実について、俺はオーフィスという龍を知ってから頭の中に知識としては入っている。
だが知ってるだけで関心があるかと問われたら俺は間違いなく『無い』と答える。
だって所詮、人か人じゃないかの違いでしかない生物ってだけの話であり、ソイツ等がどう生きてようかだなんて一々興味が沸くわけが無い。
俺にとって必要なのはオーフィスだけだから。
「ちくしょう、神代の奴がオカルト研究部に入部したらしい」
「これで奴はグレモリー先輩や姫島先輩、小猫ちゃんの近くに毎日居れる様になった訳だ。
許されねぇぜこんなのは!」
「まったくだな」
なんて、作った性格上、憤慨してるクラスメートの二人に同調してるけど、羨ましいという感覚は全く無い。
寧ろ勝手にすれば良いとすら思える訳で……まあ、そんな本音をぶちまける訳にはいかないので、今こうして元浜君と松田君に倣って神代とかいう男を睨んでみる訳だけど。
「でもよ、普通には入れないオカルト研究部にどうやって神代は入れたんだ?」
「それがわからないんだ。突然そうなってたから」
「きっと変な手を使ったに違いないぜ」
変な手を使ったね……。よく解らないけどどちらにせよどうでも良すぎる話だ。
元浜君と松田君には悪いけど、どうにも俺はあの連中に対して関心が沸かない。
学校内で持て囃されてるから流れに乗って俺も騒いでるけど、アレの何処に騒ぐ理由があるのかがさっぱり解りゃしない。
見た目なのか力なのか……どちらにせよ俺には理解したくもない話だよ。
「それより今日はどうする? また更衣室でも覗くか?」
「この前抑えたポイントはバレちゃったから使えないし、また新しいポイントを探さないとな」
「あぁ、早くプール開きにならないかな……そしたら水着姿も見れてウハウハなのに」
二人の会話にさも乗ってますを演じながら、俺は去年オーフィスと遊んだ夏の出来事についてを思い出す。
誰も来ない無人島みたいな所で水着着て遊んで、その後アレしてコレしてと楽しかったから今年も遊びたいな。
でもその前にやらないといけない懸念の排除があるかもしれない……。
「………」
下の名前が何なのか未だに覚えてない神代とかいう男が最近ちょろちょろ周りを鬱陶しくしてるという意味でね。
神代来牙は転生者である。
神のミスという理由で本来の寿命よりも前倒しに死んでしまい、そのお詫びとして名と容姿と能力を貰ってこの世界に転生した存在であり、所謂第二の人生を生きようとしていた。
それも、本来歩む道を歩く少年を叩き落として成り代わりながら。
(………)
しかし本人にとって予想外な事に、彼の知識にある本来の道を歩むはずだった少年は、その殆どの理由である『力』を持っておらず、単なるスケベなモブキャラであった。
それならそれで好都合だと、神代は転生してから今まで築いた様々なフラグやら何やらで楽に本来の主人公の位置を手に入れられた訳だが、本人は最近少しだけ腑に落ちないものを感じていた。
(禍の団はどうやらあるらしいが、肝心のオーフィスが見つからない)
生前持っていた知識を活用し、上手く立ち回る事で神代は実はグレモリーの下僕悪魔になる前にとある組織の一員になっており、その組織は後々三大勢力と敵対する組織だ。
では何故そんな組織の一員なのにグレモリーの下僕になったのか……それは簡単に言えば本来の主人公が持つ位置を取りつつ様々な人物とフラグを立てたいからといった理由であり、もっと言えばその下僕仲間の一人である少女を組織仲間の姉に会わせて上手く仲直りさせ、そのまま引き込むという算段を立てていたからである。
(黒歌と約束して白音を連れていく作戦は概ね上手く行きそうだが、問題はオーフィスが居ないという点。
この世界の禍の団はオーフィスの名を使ってかき集めた構成員で占められてるけど、何故そのオーフィスが居ないのか……)
元々神代は兵藤一誠という存在が嫌いで、その位置を奪えた事には満足していた。
だが思っていた知識とこの世界は微妙に差異がある様で、オーフィスという存在が居ない事が一番の違いだった。
(粗方探したけど見つからない。
今更見つかったとしても、オーフィスが作った組織じゃないから長になってくれるとは思えないけど……)
居ないなら居ないで、組織自体は存在してるのだからそれで良いのではないか……と普通なら考える。
だが神代にはどうしてもオーフィスと会う理由があった。
(原作のオーフィスと同じ姿に上手いこと言って固定させて味方に付ける。
上手くいけばフラグも……)
その理由は単純――単に自分の欲の為であり、性癖が実はロリコンである神代にとって小猫に続いてオーフィスの姿は自分に欲しい存在らしい。
(居ない筈は無いし、暫くリアスの下僕をやって原作に沿えば会える。
その時になれば……)
等と欲のままに考えてる神代だが、それが崩壊へと片道切符の購入費であるとはこの時思いもせず、またその求める存在をこんなに早く見つける事になるとはこの時思いもしなかった。
そんな野望を秘めたまま悪魔の下僕としての仕事をこなす神代はこの日、仕事を終えた報告をする為に一旦部室へと戻ろうと町を歩いていた。
「あれは……兵藤か?」
その最中、少し賑やかな繁華街の人混みの中に最早モブになっていた一誠が歩いているのを発見する。
この時点で神代はそのまま気にせず再び歩き出そうとしたのだが、その足は動かず目を見開いたまま立ち尽くしていた。
「な、何で……」
あまりのショックに小さく漏れた声。
今この瞬間までモブになっただけの変態と思って見下していた相手だった……それなのに神代の目に飛び込んで来たのは……。
「今日は何が食べたい?」
「イッセーの作るものなら何でも好き」
楽しそうに笑いながら長い黒髪の少女と手を繋いで歩いているのを姿。
その姿――というよりは少女の姿を見た神代はあり得ないという狼狽えを出しながらも、間違いないその姿に名を呟く。
「オ、オーフィス……?」
知識と照らし合わせてもまず間違いない姿。無限の龍神と呼ばれた世界最強クラスのドラゴンの変化した姿。
それは神代や組織が血眼になって探していた存在であり、知識を有する神代はその変化した姿を見ても尚彼女がオーフィスである事を確信した。
「くっ!」
何故オーフィスがよりにもよってモブ化した男の傍に居るのか……様々な疑問が駆け巡ったが、それよりも早く本能的に身体が動いた神代は悟られないように郊外へと消えていく二人を追った。
「そんなバカな……! 何でオーフィスが奴と……! というか何故気づけなかったんだ……!!」
唐突過ぎて混乱しながらも二人を追い掛ける神代。
そしてたどり着いたのはお世辞にも良いとは思えないオンボロアパートで、二人が部屋に入っていくのを見てしまう。
「ここが兵藤の家? アイツは一軒家の筈だが……」
別の転生者が居た事、そしてその転生者により親を殺されてる事を知らずに、知識とは違う一誠の自宅に尚も困惑しつつ、取り敢えず二人が入った部屋の前まで来た神代はドアに耳を当てて中の様子を探る。
そして聞こえてきたのは――
「オーフィス……!」
「あっ…イッセー、激しい……!」
艶かしい少女と少年の声。
互いを求め合う様に呼びながら何かが軋む音。
「な……!」
恐らく転生してから一番のショックだっただろう衝撃が、後ろから鈍器で殴られたかの如く神代を襲う。
モブだと思ってた奴が、聞いた瞬間ほぼ確定したオーフィスとそんな事をする関係を密かに結んでいたなんて……。
「く、クソ野郎……!」
神代は怒りに我を忘れそうになった。
だが寸前で思いとどまり、心の中で何度も一誠に対して呪詛の言葉をぶつけながら走り去る。
オーフィスに悟られないように始末しなければ、オーフィスに敵と思われてしまう為、そして事故に見せかけて殺した後にゆっくりとオーフィスを自分のモノにする為……。
「……絶対に殺す」
地雷原である事に気付かず、神代はただそう思うのだった。
「……。簡単に釣れちゃったよ。単純すぎて逆に怖いぜ」
「最近我の名を勝手に使ってる集団の一人なのアレが?」
「さぁ、それを含めて近い内にわかるさ。何せ力を隠してる筈のオーフィスを見て目の色変えてたし」
それが完全に看破されてる事も解らず泳がされていたとも知らずに。
「それよりイッセー、声だけ出してたら欲しくなった……だめ?」
「鬱陶しいのが居なくなったし、オーフィスが良いなら」
「イッセーが欲しい……だから来て。ぎゅってしてあげる」
「ん……はぁ……オーフィスは良い匂いだ。安心するよ……」
「イッセーは大きくなっても変わらない。でもそれが我は大好き……」
「年々自分で重くなってる様な気はするけどね……あはは」
「あっ……♪ そこちゅーちゅーされるの我……好……きぃ……♡」
終わり
補足
チマチマと裏工作してたらしい第二の転生者。
しかしまぁ……うん。
その2
この世界のテロ組織はそういう流れです。
その3
転生者はロリコン……らしい。