色々なIF集   作:超人類DX

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一度言われた事は職業病のせいか何がなんでもやり通す。
そのせいで……


仕事人の執事

 本当なら少年の性格は快活で、少しだけスケベだったのかもしれない。

 でもたった一つの異物が真逆の性格へと変質させ、その力の根元も異様なものへとなってしまった。

 

 

 ただ強く、何者をも粉々に打ち砕く無敵の力を。

 

 裏切られても揺れない鋼の精神を。

 

 

 それはきっと力が無いから全てを一度失い、今でも癒えないトラウマが彼の性格を決定付けてしまったのかもしれない。

 力無き者として見捨てられたくないという……怯えが。

 

 それは異世界でも――いや、異世界にて自分達の力を求められたからこそ、より強く根付いたのかもしれない……。

 

 

 

 

 

 コンビニもゲーセンも無い過去の世界にて遂にストレスが限界突破し、胃がオカリナとなって吐血した一誠。

 本人曰く『暫くしたら勝手に治る』との事だけど、その吐血を見た者に対して口止めをしたせいか、妙な勘違いを抱かれた。

 その勘違いをした少女こと荀彧は、その時以降から毛嫌いから好敵手扱いをし始めたらしく、それは遠征の時の道中にも表れていた。

 

 

「アンタ馬には乗らないの? 直属配下なのに……」

 

「……………………。歩いた方が楽なんでね、それに馬は苦手だ」

 

 

 

 目の前で流石に笑えなかった量の血を吐かれ、それでも尚華琳には一切話すなと狂気じみた目で言われたのがそんなにアレだったのか、それ以降から妙に頻繁に話し掛けてくる荀彧に鬱陶しいと思いながらも、思った事をポンポン無遠慮に、何となく自分と同等レベルの口調で話す荀彧がそこまで苦痛とは思わずに返していく一誠。

 

 というか無視してヒスでも起こされたらそれはそれで面倒だからというのも本音として入ってるのだが。

 

 

「でもアンタ……えーっとほら……ひ弱そうじゃない? 途中で倒れられたら私が困るのよ」

 

「ふむ、荀彧よそこは心配しなくても良いぞ。一誠は中々に骨のある奴だ」

 

「うむ、何せ姉者と腕は互角だしな」

 

「…………」

 

「そうじゃなくて……」

 

 

 遠征の目的地までの道中。

 秋蘭や春蘭、それから荀彧――真名を桂花といった面子は馬を使用する中、一応は馬を使っても良いポジションにされてる一誠は他の兵と同じ徒歩だった。

 その理由は馬に乗るのがが苦手―――では無く、足腰の感覚を少しでも早く全盛期に戻したいからという、謂わばトレーニング目的だったりする。

 

 しかし目の前で吐血された桂花にしてみれば、遠征に出ること自体命を縮めてる様にしか見えないのに、馬すら使わないのは正に寿命を縮めてる様にしか見えず、他の者が居る手前少し声を詰まらせてしまう。

 

 ちなみにその吐血をした本人は、既に殆どの力を失っても尚残った異常な回復力で薬要らずの回復をしてるのだが、そんなものなど桂花が知るわけもなく、普段ならそのままくたばろうが鼻で笑うのが嘘の様に気にしていた。

 

 

「それにしても意外だったな。初対面の荀彧の助力をせよと華琳様に命じられたとはいえ、そうして声に出して返答するなんてな」

 

「へ?」

 

「ん? 知らなかったのか? 一誠は基本的に初対面の相手だと一言も言葉を発さないのだぞ? 祐斗と元士郎――あぁ、私達より先んじて偵察に出てる二人はそうでは無いんだがな」

 

「……………」

 

 

 馬に乗る者達よりも少し前を歩く一誠の背中をしきりに気にしていると、秋蘭が今更の様に話すと桂花はそういえばと思い返す。

 

 

「そういえば初めは全然喋ろうとしなかったわ」

 

「だろ? それが一誠にとっては普通なんだよ。人見知りという奴らしくてな。

軍内でまともに気安く話せるのは元々の仲間だったあの二人を除けばこの姉者ぐらいだったのに」

 

「うむ、お前どうやってそんな短期間で一誠と話せるようになったんだ?」

 

「どうやってって……さぁ?」

 

 

 私だって知らないわよそんなの……と桂花は姉妹に内心呟きながら、静かに前を歩く一誠の背を見つめる。

 いや、本当は切っ掛けがあったのはわかる……恐らくあの吐血を見てしまった時からだ。

 

 あの吐血を見なければ今でも……いや今でも華琳の直属配下という立ち位置に居る一誠は気にくわないのだが、それと同じくして自分の病気すら圧し殺して華琳に忠義を示す狂気染みたものは一目措けるものがある。

 だからこそ何となく話しやすくなった気はするが、何故向こうも普通に返してくれるのかまではわからない。

 

 ………。まぁ華琳に対する忠義心については完全に桂花の勘違いなのだが。

 

 

「しかし、華琳様直属配下のお前が徒歩なのも変だし、馬に乗れないとこの先苦労するだろう。

練習がてら私の後ろに乗るか?」

 

 

 色々と考えを巡らせる桂花だったが、春蘭が一誠にそう声を掛ける事で現実に戻る。

 

 

「いや要らない、このまま歩き続けても疲れはしない」

 

「そうか? だがなぁ……」

 

 

 馬に乗るより走った方がぶっちゃけ速い――――訳では今は無くなってるが、それでも基本的に『白い猫』や一部の悪魔やらハーフの吸血鬼といった生物から嫌われやすい体質であるのを自覚する一誠は、どうせ暴れて移動処じゃなくなると踏んでるので、散々敵意を向けられてきた春蘭の申し出を断る。

 

 

「姉者がこんな事を言うなんて明日は槍でも降りそうだぞ……」

 

「ん? まあ、見知らぬ相手なら言わないが、仮にも好敵手と認めた奴だからな」

 

「…………」

 

 

 サッパリとした調子で妹に言う春蘭。

 一誠に二度負けてからの彼女の成長速度は今の一誠達にも脅威と感じられるほどの目覚ましいものがあり、またその三人からある意味チヤホヤされてるのもあって、春蘭も割りと角が取れていた。

 

 

「此処に居たか日之影と皆、曹操―――様がお呼びっす」

 

「……」

 

「む、わかったすぐに行く」

 

 

 そんな……ほんの少しだけ緩くなっていた空気は元士郎の出現により終わりを迎える。

 

 

 

 

 

 私にとってこれは初陣であり、これからの人生を左右する大切なもの。

 これが失敗すれば私はもうすぐそこまで手が届きそうな『曹操様の配下』という糸を掴めず終わる。だからこそ誰よりも気を引き締めるという自覚を持ち、日之影の仲間の一人である匙に案内された私達は曹操様の元へと集まる。

 

 

「連れてきました」

 

「ご苦労様、では早速始めるわ」

 

 

 何時見ても曹操様はお美しく、気高き覇気をお持ちだ。

 何処に居てもそれは変わらず、やはり私はこの御方に仕えたいという欲に抗えない……なんて考えながら膝を付いてると、一人膝を付かずに曹操様の半歩後ろに移動して佇む日之影が目に入った。

 

 

「祐斗、報告を……」

 

「はっ、先程偵察部隊と連携し調査を行った所、前方正体不明の集団を確認しました。

その数はおよそ三・四十人程で、旗は無く、服装等も不揃いです。

恐らくは野党の集まりだと……」

 

 

 表情を変えず、ただ曹操様のお側に立つその姿は確かに悔しく思うし、日之影の仲間の匙やら木場とかいう男達も無能では無いらしい。

 

 

「ふむ、様子を見るべきかしら」

 

 

 このままでは奴等に先を越されると思った私は、我先にと思案する曹操様に向かって口を開く。

 

 

「再度、偵察隊を出しましょう。

木場………それから日之影が指揮を取って」

 

「僕が? うん、わかったよ……ええっと、荀彧さん?」

 

「…………。俺が行く理由は?」

 

「先に言うと、別に意地悪とかじゃ無いわ。アンタと木場は元々知り合いだったんでしょう? ならばある程度の連携は個人で取れると思ったからよ。夏侯惇と夏侯淵と匙で本陣の守護をさせれば、一番身軽なのはアンタになる」

 

「………。まぁ、それなら妥当だな」

 

 

 無機質な声だけども返事をした日之影――――あれ、木場や匙や曹操様が驚いた顔をしてる?

 

 

「い、今キミ、普通に一誠くんと会話した……のかい?」

 

「したけど? アンタ聞いた無かったの?」

 

「い、いやそうじゃなくて……え、日之影とだぞ?」

 

「だから今見た通りよ? 何なのよ?」

 

「一誠、アナタ桂花と話をする理由は何?」

 

「は? ……………別に意味なんてありませんが。ただ返さないと何を言われるかわかりませんから」

 

 

 ……………。そんなに日之影と話をするのが珍しいのかしら。まさか曹操様まで驚くなんて……。

 そんなに変だったかしら?

 

 

「こうして二人で組むのって実は初めてかもね?」

 

「ですね……元の時代ではありませんが」

 

 

 桂花により一誠と祐斗が偵察部隊を連れて先行する事になった。

 華琳により編成された兵達は既に前方の正体不明の集団の偵察を行っており、こうして二人で何気なく話していると一人の兵がやって来た。

 

 

「報告、正体不明の集団は何者かと交戦中です!」

 

「交戦? ……確かに前方に砂煙が舞ってますが――――あ、人が飛んできた」

 

「………………。確かに交戦中みたいですね」

 

「ど、どうやら戦っているのは子供一人のようです!」

 

 

 人間大砲の様に吹っ飛ぶのを眺めていた二人に別の兵が慌てた様子で詳細を話した瞬間、一誠と祐斗は無言で目を合わせてから兵達の追い付けない速度で走り出す。

 

 

「時代が時代だからとは思ってたけど子供一人が戦ってるなんてあんまり聞きたくはなかったよ……!」

 

「………」

 

 

 後ろで兵達の『お、お待ちください!』という声が聞こえたが、祐斗ですらその声を無視して走り続ける。

 そして既に報告の半分は数の減っていた集団に近付いた瞬間――

 

 

魔剣創造(ソードバース)!(剣一本ver)」

 

「…………」

 

 

 弱体化した神器の力、弱体化した技術を其々解放し、暴風となりてその集団を吹き飛ばした。

 

 

「!? あ、アナタ達は……!」

 

「自己紹介は後、加勢するよ!」

 

「最低一人は生かしてください。尋問して根城を吐かせ、その後完全に根絶やしにします」

 

 

 後ろから人間が吹っ飛び、猛突進してきた金髪と茶髪の青年二人に驚くは、二人よりも年下と思われる一人の少女だった。

 突然現れた二人組に驚いた様子だが、祐斗の一言に味方と判断したのか、武器として使用してたと思われる巨大な鉄球を構えて賊らしき集団をなぎ倒す。

 

 

「これで全部だね……ぜぃ、ぜぃ……」

 

「チッ、この程度で疲れるとは……お互い嫌になりますね」

 

「ま、まったくだよ……はは……」

 

 

 結果賊と思われる集団は見事に殲滅させ、何人かを気絶させる事には成功した。

 だがやはり弱体化が激しいのか二人は肩で息を切らしていた。

 

 

「ふー……」

 

「………」

 

「あ、あのー……」

 

 

 暫く息を整えていた二人に先程まで一人で戦っていた少女がおずおずとした様子で話し掛けてきた。

 

 

「あ、キミ大丈夫だったかい?」

 

「は、はい! さっきはありがとうございます!」

 

「…………」

 

 

 頭を下げる少女の事は祐斗に押し付けよう……と一誠は気絶した賊らしき男の首根っこを掴んで適当に投げてると本隊と遅れてやってきた偵察隊の兵達と合流する。

 

 

「お、お二人とも速すぎます……!」

 

「聞いたわよ、二人で突っ込んだんだって?」

 

「馬鹿者め、それでは猪と変わらんではないか!」

 

「姉者がそれを言うのか?」

 

 

 ぞろぞろと現れる指揮の取れた集団に驚く少女を横に一誠が華琳に向かって大袈裟に膝を付きながら口を開く。

 

 

「曹操様、賊と思われる集団は殲滅しました……とはいえ、我々が来た時にはほぼこの少女によって潰されておりましたが」

 

 

 少女の方は一瞥もせず、されど少女が殆どやったと話す一誠は何人かを生け捕りにした事も報告すると、そのやり取りを見て顔を曇らせていた少女が口を開く。

 

 

「ひょっとしてお兄さん達は国の軍隊?」

 

「え? うんそうだけ――っ!?」

 

 

 少女の質問に祐斗が答えた瞬間、一気に殺気を放った少女が持っていた鉄球を振り下ろした。

 

 

「ぐっ……!?」

 

「お前達、今更何しに来た!!」

 

「チッ……」

 

 

 剣ひとつで何とか受け止め、顔を歪ませた祐斗が危ないと察知した一誠が横から祐斗を突き飛ばす事で鉄球攻撃の餌食は回避できた。

 が、急に態度が豹変した少女は止まらなかった。

 

 

「国の軍隊なんか信用出来るもんか! ボク達を守ってもくれないクセに税金ばっかり持っていって!!」

 

「っ! だ、だからキミは一人で……!」

 

「そうだ! 役人からも盗人からもボクが守るんだ!」

 

 

 怒りによる力任せの攻撃に同じく笑えない弱体化の割りを食わされてる祐斗はギリギリの瀬戸際で避けるが決して反撃はしない。いや、話だけを聞いてしまって出来ないと言った方が正しいのか。

 

 

「やぁぁっ!!!」

 

「こ、の……!」

 

「木場! ちょ、落ち着けって!」

 

「黙れ! 皆ボクが追い払ってやる!」

 

 

 元士郎も加勢するが、やはり話を聞いてしまったせいか反撃はできない。

 すると怒りで我を忘れていた少女は、その手に持っていた鉄球を誤って……。

 

 

「あ……!」

 

 

 手からすっぽ抜けてしまう。

 

 

「っ!? 危ない荀彧!!」

 

「え―――」

 

 

 すっぽ抜けた鉄球が運悪く桂花の頭上に落ちてきた。

 誰かが自分に危ないと叫んだが、既に目の前に迫ってる鉄球。

 その瞬間桂花は走馬灯の様に己のこれまでの人生が頭の中に駆け巡り、やがてやっと掴みかけた栄光が此処で終わってしまうのかと、鉄球が自分を潰すまでの短い時間の間に悟らせた。

 

 だが……。

 

 

「ぐが……!!?」

 

「なっ!?」

 

 

 その僅かな時間の狭間に強引に割り込む様にして入り込んできたのは、曹操以外は――ましてや命じられただけで自分なぞ助ける事なんて無いだろうと思っていた筈の――

 

 

「ひ、日之影ぇぇ!!」

 

「一誠くん!?」

 

「い、一誠!!」

 

 

 嫉妬した相手……一誠だった。

 

 

「な、なんで……」

 

 

 鉄球が頭を砕き、そのまま地面に堕ちた。

 桂花は無傷だった……けれど代わりに一誠が頭から大量の血を流しながら倒れ、辺りは大騒ぎになる。

 

 

「な、なんでよ……」

 

 

 その中で呆然とする桂花は、ヨロヨロと血を流しても尚立ち上がった一誠の背中を見ながら呟くが、一誠は一瞥もくれずに答える事はしなかった。

 

 

「ぼ、ボク……ぁ……」

 

 

 想定外の事が起きて冷や水を掛けられた様な顔をする少女は、真っ赤な鮮血を流しながら自分を瞳孔が開いた両目で見据える青年に怯えた。

 

 

「ガキ……そんなに死にたいのか?」

 

 

 その怒気は、稚児の駄々に対して親がほんの僅かに抱いた小さな炎の様なものだった。

 だがそれだけでも……たったそれだけでも少女にとっては――

 

 

「ひぃっ!?」

 

 

 完全な『死』を、絶対的な殺意をイメージさせるに十二分のものだった。

 それはこれまで襲ってきた賊達からは全く感じない……絶対的な恐怖だった。

 

 

「あ……あぁ……!」

 

 

 満身創痍なのは向こう。けれど自分は絶対に殺される……そう悟ってしまった少女は怒気も何もかもを忘れ、年相応の少女の様に怯えた。

 

 

「そこまでよ!!」

 

 

 第三者が止めに入らなかったらきっと……其ほどまでの殺意を浴びせられた少女の心はギリギリで折れなかったものの、明確にこの目の前の青年――一誠を怖い人と認識した。

 

 

「アナタの名前は?」

 

「きょ、許緒……です」

 

 

 それこそ止めに入ってくれた華琳が女神にすら思える程に……。

 

 

「………っ」

 

「一誠、アナタは治療を受けなさい……」

 

「別にこの程度ならすぐに――」

 

「受けなさい、血塗れの顔を洗わなければならないのだから」

 

「……………………は」

 

 

 あのまま止めなければ本当に容赦せず許緒と名乗った少女を殺していたかもしれない……それほどの殺意を感じ取った華琳は、まずは許緒の見えない所まで下がらせなければ話も出来ないと判断し、フラフラな一誠を無理にでも治療を受けさせる。

 

 

「………………桂花、命拾いしたわね」

 

「は……はい……」

 

「許可するわ……行きなさい」

 

「………御意」

 

 

 その助けた少女を向かわせる事も忘れずに……。

 

 

 

 結果だけ言うと、華琳の管轄する区域と許緒の住まう地域は官という人物が違うことを知って貰い、謝り倒された。

 そしてその力を貸して貰う事にまで成功し、許緒は勧誘により見事に配下となったのだが、治療を無理矢理受けさせられてる一誠にしてみればどっちでも良い話だった。

 

 

「流石に血を流しすぎた……血が足らねぇ……」

 

「……。アンタ、何で私を……」

 

「は? あぁ……だって曹操からの仕事だからな。お前が使えるか使えないかの選定及び、それが終わるまでの護衛―――――って、お前治療下手だな」

 

「う、うっさいわね! してやってるだけでもありがたいと思いなさいよ!」

 

 

 衛生兵的な兵から治療道具を無理矢理受け取り、血を流しすぎたと宣う一誠の治療をする桂花は、つい言ってしまった言動に内心後悔する。

 だが言われた本人は笑ってるだけで怒った様子はない。

 

 

「ヒス起こす方がお前らしいし、罪悪感なんざ必要ねぇよ。こっちは仕事でやってることだからな………いでででで!?」

 

「あ、あれ? こうじゃないの?」

 

「お、お前そこ傷口……痛っ!?」

 

「え? え!?!?」

 

「ちょ、もう良いからさっさと曹操のところに戻れ! いてて……これじゃあ治るもんも治らねぇよ」

 

 

 あんまりにも下手すぎるやり方に本気でやめろと言う一誠。

 しかしそれが却ってむこう気の強い桂花を煽る事になったらしく、ムキになって治療をやめようとしない。

 

 

「う、うっさい! 男の癖にうだうだ言うな! ほら! 次は腕!」

 

「だ、だから要らね――いだぁぁぁ!?!?」

 

「痛いくらいが治療になんのよ!」

 

「お前はさっきから傷口に塩を塗りたくってるようなもん――あだだだだだ!?!?」

 

 

 それに対して一誠も痛みで自然体となって桂花に文句を言うのだが……。

 

 

「す、すっげー……ヴェネラナ様とかグレイフィア様みたいな子だな」

 

「性格は違うけど……何か似てるよね……。一誠くんがあんなに素になってるのもびっくり」

 

「……。物凄く早く仲が良くなってる気がするのと、それを見てると物凄く納得できないのは何故かしらね? どう思う春蘭?」

 

「え、わ、私ですか? さ、さぁ……私にはよくわかりませんが……」

 

「でしょうね……。それにしてもやっぱり納得できないわね」

 

 

 そのやり取りを見られていた事には気づけなかったらしい。

 

 

「はぁ、世話の掛かる……って、こればかりは私のせいだったわね」

 

「だから一々気にすんなよ……却って鬱陶しい」

 

「なっ! …………いや、良いわ。今何となくだけどアンタの性格がわかったわ。

そうね、気にしないわ……でもちょっとだけ――――――ありがとう……」

 

「は?」

 

「なんでもない! ほら次は逆の腕!」

 

「ぎぇ!? だ、だから傷口を掴むなっつーの!」

 

 

終わる

 

 

 

 

 

 尋問の末賊のアジトを吐かせ、根絶やしに動く事になった華琳様達。

 その中で新たに加わった許緒という少女は下手くそな治療を受けてある意味グロッキーになっていた青年を物凄く気にしていた。というか早く謝りたかった。

 

 

「あ、あの……さっきはごめんなさい!」

 

「……………」

 

 怖いけど謝る。中々できない事をやった少女だったが、コミュ障モードに入った一誠は目も合わせない。

 

「アンタ、謝ってるんだから何とか言いなさいよ……」

 

 

 無視されたと思ってちょっと半泣きな許緒を見て一誠に注意をする桂花。

 だが一誠はそれでも……というか許緒と目を合わせようとした瞬間急激に顔色が真っ青になり、そのままだとリバース確定だった。

 

 そこで一誠が取った行動は……。

 

 

「え、耳を貸せ? 何でよ……まぁ別に良いけど―――え? 『いやもう本当に欠片も気にしてないし、何なら逆に地面に額を擦り付けてこっちが謝りますので、それ以上こっちを見ないでくれ』―――と、コイツは言いたいみたい」

 

「え……」

 

 

 元の時代でよく見る光景、メッセンジャーを介しての会話。

 

 

「で、でもボク……」

 

「また耳を貸せ? チッ、はいはい――――『そういうの良いから、済まないと思うなら全力で気にせず、俺の事はそこら辺の雑草と思って視界にすら入れないで』―――――――だって?」

 

「……………………」

 

 

 一々桂花に耳打ちして代わりに喋らせる……それは許緒的には嫌われたと思うのも仕方ない行動であり更に落ち込んでいく……。

 

 

「ほらぁ! アンタのせいで塞ぎ込んだじゃないの!」

 

「だ、だって話すとか俺ムリ……」

 

「私と話せるんだから出来るでしょ!? ほら、さっさと謝る!」

 

 

 まるで保護者みたいに叱る桂花に圧され、仕方なく自分の口で話そうとした一誠。

 だが……

 

 

 

「こ、こんにち…………オロロロロロロ!?!?」

 

「うわ!?」

 

「ぎゃ!? な、ななな、何してんのよバカ!!」

「うぇぇ……む、無理ぃ……俺もうやだぁ! 知らない誰かと話そうとすると頭の中がぐちゃぐちゃになって吐きそうに……ぐぇぇ……」

 

「そ、そこまで……」

「あ、あの……ボクまた余計な事を?」

 

「いえ、コイツの性格らしいから貴女は気にしないで今は賊の討伐に集中なさい。

コイツは私が何とかするから」

 

「は、はい……」

 

「はぁ、出来ると思いきや変な所がダメって……。何だか放っておけないわアンタ……。これお水だから飲みなさい」

 

「おふ……」

 

 

 コミュ障という言葉はわからずとも意味は理解できた桂花は顔色最悪な一誠の背中をぶつくさ言いながらも擦ってあげたのだという。

 

 

以上




補足

勘違いが加速しまくって変な事に……。

でもある意味ズバズバ言うタイプなんで、バランスが取れてしまってるのかもしれない。

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